0.15と0.6──構造計算の道筋を決める2つの数字
偏心率0.15以下、剛性率0.6以上。この2つの条件を満たすかどうかで、構造計算の道筋──いわゆる「ルート」──が分かれる。ルート2で進めるはずだった計算が、偏心率0.16でルート3行きになる。たった0.01の差が、保有水平耐力計算という重い作業を呼び込むわけだ。
ところが、この分岐点の数字を手で追うのはかなり面倒だ。剛心を求めるには構面剛性の重み付き平均、ねじり剛性は剛心まわりの2乗和を両方向分、さらに弾力半径で無次元化してようやく偏心率が出る。電卓で追うと1時間コース、どこかで転記ミスをすれば最初からやり直し。剛性率も各階の層間変形角の逆数を平均で割る計算を全階分こなす必要がある。
このツールは、構面の位置と水平剛性(剛性率モードなら各階の階高と層間変位)を入れるだけで、剛心・偏心距離・ねじり剛性・弾力半径・偏心率Re、各階の剛性率Rsを一気に計算し、ルート2の可否判定と割増係数Fe・Fsまで表示する。ブレース配置を変えたらReがどう動くか、その場で試せる。
なぜ作ったのか
きっかけは、偏心率の検算手段が実質「構造計算書の再実行」しかないことへの不満だ。一貫構造計算プログラムは偏心率も剛性率も自動で出してくれる。だが、計画初期の「このブレース配置で偏心は大丈夫か?」という当たり付けのためだけに一貫計算のモデルを組むのは大げさすぎる。かといって手計算は前述のとおり手間がかかり、剛心の重み付き平均あたりで符号や基準線を取り違えるミスが起きやすい。
探してみると、偏心率・剛性率を告示式どおりに──つまり弾力半径やねじり剛性の中間値まで見せて、規定超過時の割増係数Fe・Fsまで──計算してくれる無料のWebツールは国内にほぼ見当たらなかった。偏心率は一級建築士学科(構造・法規)でも構造設計一級建築士でも頻出の論点なのに、学習者が数値例を自分で動かして確かめる場がない。式を暗記するだけでは「直交方向の構面がなぜねじり剛性に効くのか」といった構造的な意味は掴めない。
だから、中間値を全部見せる方針で作った。剛心がどこに来たか、偏心距離が何mか、ねじり剛性に直交構面がどれだけ寄与したか。ブラックボックスの合否判定ではなく、計算の過程ごと確認できるツールにしてある。ルート判定は、いま執筆準備を進めている建築構造テーマの中核論点でもあり、その検証用モデルとしても数値を丹念に詰めた。
偏心率・剛性率とは何か──剛心の求め方から告示式まで
偏心率とは──「押す点」と「回る点」のずれ
地震力は建物の質量に働くから、平面的には重心に作用すると考える。一方、建物が水平力を受けたとき回転の中心になるのは、構面剛性の分布で決まる剛心だ。重心と剛心が一致していれば建物は素直に平行移動するが、ずれていると「押す点」と「回る点」がずれているせいで建物全体がねじれる。
ドアを思い浮かべるとわかりやすい。蝶番(回転中心)から遠いところにノブがあるほど、小さな力でドアは大きく回る。建物も同じで、剛心(蝶番)から遠い位置に地震力(手)が掛かるほど、ねじれ変形が増幅される。ねじれると剛心から遠い側の柱・構面に変形が集中し、平均的な層間変形角では捉えられない局部的な損傷が起きる。このずれの大きさを無次元化した指標が偏心率Reだ。
剛心の求め方──剛性の重み付き平均
剛心は、検討方向の各構面の位置を水平剛性で重み付き平均して求める。剛性の大きい構面ほど「引っ張る力」が強い、と考えれば直感どおりだ。
剛心 y_r = Σ(K_i × y_i) / ΣK_i // 検討方向の構面(位置y_i, 剛性K_i)
偏心距離 e = |y_g − y_r| // y_gは重心位置
ねじり剛性 KT = ΣK_i(y_i − y_r)² + ΣK_j(x_j − x_r)²
弾力半径 re = √(KT / ΣK_i)
偏心率 Re = e / re
単位は位置[m]・剛性K[kN/mm]で入れると、KTは[kN·m²/mm]、reは[m]、Reは無次元になる。
ねじり剛性KTは、各構面が剛心まわりに持つ回転抵抗の合計で、検討方向・直交方向の両方の構面が寄与する。剛心から遠い位置にある構面ほど距離の2乗で効く。断面二次モーメントの計算と同じ構図だ。ここで直交方向の剛心 x_r も直交構面の剛性で重み付き平均を取る点に注意(詳細は後述のアルゴリズム解説で)。
弾力半径 re = √(KT/ΣK) は、ねじり抵抗を「距離」に換算した値と考えればいい。偏心距離eが同じでも、外周に構面が散らばってKTが大きい建物ならreが大きく、Re = e/re は小さくなる。つまり偏心率は「ずれの絶対量」ではなく「ずれをねじり抵抗で受け止めきれるか」を測る指標だ。
剛性率とは──0.6を下回る「柔らかい階」を見つける
偏心率が平面のバランスなら、剛性率は立面のバランスを見る指標だ。各階の層間変形角 γ = δ/h の逆数 rs = h/δ(硬い階ほど大きい)を求め、全階平均 rs̄ で割る。
層間変形角の逆数 rs_i = h_i / δ_i // h:階高[mm], δ:層間変位[mm]
全階平均 rs̄ = Σrs_i / n
剛性率 Rs_i = rs_i / rs̄
全階が同じ硬さならどの階もRs=1.0。1階だけ壁が少ないピロティ形式だと、その階のrsが小さくなりRsが1.0を大きく割り込む。柔らかい階には変形が集中し、その階だけが壊れる「層崩壊」につながるから、突出して柔らかい階がないかをRsで確認する。
ルート2の判定基準と割増係数Fe・Fs
建築基準法施行令82条の6第二号は、ルート2の条件として偏心率0.15以下・剛性率0.6以上を要求している(建築基準法施行令(e-Gov法令検索))。超過した場合はルート3(保有水平耐力計算)に進み、昭和55年建設省告示1792号の割増係数Fe・Fsで必要保有水平耐力を割り増す。
Fe = 1.0 (Re ≤ 0.15)
Fe = 1.0 + (Re − 0.15)/0.15 × 0.5 (0.15 < Re < 0.3 で直線補間)
Fe = 1.5 (Re ≥ 0.3)
Fs = 1.0 (Rs ≥ 0.6)
Fs = 2.0 − Rs/0.6 (Rs < 0.6, 各階ごと)
このツールは判定とあわせて、この告示式によるFe・Fsの値まで表示する。
実務での重要性──ねじれ倒壊と設計手戻り
偏心の実害を最も鮮明に示したのが1995年の阪神・淡路大震災だ。角地に建つ店舗ビル──2面が開口で残り2面に壁が寄った建物──がねじれて倒壊する被害が多発した。壁が偏在すると剛心が壁側に寄り、開口側の柱に変形が集中する。まさに偏心率が警告する破壊モードだ。剛性率側の典型はピロティ形式の層崩壊で、1階を駐車場として開放した集合住宅の1階だけが潰れる被害も同震災で数多く報告された。
設計実務への影響も直接的だ。ルート2のつもりで進めていた案件が、終盤で偏心率0.16と判明すればルート3への切り替え、つまり保有水平耐力計算のやり直しになる。部材算定からのやり直しで数週間の手戻りも珍しくない。しかもFeは最大1.5──必要保有水平耐力が5割増しだ。Fe=1.5を部材の増強で受けるコストを考えれば、計画段階でブレース配置を見直して偏心そのものを抑える方が圧倒的に安い。「後からFeで払う」より「先に配置で解決する」が実務の定石で、そのためには計画初期に偏心率の当たりを付けられる道具が要る。
なお偏心率・剛性率の規定は1981年の新耐震設計法で導入されたもので、令82条の6と昭55建告1792号がその根拠だ。旧耐震にはこの概念がなく、それ以前の建物の耐震診断でも偏心・剛性バランスは重要な評価軸になっている。
このツールが活きる4つの場面
構造計画の初期検討。ブレースや耐震壁の配置案を決める段階で、構面剛性の見込み値を入れて偏心率の当たりを付ける。配置を変えてReがどう動くかを数分で比較できるから、意匠側との調整材料にもなる。
構造計算書のチェック・検算。一貫計算の出力にある偏心率・剛性率を、独立した計算で突き合わせる。剛心位置や弾力半径の中間値まで表示するので、どこで食い違ったかを特定しやすい。
資格試験の学習。一級建築士学科の構造・法規、構造設計一級建築士で頻出の論点だ。数値例を自分で動かして「剛性を片側に寄せるとReがどう増えるか」を体感すると、式の暗記が理解に変わる。
既存建物の耐震診断の当たり付け。図面から壁量の偏りを拾って剛性バランスを概算し、詳細診断の前に問題の方向性を掴む。
基本の使い方──3ステップ
- モードを選ぶ。平面のねじれバランスなら「偏心率 Re」、立面の階剛性バランスなら「剛性率 Rs」。シナリオプリセット4件(偏心ゼロ検証・片側ブレース偏り・ピロティ階・整形3階建て)を押せば代表例が一括入力される。
- 行データを入力。偏心率モードは検討方向の構面(位置y[m]・水平剛性K[kN/mm])と直交方向の構面、重心位置y_gを入力。剛性率モードは各階の階高h[mm]と層間変位δ[mm]を最下階から順に入力する。行は追加・削除できる(構面2〜8行、階2〜10行)。
- 判定を確認。ルート2可否のステータスと、剛心・偏心距離・ねじり剛性・弾力半径・Re(または全階のRs一覧と最小Rs階)、規定超過時のFe・Fsが表示される。
偏心率は1方向・1階分の計算なので、実際の検討ではX・Y両方向で入力を入れ替えて2回計算する。
具体的な使用例──8ケースで検証
計算エンジンの検証を兼ねて、代表的な8ケースを入力→結果→解釈の3点セットで示す。数値はすべて実装と同一のロジックで検算済みだ。
ケース1: 完全対称──偏心ゼロの確認
- 入力: 検討方向4構面 y=0/5/10/15m(各K=10kN/mm)、直交2構面 x=0/12m(各K=15kN/mm)、重心y_g=7.5m
- 結果: 剛心y_r=7.50m、e=0m、KT=2330kN·m²/mm、re=7.63m、Re=0.000、Fe=1.0、ルート2可
- 解釈: 均等配置なら剛心は平面中央に来て重心と一致し、偏心はゼロ。対称モデルでRe=0が出ることは計算エンジンの健全性チェックにもなる。
ケース2: 片側ブレースの偏り──補間ゾーンに突入
- 入力: y=0mの構面だけK=14、y=6/12mはK=8(直交 x=0/10m 各K=12)、y_g=6m
- 結果: y_r=4.80m、e=1.20m、KT=1348.8、re=6.71m、Re=0.179、Fe=1.097、ルート2不可
- 解釈: 片側だけブレースを増やすと剛心がそちらへ寄り、あっさり0.15を超える。Reは0.15〜0.3の補間ゾーンなのでFeは1.0と1.5の間の1.097。「一構面だけ固める」配置の危うさがよくわかる。
ケース3: 強偏心──Fe=1.5の頭打ち
- 入力: ケース2のy=0構面をK=30に強化(他は同じ)
- 結果: y_r=3.13m、e=2.87m、re=5.88m、Re=0.488、Fe=1.5、ルート2不可
- 解釈: 剛性を寄せるほど剛心が偏り、Re≥0.3でFeは1.5で頭打ち。必要保有水平耐力5割増という最大ペナルティ。「固めれば安全」ではなく、固め方の偏りが逆にコストを生む例だ。
ケース4: Re=0.15ちょうど──境界ギリギリの判定
- 入力: 2構面 y=0/8m(各K=10)、直交 x=0/8m(各K=12.5)、y_g=4.9m
- 結果: e=0.90m、re=6.00m、Re=0.150ちょうど、ルート2可・Fe=1.0
- 解釈: 0.15「以下」なのでちょうどは適合。内部では0.9/6のような割り算が浮動小数点誤差で0.15000000000000002になる問題を許容誤差付き比較で吸収しており、境界値でも判定がぶれない。
ケース5: 直交構面が不等剛性──剛心x_rの重み付き
- 入力: 検討方向 y=0/4/8m(各K=10)、直交 x=0mにK=20・x=15mにK=5、y_g=4.5m
- 結果: 直交方向の剛心x_r=3.00m(単純中央の7.5mではない)、KT=1220、re=6.38m、Re=0.078、ルート2可
- 解釈: 直交構面の剛心も剛性の重み付き平均で決まる。ここを単純中央で計算するとKTを誤り、Reがずれる。手計算で間違えやすいポイントだ。
ケース6: ピロティ3階建て──Rs=0.552でルート2不可
- 入力: 1階 h=4000mm/δ=12mm、2階 h=3500/δ=5、3階 h=3500/δ=4.5
- 結果: rs=333.3/700/777.8、平均603.7、Rs=0.552/1.159/1.288、最小Rs=0.552(1階)、Fs=1.080、ルート2不可
- 解釈: 1階だけ変形が大きいピロティの典型。Rs<0.6で当該階にFs=2.0−0.552/0.6=1.080の割増が掛かる。1階にブレースか壁を足してδを減らすのが是正の定石。
ケース7: 整形3階建て──全階クリア
- 入力: 全階 h=3500mm、δ=7/6/5mm(下から)
- 結果: rs=500/583.3/700、平均594.4、Rs=0.841/0.981/1.178、最小Rs=0.841(1階)≥0.6、Fs=1.0、ルート2可
- 解釈: 下階ほど層せん断力が大きく変形も大きいのは自然なことで、Rsが1.0を多少割っても0.6以上なら問題ない。整形な建物の標準的な分布だ。
ケース8: 最小Rsが上階に出るケース
- 入力: 2階建て、1階 h=3500/δ=4mm、2階 h=3500/δ=7mm
- 結果: rs=875/500、平均687.5、Rs=1.273/0.727、最小Rs=0.727は2階、ルート2可
- 解釈: 1階を固めすぎると相対的に上階が「柔らかい階」になる。最小Rsの階は最下階とは限らない──セットバックや上階の壁抜けでも起きる構図で、ツールは全階のRs一覧から最小階を自動で特定する。
仕組み・アルゴリズム──告示式の直接計算という選択
手法の比較──フレーム解析か、告示式か
偏心率・剛性率を出す方法は大きく2つある。ひとつは一貫構造計算プログラムのようにフレーム解析で剛性マトリクスから求める方法。もうひとつは、構面剛性を既知の入力として受け取り、昭55建告1792号の式を直接計算する方法だ。
このツールは後者を採用した。フレーム解析は正確だが、部材断面・接合条件・材料まで全部入力しないと動かず、「計画初期の当たり付け」「計算書の検算」という用途には重すぎる。剛性Kを入力で受ける割り切りをすれば、告示式は四則演算と平方根だけで閉じるから1画面で完結する。剛性の算定はD値法や一貫計算の層剛性、あるいは層間変位からの逆算に委ね、本ツールはルート判定指標の計算に特化した。
実装の要注意点2つ
直交方向の剛心 x_r は剛性の重み付き平均。ねじり剛性 KT = ΣK_i(y_i−y_r)² + ΣK_j(x_j−x_r)² の第2項で使うx_rを、直交構面の単純な中央位置で取ると等剛性でない場合に誤る。ケース5(x=0にK=20、x=15にK=5)ではx_r=3.00mで、単純中央の7.5mとは4.5mもずれる。この状態で中央値を使うとKTが過大になりReを小さく誤評価する──危険側の誤りだ。実装では x_r = Σ(K_j×x_j)/ΣK_j を必ず通す。
境界値の浮動小数点対策。0.9/6は数学的には0.15だが、倍精度浮動小数点では0.15000000000000002になる。素朴に Re <= 0.15 で判定すると「ちょうど0.15」の入力がルート2不可にフリップする。実装では許容誤差ε=1e-9を持たせた Re <= 0.15 + ε(剛性率は Rs >= 0.6 − ε)で比較し、ケース4・Rs=0.6境界ケースの両方で検証済みだ。あわせて、全構面が同一座標でKT=0になる入力は除算前にガードし、偏心率計算不能のエラーを明示する。
ステップバイステップ計算例──ケース2を手で追う
片側ブレース偏り(ケース2)を告示式で順に計算する。
// 入力: y=0(K=14), y=6(K=8), y=12(K=8) / 直交 x=0(K=12), x=10(K=12) / y_g=6
ΣK = 14 + 8 + 8 = 30
y_r = (14×0 + 8×6 + 8×12) / 30 = 144 / 30 = 4.8 m
e = |6 − 4.8| = 1.2 m
// ねじり剛性(検討方向 + 直交方向)
KT(main) = 14×(0−4.8)² + 8×(6−4.8)² + 8×(12−4.8)²
= 322.56 + 11.52 + 414.72 = 748.8
KT(ortho) = 12×(0−5)² + 12×(10−5)² = 300 + 300 = 600 // x_r=5
KT = 748.8 + 600 = 1348.8 kN·m²/mm
re = √(1348.8 / 30) = 6.705 m
Re = 1.2 / 6.705 = 0.179 > 0.15 → ルート2不可
Fe = 1.0 + (0.179 − 0.15) / 0.15 × 0.5 = 1.097
直交構面がKTの44%(600/1348.8)を担っている点に注目してほしい。直交方向の構面を外周に配ることが、検討方向の偏心率まで下げる──式の構造が教えてくれる設計の勘所だ。
剛性率側は rs_i = h_i/δ_i → 平均 → Rs_i = rs_i/rs̄ の3手で、最小Rsとその階を全階走査で特定する(ケース8のとおり最下階固定にはしない)。告示式の原文や運用の詳細は日本建築構造技術者協会(JSCA)の資料等で確認できる。
耐震ツール4部作での位置づけ — どれを・いつ使うか
当サイトの耐震系ツールは役割分担が明確だ。/seismic-base-shear はAi分布に基づく各階の地震層せん断力を「算出」する入口。/story-drift はその地震力で生じた層間変位から層間変形角1/200以内を「検定」する。/load-combination は長期・短期の荷重を「組み合わせる」。そして本ツールは、ルート判定の指標——偏心率Re・剛性率Rsと割増係数Fe・Fs——を「計算」する担当だ。
導線はこう繋がる。地震力を出す → 層間変位を求めて変形角を検定する → その層間変位δをそのまま本ツールの剛性率モードに貼る。story-driftで使った各階のδが、そのままRs計算の入力になる。二度手間なし。
一貫構造計算プログラムとの違いも押さえておきたい。一貫計算は全項目を網羅する代わりに、モデル入力が重く「この配置でReはいくつになる?」という初期検討の当たり付けには大げさすぎる。本ツールは告示式の直接計算に絞り、構面の位置と剛性を数行入れるだけでブラウザ上で即答する。規定超過時のFe・Fsの直線補間まで自動で出す無料ツールは、国内ではほとんど見当たらない。検算・学習・計画初期のラフスタディ、この3つの場面で一貫計算を補完する立ち位置だ。
豆知識 — 「ルート」の語源と、0.15・0.6という数字の由来
計算「ルート」はフローチャートの経路
ルート1・2・3という呼び名は、構造計算の手順を分岐図(フローチャート)で描いたときの「経路(route)」に由来する。規模や構造種別に応じてどの経路を通るかが決まり、偏心率0.15・剛性率0.6はルート2に進めるかどうかの関門になっている。
0.15と0.6はどこから来たか
偏心率0.15は、ねじれ振動による端部構面の応答増幅が無視できなくなる目安として定められたと説明される。偏心が大きいほど剛心から遠い構面の変形が平均より大きく増幅され、その構面だけが先に壊れる。剛性率0.6は「特定の階だけが柔らかい」立面バランスの崩れを捕まえる下限値。平均の6割を切る柔らかい階には変形が集中する。
旧耐震には存在しなかった規定
この2つの指標は1981年施行の新耐震設計法(耐震基準 — Wikipedia)で導入された。契機は1978年の宮城県沖地震。それ以前の建物には偏心率・剛性率のチェック自体が存在しない。既存不適格建物の耐震診断でバランス指標が重視されるのはこのためだ。
ピロティとル・コルビュジエ
1階を柱だけの開放空間にする「ピロティ」はル・コルビュジエが提唱した近代建築の象徴だが、構造的には剛性率不足の典型でもある。1995年の阪神・淡路大震災ではピロティ階の層崩壊が多発した。デザインの自由と引き換えに、1階のRsが沈む——剛性率0.6はまさにこの弱点を数値で捕まえる指標だ。
FeとFsは両方掛かる
偏心率と剛性率の両方が規定を超えると、割増係数は Fes = Fe × Fs として積で効く。例えばFe=1.3・Fs=1.5ならFes=1.95。必要保有水平耐力がほぼ2倍だ。平面と立面、どちらか片方のバランスだけ整えても逃げられない仕組みになっている。
使いこなしTips
- X・Y両方向で必ず2回計算する。 偏心率は方向ごとの指標だ。検討方向と直交方向の構面リストを入れ替えて再計算する。片方向だけOKでも意味がない
- 偏心を下げる定石は「柔らかい側を固める」。 剛い側の構面を弱めても剛心は重心に寄るが、建物全体の耐力が落ちて本末転倒。柔らかい側にブレースや壁を足すのが正攻法
- 直交方向の構面はねじり剛性KTにだけ効く。 外周に離して配置するほど弾力半径reが伸び、同じ偏心距離eでもReは下がる。コア壁を中央に集めるより外周分散が有利な理由
- 層間変位はAi分布の地震力で算出した値を使う。 等分布や単位荷重で求めたδではrs比が歪み、Rsの序列が変わることがある。/seismic-base-shear → /story-drift の流れで出した変位が正しい入力
- 階数が少ないほどRsは平均に引っ張られる。 2〜3階建てでは柔らかい階自身が平均rs̄を下げるため、Rsが実感より甘く出やすい。0.6ギリギリ通過の階は余裕を持って補強を検討したい
よくある質問(FAQ)
Q. 多層建物の偏心率はどう計算すればいい?
偏心率は階ごと・方向ごとの指標なので、本ツールでは対象階の構面データを入れて1階分ずつ計算する。5階建てなら各階×X・Y方向で最大10回。実務では全階の中で最も条件が厳しい階(壁抜けのある階・平面が変わる階)から確認すると効率がいい。行データはモード切替でも保持されるので、数値を差し替えながら連続計算できる。
Q. 水平剛性Kはどうやって求める?
D値法による略算、または一貫構造計算プログラムが出力する層剛性を使うのが一般的だ。剛性の定義は K = Q/δ(層せん断力÷層間変位)なので、構面ごとの負担せん断力と変位が分かっていれば逆算もできる。本ツールは剛性を既知の入力として受ける割り切り設計で、柱・壁のD値計算そのものは対象外だ。
Q. Fe・Fsは何に使う係数?
ルート2の規定(Re≦0.15・Rs≧0.6)を超えて保有水平耐力計算(ルート3)に進むとき、必要保有水平耐力 Qun = Ds × Fes × Qud の形状係数 Fes = Fe × Fs として使う(昭55建告1792号)。つまり「バランスの悪さの分だけ余計に耐力を持て」という割増だ。Fe=1.5なら必要耐力5割増で部材コストに直撃する。だから計画段階で偏心を抑えるほうが安くつく。
Q. Re=0.15やRs=0.6ちょうどのときの判定は?
規定は「0.15以下」「0.6以上」なので、ちょうどならルート2可・割増なし(Fe=Fs=1.0)だ。本ツールは浮動小数点誤差(例: 0.9/6が内部で0.15000000000000002になる問題)で境界判定が不利側にフリップしないよう、微小許容を付けた比較で実装している。ただし実務でボーダーぴったりを狙う設計は入力値の精度以下の話になるので、余裕を持たせるのが賢明だ。
Q. 入力した構面データや計算結果はどこかに保存される?
保存されない。計算はすべてブラウザ内のJavaScriptで完結し、入力値も結果もサーバーには一切送信しない。検討中の物件データを扱っても外部に出る心配はない。ページを再読み込みすると入力は初期値に戻るので、残したい結果は「結果をコピー」ボタンで控えておいてほしい。
まとめ — ルート判定の2指標を、入力数行で
偏心率Reと剛性率Rs。構造計算の道筋を分けるこの2つの指標を、剛心・弾力半径・Fe・Fsまで含めて告示式どおりに即答するのが本ツールだ。地震力の算出は /seismic-base-shear、層間変形角の検定は /story-drift、応力の足し合わせは /load-combination が担当し、story-driftで出した層間変位はそのまま剛性率モードの入力になる。4本セットで、耐震ルートの一次検討がブラウザだけで一巡する。計算機能の要望や不具合報告はお問い合わせから気軽にどうぞ。