溶接継手 疲労等級・許容応力範囲 判定ツール

継手のディテールを選ぶだけで JSSC 疲労強度等級(A〜H)を判定し、設計繰返し数に対する許容応力範囲を出して照査する。止端仕上げで1等級上げたときに許容値が何%増えるかまで並べて表示

継手のディテールを選ぶと JSSC 疲労設計指針の強度等級(A〜H)が決まり、設計繰返し数に対する許容応力範囲 Δσa と照査比が出る。止端仕上げで1等級上げたときの伸びしろも同時に表示する。

継手を選ぶ

下の継手ディテールの選択肢を絞り込むだけの項目。計算には入らない

選んだ瞬間に疲労強度等級と基本許容応力範囲 Δσf が決まる。仕上げの有無まで含めて選ぶ

判定された等級F等級Δσf = 65 N/mm²

応力条件

一定振幅なら応力範囲と繰返し数を1組、変動振幅なら頻度分布を3段まで入れる

公称応力の変動幅。最大応力と最小応力の差であって振幅(片振幅)ではない

設計供用期間に受ける総繰返し数。1日あたりの回数×365×供用年数

板厚

板厚補正が必要な組合せかどうかの判定にだけ使う。許容応力範囲そのものは補正していない

板厚補正の対象

対象外の継手形式

板厚によらず Ct = 1.00

疲労強度等級F等級照査比 0.923 / Δσf = 65 N/mm²
注意

許容応力範囲 Δσa

65.00 N/mm²

N=2,000,000回に対する値

照査応力範囲

60.00 N/mm²

一定振幅の入力値

照査比 Δσ/Δσa

0.923

指針の基準は1.0以下/0.8超は余裕僅少で注意表示

累積損傷度 D

0.787

照査比の3乗。基準は同じく1.0以下

許容繰返し数

2,542,824 回

この応力範囲で持つ回数

設計繰返し数 ΣN

2,000,000 回

一定振幅の入力値

基本許容応力範囲 Δσf

65 N/mm²

2×10⁶回に対する等級の定義値

等価応力範囲 Δσe

一定振幅では換算不要

1等級上げたら

E等級 / Δσa = 80.00 N/mm²(+23.1%)

「l≦100mm・すみ肉/開先溶接・止端仕上げ」に変えると到達できる

照査比が0.8を超えている。応力の見積り誤差を考えると余裕が少ない

S-N線図(両対数)

2×10⁶回 Δσf=6510⁴10⁵10⁶10⁷10⁸101001000繰返し数 N(回)Δσ (N/mm²)
F等級1 等級上(E等級)許容応力範囲 Δσa設計点●は判定に応じて色が変わる

等級の判定は継手ディテールの形状解釈が入る。仕上げの程度・アンダーカットの有無・欠陥の大きさによって指針の適用条件を外れることがあるので、最終判断は設計者が行うこと。板厚補正係数 Ct・平均応力に関する補正係数 CR・打切り限界(Δσce / Δσve)による無限寿命判定は本ツールでは計算していない。

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📘 鋼構造の疲労設計を学ぶ

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同じ鋼板から切り出しても、継手の形が違うだけで許容値は5倍近く変わる

手元に鋼板が2枚あるとする。片方は端面まで機械仕上げした帯板、もう片方は同じ板にガセットをすみ肉溶接で取り付けたもの。材質も板厚も同じで、かかる力も同じ。それでも200万回の繰返しに耐えられる応力範囲は、前者が190 N/mm²、後者は40 N/mm²まで落ちる。差は約4.8倍。しかもこの差を決めているのは鋼材の引張強さではなく、溶接止端の形と欠陥がどこに残っているかだけだ。

疲労設計でつまずくのは、たいてい計算そのものではない。「で、自分が描いたこの継手は何等級なんだ」というところで止まる。JSSC『鋼構造物の疲労設計指針・同解説』の継手等級表には、ディテールの図と条件が延々と並んでいる。ガセット長が100mm以下か超か、止端を仕上げてあるか、割れるのが止端かルートか。その組合せでA〜Hの等級が振り分けられ、等級が決まった瞬間に基本許容応力範囲 Δσf が確定する。あとは掛け算で終わるのに、表が手元になければ1歩も進めない。

このツールは、その表引きの部分だけを画面に載せたものだ。継手グループを選び、ディテールを選ぶ。それだけで等級と Δσf が出る。設計繰返し数と応力範囲を足せば許容応力範囲 Δσa と照査比が出て、止端仕上げで1等級上げたら許容値が何%増えるかまで並ぶ。

なぜ作ったのか — 等級プリセットを用意しておいて、肝心の「何等級か」に答えていなかった

このサイトには先に 疲労寿命シミュレーター がある。作ったとき、JSSC A〜H の8等級とIIWのFAT値をプリセットとして全部入れた。応力範囲を打ち込めば寿命が何回もつか出る。そのときは満足していた。

しばらくして自分でそれを開いて、手が止まった。プルダウンには「JSSC F等級」と並んでいる。でも図面にあるのは「フランジに長さ80mmのガセットを両側すみ肉溶接、止端仕上げなし」という継手で、これがF等級なのかG等級なのかが分からない。等級を選ばせるプリセットを自分で作っておきながら、その等級をどう決めるかはツールの外に丸投げしていた。一番時間を食う工程が、ちょうどぽっかり空いていた。

ネットで埋めようとしても難しい。「JSSC 疲労等級」で検索して出てくるのは学協会のPDFと大学の講義資料ばかりで、どれも表の一部だけを抜粋している。面外ガセットの行だけ載っている資料、突合せ継手だけの資料、他基準との比較表だけの資料。全部を横断して自分の継手を探すには、結局PDFを何本も開いて突き合わせることになる。指針そのものを買えば済む話ではあるが、「等級を1つ引くために本を出す」というのが毎回の摩擦になっていた。

もう一つ引っかかっていたのが方向だ。疲労寿命シミュレーターは「応力範囲を入れて寿命を出す」向きに作ってある。しかし実務で先に決まっているのは寿命のほうだ。供用100年、1日あたり大型車が何台、だから設計繰返し数はいくつ、という順で条件が降ってくる。欲しいのは「その回数に耐えるには応力範囲をいくつ以下に抑えればいいか」という逆算値になる。そこで、等級の判定と逆算の照査を1画面にまとめた別のツールとして切り出した。

疲労強度等級とは何か — 溶接継手の疲労が材料強度で決まらない理由

疲労強度等級 とは:継手の形だけで決まる8段階

疲労強度等級は、溶接継手のディテール形状を疲労強度の順にA〜Hへ格付けしたものだ。各等級には200万回の繰返しに対する基本許容応力範囲 Δσf が1つ割り当てられていて、この数値がそのまま設計の出発点になる。

等級Δσf (N/mm²)代表的な継手
A190帯板・表面および端面を機械仕上げ
B155黒皮付きの母材/余盛を削除した横突合せ溶接
C125ガス切断縁/止端仕上げした横突合せ溶接
D100非仕上げの両面突合せ溶接/縦方向すみ肉溶接
E80裏当て金付き縦継手/非仕上げの十字継手(荷重非伝達型)
F65裏当て金付き横突合せ/面外ガセット l≦100mm 非仕上げ
G50スカラップを含む継手/面外ガセット l>100mm すみ肉溶接
H40すみ肉溶接のルート破壊/重ねガセット継手の母材

注目してほしいのは、この表のどこにも鋼種が出てこないことだ。SS400でもSM490でもSM570でも、同じディテールなら同じ等級・同じ Δσf を使う。静的強度なら降伏点が1.5倍違えば許容応力も1.5倍違うのに、疲労ではその区別が消える。

なぜ材料強度が効かないのか — 応力集中・欠陥・残留応力

理由は3つ重なっている。

1つ目は応力集中だ。溶接止端は母材と溶接金属が角度をもって出会う場所で、そこには必ず切欠きができる。公称応力が60 N/mm²でも、止端の局部応力はその数倍に跳ね上がる。疲労き裂はこの局部で発生するので、公称応力で整理するかぎり「形の悪さ」がそのまま強度差として現れる。

2つ目は初期欠陥だ。溶接部にはアンダーカット、スラグ巻込み、ブローホールといった微小な不連続が不可避的に残る。疲労寿命は「き裂の発生」と「き裂の進展」に分かれるが、溶接継手では発生段階がほぼスキップされ、最初から小さなき裂があるのと同じ状態で進展が始まる。き裂の進展速度は材料の引張強さにほとんど依存しないため、鋼種を上げても寿命は伸びない。

3つ目は残留応力だ。溶接部には降伏点近い引張の残留応力が残っている。そのため外力の平均応力がどうであれ、止端の実際の応力は常に高い引張側で振れることになる。これが「溶接継手の疲労は平均応力ではなく応力範囲 Δσ だけで決まる」という設計上の割り切りの根拠になっている。実際、鋼道路橋の疲労設計計算例でも -1<R<1 の範囲で平均応力の補正係数は1.00とされている。

日常のたとえで言えば、針金を折るときの話に近い。太い針金でも細い針金でも、一度キズを入れてしまえば折れるのは同じ場所で、あとは何回曲げたかだけが問題になる。溶接は構造物にそのキズを意図的に入れる作業でもある、と考えると等級表の意味が腑に落ちる。

Δσ³·N = C という1本の式

各等級の設計疲労曲線は、両対数グラフ上の1本の直線として与えられる。式で書くと次の形になる。

Δσ³ · N = 2×10⁶ · Δσf³

左辺の Δσ は応力範囲、N は繰返し数。右辺は等級ごとの定数で、「200万回のとき Δσf に一致する」という条件で決まっている。つまり Δσf は曲線の位置を1点で押さえるための基準値であって、それ自体が上限値なのではない。設計繰返し数が200万回より多ければ許容値は Δσf より下がるし、少なければ上がる。

指数の3が効く。応力範囲を2割下げれば寿命は約1.95倍に伸び、逆に2割上げれば0.58倍に縮む。線形だと思って「1割くらいの誤差なら」と流すと、寿命では3割ずれている。この非線形さが疲労設計のいやらしいところで、応力の見積りに手を抜くと結果が跳ねる。

なお傾き3は直応力を受ける継手に対する値だ。1974年の初版では傾き5が使われていたが、1993年の改定で3へ改められている。この経緯は後半の豆知識セクションで触れる。式の背景をもう少し追いたい場合は、土木学会鋼構造委員会の疲労のメカニズムと疲労設計(坂野昌弘)が導出から変動振幅の扱いまで一通り載っていて読みやすい。用語そのものの整理には疲労 (材料) - Wikipediaも使える。

等級を1つ読み違えると、寿命は約半分ずれる

等級表の隣り合う行を見比べると、Δσf の比はおよそ0.77〜0.82に収まっている。E等級80に対しF等級65で0.81、F等級65に対しG等級50で0.77といった具合だ。応力範囲の比としては2割前後の差にすぎない。

ところが寿命に直すと3乗で効くので、隣接する等級の間には0.46〜0.54倍、つまりほぼ「半分」の開きが生じる。逆向きに言えば、1等級上げれば許容応力範囲が約23〜30%増え、寿命は1.8〜2.2倍に伸びる。止端をグラインダーで仕上げるという工事だけで寿命が倍になるのは、この3乗のおかげだ。

裏を返すと、等級の読み違いは致命的になりうる。「たぶんF等級だろう」で進めた継手が実はG等級だった場合、設計時に見込んだ寿命の45%しかもたない計算になる。100年もつはずが45年で、供用中に点検で見つかれば補修、見つからなければ破断という話になる。

鋼橋の疲労損傷が特定のディテールに集中するのも同じ理由だ。面外ガセットの溶接止端、垂直補剛材の上下端、カバープレートの端部といった応力集中の強い部位は、そもそも低い等級に分類されている。これらは荷重の主役ではなく「取り付けただけ」の部材であることが多く、応力計算の対象から漏れやすい。強度計算をしていない箇所ほど等級が低い、という組合せが疲労き裂を生む。

だから実務の設計思想としては、H等級のような著しく低い等級のディテール — すみ肉溶接のルート破壊、重ねガセット継手 — は、繰返し荷重を受ける部位には最初から使わないほうが早い。使ってしまってから照査すると、後述のケース6のように照査比が1を大きく超えて手戻りになる。等級の判定は「設計が終わってから確認する作業」ではなく、ディテールを描く前にやる作業だ。

実際に照査したくなるのは、この4か所

鋼橋のガセット取付部。主桁フランジに横構ガセットや対傾構ガセットを取り付ける部分。ガセット長が100mmを超えるか否かでF等級とG等級が入れ替わり、止端仕上げの有無でもう1段動く。設計変更でガセット寸法を伸ばしたとき、等級が落ちていないかを確認する用途に向く。

クレーンガーダの走行桁。ガーダは吊り荷ごとに1サイクル受けるので、稼働の激しい工場では設計繰返し数が数百万回に届く。走行レール下の補剛材まわりや、ウェブとフランジの縦方向溶接部を等級で拾っていく。

プラント架構の振動部材。ポンプ・コンプレッサ・ふるい機などに近い架構は、機械の回転数がそのまま繰返し数になる。24時間運転なら年間で数千万回に達するので、繰返し数の桁が大きい側で許容応力範囲がどこまで下がるかを見ておきたい。

機械フレームの繰返し荷重部。産業機械のフレームやアーム基部のように、溶接構造で組んで繰返し荷重を受ける部品。板厚が薄く応力範囲が高めに出やすいので、止端仕上げを1か所入れるかどうかの判断材料として使える。

基本の使い方は3ステップ

ステップ1:継手を選ぶ。まず継手グループを選ぶ(母材・非溶接/横突合せ/縦方向/十字継手の荷重非伝達型と荷重伝達型/面外ガセット/面内ガセット/カバープレート等)。グループを選ぶと下の継手ディテールの選択肢が絞り込まれるので、その中から仕上げの有無まで含めて選ぶ。選んだ時点で疲労強度等級と基本許容応力範囲 Δσf が表示される。

ステップ2:応力条件を入れる。一定振幅か変動振幅かを選ぶ。一定振幅なら応力範囲 Δσ と設計繰返し数 N を1組。変動振幅なら応力範囲と繰返し数の組を3段まで入れる(使わない段は空欄でよい)。板厚も入れておく。板厚は許容応力範囲そのものには使わず、板厚補正が必要な組合せかどうかの判定にだけ使う。

ステップ3:照査比と1等級上を見比べる。許容応力範囲 Δσa、照査応力範囲、照査比、累積損傷度 D、許容繰返し数が表示される。照査比が1.0を超えていればNG、0.8を超えていれば注意という判定になる。同じ画面に「1等級上げた場合の許容応力範囲と増加率」が出るので、止端仕上げで足りるのか、継手形式ごと変えるべきかを比べられる。両対数のS-N線図には選択等級の設計線・1等級上の設計線・設計点がプロットされる。

具体的な使用例 — 9ケースで挙動を確認する

以下はすべて実装したツールに同じ値を入れて得た出力だ。

ケース1:面外ガセット l≦100mm・非仕上げ(F等級)

入力:継手=面外ガセット l≦100mm すみ肉/開先溶接・非仕上げ、一定振幅 Δσ=60 N/mm²、N=2×10⁶回、板厚12mm。 結果:F等級・Δσf=65、Δσa=65.0 N/mm²、照査比0.923、D=0.787、許容繰返し数2,542,824回。判定は「注意」。1等級上はE等級でΔσa=80.0(+23.1%)。 解釈:設計繰返し数が基準の200万回ちょうどなので Δσa は Δσf と同じ65になる。照査比0.923は数字上は成立しているが、応力の見積りが1割甘ければ即座に1を超える位置にいる。ツールが「注意」を返すのはこの余裕の薄さを指している。

ケース2:同じ継手を止端仕上げした(E等級)

入力:ケース1の継手を「l≦100mm・止端仕上げ」に変更。他は同じ。 結果:E等級・Δσf=80、Δσa=80.0、照査比0.75、D=0.422、許容繰返し数4,740,741回。判定は「余裕」。1等級上はD等級でΔσa=100.0(+25.0%)。 解釈:グラインダーで止端を仕上げるという1工程だけで、許容応力範囲が65→80に上がり、同じ応力で持つ回数が254万回から474万回へ、1.86倍に伸びた。応力を下げるために板厚を上げるより安く済むことが多いのはこのため。

ケース3:N=2×10⁶回ちょうど・Δσ=Δσf の定義確認

入力:F等級、Δσ=65 N/mm²、N=2×10⁶回。 結果:Δσa=65.0、照査比1.000、D=1.000、許容繰返し数2,000,000回。判定は「注意」。 解釈:Δσf の定義そのものを確認するケース。「200万回に対して65 N/mm²」がそのまま返ってくる。照査比がちょうど1.0のときはNGではなく注意扱いにしてある。実装上は浮動小数の丸めで1.0000000000000002になりうるので、微小な許容誤差を入れて定義値ちょうどの入力がNGに化けないようにしてある。

ケース4:応力範囲を5だけ上げるとNGになる

入力:F等級、Δσ=70 N/mm²、N=2×10⁶回。 結果:Δσa=65.0、照査比1.077、D=1.249、許容繰返し数1,601,312回。判定はNG。 解釈:ケース3から応力範囲を65→70へ、たった7.7%上げただけで累積損傷度は1.0から1.249へ25%増える。持つ回数は200万回から160万回に落ちる。3乗の効き方が体感できるケース。

ケース5:縦方向すみ肉溶接(D等級)で繰返し数が500万回

入力:継手=縦方向すみ肉溶接継手、Δσ=70 N/mm²、N=5×10⁶回、板厚16mm。 結果:D等級・Δσf=100、Δσa=73.68 N/mm²、照査比0.95、D=0.857、許容繰返し数5,830,904回。判定は「注意」。1等級上はC等級でΔσa=92.1(+25.0%)。 解釈:Δσf は100あるのに、繰返し数が基準の2.5倍あるため許容値は73.68まで下がる。「等級表の数値をそのまま上限だと思って設計する」と危ないことがよく分かる例。

ケース6:荷重伝達型十字継手のルート破壊(H等級)

入力:継手=すみ肉溶接・ルート破壊(のど断面で照査)、Δσ=46.1 N/mm²、N=3.29×10⁶回、板厚10mm。 結果:H等級・Δσf=40、Δσa=33.88 N/mm²、照査比1.36、D=2.518、許容繰返し数1,306,493回。判定はNG。1等級上はG等級でΔσa=42.36(+25.0%)。 解釈:これは日本橋梁建設協会の鋼道路橋の疲労設計計算例と同条件で入れたケース。公表されている値は N=1.31×10⁶回・D=2.51 で、本ツールの出力(1,306,493回・2.518)と一致する。応力範囲46.1という一見おとなしい数字でも、H等級では損傷度が2.5に達する。ルート破壊は母材板厚ではなくのど断面で照査する点にも注意が要る(のど厚が薄い分だけ応力が上がるので、換算した応力範囲を入れる)。

ケース7:最上位のA等級でもNGになることはある

入力:継手=帯板・表面および端面を機械仕上げ、Δσ=120 N/mm²、N=1×10⁷回、板厚20mm。 結果:A等級・Δσf=190、Δσa=111.11 N/mm²、照査比1.08、D=1.26、許容繰返し数7,938,657回。判定はNG。1等級上は無し(A等級が最上位)。 解釈:繰返し数が1000万回になると、A等級でも許容値は190から111まで落ちる。等級を上げる余地がもう無いので、対策は応力範囲を下げる方向しかない。「等級を上げれば何とかなる」が通用しない領域があることを示すケース。

ケース8:変動振幅3段(裏当て金付き縦継手・E等級)

入力:継手=裏当て金付き溶接継手、変動振幅で (Δσ=120, n=1,000)(Δσ=60, n=50,000)(Δσ=30, n=200,000)、板厚12mm。 結果:ΣN=251,000回、等価応力範囲 Δσe=41.49 N/mm²、Δσa=159.79 N/mm²、照査比0.26、D=0.018。判定は「余裕」。 解釈:最大の応力範囲は120あるが、その回数が1,000回しかないため等価応力範囲は41.49に落ち着く。一方で総繰返し数が25万回と少ないので許容応力範囲は159.79まで上がり、結果として損傷度は0.018にとどまる。「たまに大きな荷重が入るが総回数は少ない」タイプの部材が、直感より遥かに余裕を持つことが分かる。

ケース9:板厚30mmの非仕上げ十字継手(板厚補正の警告)

入力:継手=荷重伝達型十字継手・非仕上げのすみ肉溶接・止端破壊、Δσ=50 N/mm²、N=2×10⁶回、板厚30mm。 結果:F等級・Δσf=65、Δσa=65.0、照査比0.769、D=0.455。判定は「余裕」だが、板厚補正が必要な組合せである旨の警告が表示される。 解釈:板厚が25mmを超える非仕上げ十字継手とカバープレート継手には、鋼道路橋の疲労設計指針で板厚に関する補正係数が要求される。本ツールはこの係数を計算していないので、警告が出たケースでは指針の表で低減してから判断する必要がある。板厚25mm以下なら補正係数は1.00で、警告も出ない。

仕組み・アルゴリズム — 変動振幅をどう1本の照査に畳むか

手法の比較:累積損傷度方式か、等価応力範囲方式か

変動振幅の照査には2つの流儀がある。

(a) 累積損傷度方式。応力範囲の各成分について寿命 Ni を求め、D = Σ(ni / Ni) を足し上げて1と比べる。マイナー則そのもので、成分ごとの寄与が見える利点がある。

(b) 等価応力範囲方式。頻度分布を1つの等価応力範囲 Δσe に畳んでから、許容応力範囲と1回だけ比べる。

このツールは (b) を主に据えた。理由は照査の出口が「許容応力範囲を超えたか」という1本の比較に揃うからだ。一定振幅モードと変動振幅モードで見る指標が変わらないので、モードを切り替えても読み方を切り替えなくていい。

とはいえ (a) の答えを捨てたわけではない。等価応力範囲方式では損傷度が照査比の3乗と恒等的に一致するので、両者は別の情報ではない。

D = Σ(ni/Ni) = Σ(ni·Δσi³) / (2×10⁶·Δσf³) = ΣN·Δσe³ / (2×10⁶·Δσf³) = (Δσe/Δσa)³

そこで実装では D を独立に足し上げず、照査比の3乗として1か所で導いている。同じ量を2通りに計算すると丸めの違いで「照査比は0.999なのに D は1.001」という食い違いが起きうるが、導出を1本にしておけば構造的に起きない。

計算フロー

// 1. 継手ディテールから等級と基本許容応力範囲を表引き
const detail = JOINT_DETAILS.find((d) => d.id === detailId);
// grade = detail.grade, deltaSigmaF = detail.deltaSigmaF

// 2. 応力条件を1組(ΣN, 照査応力範囲)に畳む
//    一定振幅  : ΣN = N,   照査応力範囲 = Δσ
//    変動振幅  : ΣN = Σni, 照査応力範囲 = Δσe = (Σ(ni·Δσi³) / Σni)^(1/3)

// 3. 設計繰返し数に対する許容応力範囲
//    Δσa = Δσf × (2×10⁶ / ΣN)^(1/3)

// 4. 照査比・損傷度・許容繰返し数
//    ratio = 照査応力範囲 / Δσa
//    D     = ratio³
//    N_allow = 2×10⁶ × (Δσf / 照査応力範囲)³

// 5. 1等級上(等級のはしごを1つ遡って同じ式に入れる)
//    増加率は Δσf の比だけで決まるので ΣN によらない

判定は照査比1つから決めている。1.0を超えたらNG、0.8を超えたら注意、それ以外は余裕。この判定結果を1つの値として持ち回り、判定表示・S-N線図の設計点の色・警告の出し分けをすべて同じ値から引いている。閾値の比較には微小な許容誤差を足してあり、ケース3のような定義値ちょうどの入力が丸め誤差でNG側へ落ちないようにしてある。

計算例:ケース8の変動振幅3段を手で追う

E等級(Δσf=80)に (120, 1,000)(60, 50,000)(30, 200,000) が入る場合。

ΣN = 1,000 + 50,000 + 200,000 = 251,000 回

Σ(ni·Δσi³)
 = 1,000×120³ + 50,000×60³ + 200,000×30³
 = 1.728×10⁹ + 1.08×10¹⁰ + 5.40×10⁹
 = 1.7928×10¹⁰

Δσe = (1.7928×10¹⁰ / 251,000)^(1/3)
    = (71,426.3)^(1/3) = 41.49 N/mm²

Δσa = 80 × (2×10⁶ / 251,000)^(1/3)
    = 80 × 1.9973 = 159.79 N/mm²

照査比 = 41.49 / 159.79 = 0.26
D      = 0.26³ = 0.018

大きい成分120が全体の何を決めているかは、上の内訳を見れば分かる。回数は全体の0.4%しかないのに、損傷への寄与は 1.728/17.928 で約10%を占めている。3乗で重み付けされるので、稀な大波を「回数が少ないから」と切り捨てると結果が変わる。

なお、指針には一定振幅疲労限 Δσce と変動振幅打切り限界 Δσve という概念があり、これを下回る成分は損傷に算入しないという簡略化が認められている。ただし公開資料から等級ごとの値を確認できたのはE等級(Δσce=62・Δσve=29)、F等級(Δσce=46)、H等級(Δσce=23・Δσve=11)などに限られ、C・D・G等級の値が埋まらなかった。表として実装できない以上、このツールは全成分を等価応力範囲に算入している。切り捨てないほうが損傷を大きく見積もる側、つまり安全側に倒れるので、実務で困る向きの近似ではない。

他の強度計算ツールとの違い — 入口と出口が逆を向いている

このサイトには疲労を扱うツールがすでにあり、そのプリセットに JSSC の等級が並んでいる。ただし前半で書いたとおり、そこには「で、自分の継手は何等級なのか」を決める段が無かった。本ツールはその一段だけを担当する。

ツール入口出口
溶接継手 疲労等級・許容応力範囲 判定ツール(本ツール)継手のディテール(42種)疲労強度等級と、設計繰返し数 N に対する許容応力範囲 Δσa
疲労寿命シミュレーター応力範囲 Δσ + 等級(または材料の S-N 曲線)推定寿命 N・安全率・累積損傷度
溶接強度計算シミュレーター静的な設計荷重と溶接寸法のど断面の応力・許容荷重・安全率
隅肉溶接 必要脚長 設計計算静的な設計荷重必要な脚長
応力集中係数Kt計算切欠き形状の寸法比応力集中係数 Kt

いちばん近いのが疲労寿命シミュレーターで、あちらは材料ベース(S-N曲線・修正グッドマン/ソダーバーグ線図・平均応力)と疲労等級ベースの2系統を切り替えて使う。等級ベース側には JSSC の A〜H 8等級と IIW FAT の7区分が最初から内蔵されている。つまりあちらは等級を 知っている前提 で、応力範囲 Δσ を入れて寿命 N を出すツール。本ツールは継手の形から その等級を決めて、設計繰返し数 N に対する許容応力範囲 Δσa を出すツール。Δσ→N と N→Δσa で、矢印が逆向きになっている。

どちらか片方だけでは設計が閉じない。等級が分からなければ寿命は出せないし、等級だけ分かっても「この応力範囲で通るのか」の答えにはならない。実務の順序としては本ツールが先で、等級を確定させてから寿命側を詰めるのが自然だ。

静的強度のツールとは軸そのものが違う。溶接強度計算シミュレーターと隅肉溶接 必要脚長 設計計算は、のど断面が荷重を持つかどうかを見るもので、繰返し数という概念が入っていない。静的な照査に余裕があっても、繰返しが効く部材では許容応力範囲のほうが先に効く。

応力集中係数Kt計算も別軸だ。Kt は切欠き底の局部応力を公称応力から推定する係数だが、疲労強度等級は公称応力ベースで組まれていて、溶接止端の応力集中は等級の中にすでに織り込まれている。等級で照査したうえに Kt を掛けると二重評価になる。Kt が効くのは母材のフィレットや孔など、溶接以外の切欠きのほうだ。

傾き5から3へ — 疲労設計指針は書き換えられてきた文書

JSSC「鋼構造物の疲労設計指針・同解説」の1974年版は、S-N曲線の傾きを 5 としていた。今の3ではない。1993年版の改定で3に改められ、その根拠になったのが名古屋大学の山田健太郎研究室で作られ、川崎製鉄が補充した疲労試験データベースだった。指針でいちばん基本的なパラメータが、実験データの蓄積によって書き換えられている。

同じ1993年版では「変動振幅応力下の応力範囲の打切り限界」という概念が新しく採用された。三木先生のアイデアで、具体的な数値は関西大学の坂野先生が検討したという。改定委員会は KJ法でブレーンストーミングをまとめるところから始まった、という回想が川田技報に残っている。規格の条文は天下り的に降ってくるものだと思いがちだけれど、実態は付箋を貼って議論の塊を作る作業だった。

継手の格付けも動いている。荷重伝達型十字継手の止端破壊は、1974年版では荷重非伝達型と同じ等級に置かれていた。その後、伝達型のほうが溶接止端の応力集中が高いことが実験と FEM で確かめられ、非伝達型の一等級下に改められた。本ツールの表にもその関係がそのまま残っていて、非仕上げのすみ肉溶接どうしで比べると、荷重非伝達型が E等級(Δσf=80 N/mm²)、荷重伝達型の止端破壊が F等級(Δσf=65 N/mm²)になっている。同じ形に見える十字継手でも、力が板を通り抜けるのか止まるのかで格付けが1つずれる。

疲労設計指針は固定された物理法則ではなく、試験データの蓄積に合わせて書き換えられてきた文書だ。古い資料から等級表を引き写すときは、何年版のどの指針が出典なのかを確認する意味がある。本ツールが採用しているのは傾き3・A〜H等級の体系で、この改定の後の姿にあたる。

Tips

止端仕上げは「3R以上」でないと等級は上がらない

日本橋梁建設協会と法政大学の共同研究では、止端部を半径3R以上に仕上げれば1等級(F→E)、5R以上なら2等級(F→D)向上する試験結果が得られている。裏を返せば、削っただけでは上がらない。安易なグラインダー掛けは応力方向に直交する鋭い残存傷や、溶接止端ラインの残った部分を作り、そこが疲労き裂の起点になって逆に強度を落とすことがある。推奨されるのはディスクタイプではなく超硬バー(円筒・球・つくし型)。仕上げ版のディテールを選ぶ前に、現物がその仕上げになるのかを確認してほしい。参考: 溶接構造物の疲労設計(溶接学会誌/JWES)

Δσ は「振幅」ではなく「幅」

応力範囲は最大応力と最小応力の差であって、片振幅 σa ではない。片振幅を入れると照査比が半分になり、許容値を2倍甘く見ることになる。応力解析の出力が振幅で出ているなら、2倍してから入力する。

ルート破壊はのど断面で照査する

荷重伝達型十字継手のルート破壊は、母材の板厚ではなく、のど断面に対して照査する。のど厚が母材より薄い分だけ応力が上がるので、換算した応力範囲を入力すること。本ツールでルート破壊のディテールを選ぶと、この旨の注記が付く。

1等級上げたときの得は繰返し数によらない

許容応力範囲の増加率は基本許容応力範囲 Δσf の比だけで決まるので、設計繰返し数をいくつにしても%は動かない。F→E なら常に +23.1%、E→D と D→C なら +25.0% だ。具体的な効き方は使用例の面外ガセットのケースを見てほしい。

よくある質問

板厚補正はなぜ入っていないの?

鋼道路橋の疲労設計指針で板厚に関する補正係数 Ct が要求されるのは、板厚25mmを超える 非仕上げの十字溶接継手(荷重伝達型・荷重非伝達型) と、カバープレートをすみ肉溶接で取り付けた継手 に限られる。t≦25mm なら Ct=1.00 なので、多くのケースでは補正そのものが不要になる。本ツールは対象の継手形式かつ板厚25mm超という組合せを選んだときに警告を出すが、係数そのものは計算していない。母材板厚と付加板厚の両方が関わる算定式を公開一次資料で確認できなかったためで、該当したら指針の表で低減してから判断してほしい。

打切り限界を使った無限寿命判定はできないの?

できない。一定振幅打切り限界 Δσce は等級ごとに指針の表で与えられているが、公開資料から確認できたのは下の範囲だけだった。

等級ΔσfΔσce(一定振幅)Δσve(変動振幅)
A190190(Δσf と同一)
B155155(Δσf と同一)
E806229
F6546
H402311

単位はいずれも N/mm²。「—」は公開資料から確認できなかったもので、C・D・G等級は Δσce ごと欠けている。等級によって使えたり使えなかったりする機能になるので、実装を見送った。なお変動振幅の打切り限界は一定振幅疲労限のおよそ0.46倍(Δσve/Δσce ≈ 0.46)で、上の E等級と H等級の数値もこの比とおおむね合う。本ツールは打切りを使わず、小さい応力範囲の成分も全部まとめて等価応力範囲に算入している。無限寿命として切り捨てないぶん安全側に出る。

入力した値はどこかに送信される?

送信しない。等級の表引きも許容応力範囲の計算も、すべてブラウザの中で完結する JavaScript で動いている。継手のディテール・応力範囲・繰返し数・板厚のいずれもサーバーへ送っていないし、保存もしていない。実務の設計値をそのまま入れても外へ出ることはない。結果を残したいときはコピー用テキストを出力できるので、手元の計算書に貼り付けてほしい。ページを閉じれば入力内容は消えるので、共用PCで使ったあとに残るものも無い。

疲労寿命シミュレーターとどちらを使えばいい?

継手の形は決まっていて「何等級か」「許容応力範囲はいくつか」を知りたいなら本ツール。等級がすでに決まっていて、寿命や累積損傷度を出したいなら疲労寿命シミュレーター。順番としては本ツール → 疲労寿命シミュレーターになる。こちらで継手ディテールから等級を確定させ、その等級を持って向こうで寿命側を詰める流れだ。変動振幅の扱いは、あちらで JSSC 等級を選んだ場合と考え方が揃う(一定振幅疲労限 CAFL 以下も勾配 m=3 のまま延長して損傷に数える)。ただし向こうは打切り限界(CAFL のおよそ0.46倍)以下を寄与ゼロにしているのに対し、本ツールは打切りを一切使わず全成分を等価応力範囲に算入する。IIW FAT を選ぶと CAFL 以下で勾配が寝るぶん、さらに結果がずれる点も頭に置いてほしい。

継手の形が選択肢のどれにも当てはまらないときは?

近い形状のうち、より低い等級(許容応力範囲の小さいほう)を選んでおくのが安全側の扱いになる。本ツールが持っている42種は、指針の表から実務で頻出するものを抜き出したもので、表そのものはもっと細かい。等級の判定には継手ディテールの形状解釈がどうしても入り、仕上げの程度・アンダーカットの有無・欠陥の大きさによっては指針の適用条件を外れることもある。ツール側にも常時その旨の注記を置いてあるが、最終判断は設計者が行うことになる。判断がつかない継手は、指針の表そのものに当たってほしい。

まとめ

継手のディテールを選べば疲労強度等級と基本許容応力範囲 Δσf が決まり、設計繰返し数を入れれば許容応力範囲 Δσa・照査比・累積損傷度まで一息で出る。等級さえ決まれば残りは掛け算なので、いちばん時間を食う「この継手は何等級か」の表引きに集中できる。

出た等級を持って寿命側を詰めるなら疲労寿命シミュレーターへ。静的な強度が先に効く部材は溶接強度計算シミュレーター隅肉溶接 必要脚長 設計計算、溶接以外の切欠きが気になるなら応力集中係数Kt計算を併せて使ってほしい。

判定に違和感がある、このディテールを追加してほしい、といった要望はお問い合わせページから送ってほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。疲労寿命シミュレーターに JSSC 等級のプリセットを入れておきながら、肝心の『この継手は何等級か』をツールの外に丸投げしていたことに気づいて作った。継手42種の表引きと、止端仕上げで許容値が何%得するかの比較だけに絞ってある。

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