溶接2026-03-31

溶接強度計算の基礎まとめ|すみ肉・突合せ・疲労を一括チェック

「溶接だから大丈夫」が一番危ない

溶接は金属同士を一体化する接合法だから、ボルト接合よりも強い——そう思い込んでいる設計者は少なくない。だが実際には、溶接部は母材より弱くなることが多い。熱影響部(HAZ)の軟化、残留応力、溶接欠陥(ブローホール、融合不良)など、強度を下げる要因が山ほどある。

溶接設計で押さえるべき計算は大きく3つ。溶接継手の静的強度・溶接変形の予測・繰返し荷重に対する疲労寿命だ。どれか1つでも抜けると、完成後に亀裂が入る、寸法精度が出ない、数年後に疲労破壊する——といったトラブルに直結する。

この記事では、溶接強度計算の全体像を体系的に整理し、各計算の勘どころと無料ツールへのリンクをまとめた。機械・構造設計2〜5年目のエンジニアが「溶接周りの検討、全部やったか?」とセルフチェックできる構成にしている。

なぜこの記事を書いたのか

溶接の計算に関する情報はネット上にあるが、バラバラなのが問題だ。「すみ肉溶接 のど厚」で検索すればのど厚の話だけ、「溶接変形」で調べれば変形の話だけ。静的強度・変形・疲労を横断的にカバーして「自分は何を見落としているか」を確認できるページがなかった。

実務で最も怖いのは、強度計算はやったが変形を見ていなかった、静荷重では問題ないが繰返し荷重で数年後に疲労破壊した、というパターン。これは計算項目の全体像が見えていないから起きる。

この記事は、溶接設計で必要な3つの計算領域を漏れなく一覧化し、それぞれの計算を手軽に回せるツールと紐づけた。設計のたびに「次は何を確認すべきか」が即座にわかるリファレンスとして使ってほしい。

溶接強度計算の全体像|3つの計算領域

溶接設計と一口に言っても、検討すべき範囲は広い。以下の3領域を漏れなくカバーすることで、設計ミスと施工後のトラブルを防げる。

#計算領域主な検討内容対応ツール
1静的強度(すみ肉・突合せ)のど厚・許容荷重・安全率溶接強度計算
2溶接変形予測角変形・横収縮・縦収縮量溶接変形予測
3疲労寿命SN曲線・修正グッドマン線図・累積損傷疲労寿命シミュレーター

設計の流れとしては、まず①静的強度で継手が荷重に耐えられるか確認し、次に②変形予測で施工後の寸法精度を検証、さらに繰返し荷重がかかる部材では③疲労寿命を評価する。

計算の順序と依存関係

3つの計算は相互に関連している:

  • のど厚・脚長(①で決定)→ 入熱量の基準(②の変形予測に影響)
  • 溶接パス数(②の変形量を左右)→ 残留応力レベル(③の疲労寿命に影響)
  • 継手形式(すみ肉 or 突合せ)→ ①の応力計算式が変わり、③の疲労等級も変わる

だから「強度だけ計算した」「変形だけ見た」では不十分。3領域をセットで確認する習慣が、溶接設計の品質を底上げする。

①溶接継手強度計算|すみ肉溶接と突合せ溶接の基本

すみ肉溶接 のど厚 とは

すみ肉溶接の強度を語るうえで避けて通れないのがのど厚(throat thickness)だ。のど厚とは、すみ肉溶接の断面において、ルート(溶接の根元)からビード表面までの最短距離を指す。

のど厚 a = 脚長 s × cos(45°) ≈ 0.707 × s

例: 脚長 6mm のすみ肉溶接
→ のど厚 a = 0.707 × 6 = 4.24mm

すみ肉溶接の許容荷重は、このの ど厚と溶接長さの積(のど断面積)に許容せん断応力を掛けて算出する。脚長を1mm増やすだけで許容荷重が約17%増える計算になるから、脚長の指定は強度に直結する。

突合せ溶接の強度計算

突合せ溶接(完全溶け込み)の場合、溶接部の有効断面は母材と同等とみなせる。そのため、強度計算は母材の断面で行う:

突合せ溶接の許容荷重 = 板厚 t × 溶接長さ L × 許容応力 σ_a

引張許容応力: σ_a = σ_B / 安全率
(σ_B: 母材の引張強さ)

ただし、部分溶け込み突合せ溶接の場合は、溶け込み深さがのど厚に相当するため、すみ肉溶接と同様の計算が必要になる。

許容応力と安全率の目安

JIS Z 3001(溶接用語)や建築基準法施行令では、溶接部の許容応力を母材の許容応力に対する比率で規定している。一般的な目安:

溶接の種類引張せん断
完全溶け込み突合せ母材と同等(100%)母材の約60%
すみ肉溶接母材引張強さの1/√3 ≈ 58%

すみ肉溶接は「のど断面のせん断」で評価するのがポイント。荷重方向が溶接線に平行でも直角でも、のど断面のせん断応力として統一的に扱う方法が一般的だ。

なぜ溶接部は母材より弱くなるのか

溶接部が母材と同じ材料でも弱くなる理由は主に3つ:

熱影響部(HAZ)の軟化 — 溶接熱で結晶粒が粗大化し、特に高張力鋼では靭性と強度が低下する。焼入れ鋼では焼戻し効果で硬さが落ちることもある。

残留応力 — 溶接後の冷却収縮で引張の残留応力が発生する。外部荷重に残留応力が重畳されるため、実効的な応力は計算値より高くなる。

溶接欠陥 — ブローホール(気孔)、スラグ巻き込み、融合不良、アンダーカットなど。これらは応力集中源となり、特に疲労強度を大幅に下げる。

溶接強度計算シミュレーターですみ肉・突合せの許容荷重と安全率を即計算

②溶接変形予測|施工後に「曲がった」を防ぐ

溶接変形 とは

溶接は局所的に金属を溶融・凝固させるプロセスだから、必ず熱収縮が起きる。この熱収縮が部材全体の変形として現れるのが溶接変形だ。変形の種類は主に3つ:

角変形 — T継手やL継手で、板が溶接側に傾く変形。すみ肉溶接で最もよく問題になる。

横収縮 — 溶接線に直角方向の収縮。突合せ溶接で顕著。

縦収縮 — 溶接線方向の収縮。長い溶接線ほど累積量が大きくなる。

なぜ変形予測が重要なのか

溶接後に機械加工で修正するには追加コストと納期が必要。大型構造物では矯正作業(ガス加熱矯正、プレス矯正)が発生し、工数が数倍に膨れ上がることもある。

特に問題になるのは以下の場面:

  • 精密機械のフレーム — 平面度0.1mm以下が要求される場合、溶接変形が直接NGになる
  • 配管フランジ — 角変形でフランジ面が傾くと、ガスケットの面圧が不均一になり漏れの原因に
  • 鉄骨柱・梁 — 累積変形で建方精度が出なくなると、高力ボルト接合部のクリアランスが合わない

変形を減らす施工上の対策

変形予測の結果をもとに、以下の対策を施工計画に織り込む:

  • 逆ひずみ(プリセット) — 予測変形量と逆方向にあらかじめ角度をつけておく
  • 対称溶接 — 両側から交互に溶接して変形を相殺する
  • 拘束治具 — 溶接中に部材を固定して変形を拘束する(ただし残留応力は増える)
  • 入熱制限 — パス間温度管理や低入熱溶接法(パルスMIG等)で変形を抑制
  • 溶接順序の最適化 — 収縮が相殺される順序で溶接する

日本溶接協会の技術資料には、板厚と入熱量から変形量を推定する経験式が多数掲載されている。

溶接変形予測シミュレーターで板厚・入熱・継手形式から変形量を即予測

③疲労寿命評価|繰返し荷重で壊れる前に

溶接部の疲労破壊 とは

疲労破壊は、静的な引張強さの半分以下の応力であっても、繰返し荷重が数万〜数百万回作用することで亀裂が発生・進展し、最終的に破断に至る現象だ。溶接部は疲労に対して特に弱い。その理由は:

  • 応力集中 — 溶接止端部(ビードの端)は形状的な応力集中係数が2〜4と大きい
  • 残留応力 — 引張残留応力が応力比を実効的に上げ、疲労寿命を縮める
  • 微小欠陥 — 溶接止端部には微小な亀裂状の欠陥が存在し、き裂の起点になる

SN曲線(応力−寿命曲線)

疲労評価の基本はSN曲線(S-N curve / ヴェーラー曲線)だ。横軸に繰返し数N、縦軸に応力振幅Sをプロットした曲線で、材料や継手形式ごとに実験データから作成される。

S^m × N = C(定数)

S: 応力振幅 [MPa]
N: 破壊までの繰返し数
m: 傾き(鋼溶接部では一般的に m=3)
C: 材料・継手形式による定数

IIW(国際溶接学会)では、溶接継手の疲労等級(FAT class)を分類し、FAT 36〜FAT 160の範囲で各継手のSN曲線を規定している。FATの数値は200万回での疲労強度(MPa)を意味する。

修正グッドマン線図と平均応力の影響

実際の荷重は「0→最大→0」の片振りや、引張側にオフセットした荷重が多い。このとき平均応力の影響を考慮するのが修正グッドマン線図(Modified Goodman diagram)だ。

σ_a / σ_w + σ_m / σ_B = 1

σ_a: 許容応力振幅
σ_w: 両振り疲労限度
σ_m: 平均応力
σ_B: 引張強さ

溶接部では残留応力が降伏点近くまで達していることがあるため、平均応力の影響が特に大きい。応力除去焼鈍(PWHT: Post Weld Heat Treatment)を行うことで残留応力を低減し、疲労寿命を改善できる。

マイナー則(線形累積損傷則)

実機では一定振幅ではなく、さまざまな大きさの荷重が混在する変動荷重が作用する。この場合に使われるのがマイナー則(Miner's rule)だ:

Σ(n_i / N_i) ≤ 1.0

n_i: 各応力レベルでの実際の繰返し数
N_i: 各応力レベルでのSN曲線上の破壊寿命

この累積損傷比Dが1.0に達すると破壊すると予測する。実用上はD ≤ 0.5〜0.8を設計基準とすることが多い(安全側の評価)。JIS B 8266(圧力容器の疲労評価)でもマイナー則に基づく評価手順が規定されている。

なぜ溶接部の疲労等級が重要なのか

同じ鋼材でも、突合せ溶接の仕上げ研磨品(FAT 125)とすみ肉溶接の未処理品(FAT 71)では疲労強度が約1.8倍も違う。継手形式と仕上げ状態の選択が疲労寿命を支配する。

設計段階で「すみ肉で十分だから」と安易に決めると、繰返し荷重下で想定より早く亀裂が入る。特にクレーン走行梁、橋梁、圧力容器など、数十年にわたって繰返し荷重を受ける部材では、疲労等級の選択が設計の最重要判断になる。

疲労寿命シミュレーターでSN曲線・グッドマン線図・マイナー則による疲労寿命を一括評価

溶接設計チェックリスト

設計レビューや自己チェックに使えるリストをまとめた。

  • 継手形式(すみ肉 or 突合せ or 部分溶け込み)を荷重条件に基づいて選定したか
  • すみ肉溶接の脚長・のど厚は許容荷重を満たしているか → 強度計算
  • 突合せ溶接の溶け込み深さは設計要件を満たしているか
  • 溶接変形(角変形・横収縮・縦収縮)の予測値は公差内か → 変形予測
  • 逆ひずみ・溶接順序等の変形対策を施工計画に織り込んだか
  • 繰返し荷重を受ける部材では疲労寿命を評価したか → 疲労寿命
  • 疲労等級(FAT class)は継手形式と仕上げ状態に適合しているか
  • 母材の炭素当量(Ceq)を確認し、予熱の要否を判断したか
  • 溶接後熱処理(PWHT)の要否を検討したか
  • 非破壊検査(NDT)の種類と範囲を図面に指示したか

豆知識|溶接にまつわるエンジニアの常識

なぜ「のど厚」であって「脚長」ではないのか

すみ肉溶接の強度を脚長で議論する人がいるが、実際に応力を負担しているのはのど断面だ。脚長が同じでも、溶接ビードの形状(凸ビード・凹ビード・平ビード)によってのど厚は変わる。AWS D1.1(米国溶接構造規格)では、凹ビードの場合は脚長×0.707よりもさらに小さいのど厚を使う規定がある。

溶接記号の「裏波」「裏当て」の違い

裏波溶接(backing weld)は溶接金属を裏面まで溶かし込む方法で、完全溶け込みを得るための技法。裏当て(backing strip)は裏側に鋼板を当てて溶接する方法で、施工は容易だが疲労強度では裏波溶接に劣る。JIS Z 3021に溶接記号の詳細な規定がある。

炭素当量(Ceq)と溶接性

鋼材の溶接性を判断する指標が炭素当量(Carbon Equivalent)。JIS G 3106(溶接構造用圧延鋼材)では以下の式を使う:

Ceq = C + Mn/6 + Si/24 + Ni/40 + Cr/5 + Mo/4 + V/14 [%]

Ceqが0.40%を超えると予熱が必要、0.55%を超えると溶接困難とされる。高強度鋼ほどCeqが高い傾向にあるため、「強い鋼材を使えば安心」とは限らない。

溶接姿勢と品質の関係

溶接の品質は施工姿勢に大きく左右される。下向き溶接(flat)が最も品質が安定し、上向き溶接(overhead)が最も難しい。設計段階で部材の向きを検討し、極力下向きで施工できる構造にするのも設計者の腕の見せどころだ。

Tips|溶接設計で失敗しないために

  • まず荷重の種類を明確にする — 静荷重のみなら①だけで済むが、繰返し荷重があれば①+③、寸法精度が厳しければ①+②が必要。荷重条件が検討範囲を決める
  • 脚長の指定は「必要最小限+α」 — 脚長を大きくすれば強度は上がるが、入熱量が増えて変形も増える。過剰な脚長は品質を下げることがある
  • 疲労等級はIIWのFAT分類を参照する — 自己判断で「だいたいFAT 80くらいだろう」は危険。継手形式・溶接方向・仕上げ状態で等級が大きく変わるので、IIW勧告のカタログを確認する
  • 溶接記号は図面に明確に指示する — 脚長・溶接長さ・仕上げ方法・検査要件を溶接記号で漏れなく指示する。記号が曖昧だと溶接工の判断に委ねることになり、品質がばらつく
  • 変形対策は設計段階で織り込む — 溶接後に「曲がったから矯正して」は最悪のパターン。設計段階で変形量を予測し、逆ひずみや対称溶接の指示を図面に反映する
Q. すみ肉溶接の脚長はどう決めればいい?

荷重から必要なのど厚を逆算し、のど厚÷0.707で最小脚長を求める。実用上は板厚の70%以下を上限とし、溶接性や変形も考慮して決める。薄い方の板厚を超える脚長は原則不可。迷ったら溶接強度計算ツールで安全率を確認しよう。

Q. 疲労寿命評価はどのような部材で必要?

繰返し荷重を受けるすべての溶接部材で検討が必要。具体的にはクレーン走行梁、橋梁、圧力容器、回転機器の架台、車両フレームなど。「振動する」「荷重が変動する」環境であれば、静的強度だけでなく疲労評価を行うべきだ。

Q. 溶接変形はどのくらいの精度で予測できる?

経験式による予測は実測値の±20〜30%程度の精度。FEM(有限要素法)による熱弾塑性解析を使えば±10%程度まで精度が上がるが、計算コストが大きい。設計段階では経験式で概算し、重要部位はFEMで精査する二段階アプローチが実用的だ。

Q. 計算結果のデータはサーバーに保存される?

いずれのツールもブラウザ内で完結しており、入力データや計算結果がサーバーに送信されることはない。安心して業務データを入力できる。

まとめ|3つの計算を漏れなく回して溶接トラブルを防ぐ

溶接設計で必要な計算は、静的強度・変形予測・疲労寿命の3領域。強度だけ見て変形を見落とす、静荷重はOKだが繰返し荷重で数年後に壊れる——こうした失敗は、3領域をセットで検討する習慣で防げる。

この記事で紹介した3つのツールを使えば、ブラウザだけで一通りの検証が完了する:

この記事をブックマークして、次の溶接設計で「全部チェックしたか?」のセルフレビューに使ってほしい。

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M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。機械設計歴10年。溶接変形で公差を外し、矯正作業で徹夜した経験から、変形予測の大切さを身をもって学んだ。

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