ワイヤーロープ安全荷重計算

径・種別・吊り本数・角度から安全荷重を自動計算。逆引きで必要径も判定。

ワイヤーロープの安全荷重(SWL)を、クレーン等安全規則に基づく安全率6で計算する。

吊荷重量から必要ロープ径を判定

ロープ仕様

柔軟性が高く玉掛け作業に最適

吊り条件

0°=垂直吊り。2本の開き角(現場で「吊り角度60°以内」と言うときの角度)はβの2倍:いまは開き角 60°

計算結果

推奨ロープ径

8 mm

安全(法定基準以上)

安全率 6.0(法定基準: 6以上)

必要破断荷重
34.0 kN

1t × 9.81 × 6 ÷ 張力係数

実際の破断荷重
34.0 kN

6x37 / 8mm

実際の安全荷重 (SWL)
1.00 t
張力係数
1.73

2本 × cos(30°)

吊り金具の選定(シャックル・アイボルト)

吊荷重量 1.00 t・2本・β 30°

1本あたりの張力
0.58 t

荷重 ÷ 張力係数 1.73

シャックル 等級M
呼び10(0.6 t)

JIS B 2801 の使用荷重 ≥ 1本あたりの張力

シャックル 等級S
呼び10(0.8 t)

高強度品。同じ呼びで等級Mの約1.6倍

アイボルト
M30(1.5 t)

45度づりの使用荷重は2個で1個分。2個でも合計が荷重を上回るものを選ぶ

シャックルは本体の向きを脚の方向にそろえた前提。横から引くと使用荷重を下げる必要がある(JIS B 2801 参考1)。アイボルトの45度づりは、座面が相手に密着し、リングの向きが吊り方向と同じ平面にあるときだけ適用できる。

本ツールの計算結果は参考値です。実際の玉掛け作業では、ワイヤーロープの経年劣化・損傷・温度環境を考慮し、必ず有資格者が判断してください。クレーン等安全規則に基づく法定安全率(6以上)を遵守してください。

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関連ツール

現場で「このワイヤー、何トンまで吊れる?」と聞かれたら

クレーン作業の合間、玉掛け作業者が手元のワイヤーロープを見て考え込む瞬間がある。「この径で、この角度で、本当に安全なのか?」——破断荷重の早見表は持っているけれど、吊り角度を加味した実際の安全荷重を暗算するのは難しい。逆に「5トンの荷を吊りたいけど、何ミリのロープが必要?」と聞かれると、テーブルを何度も見比べることになる。

ワイヤーロープ安全荷重計算は、ロープ径・種別・吊り本数・吊り角度を入力するだけで安全荷重(SWL)を自動算出するツール。逆引きモードでは荷重から必要なロープ径を即座に判定する。スマホで現場から直接使えるモバイルファースト設計だ。

なぜワイヤーロープ安全荷重計算ツールを作ったのか

現場の「あるある」から生まれた

玉掛け技能講習を修了したばかりの頃、現場で先輩に「この荷、6×37の16mmで2本吊り、角度30度くらいだけど大丈夫?」と聞かれた。破断荷重表は教科書に載っているけれど、吊り角度の張力係数を掛けて安全率6で割って……という計算を頭の中でやるのは正直厳しかった。

既存のツールも調べた。紙の早見表は角度が0°/30°/45°/60°の4パターンしかなく、20°のような中間角度に対応できない。Excelの計算シートはPCが必要で現場では使えない。Webツールもいくつかあるが、順引き(径→荷重)だけで逆引き(荷重→径)に対応していないものが多い。

こだわった設計判断

  • 双方向計算: 「径から荷重」だけでなく「荷重から径」の逆引きに対応。現場で最もよく聞かれる2つの質問に直接答える
  • 任意の吊り角度: 0°〜60°の任意角度をcos関数で直接計算。早見表の4パターンに限定されない
  • JIS G 3525 の破断力をメーカー規格表から収録: 6×24・6×37 は A種、6×S(19)・6×Fi(29) は B種の値を、構成ごとの径の系列(6×S(19) なら 11.2mm・12.5mm・22.4mm なども含む)で持っている。6×24 と 6×37 は東京製綱と神鋼鋼線工業の2社の表で値が一致することを確かめた。手元のロープに証明書があれば、そちらを優先してほしい
  • 4本吊りは3本で計算: 4本4点吊りは4本が均等に張らないので、JIS B 8817(ワイヤロープスリング)の考え方に合わせて3本で持つものとして安全荷重を出す
  • 外部送信なし: すべてブラウザ内で完結。電波の届きにくい建設現場でも安心

ワイヤーロープの構造と種別 — ワイヤーロープ 安全荷重 計算の基礎

ワイヤーロープ とは

ワイヤーロープは、細い鋼線(素線)を束ねて「ストランド」を作り、そのストランドを心綱の周囲に撚り合わせた鋼製のロープ。日常で目にする繊維ロープとは桁違いの引張強さを持ち、クレーン作業・エレベーター・吊り橋など「絶対に切れてはならない」場面で使われている。

たとえるなら、1本の鋼線は割り箸のように簡単に折れるが、何十本も束ねて撚り合わせると、柔軟性を保ちながら驚異的な強度を発揮する。これがワイヤーロープの原理だ。

ワイヤーロープ 種別の違い

JIS G 3525で規格化されている主な種別:

  • 6×24: 6本のストランドに各24本の素線。やや硬いが安価で一般的
  • 6×37: 6本のストランドに各37本の素線。素線が細い分だけ柔軟性が高く、玉掛け作業に最も多用される
  • 6×S(19): シール型。外層素線が太く、耐摩耗性に優れる。ドラム巻き取りが多い用途向き
  • 6×Fi(29): フィラー型。すき間にフィラー線を配置し、型崩れしにくい。長尺使用や繰り返し曲げに強い

「6×37」の「6」はストランド数、「37」は1ストランドあたりの素線数。数字が大きいほど素線が細くなり柔軟性が増すが、1本あたりの耐摩耗性は下がるトレードオフがある。

破断荷重 とは

破断荷重とは、ワイヤーロープを引っ張ったときに切断される最小の荷重(kN)。JIS G 3525 は素線の公称引張強さで E種・G種・A種・B種・T種を分けていて、同じ構成・同じ径でも種別で破断力が変わる。玉掛けで一般的な裸の 6×24・6×37 は A種、6×Fi(29) は JIS に B種・T種しかない。本ツールは、6×24・6×37 を A種、6×S(19)・6×Fi(29) を B種の値で持っている。

2026-09-27 に表を差し替えた。 それまでは 6×24 の列に 6×S(19) B種の値が入っていて、6×24 A種より約18%大きかった。6×37 も約6%大きかった。どちらも危険側の誤りで、揚重計画の通し例題を組んでいて、メーカー規格表と突き合わせたときに見つかった。

ワイヤーロープ 種別 比較テーブル

各種別の特性を一覧で比較すると、適材適所が見えてくる。

種別素線数/ストランド柔軟性耐摩耗性主な用途価格帯
6×2424本(ストランドに繊維心)△ やや硬い○玉掛け・係船安価
6×3737本◎ 高い△玉掛け・クレーン標準
6×S(19)19本(シール型)△◎ 外層が太いドラム巻取・索道やや高い
6×Fi(29)29本(フィラー型)○○長尺使用・繰返し曲げやや高い

現場でよく聞く「迷ったら6×37」というのは、柔軟性と汎用性のバランスが最も良いから。ただし、ウインチのドラムに何百回も巻き取る用途ではシール型の6×S(19)が耐摩耗性で有利だ。

ワイヤーロープの歴史 — 鉱山から超高層ビルへ

ワイヤーロープの起源は1834年、ドイツのオーベルベルクアムト鉱山技師ヴィルヘルム・アルベルトが鉱山用に発明したのが始まり。それまでのヘンプ(麻)ロープは腐食と強度不足で事故が絶えなかった。鋼線を撚り合わせるアイデアは、鉱山の安全性を劇的に向上させた。

日本では1887年(明治20年)に足尾銅山で初めてワイヤーロープが使用された記録が残っている。現在ではエレベーター・クレーン・吊り橋・ロープウェイなど、あらゆるインフラに不可欠な存在だ。

参考: ワイヤーロープ - Wikipedia

安全率がなぜ重要か — ワイヤーロープ 安全率 の法的根拠

クレーン等安全規則 第213条

クレーン等安全規則第213条は、玉掛け用ワイヤーロープの安全率を6以上と定めている。安全率とは「破断荷重 ÷ 実際にかかる荷重」の比。6以上ということは、破断荷重の1/6以下の荷重でしか使ってはならないということだ。

なぜ6倍もの余裕が必要なのか。理由は複数ある:

  1. 動的荷重: 荷を巻き上げる瞬間に衝撃荷重がかかる。静止時の荷重の1.5〜2倍になることもある
  2. 経年劣化: 使用回数に応じて素線が摩耗・断線し、実効破断荷重が低下する
  3. 環境要因: 高温、腐食性雰囲気、繰り返し曲げによる疲労で強度が低下する
  4. 角度による張力増加: 吊り角度が大きいほど各ロープにかかる張力が増す

安全率6は「余裕がありすぎ」ではなく、これらの不確定要素を全て織り込んだ最低限の基準。過去にはこの安全率を満たしていなかった結果、ワイヤーロープが破断して重大事故につながった例もある。

安全率が足りないとどうなるか

安全率が3を下回ると、正常な使用条件でも突然破断するリスクが現実的になる。ワイヤーロープの破断は、張力が瞬時に解放されるため、ロープが鞭のように跳ね返って周囲の作業者に致命的な傷害を与える「スナップバック」を引き起こす。これは玉掛け作業における最も恐れられる事故の一つだ。

建設現場からプラント整備まで——活躍する場面

  • 建設現場のクレーン作業: 鉄骨建方や重量物の搬入時、吊り角度と荷重からロープ径を即座に判定。作業前のKY活動(危険予知活動)で数値根拠を示せる
  • 工場の天井クレーン: 金型や機械部品の日常的な吊り上げ作業で、使用中のロープが安全基準を満たしているかをその場で確認
  • 造船所: 大型ブロックの吊り上げでは4本吊りが基本。角度と重量から必要径を逆引きで検証する場面が多い
  • 安全パトロール: 安全管理担当者が現場を巡回する際、ロープの径と吊り条件からSWLを数値で確認できる

3ステップで結果がわかる基本の使い方

  1. ロープ仕様を設定: 計算モード(順引き/逆引き)を選び、ロープ種別を選択。順引きなら径を、逆引きなら荷重を入力する
  2. 吊り条件を設定: 吊り本数(1〜4本)と、1本ごとの鉛直からの角度 β(0°〜60°)を入力。開き角で考えているなら半分にして入れる
  3. 結果を確認: 安全荷重(SWL)・破断荷重・張力係数がリアルタイム表示される。逆引きでは推奨ロープ径と安全率判定を表示。その下に、1本あたりの張力と、それを受けるシャックル・アイボルトの呼びが出る

具体的な計算例で検証する — ワイヤーロープ 破断荷重 表の実践活用

ケース1: 6×37 / 16mm / 2本吊り / 角度30°

軽量鉄骨の搬入を想定。

  • 破断荷重: 136 kN(6×37 A種の表の値)
  • 張力係数: 2 × cos(30°) = 1.73
  • 安全荷重: 136 × 1.73 ÷ 6 ÷ 9.81 ≒ 4.00 t

ちょうど4トンまでの荷を安全に吊れる計算だ。16mmは玉掛け現場でいちばん見かける径で、「2本吊り・βが30°(開き角60°)なら4トン」という感覚は覚えておくと現場で効く。

→ 注意点: この安全荷重は新品ロープの値。使用中に素線断線や径減少が進むと実効破断荷重が低下する。定期点検で素線断線率10%・径減少7%に達したロープは廃棄が法定義務だ。

ケース2: 6×37 / 24mm / 4本吊り / 角度45°

重量機械の据付を想定。

  • 破断荷重: 306 kN
  • 張力係数: 3 × cos(45°) = 2.12(4本吊りは3本で計算)
  • 安全荷重: 306 × 2.12 ÷ 6 ÷ 9.81 ≒ 11.03 t

約11トンまで対応できる。

→ よくある間違い: 4本吊りで「全4本が均等に荷重を分担する」と仮定すると、張力係数は 4 × cos(45°) = 2.83 になり、安全荷重は約14.7トンと出る。実際には、重心の位置のずれや吊り具の長さの差で4本は均等に張らない。JIS B 8817(ワイヤロープスリング)も4本4点吊りを3本として扱うので、本ツールも3本で計算している。4本で数えた値は、3本で数えた値より3割以上大きい。

ケース3: 逆引き — 5トンの荷を6×37で2本吊り、角度30°

  • 張力係数: 2 × cos(30°) = 1.73
  • 1本あたり張力: 5 × 9.81 ÷ 1.73 ≒ 28.31 kN
  • 必要破断荷重: 28.31 × 6 ≒ 169.9 kN
  • テーブル検索: 6×37で169.9kN以上の最小径 → 18mm(172 kN)

18mmを選ぶと、実際の安全荷重は5.06トン、安全率は6.08になる。5トンの荷に対して余裕は1%ほどしかない。ひとつ下の16mm(136 kN)では、必要破断荷重に届かないので使えない。

→ 注意点: ぎりぎりで径が決まったときほど、端末処理の効率(圧縮止め90〜95%、クリップ止め約80%)を思い出してほしい。本ツールはロープ単体の値で判定しているので、クリップ止めなら一段上の20mmを選ぶのが安全側の判断になる。

ケース4: 角度の影響比較 — 6×37 / 20mm / 2本吊り

角度を変えるとSWLがどう変化するか:

吊り角度張力係数SWL (t)
0°2.007.21
30°1.736.24
45°1.415.10
60°1.003.60

角度が0°→60°で安全荷重が半分に減少する。吊り角度を小さくすることがいかに重要かがわかる。よくある間違いは、角度の測り方の取り違えだ。本ツールの吊り角度 β は1本のロープと鉛直線の角度(半頂角)で、現場で「吊り角度60°以内」と言うときの2本の開き角はその2倍になる。表の β=30° が開き角60°に当たる。吊り金具の計算では、同じ角度を水平面から測ることも多い(β=30° なら水平から60°)。3通りの測り方があるので、ツールに入れる前にどれかを確かめてほしい。

ケース5: 6×24 / 12mm / 1本吊り / 角度0° — 軽量部材の吊り上げ

足場材や配管の単品吊り上げを想定した1本吊り。

  • 破断荷重: 71.0 kN(6×24 A種 / 12mm の表の値)
  • 張力係数: 1 × cos(0°) = 1.00
  • 安全荷重: 71.0 × 1.00 ÷ 6 ÷ 9.81 ≒ 1.21 t

約1.2トンまで。1本吊りは張力係数が1.00でいちばん不利な条件なので、同じ12mmでも2本吊り・β30°にすれば2.09トンまで伸びる。配管や足場材の単品吊りなら12mmで足りることが多い。

ケース6: ロープ種別比較 — 同径20mm / 2本吊り / 角度30°

種別を変えるとSWLがどう変わるかを比較する。

種別破断荷重 (kN)SWL (t)
6×24 A種1975.80
6×37 A種2126.24
6×S(19) B種2326.83
6×Fi(29) B種2376.98

同じ径でも、6×24 と 6×Fi(29) で約2割の差が出る。6×24 は 6×37 より破断荷重が約7%低い。6×24 は各ストランドの中心にも繊維心が入っていて、そのぶん鋼の断面が少ないからだ。6×S(19)・6×Fi(29) が高いのは、構成の違いに加えて、素線の強度が1段高い B種 の値だからでもある。柔軟性が要る玉掛けでは6×37、強度優先なら6×S(19)・6×Fi(29)、という住み分けになる。

なお種別による差は、吊り角度の影響(0°→60°で50%減)に比べれば小さい。種別選びで悩むより、吊り角度を浅くするほうが安全荷重にはるかに効く。ただし、めっきロープ(G種)は同じ構成の A種より約7%低い。手元のロープの種別は、証明書で確かめてほしい。

吊り角度と2点吊り・3点吊り・4点吊り、吊り金具の選び方

ロープ径が決まっても、玉掛けの計算はそこで終わらない。吊り角度を何度まで開いてよいか、3点・4点で吊ったとき1本に何トン掛かるか、その張力をどのシャックル・アイボルトで受けるか。ツールでは結果の下に吊り金具の選定を並べ、同じ入力から一度に出るようにした。

吊り角度は何度まで — 開き角60°が目安、120°が上限

玉掛け作業では、2本のロープの開き角60°以内が基本とされる(玉掛け技能講習の教え方)。開き角60°は、このツールの入力でいう「鉛直からの角度 β=30°」だ。開き角が90°を超えると1本の張力は荷の重さの半分の1.4倍を超え、120°でちょうど2倍になる。120°を超えると張力が急に跳ね上がるうえ、荷を内側へ押し潰す水平分力も大きくなるので、本ツールは β=60°(開き角120°)より先を計算しない。吊り点の間隔が広くて角度が取れないときは、スリングを長くするか、天秤を入れて角度そのものを0°に近づけるほうが早い。

吊り角度別の張力早見表(2点吊り・3点吊り・4点吊り)

荷の重さ 1 t あたり、ロープ1本に掛かる張力を並べる。実際の荷ではこの値に荷の重さ(t)を掛ける。

開き角鉛直からの角度 β張力倍率2点吊り3点吊り4点吊り(3本で数える)
0°0°1.0000.500 t0.333 t0.333 t
30°15°1.0350.518 t0.345 t0.345 t
45°22.5°1.0820.541 t0.361 t0.361 t
60°30°1.1550.577 t0.385 t0.385 t
90°45°1.4140.707 t0.471 t0.471 t
120°60°2.0001.000 t0.667 t0.667 t

張力倍率は 1/cos β で、2点吊りの列は「荷の重さ ÷ 2 × 張力倍率」になっている。上の使用例のケース4が「ロープを固定して吊れる重さ」を見たのに対し、こちらは「荷を固定して1本に掛かる力」を見ている。シャックルやアイボルトを選ぶときに要るのはこちらの値だ。

3点吊りと4点吊りの荷重配分

3点吊りは3本で荷を分けるが、4点吊りは4本ではなく3本で分けるものとして計算する。4本の長さや吊り点の高さがわずかに違うだけで、対角の2本がほとんど遊ぶことがあるからだ(JIS B 8817 の考え方。ケース2で詳しく書いた)。表で3点吊りと4点吊りの列が同じ値なのはこのためで、4点吊りにしても1本あたりの張力は3点吊りより下がらない。4本に均等に効かせたいなら、天秤やイコライザーで長さの差を逃がす必要がある。

シャックル・アイボルトの選び方

シャックルは1本あたりの張力で選ぶ。ロープの端に付けるシャックルが受けるのは、荷の重さではなく、その脚1本の張力だからだ。本ツールは JIS B 2801 の使用荷重表から、張力を上回る最小の呼びを等級M(一般品)と等級S(高強度品)の両方で出す。前提は、シャックル本体の向きを脚の方向にそろえて使うこと。横から引く使い方では使用荷重を下げる必要がある(同規格の参考1)。

アイボルトは考え方が違う。JIS B 1168 の使用荷重は「1個で垂直に吊る」と「2個で45度に吊る」の2通りで、しかも2個で45度に吊るときの使用荷重は2個合わせて1個分だ。メーカー各社は、3個・4個で吊っても合計はこの値を超えないよう求めている。荷が傾くと全数に均等には掛からないからだ。したがってアイボルトは、個数や角度で割らず、荷の重さそのもので選ぶ。鉛直から45°(開き角90°)を超える吊り方は規格に使用荷重が無いので、ツールでは「使用不可」と出す。

2.5 t の荷を4点・β30°で吊る例で並べると、1本あたりの張力は 0.96 t、シャックルは等級Mの呼び12(使用荷重1 t)で足りる。一方アイボルトは、荷の重さ 2.5 t 以上の M42(3.4 t)が要る。M36 は 2.3 t で届かない。4個で割れば1個あたり 0.63 t の M20 で済みそうに見えるが、規格の使い方ではそうならない。機器の吊り穴がアイボルトしか受けられないときは、吊りピースに替えることも含めて先に確かめてほしい。

計算の仕組み — アルゴリズムと手法比較

候補手法の比較

安全荷重の計算には2つのアプローチがある。

手法A: プリセットテーブル補間方式

角度0°/15°/30°/45°/60°のプリセット張力係数テーブルを持ち、中間角度は線形補間で算出する方式。多くの紙の早見表がこの方式を採用している。メリットはテーブル値との完全一致が保証されること。デメリットは補間精度が低く、28°のような中間値で誤差が生じること。

手法B: cos関数直接計算方式(採用)

張力係数 = 有効本数 × cos(β) で直接計算する方式。本ツールはこちらを採用した。有効本数は吊り本数そのままだが、4本吊りだけは3にする(JIS B 8817 の考え方)。三角関数の正確な値を使うため任意角度で精密な結果が得られる。プリセットテーブルの0°/15°/30°/45°/60°の値ともcos関数の値は実質的に一致するため、互換性も問題ない。

計算フロー

順引き(径→安全荷重):

1. 破断荷重 = BREAKING_LOAD_TABLE[ropeType] から径で引く  (kN)
2. 張力係数 = 有効本数 × cos(β × π / 180)   ※4本吊りの有効本数は3
3. 安全荷重(t) = 破断荷重 × 張力係数 ÷ 安全率(6) ÷ 9.80665
4. 1本あたり許容張力(kN) = 破断荷重 ÷ 安全率(6)

逆引き(荷重→必要径):

1. 1本あたり張力(kN) = 荷重(t) × 9.80665 ÷ (有効本数 × cos(β))
2. 必要破断荷重(kN) = 1本あたり張力 × 安全率(6)
3. 推奨径 = テーブルから必要破断荷重以上の最小径を検索

計算例(手計算との比較)

6×37 / 16mm / 2本 / 30°の場合:

破断荷重 = 136 kN(6×37 A種の表の値)
張力係数 = 2 × cos(30° × π/180) = 2 × 0.8660 = 1.7321
安全荷重 = 136 × 1.7321 ÷ 6 ÷ 9.80665
         = 235.6 ÷ 6 ÷ 9.80665
         = 39.26 ÷ 9.80665
         = 4.003 t ≒ 4.00 t

電卓で計算した結果と完全に一致する。

他ツールとの違い — 双方向計算とモバイル対応の差別化

紙の早見表やExcelシートと比較した本ツールの特徴:

機能紙の早見表Excelシート本ツール
順引き計算○○○
逆引き計算△(手作業)△(要改造)○
任意角度対応×(4パターン)○○
スマホ対応○(紙)×○
4種別対応△△○
他ツール連携××○
シャックル・アイボルト選定別の表×○(同じ入力から)

最大の差別化は逆引き計算のワンタップ対応だ。現場で「何ミリのロープが必要?」という質問に、ロープ種別と吊り条件を入れるだけで即座に回答できる。

玉掛け作業の豆知識

ワイヤーロープの廃棄基準

クレーン等安全規則第220条では、以下の状態のワイヤーロープは使用禁止とされている:

  • 素線の数の10%以上が断線しているもの
  • 直径の減少が公称径の7%を超えるもの
  • キンク(よじれ)、著しい形崩れ、腐食があるもの

新品の破断荷重テーブルは、これらの劣化が一切ない前提での値。実際の現場では定期的な目視点検と測定が不可欠だ。

グリース塗布の重要性

ワイヤーロープの内部素線は、曲げやねじりのたびに互いに摩擦する。グリース(潤滑剤)はこの内部摩擦を低減し、さらに防錆効果で腐食を防ぐ。ワイヤーロープの保守管理に関するJIS Z 1707などを参考に、定期的な塗布が推奨される。

端末処理の種類

ワイヤーロープの端末(末端の固定方法)には、圧縮止め(ロック加工)、アイスプライス(編み込み)、クリップ止めなどがある。端末処理の種類によってロープの効率(実効破断荷重の何%を発揮できるか)が変わる。圧縮止めは約90〜95%、クリップ止めは約80%が一般的。本ツールの計算値はロープ単体の破断荷重なので、端末効率を加味する場合はさらに余裕を持たせる必要がある。

現場で役立つTips

  • 吊り角度は小さいほど安全: 角度0°(垂直吊り)が最も効率が良い。β が60°(開き角120°)になると、1本あたりの張力が2倍になる
  • 4本吊りでも安全荷重は3本吊りと同じ: 4本目は「均等に張らなかったときの保険」で、安全荷重は増えない。4本全部に同じだけ持たせたいなら、天秤やレバーブロックで長さをそろえる
  • 定期点検は法定義務: クレーン等安全規則第220条に基づき、使用前の点検と定期自主検査を実施すること
  • 温度に注意: 200°C以上の環境ではワイヤーロープの強度が著しく低下する。高温環境では耐熱チェーンの使用を検討

よくある質問

Q: 安全率6の根拠は?

クレーン等安全規則第213条で、玉掛け用ワイヤーロープの安全率は6以上と定められている。これは動的荷重・経年劣化・環境要因・角度による張力増加などの不確定要素を総合的に考慮した法定基準。エレベーター用(安全率10以上)や鉱山巻上用(安全率6.5以上)など用途によって異なる安全率が設定されている。

Q: ロープの寿命はどのくらい?

使用条件(荷重、頻度、環境、曲げ回数)によって大きく異なるため一概には言えない。一般的な目安として、素線断線率10%または径減少7%に達した時点で廃棄する。屋外で毎日使用する場合は数ヶ月〜1年、屋内の軽荷重なら数年持つこともある。定期的な点検記録が重要。

Q: 現場の「吊り角度60°以内」と、このツールの角度は同じ?

同じではない。現場で言う吊り角度は、2本のロープの開き角だ。このツールの β は1本のロープと鉛直線の角度なので、開き角60°は β=30° に当たる。開き角60°のとき、1本あたりの張力は垂直吊りの1.155倍。開き角120°(β=60°)で2倍になる。開き角が大きくなるほど倍率は急に増えるうえ、荷がスリングの間から抜け出す危険も高まるので、玉掛けでは開き角60°以内が推奨されている。本ツールは β=60° までしか計算しない。

Q: 入力データはサーバーに送信される?

一切送信されない。すべての計算はブラウザ内のJavaScriptで完結している。

Q: 端末処理(圧縮止め・クリップ止め等)の効率は考慮されている?

本ツールの計算値はロープ単体の破断荷重に基づいており、端末効率は含まれていない。実務では端末効率(圧縮止め90〜95%、クリップ止め約80%)を別途考慮する必要がある。安全率6は端末効率の低下もある程度カバーしているが、クリップ止めの場合は特に注意してほしい。

まとめ

ワイヤーロープ安全荷重計算は、玉掛け作業者と現場監督が「今、このロープで安全に吊れるか?」をスマホからその場で確認するためのツール。順引き・逆引きの双方向計算で、現場のあらゆる質問に即座に対応する。

吊り治具やクレーン側の検討と合わせるなら、吊り金具設計シミュレーターで吊りピース・シャックルの強度を、クレーン揚重計画チェッカーで定格総荷重と作業半径を確認できる。玉掛けから揚重計画まで一連で詰められる。

ツールに関する要望・不具合報告はX (@MahiroMemo)から。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。

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