昇圧PFCインダクタ、"とりあえず手計算"で大丈夫?
AC電源を扱うパワエレ設計で、避けて通れないのがPFC(力率改善)回路のインダクタ設計だ。出力電力・スイッチング周波数・リプル率——パラメータが絡み合い、「この条件でインダクタンスは何µHにすべきか」を素早く出すのが意外と手間になる。制御ICのデータシートにある設計例はたいてい1条件だけで、AC100V/230Vを切り替えたいとか、BCMとCCMで比較したいとか、そういう "ちょっとずらした条件" を試すたびにExcelに戻る羽目になる。
このツールは、昇圧PFCの基本設計式をブラウザ上で即座に回し、必要インダクタンス・ピーク電流・デューティ・リプル電流をBCM/CCM両モードで一括算出するものだ。入力を変えるたびにリアルタイムで結果が更新されるので、パラメータスイープが圧倒的に速い。
なぜ作ったのか——日本語で使えるオープンなPFC計算ツールがない
PFCインダクタの設計式自体はそこまで複雑ではない。だが実務で困るのは、「今の条件でBCMにしたらどうなるか」「効率を0.95に落としたらインダクタンスはどれだけ変わるか」といった比較検討だ。
ICメーカーのデザインツール(TIのPower Stage Designerなど)は高機能だが、ダウンロード+インストールが必要で、PCを選ぶ。しかもUIが英語で、PFC以外の回路トポロジーも含む汎用ツールだから、「昇圧PFCのインダクタンスだけサッと出したい」という用途には大げさだ。
一方、教科書的な設計手順を日本語で解説したサイトはあるが、式の途中で定数が省略されていたり、BCMとCCMの切り替え比較ができなかったりする。結局、自分のExcelシートに戻って手計算する——この繰り返しにうんざりしたのが開発のきっかけだった。
ブラウザを開いて条件を入れれば即座に結果が出る。BCM/CCMをワンタップで切り替えられる。効率ηも変えられる。そういうシンプルだが実用的なツールが欲しかったから作った。
PFC(力率改善)とインダクタ設計の基本原理
力率とは何か——なぜ1.0を目指すのか
コンセントからAC電力を取る機器は、電圧と電流の波形が揃っているほど「効率よく」電力を使える。この「揃い具合」を数値化したのが力率(Power Factor)だ。
身近な例で考えてみよう。ホースで水を撒くとき、水圧(電圧)が最大のタイミングで水量(電流)も最大なら、もっとも効率よく庭に水が行き渡る。ところが水量のタイミングがズレていたり、間欠的にしか流れなかったりすると、水圧は十分あるのに実際に撒ける水の量は減る。これが力率の低い状態だ。
力率が低いと、同じ有効電力を得るために電力会社側はより大きな皮相電力を供給しなければならず、送電線の損失が増える。だから IEC 61000-3-2 は16A以下の機器に対して高調波電流の上限を規定しており、75W以上のほとんどの電子機器はPFC回路の搭載が事実上必須となっている。
昇圧PFCの動作原理
昇圧型(ブースト型)PFCは、全波整流後の脈流電圧を入力に取り、インダクタ+スイッチ(MOSFET)+ダイオード+出力コンデンサで構成される昇圧チョッパ回路だ。制御ICがスイッチのON/OFF比率(デューティ)を高速に調整し、入力電流の波形を入力電圧と同じ正弦波に成形する。
結果として力率はほぼ1.0に近づき、高調波電流が大幅に低減される。出力電圧 Vout は入力ピーク電圧より高い値(一般に380〜400V)に設定する。
BCMとCCMの違い——インダクタ電流の"谷"がゼロかどうか
PFCには大きく分けて2つの動作モードがある。
- CCM(連続導通モード): インダクタ電流がゼロまで下がらない。電流リプルが小さいためEMIに有利だが、ダイオードのリカバリ損失が発生する。中〜大電力(200W以上)で主流
- BCM(臨界導通モード、CrCMとも): インダクタ電流がちょうどゼロに達した瞬間に次のスイッチングサイクルが始まる。ゼロ電流スイッチングでダイオード損失が少ないが、ピーク電流が大きい。小〜中電力(〜300W程度)向き
PFCインダクタの基本設計式
入力ピーク電圧、入力ピーク電流、最大デューティは以下で求まる。
Vin_peak = √2 × Vin_rms
Iin_peak = √2 × Pout / (Vin_rms × η)
D_max = 1 − Vin_peak / Vout
CCMの場合、リプル電流 ΔIL はピーク電流にリプル率を掛けて決定し、必要インダクタンスを逆算する。
ΔIL = (ripple% / 100) × Iin_peak
L = Vin_peak × D_max / (ΔIL × fsw)
BCMの場合、インダクタ電流は完全な三角波になるため ΔIL = 2 × Iin_peak となり、同じ電力条件ならCCMよりインダクタンスが大幅に小さくなる。
設計ミスが引き起こすもの——コア飽和からEMI不適合まで
インダクタンスが小さすぎるとき
インダクタンスが不足すると、電流リプルが設計値を超え、コンダクションEMIが悪化する。さらにピーク電流が上がることでコアの磁束密度が飽和領域に入り、実効インダクタンスが急激に低下→電流がさらに増大する正帰還ループに陥る。最悪の場合、MOSFET過電流で回路が破壊される。
インダクタンスが大きすぎるとき
安全マージンを取りすぎてインダクタンスを大きくすると、コアサイズ・巻数が増え、コストと体積が膨らむ。さらにインダクタの直流抵抗(DCR)が上がり、銅損が増えて効率が低下する。「大きければ安心」という単純な話ではないのがインダクタ設計の難しさだ。
実際に起きた問題
筆者が経験した例では、AC100V 入力のLEDドライバでインダクタンスの計算を200V入力の設計例からそのまま流用し、100V入力時のデューティが0.85を超えて制御が不安定になるケースがあった。入力電圧が変われば最大デューティもリプル電流も大きく変わるため、条件ごとの再計算は必須だ。
日本の電気用品安全法(PSE)や海外のUL規格では、最終製品レベルでのEMI試験が義務付けられている。インダクタ設計のミスは試験不適合→設計やり直しにつながり、開発スケジュールに致命的な遅れを生む。設計初期に適切なインダクタンスを見積もることが、手戻りコストを最小化する鍵になる。
PFCインダクタ設計計算が活躍する場面
LED照明電源の設計
75W以上のLEDドライバは IEC 61000-3-2 Class C(照明機器)への適合が求められる。AC100V〜277Vのワイドレンジ入力に対応するため、最低電圧条件でのインダクタンスを正確に把握する必要がある。BCMとCCMの切り替え比較もこのツールなら一瞬だ。
EV充電器・車載OBCの初期検討
3.3kW〜11kWクラスのオンボードチャージャ(OBC)では、CCMモードでのインダクタ設計が基本。効率η=0.95前後を想定し、大電力時のピーク電流とインダクタンスの概算を素早く回したい場面に最適だ。
白物家電・エアコンのインバータ電源
エアコンや洗濯機のインバータ用電源は、AC100Vから400V前後のDCリンクを生成するPFC段を持つ。200〜1000W帯の電力範囲で、スイッチング周波数やリプル率を振りながらインダクタのサイズ感を掴むのに使える。
パワエレの学習・教育
大学や高専のパワーエレクトロニクス演習で、BCM/CCMの違いを数値で体感するのにも便利。パラメータを変えたときに結果がどう変わるかをリアルタイムで観察できるので、教科書だけでは掴みにくい設計感覚が身につく。
基本の使い方——3ステップで設計値を算出
ステップ1: 動作モードを選ぶ
BCM(臨界導通モード)かCCM(連続導通モード)を選択する。目安として、出力300W以下ならBCMも候補に、200W以上ならCCMが一般的だ。
ステップ2: 動作条件を入力する
入力電圧Vin(rms)・出力電圧Vout・出力電力Pout・スイッチング周波数fsw・リプル率(CCM時)・想定効率ηを入力する。プリセット(AC100V 200W / AC230V 500W など)を選べば、代表的な条件が一括セットされる。
ステップ3: 設計値を確認する
入力ピーク電圧・入力ピーク電流・最大デューティ・リプル電流・必要インダクタンスがリアルタイムで表示される。「結果をコピー」ボタンで設計メモにそのまま貼り付けられる。
具体的な使用例——6ケースで見るPFCインダクタ設計
ケース1: CCM / AC100V / 200W / 65kHz / リプル30%
国内AC100V入力のLED電源を想定した基本ケース。
- 入力: Vin=100V(rms), Vout=400V, Pout=200W, fsw=65kHz, リプル率30%, η=1.0
- 結果: Vin_peak=141.42V, Iin_peak=2.828A, D=0.6464 (64.6%), ΔIL=0.849A, L=1658µH
デューティが64.6%と高めで、インダクタンスは約1.66mH。65kHzではコアサイズがそれなりに大きくなるため、周波数を上げるかリプル率を緩める検討が必要になる。
ケース2: CCM / AC230V / 500W / 100kHz / リプル25%
欧州230V入力の中電力PFC。
- 入力: Vin=230V(rms), Vout=400V, Pout=500W, fsw=100kHz, リプル率25%, η=1.0
- 結果: Vin_peak=325.27V, Iin_peak=3.074A, D=0.1868 (18.7%), ΔIL=0.769A, L=791µH
入力電圧が高い分デューティは18.7%と低く、インダクタンスもケース1の半分以下。230V圏ではインダクタ設計の難易度がぐっと下がることが数値で分かる。
ケース3: CCM / AC100V / 100W / 65kHz / リプル40%
小電力で許容リプルを広げたケース。
- 入力: Vin=100V(rms), Vout=400V, Pout=100W, fsw=65kHz, リプル率40%, η=1.0
- 結果: Vin_peak=141.42V, Iin_peak=1.414A, D=0.6464, ΔIL=0.566A, L=2486µH
リプル率を40%まで緩めても、100V入力ではインダクタンスが約2.5mHに達する。「2mH超は大型コア要注意」の黄色警告が表示される条件だ。fsw引き上げか、BCMモードへの切り替えを検討したい。
ケース4: BCM / AC100V / 100W / 65kHz
同じ100W・100V条件をBCMに切り替えた場合。
- 入力: Vin=100V(rms), Vout=400V, Pout=100W, fsw=65kHz, η=1.0
- 結果: Vin_peak=141.42V, Iin_peak=1.414A, D=0.6464, ΔIL=2.828A, L=497µH
ケース3(CCM, 2486µH)と比べてインダクタンスが約1/5に激減する。BCMではインダクタ電流が完全三角波(ΔIL=2×Iin_peak)になるため、リプル電流は大きいがインダクタは圧倒的に小さくて済む。100W以下の小電力帯でBCMが好まれる理由がこの数値に表れている。
ケース5: CCM / AC100V / 300W / 65kHz / リプル30% / η=0.95
効率95%を考慮した実設計に近い条件。
- 入力: Vin=100V(rms), Vout=400V, Pout=300W, fsw=65kHz, リプル率30%, η=0.95
- 結果: Vin_peak=141.42V, Iin_peak=4.466A, D=0.6464, ΔIL=1.340A, L=1049µH
η=1.0(理想)からη=0.95に変えると、入力電流が約5%増加する。その分リプル電流も増えるため、インダクタンスはケース1(200W, η=1.0, 1658µH)よりむしろ小さくなる。ただしピーク電流が4.5A近くに達するので、コアの飽和マージンには注意が必要だ。
ケース6: CCM / AC200V / 1000W / 100kHz / リプル20% / η=0.95
大電力サーバー電源やEV充電器を想定したケース。
- 入力: Vin=200V(rms), Vout=400V, Pout=1000W, fsw=100kHz, リプル率20%, η=0.95
- 結果: Vin_peak=282.84V, Iin_peak=7.443A, D=0.2929 (29.3%), ΔIL=1.489A, L=556µH
1kW級でもAC200V/100kHzならインダクタンスは556µH。ピーク電流7.4Aに対してリプル率20%で抑えているのがポイントだ。この電力帯ではEMIフィルタコストとの兼ね合いでリプル率を15〜25%に設定するのが一般的になる。
ケース7: BCM / AC230V / 150W / 100kHz
欧州230V入力・小電力のBCMケース。
- 入力: Vin=230V(rms), Vout=400V, Pout=150W, fsw=100kHz, η=1.0
- 結果: Vin_peak=325.27V, Iin_peak=0.922A, D=0.1868, ΔIL=1.844A, L=330µH
入力電圧が高くデューティが低いため、BCMでもわずか330µHで済む。150W以下の欧州向けLED電源であれば、L6562系のBCM制御ICと小型コアで非常にコンパクトな設計が可能だ。
CCMとBCMの選び方——仕組み・アルゴリズムの裏側
2つのモードを数式で比較する
このツールの核となる計算は、BCM/CCMいずれも同じ「昇圧チョッパの基本式」から出発する。違いはリプル電流 ΔIL の決め方だけだ。
共通の前段計算:
Vin_peak = √2 × Vin_rms
Iin_peak = √2 × Pout / (Vin_rms × η)
D_max = 1 − Vin_peak / Vout
CCM(連続導通モード):
ΔIL = (ripple% / 100) × Iin_peak
L = Vin_peak × D_max / (ΔIL × fsw)
BCM(臨界導通モード):
ΔIL = 2 × Iin_peak
L = Vin_peak × D_max / (2 × Iin_peak × fsw)
BCMではインダクタ電流が毎サイクルゼロまで下がるため、リプル電流はピーク電流の2倍(完全三角波)になる。この差が、同一条件でのインダクタンスに数倍の違いを生む。
なぜこのアプローチを採用したか——候補手法の比較
PFCインダクタの設計手法にはいくつかのアプローチがある。
| 手法 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ピーク電圧点での最大デューティ計算(本ツール採用) | AC入力のピーク電圧での最大デューティからインダクタンスを決定 | シンプルで誤差が少ない。設計初期の概算に最適 | AC位相全体の平均損失は考慮しない |
| AC位相ごとの積分計算 | 0〜180°のAC位相にわたってデューティ・電流を積分 | 平均銅損やコア損失をより正確に評価可能 | 計算が複雑で、初期検討には過剰 |
| SPICE回路シミュレーション | LTspice等で過渡解析を実行 | 制御ループ・寄生成分含む最も正確な結果 | セットアップに時間がかかる。パラメータスイープが手間 |
本ツールでは「ピーク電圧点での最大デューティ計算」を採用した。理由は明快で、インダクタンスの最小要求値はAC入力ピーク付近のデューティが最大となる瞬間で決まるからだ。この1点を押さえれば、全AC位相にわたってCCM動作が維持されることが保証される。
計算例: ステップバイステップ
AC100V, 200W, Vout=400V, fsw=65kHz, CCM, リプル率30%, η=1.0の条件で追ってみよう。
Step 1: ピーク電圧
Vin_peak = √2 × 100 = 141.42 V
Step 2: ピーク入力電流
Iin_peak = √2 × 200 / (100 × 1.0) = 2.828 A
Step 3: 最大デューティ
D_max = 1 − 141.42 / 400 = 0.6464 (64.6%)
Step 4: リプル電流(CCM)
ΔIL = 0.30 × 2.828 = 0.849 A
Step 5: 必要インダクタンス
L = 141.42 × 0.6464 / (0.849 × 65000) = 1658 µH ≈ 1.66 mH
もしこの条件をBCMに切り替えると、ΔIL = 2 × 2.828 = 5.656A となり、L = 141.42 × 0.6464 / (5.656 × 65000) = 249µH。同じ200Wでもインダクタンスは約1/7になるが、ピーク電流は5.66Aに跳ね上がる。これがBCM/CCMのトレードオフだ。
設計フローの全体像
実際の設計では、このツールで求めたインダクタンスをもとに、コア材質選定(フェライト、ダストコアなど)→コアサイズ選定→巻数計算→磁束密度チェック→銅損・コア損計算と進む。本ツールはこのフローの最初の一歩——必要インダクタンスとピーク電流の算出——を高速化するものだ。後段の インダクタ選定ツール と組み合わせれば、コア選定までシームレスにつなげられる。
他のPFC設計ツールとの違い
PFCインダクタの設計値を出すツールは、海外の電源IC メーカーが提供するExcelシートや専用ソフトがほとんど。Texas Instruments の Power Stage Designer や Infineon の PFC Design Tool が代表格だが、いずれも自社ICに最適化されており、汎用的な「まずインダクタンスを概算したい」という用途には重い。しかも英語UIで、AC100V系の設計プリセットが用意されていないケースも多い。
このツールは IC非依存 で、BCM/CCMの切り替えと基本パラメータだけで必要インダクタンスとピーク電流を即座に算出できる。AC100V 200WやAC100V 100W BCMといった日本市場で頻出する条件がプリセットに入っているのも、国内ユーザーにはありがたいはず。
さらに、算出したインダクタンス値をもとに SMPSインダクタ選定ツール でコア・巻線を絞り込んだり、SMPS部品計算 で出力コンデンサやダイオードの定格を一緒に決めたりと、電源設計の一連のフローをブラウザだけで回せる。Excelを開く前に設計の方向性を固められるのが最大の差別化ポイントだ。
豆知識 — IEC 61000-3-2 と力率改善の歴史
PFCが電源設計の「当たり前」になったのは、実はそれほど昔の話ではない。きっかけは1995年に発効した欧州規格 EN 61000-3-2(国際規格では IEC 61000-3-2)。家電やIT機器の入力高調波電流を制限するこの規格が、パッシブPFCからアクティブPFCへの大転換を引き起こした。
それ以前のスイッチング電源は、ブリッジ整流+大容量電解コンデンサで済ませるのが主流だった。力率は0.5〜0.65程度で、電流波形はピーキーなパルス状。これが配電系統に大量の高調波を流し込み、変圧器の過熱やブレーカーの誤トリップといったトラブルを引き起こしていた。
IEC 61000-3-2(Wikipedia) によると、規格はクラスA〜Dの4区分で高調波リミットを定めている。PC電源やLED照明が該当するクラスC・Dは特に厳しく、力率0.9以上が事実上の必須ラインだ。
初期のアクティブPFCはBCM(臨界モード)が主流だった。L6561やMC33262といった制御ICが登場し、小〜中電力帯で爆発的に普及した。BCMはゼロ電流スイッチング(ZCS)が自然に得られるためダイオードのリカバリ損失が小さく、回路もシンプル。ただしピーク電流が大きいため、300Wを超えるとCCMに軍配が上がる。
2010年代以降、GaN FETやSiC ダイオードの登場でトーテムポールPFCやインターリーブPFCといったトポロジーが実用化され、効率99%超も珍しくなくなった。しかし基本設計の出発点は今も「昇圧チョッパのインダクタンスをいくつにするか」。ここをサッと概算できるかどうかで、設計の初速が変わってくる。
ちなみに日本国内では、JIS C 61000-3-2 として翻訳規格が発行されており、電気用品安全法 の技術基準にも組み込まれている。75W超の機器は避けて通れない規制だ。
Tips — PFCインダクタ設計を効率よく進めるコツ
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まずCCM 30%リプルで概算し、コアサイズの見当をつける — リプル率30%はCCM設計の定番出発点。ここで算出されたインダクタンス値とピーク電流から、必要なコアの断面積(Ae)と窓面積(Aw)の積であるAP値を概算できる。コアカタログと照合して現実的なサイズかどうかを先に確認しよう。
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BCMとCCMの境界は200〜300W付近 — 本ツールで同じ条件をBCM/CCMで切り替えてみると、インダクタンスとピーク電流のトレードオフが一目瞭然。BCMはインダクタンスが小さい代わりにピーク電流が2倍になるため、MOSFET・ダイオードの電流定格とスイッチング損失が増える。300W超えならCCMが無難だ。MOSFETスイッチング損失計算機 で損失を比較するとさらに判断しやすい。
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AC100V設計ではデューティに注意 — AC100Vの場合、Vout=400Vに対してデューティが0.64以上になる。制御ICのmax duty制限(一般に0.90〜0.95)に対するマージンが小さくなるので、入力電圧下限を85Vや90Vに設定して再計算し、最悪条件でのデューティも確認しておくこと。
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効率ηの設定は保守的に — デフォルトの95%は高効率設計の目標値。初期検討段階では90〜92%程度で計算しておくと、ピーク電流が増えてコア・巻線のマージンが自然に確保される。最適化は試作後の実測データを見てからでも遅くない。
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周波数を上げすぎない — スイッチング周波数を上げればインダクタンスは小さくなるが、スイッチング損失とEMIノイズは増加する。Si-MOSFETなら65〜100kHz、GaN FETでも200kHz程度が実用的な上限。周波数を倍にしてもコア体積は半分にはならない点にも留意。
FAQ — PFCインダクタ設計でよくある質問
BCMとCCMのどちらを選べばいい?
出力電力が目安。300W以下ならBCMがシンプルでコスト的にも有利。300W以上、特に500W超はCCMが定番。200〜300Wの中間帯は、ピーク電流と部品コストを天秤にかけて判断する。本ツールで同条件をBCM/CCMで比較すると、インダクタンスとピーク電流の違いが数値で確認できるので試してみてほしい。
リプル率は何%に設定するのが適切?
CCMの場合、20〜40%が一般的な設計範囲だ。30%はバランスの良い出発点で、多くの制御ICのアプリケーションノートでも推奨されている。リプル率を小さくするとインダクタンスが大きくなりコアが大型化する。逆に大きくするとピーク電流が増え、MOSFET・ダイオードの損失が増加する。EMI規格への適合も考慮すると、25〜35%が実務的な落としどころ。
出力電圧を400V以外にする場合の注意点は?
昇圧PFCの出力電圧は入力ピーク電圧より高い必要がある。AC230V入力ではピークが約325Vになるため、Voutは380V以上が必須。逆にAC100V専用なら、Vout=200〜250Vに下げることでデューティを小さくし、効率を改善できるケースもある。ただし後段のDC-DCコンバータとの整合性を考慮すること。Voutを変更したら本ツールでデューティと必要インダクタンスを再確認しよう。
入力したデータはサーバーに送信される?
一切送信されない。すべての計算はブラウザ内のJavaScriptで完了しており、サーバーとの通信は発生しない。入力値はページを閉じれば消える。機密性の高い社内プロジェクトの設計パラメータでも安心して使ってほしい。
実際のコア選定までこのツールでできる?
本ツールはインダクタンスとピーク電流の算出に特化している。コア材質やサイズの選定は SMPSインダクタ選定ツール に任せるのが効率的。本ツールで求めた必要インダクタンス値とピーク電流を入力すれば、適合するコアの候補が絞り込める。
まとめ
昇圧PFCのインダクタ設計は、動作モード・入力電圧・出力電力・スイッチング周波数の組み合わせで結果が大きく変わる。このツールを使えば、BCM/CCMの切り替え比較を含めて数秒で設計値を把握できる。
算出した値を起点に、SMPSインダクタ選定ツール でコアを選び、SMPS部品計算 で周辺部品の定格を決め、MOSFETスイッチング損失計算機 で損失バジェットを確認する — この流れで設計の初期検討が一通り完結する。
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