「この溶接、いくらかかる?」に即答できる現場は強い
見積り担当に「V開先20mm、5mで総額いくら?」と聞かれたとき、3秒で答えられるだろうか。ワイヤ代は何となく出せても、ガス代とアーク時間と段取りを積み上げた労務費まで含めると、途端に電卓の手が止まる。
溶接コストの見積りは「材料費だけ」で済ませがちだ。ワイヤ単価×重量で出した数字を見積書に書いて、労務費は「一式」。これで受注すると、実際の施工で工数が膨れ上がり、粗利が吹き飛ぶ。特に被覆アーク(SMAW)と半自動(GMAW)ではアーク時間が2倍以上違うから、溶接法の選択だけで工事費の30〜50%が変動する。
このツールは、継手形状と溶接法を選ぶだけで材料費・労務費・総コスト・メートル単価を積み上げ計算する。断面積からパス数を推定し、溶加材重量・ガス消費量・アーク時間を経て、円単位の見積りまで一気通貫で出す。スマホでも現場でサッと叩ける。
なぜ作ったのか — 材料費だけで見積もる落とし穴
きっかけは施工管理をやっている知人の愚痴だった。「ワイヤ代は計算できるんだけど、工数を足すと毎回赤字になる。どこで計算が狂ってるのか分からない」。
聞いてみると、見積り段階では溶加材の重量と単価だけで材料費を出し、労務費は「過去案件の坪単価」から類推していた。問題は、過去案件がGMAWだったのに今回はSMAWだったこと。同じ断面積でもSMAWはパス数が1.5倍、溶接速度は6割、段取り込みの作業時間は2.5倍になる。材料費の差よりも労務費の差のほうが圧倒的に大きいのに、そこが見えていなかった。
自分でも「溶接 コスト 計算」「溶接 費用 見積もり」で検索してみた。ヒットするのはメーカーの歩掛表PDF、英語のサブスク型ソフト、あるいは「溶接工の日当×日数」で概算するブログ記事ばかり。継手形状から断面積を出し、プロセスごとのパラメータで材料費と労務費を積み上げ、メートル単価まで一発で出すWebツールは見つからなかった。
Excelで自作するにしても、V開先の断面積計算でtan関数の引数に度とラジアンを取り違えるバグは定番だし、プロセスを切り替えるたびにセル参照を書き換える手間がある。それなら、継手タイプを切り替えると入力欄ごと切り替わるUIにして、プロセス選択でデフォルト単価が自動セットされる仕組みにすればいい。
試作版を溶接歴20年の職人に見せたところ、「段取り係数1.5は妥当だね。アーク時間だけで見積もると確実に足りなくなる」と太鼓判を押してもらった。テストベクトルを複数用意し、手計算と突き合わせて精度を確認してから公開に踏み切った。
溶接コストの構造 — 材料費・労務費の2層を理解する
溶接コスト計算とは
溶接工事のコストは、大きく分けて材料費と労務費の2層で構成される。間接費(機械減価償却、電力、管理費)を加えれば3層になるが、見積りの第一歩としてはまず材料費と労務費を押さえることが重要だ。
たとえるなら、料理のコスト計算に似ている。食材費(材料費)だけで料理の値段を決めたら、調理時間3時間のフレンチと15分の炒め物が同じ値段になってしまう。調理にかかる人件費(労務費)を加えて初めて、メニューの原価が見える。溶接も同じで、ワイヤ代だけでは全体像の半分しか見えていない。
材料費の内訳
材料費は溶加材費とガス費に分かれる。
材料費 = 溶加材費 + ガス費
溶加材費 = 溶加材重量 [kg] × 単価 [円/kg]
ガス費 = ガス消費量 [m³] × 単価 [円/m³]
溶加材重量は、開先やのど厚の断面積に溶接長と鋼の密度を掛け、さらにロス率(スパッタ・スタブエンド等)を加算して求める。SMAWではロス率20%(歩留まり80%相当)、GMAWでは15%、FCAWでは18%が標準的な値だ。JIS Z 3604の溶接技能者試験でも、これらの標準値が参照されている。
ガス消費量はシンプルで、ガス流量 [L/min] × アーク時間 [min] で算出する。SMAWはシールドガスを使わないので0になる。
労務費の内訳
労務費 = 作業時間 [h] × 労務単価 [円/h]
作業時間 = アーク時間 [min] / 60 × 段取り係数(1.5)
アーク時間 = パス数 × (溶接長 [m] × 1000) / 溶接速度 [mm/min]
ここで重要なのが段取り係数だ。実際の溶接作業では、アークを出している時間(アーク時間)以外にも、スラグ除去・層間温度待ち・治具調整・姿勢変更などの段取りが発生する。国内の溶接施工実績では、アーク時間に対して1.5倍が標準的な実作業時間とされている。つまり、アーク時間が2時間なら、実際には3時間の拘束になるということだ。
断面積の計算
断面積は継手タイプによって式が異なる。
V形開先(突合せ溶接):
断面積 = (t - f)² × tan(α/2) + g × t [mm²]
t: 母材板厚 [mm]
f: ルートフェイス [mm]
α: 開先角度(全角度)[°]
g: ルートギャップ [mm]
隅肉溶接:
断面積 = 0.5 × leg² [mm²]
leg: 脚長 [mm]
V形開先の式は、板厚からルートフェイスを引いた高さの直角三角形(開先の片側)の面積に、ルートギャップ部分の矩形面積を足した形だ。tan(α/2)は片側の開先角度の正接で、ラジアン変換を忘れると全く違う値になる。これがExcel自作で起きる最も多いバグだ。
パス数の推定
パス数 = ceil(断面積 / 1パスあたり断面積)
1パスあたりの断面積はプロセスによって異なる。SMAWは約20mm²、GMAWは約30mm²、FCAWは約28mm²。厚板のV開先では断面積が200mm²を超えることもあり、GMAWでも7〜8パス、SMAWなら10パス以上の多層盛りになる。
コスト管理の実務的な重要性
溶接法の選択がコストの半分を決める
同じ継手を溶接するにも、SMAWとGMAWでは総コストが大きく変わる。板厚20mmのV形開先を5m溶接する場合、GMAWなら総コスト約32,500円だが、SMAWだと約58,500円まで跳ね上がる。その差は約26,000円、1.8倍だ。
この差の大半は労務費から来ている。SMAWは溶接速度が遅く(150mm/min vs 250mm/min)、1パスあたりの断面積も小さい(20mm² vs 30mm²)ため、パス数が増えてアーク時間が膨れる。材料費の差よりも、工数の差のほうが圧倒的にインパクトが大きい。
見積り精度と利益率の関係
溶接工事の材料費+労務費は、鉄骨製作の総原価の15〜25%を占めるとされる。ここを「一式」で丸めると、受注後に原価管理が破綻する。ある鉄骨工場の実例では、見積りで材料費だけ積み上げて労務費を「前回並み」で入れたところ、SMAW主体の案件でアーク時間が想定の2倍に膨れ、粗利率が5%から-3%に転落した。
建築鉄骨工事技術指針でも、溶接工事の施工計画には溶接法の選定とコスト比較を含めることが推奨されている。VE(バリューエンジニアリング)提案で「SMAWからGMAWへの切替で工期20%短縮・コスト30%削減」といった具体的な数字を出せると、施主への説得力が段違いになる。
発注ミスが工程を止める
溶加材の発注量を見誤ると、現場で材料切れが発生する。GMAWのワイヤリール(15kg)が1本足りないだけで、半日の待機ロスが生まれる。逆に過剰発注すれば在庫スペースを圧迫し、低水素系の材料は吸湿して使えなくなるリスクもある。コスト計算は「いくらかかるか」だけでなく「何をどれだけ発注するか」の根拠でもある。
活躍する場面
施工見積りの作成 — 継手形状と溶接長を入力するだけで、材料費・労務費・総コストが積み上がる。見積書の「溶接工事」欄に根拠のある数字を書ける。
VE提案(溶接法の比較) — 同じ継手条件でSMAW・GMAW・FCAWを切り替えて、コスト差を即座に比較できる。施主やゼネコンへの代替案提示に使える。
発注量の算出 — 溶加材重量とガス消費量が出るので、ワイヤのリール本数やガスボンベの必要数に換算できる。溶加材消費量ツールやシールドガス消費量ツールと併用すると精度が上がる。
新人教育・工数感覚の養成 — パス数やアーク時間が可視化されるので、「なぜGMAWのほうが安いのか」を数字で説明できる。
基本の使い方
- 継手条件を入力 — 突合せ(開先)か隅肉かを選択する。突合せなら板厚・開先角度・ルートギャップ・ルートフェイスを入力。隅肉なら脚長のみ
- 溶接法と長さを設定 — SMAW・GMAW・FCAWから選ぶとデフォルトの溶加材単価とガス単価が自動セットされる。溶接長を入力し、必要に応じて単価を自社実績に書き換える
- コストを確認 — 断面積・パス数・溶加材重量・ガス消費量・材料費・労務費・総コスト・メートル単価が即座に表示される。コピーボタンで見積書に貼り付け可能
具体的な使用例・検証データ
ケース1: V形開先 t=20mm / GMAW / 5m(鉄骨柱梁の突合せ)
鉄骨造の柱梁接合部、板厚20mmのV形開先を半自動(GMAW)で施工する標準的なケース。
- 入力: 突合せ、板厚20mm、開先角度60°、ギャップ2mm、フェイス2mm、GMAW、溶接長5m、ワイヤ単価600円/kg、ガス単価2,000円/m³、労務単価5,000円/h
- 結果: 断面積 227.1mm² / パス数 8 / 溶加材重量 10.25kg / 溶加材費 6,149円 / ガス消費 3.20m³ / ガス費 6,400円 / 材料費計 12,549円 / アーク時間 160min / 作業時間 4.00h / 労務費 20,000円 / 総コスト 32,549円 / メートル単価 6,510円/m
- 解釈: 5mの溶接で約3.3万円。材料費と労務費がほぼ4:6の比率で、労務費が主要コストだと分かる。ワイヤは15kgリール1本で足りる
ケース2: 隅肉 leg=7mm / SMAW / 2m(小規模補修の手棒施工)
既設鉄骨の補修溶接を被覆アーク溶接棒で施工するケース。現場にGMAW設備が無い場合に多い。
- 入力: 隅肉、脚長7mm、SMAW、溶接長2m、ワイヤ単価800円/kg、労務単価5,000円/h
- 結果: 断面積 24.5mm² / パス数 2 / 溶加材重量 0.462kg / 溶加材費 369円 / ガス消費 0 / ガス費 0円 / 材料費計 369円 / アーク時間 27min / 作業時間 0.67h / 労務費 3,333円 / 総コスト 3,702円 / メートル単価 1,851円/m
- 解釈: 材料費はわずか369円だが、労務費が3,333円で全体の9割を占める。SMAWの小規模施工は人件費がほぼ全コストだ
ケース3: V形開先 t=20mm / SMAW / 5m(ケース1と同条件でSMAW)
ケース1と同じ継手をSMAWで施工した場合。GMAWとの直接比較で溶接法の選択がコストに与える影響が見える。
- 入力: 突合せ、板厚20mm、開先角度60°、ギャップ2mm、フェイス2mm、SMAW、溶接長5m、ワイヤ単価800円/kg、労務単価5,000円/h
- 結果: 断面積 227.1mm² / パス数 12 / 溶加材重量 10.70kg / 溶加材費 8,556円 / ガス消費 0 / ガス費 0円 / 材料費計 8,556円 / アーク時間 400min / 作業時間 10.00h / 労務費 50,000円 / 総コスト 58,556円 / メートル単価 11,711円/m
- 解釈: GMAWの32,549円に対してSMAWは58,556円、約1.8倍。パス数は8→12、アーク時間は160min→400minと2.5倍に膨れる。ガス代がゼロでも労務費の差が圧倒的。VE提案で「GMAW切替により約45%コスト削減」と具体数字を出せる
ケース4: 隅肉 leg=6mm / FCAW / 10m(造船ブロックの長尺隅肉)
造船や大型構造物で使われるフラックス入りワイヤ(FCAW)による長尺隅肉の積算。
- 入力: 隅肉、脚長6mm、FCAW、溶接長10m、ワイヤ単価700円/kg、ガス単価2,000円/m³、労務単価5,000円/h
- 結果: 断面積 18.0mm² / パス数 1 / 溶加材重量 1.67kg / 溶加材費 1,167円 / ガス消費 0.78m³ / ガス費 1,565円 / 材料費計 2,732円 / アーク時間 43min / 作業時間 1.09h / 労務費 5,435円 / 総コスト 8,167円 / メートル単価 817円/m
- 解釈: 脚長6mmなら1パスで完了し、10mでも総コスト約8,200円とリーズナブル。FCAWはGMAWよりロス率がやや高いが、溶接速度が速いため薄肉隅肉では経済的だ
ケース5: V形開先 t=12mm / GMAW / 3m(中板配管の突合せ)
プラント配管の突合せ溶接、板厚12mmの中板ケース。
- 入力: 突合せ、板厚12mm、開先角度45°、ギャップ3mm、フェイス1mm、GMAW、溶接長3m、ワイヤ単価600円/kg、ガス単価2,000円/m³、労務単価5,000円/h
- 結果: 断面積 86.1mm² / パス数 3 / 溶加材重量 2.33kg / 溶加材費 1,399円 / ガス消費 0.72m³ / ガス費 1,440円 / 材料費計 2,839円 / アーク時間 36min / 作業時間 0.90h / 労務費 4,500円 / 総コスト 7,339円 / メートル単価 2,446円/m
- 解釈: 板厚12mmなら3パスで済み、3mの短尺でも1時間以内に完了。メートル単価2,446円はケース1の6,510円の約4割で、板厚の差がコストにそのまま反映されている
ケース6: 隅肉 leg=10mm / GMAW / 8m(厚肉ブラケットの脚長大)
柱脚ベースプレートやブラケットなど、脚長が大きい隅肉溶接。
- 入力: 隅肉、脚長10mm、GMAW、溶接長8m、ワイヤ単価600円/kg、ガス単価2,000円/m³、労務単価5,000円/h
- 結果: 断面積 50.0mm² / パス数 2 / 溶加材重量 3.61kg / 溶加材費 2,167円 / ガス消費 1.28m³ / ガス費 2,560円 / 材料費計 4,727円 / アーク時間 64min / 作業時間 1.60h / 労務費 8,000円 / 総コスト 12,727円 / メートル単価 1,591円/m
- 解釈: 脚長が7mm→10mmに増えると断面積は24.5→50.0mm²とほぼ倍増し、パス数も増える。「脚長を1サイズ上げる」コストインパクトを事前に把握できる
仕組み・アルゴリズム
候補手法の比較
溶接コストの見積り手法には大きく2つのアプローチがある。
- 実績単価法 — 過去案件のデータから「隅肉6mm×1mあたり○○円」のような単価表を作り、溶接長を掛けて総額を出す方法。現場の実績に裏打ちされた数字が出る反面、非標準条件(板厚変更、プロセス切替)に対応できず、単価表のメンテナンスコストが高い。
- 積み上げ法 — 継手形状から断面積を幾何計算し、プロセスパラメータで溶着量→時間→コストを段階的に積み上げる方法。任意条件に対応できるが、歩留まり係数や段取り係数の精度が結果を左右する。
本ツールは積み上げ法を採用した。Webツールとして任意の継手条件を受け付ける以上、柔軟性が最優先だ。ただし、各係数(ロス率・段取り係数・溶接速度)は業界標準値をデフォルトにセットし、テストベクトルで手計算との一致を確認している。
実装詳細 — 計算フロー
計算は以下の5ステップで進む。
// Step 1: 断面積
const area = jointMode === "fillet"
? 0.5 * leg * leg // 隅肉
: (t - f) ** 2 * Math.tan(alpha / 2 * Math.PI / 180) // V形開先(三角部)
+ g * t; // +ルートギャップ矩形
// Step 2: パス数
const passCount = Math.ceil(area / singlePassArea);
// Step 3: 溶加材重量(ロス込み)
const fillerWeight = area * 1e-6 * L * 7850 * (1 + lossFactor);
// Step 4: アーク時間 → ガス消費量
const arcTimeMin = passCount * (L * 1000) / travelSpeed;
const gasVolume = gasFlow * arcTimeMin / 1000; // [m³]
// Step 5: コスト積み上げ
const fillerCost = fillerWeight * wirePrice;
const gasCost = gasVolume * gasPrice;
const laborHours = arcTimeMin / 60 * 1.5; // 段取り係数
const laborCost = laborHours * laborRate;
const totalCost = fillerCost + gasCost + laborCost;
ポイントは3つある。まず、V形開先の断面積計算でtan関数に渡す角度は全角度の半分をラジアン変換する(alpha / 2 * Math.PI / 180)。度のまま渡すとJavaScriptのMath.tanが壊れた値を返す。次に、ロス率は「盛金重量に対する上乗せ」として掛けている(1 + lossFactor)。SMAWの0.20は「盛金に対して20%増しのワイヤが必要」を意味する。最後に、アーク時間にパス数を掛けている点。同じ溶接長でもパス数が増えればトーチの往復回数が増え、アーク時間はパス数に比例して伸びる。
計算例: ケース1(V形開先 t=20mm / GMAW / 5m)をステップで追う
条件: t=20mm, α=60°, g=2mm, f=2mm, GMAW, L=5m
singlePassArea=30mm², travelSpeed=250mm/min, lossFactor=0.15
wirePrice=600円/kg, gasFlow=20L/min, gasPrice=2000円/m³, laborRate=5000円/h
Step 1: area = (20-2)² × tan(30°) + 2×20
= 324 × 0.5774 + 40
= 187.1 + 40 = 227.1 mm²
Step 2: passCount = ceil(227.1 / 30) = ceil(7.57) = 8
Step 3: fillerWeight = 227.1 × 1e-6 × 5 × 7850 × 1.15
= 227.1 × 0.000001 × 5 × 7850 × 1.15
= 10.25 kg
Step 4: arcTimeMin = 8 × (5 × 1000) / 250 = 8 × 20 = 160 min
gasVolume = 20 × 160 / 1000 = 3.20 m³
Step 5: fillerCost = 10.25 × 600 = 6,149円
gasCost = 3.20 × 2000 = 6,400円
laborHours = 160 / 60 × 1.5 = 4.00 h
laborCost = 4.00 × 5000 = 20,000円
totalCost = 6,149 + 6,400 + 20,000 = 32,549円
costPerMeter = 32,549 / 5 = 6,510円/m
この計算フローをすべてブラウザ内のJavaScriptで実行している。外部APIは一切呼ばず、入力値が変わった瞬間に再計算されるリアクティブな設計だ。プロセスを切り替えるとsinglePassArea・travelSpeed・lossFactor・gasFlowが一括で変わるので、SMAW↔GMAW↔FCAWの比較がワンタップで完了する。
Excel見積りや単品ツールとの違い — 溶接コスト計算の差別化ポイント
溶接コストを見積もる手段は他にもある。Excelテンプレート、メーカー提供の簡易計算ソフト、あるいは単機能の溶加材消費量ツール。それぞれとの違いを整理してみよう。
Excelテンプレートとの比較
Excel見積りの最大の問題は「数式がブラックボックス化する」こと。作成者が異動した瞬間にメンテナンス不能になる。本ツールは開先断面積の幾何計算からパス数推定、材料費・労務費の積み上げまでロジックが透明で、入力を変えれば即座に結果が変わる。属人化とは無縁だ。
単機能ツールとの比較
溶加材消費量計算ツールは「ワイヤが何kg必要か」を精密に出す。シールドガス消費量計算ツールは「ガスが何m³いるか」に特化している。どちらも優秀だが、コストまでは出してくれない。本ツールは材料量の算出から単価を掛けて金額に変換し、さらに労務費を加えて総コストまで一気通貫で積み上げる。溶加材やガスの詳細を深掘りしたいときは個別ツールに飛べばいい。役割分担がはっきりしている。
メーカー提供ソフトとの比較
溶接機メーカーが配布する見積りソフトは、当然ながら自社製品に最適化されている。溶接法をまたいだ横断比較には向いていない。SMAW・GMAW・FCAWの3工法を同じ条件で比較し、どこでコスト差が生まれるのかを可視化できるのが本ツールの強みだ。
溶接コストにまつわる豆知識 — 知っておくと見積りが変わる
SMAW vs GMAW、コスト構造の決定的な違い
SMAWは溶加材(被覆アーク棒)が安いぶん、溶着速度が遅い。1パスあたりの断面積は約20mm²で、溶接速度は150mm/min程度。一方GMAWは1パス30mm²、速度250mm/minと効率が段違いだ。短い溶接線ならSMAWでも大差ないが、溶接長が10mを超えるとアーク時間の差が労務費に直結する。材料費だけ見て「SMAWのほうが安い」と判断するのは危険だ。
段取り係数1.5の根拠
本ツールではアーク時間に1.5を掛けて実作業時間を算出している。この1.5という数字は、国内の溶接施工実績から導かれた標準的な値だ。段取り・仮付け・スラグ除去・検査待ち・姿勢変更などの非アーク時間がアーク時間の約50%に相当する、という経験則に基づいている。現場条件が厳しい(高所作業、狭隘部など)場合は2.0以上になることも珍しくない。
自動溶接の経済的分岐点
ロボット溶接やサブマージアーク溶接(SAW)は設備投資が大きいが、繰り返し同一継手を大量に溶接する場面では1mあたり単価が手溶接の1/3以下になることもある。一般に溶接長の合計が月間500m以上あるなら、自動化のROIを検討する価値がある。AWS(American Welding Society)の技術文献にも、溶接自動化の経済性分析手法が詳しくまとめられている。
溶接コストに占める材料費の割合
意外に思うかもしれないが、手溶接において材料費(溶加材+ガス)が総コストに占める割合は典型的に20-40%程度。残りの60-80%は労務費だ。つまり「材料を安く買う」よりも「施工速度を上げる」ほうがコスト削減への寄与が大きい。溶接法の選定や開先形状の最適化が、見積り金額を劇的に変える理由がここにある。
溶接費用の見積り精度を上げる5つのTips
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実績データとの突き合わせ — 本ツールの計算結果はあくまで理論値。過去の施工実績(溶加材の実消費量、実際の作業時間)と比較して補正係数を自分なりに持っておくと、見積り精度が格段に上がる
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開先形状の見直しで大幅コストダウン — V形開先で板厚30mm・角度60度だと断面積が膨大になる。X形開先(両側から溶接)にすれば断面積は約半分。パス数も減り、材料費・労務費ともに削減できる。板厚が25mmを超えたらX形を検討してみて
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溶接法の切替シミュレーション — 同じ継手条件でSMAW・GMAW・FCAWを切り替えて比較するだけで、コスト差が一目瞭然になる。特にSMAWからGMAWへの切替は、溶接長が長いほど効果が大きい
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労務単価は地域・時期で変動する — 都市部と地方、繁忙期と閑散期で溶接工の労務単価は大きく変わる。デフォルト値の5,000円/hは目安に過ぎないので、実際の発注先の見積り単価を入力して使おう
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ガス単価はボンベ本数で変わる — シールドガス(CO2やAr混合ガス)の単価はボンベのサイズや購入ロットで変動する。大口取引なら1,500円/m³以下になることもある。調達部門に確認して正確な数字を入れるだけで見積り精度が上がる
よくある質問 — 溶接コスト見積りツール
Q: 段取り係数の1.5は変更できないのか?
現在のバージョンでは段取り係数は1.5で固定している。これは国内溶接施工の標準的な実績値だが、高所作業や狭隘部作業では2.0以上になることもある。労務単価の入力値を調整することで、実質的に段取り係数の違いを反映させることが可能だ。たとえば実際の労務単価が5,000円/hで段取り係数を2.0にしたい場合、労務単価を6,667円/h(= 5,000 × 2.0 / 1.5)に設定すれば同等の結果が得られる。
Q: X形開先やレ形開先には対応しているか?
現在はV形開先と隅肉溶接に対応している。X形開先の場合は、片側のV形として断面積を計算し、溶接長を2倍にすることで近似的に見積もれる。レ形開先はV形の半分の断面積として扱うと良い。将来的に開先形状の拡張を予定している。
Q: SMAW→GMAWへの切替でどのくらいコストが変わる?
条件によるが、溶接長が長いほど差が開く。たとえばV形開先(板厚20mm、角度60度)で溶接長5mの場合、SMAWはアーク時間が約400分かかるのに対し、GMAWは約160分。労務費だけで2倍以上の差が出る。材料費はSMAWのほうがガス不使用のぶん安いが、労務費の差を覆すほどではない。溶接長が1m未満の短い継手では差は小さいので、段取りの手軽さでSMAWを選ぶ判断もある。
Q: 入力したデータはサーバーに送信されるのか?
すべての計算はブラウザ上で完結しており、入力データがサーバーに送信されることは一切ない。単価情報や溶接条件などの機密性の高いデータも、端末の外に出ることはないので安心して使ってほしい。
Q: 間接費(管理費・経費)は含まれるか?
現在のバージョンでは材料費と労務費の直接費のみを計算対象としている。現場管理費・一般管理費・利益率などの間接費は含まれていない。実際の見積書を作成する場合は、本ツールの総コストに間接費率(一般的に直接工事費の20-40%)を上乗せして使うとよい。
まとめ — 溶接コストを「勘」から「数字」へ
溶接コストの見積りは、開先断面積・溶着量・パス数・作業時間を正しく積み上げることで初めて根拠のある数字になる。本ツールは継手条件と溶接法を入力するだけで、材料費から労務費まで一気通貫で算出する。SMAW・GMAW・FCAWを切り替えてコスト比較すれば、VE提案の説得力も増すはずだ。
溶加材の必要量をさらに精密に把握したいなら溶加材消費量計算ツール、ガスの消費量を詳しく知りたいならシールドガス消費量計算ツールも併せて活用してみてほしい。
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