ダイオード逆回復損失計算

Qrr・Vin・fswからSMPSの逆回復損失 Prr を算出し Si/SiC を比較

Qrr×Vin×fsw で逆回復損失 Prr を計算し、Si vs SiC SBD を同じ動作条件で比較できる。プリセット型番の呼び出しに対応。

計算結果

逆回復損失 Prr

2.400 W

1回あたり Err

12.00 µJ

ピーク Irrm

3.43 A

Si vs SiC SBD 同条件比較(Vin=400V, fsw=100kHz)

現在の設定 (Qrr=60nC)

Prr = 2.400 W

SiC SBD 参考 (Qrr=20nC)

Prr = 0.800 W

差分 1.600W 削減可能

本ツールは Qrr・trr をデータシート公称値と仮定した概算値。実際の Qrr は di/dt と Tj に強く依存するため、最終設計では実波形測定で確認すること。
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ダイオードの発熱が止まらない、あの瞬間

100kHzを超えたあたりから、なぜかブーストコンバータのダイオードだけが異様に熱くなる。指で触れないレベルまで上がって、効率を測ると期待値より2〜3ポイント低い。MOSFETのスイッチング損失は見積もったはずなのに、どこから湧いてくるのか分からない。こういう経験、パワエレをやっていれば一度はあるよね。

その犯人の多くは「逆回復損失 Prr」だ。ダイオードがオフに切り替わる瞬間、一瞬だけ逆向きに流れる電流と高い逆電圧の積が損失になる。しかもfswに比例するから、周波数を上げれば上げるほど牙を剥く。

このツールはQrr・Vin・fsw・trrの4つを入れるだけで、Prr[W]・Err[µJ]・Irrm[A]を即座に弾き出し、Si と SiC SBD を同条件で比較する。データシートの数字を眺めるだけでは見えない「置き換えれば何W削れるか」を、電卓より早く出すためのものだ。

なぜ作ったのか

逆回復損失の解説記事は世の中にたくさんある。ROHMやInfineonのアプリケーションノート、大学のパワエレ講義スライド、半導体メーカーのホワイトペーパー。どれも式は載っているし、波形図も美しい。でも、肝心の「じゃあウチの回路ではPrrは何Wなのか」を数秒で出せるツールが、意外なほど見つからない。

自分が最初にハマったのは、昔設計した400V入力・120kHzのCCM昇圧PFCだった。Si UltraFastのTO-220ダイオードが想定以上に熱くなり、ヒートシンクを一段大きくしても定常で70℃を超えた。データシートのQrrが60nC、trrが35ns。暗算で「60nC × 400V × 120kHz ≒ 2.88W」と出してみて、初めて「これMOSFET側のスイッチング損失と同じオーダーじゃないか」と気づいた。知識としては知っていたのに、実感として腹落ちしたのはそのときだ。

同じ失敗を他の人にもしてほしくない。特に初めてSMPSを触る若手や、マイコン出身でパワエレに踏み込んだばかりのエンジニアには、式を覚える前に数字の感覚を掴んでほしかった。だから入力はQrr・trr・Vin・fswの4つだけに絞り、プリセット型番(STTH、FERD、C3D、IDH)から瞬時に呼び出せるようにした。ついでに Si vs SiC の同条件比較も自動化したのは、「SiCに置き換える価値があるかを3秒で判断する」というのが実務で一番欲しかった機能だからだ。姉妹ツール/mosfet-switching-lossと組み合わせれば、スイッチング一式の損失内訳がほぼ見える。

逆回復現象とは

逆回復 とは何か

PN接合ダイオードは順方向にバイアスすると、P側からは正孔、N側からは電子が接合部に注入されて伝導する。順電流が流れている間、接合付近の空乏層には「少数キャリア」が大量に蓄えられている状態になっている。ここに突然逆電圧をかけてオフにしようとしても、この蓄積された電荷が掃き出されるまではダイオードは逆方向に電流を流し続けてしまう。この「掃き出しに必要な時間と電荷」こそが逆回復現象だ。

身近なたとえで言うと、水でパンパンに膨らんだスポンジを逆さまに絞るイメージに近い。蛇口(順電流)を閉じた瞬間に「はい乾いた」とはならず、絞り終わるまでしばらく水が逆流する。この逆流量がQrr(逆回復電荷 [nC])、絞り終わるまでの時間がtrr(逆回復時間 [ns])になる。

波形で見る3つの領域

逆回復電流の波形は、教科書的には次の3区間に分けて説明される。

// ダイオード電流 ID(t) の概略
// 区間1: 順電流 IF が di/dt で減少し、0 を通過
// 区間2: 逆方向に電流が増加し、ピーク Irrm に達する (ta)
// 区間3: Irrm から 0.1*Irrm まで減衰 (tb)
// trr = ta + tb
// Qrr = ∫ ID(t) dt (区間2+3の面積)

ta は空乏層の少数キャリアを掃き出す時間、tb はキャリア再結合に支配される時間で、SoftnessFactor S = tb/ta が大きいほど波形が滑らかでEMIに優しい。Siの高速品はSが小さく、SiC SBDはそもそも少数キャリア蓄積がないため理論的にはQrr≒0、実際には接合容量Cjの充放電分だけが残る。詳しくはWikipediaの記事で接合構造を復習すると理解が深まる。

QrrとErrの関係

1スイッチングあたりのエネルギー損失は、逆回復期間中にVinが印加されるとみなして三角波近似で積分すると以下になる。

Err [J] = 0.5 * Qrr * Vin   // Qrr が [C]、Vin が [V] のとき

これを1秒あたりに直すと Prr = Err × fsw = Qrr × Vin × fsw となり、本ツールで使っている主式になる。係数0.5はピーク電流が三角形の頂点で発生する前提からくるもので、ソフトリカバリのダイオードでは実測値はやや小さめになる傾向がある。

損失が効率を決める

逆回復損失が怖いのは「fswに正比例する」という一点に尽きる。Qrrが60nC、Vinが400Vのダイオードを、50kHzで使えば1.2W、100kHzで2.4W、200kHzで4.8W、500kHzで12W。周波数を上げて小型化したいのに、ダイオードだけで12W出たら筐体が溶ける。実際、高周波化のボトルネックはMOSFETではなくダイオード側のQrrだった、という事例はパワエレ屋の酒の肴としてよく出てくる。

効率面でのインパクトも大きい。200W級の電源でPrrが3W出ると、それだけで効率は1.5ポイント低下する。80 PLUS Platinumの認証ラインが負荷50%で92%を要求するから、1.5ポイントは死活問題だ。さらに放熱設計にも跳ね返る。ダイオード単体でTO-220パッケージの熱抵抗(ジャンクション→周囲)は60K/W前後あり、3Wで180℃上昇。ヒートシンクを付けても余裕は少ない。

規格面では、IEC 62301や高調波電流規格JIS C 61000-3-2とは直接の関係はないが、EMI規格CISPR 32ではスイッチングリプルの立ち上がりがノイズ源になる。Irrm(ピーク逆回復電流)が大きいと、そのdi/dtが配線インダクタンスと共振してリンギングを発生させ、30MHz〜100MHz帯の伝導ノイズを押し上げる。つまりPrrは「熱」「効率」「EMI」の3方向から効いてくる。同じ600V耐圧でも、Si UltraFast(Qrr=60nC)を SiC SBD(Qrr=18nC)に置き換えるだけでPrrが約1/3、さらにIrrmも半減してEMI対策部品が1段小さくなる。置換の投資対効果を定量化するのが、このツールの役目だ。

活躍する場面

  • CCM昇圧PFCの出力ダイオード選定:400V出力・100kHz級で走らせる昇圧PFCは、ブリッジ後段のダイオードがまさにハードリカバリの宿命を背負う。Si UltraFastとSiC SBDを並べてPrrを比較し、部品単価の差分を吸収できるかを一瞬で判断。
  • LLC共振コンバータの同期整流 vs ダイオード整流の判断:LLCはZVSが効くとはいえ、軽負荷やバースト動作では逆回復ロスが顔を出す。整流ダイオードをSiCにするか、同期MOSFETに踏み切るかの分水嶺を数字で見る。
  • インバータのフライホイールダイオード:モータドライブやUPSで、IGBTモジュールに内蔵されたFWDのQrrを評価。キャリア周波数を16kHz→25kHzに上げたいときの熱設計見積もりに使える。
  • EV車載DC-DCの小型化検討:48V→12VのバックコンバータでSiダイオードをSiCに置換すると、どれだけ放熱板を削れるか。Prr削減分を熱抵抗換算してヒートシンクサイズを再設計する入り口として重宝する。

基本の使い方

  1. ダイオードを選ぶ — 「Si Fast / Si UltraFast / SiC SBD / カスタム」のセグメントボタンで種別を決め、プリセット型番(STTH8L06・FERD20U45・C3D10060・IDH10G65)から近い型番を呼び出す。Qrrとtrrが自動でセットされる。
  2. 動作条件を入れる — Vin(ダイオードに印加される逆電圧)と fsw(スイッチング周波数)を入力。PFCなら400V・100kHz、LLCなら出力側DC電圧と2倍の共振周波数、のように回路に合わせて埋める。
  3. 結果を読む — Prr[W]がハイライト表示される。Err[µJ]は1スイッチングあたりのエネルギー、Irrm[A]はピーク逆回復電流。Prr>3Wや Si Fastで fsw>200kHzのときは自動で黄色警告が出るので、SiC置換の検討材料にする。「結果をコピー」ボタンでレビュー資料にそのまま貼れる。

具体的な使用例

ケース1: Si Fast 50nC / 400V / 100kHz(典型的な昇圧PFC)

入力: Qrr=50nC、trr=50ns、Vin=400V、fsw=100kHz。結果は Prr=2.000W、Err=10.00µJ、Irrm=2.00A。100kHzのCCM PFCで汎用Si Fastを使うと、ダイオード1本で2W丸ごと熱になる。TO-220単体では放熱板が要る水準。

ケース2: SiC SBD 20nC / 400V / 200kHz(周波数2倍でもSiCなら削れる)

入力: Qrr=20nC、trr=15ns、Vin=400V、fsw=200kHz。結果は Prr=1.600W、Err=4.00µJ、Irrm=2.67A。ケース1より周波数を倍にしてもPrrはむしろ20%減。SiC SBDの逆回復レス特性がそのまま効いてくる典型例だ。

ケース3: Si UltraFast 30nC / 300V / 150kHz(中耐圧の定番組み合わせ)

入力: Qrr=30nC、trr=35ns、Vin=300V、fsw=150kHz。結果は Prr=1.350W、Err=4.50µJ、Irrm=1.71A。48V→300V昇圧のフライバック後段などで見かける条件。1.35Wなら10mm角の銅パターン放熱でぎりぎり捌ける範囲。

ケース4: Si Fast 80nC / 45V / 100kHz(低電圧DCDCはPrrが効きにくい)

入力: Qrr=80nC、trr=50ns、Vin=45V、fsw=100kHz。結果は Prr=0.36W、Err=1.80µJ、Irrm=3.20A。低電圧DCDCではVinが小さいぶんPrr自体は軽い。ここは順方向損失(VF×IF)のほうが支配的になるので、SiC置換よりもショットキーへの変更が効く領域。

ケース5: SiC SBD 18nC / 600V / 250kHz(高耐圧・高周波の理想形)

入力: Qrr=18nC、trr=15ns、Vin=600V、fsw=250kHz。結果は Prr=2.70W、Err=5.40µJ、Irrm=2.40A。600V/250kHzという条件でも3W以内に収まる。これがSi Fastだと同条件で10W超になるため、SiC SBDは高耐圧・高周波領域の事実上の必須部品となる。

ケース6: Si UltraFast 60nC / 400V / 500kHz(高周波化の壁)

入力: Qrr=60nC、trr=35ns、Vin=400V、fsw=500kHz。結果は Prr=12.0W、Err=12.00µJ、Irrm=3.43A。Prrが12Wを超え、ツール側で自動的に「放熱設計またはSiC置換を推奨」の警告が出る。Si系を500kHzで使うのがいかに無謀かが一目で分かる。これが高周波化のボトルネックが「MOSFETよりダイオード」と言われる所以だ。

仕組み・アルゴリズム

なぜ Prr = Qrr × Vin × fsw を採用したか

逆回復損失を計算する手法は、大きく3通りある。

  1. 電荷積分法 Prr = Qrr × Vin × fsw(本ツール採用)
  2. 波形面積法 — 実波形をオシロで取得し ∫v(t)·i(t) dt を数値積分
  3. Qrr(di/dt, Tj) 補正モデル — データシートのグラフから di/dt と温度依存を読み取って補正

2は精度が最も高いが、実機とオシロが要る。3は半導体メーカーのSPICEモデルレベルの話になり、設計初期には重すぎる。1は「Vinが逆回復期間中ずっと一定」「di/dt はデータシート条件と同じ」という2つの理想化が入るが、入力値が4つで済み、初期検討〜部品選定段階では十分な精度が出る。実測とのズレは経験上±20%以内に収まるケースが多く、桁感覚を掴むには最適だ。

実装フロー

// 入力: Qrr[nC], trr[ns], Vin[V], fsw[kHz]
// 出力: Prr[W], Err[µJ], Irrm[A]

const qrr_C = qrr_nC * 1e-9;       // C
const trr_s = trr_ns * 1e-9;       // s
const fsw_Hz = fsw_kHz * 1e3;      // Hz

const Prr = qrr_C * Vin * fsw_Hz;           // W
const Err = 0.5 * qrr_C * Vin * 1e6;        // µJ
const Irrm = 2 * qrr_C / trr_s;             // A

ポイントは単位の取り扱い。データシートはnC・nsで書かれているので、まず全部SIに揃えてから式に入れる。ツール側では補間や近似を一切していない単純な直積だから、入力値の信頼性がそのまま結果の信頼性になる。Qrrをデータシートの「Typical」で取るか「Max」で取るかで結果は2倍変わることもあるので要注意だ。

trr 近似と Irrm の三角波仮定

ピーク逆回復電流 Irrm は、逆回復波形を底辺 trr・面積 Qrr の三角形と見立てて求める。

// Qrr = 0.5 × trr × Irrm  (三角形の面積)
// ⇒ Irrm = 2 × Qrr / trr

この近似は Softness Factor S=1(ta=tb)の対称三角波を前提にしている。実際のダイオードはS<1(ハードリカバリ)のことが多く、ピーク電流は計算値より大きく出る傾向。SiC SBDはそもそも少数キャリア蓄積がないため Qrr が接合容量由来になり、「逆回復」ではなく「Cj の充放電」と呼ぶほうが正しいが、本ツールではエネルギー計算の便宜上、同じ式で統一している。

計算例ステップバイステップ(ケース1を手計算)

Qrr=50nC、Vin=400V、fsw=100kHz、trr=50ns を入れてみよう。

Qrr = 50e-9 C
Vin = 400 V
fsw = 100e3 Hz
trr = 50e-9 s

Prr  = 50e-9 * 400 * 100e3 = 2.000 W
Err  = 0.5 * 50e-9 * 400 = 10.0e-6 J = 10.00 µJ
Irrm = 2 * 50e-9 / 50e-9 = 2.00 A

手計算とツールの結果が一致することを確認できる。SMPSの初期設計では、このレベルの概算を部品候補ごとに5〜10通り流して、放熱板サイズとコストを比較するのがセオリーだ。姉妹ツール/mosfet-switching-lossと組み合わせれば、スイッチング損失の全体像が数分で見える。

他ツールとの違い

「Qrr 損失 計算」で検索すると、ROHM や Infineon のアプリケーションノートが上位に並ぶ。どれも現象の解説としては優秀だが、いざ自分の回路で Prr を出そうとすると電卓を叩く羽目になる。そして単位換算(nC と kHz と V が混ざる)でケアレスミスが起きる。

このツールは Qrr・Vin・fsw を入れれば即座に Prr [W]、Err [µJ]、Irrm [A] を返す。プリセットには STTH、FERD、C3D、IDH といった実在型番を登録済みで、Si UltraFast と SiC SBD を同条件で並べて比較できる。これが姉妹ツールの /mosfet-switching-loss と連携する強みだ。MOSFET 側のターンオン損失に Qrr 由来の加算分が乗ることを、両ツールを往復しながら確認できる。

汎用電卓との違いは「単位の安全性」。nC×V×kHz を W にする係数(1e-9×1e3=1e-6)を内部で持つので、桁を1つ間違えて3桁ズレた見積もりを役員説明に持っていくような事故が起きない。SMPS の全体設計につなげたいなら /smps-component-calc でコンデンサ・インダクタ、/smps-inductor-select でコアを選び、最後に本ツールで発熱を締める流れが最短だ。

SiC SBD の誕生 — なぜ Qrr がほぼゼロなのか

シリコンカーバイド(SiC)ショットキーバリアダイオード、通称 SiC SBD は 2001 年に Infineon が世界初の商用品を投入したことで始まった。それ以前、600V クラスで使えるショットキーは存在しなかった。Si ショットキーは逆耐圧 200V あたりが実用上の上限で、それ以上は PN 接合の高速ダイオード(Si FRD)を使うしかない。ところが Si FRD には致命的な弱点がある。少数キャリアが P 層に蓄積され、逆バイアス時に一気に吐き出される。これが逆回復電荷 Qrr の正体であり、高周波 SMPS の効率を引きずり下ろす主犯だ。

SiC の登場で状況が変わった。SiC はバンドギャップが Si の約 3 倍(3.26 eV)あり、同じ耐圧を桁違いに薄い層で実現できる。薄ければショットキー接合(金属と半導体の界面)でも高耐圧が成立する。ショットキーは多数キャリアデバイスなので、そもそも少数キャリア蓄積が存在しない。データシートで Qrr が記載されていても、その正体は接合容量を充電するための電荷であって、本来の意味の逆回復電荷ではない。だから温度が上がっても Qrr がほとんど増えない(Si FRD は 125℃ で Qrr が 2〜3 倍に膨らむ)。

Cree(現 Wolfspeed)の C3D シリーズ、Infineon の IDH シリーズが定番となり、2010 年代に PFC 回路の昇圧ダイオードを一気に塗り替えた。現在は EV の車載充電器、太陽光パワコン、データセンター電源が主戦場。価格は Si FRD の 3〜5 倍だが、ヒートシンクを小型化できるシステムコストで逆転するケースが多い。参考: Wikipedia - Silicon carbide

Tips — データシートの Qrr・trr をどう読むか

  • 測定条件を必ず確認する: Qrr は IF、di/dt、Tj の3条件で大きく変わる。データシートには「IF=1A, di/dt=100A/µs, Tj=25℃」のような注記が必ず添えられている。自分の回路条件に近い値を選ぶか、線形補間する
  • Typ と Max を使い分ける: 効率計算には Typ(典型値)、熱設計のワーストケースには Max を使う。Max しか載っていない場合は 0.7 掛けで Typ を推定する慣習がある
  • trr の定義はメーカーで違う: JEDEC 定義(IR が IF の 10% に戻るまで)と IEC 定義(25%)があり、同じ素子でも数値が 1.5 倍ほど変わる。比較するときは定義を揃える
  • Tj 依存を忘れない: Si FRD の Qrr は 150℃ で室温の 2〜3 倍。本ツールは 25℃ 基準なので、実動作温度が高い場合は 2 倍見積もりで安全側に倒す
  • di/dt は設計者が決める: MOSFET のゲート抵抗で di/dt を調整できる。di/dt を下げれば Qrr は減るが、ターンオン時間が延びて MOSFET 側の損失が増える。/mosfet-switching-loss と往復して最適点を探すこと

FAQ

Qrr が温度で変わるのはなぜ? Si FRD の Qrr は少数キャリア(P 層の正孔)の蓄積量で決まる。温度が上がるとキャリアの寿命 τ が延び、同じ IF でも蓄積量が増える。経験則では Tj=125℃ で室温の 2〜3 倍。本ツールは Tj=25℃ 基準で計算するため、実動作温度が高い設計では 2 倍の安全係数を掛けることを推奨する。SiC SBD は多数キャリアデバイスなので温度依存はほぼ無い(接合容量がわずかに変化する程度)。
trr が記載されていないデータシートは? 最新の SiC SBD データシートでは trr が省略され、総電荷 QC(= Qrr 相当)のみ記載されるケースが増えている。これは trr がほぼ接合容量の充電時間になり、di/dt で自在に変わるため定義しにくいからだ。本ツールで Irrm を出したいときは、trr を 15〜20ns 程度で仮置きするか、Irrm の値自体を参考程度に留めて Prr だけ見れば実用上は問題ない。
逆回復損失と導通損失はどう違う? 導通損失は順方向電圧 VF と平均電流 IF の積 `P_cond = VF × IF × D`(D は導通デューティ)。これは DC 的な発熱で、周波数に依存しない。一方、逆回復損失はスイッチング遷移の瞬間に発生する AC 的な損失で、`Prr = Qrr × Vin × fsw` と周波数に比例する。100kHz を超えると Prr が急速に支配的になり、導通損失を追い越す。本ツールは Prr のみを扱うので、総損失を見たいときは別途 `VF × IF × D` を加算すること。
di/dt の影響はどう考慮する? Qrr は di/dt の平方根に比例する経験則がある(`Qrr ∝ √(di/dt)`)。データシートの測定 di/dt と自分の回路の di/dt が違う場合、その比の平方根で補正する。たとえばデータシートが 100A/µs で Qrr=60nC、自分の回路が 400A/µs なら `60 × √4 = 120nC` と見積もる。本ツールは補正機能を持たないので、Qrr 入力欄に補正済みの値を入れてほしい。
ブリッジレス PFC や LLC でもこの式が使える? 使える。Prr = Qrr × Vin × fsw は、ダイオードが毎周期1回だけハードスイッチングすることを前提とした式だ。LLC 共振コンバータの二次側整流ダイオードは ZCS(ゼロ電流スイッチング)になるケースがあり、その場合 Qrr 損失はほぼゼロになる。トポロジが ZCS/ZVS かハードスイッチかを先に見極めること。ハードスイッチング側(PFC 昇圧ダイオード、同期整流前段など)にだけ本ツールを適用する。

まとめ

ダイオードの逆回復損失は 100kHz を超える SMPS で真っ先に効いてくる支配的損失だ。本ツールは Qrr・Vin・fsw を入れれば Prr を即算出し、Si と SiC を同条件で比較できる。MOSFET 側の損失は /mosfet-switching-loss、周辺部品の選定は /smps-component-calc、インダクタのコア選定は /smps-inductor-select と組み合わせれば、SMPS 1段ぶんの発熱設計がひと通り揃う。SiC 置換の費用対効果を迷ったら、まず本ツールで損失差を数値化してほしい。


不具合や要望があれば、お問い合わせページから気軽に教えて。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。昔設計した400V/120kHz の CCM PFC でダイオードを焼きかけ、Qrr の怖さを体で覚えた側の人間だ。SiC SBD の価値を3秒で数値化したい気持ちだけでこのツールを作った。

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