この鋼、予熱いる?と迷った瞬間のためのツール
現場でミルシートを受け取って、「この鋼材、予熱いるんだっけ?」と一瞬止まったことはないだろうか。SM490Aなら軽度、SM570なら要予熱、でもロットごとに成分は微妙に違う。電卓を叩いて Ceq を出し、PCM も別式で検算し、WES 1105 の表と突き合わせる——この数分の作業を毎回やるのは地味にしんどい。
このツールは鋼材の化学成分(C/Si/Mn/Cu/Cr/Ni/Mo/V/B)を入力するだけで、IIW式の炭素当量 Ceq と Ito-Bessyo 式の低温割れ感受性指数 PCM を同時に算出し、5段階の溶接性ランク(A〜E)で判定してくれる。代表鋼種プリセット(SS400/SM490A/SM570/S45C/SCM440)も用意したので、ミルシートを見る前に「この鋼種なら大体これくらい」を掴むのにも使える。予熱温度の目安表示から /weld-preheat への内部リンクもあるので、判定後すぐに施工条件の検討に進める設計だ。
WPS(溶接施工要領書)を作る設計者、ミルシート受領時の品質管理担当者、現場で予熱可否を即判断したい施工管理者——そういう層が「迷い時間」をゼロにするためのツールとして育てていく。
なぜ作ったのか
きっかけは、筆者が橋梁の補強工事で SM490Y のミルシートを10枚以上さばいていたときの経験だ。同じ SM490Y でもメーカーとロットで C と Mn が微妙に違う。Ceq = C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15 を電卓で入力していくのだが、成分が7種類あるので打ち間違いが怖い。Excel でシートを作ったこともあったが、今度は現場のスマホから開けない。
既存のオンラインツールを探したら、確かに Ceq 計算サイトはいくつかある。ただ多くは海外製で英語、単位系が違ったり、PCM 式に対応していなかったりする。日本で実務に使うなら JIS Z 3101 の IIW 式と、日本で広く使われている Ito-Bessyo PCM 式の両方が同時に見えないと意味がない。C≤0.17% の低炭素高張力鋼は PCM の方が信頼性が高く、C>0.17% なら Ceq が主指標、という使い分けも現場感覚として定着している。
さらに不満だったのが「数字だけ出して終わり」という UI。Ceq=0.48 と言われても、それが予熱必要なのか不要なのか、初学者には判断できない。WES 1105 や JASS 6 の判定表を頭に入れている人なら即決できるが、若手設計者やミルシート確認初心者はそこで詰まる。だから本ツールは「Ceq=0.48 → Bランク → 軽度予熱(50〜100℃目安)」まで一気通貫で出す。数字の先の判断まで引き受ける設計だ。
あともう一つ。Ceq と PCM を別々の電卓計算で出すと、片方だけ見て判断するミスが起きる。特に Ceq は低めでも PCM が高い鋼材(低炭素高Mn系)では、Ceq だけ見て「予熱不要」と判断すると低温割れを起こす。両方を並列表示することでそのリスクを消したかった。
炭素当量とは何か
炭素当量 とは(第一原理からの説明)
炭素当量(Carbon Equivalent、略してCeq)は、鋼材に含まれる合金元素の「硬化傾向を炭素換算でまとめた指標」だ。
鋼は炭素量が増えるほど焼入れ性が上がり、溶接熱で一度オーステナイトになった後の冷却で硬いマルテンサイトが生成しやすくなる。硬いマルテンサイトは延性が低く、水素が入ると割れる(低温割れ、遅れ割れ)。ここまでは炭素単独の話。
ところが実際の鋼材には Mn, Cr, Mo, Ni, Cu, V といった合金元素が入っている。これらも焼入れ性を上げる効果を持つが、効き方は炭素と違う。そこで「Mn 6% は炭素 1% と同じ硬化効果」「Cr 5% は炭素 1% 相当」という感じで換算し、全部足し合わせて「炭素に換算したらこれくらい」という数値にしたのが炭素当量だ。
たとえるなら、辛さの総量を算出するカレー指標のようなもの。唐辛子(C)が主原料だが、胡椒(Mn)、山椒(Cr)、生姜(Ni)もそれぞれ辛さに寄与する。各スパイスの効き目を唐辛子換算で足し合わせれば、「この料理は唐辛子〇g相当の辛さ」と一発でわかる。炭素当量もこれと同じ発想だ。
IIW式と PCM式の違い
代表的な式が2つある。
// IIW式(JIS Z 3101、国際溶接学会)
Ceq = C + Mn/6 + (Cr + Mo + V)/5 + (Ni + Cu)/15
// Ito-Bessyo式(伊藤・別所、1968年、日本発)
PCM = C + Si/30 + (Mn + Cu + Cr)/20 + Ni/60 + Mo/15 + V/10 + 5B
IIW式は1960年代に国際溶接学会が標準化したもので、主に C>0.17% の普通鋼〜中炭素鋼の硬化傾向を評価する。係数分母が大きい(6, 5, 15)ほど「効きが弱い」という意味だ。Mn は 1/6、つまり Mn 6% が C 1% 相当。
一方の PCM は伊藤・別所が1968年に日本で開発した式で、低温割れ感受性(Pcm, crack susceptibility)に特化している。低炭素高張力鋼(C≤0.17%)で特に信頼性が高い。Si や B が係数に入っているのが特徴で、ホウ素 B は僅かな添加で焼入れ性が跳ね上がるので係数 5(つまり 5×B)と非常に重く効く。
使い分けの原則は単純だ。C>0.17% なら Ceq を主指標、C≤0.17% なら PCM を主指標にする。本ツールは両方を同時表示するので、どちらを見るべきか迷わない。
詳細は JIS Z 3101(Wikipedia: Equivalent carbon content) を参照。
溶接性を誤るとどうなるか
炭素当量の判定を誤ると、最悪の場合「低温割れ(Cold Crack、遅れ割れ)」が発生する。これは溶接直後ではなく、数時間〜数日後に HAZ(熱影響部)や溶接金属に現れる割れで、極めて厄介だ。
実害の具体例
- 橋梁の補強工事: 現場で溶接した高張力鋼のプレートが翌日の朝に検査で割れを発見。再手直しで工期が1週間遅延、協力会社への追加費用は百万円単位。
- 圧力容器のノズル溶接: 予熱を省いた結果、水圧試験で微小漏洩が発覚。原因究明のための開放検査・X線撮影・補修溶接で納期遅延。
- 鉄骨造建築のコラム仕口溶接: 高 Ceq 材(SM570クラス)で予熱不足。UT 検査で割れ指示を検出し全溶接部の再施工。
これらは「成分を見れば事前に Ceq = 0.48 → 要軽度予熱」と判定できた案件ばかりだ。ミルシート受領時にほんの1分、炭素当量をチェックしていれば防げた事故も少なくない。
規格の背景
WES 1105(日本溶接協会)は低温割れ感受性について、PCM と拘束度・水素量から推奨予熱温度を算出する式を提供している。JIS Z 3101 も Ceq 計算式を規格として定義しており、建築基準法施行令や道路橋示方書の鋼橋編でも高張力鋼の溶接には予熱・後熱の条件が具体的に示されている。
特に H-SA700(降伏点700MPa級)のような超高張力鋼になると、Ceq>0.55 が当たり前で、予熱温度 100〜150℃、低水素系溶接棒(D5016等)の使用、溶接後即時の後熱(直後熱、後熱処理)まで一連の対策が必須になる。この判断を「感覚」でやるのは危険すぎる。
炭素当量は「数式1本で鋼の性格が見える」ほとんど唯一の指標だ。だからこそ、設計段階・材料受入段階・施工段階の3回は必ずチェックしたい。
活躍する場面
- ミルシート受領時: 材料入荷時のチェック。発注した SM490A が本当に想定通りの Ceq なのか、ロットごとに5秒で判定。Mn が規格上限ギリギリだと Ceq が跳ね上がるので要注意。
- WPS(溶接施工要領書)作成時: 予熱温度・溶接電流・溶接棒銘柄を決める前に Ceq/PCM を確認。これを根拠に予熱温度を /weld-preheat で算出する流れが定番。
- 現場での急な材料変更時: 当初 SM490A 予定が在庫の都合で SM570 に変更、という場面で現場監督がスマホで即判定。予熱追加が必要かどうかをその場で決められる。
- 品質管理・不具合調査時: 割れが出た溶接部のミルシートを後追いで確認。Ceq/PCM が想定範囲だったかを逆算し、原因が材料起因か施工起因かを切り分ける。
基本の使い方
- 鋼種プリセットを選ぶ: SS400/SM490A/SM570/S45C/SCM440 から該当するものを選択。ミルシートがあれば次のステップで微調整する。
- 化学成分を微調整: ミルシートの分析値(CASTヒート分析など)に合わせて C/Mn/Cr/Mo 等を入力。全部の欄を埋める必要はなく、主要元素だけでも計算できる。
- 結果を確認: Ceq/PCM の数値と溶接性ランク(A〜E)、予熱温度の目安が表示される。コピーボタンでメモや WPS に貼り付けられる。
具体的な使用例
以下、代表鋼種の計算例を示す。すべて IIW/Ito-Bessyo 式で手計算した値と本ツールの出力が一致することを確認している。
ケース1: SS400(一般構造用圧延鋼材)
入力: C=0.15, Si=0.25, Mn=0.80, Cu=0.02, Cr=0.02, Ni=0.02, Mo=0, V=0, B=0
- Ceq = 0.15 + 0.80/6 + (0.02+0+0)/5 + (0.02+0.02)/15 = 0.15 + 0.1333 + 0.004 + 0.00267 = 0.2900
- PCM = 0.15 + 0.25/30 + (0.80+0.02+0.02)/20 + 0.02/60 + 0 + 0 + 0 = 0.2007
- ランク A(予熱不要)
解釈: Ceq≤0.36 かつ PCM≤0.20 相当で、最も溶接性が良い領域。板厚 25mm 以下なら予熱なしで問題ない。
ケース2: SM490A(溶接構造用圧延鋼材)
入力: C=0.18, Si=0.40, Mn=1.40, Cu=0.10, Cr=0.05, Ni=0.05, Mo=0.02, V=0.02, B=0
- Ceq = 0.18 + 1.40/6 + (0.05+0.02+0.02)/5 + (0.05+0.10)/15 = 0.18 + 0.2333 + 0.018 + 0.01 = 0.4413
- PCM = 0.18 + 0.40/30 + (1.40+0.10+0.05)/20 + 0.05/60 + 0.02/15 + 0.02/10 + 0 = 0.2750
- ランク B〜C(軽度〜中程度予熱)
解釈: 橋梁・建築鉄骨で最もよく使われる材料。板厚 25mm 以上や気温 5℃ 以下では 50〜80℃ 程度の予熱が推奨される。
ケース3: SM570(高張力鋼)
入力: C=0.18, Si=0.55, Mn=1.60, Cu=0.30, Cr=0.30, Ni=0.30, Mo=0.15, V=0.05, B=0
- Ceq = 0.18 + 1.60/6 + (0.30+0.15+0.05)/5 + (0.30+0.30)/15 = 0.18 + 0.2667 + 0.10 + 0.04 = 0.5867
- PCM = 0.18 + 0.55/30 + (1.60+0.30+0.30)/20 + 0.30/60 + 0.15/15 + 0.05/10 + 0 = 0.3283
- ランク E(要予熱・後熱、PCM が 0.32 を超える)
解釈: PCM が 0.32 をわずかに超えるため感受性ランクは E。予熱 100℃以上、低水素系溶接棒、拘束度管理が必要。
ケース4: S45C(機械構造用炭素鋼)
入力: C=0.45, Si=0.25, Mn=0.75, Cu=0.02, Cr=0.02, Ni=0.02, Mo=0, V=0, B=0
- Ceq = 0.45 + 0.75/6 + (0.02+0+0)/5 + (0.02+0.02)/15 = 0.45 + 0.125 + 0.004 + 0.00267 = 0.5817
- PCM = 0.45 + 0.25/30 + (0.75+0.02+0.02)/20 + 0.02/60 + 0 + 0 + 0 = 0.4982
- ランク E(高炭素、原則溶接不向き)
解釈: 炭素量 0.45% は既に高炭素鋼。PCM が 0.50 近くで極めて高い。溶接する場合は 150〜200℃ の予熱、後熱処理(PWHT)、低水素系溶接棒が必須。そもそも溶接用途には推奨されない材料であり、軸・歯車などの機械部品向け。
ケース5: SCM440(クロモリ鋼)
入力: C=0.40, Si=0.25, Mn=0.75, Cu=0.02, Cr=1.00, Ni=0.05, Mo=0.20, V=0, B=0
- Ceq = 0.40 + 0.75/6 + (1.00+0.20+0)/5 + (0.05+0.02)/15 = 0.40 + 0.125 + 0.24 + 0.00467 = 0.7697
- PCM = 0.40 + 0.25/30 + (0.75+0.02+1.00)/20 + 0.05/60 + 0.20/15 + 0 + 0 = 0.5110
- ランク E(溶接極めて困難)
解釈: Cr 1% と C 0.40% の組み合わせで Ceq は 0.77 に達する。一般の構造用溶接では扱わず、熱処理後の機械加工部品として使う材料。溶接する場合は 200〜300℃ 予熱と即時後熱、厳重な水素管理が必要。
ケース6: HT780 相当高張力鋼(低炭素設計)
入力: C=0.10, Si=0.25, Mn=1.20, Cu=0.20, Cr=0.50, Ni=1.00, Mo=0.40, V=0.03, B=0.001
- Ceq = 0.10 + 1.20/6 + (0.50+0.40+0.03)/5 + (1.00+0.20)/15 = 0.10 + 0.20 + 0.186 + 0.08 = 0.5660
- PCM = 0.10 + 0.25/30 + (1.20+0.20+0.50)/20 + 1.00/60 + 0.40/15 + 0.03/10 + 5×0.001 = 0.2547
- ランク D(予熱推奨、低温割れ感受性は低め)
解釈: 興味深いケース。Ceq は 0.57 と高めだが PCM は 0.25 と低い。これは C を 0.10% まで絞り、Ni/Mo を増やして強度を出している現代的な低炭素高張力鋼の設計思想による。Ceq だけ見ると要予熱だが、PCM で見ると感受性は中程度。C≤0.17% の鋼では PCM 基準で判定すべき典型例。
ケース7(参考): SS400 の Mn 規格上限品
入力: C=0.18, Si=0.30, Mn=1.40, Cu=0.02, Cr=0.05, Ni=0.02, Mo=0, V=0, B=0(同じ「SS400」でも Mn が上限品)
- Ceq = 0.18 + 1.40/6 + (0.05+0+0)/5 + (0.02+0.02)/15 = 0.18 + 0.2333 + 0.01 + 0.00267 = 0.4260
- PCM = 0.18 + 0.30/30 + (1.40+0.02+0.05)/20 + 0.02/60 + 0 + 0 + 0 = 0.2638
- ランク B(軽度予熱)
解釈: 同じ SS400 でも Mn が規格上限に近いと Ceq が 0.43 まで上がる。「SS400 だから予熱不要」と決め打ちするのではなく、必ずミルシートを確認すべき理由がここにある。
仕組み・アルゴリズム(IIW vs Ito-Bessyo vs CET)
候補手法の比較
炭素当量系の式は世界中で多数提案されているが、実務で使われる主要なものは以下の3系統だ。
| 式 | 提案 | 特徴 | 適用範囲 |
|---|---|---|---|
| IIW(JIS Z 3101) | 国際溶接学会, 1960年代 | 普通鋼〜中炭素鋼の焼入性指標 | C>0.17% 鋼に信頼性高 |
| PCM(Ito-Bessyo) | 伊藤・別所, 1968年 | 低温割れ感受性に特化 | C≤0.17% 低炭素高張力鋼 |
| CET(EN 1011-2) | 欧州規格, 1980年代 | 予熱温度計算に直結 | EN規格圏、C 0.05-0.32% |
本ツールは MVP として IIW と PCM の2式を並列表示する設計とした。理由は3つ。
第1に、日本の実務では JIS Z 3101 の IIW 式と Ito-Bessyo PCM 式がデファクトで、WES 1105 も両者を引用している。CET(EN 1011-2)は欧州規格品(S355等)の流通が少ない日本では優先度が低い。
第2に、両式は「得意な炭素量レンジ」が相補的だ。C>0.17% なら IIW、C≤0.17% なら PCM と使い分けるのが定石で、両方を同時に見せれば鋼材の炭素量に応じて読み手が自然に切り替えられる。
第3に、式がシンプルで計算が軽く、入力項目も化学成分のみで完結する。CET は板厚・水素量・拘束度をさらに要求するため UI が重くなり、計算ツールとしての即時性が損なわれる。CET 対応は Post-MVP として保留した。
実装詳細
本ツールの計算フローは以下のとおりだ。
// 1. 化学成分を string → number 変換(パースエラーは 0 扱い)
const C = parseFloat(cStr) || 0;
const Mn = parseFloat(mnStr) || 0;
// ... Si, Cu, Cr, Ni, Mo, V, B 同様
// 2. IIW Ceq(JIS Z 3101)
const ceq = C + Mn/6 + (Cr + Mo + V)/5 + (Ni + Cu)/15;
// 3. Ito-Bessyo PCM
const pcm = C + Si/30 + (Mn + Cu + Cr)/20 + Ni/60 + Mo/15 + V/10 + 5*B;
// 4. 5段階ランク判定(Ceq と PCM の両方を満たす最良ランクを採用)
let rank: "A"|"B"|"C"|"D"|"E";
if (ceq <= 0.36 && pcm <= 0.20) rank = "A";
else if (ceq <= 0.44 && pcm <= 0.24) rank = "B";
else if (ceq <= 0.52 && pcm <= 0.28) rank = "C";
else if (ceq <= 0.60 && pcm <= 0.32) rank = "D";
else rank = "E";
ランク判定は「Ceq と PCM のうち厳しい方を採用」する AND 条件。片方だけ低くても、もう片方が高ければランクダウンする。これは前述のケース3(SM570)のように「Ceq は 0.59 だが PCM は 0.33」という場合に、PCM 側のリスクを見落とさないための安全策だ。
計算例(SM490A)
手計算でトレースしてみよう。
// 入力: C=0.18, Si=0.40, Mn=1.40, Cu=0.10, Cr=0.05, Ni=0.05, Mo=0.02, V=0.02
Ceq = 0.18 + 1.40/6 + (0.05 + 0.02 + 0.02)/5 + (0.05 + 0.10)/15
= 0.18 + 0.23333 + 0.01800 + 0.01000
= 0.4413
PCM = 0.18 + 0.40/30 + (1.40 + 0.10 + 0.05)/20 + 0.05/60 + 0.02/15 + 0.02/10 + 0
= 0.18 + 0.01333 + 0.07750 + 0.00083 + 0.00133 + 0.00200
= 0.2750
// 判定: Ceq=0.4413 > 0.44(B閾値わずかに超過), PCM=0.2750 > 0.24(B閾値超過)
// → Ceq≤0.52 かつ PCM≤0.28 で C ランク
rank = "C"(中程度予熱 50〜100℃目安)
手計算値とツール出力(Ceq=0.4413, PCM=0.2750)は一致する。このようにステップごとに追えるのが本ツールの強みで、監査やレビュー時に「なぜこのランクか」を説明しやすい。
他ツールとの違い(差別化)
世の中の炭素当量計算サイトの多くは IIW 式だけを単独で表示する。しかし実務では C≤0.17% 鋼には PCM、C>0.17% 鋼には Ceq というように使い分けが必要で、片方だけ見て判断すると危険側に外す。本ツールは Ceq(IIW) と PCM(Ito-Bessyo) を常に両方同時に表示し、どちらの指標で判定すべきかを設計者自身が選べるようにしている。
また、既製ツールは「Ceq=0.44」と数字を返すだけで終わりがちだが、本ツールは内部で 5 段階ランク(A〜E)と予熱温度の目安まで一気に提示する。Ceq を出した直後に「で、結局予熱何度?」という次の疑問に対して、関連ツール /weld-preheat へワンクリックで遷移できる動線を用意した。
さらに代表鋼種プリセット(SS400/SM490A/SM570/S45C/SCM440)を搭載しているので、ミルシートが手元になくてもすぐに概算できる。エクセルで式を組む手間も、古い設計資料から係数を写す手間もない。溶接施工計画書(WPS)を作るときの一次スクリーニングとしてそのまま使える粒度にチューニングしてある。
豆知識・読み物
IIW 炭素当量式が生まれるまで
炭素当量という概念そのものは 1940 年代の英国溶接研究所(BWRA、のちの TWI)で芽吹いた。第二次大戦中のリバティ船が低温下で脆性破壊を起こし船体が真っ二つに割れた事件は有名だが、その原因究明の過程で「炭素だけでなく Mn や Cr も硬化に効いている」という事実が浮上した。各国の研究者がそれぞれ独自の係数を発表し、一時期は Dearden-O'Neill 式、Seferian 式、Stout 式など何種類もの炭素当量式が乱立した。
混乱を収拾したのが国際溶接学会(IIW: International Institute of Welding)だ。1967 年に IIW Doc. IX-535-67 として現在の C + Mn/6 + (Cr+Mo+V)/5 + (Ni+Cu)/15 の形が標準化され、日本でも JIS Z 3101 に取り込まれた。係数の分母が 6, 5, 15 とバラバラなのは、各元素の焼入性への寄与を C 1% 相当に換算したときの比率から決まったもので、決して適当に決めた数字ではない。
日本で PCM が愛される理由
日本の高張力鋼(HT490、HT590、HT780 など)の開発史で大きな貢献をしたのが、1968 年に伊藤・別所(Ito-Bessyo)が発表した PCM(Parameter of Crack Measurement, Pcm)だ。高張力鋼は低炭素・多合金設計が基本で、C≤0.17% の領域では IIW Ceq が硬化傾向を過大評価しがちだった。伊藤・別所は実験室での斜め Y 形拘束割れ試験(JIS Z 3158)から回帰式を導き、低温割れ感受性を直接表すパラメータとして PCM を提唱した。
以来、造船・橋梁・圧力容器といった日本の溶接構造物の WPS では「Ceq と Pcm を両方書く」のがほぼ必須慣行になっている。海外文献で CET(EN 1011-2)が主流なのに対し、日本で PCM が今でも現役なのは、こうした歴史的経緯があるからだ。
Tips
- ミルシートの化学分析欄は「Ladle(溶鋼)分析」と「Product(製品)分析」の 2 種類。WPS 用の Ceq 計算には原則 Ladle 分析値を使う。Product 分析は偏析の影響で局所的に高く出ることがあるので、両方ある場合は安全側を取る。
- Cu が記載されていないミルシートでも 0 にしない。普通鋼でも 0.02〜0.05% 程度は残留している。プリセットの初期値を参考にし、不明なら 0.05% を入れておくと実態に近い。
- B(ホウ素)は 0.001% 単位で効く。5B という係数が示すとおり、わずか 0.002% で PCM が 0.01 動く。ホウ素添加鋼(B 鋼)を扱うときは桁を間違えないよう、ミルシートの単位(% か ppm か)を必ず確認する。
- Ceq の小数第 3 位を丸めるタイミングに注意。有効数字を先に丸めると、閾値(0.44 や 0.60)付近の鋼材で判定がひっくり返る。計算途中は小数第 4 位まで保持し、最終表示でのみ丸める(本ツールもそう実装している)。
- 同じ鋼種でもロットで Ceq は変わる。SM490A でも Ceq が 0.38 のロットと 0.46 のロットが実際にある。プリセット値は暫定で、現物入荷時にはミルシートから再計算して更新する運用が鉄則だ。
FAQ
Ceq と PCM、結局どっちを見ればいい?
C が 0.17% 以下の低炭素・高張力鋼(SM570、HT590、HT780 など)では PCM を主指標にする。C が 0.17% を超える一般構造用鋼(SS400、SM400)や機械構造用鋼(S45C、SCM440)では Ceq を主指標にするのが国内慣行だ。本ツールは両方同時に表示するので、鋼種区分に応じて使い分けてほしい。判断に迷う場合は、安全側(厳しい方)のランクを採用するとよい。
IIW 式と CET 式(EN 1011-2)の結果が違うのはなぜ?
両者は係数の決定方法が異なる。IIW 式は焼入性への寄与を基準にしているのに対し、CET 式は水素誘起割れ試験のデータから回帰したもので、Mn や Mo の係数が低めに出る。同じ鋼材で CET の方が 0.02〜0.05 ほど低く出ることが多い。本ツールは現時点で IIW と PCM のみ対応している(CET は将来対応予定)。欧州規格準拠の案件では EN 1011-2 附属書 C を参照してほしい。
ミルシートの N(窒素)や O(酸素)は入力しないの?
IIW 式にも Ito-Bessyo 式にも N/O の項はない。両式とも「硬化相の生成に寄与する合金元素」を対象にしており、N/O は炭素当量の範疇には含めない慣行になっている。ただし窒素は別途、ひずみ時効・靱性劣化の要因として管理されるので、JIS G 3106 などの規格値を別枠でチェックする必要がある。
Ceq が閾値ギリギリのとき、安全率はどう考えればいい?
Ceq 0.44 ぴったり、PCM 0.28 ぴったりといった閾値ジャスト付近では、板厚と拘束度を合わせて判断する。同じ Ceq でも板厚 25mm と 50mm では冷却速度が倍以上違い、低温割れリスクも跳ね上がる。薄板では閾値通りでよいが、厚板(25mm 超)や高拘束部位(T 継手のルート、補剛材交差部など)では 1 ランク厳しい側に倒す運用が無難だ。予熱温度の具体的算出は /weld-preheat を使ってほしい。
ステンレス鋼(SUS304 等)や鋳鉄に使っても大丈夫?
いいえ。IIW 式も Ito-Bessyo 式も、フェライト系低合金鋼(炭素鋼・高張力鋼)を対象にした回帰式だ。オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316)はそもそも低温割れの機構が異なり、炭素当量の議論は成立しない。鋳鉄(FC、FCD)も炭素量が桁違い(2〜4%)で式の適用範囲外。フェライト系ステンレス(SUS430 等)やマルテンサイト系(SUS410 等)、鋳鉄については専用の溶接施工要領書を参照してほしい。
まとめ
鋼材のミルシートを受け取ったら、まず本ツールで Ceq と PCM を同時に確認し、5 段階ランクで大まかな溶接性を把握しよう。次に /weld-preheat で板厚・拘束度を加味した具体的な予熱温度を決め、/weld-heat-input で入熱量を、/weld-strength で継手強度を押さえれば、WPS 一次案がワンセットで組める。現場で「この鋼、予熱いる?」と迷ったときの最短ルートになれば嬉しい。気になる点やリクエストがあれば お問い合わせ から気軽に連絡してほしい。