溶接公開 2026-03-31更新 2026-09-08

溶接強度計算まとめ|すみ肉の脚長・のど厚から予熱・入熱・疲労まで

「溶接だから大丈夫」が一番危ない

溶接は金属同士を一体化する接合法だから、ボルト接合よりも強い——そう思い込んでいる設計者は少なくない。だが実際には、溶接部は母材より弱くなることが多い。熱影響部(HAZ)の軟化、残留応力、溶接欠陥(ブローホール、融合不良)など、強度を下げる要因が山ほどある。

溶接設計で押さえるべき計算は大きく3つ。溶接継手の静的強度・溶接変形の予測・繰返し荷重に対する疲労寿命だ。どれか1つでも抜けると、完成後に亀裂が入る、寸法精度が出ない、数年後に疲労破壊する——といったトラブルに直結する。

この記事では、溶接強度計算の全体像を体系的に整理し、各計算の勘どころと無料ツールへのリンクをまとめた。機械・構造設計2〜5年目のエンジニアが「溶接周りの検討、全部やったか?」とセルフチェックできる構成にしている。

なぜこの記事を書いたのか

溶接の計算に関する情報はネット上にあるが、バラバラなのが問題だ。「すみ肉溶接 のど厚」で検索すればのど厚の話だけ、「溶接変形」で調べれば変形の話だけ。静的強度・変形・疲労を横断的にカバーして「自分は何を見落としているか」を確認できるページがなかった。

実務で最も怖いのは、強度計算はやったが変形を見ていなかった、静荷重では問題ないが繰返し荷重で数年後に疲労破壊した、というパターン。これは計算項目の全体像が見えていないから起きる。

この記事は、溶接設計で必要な3つの計算領域を漏れなく一覧化し、それぞれの計算を手軽に回せるツールと紐づけた。設計のたびに「次は何を確認すべきか」が即座にわかるリファレンスとして使ってほしい。

溶接強度計算の全体像|7つの計算領域

溶接設計と一口に言っても、検討すべき範囲は広い。以下の7領域を漏れなくカバーすることで、設計ミスと施工後のトラブルを防げる。

#計算領域主な検討内容対応ツール
1静的強度(すみ肉・突合せ)のど厚・許容荷重・安全率溶接強度計算シミュレーター
2溶接変形予測角変形・横収縮・縦収縮量溶接変形予測ツール
3疲労寿命SN曲線・グッドマン線図・累積損傷・疲労等級疲労寿命シミュレーター/溶接継手 疲労等級・許容応力範囲 判定ツール
4必要脚長・溶接長さ設計荷重からの脚長逆算・断続溶接のピッチ隅肉溶接 必要脚長 設計計算/断続隅肉溶接 設計ツール
5施工条件電流・電圧・速度/炭素当量・予熱・入熱・パス数溶接条件セレクター/炭素当量・溶接性判定/溶接予熱温度カリキュレーター/溶接入熱量・パス間温度管理ツール/多層盛パス数計画ツール/溶接HAZ最高硬さ予測ツール
6図面・規格・検査溶接記号・継手効率・WPS適用範囲・NDT手法溶接記号デコーダー/JIS B 8265 継手効率・板厚計算/WPS適合チェッカー/溶接NDT選定ガイド
7数量・積算ワイヤ重量・シールドガス量・ボンベ本数溶接ワイヤ・棒消費量計算/溶接シールドガス 消費量・ボンベ本数計算

設計の流れとしては、まず①静的強度で継手が荷重に耐えられるか確認し、次に②変形予測で施工後の寸法精度を検証、繰返し荷重がかかる部材では③疲労寿命を評価する。そのうえで④必要脚長を図面に書ける数字に落とし、⑤施工条件(母材の炭素当量から予熱温度と入熱範囲)を決め、⑥図面表記で溶接工に正しく伝え、最後に⑦数量を拾って見積りに反映する。

前半(①〜③)が「壊れないか」、後半(④〜⑦)が「実際に作れるか・いくらかかるか」の検討だと考えると整理しやすい。設計者が前半で止まり、後半を施工側に丸投げした結果、脚長が過大になって変形が出る——というのは現場でよくある失敗パターンだ。

計算の順序と依存関係

7つの計算は相互に関連している:

  • のど厚・脚長(①④で決定)→ 入熱量の基準(②の変形予測と⑤の入熱管理に影響)
  • 溶接パス数(②の変形量を左右)→ 残留応力レベル(③の疲労寿命に影響)
  • 継手形式(すみ肉 or 突合せ)→ ①の応力計算式が変わり、③の疲労等級も⑥の継手効率も変わる
  • 母材の炭素当量(⑤で確認)→ 予熱の要否が決まり、予熱すれば冷却速度が落ちて②の変形量も変わる

だから「強度だけ計算した」「変形だけ見た」では不十分。領域をセットで確認する習慣が、溶接設計の品質を底上げする。

①溶接継手強度計算|すみ肉溶接と突合せ溶接の基本

すみ肉溶接 のど厚 とは

すみ肉溶接の強度を語るうえで避けて通れないのがのど厚(throat thickness)だ。のど厚とは、すみ肉溶接の断面において、ルート(溶接の根元)からビード表面までの最短距離を指す。

のど厚 a = 脚長 s × cos(45°) ≈ 0.707 × s

例: 脚長 6mm のすみ肉溶接
→ のど厚 a = 0.707 × 6 = 4.24mm

すみ肉溶接の許容荷重は、このの ど厚と溶接長さの積(のど断面積)に許容せん断応力を掛けて算出する。脚長を1mm増やすだけで許容荷重が約17%増える計算になるから、脚長の指定は強度に直結する。

突合せ溶接の強度計算

突合せ溶接(完全溶け込み)の場合、溶接部の有効断面は母材と同等とみなせる。そのため、強度計算は母材の断面で行う:

突合せ溶接の許容荷重 = 板厚 t × 溶接長さ L × 許容応力 σ_a

引張許容応力: σ_a = σ_B / 安全率
(σ_B: 母材の引張強さ)

ただし、部分溶け込み突合せ溶接の場合は、溶け込み深さがのど厚に相当するため、すみ肉溶接と同様の計算が必要になる。

許容応力と安全率の目安

JIS Z 3001(溶接用語)や建築基準法施行令では、溶接部の許容応力を母材の許容応力に対する比率で規定している。一般的な目安:

溶接の種類引張せん断
完全溶け込み突合せ母材と同等(100%)母材の約60%
すみ肉溶接—母材引張強さの1/√3 ≈ 58%

すみ肉溶接は「のど断面のせん断」で評価するのがポイント。荷重方向が溶接線に平行でも直角でも、のど断面のせん断応力として統一的に扱う方法が一般的だ。

なぜ溶接部は母材より弱くなるのか

溶接部が母材と同じ材料でも弱くなる理由は主に3つ:

熱影響部(HAZ)の軟化 — 溶接熱で結晶粒が粗大化し、特に高張力鋼では靭性と強度が低下する。焼入れ鋼では焼戻し効果で硬さが落ちることもある。

残留応力 — 溶接後の冷却収縮で引張の残留応力が発生する。外部荷重に残留応力が重畳されるため、実効的な応力は計算値より高くなる。

溶接欠陥 — ブローホール(気孔)、スラグ巻き込み、融合不良、アンダーカットなど。これらは応力集中源となり、特に疲労強度を大幅に下げる。

→ 溶接強度計算シミュレーターですみ肉・突合せの許容荷重と安全率を即計算

②溶接変形予測|施工後に「曲がった」を防ぐ

溶接変形 とは

溶接は局所的に金属を溶融・凝固させるプロセスだから、必ず熱収縮が起きる。この熱収縮が部材全体の変形として現れるのが溶接変形だ。変形の種類は主に3つ:

角変形 — T継手やL継手で、板が溶接側に傾く変形。すみ肉溶接で最もよく問題になる。

横収縮 — 溶接線に直角方向の収縮。突合せ溶接で顕著。

縦収縮 — 溶接線方向の収縮。長い溶接線ほど累積量が大きくなる。

なぜ変形予測が重要なのか

溶接後に機械加工で修正するには追加コストと納期が必要。大型構造物では矯正作業(ガス加熱矯正、プレス矯正)が発生し、工数が数倍に膨れ上がることもある。

特に問題になるのは以下の場面:

  • 精密機械のフレーム — 平面度0.1mm以下が要求される場合、溶接変形が直接NGになる
  • 配管フランジ — 角変形でフランジ面が傾くと、ガスケットの面圧が不均一になり漏れの原因に
  • 鉄骨柱・梁 — 累積変形で建方精度が出なくなると、高力ボルト接合部のクリアランスが合わない

変形を減らす施工上の対策

変形予測の結果をもとに、以下の対策を施工計画に織り込む:

  • 逆ひずみ(プリセット) — 予測変形量と逆方向にあらかじめ角度をつけておく
  • 対称溶接 — 両側から交互に溶接して変形を相殺する
  • 拘束治具 — 溶接中に部材を固定して変形を拘束する(ただし残留応力は増える)
  • 入熱制限 — パス間温度管理や低入熱溶接法(パルスMIG等)で変形を抑制
  • 溶接順序の最適化 — 収縮が相殺される順序で溶接する

日本溶接協会の技術資料には、板厚と入熱量から変形量を推定する経験式が多数掲載されている。代表的なのがOkerblom式で、入熱量・板厚・継手形状から角変形と収縮量を推定する。

→ 溶接変形予測ツールはOkerblom式で角変形・縦横収縮を予測する。逆ひずみをいくつ付けるかを、経験ではなく数字で決められる

③疲労寿命評価|繰返し荷重で壊れる前に

溶接部の疲労破壊 とは

疲労破壊は、静的な引張強さの半分以下の応力であっても、繰返し荷重が数万〜数百万回作用することで亀裂が発生・進展し、最終的に破断に至る現象だ。溶接部は疲労に対して特に弱い。その理由は:

  • 応力集中 — 溶接止端部(ビードの端)は形状的な応力集中係数が2〜4と大きい
  • 残留応力 — 引張残留応力が応力比を実効的に上げ、疲労寿命を縮める
  • 微小欠陥 — 溶接止端部には微小な亀裂状の欠陥が存在し、き裂の起点になる

SN曲線(応力−寿命曲線)

疲労評価の基本はSN曲線(S-N curve / ヴェーラー曲線)だ。横軸に繰返し数N、縦軸に応力振幅Sをプロットした曲線で、材料や継手形式ごとに実験データから作成される。

S^m × N = C(定数)

S: 応力振幅 [MPa]
N: 破壊までの繰返し数
m: 傾き(鋼溶接部では一般的に m=3)
C: 材料・継手形式による定数

IIW(国際溶接学会)では、溶接継手の疲労等級(FAT class)を分類し、FAT 36〜FAT 160の範囲で各継手のSN曲線を規定している。FATの数値は200万回での疲労強度(MPa)を意味する。

修正グッドマン線図と平均応力の影響

実際の荷重は「0→最大→0」の片振りや、引張側にオフセットした荷重が多い。このとき平均応力の影響を考慮するのが修正グッドマン線図(Modified Goodman diagram)だ。

σ_a / σ_w + σ_m / σ_B = 1

σ_a: 許容応力振幅
σ_w: 両振り疲労限度
σ_m: 平均応力
σ_B: 引張強さ

溶接部では残留応力が降伏点近くまで達していることがあるため、平均応力の影響が特に大きい。応力除去焼鈍(PWHT: Post Weld Heat Treatment)を行うことで残留応力を低減し、疲労寿命を改善できる。

マイナー則(線形累積損傷則)

実機では一定振幅ではなく、さまざまな大きさの荷重が混在する変動荷重が作用する。この場合に使われるのがマイナー則(Miner's rule)だ:

Σ(n_i / N_i) ≤ 1.0

n_i: 各応力レベルでの実際の繰返し数
N_i: 各応力レベルでのSN曲線上の破壊寿命

この累積損傷比Dが1.0に達すると破壊すると予測する。実用上はD ≤ 0.5〜0.8を設計基準とすることが多い(安全側の評価)。JIS B 8266(圧力容器の疲労評価)でもマイナー則に基づく評価手順が規定されている。

なぜ溶接部の疲労等級が重要なのか

同じ鋼材でも、突合せ溶接の仕上げ研磨品(FAT 125)とすみ肉溶接の未処理品(FAT 71)では疲労強度が約1.8倍も違う。継手形式と仕上げ状態の選択が疲労寿命を支配する。

設計段階で「すみ肉で十分だから」と安易に決めると、繰返し荷重下で想定より早く亀裂が入る。特にクレーン走行梁、橋梁、圧力容器など、数十年にわたって繰返し荷重を受ける部材では、疲労等級の選択が設計の最重要判断になる。

→ 疲労寿命シミュレーターでSN曲線・グッドマン線図・マイナー則による疲労寿命を一括評価

→ 継手ディテールから等級そのものを決めたいときは溶接継手 疲労等級・許容応力範囲 判定ツール。JSSCの等級区分と許容応力範囲の照査ができる

④必要脚長の逆算|図面に書く数字をどう決めるか

①では「この脚長で持つか」を検定した。実務でその手前にあるのは「そもそも脚長をいくつと書くか」だ。順序が逆になっている検討は多い。

荷重から必要脚長を逆算する

必要のど厚は許容荷重の式を裏返すだけで出る。

必要のど厚 a = P / (L × fs)
必要脚長   s = a / 0.707

P : 設計荷重 [N]
L : 有効溶接長さ(両側すみ肉なら2本の合計)[mm]
fs: 溶接部の許容せん断応力度 [N/mm²]

SS400(F=235N/mm²)の長期許容せん断応力度は F/(1.5√3) ≈ 90N/mm²。設計荷重50kN を長さ200mmの両側すみ肉(有効長400mm)で受けるなら:

a = 50,000 / (400 × 90) = 1.39mm
s = 1.39 / 0.707 = 1.96 → 約2.0mm

ここで多くの人が引っかかる。計算上は2mmで足りるのに、図面に「s=2」とは書けない。すみ肉溶接には板厚に応じた最小サイズの規定があり、一般的な鉄骨では4〜6mmが下限になる。つまりこの継手の脚長は強度ではなく規定と施工性が支配している。

この「計算値と規定値のどちらが効いているか」を毎回意識しておくと、荷重が2倍になっても脚長を上げる必要がないケース(規定が支配的)と、1割増えただけで即アウトになるケース(計算が支配的)を区別できる。設計変更のたびに全継手を計算し直す無駄がなくなる。

溶接長さを減らす断続すみ肉溶接

全長を連続で溶接すると、強度は過剰なのに入熱だけが増えて変形が大きくなる。そこで使うのが断続すみ肉溶接(千鳥溶接・並列溶接)だ。溶接長さとピッチを規格の範囲で選び、必要な溶接量だけを飛び飛びに置く。

ただし断続溶接には、1本あたりの最小溶接長さ・最大ピッチ・端部の処理といった規格上の制約がある。ここを外すと「計算は合っているのに規格不適合」という指摘を受ける。疲労を受ける部材や、隙間腐食が問題になる屋外部材では、そもそも断続溶接を避けるという判断も要る。

→ 隅肉溶接 必要脚長 設計計算で設計荷重から必要脚長を逆算し、断続隅肉溶接 設計ツールでピッチと溶接長さが規格の範囲に収まるかを確認できる

⑤溶接施工条件|炭素当量から予熱温度と入熱範囲を決める

図面に脚長を書いたら、次は「その溶接をどう置くか」だ。ここを決めずに現場へ流すと、割れ・靭性低下・変形のかたちで跳ね返ってくる。

炭素当量(Ceq)と溶接割れ

鋼材の溶接性を測る指標が炭素当量と溶接割れ感受性組成 PCM。値が大きいほど硬化しやすく、低温割れのリスクが上がる。目安としてCeqが0.40%を超えたあたりから予熱の検討に入り、0.55%を超えると予熱は必須と考える。

厄介なのは、高強度鋼ほどCeqが高いという点だ。「強い鋼材に替えれば安全」と板厚を落として材質を上げた結果、溶接条件が急に厳しくなって現場が対応できない、という手戻りは珍しくない。材質の変更は溶接施工条件の変更でもある。

→ 炭素当量・溶接性判定にミルシートの成分を入れればCeqとPCMを同時に出せる

予熱温度は板厚と拘束度で変わる

予熱の目的は冷却速度を落とし、硬化組織の生成と拡散性水素の残留を防ぐこと。必要な予熱温度は成分(Ceq・PCM)だけでは決まらず、板厚(熱が逃げる速さ)と拘束度(縮もうとする溶接部をどれだけ周囲が押さえ込むか)で上乗せされる。同じ材質でも、薄板の単純継手と厚板の箱形断面では要求が違う。

→ 溶接予熱温度カリキュレーターは成分・板厚・拘束度から推奨予熱温度をJIS・AWS基準で算出する

入熱量の計算式と半自動溶接の電流・電圧

溶接条件(電流・電圧・速度)は、単体の数字を覚えるより入熱量に換算して管理するのが本筋だ。

入熱量 H = 60 × E × I / v  [J/mm]

E: アーク電圧 [V]
I: 溶接電流 [A]
v: 溶接速度 [mm/min]

例) 250A・28V・300mm/min
H = 60 × 28 × 250 / 300 = 1,400 J/mm = 1.4 kJ/mm

「板厚6mmなら何A・何V?」という問いに一意の答えが無いのは、同じ入熱でも電流を上げて速く走るか、電流を下げてゆっくり走るかで組み合わせが無数にあるからだ。溶接法ごとの実用レンジはおおむね次のとおりで、この中で入熱が目標範囲に入る組み合わせを選ぶ。

溶接法電流の目安電圧の目安用途
被覆アーク(手棒・SMAW)80〜200A20〜30V現場溶接
CO₂/MAG ソリッドワイヤ(半自動・GMAW)100〜350A18〜34V工場溶接の主力
フラックス入りワイヤ(FCAW)150〜350A24〜32V高能率・厚板
TIG(GTAW)50〜250A10〜20V薄板・ステンレス
サブマージアーク(SAW)300〜1200A28〜40V厚板の自動溶接

入熱が過大だとHAZが軟化して靭性が落ち、過小だと急冷で硬化・割れが出る。上限と下限の両方があるのが入熱管理の勘所だ。

→ 板厚と継手から条件そのものを出したいなら溶接条件セレクター。溶接法・板厚・継手を選ぶと推奨の電流・電圧・速度が一括で出る

HAZの硬さとパス数

入熱管理の目的をもう一段掘ると、HAZ(熱影響部)の最高硬さを抑えることに行き着く。硬さは冷却速度、実務ではt8/5(800℃→500℃の冷却時間)で決まり、これが短いほど硬く脆くなる。硬さの上限(一般に350HV前後が目安)を超えると低温割れのリスクが跳ね上がる。

もうひとつ、厚板では何層何パスで盛るかが入熱とパス間温度の両方を左右する。開先断面積に対して1パスの溶着量が小さければパス数が増え、その分だけ工数と総入熱が積み上がる。開先角度を1段変えるだけでパス数が変わることも多い。

→ 溶接HAZ最高硬さ予測ツールで成分とt8/5から最高硬さを予測し、多層盛パス数計画ツールで開先断面積から必要パス数を逆算できる

パス間温度の管理

多層盛りでは、次のパスを置く直前の温度=パス間温度にも上限がある。一般構造用鋼で350℃程度、溶接構造用鋼で300℃前後、高張力鋼では200℃、ステンレス鋼では鋭敏化を避けるため150℃程度と、材質が上がるほど厳しくなる。現場では「熱いうちに続けて盛る」ほうが効率的なので、管理しないと簡単に超える。

→ 溶接入熱量・パス間温度管理ツールで電流・電圧・速度から入熱量を算出し、鋼種別の管理範囲と照合できる

⑥図面・規格まわり|溶接記号と継手効率

溶接記号は「読める」より「書ける」が難しい

計算が正しくても、図面の指示が曖昧なら現場の判断に委ねることになる。脚長・溶接長さ・全周かどうか・現場溶接かどうか・仕上げ方法——これらはJIS Z 3021の溶接記号で一意に指示できる。矢の側と反対側の描き分け、破線側の意味、識別線の有無といった細部は、たまにしか描かない人ほど間違える。

→ 溶接記号デコーダーは記号を選ぶと断面図が描かれるので、「この指示で意図どおりの溶接になるか」を逆から確認できる

圧力容器の継手効率

圧力容器や貯槽の板厚計算では、溶接継手の信頼度を継手効率という係数で織り込む。継手の形式(完全溶け込みか片側かなど)と放射線透過試験の実施率の組み合わせで値が決まり、これが1.0か0.7かで必要板厚が3割も変わる。

つまり「検査をどこまでやるか」は品質保証の話であると同時に、板厚とコストを直接動かす設計判断でもある。JIS B 8265(圧力容器の構造)に規定がある。

→ JIS B 8265 継手効率・板厚計算で継手形式と検査率から効率を判定し、必要板厚まで算出できる

WPSの適用範囲と検査手法の選択

継手効率は「どれだけ検査するか」で決まると書いたが、その前段にそもそもその溶接施工要領(WPS)が使えるのかという問題がある。WPSは母材・板厚・溶接法・姿勢の組み合わせごとに適用範囲が決まっており、裏付けとなるPQR(施工法確認試験)の範囲を外れると使えない。「前の現場のWPSを流用したら板厚が範囲外だった」というのは、施工が始まってから発覚すると手戻りが大きい。

検査手法も継手の形式で選択肢が変わる。完全溶け込みならRT・UT、すみ肉なら表面探傷(MT・PT)が基本で、板厚や形状によってはUTが当てられないこともある。図面に「NDT実施」とだけ書いて手法を決めないと、現場で当てられない検査を指示することになる。

→ WPS適合チェッカーで母材・板厚・プロセス・姿勢からWPSの適用範囲とPQRの有効性を判定し、溶接NDT選定ガイドで継手条件に合う検査手法を選べる

⑦数量・積算|ワイヤとガスは見積りに効く

強度計算に比べて軽く見られがちだが、溶接材料の数量は工数と原価に直結する。開先形状と溶接長さが決まれば、必要な溶着金属量は断面積×長さ×比重で出る。そこに溶着効率(スパッタやスタブで失われる分)を織り込むとワイヤ・溶接棒の実消費量になる。

シールドガスも同様で、流量[L/min]×アークタイム+段取りロスからボンベ本数まで落とせる。ボンベは本数単位でしか買えないので、端数の扱いが現場の手配ミスにつながりやすい。

脚長を1mm増やすと溶着金属量は約2倍になる——という感覚を持っておくと、④の「必要最小限+α」の判断が具体的なコストと結びつく。

→ 溶接ワイヤ・棒消費量計算と溶接シールドガス 消費量・ボンベ本数計算で、継手形状から数量を拾える

溶接設計チェックリスト

設計レビューや自己チェックに使えるリストをまとめた。前半が「壊れないか」、後半が「作れるか・いくらか」だ。

豆知識|溶接にまつわるエンジニアの常識

なぜ「のど厚」であって「脚長」ではないのか

すみ肉溶接の強度を脚長で議論する人がいるが、実際に応力を負担しているのはのど断面だ。脚長が同じでも、溶接ビードの形状(凸ビード・凹ビード・平ビード)によってのど厚は変わる。AWS D1.1(米国溶接構造規格)では、凹ビードの場合は脚長×0.707よりもさらに小さいのど厚を使う規定がある。

溶接記号の「裏波」「裏当て」の違い

裏波溶接(backing weld)は溶接金属を裏面まで溶かし込む方法で、完全溶け込みを得るための技法。裏当て(backing strip)は裏側に鋼板を当てて溶接する方法で、施工は容易だが疲労強度では裏波溶接に劣る。JIS Z 3021に溶接記号の詳細な規定がある。

炭素当量の式が1つではない理由

炭素当量には複数の式がある。国際的に広く使われるのはIIW式で、JIS G 3106(溶接構造用圧延鋼材)などが採る:

Ceq = C + Mn/6 + Si/24 + Ni/40 + Cr/5 + Mo/4 + V/14 [%]

一方、低炭素・低合金の高張力鋼では、IIW式だと割れ感受性を過小評価することがある。そこで日本では溶接割れ感受性組成PCM(WES規格系)が併用される。どちらの式で0.40なのかを確認せずに値だけ受け取ると判断を誤るので、ミルシートを見るときは式の種類までセットで押さえる。この使い分けは⑤で扱ったツールが両方同時に出してくれる。

溶接姿勢と品質の関係

溶接の品質は施工姿勢に大きく左右される。下向き溶接(flat)が最も品質が安定し、上向き溶接(overhead)が最も難しい。設計段階で部材の向きを検討し、極力下向きで施工できる構造にするのも設計者の腕の見せどころだ。

Tips|溶接設計で失敗しないために

  • まず荷重の種類を明確にする — 静荷重のみなら①だけで済むが、繰返し荷重があれば①+③、寸法精度が厳しければ①+②が必要。荷重条件が検討範囲を決める
  • 脚長の指定は「必要最小限+α」 — 脚長を大きくすれば強度は上がるが、入熱量が増えて変形も増える。過剰な脚長は品質を下げることがある
  • 疲労等級はIIWのFAT分類を参照する — 自己判断で「だいたいFAT 80くらいだろう」は危険。継手形式・溶接方向・仕上げ状態で等級が大きく変わるので、IIW勧告のカタログを確認する
  • 溶接記号は図面に明確に指示する — 脚長・溶接長さ・仕上げ方法・検査要件を溶接記号で漏れなく指示する。記号が曖昧だと溶接工の判断に委ねることになり、品質がばらつく
  • 変形対策は設計段階で織り込む — 溶接後に「曲がったから矯正して」は最悪のパターン。設計段階で変形量を予測し、逆ひずみや対称溶接の指示を図面に反映する
Q. すみ肉溶接の脚長はどう決めればいい?

荷重から必要なのど厚を逆算し、のど厚÷0.707で最小脚長を求める。実用上は板厚の70%以下を上限とし、溶接性や変形も考慮して決める。薄い方の板厚を超える脚長は原則不可。迷ったら溶接強度計算ツールで安全率を確認しよう。

Q. 疲労寿命評価はどのような部材で必要?

繰返し荷重を受けるすべての溶接部材で検討が必要。具体的にはクレーン走行梁、橋梁、圧力容器、回転機器の架台、車両フレームなど。「振動する」「荷重が変動する」環境であれば、静的強度だけでなく疲労評価を行うべきだ。

Q. 溶接変形はどのくらいの精度で予測できる?

経験式による予測は実測値の±20〜30%程度の精度。FEM(有限要素法)による熱弾塑性解析を使えば±10%程度まで精度が上がるが、計算コストが大きい。設計段階では経験式で概算し、重要部位はFEMで精査する二段階アプローチが実用的だ。

Q. 計算結果のデータはサーバーに保存される?

いずれのツールもブラウザ内で完結しており、入力データや計算結果がサーバーに送信されることはない。安心して業務データを入力できる。

まとめ|強度・施工・数量まで一本の線でつなぐ

溶接設計で必要な計算は、静的強度・変形予測・疲労寿命の3領域に、必要脚長・施工条件・図面表記・数量を加えた7領域。強度だけ見て変形を見落とす、静荷重はOKだが繰返し荷重で数年後に壊れる、計算は正しいのに図面の指示が曖昧で現場任せになる——こうした失敗は、領域をセットで検討する習慣で防げる。

この記事で紹介したツールを使えば、ブラウザだけで一通りの検証が完了する:

溶接する前の板を曲げる・抜く工程(展開長・曲げ力・クリアランス・金型)は板金・プレス加工の計算まとめ、部材の断面性能は断面性能・強度計算まとめにまとめてある。

この記事をブックマークして、次の溶接設計で「全部チェックしたか?」のセルフレビューに使ってほしい。

不具合の報告や機能リクエストはお問い合わせページから。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。機械設計歴10年。溶接変形で公差を外し、矯正作業で徹夜した経験から、変形予測の大切さを身をもって学んだ。

運営者情報を見る

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📘 溶接設計に役立つ書籍

この記事で紹介したツール

溶接強度計算シミュレーター

すみ肉溶接・突合せ溶接の許容荷重と安全率を即計算

隅肉溶接 必要脚長 設計計算

設計荷重から隅肉溶接の必要脚長を逆算

断続隅肉溶接 設計ツール

断続隅肉溶接のピッチ・溶接長・規格チェックを一括計算

疲労寿命シミュレーター

SN曲線・グッドマン線図・マイナー則で繰返し荷重の疲労寿命を即判定

溶接継手 疲労等級・許容応力範囲 判定ツール

継手ディテールからJSSC疲労等級を判定し許容応力範囲を照査

炭素当量・溶接性判定

鋼材成分から炭素当量Ceq・PCMを同時算出し溶接性を判定

溶接予熱温度カリキュレーター

鋼材成分から炭素当量Ceq・Pcmと推奨予熱温度をJIS・AWS基準で自動算出

溶接入熱量・パス間温度管理ツール

溶接入熱量を算出し鋼種別の許容範囲と照合

溶接記号デコーダー

溶接記号を選択→断面図SVG描画+意味解説

JIS B 8265 継手効率・板厚計算

継手形式と検査率からJIS B 8265の継手効率を判定し胴板厚を算出

溶接変形予測ツール

角変形・縦横収縮をOkerblom式で予測

溶接条件セレクター

溶接法・板厚・継手から推奨電流・電圧・速度を一括提示

溶接HAZ最高硬さ予測ツール

化学成分とt8/5からHAZ最高硬さ(HV)を予測し基準値照合

多層盛パス数計画ツール

開先断面積から必要パス数を逆算

WPS適合チェッカー

母材・板厚・プロセス・姿勢からWPS適用範囲とPQR有効性を判定

溶接NDT選定ガイド

継手条件からNDT手法を判定

溶接ワイヤ・棒消費量計算

継手形状と長さから溶接ワイヤ重量とガス量を算出

溶接シールドガス 消費量・ボンベ本数計算

溶接シールドガスの消費量とボンベ本数を算出

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