切削条件の「勘」を数字に変える
新しい材料が入ってきた。工具を交換した。径が変わった。そのたびにカタログを引っ張り出して、回転数と送りを電卓で叩き直す――機械加工の現場なら誰でも覚えのある光景だろう。
計算自体は単純だ。切削速度を円周で割って回転数を出し、送り量を掛ける。だが「単純な計算」ほど、忙しい段取り替えの合間にミスが起きやすい。小数点を一つ間違えれば、工具が折れるか、加工面がガタガタになるか。どちらにせよ、時間と金が飛ぶ。
この切削条件計算シミュレーターは、旋盤・フライス・ドリルの3方式に対応し、材質を選んで寸法を打ち込むだけで回転数・送り速度・加工時間・所要動力を一括で返す。切削条件表を睨む時間を、段取りや品質チェックに回してほしい。
なぜこのツールを作ったのか
きっかけは、とある工具メーカーの切削条件計算ツールに感じた「微妙な不自由さ」だ。
メーカー提供のオンラインツールは確かに便利で、精度も高い。ただし当然ながら自社工具のカタログ品番を選ぶ前提で設計されている。手持ちの工具がそのメーカーのものでなければ、結局カタログの推奨切削速度を手入力して電卓を叩くことになる。ミスミの技術計算ツールも似た状況で、特定の商品ページから飛ぶ導線が前提になっていることが多い。
もう一つの不満は、材質ごとの比切削抵抗kcがブラックボックスになっている点だ。所要動力の計算で「この機械で回せるのか?」を判断したいのに、kcの値が見えないと根拠が分からない。自分で検算もできない。
だったら、メーカーに依存しない中立的なツールを作ればいい。切削理論の基本式をそのまま実装し、材質プリセットのkc値も全て開示する。超硬だろうがハイスだろうが、切削速度さえ分かれば同じ式で計算できる。工具メーカーのカタログと併用して、「推奨Vcを入れたら回転数がいくつになるか」をパッと確認する。そういう使い方を想定して設計した。
試作段階で職業訓練校の講師に見せたところ、「学生に切削理論の計算演習をさせた後、答え合わせに使える」と好評だった。実務者だけでなく、学習用途にもフィットするツールになったと思う。
切削条件 計算の基礎知識 ― 3つのパラメータを理解する
切削速度 Vc とは
切削速度(Cutting Speed)は、工具と被削材が接触する点での相対速度を表す。単位は m/min。自転車で例えると、ペダルを漕ぐ速さではなく、タイヤの外周が地面をこする速さに相当する。
旋盤ならワークの外周速度、フライスやドリルなら工具の刃先が描く円の周速度がVcだ。同じ回転数でも、径が大きければVcは上がる。径が小さければ下がる。この関係を式にしたのが切削条件計算の出発点になる。
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Vc = π × D × n / 1000 [m/min]
Vc: 切削速度 [m/min]
D : 工具径またはワーク外径 [mm]
n : 主軸回転数 [min⁻¹]
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この式を回転数nについて解くと、n = 1000 × Vc / (π × D) になる。これが本ツールの最も基本的な計算式だ。
材質ごとに「このくらいのVcなら工具が長持ちする」という推奨範囲がある。たとえば超硬工具で炭素鋼(S45C)を削るなら 80〜150 m/min、アルミなら 200〜500 m/min が目安。ステンレスは熱伝導率が低く加工硬化しやすいため、50〜100 m/min と低めに設定する。
参考: 切削加工 - Wikipedia
送り量 f / fz の違い
送り量は「主軸が1回転する間に工具が進む距離」を指す。旋盤では f [mm/rev] で表す。フライスやドリルでは刃1枚あたりの送り fz [mm/tooth] を使い、刃数 z を掛けて1回転あたりの送りを求める。
旋盤の送り速度: Vf = n × f [mm/min] フライス/ドリル: Vf = n × fz × z [mm/min]
送りが大きすぎると切削抵抗が増大して工具が欠けたり、加工面が荒れる。小さすぎると「こすり」状態になり、摩耗が加速して工具寿命が縮む。適切な送り量は材質・工具・機械剛性のバランスで決まる。
切込み量 ap と所要動力
切込み量 ap [mm] は、1パスでどれだけの深さを削るかを示す。ap が大きいほど一度に多くの材料を除去でき、加工時間は短縮されるが、切削抵抗と所要動力が増大する。
所要動力の計算には比切削抵抗 kc [N/mm²] という材質固有の定数を使う。kcは「単位断面積あたりの切削に必要な力」で、材料が硬いほど大きくなる。
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所要動力: Pc = Vc × ap × f × kc / (60 × 1000 × η) [kW]
kc: 比切削抵抗 [N/mm²]
η : 機械効率(一般に 0.7〜0.85、本ツールでは 0.8)
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| 材質 | kc [N/mm²] | 特徴 |
|---|---|---|
| 炭素鋼 (S45C等) | 2100 | 汎用的、中程度の切削抵抗 |
| ステンレス (SUS304等) | 2800 | 加工硬化で抵抗大 |
| アルミニウム合金 | 800 | 軽切削、高速加工向き |
| 鋳鉄 (FC/FCD) | 1400 | 脆性破壊型の切りくず |
| 銅合金(真鍮等) | 1200 | 快削性が高い |
加工時間の求め方
加工時間 Tc は、加工長さ L を送り速度 Vf で割るだけだ。
Tc = L / Vf [min]
実際にはアプローチ距離やオーバーラン、早送り移動の時間も加わるが、切削時間の概算にはこの式で十分。段取り替え前に「このワーク、何分かかる?」をサッと見積もるのに使える。
切削条件を間違えると何が起きるか
工具折損とビビリ振動
切削条件のミスで最も身近なトラブルは工具の折損だ。特にドリルやエンドミルの小径工具で、回転数が低すぎるまま送りだけ上げると、1刃あたりの負荷が過大になって刃先が欠ける。最悪の場合、工具がワーク内で折れて除去に半日かかることもある。
逆に切込みが大き過ぎたり、回転数と送りのバランスが崩れるとビビリ振動(チャタリング)が発生する。ビビリは加工面に周期的な模様を残し、面粗さを大幅に悪化させる。JIS B 0601 で規定される表面粗さ Ra の公差を外れれば、再加工や廃却になる。
所要動力の見積もりミス
「この加工、うちの機械で回せるか?」を判断するのに所要動力の概算は欠かせない。特に荒加工でapとfを大きく取りたい場面で、機械の定格出力を超える条件を設定すると、主軸モーターが過負荷でトリップする。NCプログラムの途中で止まれば、ワークの段取り直しから再スタートになり、数時間のロスだ。
量産ラインでは加工条件の最適化が直接的にサイクルタイムとコストに効く。Vcを10%上げれば加工時間は10%縮まるが、工具寿命は指数関数的に短くなる(テイラーの工具寿命方程式 VT^n = C)。この天秤を取るにも、まず正確な切削条件計算が出発点になる。
教育現場での重要性
工業高校や職業訓練校では、切削条件の計算は実技試験の必須科目だ。手計算で理論を理解した上で、実機で検証する流れが基本。だが計算ミスに気づかないまま実機を動かせば事故につながりかねない。計算ツールで答え合わせをする習慣をつけるだけで、安全マージンを一段上げられる。
現場で切削条件計算が活きる場面
新規材料の試作加工
量産品で使い慣れたS45Cから、顧客要求でSUS316Lに材料変更――こういうとき、まず切削速度の目安をどこに置くかで迷う。材質プリセットを切り替えるだけで、回転数と送り速度の出発点が得られる。そこから実機で微調整すれば、試作の段取り時間を大幅に短縮できる。
工具交換・径変更時の再設定
同じ材料でも工具径が変われば回転数は変わる。φ50で使っていた条件をφ20のエンドミルにそのまま適用したら、Vcが半分以下に落ちて「なんか切れ味悪いな」となる。径を入れ直すだけで適正回転数が出るので、工具交換のたびに電卓を叩く手間が消える。
教育・訓練での計算演習
切削理論を座学で学んだ後、「S45C φ50 で Vc=100 なら回転数は?」を手計算させ、このツールで答え合わせ。送りや切込みを変えたときに所要動力がどう変わるかを、数値で体感できる。
NC加工のプログラム検証
CAMから出力されたNCプログラムのS値(回転数)やF値(送り速度)が妥当かどうか、加工前にサッと検算する用途にも使える。特に外注先から受け取ったプログラムを自社機械で動かす前の確認に便利だ。
切削条件計算シミュレーターの使い方
ステップ1: 加工方式を選ぶ
画面上部のセグメントボタンで「旋盤」「フライス」「ドリル」のいずれかを選択する。旋盤を選ぶと刃数の入力欄が非表示になり、フライス・ドリルを選ぶと刃数の入力欄が現れる。
ステップ2: 材質と加工条件を入力
被削材をプルダウンから選ぶ。炭素鋼・ステンレス・アルミ・鋳鉄・銅合金の5種類。次に工具径(旋盤の場合はワーク外径)、切削速度、送り量、切込み量を入力する。切削速度を空欄にすると、選択した材質の推奨範囲の中間値が自動で適用される。
ステップ3: 結果を確認
入力と同時に、主軸回転数・送り速度・加工時間・所要動力・適用切削速度がリアルタイムで表示される。所要動力が大きすぎる場合は警告が出るので、切込みや送りを下げて再調整してみて。
材質別・加工方式別の計算例 6ケース
以下の6ケースで「入力 → 結果 → 実務での読み取り方」を確認する。
ケース1: 旋盤 / 炭素鋼 S45C / φ50
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 加工方式 | 旋盤 |
| 被削材 | 炭素鋼 (S45C) |
| ワーク外径 | φ50 mm |
| 切削速度 Vc | 100 m/min |
| 送り f | 0.2 mm/rev |
| 切込み ap | 2 mm |
| 加工長さ | 100 mm |
結果: 回転数 637 min⁻¹ / 送り速度 127.3 mm/min / 加工時間 0.79 min / 所要動力 1.75 kW
汎用旋盤でS45Cの外径切削としてはごく標準的な条件。所要動力1.75 kWなので、一般的な汎用旋盤(3〜5 kW級)で余裕を持って加工できる。
ケース2: フライス / アルミ合金 / φ20 2刃エンドミル
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 加工方式 | フライス |
| 被削材 | アルミニウム合金 |
| 工具径 | φ20 mm |
| 切削速度 Vc | 300 m/min |
| 1刃送り fz | 0.1 mm/tooth |
| 刃数 | 2 |
| 切込み ap | 3 mm |
| 加工長さ | 200 mm |
結果: 回転数 4,775 min⁻¹ / 送り速度 955.0 mm/min / 加工時間 0.21 min / 所要動力 3.00 kW
アルミはkcが低いため、高速・大送りでもパワーは3 kW程度に収まる。回転数4,775 rpmは汎用マシニングセンタの守備範囲内。加工時間0.21分(約13秒)と短く、量産にも向く条件だ。
ケース3: ドリル / ステンレス SUS304 / φ10 2刃
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 加工方式 | ドリル |
| 被削材 | ステンレス (SUS304) |
| 工具径 | φ10 mm |
| 切削速度 Vc | 70 m/min |
| 1刃送り fz | 0.05 mm/tooth |
| 刃数 | 2 |
| 切込み ap | 5 mm |
| 加工長さ | 30 mm |
結果: 回転数 2,228 min⁻¹ / 送り速度 222.8 mm/min / 加工時間 0.13 min / 所要動力 2.04 kW
SUS304はkcが2800と高いが、送りと切込みを控えめにすることで動力を2 kW台に抑えている。穴あけ深さ30 mmでφ10なのでL/D=3。ステップ加工なしで一気に貫通できる範囲だ。
ケース4: 旋盤 / 鋳鉄 FC / φ80
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 加工方式 | 旋盤 |
| 被削材 | 鋳鉄 (FC/FCD) |
| ワーク外径 | φ80 mm |
| 切削速度 Vc | 90 m/min |
| 送り f | 0.25 mm/rev |
| 切込み ap | 3 mm |
| 加工長さ | 150 mm |
結果: 回転数 358 min⁻¹ / 送り速度 89.5 mm/min / 加工時間 1.68 min / 所要動力 1.97 kW
鋳鉄はkc=1400で炭素鋼より低い。φ80と大径だが、切削速度を90 m/minに抑えた結果、回転数は358 rpmとゆったり。加工時間1.68分で150 mmの外径加工を1パスで済ませられる条件だ。
ケース5: フライス / 銅合金(真鍮)/ φ16 4刃
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 加工方式 | フライス |
| 被削材 | 銅合金(真鍮等) |
| 工具径 | φ16 mm |
| 切削速度 Vc | 200 m/min |
| 1刃送り fz | 0.08 mm/tooth |
| 刃数 | 4 |
| 切込み ap | 2 mm |
| 加工長さ | 300 mm |
結果: 回転数 3,979 min⁻¹ / 送り速度 1,273.3 mm/min / 加工時間 0.24 min / 所要動力 3.20 kW
真鍮はkc=1200で快削材の部類。4刃エンドミルで刃数が多い分、テーブル送り速度は1,273 mm/minとかなり速い。加工長300 mmを14秒程度で走り抜ける。バルブ部品や電気端子の溝加工など、量産品の高速加工に適した条件だ。
ケース6: 旋盤 / ステンレス SUS304 / φ30
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 加工方式 | 旋盤 |
| 被削材 | ステンレス (SUS304) |
| ワーク外径 | φ30 mm |
| 切削速度 Vc | 60 m/min |
| 送り f | 0.15 mm/rev |
| 切込み ap | 1.5 mm |
| 加工長さ | 80 mm |
結果: 回転数 637 min⁻¹ / 送り速度 95.5 mm/min / 加工時間 0.84 min / 所要動力 0.79 kW
SUS304の旋削はVcを低めに抑えるのが鉄則。60 m/minで送りも0.15と控えめに設定した結果、所要動力はわずか0.79 kW。小型旋盤でも無理なく回せる。切込み1.5 mmは仕上げ加工に近い条件で、面粗さも良好な範囲に収まるだろう。
切削条件計算の仕組みとアルゴリズム
候補手法: 経験式 vs 理論式
切削条件の算出には大きく2つのアプローチがある。
1. 経験式ベース(テイラー式・拡張経験式) 工具メーカーが膨大な切削試験から導いた回帰式。工具材種・コーティング・チップ形状ごとに係数が異なり、高精度だが汎用性に欠ける。特定メーカーの特定品番でないと使えない。
2. 理論式ベース(基本切削理論) 切削速度・回転数・送り速度の幾何学的関係と、比切削抵抗に基づく動力計算。工具メーカーに依存せず、Vcさえ決まれば計算できる。精度は経験式に劣るが、概算・教育・クロスチェック用途には十分。
本ツールは理論式ベースを採用した。理由は明確で、「どのメーカーの工具でも使える中立的なツール」を目指したからだ。工具メーカーのカタログでVcの推奨値を確認し、そのVcを入力すれば回転数以下の条件が全て出る。
参考: 切削速度 - Wikipedia
実装した計算フローと数式
計算は以下の順序で実行される。
[入力] machineType, material, D, Vc, f(またはfz), ap, z, L ↓ [Step 1] 切削速度の決定 Vc が空欄 → 材質プリセットの (vcMin + vcMax) / 2 を適用 Vc が入力済み → そのまま使用 ↓ [Step 2] 回転数の計算 n = 1000 × Vc / (π × D) ↓ [Step 3] 送り速度の計算 旋盤: Vf = n × f フライス/ドリル: Vf = n × fz × z ↓ [Step 4] 加工時間の計算 Tc = L / Vf (L が空欄なら null) ↓ [Step 5] 所要動力の計算 旋盤: Pc = Vc × ap × f × kc / (60000 × η) フライス/ドリル: Pc = Vc × ap × fz × z × kc / (60000 × η) η = 0.8(機械効率)
ステップバイステップ計算例
ケース1(旋盤 / S45C / φ50)を手計算で追ってみる。
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入力: Vc=100, D=50, f=0.2, ap=2, L=100, kc=2100, η=0.8
Step 2: n = 1000 × 100 / (π × 50) = 100000 / 157.08 = 636.6 → 637 min⁻¹
Step 3: Vf = 637 × 0.2 = 127.3 mm/min
Step 4: Tc = 100 / 127.3 = 0.79 min
Step 5: Pc = 100 × 2 × 0.2 × 2100 / (60000 × 0.8)
= 84000 / 48000
= 1.75 kW
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全て手計算と一致する。比切削抵抗kcの値は材質プリセットとして公開しているので、誰でも同じ手順で検算できる。これが「ブラックボックスにしない」設計方針の具体的な形だ。
参考: 比切削抵抗 - 機械加工の基礎
三菱・ミスミの計算ツールと何が違うのか
切削条件の計算ツール自体は、工具メーカー各社が提供している。三菱マテリアルの「TOOL NAVI」、ミスミの「技術計算ツール」あたりが有名どころだろう。ただし、これらには共通する弱点がある。
自社工具に特化しているという点だ。三菱のツールは三菱製インサートのカタログデータが前提で、他社工具を使う場面では推奨値が出てこない。ミスミも同様に、自社取扱品の選定に導線が向いている。加工現場では複数メーカーの工具を併用するのが普通なのに、そのたびにツールを切り替えるのは面倒だよね。
このツールはメーカー中立の汎用計算機として設計した。材質ごとの比切削抵抗 kc と推奨切削速度範囲をプリセットで持っているので、工具メーカーを問わず使える。もちろん、メーカーカタログの推奨 Vc をそのまま入力欄に打ち込んでもいい。
もう一つの違いは加工方式の横断比較。旋盤・フライス・ドリルをワンタップで切り替えて、同じ材質・同じ径で回転数や所要動力がどう変わるかを即座に確認できる。メーカーツールは旋削用とフライス用でページが分かれていることが多く、横断的な比較がしにくい。
| 項目 | 本ツール | 三菱 TOOL NAVI | ミスミ 技術計算 |
|---|---|---|---|
| メーカー依存 | なし | 三菱製工具前提 | ミスミ取扱品前提 |
| 加工方式横断 | 旋盤/フライス/ドリル一画面 | 別ページ | 別ページ |
| 所要動力の概算 | 対応 | 一部対応 | 非対応 |
| 会員登録 | 不要 | 不要 | 不要 |
| オフライン利用 | PWA対応ブラウザならOK | 不可 | 不可 |
切削加工にまつわる豆知識
ハイスから超硬へ — 工具材質100年の進化
20世紀初頭、切削工具の主流は高速度鋼(HSS: High Speed Steel)だった。1900年のパリ万博でテイラーとホワイトが発表したHSSは、それまでの炭素工具鋼に比べて切削速度を2〜3倍に引き上げた画期的な素材だ。
しかし1930年代に超硬合金(WC-Co系)が登場すると状況は一変する。超硬工具はHSSの3〜5倍の切削速度に耐え、現在では工業生産の主力となっている。さらにCVD/PVDコーティング技術の進歩で、TiAlNやダイヤモンドライクカーボン(DLC)を纏った超硬チップが標準になった。切削速度の推奨範囲が材質ごとに大きく異なるのは、こうした工具材質の違いが背景にある。
参考: 超硬合金 - Wikipedia
世界初のNC旋盤
1952年、MITの研究チームが世界初のNC(数値制御)工作機械を開発した。パンチテープで座標を指定して自動加工する仕組みで、当時は航空機部品の複雑形状加工が目的だった。現在のCNC旋盤やマシニングセンタの祖先にあたる。NC化により、切削条件をプログラムに書き込む=数値で管理する文化が定着し、「切削条件の計算」という行為自体がより重要になった。
参考: 数値制御 - Wikipedia
比切削抵抗 kc の意味
本ツールで所要動力の計算に使っている「比切削抵抗 kc」は、単位断面積あたりの切削力を表す値だ。たとえば炭素鋼の kc は約2100 N/mm2、アルミは約800 N/mm2。同じ切込み量・送りでも、ステンレス(kc = 2800)はアルミの3.5倍の動力が必要になる計算だ。kc は送り量や切削速度で変動するが、概算には定数近似で十分実用的。
切削条件を追い込むためのTips
1. 切削速度に迷ったら推奨範囲の中間値から始める
本ツールでは切削速度を空欄にすると、材質プリセットの中間値が自動適用される。初めての材質や工具で条件がわからないときは、まずこの中間値で試し削りして、仕上がり面やチップの摩耗を見ながら上下に調整するのが安全な進め方だ。
2. びびり振動が出たら回転数を10〜20%変える
加工中に「キーン」という高周波のびびり音が発生したら、回転数を10〜20%上げるか下げてみて。びびりは工具と被削材の共振で起こるため、回転数をずらして共振点から外すだけで収まることが多い。切込み量を半分にするのも有効だが、加工時間が倍になるので回転数の調整を先に試したい。
3. ドライ加工時は切削速度を控えめに
クーラントなしのドライ加工では、切削熱の排出が遅れるため工具摩耗が急速に進む。推奨切削速度の下限付近(プリセット範囲の20〜30%あたり)から始めて、刃先の状態を確認しながら上げていくのが定石。特にステンレスのドライ加工は工具寿命が極端に短くなるので要注意。
4. 所要動力が機械定格の80%を超えたら条件を見直す
計算結果の所要動力が工作機械のモーター定格出力に対して80%を超える場合、連続加工では過負荷になるリスクがある。切込み量を減らしてパス回数を増やすか、送り量を下げて対処しよう。本ツールの警告表示(10kW超)も目安にしてみて。
よくある質問(切削条件計算ツール固有)
Q: 切削速度の入力欄を空欄にするとどうなる?
選択した被削材の推奨切削速度範囲の中間値が自動的に適用される。たとえば炭素鋼(S45C等)なら推奨範囲が80〜150 m/minなので、中間値の115 m/minが使われる。工具メーカーのカタログに具体的な推奨値がある場合は、そちらを直接入力したほうが精度が高い。
Q: 超硬工具とハイス工具で切削速度はどう変える?
本ツールのプリセットは超硬工具を前提とした推奨値を設定している。ハイス(高速度鋼)工具を使う場合は、プリセットの推奨切削速度を1/3〜1/2程度に下げて手入力するのが目安だ。たとえば炭素鋼なら超硬で80〜150 m/minのところ、ハイスでは25〜50 m/min程度が適正範囲になる。
Q: フライス・ドリルモードの送り量入力は「1刃あたり」?「1回転あたり」?
フライス・ドリルモードでは送り量入力が「1刃あたり送り量 fz」として扱われる。刃数 z を掛けた値が1回転あたりの実送り量になる。送り速度は Vf = n × fz × z で計算されるため、刃数の入力も忘れずに。旋盤モードでは「1回転あたり送り量 f」として扱われ、刃数の入力は不要だ。
Q: 計算結果の所要動力が実際の加工と大きくずれるのはなぜ?
本ツールは比切削抵抗 kc を材質ごとの固定値で計算しているが、実際の kc は送り量・切削速度・工具の摩耗状態によって変動する。また機械効率も一律0.8としているが、機械の経年劣化やベルト駆動のスリップで変わる。あくまで「概算の出発点」として使い、実加工ではモーター電流値などの実測データと照合して条件を調整してほしい。
Q: 入力したデータはサーバーに送信される?
一切送信されない。すべての計算はブラウザ内のJavaScriptで完結している。入力値はローカルにのみ存在し、ページを閉じれば消える。通信は発生しないため、社内ネットワークのセキュリティポリシーが厳しい環境でも安心して使える。
まとめ — 切削条件の「勘と経験」をデータで裏付ける
切削条件の計算は、機械加工の生産性と品質を左右する基本中の基本だ。このツールを使えば、旋盤・フライス・ドリルの回転数・送り速度・所要動力を数秒で算出できる。メーカー中立の汎用ツールなので、どの工具を使っていても活用できるのが強み。
機械設計・加工に関連する他のツールも合わせてチェックしてみて。
- 鋼材断面のコンシェルジュ — 鋼材の断面性能・単位重量を即座に検索
- 梁の安全審判員 — 曲げ応力・たわみ・安全率のシミュレーション
- ボルト強度・破断モード診断 — 引張・せん断・ねじ山破壊の3モード安全率を一括判定
計算結果の解釈や改善リクエストがあれば、お問い合わせから気軽にどうぞ。