ガススプリング選定 反力・取付点計算

開度ごとの必要反力カーブから、呼び反力・必要ストローク・取付点の成立性を判定する

跳ね上げ扉・ハッチ・収納フタの重量と取付点座標から、開度ごとの必要反力カーブを描き、 全開保持と全閉維持を両立できる呼び反力・必要ストロークを判定する。

閉じたとき水平な蓋を85°まで起こす。重心も取付点も扉面上(Y=0)にある一番わかりやすい配置

扉の条件

座標(閉じた状態)

回転中心が原点、扉が開いていく側が +X、上が +Y。 すべて扉を閉じた状態で測った値を入れる。扉側の取付点は扉と一緒に回り、本体側は動かない。

重心

扉側取付点

本体側取付点

ガススプリング

φ8〜15級(FGS-8 = 28%/FGS-12 = 25%/FGS-15 = 27%)。迷ったらここ

推奨150 N × 1本最大操作力 12.9N(開度 85°)
選定可能

推奨呼び反力(1本)

150 N

最伸長時(カタログ表記)の値

ウィンドウ 下限

78.1 N

全開で余裕5Nを残せる最小値

ウィンドウ 上限

159.0 N

超えると全閉で自然に開く

最大操作力

12.9 N

1.3 kgf / 目安は20〜70N

開け始めの操作力

2.3 N

0.2 kgf 押し上げる

全開の保持余裕

12.9 N

正なら自力で開いたまま留まる

必要ストローク

127.4 mm

発注時のストローク指定値

最伸長取付長

380.4 mm

最圧縮 253.0 mm

ストローク比

33.5 %

標準品の範囲(40%未満が標準品)

全閉の釣り合い反力

206.7 N

メーカーの1点式と同じ土俵の値

全開の釣り合い反力

32.5 N

開度 85° での値

中立角

23.8 °

これより開けば自分で上がる

取付ジオメトリ(閉じた姿勢と全開姿勢)

θ = 85°回転中心全開 85°
閉じた姿勢全開姿勢の扉全開時のスプリング回転中心

開度と力の関係(必要反力と供給反力)

05611216722321°43°64°85°N開度中立 24°
必要反力供給反力選定可能な範囲中立角・最大操作力の開度腕が反転する区間

計算上の目安。ガススプリングの決定は必ず実機または試験機で確認すること。 1本ヒンジ+直動ガススプリングの単純な機構のみが対象で、4節リンク式のリフト機構は計算できない。

製品のガス反力には±10%程度のばらつきがある/温度が10℃上がると反力は約3.4%増える(基準20℃)/ 窒素ガスは時間とともに徐々に抜けるため反力は経年で低下する/ピストンロッドは下向きに取り付ける。

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蓋が途中でストンと落ちるのは、反力が足りないからではない

工具箱の蓋を開ける。60°くらいまでは指1本でスッと上がるのに、そこから先で急に手応えが消えて、支えていた手を離した瞬間にストンと落ちてくる。あるいはその逆で、閉めたはずの蓋がじわりと持ち上がって半開きのまま止まる。ガススプリングを「たぶんこのくらい」で買って付けたとき、かなりの確率で起きるやつだ。

こうなると誰でも反力(N)を疑う。落ちてくるなら強いものへ、勝手に開くなら弱いものへ。ところが交換しても症状が入れ替わるだけで、どちらも気持ちよくは決まらない。

原因は反力の大きさではない。開度によってモーメント腕の長さが変わることにある。自重を止めるのに要る力も、ガススプリングが実際に出している力も、扉が動くにつれてそれぞれ別の速さで変化していく。片方は減り、もう片方は増える。この2本のカーブが噛み合っていない限り、たった1つの反力値で全開度を満足させることはできない。

このツールは、扉の重量と3点の座標だけから、その2本のカーブを開度0°から全開まで描く。落ちる/開くの両方を同時に避けられる呼び反力の範囲——反力ウィンドウ——を数字で出すのが目的だ。

なぜ作ったのか — メーカーの選定式は腕長を1点でしか見ていない

ガススプリングの選定式は、主要メーカーがそれぞれ公開している。フジラテックスは F = m·g·RM/(LG·n) × S、ナベヤと高千穂交易は fh = (W×L1 − n×Fg×L2)/L3。記号は違うが構造は同じで、扉の自重モーメントとスプリングのモーメントを釣り合わせているだけの、極めて素直な式だ。

問題は、この式に入れる腕長 LGL2)を全閉か全開のどちらか1点でしか評価しないことにある。腕長は開度で数倍変わる。プリセットの工具箱の蓋(8kg・85°)では、スプリングのモーメント腕が全閉94.868mmから全開52.642mmまで縮む。デッキ床下収納のフタ(18kg・90°)に至っては144.295mm→28.708mmで、5倍も違う。1点で決めた反力が、残りの開度で何をしているかは式の外側にある。

実際どうなるかというと、操作力のピークが両端ではなく途中に現れる。デッキ床下収納のケースでは最大操作力14.66Nが開度35°で出る。0°でも90°でもない、真ん中あたりの山だ。検算に使った16ケースのうち4ケースで、ピークが全閉でも全開でもない開度に立った。全閉と全開の2点だけを見る高千穂交易・ナベヤ方式でも、この山はそのまま素通りする。

もうひとつ、1点式では判定しようがない要素がある。必要ストロークだ。取付点を欲張って腕長を稼ぐと必要反力は下がるが、そのぶんストロークが伸びる。単段のガススプリングはストロークが全長の半分を超えられないという幾何の縛りがあるので、計算上は最良でもその寸法の製品が存在しない配置に着地することが普通に起きる。

だから、開度を36等分してスイープし、全点で釣り合いを解く方式にした。1点式も2点式も、この結果の特殊ケースとして再現できる。実際にメーカーの公表計算例と突き合わせて一致することは§7で示す。

ガススプリングの必要反力とは — モーメント腕の求め方から

ガススプリングの必要反力 とは — 釣り合っているのは力ではなくモーメント

「この蓋には何Nのガススプリングが要るか」という問いには、単独では答えが無い。釣り合っているのは力ではなく、回転中心まわりのモーメント(力 × 腕の長さ)だからだ。

たとえ話はドアノブでいい。同じドアでも、蝶番のすぐ横を押すと重く、ノブのある端を押すと軽い。押している力は同じでも、蝶番からの距離が違えばモーメントが違う。ガススプリングも同じで、同じ150Nでも回転中心の近くに付ければ何の役にも立たず、遠ざければ効く。

扉が閉じようとするモーメントと、ガススプリングが開かせようとするモーメントを書き下すとこうなる。

W       = m × 9.80665                 扉の重量 [N]
Mw(θ)   = W × Gx(θ)                   重力の閉じ方向モーメント [N・mm]
Ms(θ)   = n × F × d(θ)                スプリングの開き方向モーメント [N・mm]

釣り合う実反力:  F_need(θ) = Mw(θ) / (n × d(θ))   [N/本]

Gx(θ) は開度θでの重心の水平距離、d(θ) は回転中心からスプリングの作用線までの垂線長、n は本数。ここでθが入っているのが肝で、Gxd も定数ではなく開度の関数になっている。詳しくは力のモーメント(Wikipedia)を見てほしい。

モーメント腕 求め方 — 回転行列と外積で書ける垂線長

扉が開くと、扉側取付点Aも重心Gも扉と一緒に回る。本体側取付点Bだけが動かない。だから開度θでの配置は、閉じた状態の座標を回転行列にかけるだけで出る。

R(θ): (x, y) → (x·cosθ − y·sinθ, x·sinθ + y·cosθ)

A(θ) = R(θ)·A0        扉側取付点(扉と一緒に回る)
G(θ) = R(θ)·G0        重心(扉と一緒に回る)
B                     本体側取付点(固定)

v = A(θ) − B          スプリングの作用線ベクトル
L = |v|               取付点間距離 [mm]
u = v / L             作用線の単位ベクトル

d = A.x·u.y − A.y·u.x     モーメント腕 [mm](正が開き方向)

最後の d は、位置ベクトルと単位ベクトルの外積のz成分そのものだ。幾何的には「回転中心から作用線までの符号付き垂線長」で、垂線の足を作図しなくても座標の掛け算2つと引き算1つで出る。符号が付くのも重要で、d が負になれば同じスプリングが閉じ方向に働いている(オーバーセンター)ことを意味する。

工具箱の蓋のプリセットで実際の値を見ると、Gx は250mm→21.79mm(85°でcos85倍)、d は94.868mm→52.642mm。分子が11.5倍縮むのに分母は1.8倍しか縮まないので、必要反力は206.74N→32.47Nまで落ちる。開けば開くほど、要る力は減っていく。

縮むほど強くなる理由 — F1/F2/F3/F4 と反力変化率

ここに、もうひとつのカーブが重なる。ガススプリングは金属ばねと違って縮むほど反力が上がる。密閉されたシリンダに窒素ガスとオイルが封入されていて、ロッドが押し込まれるとロッドが占める体積の分だけガスが圧縮されるからだ。ボイルの法則そのままで、体積が減れば圧力が上がる。

カタログの反力はこの位置依存を4点で表記する。バンズバッハの基礎知識によれば、F1=完全に伸びきる手前5mm、F2=伸び出した位置から5mm、F3=5mm圧縮した位置、F4=ストロークいっぱい手前5mm。発注時に指定する「呼び反力」は原則F1で、これがいちばん弱い状態の値である点は押さえておきたい。

F1とF4(あるいはF2)の比が反力変化率で、フジラテックス FGS シリーズのカタログの表1に実測値が載っている。FGS-8=28%、FGS-10=20%、FGS-12=25%、FGS-15=27%、FGS-19=36〜42%、FGS-22=39〜50%、FGS-28=60〜84%。細径ほど小さく、太径ほど大きい。ガス室の体積に対してロッドが排除する体積の割合が効いているので、この傾向は物理的にも素直だ。

ツールでは変化率を4段(20%/30%/45%/70%)から選ぶ形にして、取付点間距離から反力係数を線形補間している。

k    = 1 + 変化率 / 100                          最圧縮 ÷ 最伸長
c(θ) = 1 + (k − 1) × (Lext − L(θ)) / (Lext − Lcomp)

最伸長で c = 1、最圧縮で c = k。供給反力は F_supply(θ) = F1 × c(θ) になる。必要反力は開くほど減り、供給反力は開くほど増える。この2本が交わる開度が「中立角」で、そこより開いていれば扉は自分で全開まで上がっていく。

反力を外すと現場で何が起きるか

弱すぎた場合の失敗はわかりやすい。全開位置で保持できず、支えを外した瞬間に落ちてくる。跳ね上げ収納ベッドの床板は25kg、跳ね上げ高さは1m近い。指を挟めば骨まで行くし、蓋がガラスなら割れる。機械の安全カバーで同じことが起きれば、点検作業中の作業者の上に落ちる。

強すぎた場合は事故にはなりにくいが、製品としては完全に破綻する。閉めても勝手に持ち上がる、閉じきる直前でグッと押し込まないと収まらない、閉めた状態でパッキンが常に押し上げられて水が入る。工具箱の蓋のプリセットで言えば、上限159.03Nを超えた反力を選ぶとこの領域に入る。

だからツールは反力を1つの値ではなく上限と下限の範囲で出す。全開で保持できる下限と、全閉で自然開放しない上限。この2本立てが「反力ウィンドウ」だ。

問題は、このウィンドウが見た目より狭いことにある。ガススプリングの反力は3つの要因で公称値からずれる。

要因変動幅出典
温度10℃で約3.4%フジラテックス/栃木屋(同値)
個体ばらつき±10%程度フジラテックス カタログ注記
経年窒素が徐々に抜けて低下フジラテックス カタログ注記

工具箱の蓋のウィンドウは78.06〜159.03Nで、上下の比が2.04倍ある。これなら±10%のばらつきを乗せても余裕がある。ところが跳ね上げ収納ベッドは164.33〜203.79Nで、幅は24%しかない。個体ばらつきの±10%(合計20%)だけでほぼ食い潰す計算になる。ウィンドウの幅が変動要因の合計より狭ければ、計算が合っていても製品として成立しない。 フジラテックスがカタログの選定例の末尾に「この選定法は、あくまで計算上のもの」と念を押しているのは、この構造があるからだ。

経年低下は方向が決まっているぶん、設計で織り込める。ガスは抜ける一方なので反力は下がる一方であり、ウィンドウの上限寄りを選べばそのぶん寿命が延びる。屋外用途なら温度も効く。デッキ床下収納は真夏と真冬で本体温度が30℃違ってもおかしくなく、それだけで約10%変わる。夏に軽く、冬に重くなる。

取付向きの制約も忘れやすい。栃木屋は「ピストンロッドを下側にして取り付けてください」と明記している。シリンダ内のオイルがロッド側のシールを潤滑する構造なので、ロッドを上向きにするとシールが乾いてガス抜けが早まる。幾何計算では出てこない要件だが、寿命に直結する。

操作力そのものの目安は、ナベヤが「この値が2〜7kg となるようにします」と書いている。上限の7kgf ≒ 68.6N を丸めた70Nを超えたら、取付点か本数を見直したほうがいい。

跳ね上げ扉・ハッチ・安全カバー — 実際に効く4つの場面

跳ね上げ収納ベッドの床板。 マットレスごと持ち上がる床板は20〜30kgになる。市販の収納ベッドは初期状態でうまく釣り合っていても、後からマットレスを厚いものに替えると釣り合いが崩れて落ちてくるようになる。質量だけ差し替えて必要反力の変化を見るのに向く。

ウッドデッキ・床下収納のフタ。 屋外の跳ね上げフタは重心が浅く、90°まで開くケースが多い。90°まで開くと重心が回転中心の真上に来るので全開の必要反力が0になり、下限は「保持余裕を出すためだけの値」で決まる。1点式で全開だけ見ると0Nと出てしまう配置の代表例だ。

工具箱・道具箱の蓋。 8kg前後の軽い蓋。軽いぶんウィンドウが広く、DIYで最初に触るならここが入りやすい。取付点の座標を10mm動かすとカーブがどう変わるかを掴む練習台になる。

機械の安全カバー。 インターロック付きの上開きカバーは、全開で確実に保持できることが安全要求そのものになる。左右2本で受けるのが定石で、本数を1本/2本で切り替えると必要反力がちょうど半分になることが確認できる。

DIYの棚や物置から、機械設計の安全カバーまで、幾何が同じなら同じ計算で通る。

使い方は3ステップ

① 扉タイプのプリセットを選ぶ。 工具箱の蓋・跳ね上げ収納ベッド・吊戸棚の跳ね上げ扉・機械の安全カバー・デッキ床下収納の5種類が入っている。選ぶと11項目の入力がまとめて差し替わるので、自分の対象に近いものから始めて数字を寄せていくのが早い。

② 質量・全開角度・操作点までの距離を実物に合わせる。 質量は蓋そのものの重さで、取っ手や補強材も含める。全開角度はストッパーで止まる角度。操作点距離は回転中心から手をかける位置までの距離で、操作力はここで測った値として出る。

③ 重心と2つの取付点の座標を入れる。 ここが本題になる。座標系は回転中心が原点、扉が開いていく側が+X、上が+Y、閉じた状態の座標で統一する。板状の蓋なら重心は奥行の中央でよく、扉面上にあるならYは0。上開きの蓋では本体側取付点が回転中心より下に来るのでYは負になる。吊戸棚のように閉じたとき扉が真下を向く配置なら、重心のYが大きな負の値になる。

座標を6つも打ち込むので符号を間違えやすいが、入力すると取付ジオメトリの側面図が表示され、閉じた姿勢と全開姿勢の扉線・重心・取付点・スプリング線が重ねて描かれる。意図した配置になっているかはこの図で確認できる。あわせて開度と力の関係を示すカーブが表示され、必要反力と供給反力の2本、選定可能な反力ウィンドウの帯、中立角の位置が読み取れる。

使用例8ケース — プリセット5種とメーカー公表計算例の再現

数値はすべて実装の検算に使ったテストベクターの値で、入力値・結果・解釈の3点セットで並べる。

ケース1:工具箱・道具箱の蓋(8kg・1本・変化率30%)

入力値 質量8kg/重心(250, 0)/扉側取付点(300, 0)/本体側取付点(60, −80)/全開85°/操作点480mm/1本/変化率30%

結果 推奨呼び反力150N・反力ウィンドウ78.06〜159.03N・全閉の釣り合い反力206.74N・全開の釣り合い反力32.47N・最大操作力12.89N(開度85°)・開け始めの操作力2.32N・中立角23.85°・必要ストローク127.39mm・最伸長取付長380.37mm・ストローク比0.3349

解釈 重量8kg(W=78.453N)に対して全閉の釣り合いが206.74Nになるのは、腕長が94.868mmしかないから。ここでメーカー式をそのまま使うと「207N必要」という結論になるが、この配置では206.74Nを選ぶと全閉で反力係数1.30が乗って自然開放する。上限は206.74÷1.30=159.03Nで、市販ラインナップの150Nがちょうど収まる。最大操作力12.89N(約1.3kgf)は全開位置。ウィンドウの上下比が2.04倍あるので、経年低下を見込んで上限寄りを選ぶ余地もある。

ケース2:跳ね上げ収納ベッドの床板(25kg・2本・変化率45%)

入力値 質量25kg/重心(400, 0)/扉側取付点(480, 0)/本体側取付点(100, −140)/全開70°/操作点820mm/2本/変化率45%

結果 推奨200N×2本・ウィンドウ164.33〜203.79N・全閉の釣り合い295.49N・全開の釣り合い146.43N・最大操作力14.96N(開度70°)・開け始め2.22N・中立角45.23°・ストローク189.56mm・最伸長594.53mm・比0.3188

解釈 25kg(W=245.166N)の床板を2本で受けるので、1本あたりの必要反力は半分になる。ウィンドウの幅が164.33〜203.79Nと24%しかないのは、変化率45%(φ19〜22級)を選んだ結果として上限が295.49÷1.45まで押し下げられているため。ここは製品の±10%ばらつきと真正面からぶつかる帯なので、実機での確認がとくに要る場面だ。最大操作力14.96N(約1.5kgf)は操作点が820mmと遠いおかげで、扉自体は重いのに軽く感じる。

ケース3:吊戸棚の跳ね上げ扉(4kg・閉=垂直・1本・変化率20%)

入力値 質量4kg/重心(0, −175)/扉側取付点(−40, −300)/本体側取付点(−20, −100)/全開90°/操作点330mm/1本/変化率20%

結果 推奨100N・ウィンドウ下限90.01N/上限0N・全閉の釣り合い0N・全開の釣り合い72.56N・最大操作力17.34N(開度40°)・開け始めの操作力−3.62N・中立角0°・ストローク124.58mm・比0.3826

解釈 閉じたとき扉が真下を向く配置なので、全閉では重心が回転中心の真下に来る。水平距離0=重力モーメント0となり、どんな反力を選んでも全閉では開き方向になる。上限ウィンドウが0Nと出るのはそういう意味で、入力ミスではない。実際に開け始めの操作力は−3.62N(マイナス=手を離すと開く)。ただしガススプリング内部の摺動抵抗は数N分あるので、この程度なら実機では動かない。とはいえマグネットキャッチかプッシュラッチの併用が確実だ。最大操作力17.34N(約1.8kgf)が開度40°に立つのも、両端評価では見えない。

ケース4:機械の安全カバー(15kg・2本・変化率30%)

入力値 質量15kg/重心(320, 0)/扉側取付点(400, 0)/本体側取付点(40, −80)/全開80°/操作点620mm/2本/変化率30%

結果 推奨200N×2本・ウィンドウ125.58〜208.65N・全閉の釣り合い271.24N・全開の釣り合い91.05N・最大操作力15.78N(開度80°)・開け始め3.15N・中立角35.88°・ストローク106.06mm・最伸長474.84mm・比0.2233

解釈 5つのプリセット中でストローク比が最小(0.2233)の配置。本体側取付点を回転中心の近く(40, −80)に置いた効果で、扉が80°回ってもスプリングの伸縮量が106mmで済む。標準品の在庫から選びやすい寸法になる代わりに、腕長が短いぶん必要反力は上がる——これがトレードオフの見える形だ。

ケース5:ウッドデッキ床下収納のフタ(18kg・1本・変化率45%)

入力値 質量18kg/重心(300, 0)/扉側取付点(360, 0)/本体側取付点(40, −140)/全開90°/操作点580mm/1本/変化率45%

結果 推奨250N・ウィンドウ101.02〜253.10N・全閉の釣り合い367.00N・全開の釣り合い0N・最大操作力14.66N(開度35°)・開け始め1.12N・全開の保持余裕12.37N・中立角73.83°・ストローク152.31mm・比0.3036

解釈 全開90°で重心が回転中心の真上に来るため、全開の釣り合い反力が0Nになる。つまり自重だけで開いたまま留まる位置で、ウィンドウの下限101.02Nは「保持余裕5Nを出すためだけ」に決まっている。そして最大操作力14.66N(約1.5kgf)が全閉でも全開でもない開度35°で出る。全閉と全開だけを見る2点式は、この山を構造的に取りこぼす。1点式に至っては全開の必要反力0Nから何も言えない。

ケース6:高千穂交易の公表計算例を再現する(検証)

入力値 質量15.29574kg(W=150N)/重心(250, 5)/扉側取付点(242, 198)/本体側取付点(107.5, 18)/全開80°/操作点500mm/2本/変化率30%

結果 推奨100N×2本・ウィンドウ46.99〜191.44N・全閉の釣り合い248.87N・最大操作力35.82N(開度0°)・開け始め35.82N・全開の保持余裕23.67N・中立角49.03°・ストローク139.61mm・比0.3832

解釈 高千穂交易「ガススプリングの選び方」が公開している計算例の座標をそのまま入れたもの(Y符号だけ本ツールの「開く側が正」の規約に合わせて反転)。突き合わせるとこうなる。

項目本ツール同社の公表値
重力の腕 L1(全閉)250.000 mm250 mm
重力の腕 L1(全開80°)38.488 mm38.49 mm
スプリングの腕 L2(全閉)75.340 mm75.07 mm
スプリングの腕 L2(全開80°)88.028 mm88.17 mm
操作力(全閉)+35.823 N+35.96 N
全開の保持余裕+23.665 NFh = −23.72 N(符号規約が逆)

残差はいずれも0.4%以内で、同社が座標を0.5mm刻みに丸めていることで説明がつく。反力係数も変化率30%を選ぶと全閉/全開比1.30となり、同社が使っている全閉130N/全開100Nと同じ比になる。そのうえで、本ツールが最大操作力の最小化から独立に選んだ推奨反力100Nが、同社の計算例が採用している反力と一致した。回転方向の規約・外積による腕長・反力係数の線形補間という3つの独立な仮定を、1つの公表例で同時に検証できたことになる。

ケース7:同じ配置を1本にする(ケース4との対比)

入力値 ケース4と同一で、本数だけ2本→1本

結果 推奨350N・ウィンドウ251.17〜417.29N・全閉の釣り合い542.48N・全開の釣り合い182.10N・最大操作力12.24N(開度0°)・開け始め12.24N・中立角57.71°・ストローク106.06mm・比0.2233

解釈 本数だけを変えると、モーメント腕・ストローク・反力係数はいっさい変わらず、必要反力とウィンドウがちょうど2倍になる(271.24→542.48N、125.58→251.17N、208.65→417.29N)。推奨も200N×2本から350N×1本へ。数学的には当たり前だが、市販ラインナップへの丸めが入るので「2本を1本にまとめる」と単純に倍の反力が買えるとは限らない点は見ておく価値がある。最大操作力のピーク位置が80°から0°に移っているのも、丸めの結果としてカーブの釣り合い方が変わったことによる。

ケース8:変化率だけ30%→70%にする(ケース1との対比)

入力値 ケース1と同一で、反力変化率だけ30%→70%

結果 推奨100N・ウィンドウ78.06〜121.61N・全閉の釣り合い206.74N・全開の釣り合い32.47N・最大操作力7.41N(開度85°)・開け始め7.26N・中立角65°

解釈 必要反力側(206.74N/32.47N)は幾何だけで決まるので変化率を変えても動かない。動くのは供給側だ。全閉の反力係数が1.30→1.70に上がるので、上限ウィンドウが159.03→121.61Nまで下がり、推奨は150N→100Nに落ちる。下限78.06Nは最伸長側(c = 1.00)が基準なので変わらない。ウィンドウが上から潰れるわけで、これがφ28級のような変化率の大きいシリーズを使うときの制約になる。高千穂交易が「全閉時の反力は全開時の1.5倍以下に」と指針を出しているのは、まさにこの幅の話だ。

仕組み — 開度全域スイープと最大操作力の最小化

手法の選択:1点式・2点式・全域スイープ

候補は3つあった。

(1) メーカー式そのまま(1点評価)。 F = m·g·RM/(LG·n) を全閉で解く。実装は数行で済むが、腕長を1点でしか見ないので取付点の良し悪しが判定できない。ケース5のように途中で操作力の山が立つ配置も、ケース1のように反力係数で上限が押し下げられる事情も表現できない。

(2) 全開・全閉の2点評価(高千穂交易・ナベヤ方式)。 両端の操作力が出るので実用度は上がる。ただし検算した16ケースのうち4ケースで最大操作力が両端以外の開度に立った。取りこぼす確率は無視できない。

(3) 開度全域を離散スイープして最大操作力を最小化する。 本ツールが採用。(1)(2) は (3) の特殊ケースとして再現できるので上位互換になっている。実際、ケース6では高千穂交易の公表値を誤差0.4%以内で返す。(1) のフジラテックス式が出す値も、結果セルの「全閉の釣り合い反力」がそのまま同じものになっている。

分割数は36(37点)にした。カーブが滑らかに描ける粒度であり、かつ市販ラインナップ16候補 × 37点 = 592回の評価で済むので、入力を1文字打ち替えるたびに再計算しても引っかからない。

実装フロー

まず開度をスイープして、各点の幾何量を出す。

for (let i = 0; i <= 36; i++) {
  const theta = ((openAngleDeg * i) / 36) * (Math.PI / 180);
  const A = rotate(doorMount, theta);   // 扉側取付点は扉と一緒に回る
  const G = rotate(cg, theta);          // 重心も一緒に回る
  const Mw = doorMassKg * 9.80665 * G.x;          // 重力の閉じ方向モーメント
  const v = { x: A.x - bodyMount.x, y: A.y - bodyMount.y };
  const L = Math.hypot(v.x, v.y);                 // 取付点間距離
  const u = { x: v.x / L, y: v.y / L };
  const d = A.x * u.y - A.y * u.x;                // モーメント腕(正が開き方向)
  sweep.push({ theta, Mw, L, d });
}

次に、スイープ結果の最大・最小から反力係数を割り当て、反力ウィンドウを出す。ここで注意したのは、ウィンドウを呼び反力 F1 換算で出すことだ。発注するのは F1 なので、圧縮側の実反力をそのままカタログ値と比べると取り違える。

const Lext = Math.max(...sweep.map((p) => p.L));   // 最伸長取付長
const Lcomp = Math.min(...sweep.map((p) => p.L));  // 最圧縮取付長
const k = 1 + forceChangeRatePct / 100;
const c = (L: number) => 1 + (k - 1) * (Lext - L) / (Lext - Lcomp);

// 下限: 全開で操作点換算5Nの余裕を残して保持できる最小の呼び反力
const windowMin = Math.max(0, (open.Mw + 5 * handleDistance) / (n * c(open.L) * open.d));
// 上限: 全閉で自然開放しない上限(全閉の腕が実質ゼロ以下なら上限なし)
const windowMax = closed.d > 1
  ? Math.max(0, closed.Mw / (n * closed.d) / c(closed.L))
  : null;

最後に、市販ラインナップから呼び反力を選ぶ。

const STANDARD_FORCES_N = [50, 100, 150, 200, 250, 300, 350, 400,
                           450, 500, 600, 700, 800, 900, 1000, 1200];

for (const f of STANDARD_FORCES_N.filter((f) => f >= windowMin)) {
  // 正味モーメント(正が開き方向)の絶対値の最大を操作点距離で割る
  const peak = Math.max(
    ...sweep.map((p) => Math.abs(n * f * c(p.L) * p.d - p.Mw))
  ) / handleDistance;
  if (peak < bestPeak) { bestPeak = peak; best = f; }   // 同値なら小さい方
}

選定基準を「ウィンドウ内の最大値」ではなく「最大操作力の最小化」にしたのは設計判断だ。全閉でオーバーセンターになる配置ではウィンドウに上限が存在せず、最大値を選ぶ方式だと4kgの吊戸棚に1200Nを推奨してしまう。最大操作力の最小化なら上限の有無に関係なく必ず一意に決まり、しかもメーカーの公表例が実際に採用している反力と一致した(ケース6)。

ケース6の数字を手で追う

高千穂交易の再現ケースを、全閉と全開の2点だけ手計算で追ってみる。

W  = 15.29574 × 9.80665 = 150 N,  n = 2,  操作点 Lh = 500 mm

全閉(θ = 0°)
  重力の腕 Gx  = 250.000 mm      →  Mw = 150 × 250.000 = 37,500.0 N・mm
  スプリングの腕 d = 75.340 mm
  反力係数 c   = 1.30(最圧縮側)
  供給モーメント = 2 × 100 × 1.30 × 75.340 = 19,588.4 N・mm
  正味 M = 19,588.4 − 37,500.0 = −17,911.6 N・mm
  操作力 = −M / Lh = +35.823 N   ← 押し上げる力が要る

全開(θ = 80°)
  重力の腕 Gx  = 38.488 mm       →  Mw = 150 × 38.488 = 5,773.2 N・mm
  スプリングの腕 d = 88.028 mm
  反力係数 c   = 1.00(最伸長側)
  供給モーメント = 2 × 100 × 1.00 × 88.028 = 17,605.6 N・mm
  正味 M = 17,605.6 − 5,773.2 = +11,832.4 N・mm
  保持余裕 = M / Lh = +23.665 N  ← 自力で開いたまま留まる

全閉で腕が75.340mmしかないのに全開では88.028mmに伸びる一方、重力の腕は250.000mmから38.488mmへ6.5分の1に縮む。だから正味モーメントの符号が途中で反転し、中立角49.03°を境に「押し上げる領域」と「勝手に上がる領域」に分かれる。ツールはこの符号反転を線形補間で拾って中立角として出している。

ストローク成立性はこれとは独立に判定する。ストローク比 = (最伸長 − 最圧縮) ÷ 最伸長 で、0.40未満なら標準品の範囲、0.47未満ならロングストローク品か特注、それ以上は単段のガススプリングでは製品が存在しない。ケース6は139.606 ÷ 364.307 = 0.3832 なので標準品の帯に収まる。

既存のガススプリング計算ツールと、ここが違う

メーカーの選定解説が腕の長さを1点か2点でしか見ていないことは前半で触れたとおりなので、ここではその先——実際に「数値を入れると答えが返ってくる」ツールとの差だけを並べる。

唯一の汎用計算ツールは「検証」であって「選定」ではない

日本語で使える汎用のガススプリング計算ツールは、調べた限り実質1つしかない。来チャイナ.com のガススプリングの反力と扉の開閉操作力の計算ツールだ。扉重量、重心座標、支点座標、作用点座標、操作点座標に加えて、最大長 Lmax・最小長 Lmin、2点で測った反力 Fa/Fb とその位置、本数、そして開度θ——合計17項目を打ち込むと、その開度での操作力が1つ返ってくる。

引っかかるのは入力の中身のほうだ。Lmax/Lmin と Fa/Fb を要求するということは、すでに製品が1つに決まっている前提になる。カタログから型式を選び、寸法と反力を書き写し、「この製品で足りるか」を確かめる。これは検証であって選定ではない。買う前に「何Nを買えばいいのか」を知りたい人には順番が逆だ。

そして返ってくるのは、入力したθ1点での操作力だけ。開度全域の様子が見たければ、θを5°刻みで打ち直して17回計算することになる。ページに載っている開度と操作力のカーブは参考図で、自分の入力からは描かれない。

本ツールは向きを逆にした。製品ではなく取付点の座標を入れると、開度を36等分した37点をまとめて評価し、市販ラインナップ16段のうちどれを買えばいいかまで返す。開度は入力項目ですらない。スガツネ工業の「さスガくん」は自社品前提の選定依頼フォーム、ナベヤ・高千穂交易・MISUMI・栃木屋は式と記号定義を載せた読み物で、どれも汎用の取付点検討には使えない。

どこも計算していない3つのこと

1. 反力ウィンドウを上下2本立てで出す。 既存ツールが返すのは「釣り合う反力」1つだ。工具箱の蓋のケース(8kg・1本・変化率30%)だと、全閉での釣り合い反力は206.7N になる。ところがこれは縮みきった状態での実反力であって、発注時に指定する呼び反力ではない。呼び反力に直すと上限は159.0N で、全開保持に要る下限は78.1N。206.7N をそのまま発注すれば、蓋は閉めても勝手に持ち上がってくる。上限と下限を両方出さないと、この取り違えは防げない。

2. ストローク比が単段の幾何で成立するかを見る。 工具箱の蓋と扉側の条件は同じまま、本体側取付点だけを回転中心から遠ざけた配置を計算すると、必要反力は下がってウィンドウ 49.4〜71.1N・推奨50N と、いかにも余裕がある答えが出る。だが必要ストロークは233.4mm、そのときの最伸長取付長は488.0mm。比は0.478で、その寸法の単段ガススプリングは市販されていない。反力だけ見ているとこの壁は見えない。

3. 開度途中で効く向きが反転するのを検出する。 本体側取付点を扉の開く側に置くと、全閉でスプリングの作用線が回転中心の反対側を通り、閉じ方向に働く。この状態では反力ウィンドウの上限が消え、結果には「上限なし」と出る。代償として開け始めの操作力が32.1Nまで重くなる。狙って使えばラッチ要らずの設計になるが、気づかずに踏むと「なぜか開け始めだけ異様に重い蓋」ができあがる。

前後の工程は別のツールに任せている

扉が枠・パネル・取っ手・金具の寄せ集めでできているなら、まず合成重心を出す必要がある。それは重心計算&転倒角度計算のツールの担当で、そこで求めた重心座標を本ツールの重心 X/Y に入れる。逆に、ガススプリングでは受けきれない重量域——本ツールが「ラインナップ上限超え」を返すような、全開保持に要る呼び反力だけで3448N に達するカバー——は、ホールディングブレーキ選定計算の守備範囲になる。1本のツールで全部やろうとせず、重心を出す前工程と、保持手段を替える後工程は分けてある。

単段のガススプリングは、全長の半分までしか縮まない

ガススプリングを選んでいると、あるところで急に「そんな製品は無い」と言われる。反力は足りているのに、寸法が存在しない。この壁の正体は材料でも技術でもなく、ただの幾何だ。

単段のガススプリングは、シリンダにロッドが刺さっているだけの構造をしている。縮みきったときにロッドがシリンダへ完全に飲み込まれたとしても、ストロークはロッドの長さを超えられない。そして伸びきった全長は「シリンダ長+ロッド長」だ。つまり、

ストローク ÷ 全長 ≦ 1/2

が構造から決まってしまう。しかも実物にはシール、ガイド、両端の取付アイが必ず要るので、0.5には決して届かない。

フジラテックスのFGS-22 カタログの寸法表を眺めていて面白かったのは、14行あるストロークと全長の対応が、例外なく1本の直線に乗っていたことだ。

ストローク  50 mm → 全長  164 mm  (比 0.305)
ストローク 100 mm → 全長  264 mm
ストローク 300 mm → 全長  664 mm
ストローク 500 mm → 全長 1064 mm
ストローク 700 mm → 全長 1464 mm  (比 0.478)

          全長 L = 2 × ストローク + 64

係数が2なのは上の幾何そのもの。切片の64mm が、シールと取付アイに食われる「デッドレングス」だ。ストロークを2倍にすれば全長も2倍近くになるが、64mm は増えない。だから比は最短品の0.305から最長品の0.478へ、ストロークを伸ばすほど0.5へじりじり近づいていく。このカタログの最長品ですら0.478というのが、単段では0.47あたりが実質的な天井だという根拠になっている。

厄介なのは、この64mm が機種でまるで違うことだ。別メーカーの実在品には最大長364mm・最小長264mm・ストローク100mm という組み合わせがあり、こちらのデッドレングスは164mm、比は0.275しかない。コンパクト型ほど切片が大きく、比は稼げない。だから本ツールはデッドレングスを定数として持たず、比だけで成立性を判定している。

そして、この幾何がそのまま「取付点を欲張ると製品が消える」現象になる。取付点を回転中心から遠ざけると腕が長くなり、必要反力は素直に下がる。設計としては正しい方向に見える。ところが同時に、開閉で取付点間距離が動く量、つまりストロークも伸びる。反力が下がって嬉しがっているうちに比が0.47を越え、買える製品が無くなる。反力とストロークは同じレバーの裏表なので、片方だけ見て最適化すると必ずこの罠を踏む。

なぜ空気ではなく窒素なのか

中身が窒素なのにも理由がある。ガススプリングの内部には、シールを潤滑して密封性を保つためのオイルが少量入っている。ここに空気を詰めると、酸素がオイルとゴムシールを何年もかけて酸化させ、湿気が混じっていればシール面が錆びる。数十年動かないまま待機することもある部品にとっては致命的だ。窒素は大気の8割を占めるほどありふれていながら常温では他の物質とほとんど反応せず、乾燥した状態で安く手に入る。おまけに理想気体に近い素直な振る舞いをするので、温度が変わったときの反力の増減が直線として扱え、カタログに「10℃あたり何%」という一言で書ける。不活性であることと、挙動が予測しやすいこと——この2つが同時に要るから窒素が選ばれている。

使いこなしのコツ

取付点は1mmずつ振ってみる。 このツールで一番情報量があるのは推奨反力の数字ではなく、座標を動かしたときにカーブの形が変わる様子のほうだ。本体側取付点を少し下げただけで、一番重くなる開度が別の場所へ移ってしまうことがある。数字を1回出して終わりにせず、実物で動かせる範囲だけ座標を振って、カーブが一番平らになる位置を探すほうが早い。

本体側取付点を回転中心に近づけるか遠ざけるかは、トレードオフとして眺める。 近づければストローク比は小さくなって製品は見つかりやすくなるが、腕が短くなるので必要反力は上がる。遠ざければ逆になる。前の章で挙げた「必要反力は下がったのに比が0.478になって製品が消える」ケースが、そのやりすぎた側の端だ。使用例に載せた5つのプリセットは、この振れ幅のどのあたりに実用的な配置が落ち着くのかの物差しになるので、自分の座標を入れる前に一通り眺めておくといい。

経年低下を見込んで、ウィンドウの下限ギリギリは避ける。 ガススプリングはシールから徐々にガスが抜ける性質があり、カタログにもそれを見込んで反力を設定するよう書かれている。下限ちょうどを選ぶと、新品では保持できても数年で全開の途中から落ちてくるようになる。ウィンドウに幅があるなら中央からやや上限寄りを取り、上限側で全閉の自然開放が気になるならマグネットキャッチを併用するのが現実的な落としどころだ。

屋外用途は夏と冬を別々に計算する。 温度で反力が動くことは前半の実務セクションで触れたとおりで、ウッドデッキの床下収納のように直射日光が当たる場所では、真夏の天板裏と真冬の朝で条件がまるで違う。冬に全開保持ができる下限と、夏に全閉が保てる上限の、両方を満たす反力を選ぶ。ウィンドウの幅が狭い配置ほど、屋外では成立しにくい。

本数の2択は最初に振っておく。 1本と2本では、腕の長さもストロークも反力係数も一切変わらず、必要反力とウィンドウだけがちょうど半分・2倍になる。左右対称に2本付けられる扉なら、まず2本で計算してから1本に落として比べたほうが、選べる反力の選択肢が広い。

よくある質問

座標の符号が合っているか自信がない。どう確かめればいい?

ルールは「回転中心が原点・扉が開いていく側が+X・上が+Y・閉じた状態での座標」の4つだけだ。上開きの蓋なら、閉じたときに蓋の先端が向いている方向が+X。本体側取付点は箱の内側の低い位置に付けることが多いので、Y は負になる。吊戸棚のように閉じたとき扉が真下を向く場合は、重心の Y が大きな負の値になる。

自信がなくても、入力するとその座標がそのまま取付ジオメトリの側面図に描かれる。回転中心・重心・扉側取付点・本体側取付点と、閉じた姿勢/全開姿勢の扉線が引かれるので、図の向きが実物と逆になっていたらどれかの符号が逆だ。6つの座標を打ち込むツールで図が無いと符号ミスに気づけないので、この図は数値より先に見てほしい。

扉が枠とパネルと取っ手の寄せ集めで、重心がどこか分からない

厳密にやるなら、部材ごとの質量と重心位置から 合成重心 = Σ(質量 × 座標) ÷ Σ質量 を計算する。手計算が面倒なら、重心計算&転倒角度計算のツールにパーツ構成を入れて合成重心を出し、その値を本ツールの重心 X/Y に移せばいい。

実物が既にあるなら、扉を外して細い棒や指の上で釣り合う位置を探すほうが早くて正確だ。均一な板に薄い縁材が付いている程度なら、奥行の半分に置いておけば実用上の誤差に収まる。重心が数mm ずれても推奨反力の段が変わることは少ないが、重心が回転中心の真上・真下を越えるかどうかの境目にいるときだけは影響が大きいので、そこは慎重に測る。

反力ウィンドウの上限が「上限なし」と表示された。壊れているのか?

壊れていない。全閉の位置でガススプリングの作用線が回転中心の反対側を通っている状態、いわゆるオーバーセンターだ。このときスプリングは扉を開ける向きではなく閉じる向きに働くので、どれだけ強い反力を選んでも全閉で勝手に開くことがない。上限が存在しないので「上限なし」と表示している。

代償は開け始めの重さだ。実際にこの配置になるケースでは、開け始めの操作力が32.1N まで上がる。ラッチやキャッチを付けたくない設計では有利だが、毎日何度も開ける扉には向かない。モーメント腕がどう符号を変えるのかは前半の基礎解説で導出しているので、仕組みが気になったらそちらを参照してほしい。

推奨された反力の製品が手元のカタログに無い。端数はどう扱う?

推奨値は市販ラインナップ16段(500N までは50N刻み、そこから1000N までは100N刻み、最上段が1200N)から選んでいるので、汎用品としては入手しやすい段のはずだ。それでも合わない場合は、多くのメーカーが型式ごとのガス反力範囲内で10N単位の設定に応じている。フジラテックスのカタログにも明記がある。

その受注をかけるときに使うのが反力ウィンドウだ。下限と上限が両方表示されているので、その間に入る値を10N単位で指定すればよい。前の章で挙げた工具箱の蓋のウィンドウのように幅に余裕がある配置なら、10N刻みで選べる値がいくつも収まる。ラインナップに丸める必要があるのは在庫品を買うときだけで、ウィンドウそのものは連続した範囲として出している。

「単段のガススプリングでは不可能なストローク比」と出た。何を直せばいい?

直すのは反力ではなく取付点だ。ストローク比が大きいということは、開閉の間に取付点間距離が動きすぎているという意味なので、扉側取付点か本体側取付点のどちらかを回転中心へ近づけて、動く量を減らす。近づけるとモーメント腕が短くなって必要反力は上がるが、反力は50N刻みで買い足せる一方、存在しない寸法は買えない。まず寸法を成立させ、そのうえで反力が上限に収まるかを見る順番になる。

どうしても長いストロークが要るなら、2段式の製品を扱うメーカーに相談するか、リンクを介して扉の動きを減速させる機構に切り替えることになる。どちらも本ツールの計算モデル(1本ヒンジ+直動スプリング)の外なので、判定は出せない。

入力した寸法や重量は、どこかに送信されているのか?

送信していない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、入力値がサーバーへ送られることも、保存されることもない。試作段階の製品寸法や、公開前の設計値を入れても外には出ない。

結果を持ち出したいときはコピーボタンを使えば、推奨反力・ウィンドウ・ストローク・操作力を含んだテキストがクリップボードに入る。それを設計メモや発注書に貼る、という流れを想定している。

まとめ

ガススプリングの選定でつまずくのは、たいてい反力の大きさそのものではなく、「1つの開度で釣り合わせた値を、全開度で成り立つ値だと思い込んでしまう」ところだ。腕の長さは開度で数倍変わり、スプリング自身の反力も縮むほど強くなる。だから答えは1つの数字ではなく、下限と上限を持ったウィンドウと、そのウィンドウの中でどの値が一番操作力を平らにするか、という形になる。座標を入れてカーブの形が変わるのを眺めてもらえれば、その感覚は数分で掴めるはずだ。

扉が複数の部材でできていて重心が分からないときは重心計算&転倒角度計算で合成重心を出してから戻ってきてほしい。ガススプリングでは支えきれない重量域に入ったなら、ホールディングブレーキ選定計算のほうが適切な解になる。

計算結果と実機が合わない、この配置は計算できるのか、といった疑問があればお問い合わせページから気軽に送ってほしい。実際の扉の寸法をもとにした指摘は、次の改良に直結する。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。工具箱の蓋にガススプリングを付けようとして、100Nと150Nを両方買って付け替えるはめになった経験から作った。腕の長さが開度で変わることを図で見るまで、なぜ片方は途中で落ちて、もう片方は閉まらないのかが分からなかった。

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