「穴基準と軸基準、どっちで描けばいいの?」に終止符を打つ
設計レビューで「これ穴基準で描いてるけど、ベアリング使うなら本当は軸基準じゃない?」と先輩に指摘される。逆に「1本のシャフトに3つのプーリ付けるのに、なぜ穴基準で各々違う公差にしてるの」と言われる。教科書には「穴基準を優先する」と書いてあるのに、実務では例外条件がボロボロ出てくる。これ、機械設計初心者あるあるだよね。
このツールは、組立構成・標準部品の有無・精度・量産有無といった現場の条件を入れるだけで、hole-basis(穴基準/H方式)か shaft-basis(軸基準/h方式)のどちらを採用すべきかを規則ベースで診断する。JIS B 0401 の原則と、実務で頻出する5つの例外条件を1画面で確認できる。確信度(高/中/低)と選定理由を一緒に出すから、設計レビューで「なぜこの基準を選んだか」を即答できるようになる。
選定後は /fit-grade-selector に推奨方式を渡して具体的な等級コード(H7/g6 など)の選定へ、/jis-fit で公差・すきまの数値検算へ進める設計だ。
なぜ作ったのか — 「H7/g6」の前に立ちはだかる選定の壁
機械設計の教科書を開くと、はめあいの章は決まって「JIS B 0401 では穴基準を優先する。穴基準とは穴を H 等級に固定し、軸の等級で隙間/中間/締まりを調整する方式である」で始まる。これだけ覚えれば 8 割の設計は通る。問題は残り 2 割の例外で、これが実務の現場で猛烈に頻出する。
具体的にいうと、(a) ベアリング使用(外輪が h 等級で標準化されているので軸じゃなく穴側で調整するのが自然)、(b) 標準シャフト使用(既製の h6 軸を買うので穴側で調整するしかない)、(c) 1本のシャフトに複数部品を取り付ける構成(軸を1寸法で精密加工し、各部品の穴で公差を変えたほうが加工効率が良い)の3つだ。これらは教科書の「原則」と真逆の選択になる。
筆者自身、設計を始めた頃にプーリ・歯車・ベアリングを1本の軸に直列で取り付ける機構を「穴基準で統一すべし」の原則どおりに描いて、シャフトの段差加工で軸径が3種類に分かれてしまい、見積もりで「研削工程が3倍かかる」と言われた苦い経験がある。逆にベアリング使用なのに軸基準で描いた図面を出して、ベアリングメーカーから「外輪寸法は h 等級なので穴側で調整してください」と差し戻されたこともある。
世の中のはめあい解説サイトは「H7/g6 の数値表」「中間ばめの定義」のような結果の参照には強いが、「そもそも穴基準と軸基準どっちを選ぶか」という選定段階を支援するツールはほとんど存在しない。Kindle 12冊目『機械製図・公差設計入門』の執筆中に「ここを規則化したらかなり助かる人が多そう」と気づき、JIS B 0401 の原則と実務の例外条件をフローに落とし込んでこのアドバイザーを作った。
穴基準と軸基準とは — 3分で分かる第一原理
穴基準(H方式)と軸基準(h方式)の定義
JIS B 0401-1:2016(ISO 286-1:2010 と整合)が定義する「はめあい方式」は2つある。
| 方式 | 固定する側 | 調整する側 | 代表コード |
|---|---|---|---|
| 穴基準(H方式) | 穴を H 等級で固定 | 軸の等級で調整 | H7/g6 H7/k6 H7/p6 |
| 軸基準(h方式) | 軸を h 等級で固定 | 穴の等級で調整 | G7/h6 K7/h6 P7/h6 |
H は基準寸法から下偏差ゼロ(つまり穴の最小寸法=基準寸法)の穴。h は基準寸法から上偏差ゼロ(つまり軸の最大寸法=基準寸法)の軸。どちらも「片側の偏差をゼロに固定する」のが特徴で、これによってもう一方の等級だけを変えれば隙間/中間/締まりを切り替えられる仕組みだ。
すきま量と締めしろは次のシンプルな式で出せる。
すきま = 穴の最小寸法 − 軸の最大寸法
しめしろ = 軸の最小寸法 − 穴の最大寸法
このうち穴と軸どちら側の寸法を「固定(基準)」とみなすかが、選定する方式によって変わるわけだ。
なぜ穴基準が標準なのか — 鍵穴と鍵のたとえ話
JIS B 0401-1:2016 の 5.1 項には「穴基準はめあい方式を優先することが望ましい」と明記されている。なぜか。理由は「穴の加工は軸より公差の調整が難しい」という第一原理にある。
イメージしやすい例えで言うと、玄関の鍵と鍵穴の関係だ。鍵穴側は壁に埋め込まれていて削るのも仕上げるのも面倒だが、鍵側はヤスリで軽く削るだけで合わせられる。だから鍵穴は標準の量産タイプで揃え、鍵側を切り直すほうが合理的。これが穴基準の発想そのものだ。
工作の現場でも同じだ。穴あけはドリル径やリーマ径で寸法が決まるので、φ10H7 のような特定寸法に揃えると標準工具で済む。軸はバイトの送り量・取り代でいくらでも調整できるから、後から削って合わせやすい。だから「穴を H で固定し、軸を変える」のが工程的にラク、という結論になる。
例外が生まれる理由 — 「片側がもう買ってある」場合
ところが、片側が既に標準化されて市販されている場合は話が逆転する。深溝玉軸受の外径は ISO 規格で h 等級寸法に決まっており、設計者が削ることはできない。標準シャフト(市販の引き抜き棒鋼)も h 寸法で出荷される。標準リーマも逆で H7 寸法で出荷される。
つまり「市販品=固定側」と考えると、「ベアリング・標準シャフト=軸基準」「リーマ穴=穴基準」が必然的に決まる。原則と矛盾するように見える例外は、実は「市販品の固定側」の事情から来ていることが分かる。
外部資料: JIS B 0401(Wikipedia) / 日本産業規格JIS検索(kikakurui.com)
実務での重要性 — 基準誤選択で何が起きるか
事例1: 1軸×3部品を穴基準で描いてシャフト加工コスト3倍
筆者の失敗談。1本の φ20 シャフトにプーリ・歯車・ベアリングを直列で取り付ける機構を、教科書の「穴基準を優先」に従って H7/g6 H7/k6 H7/p6 で描いた。すると軸径が φ20g6 φ20k6 φ20p6 の3種類になり、シャフトに段差を3つ入れて研削する必要が出た。製造から「軸基準にして G7/h6 K7/h6 P7/h6 にすれば軸は φ20h6 1種類で済み、各部品の穴側で公差調整できる。研削工程が1回で済むので加工費が約 1/3 になる」と差し戻された。1軸に複数部品を取り付ける構成では軸基準が圧倒的に有利という鉄則がある。
事例2: ベアリング座を軸基準で描いて差し戻し
別の案件で、ベアリング使用部を G7/h6 の軸基準で描いたら、ベアリングメーカーから「外径は h 等級寸法で標準化されており、当社で G7 寸法のベアリングは作れません。穴側を H7(実際にはベアリング外輪の取付穴は J7・M7 等)で指定してください」と差し戻された。ベアリング使用は穴基準が強制条件だ。
量産時のコスト差は工程選択で決まる
穴基準で H7 統一しておくと、量産時はリーマ・ブローチで一括加工できて安価。軸基準で h6 統一なら研削・センタレス加工で量産可能。どちらも統一していれば安価だが、統一せず混在させた瞬間に工程が複雑化してコストが跳ねるのが量産化検討の落とし穴だ。
既存設計資産との整合
社内で何十年も穴基準で図面を描いてきた組織が、ある製品だけ軸基準に切り替えると、図面体系・社内検査基準・治具設計・サプライヤとの取り決めまで影響する。途中で基準を変えるコストは想像以上に大きく、「例外条件が無ければ既存に揃える」のが原則となる。
活躍する場面 — 4つのシーン
新規設計の初期段階: 概念設計が固まり、いざ図面に起こす前。「この組立構成だとどっちの基準が自然?」を3分で診断できる。組立構成と標準部品の有無を入れるだけ。
既存設計の見直し: 「なぜこの図面は穴基準なんだっけ」を追跡したいとき。確信度と選定理由を見ることで、当時の判断が原則に沿っていたか/例外を踏んでいたかを言語化できる。
量産化検討: 試作で穴基準にしていたが、量産化で「1本の軸に4部品取り付ける構成」が決まったとき。軸基準への切替で加工費が下がるか即判定できる。
新人教育・研修: 「H7/g6 が頻出するけど、なぜ H が基準なの?」「ベアリング使うときだけ何で例外なの?」という質問にツール画面を見せながら答えられる。Kindle 12冊目読者の補助教材としても想定している。
基本の使い方 — 3ステップ
ステップ1: 組立構成を選ぶ。「1穴1軸(単独)」「1軸×複数穴」「複数軸×1穴」「標準シャフト使用」「ベアリング使用」から該当する1つを選択。迷ったら「単独」でOK。
ステップ2: 標準部品と設計条件を入力。深溝玉軸受・標準ピン・標準シャフト・標準リーマ穴など、図面に現れる市販品があれば選択。続いて精度(IT5-6/7-8/9-10)・軸材料・1軸取付部品数・軸全長・量産有無を埋める。
ステップ3: 結果を確認 → fit-grade-selector へ。推奨方式(穴基準/軸基準)と確信度・選定理由・代表コード・例外条件・コスト影響が表示される。「fit-grade-selectorで詳細」ボタンで方式を引き継いで具体的な等級コードの選定へ進める。
具体的な使用例 — 6ケースで判定パターンを掴む
ケース1: ベアリング座(深溝玉軸受+精度高) → 穴基準・確信度高
入力: 組立構成=ベアリング使用 / 標準部品=深溝玉軸受 / 精度=高(IT5-6) / 軸材料=構造用鋼
結果: 推奨=穴基準 / 確信度=高。代表コード H7/k6(中間ばめ・内輪はめあい)。
解釈: ベアリング外径は ISO で h 等級に標準化されているため、設計側が選べるのは「穴を何等級にするか」のみ。優先度ルール第1分岐(standardComponent in [bearing系] → 穴基準・高)にヒット。逆方式での記述は不可能。
ケース2: 1軸×複数部品+複数嵌合(プーリ・歯車4個取り付け) → 軸基準・確信度高
入力: 組立構成=1軸×複数穴 / 標準部品=なし / 1軸取付部品数=4 / 1軸上に複数嵌合部=あり / 量産=on / 軸全長=300mm
結果: 推奨=軸基準 / 確信度=高。代表コード G7/h6 K7/h6 P7/h6。
解釈: 1本のシャフトを φXXh6 の1寸法で精密加工し、4部品それぞれの穴側で隙間/中間/締まりを切り替えるほうが、シャフト3段研削するより加工費が下がる。優先度ルール第4分岐にヒット。冒頭で書いた筆者の失敗談がまさにこのケース。
ケース3: 標準リーマ穴使用(ノックピン圧入) → 穴基準・確信度高
入力: 組立構成=1穴1軸 / 標準部品=標準リーマ穴 / 精度=高(IT5-6)
結果: 推奨=穴基準 / 確信度=高。代表コード H7 固定。
解釈: 標準リーマ径は H7 寸法で出荷されるため、穴側は固定。位置決めピンのはめあいは軸側を m6 p6 等で調整する。優先度ルール第2分岐にヒット。
ケース4: 標準シャフト使用(既製の引き抜き棒鋼を切断使用) → 軸基準・確信度高
入力: 組立構成=標準シャフト使用 / 標準部品=標準シャフト / 精度=中(IT7-8) / 軸全長=200mm
結果: 推奨=軸基準 / 確信度=高。代表コード G7/h6 K7/h6。
解釈: 引き抜き棒鋼は h 等級寸法で市販されており、設計側が削るとコストメリットが消える。穴側を G7 K7 等で調整。優先度ルール第3分岐にヒット。リニアシャフト・ガイドシャフトもこのカテゴリ。
ケース5: 単純な1穴1軸(中精度・1部品) → 穴基準・確信度中
入力: 組立構成=1穴1軸 / 標準部品=なし / 精度=中(IT7-8) / 1軸取付部品数=1 / 1軸上に複数嵌合部=なし
結果: 推奨=穴基準 / 確信度=中。代表コード H7/g6 H7/k6 H7/p6。
解釈: 例外条件にひとつもヒットしないため、JIS B 0401-1:2016 のデフォルトに従って穴基準。「穴加工は軸より公差調整困難」が根拠。確信度は「中」止まりだが、迷ったらこれで OK。優先度ルール最終分岐(else)にヒット。
ケース6: 長尺シャフト3部品取付(500mm) → 軸基準・確信度高 + 警告
入力: 組立構成=1軸×複数穴 / 標準部品=標準シャフト / 1軸取付部品数=3 / 軸全長=500mm / 1軸上に複数嵌合部=あり / 精度=中
結果: 推奨=軸基準 / 確信度=高。代表コード K7/h6。
解釈: 標準シャフト使用が第3分岐に該当し、1軸×複数部品の構成も加味。さらに軸全長 500mm は「中央でつかむ多軸加工機推奨」の警告対象(1mで赤)。長尺軸の高精度加工は工程能力に注意。
補足: アンギュラ軸受外輪はめあい / 複数軸×1穴
アンギュラ軸受も第1分岐に該当し穴基準・確信度高。基板に複数本の軸を打ち込む構成(複数軸×1穴)は第5分岐で穴基準・確信度高となる。穴を1寸法で加工し、軸側で公差調整するほうが効率良い。
仕組み・アルゴリズム — 規則ベースで透明性を確保
候補手法の比較: AI/ML 判定 vs 規則ベース
最初は「過去の図面データを学習させた ML 分類器で方式を判定」という案もあったが、(a) 判断根拠がブラックボックスになり教育用途に向かない、(b) JIS B 0401 という明確な規約があるのに統計的判定をするのは本末転倒、(c) 学習データが集めにくい、という3つの理由で却下した。最終的に6段の優先度判定フローを規則ベースで実装する方針に決めた。これなら「なぜこの方式が選ばれたか」を1行で説明でき、Kindle 12冊目の補助ツールとしても出典が明示できる。
実装詳細: 6段の優先度判定フロー
優先度の高い条件から順に判定し、最初にヒットしたルールで方式を確定する。
function decideFitSystem(input: BasisInput): BasisResult {
// 1. ベアリング使用 → 穴基準・高
if (["deep-groove-bearing", "angular-bearing"].includes(input.standardComponent)) {
return { system: "hole-basis", confidence: "high",
reason: "ベアリング外径はh等級で標準化されるため穴側で公差調整" };
}
// 2. 標準リーマ穴 → 穴基準・高
if (input.standardComponent === "reamer-hole") {
return { system: "hole-basis", confidence: "high",
reason: "リーマ径=H7寸法のため穴基準で固定" };
}
// 3. 標準シャフト → 軸基準・高
if (input.standardComponent === "standard-shaft"
|| input.assemblyType === "use-standard-shaft") {
return { system: "shaft-basis", confidence: "high",
reason: "標準シャフトはh等級寸法なので軸基準" };
}
// 4. 1軸×複数部品 or 複数嵌合 → 軸基準・高
if (input.assemblyType === "one-shaft-multi-hole"
&& (input.partFamilySize >= 2 || input.hasMultipleFitsAlongShaft === "on")) {
return { system: "shaft-basis", confidence: "high",
reason: "1軸を1寸法で加工し、各部品の穴で公差調整したほうが加工効率が良い" };
}
// 5. 複数軸×1穴 → 穴基準・高
if (input.assemblyType === "multi-shaft-one-hole") {
return { system: "hole-basis", confidence: "high",
reason: "穴を1寸法で加工し、軸側で公差調整" };
}
// 6. その他 → 穴基準・中(JIS B 0401 デフォルト)
return { system: "hole-basis", confidence: "mid",
reason: "JIS B 0401 デフォルト(穴加工は軸より公差調整困難)" };
}
優先度の付け方には根拠がある。「市販品が固定する側」が最優先で(条件1〜3)、これは設計者が選べない物理制約。次が**「加工効率が逆転する構成」**(条件4〜5)で、原則を覆すだけの工程的合理性がある。最後が JIS のデフォルト(条件6)。この順番なら例外条件を抜け漏れなく拾える。
計算例: ケース2の判定をステップで追う
入力: assemblyType=one-shaft-multi-hole / standardComponent=none / partFamilySize=4 / hasMultipleFitsAlongShaft=on
- 第1分岐: standardComponent は bearing 系ではない → スキップ
- 第2分岐: standardComponent は
reamer-holeではない → スキップ - 第3分岐: standardComponent は
standard-shaftではない、assemblyType もuse-standard-shaftではない → スキップ - 第4分岐: assemblyType=
one-shaft-multi-holeAND (partFamilySize=4 ≧ 2 OR hasMultipleFitsAlongShaft=on) → ヒット - 結果: recommendedSystem=
shaft-basis、confidence=high、代表コードG7/h6K7/h6P7/h6
このように、上から順に短絡評価していくため、結果が出る理由が必ず1つの分岐に紐付く。確信度は「ヒットした分岐の強さ」をそのまま出している(市販品制約=高、デフォルト=中)。
他ツールとの違い:方針決定に特化した順方向ツール
世の中の「はめあい計算機」「公差ハンドブック」は、ほぼすべてが逆引きツールである。基準寸法と等級コード(H7/g6 など)を入れると、上下偏差・最大すきま・最小すきまが返ってくる、というタイプ。これは公差値そのものが必要な検図フェーズに最適だが、「そもそも穴基準と軸基準どっちを使うべきか」という方針決定の段階では役に立たない。コードが決まっている前提のツールだからだ。
本ツールは逆方向。設計条件(組立構成、標準部品の有無、精度、量産規模、軸長、複数嵌合の有無)を入れると、方針=穴基準か軸基準か+確信度+根拠が返ってくる。順方向の意思決定支援ツールというカテゴリ自体が希少で、検索しても和文記事は数えるほどしか出てこない。多くの設計者は「ベアリングなら穴基準、シャフトに複数部品なら軸基準」という経験則をベテランから口伝で受け継いでいるのが現状だ。
差別化のもう一つの軸が規則ベース診断 + 確信度表示 + JIS 条文の根拠引用。同じ「穴基準」という結論でも、ベアリング座のような確信度=高のケースと、デフォルトで穴基準を選ぶ確信度=中のケースでは、設計レビューでの説明責任の重さが違う。本ツールは確信度を 高/中/低 で明示し、選定理由を 5〜7 項目で並べる。
さらに連携アプリ /fit-grade-selector へワンクリックで推奨方式を渡せる導線がある。方針が決まったら、即座に H7/g6 や H7/k6 などの具体グレード選定へ遷移できる。方針決定→グレード選定→寸法計算という設計フローを、3つのツールでシームレスにつなぐ点が他にない強みだ。
豆知識・読み物:穴基準が標準になった歴史
穴基準(H方式)が世界標準になった背景には、19世紀末から20世紀初頭の**互換性製造(American System of Manufacturing)**の流れがある。それまでの工業製品は「現物合わせ」が基本で、軸と穴を1組ずつ職人が摺り合わせて組み立てていた。これでは大量生産も部品交換もできない。そこで「寸法を規格化し、誰が作っても組み合わせられる部品」を作る思想が生まれた。
このとき問われたのが**「穴と軸、どちらの寸法を固定するか」である。当時の加工技術では、軸を旋盤で切削するのに比べ、穴を任意寸法で精密に加工するのは難しかった(ドリル+リーマ+ボーリングと工程が増える)。そのため「穴は標準寸法で固定し、軸の寸法を変えてはめあいを調整する」穴基準が合理的とされた。リーマやブローチといった穴加工工具が整数mm刻みのH7寸法**で標準化されたのも、この流れに沿っている。
ISO 286 と JIS B 0401 は2016年改正で完全に整合し、穴基準を優先する方針が国際的に統一された。詳しくは Wikipedia: Engineering fits(ISO tolerances) や Wikipedia: すきまばめ・しめしろばめ が参考になる。JIS規格の本文は kikakurui.com の JIS B 0401 検索ページ で閲覧可能。
ただし穴と軸どちらを基準にするかは、国・業界によって揺れた歴史もある。旧JISの一部や、ロシア・東欧で使われていた GOST 規格では一時期軸基準を主軸にしていた時代があり、ヨーロッパの自動車業界でも標準シャフトを多用するため軸基準が根強い。**「穴基準が絶対」ではなく「穴基準が原則、合理的理由があれば軸基準」**というのが現代の正しい理解だ。
Tips(実務ですぐ使える5つのコツ)
- 1軸×複数部品なら必ず軸基準を検討する。プーリ・歯車・カラーが1本のシャフトに3個以上付くなら、シャフトを1寸法で研削し、各部品の穴で公差調整するほうが加工コストが圧倒的に安い。穴は部品ごとに別々の機械で別々の人が加工できるため、並列作業が効くからだ
- 標準ベアリング・標準ピン・標準ブッシュを使うなら穴基準で固定する。これらの標準部品は外径が
h6/h5等級で規格化されているため、ハウジング側の穴で公差調整するしかない。例外を考える必要すらない強制ルール - 既存設計資産の基準系と揃える。途中で基準を変えると同じ装置の中で穴基準と軸基準が混在し、図面体系が崩壊する。改造案件では旧図の基準系を継承するのが鉄則
- 量産品は標準工具で加工できる側を基準にする。リーマ穴は
H7、研削済み標準シャフトはh6で出回っているため、これを買って使う部品側を基準にする - 樹脂×金属嵌合は基準系より材料選定が優先課題。樹脂は線膨張率が金属の5〜10倍、吸水でも寸法が変わる。
H7/g6を選んでも環境変動で簡単に外れるので、はめあい設計に入る前に「本当に樹脂で良いか」を再検討する
FAQ
Q1. 穴基準と軸基準でコスト差はどれくらい?
ケース次第だが、1軸×複数部品の構成で穴基準を選ぶと、軸基準の1.3〜2倍のコストになることがある。具体例で言えば、φ20×300mm のシャフトに 4個の部品を取り付けるケース。軸基準なら軸を一発で h6 研削し、各部品の穴を G7/K7/P7 で別々に仕上げて並列加工できる。穴基準にすると軸の各嵌合部を別寸法で旋削する必要があり、段取替えと公差管理の手間が増える。一方、ベアリング座のような穴基準が必然のケースでは、軸基準にすると標準部品が使えなくなり部品コストだけで数倍になる。一般則は通用せず、構成で判断するしかない。
Q2. ベアリングを使うときに穴基準が強制になる理由は?
標準ベアリングの外径と内径は JIS B 1512(ISO 15)で h6/h5 等級として規格化されているからだ。たとえば深溝玉軸受 6205 の内径は φ25 −0.010/0、外径は φ52 −0.013/0 と規定されており、これは軸基準(h 等級)で固定されている。設計者が公差調整できるのはベアリング側ではなく、ハウジングの穴と軸の側。よって自動的に「穴と軸を H/h 以外の等級で動かす=穴基準」の構図になる。逆に言うと、ベアリング使用時に軸基準を選ぶと、特注ベアリングを発注することになり数十倍のコストになる。例外なく穴基準で良い。
Q3. 軸基準の代表的な使用例は?
代表例は3つ。(1) 1本のシャフトに複数部品を取り付ける構成——プーリ・カラー・歯車を1軸に並べる伝動軸など。シャフトを h6 で研削し、各部品の穴で個別に公差調整する。(2) 標準シャフトを購入して使うケース——市販のリニアシャフト(直線運動軸)は h6/h5 等級で出荷されるため、組み付ける部品側で公差調整。(3) 多関節機構の連結ピン——同じピン1本で複数の穴と嵌合する場合、ピンを基準にした方が設計しやすい。共通点は**「軸が標準化されているか、複数の穴と1本の軸が嵌合する」**という構造。
Q4. 1軸×単独部品で迷うときどうすべき?
確信度=中のグレーゾーンになるが、特別な理由がなければ穴基準を選ぶのがJIS B 0401-2:2016 の推奨方針だ。理由は3つ。(1) 工具側の標準化が穴基準前提(リーマ・ブローチが整数mmのH7寸法)、(2) 既存図面・設計資産との整合性、(3) ISO規格の国際標準。本ツールでは確信度=中で穴基準を提示し、選定理由欄に「JIS デフォルト」と明示する。なお既存設計が軸基準で揃っているなら、新規部品もそれに合わせて軸基準にするほうが図面体系として正しい。原則=穴基準、例外=構成上の合理性がある場合と覚えておけば実務では困らない。
Q5. JIS と ISO で基準系の扱いに違いはある?
2016年の改正でJIS B 0401-2:2016 と ISO 286-2:2010 は完全整合した。穴基準優先という方針も、公差等級の数値も、表記法もすべて一致する。海外図面で H7/k6 と書かれていても、本ツールの推奨と同じ意味として読み替えられる。ただし旧JIS(昭和期)や旧GOST(ロシア規格)では軸基準を主軸にしていた時代もあり、古い設計資料では混在することがある。古い図面を参考にする際は、表題欄の規格番号と発行年を確認し、必要に応じて現行規格に読み替えるとよい。なお米国の ANSI/ASME B4.2 もISOと整合しているが、インチ系のクラス分け(Class LC/LT/LN/FN)は別体系。
まとめ
穴基準と軸基準の選択は、原則は穴基準・例外は構成次第——という二段構えのルール。ベアリング使用なら穴基準、1軸×複数部品なら軸基準、標準シャフト使用なら軸基準、それ以外は穴基準(JIS デフォルト)。本ツールでこの判定を10秒で済ませたら、次は具体グレードの選定へ進む。
- /fit-grade-selector — 推奨方式が決まったら、用途・組立方法から具体的なはめあいコード(
H7/g6・H7/k6・H7/p6など)を逆引き - /jis-fit — 寸法を入れて公差値・最大すきま・最小すきまを 0.001mm 単位で算出
- /tolerance-stack — 複数嵌合部の累積公差をワーストケース法・RSS法で確認
設計レビューでの選定根拠の説明や、図面承認フローでの判断補助にも使ってほしい。要望・不具合報告は /contact からどうぞ。