機械設計2026-04-01

揚重・吊り荷計算まとめ|クレーン能力・吊り角度・ワイヤーロープ・吊り金具を一括チェック

吊り荷が落ちてからでは遅い——揚重計画の全体像

建設現場や工場で重量物を吊り上げる作業は、段取りを間違えれば一瞬で重大事故になる。ワイヤーが切れる、クレーンが転倒する、吊り金具が破断する——どれも「計算を省いた」「経験だけで判断した」ことが原因だ。

揚重計画で押さえるべき計算は大きく5つ。クレーン能力の確認・吊り角度と張力の関係・ワイヤーロープの安全荷重・吊り金具の強度・荷の重心と転倒角度だ。どれか1つでも見落とすと、現場で「吊れない」「危ない」「やり直し」が発生する。

この記事では揚重計画の全体像を体系的に整理し、各計算の勘どころと無料ツールへのリンクをまとめた。玉掛け作業者・現場監督・設計者が「揚重周りの検討、全部やったか?」とセルフチェックできる構成にしている。

なぜこの記事を書いたのか

揚重・吊り荷の計算情報はネット上に散在しているが、断片的なのが問題だ。「ワイヤーロープ 安全荷重」で検索すればロープの話だけ、「クレーン 揚重計画」で調べればクレーン選定の話だけ。5つの計算領域を横断して「自分は何を見落としているか」を確認できるページがなかった。

実務で怖いのは、計算項目同士の依存関係を見落とすこと。ワイヤーロープの安全荷重はOKだったが、吊り角度を考慮した張力増分を見ていなかった。クレーン能力は足りていたが、吊り金具の溶接部がボトルネックだった——こういう事故は、計算を個別にやっているから起きる。

この記事は、揚重計画で必要な計算を漏れなく一覧化し、依存関係を明示した上で、それぞれの計算を手軽に回せるツールと紐づけた。現場に出る前のチェックリストとして使ってほしい。

揚重計画の全体像|5つの計算領域

クレーン 揚重計画 とは

揚重計画とは、重量物をクレーンで吊り上げる際に必要な機材・手順・安全対策を事前に決めること。労働安全衛生規則第66条の2では、一定重量以上の揚重作業に対して作業計画の策定が義務付けられている。

計算すべき5領域の全体像は以下のとおり。

#計算領域主な検討内容対応ツール
1クレーン能力総吊荷重・作業半径・揚程から必要定格荷重を逆算クレーン揚重計画チェッカー
2吊り角度・張力吊り角度による張力倍率と危険角度の判定吊り角度 張力チェッカー
3ワイヤーロープロープ径・種別・吊り本数から安全荷重を算出ワイヤーロープ安全荷重計算
4吊り金具引張・せん断・支圧・溶接部の安全率を一括判定吊り金具設計シミュレーター
5重心・転倒合成重心位置と転倒限界角度を算出重心計算&転倒角度計算

計算の順序と依存関係

これらの計算は独立していない。正しい順序で進めないと、手戻りが発生する。

荷の重量確定 ──→ ①重心計算(吊り点の配置決定)
                  ↓
              ②吊り角度・張力(吊り点間距離→角度→張力倍率)
                  ↓
              ③ワイヤーロープ選定(張力を受けるロープ径決定)
                  ↓
              ④吊り金具設計(ロープ張力が作用する金具の強度確認)
                  ↓
              ⑤クレーン能力確認(総吊荷重=荷+玉掛器具+フック重量)

特に注意すべき依存関係:

  • 吊り角度(②)が大きいほど → ワイヤー張力が増大 → ③のロープ径が太くなる → 玉掛器具重量が増える → ⑤のクレーン必要能力が上がる
  • 重心位置(①)が偏っていると → 吊り点配置が非対称 → ②の各ロープ張力がバラつく
  • 吊り金具(④)の設計は → ②の張力と③のロープ径(シャックルサイズ)の両方に依存

だから「ワイヤーだけ計算した」「クレーンだけ確認した」では不十分。5領域をセットで回す習慣が、安全な揚重作業の基盤になる。

揚重計算をサボると何が起きるか

吊り角度 張力 の見落としが最も多い

揚重事故の原因で非常に多いのが、吊り角度と張力の関係を軽視すること。吊り角度が60°になると、各ワイヤーにかかる張力は荷重の1.155倍になる。90°では1.414倍、120°では2.0倍だ。

つまり、1トンの荷を吊り角度120°で吊ると、各ワイヤーには2トンの張力がかかる。「1トンの荷だから1トン用のワイヤーでいい」という判断が、どれほど危険かがわかるだろう。

クレーン事故の統計

厚生労働省の労働災害統計によると、クレーン等による死亡事故は毎年発生している。主な原因は:

  • 過負荷:定格荷重を超えた吊り上げ(クレーン能力の計算不足)
  • 玉掛け不良:ワイヤーの選定ミス、吊り角度の無視
  • 転倒:地盤の支持力不足、作業半径の超過
  • 吊り金具の破損:溶接部の強度不足、繰返し使用による劣化

これらはすべて、事前の計算で防げるものだ。

法令上の要件

クレーン等安全規則では以下が義務付けられている:

  • 定格荷重の遵守(第23条)
  • 玉掛け用ワイヤーロープの安全係数6以上(第213条)
  • 吊り角度60°以内の推奨(玉掛け技能講習テキスト)

計算を省くことは、法令違反のリスクも伴う。

こんな場面で5つの計算が活きる

建設現場の鉄骨建方

鉄骨柱や梁をクレーンで吊り上げて据え付ける作業。重量物が多く、吊り金具(吊りピース)の設計から玉掛け方法まで、5領域すべての計算が必要になる。特に吊りピースの溶接強度は、繰返し使用で劣化するため毎回チェックが必要。

プラント据付・重量機器の搬入

ボイラー、タンク、大型ポンプなどの据付では、機器の重心位置が偏っていることが多い。重心計算で吊り点を適切に配置しないと、吊り上げた瞬間に荷が傾いて周囲に衝突する。

製缶品・架台の反転作業

溶接構造物を裏返す「反転」作業は、吊り上げ中に重心が移動する。反転前後の重心位置を両方計算し、最も不利な姿勢でのワイヤー張力を確認する必要がある。

日常的な玉掛け作業のセルフチェック

日々の作業でも「このワイヤーで大丈夫か」「角度は何度まで許容か」を即座に確認したい場面は多い。スマホから各ツールにアクセスすれば、現場で数値を入れて即判定できる。

①クレーン揚重計画チェッカー|必要定格荷重の逆算

クレーン能力 計算 の基本

クレーンの定格荷重は、作業半径(ブームの先端から旋回中心までの水平距離)によって大きく変わる。作業半径が1m増えるだけで、定格荷重が数トン下がることもある。

クレーン揚重計画チェッカーでは、以下を入力するだけで必要なクレーン能力を逆算できる:

  • 揚重物の重量(本体重量)
  • 玉掛器具の重量(ワイヤー・シャックル・フック)
  • 作業半径
  • 揚程(地上から吊り点までの高さ)

総吊荷重の考え方

総吊荷重は「荷の重量+玉掛器具の重量+フックブロック重量」の合計だ。よくある間違いは、荷の重量だけでクレーンを選定してしまうこと。25トンの機器を吊るのに、玉掛器具とフックで3トン加算されれば、28トン吊れるクレーンが必要になる。

総吊荷重 = 荷の重量 + 玉掛器具重量 + フックブロック重量
必要定格荷重 ≧ 総吊荷重 / 0.9(安全率90%以内)

クレーンの定格荷重表で、作業半径に対応する値が必要定格荷重以上であることを確認する。

②吊り角度 張力チェッカー|張力倍率の可視化

ワイヤーロープ 吊り角度 張力 の関係

2本吊りの場合、吊り角度θのときの各ロープにかかる張力Tは以下の式で求められる:

T = W / (2 × cos(θ/2))

W: 荷の重量
θ: 吊り角度(2本のワイヤーがなす角度)
吊り角度張力係数1t荷の片側張力
0.500500 kg
30°0.518518 kg
60°0.577577 kg
90°0.707707 kg
120°1.0001,000 kg

吊り角度60°を超えると張力の増加が急激になる。実務では60°以下が推奨され、90°以上は原則として避けるべきだ。

吊り角度 張力チェッカーでは、角度を動かすだけでSVGグラフが張力倍率をリアルタイム表示し、危険ゾーンを色で警告する。

③ワイヤーロープ安全荷重計算|径と種別の選定

ワイヤーロープ 安全荷重 の求め方

ワイヤーロープの安全荷重は「破断荷重 ÷ 安全係数」で求められる。クレーン等安全規則では、玉掛け用ワイヤーロープの安全係数は6以上と定められている。

安全荷重 = 破断荷重 / 安全係数(≧6)
破断荷重 = ロープ径² × 種別係数

種別による破断力の違い:

種別構成特徴
6×246ストランド24本汎用、やや硬い
6×376ストランド37本柔軟性が高い、玉掛けに最適
IWRC芯がワイヤー破断荷重が高い

ワイヤーロープ安全荷重計算では、ロープ径・種別・吊り本数・吊り角度を入力すると安全荷重を自動算出する。逆引き機能(吊荷重量 → 必要ロープ径)もあるので、現場でのロープ選定に便利だ。

④吊り金具設計シミュレーター|4つの破壊モード

吊り金具 強度計算 の4つのチェックポイント

吊り金具(吊りピース・ラグ)は、荷重を受ける部分の強度がボトルネックになりやすい。チェックすべき破壊モードは4つ:

  1. 引張:ピン穴上部の板断面が引張荷重で破断
  2. せん断:ピン穴周辺の板がせん断で抜ける
  3. 支圧:ピンとピン穴の接触面が圧壊
  4. 溶接部:吊り金具を母材に取り付けるすみ肉溶接が破断

特に溶接部は、製作時の品質と使用による劣化の両方が影響するため、安全率を高めに取る必要がある(通常3.0以上)。

吊り金具設計シミュレーターでは、吊荷重・吊角度・板厚・材質・溶接脚長を入力すると、4つの破壊モードの安全率を一括判定する。「どこが最も弱いか」が一目でわかるので、板厚を増やすべきか溶接脚長を増やすべきかの判断が即座にできる。

⑤重心計算&転倒角度計算|荷の安定性評価

重心位置 が揚重に与える影響

重心が幾何中心からずれている荷を吊ると、吊り上げた瞬間に荷が傾く。これが「回転モーメント」として各ワイヤーに不均等な張力を生む。最悪の場合、片側のワイヤーに荷重が集中して破断に至る。

重心計算の基本式:

合成重心 Xg = Σ(Wi × Xi) / Σ(Wi)
合成重心 Yg = Σ(Wi × Yi) / Σ(Wi)
合成重心 Zg = Σ(Wi × Zi) / Σ(Wi)

Wi: 各パーツの重量
Xi, Yi, Zi: 各パーツの重心座標

重心計算&転倒角度計算では、複数パーツの重量と重心座標を入力すると合成重心位置を算出し、転倒限界角度まで可視化する。荷の吊り点をどこに配置すれば水平に吊れるかの判断材料になる。

揚重計算の仕組み|手法比較と計算フロー

張力計算の2つの手法

吊り荷の張力計算には、力の釣り合い法張力係数法がある。

力の釣り合い法は、各ロープの張力をベクトル分解して求める厳密な手法。3次元の多点吊りにも対応できるが、手計算では非常に煩雑になる。

張力係数法(=モード係数法)は、吊り角度から張力倍率を表引きで求める簡易法。労働省方式の張力係数表が広く使われ、現場での即時判断に適している。

本サイトのツール群は張力係数法をベースにしつつ、三角関数による厳密計算を実装している。表引きよりも任意の角度に対応でき、結果の精度が高い。

計算例:5トンの機器を4本吊りする場合

条件:

  • 荷の重量:5,000 kg
  • 吊り角度:60°(4本吊り)
  • ワイヤーロープ:6×37 O/O
Step 1: 張力倍率の算出
  張力係数 = 1 / cos(60°/2) = 1 / cos(30°) = 1.155

Step 2: 1本あたりの張力
  T = (5,000 / 4) × 1.155 = 1,444 kg

Step 3: ワイヤーロープ径の選定(安全係数6)
  必要破断荷重 = 1,444 × 6 = 8,664 kg
  → 6×37 O/O の場合、径16mm(破断荷重 約10.2t)を選定

Step 4: 玉掛器具重量の加算
  ワイヤー4本 + シャックル4個 ≒ 約120 kg

Step 5: クレーン必要定格荷重
  総吊荷重 = 5,000 + 120 = 5,120 kg
  必要定格荷重 ≧ 5,120 / 0.9 = 5,689 kg → 約5.7t以上

このように、5つの計算は連鎖的につながっている。1つの数値が変われば、後続のすべてに影響が波及する。

他のツール・資料との違い

既存の揚重計算ツールとの比較

揚重計算ができるツールは、Excelのマクロや有料ソフト(クレーン選定ソフトなど)がある。しかし以下の点で差がある:

  • ブラウザ完結:インストール不要、スマホからも使える。現場でスマホを取り出して即計算できるのは大きい
  • 5領域を一箇所で:クレーン・吊り角度・ワイヤー・吊り金具・重心を個別のツールで計算し、結果を横断的に確認できる
  • 逆引き対応:ワイヤーロープは「この荷重を吊るのに必要な径は?」という逆引きが可能
  • SVG可視化:吊り角度チェッカーはグラフで危険ゾーンを視覚的に表示

一方、3次元の複雑なリギング計画(多点吊り・傾斜地・合吊り)は専用ソフトの領域。本ツール群は日常的な揚重作業の安全確認にフォーカスしている。

揚重の豆知識

「安全係数6」の由来

ワイヤーロープの安全係数が6と定められている理由は、ロープの劣化・疲労・曲げによる強度低下を見込んでいるから。新品のロープでも、シーブ(滑車)を通る際に繰返し曲げを受け、内部の素線が徐々に断裂する。安全係数6は、この経年劣化を含めた「使用期間全体での安全」を担保する数値だ。

ちなみに、エレベーター用ワイヤーロープの安全係数は10以上(建築基準法施行令第129条の4)。人命に直結する用途ほど、安全係数は高くなる。

玉掛け技能講習の合格率

玉掛け技能講習は学科と実技の2日間で、合格率は95%以上と言われている。しかし講習で習う内容は基礎中の基礎。実際の現場では、荷の形状や吊り点の制約で教科書通りにいかない場面が多い。だからこそ、計算ツールで数値を確認する習慣が重要になる。

風速と揚重作業の中止基準

クレーン等安全規則第31条の2では、10分間の平均風速が10m/s以上のとき、クレーン作業を中止しなければならない。風速が上がると荷が揺れて制御不能になり、周囲との衝突や落下のリスクが急増する。揚重計画には気象条件の確認も組み込んでおくべきだ。

揚重計算のTips

  • 吊り角度は60°以内が鉄則:60°を超えると張力が急増し、90°で1.41倍、120°で2.0倍になる。角度が取れない場合は天秤(スプレッダー)の使用を検討する
  • ワイヤーの廃棄基準を確認:1よりの間で素線が10%以上切れている、直径が公称径の7%以上減少している場合は廃棄。目視点検を怠らない
  • クレーンの定格荷重表は作業半径で引く:ブーム長さだけで判断しない。同じブーム長でも、作業半径が1m違えば定格荷重が大きく変わる
  • 吊り金具は使い回しに注意:溶接部は繰返し荷重で疲労する。恒久的に使う吊りピースは定期的な磁粉探傷検査(MT)を実施する
  • 重心がずれた荷はあて物で調整しない:重心のずれは吊り点の配置で対処する。あて物(パッド)はワイヤーの養生用であって、重心調整には使えない

よくある質問

吊り角度が90°を超えても作業できる? 法令上の明確な禁止規定はないが、90°で張力が1.41倍、120°で2.0倍になるため、実務上は60°以内が強く推奨されている。やむを得ず大きな角度で吊る場合は、張力に見合ったワイヤーロープと吊り金具を選定し、作業主任者の承認を得ること。
ワイヤーロープの安全係数はなぜ6なのか? クレーン等安全規則第213条で定められた値。ロープの経年劣化・曲げ疲労・腐食による強度低下を見込んだ安全マージンだ。新品時の破断荷重を6で割った値が、使用可能な安全荷重の上限となる。
4本吊りと2本吊り、どちらが安全? 一般的に4本吊りの方が安定するが、4本すべてに均等に荷重がかかるとは限らない。荷の剛性が低い場合や吊り点の位置がずれている場合、実質的に2〜3本で支えていることがある。安全側の設計として「4本吊りでも3本に荷重がかかる」前提で計算するのが一般的だ。
計算結果はサーバーに保存される? すべての計算はブラウザ内で完結しており、入力データや計算結果がサーバーに送信されることはない。現場で機密性のある荷重データを入力しても、外部に漏れる心配はない。
クレーンの定格荷重表はどこで入手できる? クレーンメーカーのカタログまたはWebサイトで公開されていることが多い。レンタルクレーンの場合は、レンタル会社に機種名を伝えて定格荷重表を入手する。本ツールの「クレーン揚重計画チェッカー」は、定格荷重表と照合して使う設計になっている。

まとめ|揚重計画は5つの計算をセットで回す

揚重計画で確認すべき5領域を改めて整理する:

5つの計算は連鎖的に依存しているから、1つだけやっても意味がない。セットで回して初めて「安全な揚重計画」が完成する。

ボルト設計の全体像を知りたい方はボルト設計で必要な計算まとめも参考にしてほしい。溶接構造物の揚重なら溶接強度計算の基礎まとめと合わせて確認するとよい。

ツールの改善要望やバグ報告はX (@MahiroMemo)からどうぞ。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。揚重計画の手計算で吊り角度を甘く見て、先輩に「そのワイヤーじゃ持たないぞ」と叱られた経験あり

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