Buckコンバータ設計ナビ

降圧DC-DCの部品選定・CCM/DCM判定・4種損失分離を1画面で

降圧DC-DCの主要部品(L・Cout・ESR)とCCM/DCM判定、4種損失分離(MOSFET導通・ダイオード導通・スイッチング)を1画面で同時算出する。Vin/Vout/Ioutと部品プリセットを選ぶだけ。

主要仕様

設計目標

部品プリセット

プリセット選択で RDS(on) / Vf が初期値入りし、手動で上書き可能。tr/tf はプリセット値を使用する。

設計結果

部品選定

デューティ比 D

0.208

CCM/DCM境界電流

0.450 A

推奨L

8.80 μH

IL_peak

3.45 A

インダクタ定格

最小Cout

4.50 μF

ESR上限

55.6 mΩ

出力リプル目標を満たす

動作モードCCMIout ≥ Ib=0.450A
連続モード

損失と効率

MOSFET導通 P_cond

0.172 W

ダイオード P_cond_D

1.069 W

スイッチング P_sw

0.360 W

総損失 P_total

1.601 W

総合効率 η90.35 %Pout=15.00W
良好
計算値は理想CCM式による初期設計検討用の目安。実設計ではICの推奨マニュアル(EVMレポート含む)に従い、PCB寄生成分・温度特性・EMIを実測検証してください。SiC SBDの逆回復特性・過渡応答はモデル化していません。
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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関連ツール

降圧DC-DC設計、Excelとデータシートの往復で半日潰していないか

24V入力から5Vロジック電源を作る。たったそれだけの回路でも、真面目に詰めようとするとインダクタンス計算式、出力コンデンサのリプル式、MOSFET導通損失、スイッチング損失、ダイオード順電圧、CCMとDCMの境界条件、そして効率。式ごとにタブを開き、データシートからRDS(on)を拾い、Excelに手打ちする。気づけば午前中が消えている。

そんな毎回の往復がいやで、VinVoutIoutfsw を入れた瞬間に「L=8.8μH、Cout=4.5μF、CCM、効率90.2%」まで一画面で出してほしい、というのがこのツールを作った動機だ。Excelマクロを再利用する代わりに、ブラウザを開くだけで初期検討が終わる場所を用意した。

TPS54560、LM2596、LTC3864、LT8640S。よく使う4機種のパワーICをプリセットに入れ、SiC SBD 2機種と汎用Schottkyを並べてある。RDS(on)とVfは手動で上書きできるから、プリセットに無いデバイスでも数字を差し替えるだけで検討に入れる。DC-DCの初期検討で手が止まっているなら、まずはここで仮の数字を出してからデータシートを開いてほしい。

なぜ作ったのか ― CCM/DCMと損失分離を1画面で見たかった

大学の授業でパワエレを齧ったあと、現場で降圧コンバータを設計するとき必ずつまずくのが「この数字を入れたとき、CCMで動いているのかDCMに落ちているのか」という判定だ。境界電流 Iout_boundary を手計算で出し、Iout と比較する。紙の上では5行で終わる話が、現場ではExcelを開き、セル参照を追い、結果を別シートから眺める作業になる。

損失分離も同じ構造の苦痛を抱えている。MOSFETの導通損失は Iout² × RDS(on) × D、ダイオードの導通損失は Vf × Iout × (1-D)、スイッチング損失は 0.5 × Vin × Iout × (tr+tf) × fsw。それぞれ単位が違う(mΩ、V、ns、kHz)ので、単位変換を1箇所でもミスすると効率が10倍ずれる。Excelで組んでも、数ヶ月後に開くと「あれ、このセルって何の式だっけ」となる。

既存のWeb計算機も探した。インダクタンスだけ、コンデンサだけ、効率だけ、と単機能で分かれているものは多い。全部の結果を1画面に並べて、さらにCCM/DCM判定と警告まで出してくれるツールは見つからなかった。メーカー提供のWEBENCH系は強力だけれど、アカウント登録とツール起動の遅さが初期検討にはそぐわない。

だから、2クリックで仮設計、数字を変えて即再計算、という使い勝手に振った。回路エンジニアの最初の15分を軽くするのが目的だ。部品選定を完璧にやるのはPCBを切る直前で十分で、その前段でセンスチェックができれば設計の手戻りは大幅に減る。

Buckコンバータとは何か ― 基本原理とCCM/DCM判定

Buckコンバータの基本原理

Buckコンバータは「スイッチをオン/オフしてインダクタに一定のエネルギーを蓄え、コンデンサで平滑して出力する」降圧型のスイッチング電源だ。小学校の理科室で乾電池2本と電球をつないだ回路を思い出してほしい。あれに「超高速で電池を繋いだり離したりするスイッチ」と「エネルギーを貯めるバネのような部品(インダクタ)」を足したものがBuckだと思えばいい。

スイッチON期間、インダクタには (Vin - Vout) の電圧がかかり、電流は直線的に増える。スイッチOFF期間は、ダイオード(同期整流の場合は下側MOSFET)を介して -Vout の電圧がかかり、電流は直線的に減る。この増減を毎秒100万回繰り返して、平均値として Vout = D × Vin の直流電圧を作り出す。ここで D はデューティ比(オン時間の割合)だ。

CCMとDCMの定義

インダクタ電流の波形には2つのモードがある。

  • CCM(連続導通モード): インダクタ電流が常にゼロ以上を流れ続ける。三角波が水平軸より上に浮いている状態
  • DCM(不連続導通モード): スイッチOFF期間の途中でインダクタ電流がゼロに張り付き、次のスイッチONまで電流が流れない区間ができる

両者の境界は、インダクタ電流リプル ΔIL の半分が出力平均電流 Iout と等しくなる点だ。数式では以下のとおり。

Iout_boundary = (Vin - Vout) × Vout / (2 × L × fsw × Vin)
Iout >= Iout_boundary → CCM
Iout <  Iout_boundary → DCM

CCMとDCMの違いは「出力電圧のレギュレーション特性」「効率」「ノイズ」「制御安定性」すべてに効いてくる。軽負荷でDCMに落ちると、伝達関数の極が動きループ補償がずれるから、CCMを前提に設計したフィルタでは位相余裕が確保できないこともある。

インダクタ・コンデンサ・ダイオードの役割

インダクタは、スイッチがオン/オフした瞬間の電圧変化を電流変化に変換し、なだらかにする「慣性装置」だ。大きいほど電流リプル ΔIL が小さくなるが、体積とコストが増える。実務では r = ΔIL / Iout = 0.2〜0.5 になるようLを選ぶ(推奨0.3)。

出力コンデンサは、インダクタが流す三角波電流を平滑し、負荷に直流を供給する「バッファタンク」だ。理想的なキャパシタなら最小容量 Cout = ΔIL / (8 × fsw × ΔVout) で足りるが、実際にはESR(等価直列抵抗)によるリプルが支配的になる。ESR起因のリプル ΔVout_esr = ESR × ΔIL を無視できない領域になると、大容量電解ではなく低ESRセラミックや導電性高分子が必要になる。

ダイオード(または同期整流の下側MOSFET)は、スイッチOFF期間にインダクタ電流の還流経路を作る部品だ。順電圧Vfが大きいほどダイオード導通損失 Vf × Iout × (1-D) が増える。同期整流にすると下側MOSFETのRDS(on)分しか電圧降下しないため、低電圧出力ほど効率差が顕著だ。

理論の詳細は Robert W. Erickson『Fundamentals of Power Electronics』 のCh.2、Wikipedia: Buck converter を参照してほしい。TIのDesigners Guide to DC/DC も実務寄りで読みやすい。

実務での重要性 ― 部品選定ミスが生む事故と手戻り

ΔILを設定するリプル比率 r を安易に0.5以上にすると、インダクタがコアの磁気飽和に突入する危険が跳ね上がる。磁気飽和に入るとインダクタンスが急速に低下し、スイッチON期間の電流が制御不能な指数増加を始める。結果として下側MOSFETがアバランシェし、最悪のケースではICパッケージが破裂する。実験室で「パン」という音とともに煙が上がった経験があるなら、大抵の原因はインダクタ飽和だ。

Coutを小さく見積もりすぎると、今度は出力リプルがデジタルICの規格を超える。たとえばFPGAのコア電源では ΔVout ≤ ±2% を要求されることが多く、1V出力なら20mVに収まらないと内部のPLLが暴れる。PLLが暴れれば高速シリアル通信のビットエラー率が跳ね上がり、基板は動作するがときどきデータが化ける、という厄介な不具合の原因になる。調査に1週間溶ける典型例だ。

軽負荷でDCMに落ちる状況も要注意。たとえばスタンバイモードで負荷電流が1/10以下になると、CCMを前提に調整した電圧ループが不安定化する。結果としてVoutが発振し、2〜3V pp のリプルが乗ることがある。この状態でMCUが立ち上がると、ブラウンアウトリセットを繰り返してシステム全体がハングアップする。経済産業省の電気用品安全法 適合を狙う製品では、スタンバイ消費電力と出力品質の両立が必須だから、DCM動作領域の挙動は設計初期で把握しておく必要がある。

スイッチング損失 P_swfsw に比例する。高周波化(500kHz→2MHz)でインダクタは1/4になるが、スイッチング損失は4倍だ。放熱設計を見直さないと、IC表面温度が Tj_max = 125℃ を超えて自動サーマルシャットダウンに入る。熱設計のやり直しは回路設計よりコストが重く、ヒートシンクの追加と基板レイアウトの変更が必要になる。高周波化のメリットは「小さい、軽い」だけではなく、熱設計と引き換えに獲得するものだ、という感覚を持ってほしい。

活躍する場面 ― 車載・産業・IoT・学習

車載5V系の補助電源。12Vバッテリーから5V/3AをCANマイコン用に作るとき、fsw=500kHzで仮設計をしてみるとL=8.8μH、Cout=4.5μFが出る。ここから車載規格(AEC-Q100)対応のインダクタを選定する。初期検討がブラウザで30秒なのは強い。

産業24V系の中間レール。産業用PLCは24Vバス電源から各モジュールに12Vや5Vを分配する。48V→12V/2Aの変換でもプリセット切替で即座に当たりをつけられる。

IoTデバイスの電池駆動。コイン電池から1.8Vコア電源を作るようなケース。軽負荷でDCMに落ちる領域での効率感覚を掴むのに便利だ。

学生の回路授業・パワエレ学習。「CCMとDCMの境界は?」「リプルを減らすにはLを増やす?fswを上げる?」といった問いに対し、数字を動かしながら感覚を掴める教材として使える。先に手計算で予想値を出し、ツールで答え合わせをすると理解が深まる。

基本の使い方(3ステップ)

  1. 主要仕様を入力 ― Vin(入力電圧)、Vout(出力電圧)、Iout(出力電流)、fsw(スイッチング周波数)の4点を入れる。ここだけで部品選定の大枠が出る
  2. 設計目標を設定 ― ΔVout(出力リプル目標mV)とr(リプル比率、推奨0.3)を入れる。リプル許容が厳しいFPGA電源なら ΔVout = 20mV など厳しめに
  3. プリセットを選ぶ ― MOSFETは4機種のパワーIC(TPS54560/LM2596/LTC3864/LT8640S)、ダイオードは SiC SBD 2種と汎用Schottkyから選択。プリセットに無いデバイスはRDS(on)とVfを手入力で上書き

結果は一画面で全部出る。L・Cout・ESR上限・CCM/DCM判定・4種損失・総合効率までまとめて表示されるから、iPad片手にデータシートと比較するワークフローにはまる。

具体的な使用例 ― 6ケースで感覚を掴む

ケース1: 24V→5V/3A 標準設計(TPS54560 + 汎用Schottky)

  • 入力: Vin=24V、Vout=5V、Iout=3A、fsw=500kHz、ΔVout=50mV、r=0.3、RDS(on)=40mΩ、Vf=0.5V、tr=tf=10ns
  • 結果: D=0.208、L=8.80μH、IL_peak=3.45A、Cout=4.5μF、ESR≤55.6mΩ、Ib=0.45A、CCM
  • 損失: P_cond_MOS=0.075W、P_cond_D=1.188W、P_sw=0.36W、P_total=1.623W、η=90.24%
  • 解釈: 産業機器の定番24V→5V。ダイオード導通損失が支配的で、同期整流に切り替えると1W以上稼げる。L選定は10μH/3.5A定格の汎用インダクタで足りる

ケース2: 48V→12V/2A 産業用(カスタムMOSFET + SiC SBD)

  • 入力: Vin=48V、Vout=12V、Iout=2A、fsw=200kHz、ΔVout=100mV、r=0.4、RDS(on)=30mΩ、Vf=0.5V、tr=tf=15ns
  • 結果: D=0.25、L=56.25μH、IL_peak=2.4A、Cout=5.0μF、ESR≤125mΩ、Ib=0.4A、CCM
  • 損失: P_cond_MOS=0.03W、P_cond_D=0.75W、P_sw=0.288W、P_total=1.068W、η=95.74%
  • 解釈: PoE中間バス電源の典型。fswを抑えたのでL大きめだが効率優秀。ESR要求125mΩは一般的なセラミックで楽に満たせる

ケース3: 12V→3.3V/1A IoT電源(LT8640S + 汎用Schottky)

  • 入力: Vin=12V、Vout=3.3V、Iout=1A、fsw=500kHz、ΔVout=30mV、r=0.3、RDS(on)=40mΩ、Vf=0.5V、tr=tf=8ns
  • 結果: D=0.275、L=15.95μH、IL_peak=1.15A、Cout=2.5μF、ESR≤100mΩ、Ib=0.15A、CCM
  • 損失: P_cond_MOS=0.011W、P_cond_D=0.363W、P_sw=0.048W、P_total=0.422W、η=88.68%
  • 解釈: ESP32やSTM32など3.3V MCU向けの一般的なレール。非同期整流のダイオード損失が効率を押し下げており、同期整流版(LT8640の内部SW)に任せるのが実務

ケース4: 24V→12V/5A 中電流車載(TPS54560 + 汎用Schottky)

  • 入力: Vin=24V、Vout=12V、Iout=5A、fsw=300kHz、ΔVout=80mV、r=0.3、RDS(on)=92mΩ、Vf=0.5V、tr=tf=10ns
  • 結果: D=0.5、L=13.33μH、IL_peak=5.75A、Cout=7.81μF、ESR≤53.3mΩ、Ib=0.75A、CCM
  • 損失: P_cond_MOS=1.15W、P_cond_D=1.25W、P_sw=0.36W、P_total=2.76W、η=95.60%
  • 解釈: D=0.5の対称動作。P_cond_MOSとP_cond_Dがほぼ均衡する教科書的な領域。放熱面ではMOSFET/Diodeそれぞれ1.2W級の発熱に対応するヒートシンク検討が必要

ケース5: 100V→24V/1A 高入力産業機(LTC3864 + Rohm SCS210KM SiC)

  • 入力: Vin=100V、Vout=24V、Iout=1A、fsw=100kHz、ΔVout=100mV、r=0.3、RDS(on)=150mΩ、Vf=1.35V、tr=tf=20ns
  • 結果: D=0.24、L=608μH、IL_peak=1.15A、Cout=3.75μF、ESR≤333mΩ、Ib=0.15A、CCM
  • 損失: P_cond_MOS=0.036W、P_cond_D=1.026W、P_sw=0.2W、P_total=1.262W、η=95.00%
  • 解釈: 高電圧入力のため P_sw = 0.5 × 100 × ... が効く領域。SiC SBDのVf=1.35Vが効率を下げているが、逆回復損失とEMIで汎用Schottkyより有利。fsw=100kHzに抑えたのはスイッチング損失の抑制戦略

ケース6: 5V→1.8V/2A FPGAコア(LT8640S + 汎用Schottky)

  • 入力: Vin=5V、Vout=1.8V、Iout=2A、fsw=1MHz、ΔVout=20mV、r=0.4、RDS(on)=40mΩ、Vf=0.5V、tr=tf=8ns
  • 結果: D=0.36、L=1.44μH、IL_peak=2.4A、Cout=5.0μF、ESR≤25mΩ、Ib=0.4A、CCM
  • 損失: P_cond_MOS=0.058W、P_cond_D=0.64W、P_sw=0.08W、P_total=0.778W、η=82.24%
  • 警告: L=1.44μHはPCB寄生インダクタンス(配線20〜50nH)と比較すれば十分だが、下限に近い。高周波化(1MHz)で小型化した引き換えに、非同期整流のVf損失が重く、効率82%と低めに落ちる。実機では同期整流MOSFET(下側内蔵)のLT8640純正を使うのが本命

仕組み・アルゴリズム ― Erickson標準式を採用した理由

候補手法の比較

降圧コンバータの設計式には3つの流派がある。

  1. Erickson『Fundamentals of Power Electronics』 第2版 Ch.2 準拠のCCM標準式 ― 大学院レベルのパワエレ教科書で最も参照される式。状態空間平均化で導出され、可読性と汎用性が高い
  2. メーカー設計マニュアル式(TI Designers Guide、AD Linear Technology App Note等) ― IC固有のパラメータ(内部補償、最小オン時間、電流リミット)を織り込んだ実務式。特定ICの検討には強いが、汎用性に欠ける
  3. 簡易三角波近似(RIPPLE法) ― インダクタ電流を三角波と仮定してRMSを計算。実装が軽いが、CCM/DCM境界の扱いが曖昧

本ツールではErickson教科書式を採用した。理由は3つ。(a) 書籍で検算可能。検証コスト最小、(b) IC非依存でプリセット追加が容易、(c) 大学のパワエレ授業で定番のため、学習ツールとしても機能する。

実装詳細 ― 単位変換フローと標準式

入力はすべて工学的に扱いやすい単位で受け取り、SI単位に変換してから計算する。

単位変換:
  fsw_Hz    = fsw_kHz × 1e3
  dvout_V   = dvout_mV × 1e-3
  rds_Ω     = rds_mΩ × 1e-3
  tr_s      = tr_ns × 1e-9
  tf_s      = tf_ns × 1e-9

部品選定式:
  D           = Vout / Vin
  ΔIL         = Iout × r
  L_H         = (Vin - Vout) × Vout / (Iout × r × fsw_Hz × Vin)
  IL_peak     = Iout + ΔIL / 2
  Cout_F      = ΔIL / (8 × fsw_Hz × dvout_V)
  ESR_max_Ω   = dvout_V / ΔIL

CCM/DCM判定:
  Iout_boundary = (Vin - Vout) × Vout / (2 × L_H × fsw_Hz × Vin)
  mode = Iout >= Iout_boundary ? 'CCM' : 'DCM'

損失計算(CCM簡易式):
  P_cond_MOS = Iout² × rds_Ω × D
  P_cond_D   = Vf × Iout × (1 - D)
  P_sw       = 0.5 × Vin × Iout × (tr_s + tf_s) × fsw_Hz
  P_total    = P_cond_MOS + P_cond_D + P_sw

効率:
  Pout = Vout × Iout
  η[%] = 100 × Pout / (Pout + P_total)

スイッチング損失は tr/tf の線形近似(オーバーラップ近似)を採用している。厳密にはミラー期間中のゲート充放電電流で決まるが、本ツールは初期検討用のため P_sw ≈ 0.5 × Vin × Iout × (tr + tf) × fsw の古典近似で十分だ。正確なゲートドライブ損失・ボディダイオード逆回復・デッドタイム損失は/mosfet-switching-loss で詳細計算する。

計算例 ― ケース1をステップバイステップで追う

Vin=24V、Vout=5V、Iout=3A、fsw=500kHz、ΔVout=50mV、r=0.3、RDS(on)=40mΩ、Vf=0.5V、tr=tf=10ns で計算する。

step1: D = 5 / 24 = 0.2083
step2: ΔIL = 3 × 0.3 = 0.9 A
step3: L = (24-5) × 5 / (3 × 0.3 × 500000 × 24)
        = 95 / 10,800,000
        = 8.796e-6 H = 8.80 μH
step4: IL_peak = 3 + 0.9/2 = 3.45 A
step5: Cout = 0.9 / (8 × 500000 × 0.05)
          = 0.9 / 200,000
          = 4.5e-6 F = 4.5 μF
step6: ESR_max = 0.05 / 0.9 = 55.6 mΩ
step7: Iout_boundary = (24-5) × 5 / (2 × 8.796e-6 × 500000 × 24)
                     = 95 / 211.1
                     = 0.45 A
       Iout=3 >= 0.45 → CCM
step8: P_cond_MOS = 9 × 0.04 × 0.2083 = 0.075 W
       P_cond_D  = 0.5 × 3 × 0.7917 = 1.1875 W
       P_sw      = 0.5 × 24 × 3 × 20e-9 × 500000 = 0.36 W
       P_total   = 0.075 + 1.1875 + 0.36 = 1.6225 W
step9: Pout = 5 × 3 = 15 W
       η = 100 × 15 / (15 + 1.6225) = 90.24 %

このトレースとケース1の検証済みテストベクトル(D=0.208、L=8.80μH、η=90.24%)が完全一致することを、実装段階でユニットテスト的に突合している。

他ツールとの違い:buck converter design の一画面完結

降圧DC-DC設計の計算機はネットに山ほどある。TI のWEBENCH、Analog Devices の LTpowerCAD、Rohm の ROHM Solution Simulator、そして Excel テンプレート。どれも優秀だ。ただ、それぞれに尖った思想があって、初期検討で「とりあえず全体像を見たい」段階にはやや重い。

WEBENCH は IC 選定から始まる。データベースからパラメータに合う IC を探してくれるが、逆にいうと IC を決めた後の「なぜこの部品になるか」の内訳は見えにくい。LTpowerCAD はシミュレーションまで含めた本格派で、Bode線図や過渡応答まで出せるぶん、操作の学習コストが高い。Excel テンプレートは自由度が高いが、CCM/DCM の境界判定や損失分離が抜け落ちているものが多く、Iout = 0.3A の軽負荷で突然効率が落ちる理由を見落としがちになる。

このツールは真ん中の層を狙った。IC プリセットを選んで Vin/Vout/Iout/fsw を打つだけで、L・Cout・ESR上限・IL_peak・CCM/DCM判定・4種損失分離を1画面に並べる。回路シミュレータではないから過渡応答は出ないが、そのかわり「なぜ効率が89%止まりなのか」が導通損失・スイッチング損失・ダイオード損失の棒に分かれて即座に見える。

差別化の核は3つ。①CCM/DCM境界を StatusCard で常時表示して見落としを防ぐ、②損失を4項目に分離してボトルネック箇所を特定できる、③MOSFET 4機種と SiC SBD 2機種のプリセットを用意して「まず試す」を0クリックで始められる。初期検討を30秒で終わらせ、本格検討は WEBENCH や実機評価ボードに回す、という住み分けの道具だ。

豆知識:Buck以外のトポロジと同期整流の歴史

Buck は降圧の王道だが、その親戚は多い。Boost(昇圧)、Buck-Boost(昇降圧・出力極性反転)、そしてインダクタを2つ使う SEPIC(Single-Ended Primary-Inductor Converter)と Ćuk。SEPIC は入力より高い電圧も低い電圧も作れて、しかも出力極性が入力と同じというお得なトポロジ。車載の12V→可変5〜15Vのような「入力より高い電圧が欲しい瞬間もある」用途で活躍する。

Ćuk(チューク)は旧ユーゴスラビア出身の電源研究者 Slobodan Ćuk 博士が1970年代に発表したトポロジだ。読み方は「チューク」で、「クック」ではない。Wikipedia の Ćuk converter を見ると、Buck-Boost との違いはインダクタが入出力両方に入って電流が連続化する点だとわかる。EMI が小さく、車載や航空機電源で重宝される。

Ćuk 博士の師匠にあたる R. D. Middlebrook と、その弟子の Robert Erickson の教科書『Fundamentals of Power Electronics』は、パワエレ設計者のバイブル扱いだ。本ツールの L・Cout 算出式はこの教科書の第2章に準拠している。CRC Press の書誌情報 も参照してほしい。

同期整流の歴史にも触れておく。昔のBuckはダイオード整流が基本で、Vf=0.5V のSchottkyでも5V出力だと10%の電力をダイオードで捨てていた。1990年代後半から、フリーホイールダイオードを MOSFET に置き換える「同期整流」が主流になり、低 RDS(on) MOSFET によって Vf ロスが RDS(on)×Iout の電圧降下(数十mV)に激減した。TPS54560 や LT8640S が「同期整流内蔵」を売りにしているのはこの文脈で、現代の Buck で効率93%超を狙うなら同期整流はほぼ必須だ。

余談だが、SiC SBD(炭化ケイ素ショットキーバリアダイオード)がなぜ「逆回復損失ゼロ」と呼ばれるかは構造の話になる。通常のPN接合ダイオードは順方向に流れた少数キャリアが蓄積し、電流を逆にした瞬間にそれが引き抜かれて逆回復電流が流れる。SBDは金属-半導体接合で少数キャリアがそもそも存在しないから、この蓄積がない。Si Schottky でも同じ理屈だが、耐圧が200V程度までに制限される。SiC は禁制帯幅が広く耐圧1200V級のSBDが作れるため、高電圧Buckの同期整流レスな構成でSwitching lossを極小化できる、という構図になる。

Tips:実務で効く小ワザ5選

  • デッドタイム補正:同期整流 MOSFET 2個のうち、ハイサイドとローサイドが同時ONになるショートスルーを防ぐため、数十nsのデッドタイム(両方OFF)が入る。この期間はローサイド側のボディダイオード(Vf≈0.8V)が導通するため、意外と損失になる。P_deadtime = Vf_body × Iout × t_dead × fsw の積で見積もれる。500kHzで30ns×0.8V×3A なら約36mW。効率計算に1%弱効いてくる。
  • ボディダイオード選定:同期整流MOSFETは寄生ダイオード(ボディダイオード)が並列に入っている。この Vf と逆回復時間 trr がデッドタイム期間の性能を決める。低 trr(10ns級)の MOSFET を選ぶか、trr の大きい MOSFET ならショットキー外付けを検討する。
  • 熱設計への橋渡し:ツールが出す P_total は MOSFET とダイオードの合算。これを部品ごとに按分し(Duty比で導通損失を分離)、それぞれを ヒートシンク計算(/heatsink-calc) に渡せば Tj 推定ができる。MOSFETなら Tj = Ta + (P_cond_MOS + P_sw) × (θJC + θCA) の式で基板温度から逆算する流れだ。
  • ホットループ最小化:スイッチング損失の一部は寄生インダクタンス由来のリンギングが再熱化する成分だ。入力デカップリング(Cin)-ハイサイドMOSFET-ローサイドMOSFET を通る電流ループの面積を最小化すると、Lparasitic が減ってリンギングが収まる。PCBレイアウトで「Cin の直近にMOSFETを置け」と言われるのはこの理由。
  • リプル比率 r の使い分け:デフォルトの r=0.3 は経験則のスイートスポットだが、小型化優先なら r=0.5(Lが60%縮む代わりに IL_peak が17%増えて飽和リスク増)、効率優先なら r=0.2(Lが50%増えるが導通損失が減る)と振ってみると設計の感度が掴める。

FAQ:buck converter 設計でよくある疑問

プリセット以外のIC(TIのTPS62xx系や他社MOSFET)を使うときは?

プリセットを「カスタム」に切り替えて、データシートの値を直接打ち込んでほしい。必要なのは RDS(on)[mΩ]、立ち上がり時間 tr[ns]、立ち下がり時間 tf[ns]、ゲート電荷 Qg[nC]の4つ。データシートの Electrical Characteristics 表に必ず記載がある。tr/tf はゲート駆動電流とドライバの能力にも依存するので、データシートの条件(Vgs=10Vで測定等)と実使用条件が近いかも確認しておくと良い。プリセットは代表的なIC 4機種だけだが、式そのものは汎用なのでどんなMOSFETにも使える。

PCB寄生成分(配線インダクタンス・ループ面積)は計算に入っているか?

入っていない。このツールは理想CCM式での初期検討用で、寄生成分は L < 1μH になったときに警告を出すだけだ。実際の基板では、配線インダクタンス(10〜50nH/cm)やMOSFETパッケージのリード寄生(数nH)がスイッチング損失を増やし、リンギングも発生させる。精密評価は LTspice や Ansys Q3D 等の3Dフィールドソルバで寄生成分を抽出し、回路シミュレータに渡す流れになる。本ツールの結果はあくまで「理想ケースの下限値」として扱ってほしい。

DCM動作時の計算精度は?なぜ近似式を採用しないのか

DCM(不連続電流モード)ではインダクタ電流が周期内で0に落ちる区間があり、実効デューティが D_eff = √(2·L·fsw·Iout / (Vin·(Vin/Vout − 1))) のように負荷電流に依存する。この結果、CCM式で計算したスイッチング損失は過大評価、導通損失は三角波RMSで再計算が必要、となって式が一気に複雑化する。本ツールは「DCM判定は出すが値はCCM参考表示」の方針にした。理由は2つ。①初期検討の段階でDCMまで厳密計算すると式が煩雑で読みにくい、②実設計ではDCM動作する運用点が恒常的なら、そもそもIC選定(Forced-PWMモードやLight-Load PFM対応品)を見直すべきだから。DCM状態で詳細が必要なら、IC のデータシート実測値かシミュレータに移行する想定だ。

EMIフィルタの設計も兼ねられるか?

兼ねられない。本ツールは Cin/Cout の最小容量を出すが、EMIフィルタ(入力πフィルタ・コモンモードチョーク)の設計は扱っていない。EMIはスイッチング周波数の高調波(fsw × 2, 3, 5, ... の奇数次が特に強い)をCISPR 32 などの規格値以下に落とす設計で、別領域の計算になる。LC時定数、減衰共振、Qダンピングなどの設計観点は別ツール化を検討中なので、要望があればお問い合わせで教えてほしい。

同期整流で MOSFET 2個使うとき、RDS(on) はどう扱うか?

本ツールの P_cond_MOS は「ハイサイドMOSFET 1個分の導通損失」として計算している。Iout² × RDS(on) × D の式で、D(ON期間)中にハイサイドだけ電流を流す想定だ。同期整流の場合、ローサイドMOSFET も Iout² × RDS(on) × (1−D) でほぼ同じ損失が出る。ツール上はダイオード導通損失 P_cond_D の欄に Vf が小さいダイオードを擬似的に置く運用ができる(例:ローサイドRDS(on)=40mΩ、Iout=3A なら等価Vf=0.12V として入力)。より正確に扱いたい場合は、同期整流対応IC(TPS54560、LT8640S)のプリセットを選び、Vf を 0.1V 程度に上書きすると現実解に近づく。

入力した値は外部に送信される?プライバシーは大丈夫か?

計算はすべてブラウザ内の JavaScript で完結していて、サーバーには何も送信されない。クッキーやローカルストレージへの入力値保存もしていない。機密プロジェクトの設計でも安心して使ってほしい。このツールの利用で扱うデータの取り扱いはプライバシーポリシーに明記している。

まとめ:Buckの次は損失と放熱の深掘り

Buck 設計ナビで L・Cout・効率が見えたら、次の工程に進もう。スイッチング損失だけを詳細に詰めたいなら MOSFETスイッチング損失計算(/mosfet-switching-loss) で Qg/Qgd 波形を使った厳密見積もりに進める。昇圧が必要なら PFC/昇圧インダクタ設計(/pfc-inductor-design) へ。放熱設計には ヒートシンク計算(/heatsink-calc)、SiCからSiへ変えた場合の影響は 逆回復損失(/reverse-recovery-loss) で定量できる。気づいた改善点はお問い合わせから教えてほしい。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。24V→5Vの仮設計で午前中を溶かした経験から、部品選定・CCM判定・損失分離を一画面で確認できるワンショットナビを作った筆者が、初期検討の15分を軽くするために仕立てた設計ツール。

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