5tを吊る天秤を1本、H形鋼で作ることになった
現場で「これ、天秤(てんびん)を作って吊ろう」という話になることがある。5tの荷を2点で吊りたい、手持ちに H-200×100×5.5×8 が3.4m残っている、これで足りるか——という場面。
とりあえず単純梁として解いてみる。上部の吊り点を2000mm、下部の吊り点を3000mmに取ると張り出しは片側500mm。動荷重係数1.25で設計荷重は61.29kN、最大曲げモーメントは15.38kN·m。断面係数176.1cm³で割ると曲げ応力は87.4MPa。SS400の許容曲げ応力度156.7MPaに対して検定比0.602。余裕あり、で終わりたくなる。
ところがこの天秤の本当の最大検定比は0.627で、支配要因は曲げではなく座屈だった。上部の2本のワイヤが水平から60°に傾いているせいで、ビームには17.94kNの軸圧縮が入っている。曲げと圧縮を同時に受ける部材は σ = N/A + M/Z で見なければならず、圧縮を受ける以上は座屈も効く。0.602と0.627。わずか4%の差だが、設計を決めている項目が入れ替わっている。
このツールは、その「ひっくり返り」を最初から数字で見せるために作った。曲げ・せん断・軸圧縮を含めた座屈・たわみの4つを検定比で並べ、どれが効いているかを名指しする。
「単純梁で解けばいい」で終わっている解説しか無かった
2026年8月に「吊り天秤 強度計算」で検索して出てくるものを一通り当たった。結果は、知恵袋とOKWAVEの質問がいくつか、ロープ屋・製缶屋の製品ページ、それと個社が公開している計算書PDFが1本。専用のオンライン計算ツールは0件だった。汎用の梁計算・鋼材断面計算を置いているエクセル系サイトはあるが、天秤という形を前提にしたものではない。
そして質問も回答も計算書も、どれも同じところで止まっている。「上部の吊り点を支点、下部の吊り点を荷重点とした単純梁として M を出し、Z で割る」。ここまでは正しい。正しいのだが、上部のワイヤが傾いたときにビームへ入る軸圧縮に触れているものが、ひとつも見つからなかった。
実際に力の釣り合いを書くとすぐ分かる。上部2点吊りは2本のワイヤが1つのフックへ収束する形なので、各ワイヤの張力は鉛直成分と水平成分に分かれる。この水平成分は、そのままビームを内側へ押す圧縮力になる。水平からの吊り角度を θ とすると N = V/tanθ。θ=90°(鉛直)なら0だが、実務でよく使う60°でも鉛直反力の0.577倍、30°まで寝かせると1.732倍に達する。
冒頭の5tの例で言えば、曲げの検定比0.6015に対して、軸圧縮を入れた座屈の検定比は0.6273。順位が入れ替わる。もっと極端な例もある。8tを4点で吊る天秤(上部間隔2500mm・H-200×100・SM490)は吊り角度60°なら最大検定比0.809で成立するが、同じ天秤の吊り角度を30°まで寝かせると検定比1.096で許容超過になる。ビームの断面も荷重も何ひとつ変えていないのに、ワイヤの角度だけで落ちる。
「単純梁として M/Z を見る」で終わっている限り、この落ち方は絶対に見えない。それが作った理由。
吊り天秤は単純梁だ — でも支点が2つとは限らない
支点は上部の吊り点、荷重点は下部の吊り点(吊り天秤 強度計算 の第一原理)
吊り天秤の構造計算は、実は特別なことを何ひとつしていない。読み替えを1回するだけだ。
- 支点 = 上部の吊り点(クレーンフックへ向かうワイヤが付く点)
- 荷重点 = 下部の吊り点(荷へ向かうスリングが付く点)
- 等分布荷重 = ビーム自身の重さ
この読み替えさえできれば、あとは高校で習う単純梁だ。詳しい定義はWikipediaの「梁」が分かりやすい。
ただし吊り天秤には、普通の梁の教科書に出てこない事情がひとつある。支点の数が1つのことも2つのこともある。天秤ばかりの棹を思い浮かべてほしい。棹の真ん中を指1本でつまんで支えるか、両手で左右2箇所を支えるか。同じ重さをぶら下げても、棹にかかる曲げはまったく違う。
中央1点吊りの天秤は、支点が中央の1点しかない。両端に下がった荷重は、中央までのモーメント腕をまるごと曲げに変える。
中央1点吊り: M = (W/2) × (下部吊り点間隔 / 2)
上部2点吊り: M = (W/2) × 張り出し a a = |下部吊り点間隔 − 上部吊り点間隔| / 2
上部2点吊りでは、荷重点と支点の距離=張り出し a しかモーメント腕がない。この差は現場感覚以上に大きい。3.5tを中央1点で吊る天秤(下部間隔4000mm・全長4400mm)の最大曲げモーメントは43.75kN·m。一方、冒頭の5t・上部2点吊り(張り出し500mm)は15.38kN·m。荷重は5tのほうが4割重いのに、曲げは3分の1しかない。「中央吊りにはI形鋼、両端吊りにはパイプでいい」という現場の定説は、この式そのものだ。
なお張り出しは、下部が上部より外側でも内側でも |a| で効く。上部間隔と下部間隔を同じ3000mmに揃えると張り出しはゼロになり、曲げモーメントは0.278kN·m——つまりビーム自重の分しか残らない。曲げの検定比は0.054まで落ちる。曲げだけが目的なら、吊り点は真上に揃えるのが最強ということになる(ただしこれで話は終わらない。理由は後述する)。
断面係数 Z とは — 曲げモーメントを応力に翻訳する係数
曲げモーメントは「力×距離」で、単位は kN·m。これを材料が耐えられるかどうか判断するには、MPa(N/mm²)の応力に翻訳しないといけない。その翻訳係数が断面係数 Z だ。
Zx = 2 × Ix / H Ix: 強軸まわりの断面二次モーメント、H: 断面の成(せい)
σ = M / Zx 曲げ応力
Ix は断面の形が曲げにどれだけ抵抗するかを表す量で(断面二次モーメント)、それを中立軸から最も遠い縁までの距離 H/2 で割ったものが Z になる(断面係数)。H-200×100×5.5×8 なら Ix=1760.9cm⁴、Zx=176.1cm³。M=15.38kN·m を割ると σ=87.4MPa。SS400の許容曲げ応力度156.7MPaに対して0.602。
このツールは断面性能を表で持たず、寸法から毎回計算している。H形鋼なら A = 2·B·tf + (H−2tf)·tw、Ix = [B·H³ − (B−tw)(H−2tf)³]/12 という素朴な式だ。フィレット(隅アール)を無視した理想断面なので、H-200×100×5.5×8 の Ix は1760.9cm⁴と出るが、JIS G 3192 の表値は1810cm⁴。約2.7%だけ小さめ=安全側に出る。
天秤が曲がると何が起きるか
座屈は予兆なく横へ逃げる
曲げで壊れる部材には予兆がある。応力が上がるにつれてたわみが目に見えて増え、「たわんできたな」と分かる。座屈は違う。軸方向に押されていた材が、ある荷重を境に横へ逃げる。しかも逃げる方向は弱軸——H形鋼ならフランジ幅の方向だ。
H形鋼の弱軸がどれだけ弱いかは数字を見ると分かる。H-200×100×5.5×8 は Ix=1760.9cm⁴ に対して Iy=133.6cm⁴。13分の1しかない。曲げだけを見て「H形鋼は成が高いほうが得」と細幅を選ぶと、圧縮を受けた瞬間にその選択が裏目に出る。
10tの荷を H-150×75×5×7(全長3.4m・上部2000mm・下部3000mm・吊り角度45°)で吊ろうとすると、このツールは最大検定比2.823を返す。許容の2.8倍だ。内訳は曲げ2.515・せん断0.998・たわみ1.712・座屈2.823。曲げだけを見ていても「2.5倍で無理」とは分かるが、実際に先に来るのは座屈のほうだという情報は出てこない。
許容応力を1.5で割る根拠は法令にある
このツールが使う許容応力度は σa = F/1.5、τa = F/(1.5√3) だ。この1.5には根拠がある。クレーン構造規格(平成7年労働省告示第134号)第8条は、許容応力を「降伏点又は耐力を1.5で除した値」と「引張強さを1.8で除した値」の小さいほうと定めている。SS400なら min(235/1.5, 400/1.8) = min(156.67, 222.2) = 156.67MPa。降伏点側が効く。せん断の √3 は、せん断降伏点が引張降伏点の 1/√3 になるという降伏条件から来ている。
そして玉掛け用具・揚重装置は労働安全衛生法とクレーン等安全規則の領域だ。自作の天秤であっても、事業者には点検の義務がある。「余っていたH形鋼を溶接して作った」で済ませられる世界ではない。
材質を上げても、座屈にはほとんど効かない
SS400をSM490に替えると、許容曲げ応力度は156.67MPaから210.0MPaへ34%上がる。断面をそのままに材質だけ上げれば、曲げの検定比は素直に34%下がる。ところが座屈が支配的な領域では、これがほとんど効かない。
8tを4点で吊る例(上部間隔2500mm・H-200×100×5.5×8)で確かめてみる。細長比は λ=110.55。SM490の許容圧縮応力度は fc=76.44MPa。同じ形状のままSS400にすると fc=74.93MPa。**差はわずか2%**だ。σa は34%違うのに。
理由は座屈の式にある。限界細長比 Λ = √(π²E/(0.6F)) を超えた長柱域では fc = 0.277F/(λ/Λ)² になるが、この式に Λ を代入すると F が約分されて消え、縦弾性係数 E と細長比 λ だけの式——つまりオイラーの座屈式に帰着する。鋼は種類が違っても E はほぼ同じ205GPaだから、材質を上げても長柱域の座屈耐力は動かない。実際このケースでは、SM490にしたことで曲げの検定比は0.718まで下がるのに、座屈の検定比0.809が頭を押さえたままになる。
効かせたいなら弱軸の断面二次モーメント(=幅)を増やすか、上部吊り点の間隔を詰めて座屈長さそのものを短くするしかない。角形鋼管が天秤に向いているのはこのためで、□-100×100×4.5 は Ix と Iy が同じ261.9cm⁴なので細長比が30.7まで落ちる。座屈の詳しい理論はWikipediaの「座屈」を、一般の梁の曲げ・たわみだけを見たいときは梁の強度計算・たわみ計算ツールを使ってほしい。
こんな場面で開いてほしい
その1: 現場で天秤を1本作る。 手持ちのH形鋼で足りるかを確かめたいとき。荷重・吊り点間隔・全長・断面を入れれば、4つの検定比と支配要因がその場で出る。断面を1ランク上げ下げして検定比の動きを見れば、過剰でも不足でもない断面がすぐ絞れる。
その2: 既存の天秤を別の荷に流用してよいか判断する。 3tの荷で使っていた天秤に5tを吊りたい、吊り穴のピッチが違うから下部吊り点を変えたい——という相談は多い。荷重と吊り点間隔だけ書き換えれば、流用の可否が数字で出る。
その3: 4点吊りのパネル・型枠。 荷重が4点にどう分かれるのか分からず手が止まっているとき。下部吊り点を4点にすると、外側2点と内側2点の分配を含めて曲げモーメントを解いてくれる。
その4: 計算書を出さなければならないとき。 断面・材質・荷重条件・断面力・応力・検定比が整形テキストでコピーできるので、そのまま計算書の根拠欄に貼れる。
計算しているのはビーム本体の断面検定だけだ。ビームに溶接する吊り耳(アイプレート・吊りピース)の検定は吊り金具設計シミュレーター、上部ワイヤそのものの安全荷重はワイヤーロープ安全荷重計算、天秤自重を足した総荷重とクレーンの定格荷重の照合はクレーン揚重計画チェッカーが担当している。ワイヤ1本の張力は kN と kgf の両方で出るので、そのまま次のツールへ持っていける。
基本の使い方は3ステップ
ステップ1: 吊り方式と吊り点の配置を入れる。 まず上部を「中央1点吊り」と「上部2点吊り」から選ぶ。ここがこのツールの主分岐で、2点吊りを選ぶと上部吊り点の間隔と吊り角度の入力が現れる。続いて下部の吊り点数(2点/4点)と間隔、ビーム全長を入れる。動荷重係数は1.0/1.25/1.5/2.0から明示的に選ぶ方式にしてある(内部で黙って掛けたりはしない)。
ステップ2: 断面と材質を選ぶ。 H形鋼14種から選ぶか、いちばん下の「箱形」を選んで成・幅・板厚を直接入力する。箱形の入力は角形鋼管にも、4枚の板を溶接した組立箱形にも使える。材質はSS400/SM490/SUS304、許容たわみはL/200/L/300/L/500から選ぶ。
ステップ3: 4つの検定比と支配要因を読む。 曲げ(組合せ応力)・せん断・座屈・たわみが検定比で並び、最大検定比と支配要因が表示される。検定比は1.0以下ならOK。上部2点吊りを選んでいれば、吊り角度を30〜90°で振った比較表も並ぶ。
いちばん早いのはプリセットから始めることだ。「2点吊り(5t)」「中央1点(3.5t)」「4点吊り(8t)」「箱形30°(1.5t)」の4件が入っていて、これで上部方式2種・下部点数2種・断面2方式・材質2種がひととおり体験できる。あとは自分の条件に近いものを選んで数字を書き換えればいい。
実際に計算した7ケース
すべて実装したツールに同じ入力を与えて出力を確認した値だ。
ケース1: 5tを2点吊り(座屈支配・検定比0.627)
入力 5t/動荷重係数1.25/上部2点2000mm・吊り角度60°/下部2点3000mm/全長3400mm/H-200×100×5.5×8/SS400/L/300 結果 M=15.38kN·m、Q=30.82kN、N=17.94kN、σ=94.23MPa(許容156.67)、τ=30.46MPa(許容90.45)、δ=3.535mm(許容11.333)、λ=88.44、fc=98.62MPa。検定比は曲げ0.6015/せん断0.3367/座屈0.6273/たわみ0.3119で、最大0.6273・支配要因は座屈。 解釈 冒頭のケース。曲げだけを見れば0.60で「まだ4割余裕がある」と読めるが、支配しているのは座屈のほうだ。とはいえ0.63は「余裕あり」の帯なので、この断面で通せる。天秤自重は69.7kg、クレーンにかかる総荷重は5.07t。
ケース2: 3.5tを中央1点吊り(曲げ支配・検定比0.897)
入力 3.5t/1.25/中央1点吊り/下部2点4000mm/全長4400mm/H-250×125×6×9/SS400/L/300 結果 M=43.75kN·m、N=0kN、σ=140.49MPa(許容156.67)、δ=8.372mm(許容14.667)。検定比は曲げ0.8967/せん断0.1765/たわみ0.5708で、最大0.8967・支配要因は曲げ。 解釈 中央1点吊りは軸圧縮がゼロになるので座屈の心配は消えるが、代わりに曲げが跳ね上がる。ケース1より軽い3.5tなのに曲げモーメントは約3倍。成を250mmに上げてなお検定比0.90で、これは「適正」の上限に近い。中央吊りの天秤には成の高い断面が要る、という定説がそのまま数字になっている。
ケース3: 8tを4点吊り・SM490(座屈支配・検定比0.809)
入力 8t/1.25/上部2点2500mm・60°/下部4点 外4000mm・内1600mm/全長4400mm/H-200×100×5.5×8/SM490/L/300 結果 M=24.63kN·m、N=28.63kN、σ=150.79MPa(許容210.0)、λ=110.55、fc=76.44MPa。検定比は曲げ0.7181/せん断0.2684/座屈0.8093/たわみ0.5362で、最大0.8093・支配要因は座屈。 解釈 前に書いた「材質を上げても座屈が頭を押さえる」例そのものだ。曲げの検定比は0.72まで下がっているのに座屈で0.81。この天秤をもう一段安全にしたいなら、SM490からさらに材質を上げるのではなく、上部吊り点の間隔を詰めるか幅の広い断面に替えるべきだ。ちなみに同じ条件で吊り角度を30°まで寝かせると検定比1.096で許容超過、90°(鉛直)まで立てると0.666になる。
ケース4: 1.5tを6mスパンでL/500(たわみ支配・検定比0.936)
入力 1.5t/1.25/中央1点吊り/下部2点6000mm/全長6400mm/H-250×125×6×9/SS400/L/500 結果 M=29.38kN·m、σ=94.32MPa(許容156.67・検定比0.6021)、δ=11.981mm(許容12.8)。検定比は曲げ0.6021/せん断0.0819/たわみ0.9360で、最大0.9360・支配要因はたわみ。 解釈 荷はたった1.5tで、強度は4割の余裕がある。それでも設計を決めているのはたわみだ。長尺の荷を精密に据え付ける用途でL/500を課すと、こういう決まり方をする。ここで曲げだけを見て「余裕あり」と断じると、実機では12mmしなって位置決めができない天秤ができあがる。天秤自重183kgが吊り荷重の12.2%を占めているのも効いている。
ケース5: 30tを短スパンで(せん断支配・検定比0.508)
入力 30t/1.25/上部2点600mm・75°/下部2点1000mm/全長1200mm/H-400×200×8×13/SM490/L/300 結果 M=36.81kN·m、Q=184.11kN、τ=61.53MPa(許容121.24)、σ=38.09MPa(検定比0.1814)、δ=0.089mm。検定比は曲げ0.1814/せん断0.5075/座屈0.1818/たわみ0.0221で、最大0.5075・支配要因はせん断。 解釈 短くて重い天秤ではウェブが効いてくる。曲げの検定比はわずか0.18、たわみに至っては0.02なのに、せん断だけが0.51で頭ひとつ抜ける。モーメント腕が短いので曲げは育たないが、せん断力はモーメント腕に関係なく荷重そのものの大きさで決まるからだ。せん断を検定項目に入れていない計算書は、この形状で危ない。
ケース6: 10tを細い断面で(許容超過・検定比2.823)
入力 10t/1.25/上部2点2000mm・45°/下部2点3000mm/全長3400mm/H-150×75×5×7/SS400/L/300 結果 σ=394.07MPa(許容156.67)、τ=90.31MPa(許容90.45)、δ=19.399mm(許容11.333)、λ=118.4。検定比は曲げ2.5153/せん断0.9984/座屈2.8230/たわみ1.7117で、最大2.8230・許容超過。 解釈 ケース1と同じ吊り点配置のまま、荷重を倍にして断面を1ランク下げ、吊り角度も45°まで寝かせた。4項目すべてが赤に近い。注目したいのはせん断の0.9984で、これだけを見ていると「ぎりぎり合格」に見えてしまう。実際には曲げが2.5倍、座屈が2.8倍で完全に破綻している。検定比は最大値で見る、という原則がよく分かるケース。
ケース7: 52tの大型天秤(限界に近い・検定比0.986)
入力 52t/1.25/上部2点4000mm・60°/下部2点6000mm/全長8000mm/H-500×200×10×16/SM490/L/300 結果 M=320.85kN·m、Q=320.85kN、N=186.47kN、σ=191.06MPa(許容210.0)、δ=16.376mm(許容26.667)、λ=91.08。検定比は曲げ0.9098/せん断0.5654/座屈0.9858/たわみ0.6141で、最大0.9858・「限界に近い」。 解釈 計算上は成立するが、余裕が1.4%しかない。断面性能をフィレット無視の理想断面で出していること、材料にばらつきがあること、実際の吊り方が完全対称にはならないことを考えると、この帯は避けたい。ここで断面をH-500からもう一段上げるか、上部吊り点の間隔を広げて張り出しを減らすかの判断が要る。天秤自重は695.8kg、クレーンにかかる総荷重は52.7tになる。
7ケースを通して見ると、支配要因が座屈・曲げ・たわみ・せん断と4種類すべて出現しているのが分かる。「天秤は曲げで決まる」は、かなりの割合で外れる。
仕組み — ワイヤの傾きがビームを押す力になる
手法の選択: M/Z だけを見るか、組合せ応力と座屈まで見るか
実装にあたって2つの方針があった。
方針A: 単純梁として M/Z を見る。 入力が少なくて済み、既存の解説とも一致する。だが上部2点吊りで軸圧縮を無視することになり、吊り角度という設計上いちばん動かしやすいパラメータが結果に一切反映されない。角度を60°から30°に変えても数字が1つも動かないツールになる。
方針B: 組合せ応力+座屈まで見る。 入力は増えるが、吊り角度が結果を動かす。§2で見たとおり、実際に順位がひっくり返るケースが普通に出る。
採ったのはBだ。理由は単純で、方針Aで得られる情報は既に世の中にあり、方針Bで得られる情報は無かったから。
軸圧縮 N = V/tanθ の導出
上部2点吊りでは、2本のワイヤが1つのクレーンフックへ収束する。ワイヤ1本が受け持つ張力を T、水平からの角度を θ とすると、T は鉛直成分 V と水平成分 H に分解できる。
V = T·sinθ 鉛直成分 = 上部吊り点1点あたりの鉛直反力 Rtop
H = T·cosθ 水平成分
N = H = V/tanθ ビームを内側へ押す軸圧縮
T = V/sinθ ワイヤ1本の張力(/wire-rope へ持っていく値)
1/tanθ の値がこの話のすべてだ。θ=90°で0.000、75°で0.268、60°で0.577、45°で1.000、30°で1.732。45°を境に、ビームを押す力が吊り上げる力を上回る。ツール側では吊り角度を30〜90°の8点で振った比較表を出していて、軸圧縮・軸応力・組合せ応力・検定比・ワイヤ張力が角度とともにどう動くかを一覧で追える。
組合せ応力と座屈の検定
軸圧縮が働くのは上部吊り点より内側の区間だけだ。張り出し部(吊り点の外側)は曲げしか受けない。だから曲げモーメントを内側の最大値と外側の最大値に分けて持ち、内側だけに軸応力を足す。
σ = max( MmaxInner/Zx + N/A , MmaxOuter/Zx ) 組合せ応力
τ = Qmax/Aw せん断応力
i = √(min(Ix, Iy)/A) 断面二次半径(min なので弱軸で決まる)
λ = 上部吊り点間隔 / i 細長比(座屈長さ=圧縮が働く区間)
Λ = √(π²E/(0.6F)) 限界細長比(SS400で約119.8、SM490で約103.5)
λ ≤ Λ: ν = 3/2 + (2/3)(λ/Λ)² , fc = (1 − 0.4(λ/Λ)²)·F/ν
λ > Λ: fc = 0.277F/(λ/Λ)²
検定比: 曲げ σ/σa / せん断 τ/τa / たわみ δ/δa / 座屈 (N/A)/fc + (MmaxInner/Zx)/σa
座屈長さに上部吊り点間隔を使っているのは、圧縮が働く区間がそこだけだからだ。そして細長比に min(Ix, Iy) を使うのが要点で、H形鋼では必ず Iy が採られる。H-200×100×5.5×8 なら Ix=1760.9cm⁴に対して Iy=133.6cm⁴。曲げに強い断面が、座屈にも強いとは限らない。
なお座屈の検定比は fc ≤ σa が常に成り立つので、曲げの検定比を必ず包含する。したがって軸圧縮が存在するときは、支配要因の候補から「曲げ」を外している。両方を並べて「曲げが支配」と表示してしまうと、包含関係にある2つの指標を競わせることになるためだ。たわみは M/(E·Ix) を数値2階積分して支点基準の相対たわみを取り、L/分母 と比べている。
4点吊りの荷重分配 2/3 : 1/3 は「モデル定義」である
4点吊りの荷重分配は、正直に書いておく必要がある。これは物理定数ではなく、本ツールの設計判断だ。
4点で吊る問題は不静定で、厳密解が無い。実際の分配は荷の剛性で決まる。荷が完全な剛体なら4点は等分に近づくが、たわむ荷なら外側に寄る。そこで玉掛け実務の定説である「4本吊りは3本で吊っていると考える(1点あたり W/3)」を採り、その最悪値を外側2点に与えた。つまり外側2点が W/3 ずつで合計 2/3、内側2点が W/6 ずつで合計 1/3。足すと W で釣り合う。曲げに効くのは外側なので、この置き方は安全側になる。
5tの例を最初から最後まで追う
ケース1の数字を全部つなげてみる。
設計荷重 Wd = 5 × 1000 × 9.80665 × 1.25 = 61.29 kN
自重UDL w = 2612 × 7.85e-6 × 9.80665 × 1.25 = 0.2513 N/mm (自重にも動荷重係数を掛ける)
全反力 Rtot = 61.29 + 0.2513 × 3400 = 62.15 kN → Rtop = 31.07 kN
張り出し a = (3000 − 2000)/2 = 500 mm
曲げ M ≈ (Wd/2)·a +自重分 = 15.38 kN·m
曲げ応力 σb = 15.38e6 / 176093 = 87.36 MPa
軸圧縮 N = 31.07 / tan60° = 17.94 kN
軸応力 σc = 17940 / 2612 = 6.87 MPa
組合せ σ = 87.36 + 6.87 = 94.23 MPa → 検定比 94.23/156.67 = 0.6015
細長比 λ = 2000 / √(1335884/2612) = 88.44 (Λ=119.8 なので短柱側の式)
許容圧縮 fc = (1 − 0.4(88.44/119.8)²)·235/ν = 98.62 MPa
座屈検定 r = 6.87/98.62 + 87.36/156.67 = 0.0696 + 0.5576 = 0.6273 ← 最大
最後の行を見てほしい。座屈の検定比0.6273のうち、軸圧縮が寄与しているのは0.0696、つまり全体の11%にすぎない。それでも0.6015を0.6273に押し上げて、支配要因を入れ替えるには十分だった。軸圧縮は「無視できるほど小さい」のではなく、「小さいのに順位を変える」大きさなのだ。
断面性能の理想化 — H形鋼と箱形で符号が逆
断面性能はフィレット・隅アールを無視した理想断面で計算している。ここで注意が要るのは、誤差の符号がH形鋼と箱形で逆になることだ。
| 断面 | 本ツールの計算 | JIS表値 | 差 | 向き |
|---|---|---|---|---|
| H-200×100×5.5×8 の Ix | 1760.9 cm⁴ | 1810 cm⁴ | −2.7% | 安全側(小さめ) |
| □-100×100×4.5 の Ix | 261.9 cm⁴ | 257 cm⁴ | +1.9% | 危険側(大きめ) |
H形鋼のフィレットは材料を足す側にあるので、無視すると断面性能が小さめに出る=安全側。角形鋼管の隅アールは材料を削る側にあるので、無視すると大きめに出る=危険側。同じ「理想断面で計算しています」という注記でも、意味が正反対になる。箱形を選んで検定比が0.95を超える設計をするときは、メーカーの実断面性能で再確認してほしい。断面性能そのものを詳しく見たいときは鋼材重量・断面性能計算ツール、圧縮材の座屈荷重だけを確かめたいときは座屈荷重チェッカーが使える。
4つの検定比を横に並べ、どれで決まっているかを名指しする
前半で触れたとおり、天秤本体の強度を扱った既存の解説はほとんどが「曲げ応力を出して終わり」で、専用の計算ツールは見当たらなかった。だから比べる相手は他社のツールではなく、電卓とエクセルでやっていた従来の手順になる。その手順に対して、このツールが足しているものは3つある。
1つ目は答えを1つに絞らないこと。曲げ(組合せ応力)・せん断・座屈・たわみの4つを「検定比」という同じ物差しに揃えて並べ、いちばん大きいものを支配要因として名指しする。5tの2点吊りは曲げの検定比0.6015に対し座屈が0.6273で順位がひっくり返る。中央1点吊りの3.5tは曲げ支配で0.8967。全長6.4mの長尺は曲げの検定比が0.6021しかないのにたわみが0.9360。30tを全長1.2mで吊るケースは曲げ0.1814に対しせん断0.5075。同じ「天秤の計算」でも、設計を決めている項目は条件ごとに入れ替わる。数字を1つしか返さないやり方では、この入れ替わりが見えない。
2つ目は動荷重係数を明示的な入力にしたこと。1.25や1.5を内部で黙って掛けている計算シートは多く、他人の計算書と数値を突き合わせたときに合わない原因になる。どの係数で計算したかが結果と一緒に残るようにしてある。
3つ目は吊り角度の比較表。30〜90°の8行で軸圧縮・組合せ応力・検定比・ワイヤ張力が並ぶ。8tの4点吊りは60°なら0.8093でおさまっているが、30°まで寝かせると1.096で許容超過に転ぶ。角度は「まあこんなもんだろう」で決まりがちな値だが、表を見れば断面と同格の決定変数だと分かる。
役割分担も書いておく。吊り耳(アイプレート・吊りピース)の引張・せん断・支圧・溶接の検定は吊り金具設計シミュレーターの担当で、本ツールはビーム本体の断面検定に徹する。計算対象が重ならないので、天秤を1本設計するなら2つを順に使うことになる。上部ワイヤの径・種別の選定はワイヤーロープ安全荷重計算、クレーンの定格荷重との照合はクレーン揚重計画チェッカー、一般的な梁の曲げとたわみは梁の強度計算・たわみ計算ツール、断面性能そのものを引きたいときは鋼材重量・断面性能計算ツール、圧縮材単体の座屈荷重は座屈荷重チェッカーが受け持つ。
扱っていないものも正直に並べておく。溶接部の検定、吊り点直下のウェブ補剛リブ、局部座屈、横座屈(曲げねじれ座屈)、疲労、左右非対称の偏心配置、十字天秤(2方向天秤)、メーカー既製品との照合。このどれも入っていない。
「天秤」という名前は、はかりから来ている
支点が1つなら天秤、2つならスプレッダー
天秤ばかりは支点の左右に等距離の腕を伸ばし、両側のモーメントが釣り合うかどうかで質量を測る道具だ。吊り具の天秤も原理は同じで、中央1点で吊れば左右のモーメントが釣り合って水平を保つ。名前はここから来ている。
英語圏では lifting beam と spreader beam を呼び分けることが多い。前者は中央1点でフックに掛けて曲げで受ける形、後者は2本のスリングで両端を吊る形で、spread(押し広げる)という語がそのまま「この部材は押されている」ことを言っている。前半で書いた軸圧縮の話は、実は名前の中に最初から入っていたわけだ。ただし Wikipedia の Lifting beam の項のように両者を同義として扱う記述もあり、呼称は世界的にも統一されていない。日本語の「天秤」はさらに大雑把で、中央吊りにも2点吊りにも同じ言葉が使われる。図面に「天秤」とだけ書いてあったら、上をどう吊るつもりなのかは必ず確認したほうがいい。曲げだけの部材になるか、曲げと圧縮を同時に受ける部材になるかが、そこで分かれる。
「吊り角度60°」は正三角形の角度
玉掛けで言う吊り角度は2本のワイヤがなす頂角のことで、60°以内が目安とされる。なぜ半端に見える60°なのかというと、二等辺三角形の頂角が60°になるのは正三角形のときだけだからだ。つまり「ワイヤの長さが吊り点の間隔と同じ」という、巻き尺1本で確認できる条件と同じことを言っている。フックまでの高さを測ったり分度器を当てたりする必要がない。現場で通用する目安は、たいてい現場で測れる量に翻訳できる形をしている。本ツールの入力は水平からの角度なので、頂角60°は水平から60°に対応する。5tの例では上部吊り点1点あたりの鉛直反力31.07kNに対して、ワイヤ1本の張力が35.88kNになっていた。
cm⁴ と mm⁴ のあいだで桁が4つ動く
JISの鋼材表は断面二次モーメントを cm⁴、断面係数を cm³ で載せている。ところが応力の計算は N/mm² で回すので、どこかで mm 系に直さないと話が合わない。1 cm⁴ = 10⁴ mm⁴、1 cm³ = 10³ mm³ で、桁が4つと3つ動く。H-200×100×5.5×8 なら Ix は 1760.9 cm⁴ = 17,609,323 mm⁴、Zx は 176.1 cm³ = 176,093 mm³ になる。ここで桁を1つ落とすと応力がちょうど10倍か1/10になるのだが、出てきた数字は見た目にはもっともらしいので気づきにくい。本ツールは入口から出口まで mm 系で通し、表示も mm⁴ / mm³ に揃えてある。手元の鋼材表と見比べるときは、cm 系に直してから突き合わせてほしい。鋼材表が cm 系のままなのは、手計算で断面性能を扱っていた時代の表記がそのまま引き継がれているためで、いまさら変える動機がないというだけの話だ。
使いこなしのコツ
まずプリセットを1つ選んで、そこから1項目ずつ動かす。 15個の入力を最初から全部埋めようとすると、どの変更が結果を動かしたのか分からなくなる。近い形のプリセットを土台にして、荷重だけ、断面だけ、角度だけと順に変えていくほうが早いし、数字の効き方が身体に入る。
座屈が支配要因になったら、材質より先に弱軸を疑う。 使用例の8t・4点吊りはSM490を使っても座屈支配のままだ。材質を上げても細長比が変わらないからだ。もっと極端なのが上部吊り点間隔6mのケースで、曲げの検定比が0.3627しかないのに細長比265.31で座屈が0.6572になる。効くのは断面の幅(弱軸側)を広げるか、上部吊り点の間隔を詰めるかの2つ。角形鋼管の例は細長比30.74で、強軸と弱軸が同じ断面が座屈に強いことがそのまま出ている。
長い天秤はたわみを別枠で見る。 使用例の全長6.4mのケースがそうだが、曲げに余裕があってもたわみで決まる領域がある。許容たわみは法令や規格で決まっていないので、荷を精密に据え付ける揚重ならL/500、目視で分かる程度のたわみを許すならL/200と、用途で選び分けてほしい。ここを1段変えるだけで支配要因が入れ替わることがある。
短くて重い天秤はせん断を見る。 スパンが短いと曲げモーメントは伸びずにせん断力だけが積み上がるので、使用例の30t・全長1.2mのケースのようにせん断が支配要因に回ることがある。成の大きいH形鋼はウェブが薄くなりがちで、断面を大きくしたつもりがせん断側の余裕は増えていない、という組合せが起こる。
検定比0.95を超えたら、断面性能のズレを思い出す。 この帯は計算上は成立しているが余裕が乏しい。本ツールの断面性能はフィレット・隅アールを無視した理想断面で、箱形では実際よりわずかに大きく出ている(下のよくある質問を見てほしい)。0.95〜1.00に入ったらメーカーの実断面性能で確認するか、断面を1ランク上げるほうが後の説明が楽になる。
よくある質問
Q. 入力した荷重や吊り点の寸法はどこかに送信される?
一切送信されない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、サーバーに値を送ることも保存することもない。結果をコピーする機能もブラウザのクリップボードを使うだけなので、案件の荷重や寸法が外に出ることはない。天秤の設計値は納入先や荷の内容が推測できる情報になりうるが、その心配なしに使ってもらえる。社内の計算書に貼るときも、値はコピーで手元に取り出すだけになる。Q. JISの鋼材表と断面二次モーメントの値が合わない
本ツールは断面性能の表を持たず、寸法から式で算出している。このときフィレット(隅アール)を無視した理想断面として扱うので、JIS表値とは数%ずれる。**ずれる向きが断面の種類で逆になる**のが要注意で、H形鋼は小さめ=安全側、角形鋼管は大きめ=危険側に出る。具体的な差の大きさと、理想断面を採った理由は仕組みのセクションの表にまとめてある。実務上の意味だけ書いておくと、H形鋼を選んでいる限りは表値より控えめな結果を見ていることになるので気にしなくてよく、**箱形を選んで検定比が0.95を超えた設計だけ**メーカーの実断面性能で確認すれば足りる。結果カードの断面性能ブロックにも、選んでいる断面に応じた注記が出る。Q. 吊り角度を90°にしたら、軸圧縮と細長比の欄が出なくなった
90°は上部ワイヤが鉛直という意味なので、ワイヤ張力の水平成分がゼロになり、ビームに軸圧縮が入らない。軸圧縮が無ければ細長比も座屈の検定比も意味を持たないので、その一群の値は表示から外れる。支配要因も変わる。5tの2点吊りは60°では座屈支配で検定比0.6273だが、同じ条件で角度だけ90°にすると曲げ支配の0.5577になる。軸圧縮を消したぶんだけ余裕が増えているわけだ。なお吊り角度の比較表は90°でも表示したままなので、角度を戻して比べ直せる。Q. 4点吊りの「外側2/3・内側1/3」という荷重分配はどこから来た数字?
これは物理定数ではなく、**本ツールのモデル定義**だ。4点で吊る配置は不静定問題で、実際の分配は荷とビームの剛性で変わるため厳密解が存在しない。そこで玉掛け実務で定説になっている「4本吊りは3本で吊っているとみなす(1点あたり全荷重の1/3)」という考え方を採り、その最悪値を外側2点に与えて、残りを内側2点に配分している。合計はきちんと全荷重に釣り合う。曲げモーメントに効くのは外側の吊り点なので、この置き方は安全側になる。荷が極端に柔らかい、あるいは吊り点の高さが揃っていないといった条件では実際の分配が変わるので、その前提で読んでほしい。Q. 動荷重係数はいくつを選べばいい?
巻き上げの加速、荷の振れ、急停止による荷重の割増を見込む係数で、通常の揚重なら1.25、急加速や振れが大きい条件なら1.5〜2.0を選ぶことになる。1.0も選べるが、これは衝撃を一切見込まない静的な確認用で、選ぶと注意が出る。この係数を内部で黙って掛けない方式にしてあるのは、他人の計算書や既存のエクセルと数字を突き合わせるとき、係数が違うだけで合わなくなる事故が起きやすいからだ。値が結果と一緒に残るので、「どの条件で計算したのか」を後から説明できる。天秤の自重にも同じ係数が掛かる。Q. 検定比と安全率が両方出ているが、計算書にはどちらを書けばいい?
分母が違う別の指標で、許容応力度設計で合否を示すなら**検定比**のほうを書く。検定比は応力を許容応力度で割った値で、1.0以下なら成立している。安全率は応力を材料の基準強度で割った値なので、許容応力度がすでに基準強度を割り引いた値である分だけ大きく出る。5tの2点吊りの例では検定比0.6273に対して安全率2.49で、同じ状態を別の物差しで見ている。提出先が「安全率いくつ以上」という形で条件を出してくる場合もあるので、両方を並べて表示している。読み替えるときに数字を作り直さなくていい。まとめ
天秤は単純梁として解ける。ただし上を2本のワイヤで吊った瞬間、それは曲げと圧縮を同時に受ける部材になる。曲げだけを見て断面を決めると、5tの例のように支配要因が座屈にひっくり返っていることに気づけない。曲げ・せん断・座屈・たわみを同じ物差しに揃えて並べ、どれで決まっているかを名指しするのがこのツールの役目だ。
天秤1本を仕上げるには、続けて吊り耳を吊り金具設計シミュレーターで検定し、上部ワイヤの径と種別をワイヤーロープ安全荷重計算で選び、天秤自重を足した総荷重をクレーン揚重計画チェッカーで定格と照らす。一般的な梁の曲げとたわみだけを見たいときは梁の強度計算・たわみ計算ツール、断面性能や重量を引きたいときは鋼材重量・断面性能計算ツール、圧縮材単体の座屈荷重は座屈荷重チェッカーが使える。
計算の前提や境界条件で気になった点、こういう吊り方も扱ってほしいという要望があればお問い合わせページから知らせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。現場で天秤を1本こしらえるたびに「曲げだけ見て本当に足りているのか」が気になっていたので、上部ワイヤの傾きが生む軸圧縮まで含めて4つの検定比を横に並べる形にした。
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