ブレッドボードで増幅回路を組んだのに、音が歪んで動かなかった話
トランジスタ1石でマイクの信号を増幅しようとして、データシートどおりに抵抗をつないだのに、出てきた音はバリバリに歪んでいた。テスターでコレクタの電圧を測ると、電源電圧とほぼ同じ。トランジスタはほとんどOFF、つまり遮断に近い状態で、信号が乗る余地が片側しかなかった。
このとき足りなかったのが「動作点」という考え方だ。トランジスタを増幅に使うには、信号がまだ来ていない静かな状態(直流)で、コレクタ電流とコレクタ-エミッタ間電圧を、活性領域のちょうど真ん中あたりに置いておく必要がある。この基準点をQ点(Quiescent point=静止動作点)と呼ぶ。Q点を外すと、増幅できないか、波形の片側がつぶれて歪む。
このツールは、バイアス回路の抵抗値とhFEを入れるだけで、ベース電流IB・コレクタ電流IC・VCE・動作領域(活性/飽和/遮断)・エミッタ接地ゲインまで一気に計算する。「この定数でQ点はどこに来るのか」を組む前に確かめられる。
なぜ作ったのか
教科書の式は読める。IC = hFE × IB も IB = (Vcc - VBE) / RB も書ける。なのに、いざ自分の回路で「じゃあRBは何kΩにすればいいのか」「このQ点で本当に増幅できるのか」となると、手が止まった。式が独立して頭に入っているだけで、回路全体としてどう連立して解けば動作点が出るのかが、つながっていなかった。
特に詰まったのが3つの方式の違いだ。固定バイアス・コレクタ帰還バイアス・電流帰還バイアス。どれもベースに電流を流す点では同じなのに、ICの決まり方がまるで違う。固定バイアスはICがhFEに直接比例してしまうので、トランジスタを別の個体に差し替えただけで動作点が動く。電流帰還バイアスはエミッタ抵抗REの負帰還でhFE依存を打ち消す。この「なぜ電流帰還が安定で固定が危ないのか」を、数値で並べて見比べたかった。
電卓で1方式を解くだけでも、テブナン等価に直して、(hFE+1) を掛けて、KVLを2本立てて……と地味に間違える。符号を1つ取り違えるとICが負になって意味不明な値が出る。3方式ぶん手計算して比較するのは、正直しんどい。だから、方式を切り替えれば同じ入力で動作点とゲインがそろって出て、活性か飽和か遮断かまで判定してくれるものを作った。設計の「あたり」を1分でつける道具がほしかった、というのが本音だ。
トランジスタのバイアスと動作点とは何か
NPNトランジスタはどう動くのか
バイポーラ接合トランジスタ(BJT)のNPN型は、ベース・コレクタ・エミッタの3本足を持つ。ざっくり言えば「ベースにわずかな電流を流すと、コレクタにその何百倍もの電流を流せる」電流制御の蛇口だ。この増幅率が直流電流増幅率 hFE で、IC = hFE × IB の関係になる。hFEが200なら、ベースに10µA流すとコレクタには2mA流れる、という具合だ。
ベースとエミッタの間はダイオードと同じPN接合なので、電流を流すには順方向電圧が要る。シリコンのトランジスタではこれがおよそ0.7V。これを VBE = 0.7V として一定とみなすのが、手計算の出発点になる。詳しくはバイポーラトランジスタの解説が詳しい。
活性・飽和・遮断という3つの領域
トランジスタには動作の状態が3つある。蛇口にたとえると分かりやすい。
- 遮断:ベースに電流が流れていない。蛇口が完全に閉じていて、コレクタ電流もほぼゼロ。VCEはほぼVccのまま。
- 活性:ベース電流に比例してコレクタ電流が流れる。蛇口の開き具合を細かく制御できる状態で、増幅に使えるのはここだけ。
- 飽和:ベースを流しすぎて、もう外部の抵抗で電流が頭打ちになった状態。蛇口は全開だが配管(RC)が細くて流量が決まる。VCEは0.2V程度まで下がりきる。スイッチのONはこの状態を使う。
増幅したいのに飽和や遮断に入っていると、信号を乗せても出力が動かない、あるいは片側でつぶれる。
Q点(動作点)とは
信号がまだ来ていない直流だけの状態で、トランジスタがICとVCEのどこにいるか——これがQ点だ。横軸にVCE、縦軸にICをとった平面に、電源電圧と負荷抵抗で決まる直線(負荷線)を引く。負荷線は、VCE軸の切片が Vcc、IC軸の切片が Vcc/RC(電流帰還ならRC+RE)の直線になる。Q点はこの線の上のどこかに必ず乗る。
増幅では、信号が来るとQ点が負荷線の上を左右に動く。だからQ点を負荷線の真ん中、目安として VCE ≈ Vcc/2 付近に置けば、上にも下にもめいっぱい振れて、最大の出力振幅が取れる。Q点を決める作業が「バイアスをかける」ということ。バイアス回路は、信号がない状態でこのQ点を所定の位置に固定するための、抵抗の組み合わせだ。
実務での重要性
動作点を外したときに何が起きるか。まず増幅の現場で一番多いのが「片側クリップ」だ。Q点が負荷線の端、たとえばVCEがVccに近い遮断寄りにあると、入力信号の片方の半周期だけ出力が動き、もう片方は壁にぶつかってつぶれる。これが冒頭で僕が遭遇した「歪んだ音」の正体だ。オーディオなら歪率の悪化、計測なら波形の非対称として現れる。
次に深刻なのが熱暴走だ。固定バイアスはICがhFEに直接比例する。トランジスタは温度が上がるとVBEが下がりhFEが増える性質があり、ICが増える→発熱が増える→さらにICが増える、という正帰還のループに入りやすい。最悪は素子の破壊に至る。これを防ぐために電流帰還バイアス(分圧+エミッタ抵抗RE)が増幅回路の標準とされる。REに流れたエミッタ電流が電圧降下を作り、ベース実効電圧を下げる方向に負帰還がかかるので、ICが勝手に増えにくい。
数値の感覚も実務では効く。同じ回路でhFEだけ100と300で計算してみると、固定バイアスではICが3倍違ってQ点が崩壊するのに対し、電流帰還バイアスではICの変化が数%に収まる。この「hFEがばらついてもQ点が動かない」ことが、量産で個体ごとに調整しなくて済む設計の肝になる。データシートのhFEは典型値・最小値・最大値で数倍の幅があるのが普通なので、最小hFEでも遮断せず、最大hFEでも飽和しない定数を選ぶ——その当たりを取るのにQ点計算は欠かせない。
さらにコレクタ損失 PC = VCE × IC も見ておきたい。小信号トランジスタの許容コレクタ損失は200〜500mW程度。Q点をVcc/2に置くと損失は大きめになりやすいので、放熱や定格に余裕があるかを併せて確認する。
活躍する場面
- 小信号増幅回路の設計:マイクアンプやプリアンプの1石増幅段で、電流帰還バイアスのR1・R2・RC・REを決めてQ点とゲインの当たりを取る。
- センサ信号のバッファ・増幅:フォトトランジスタやサーミスタの微小信号を、後段のADCが扱える振幅まで持ち上げるバイアス設計。
- スイッチング駆動:マイコンのGPIOでLEDやリレー、モーターをON/OFFする駆動段で、固定バイアスをわざと飽和させて使う。ベース抵抗RBが小さすぎないか、飽和に確実に入るかを確認する。
- 自作アンプ・電子工作:教科書の回路を組む前に、手持ちの抵抗値でQ点がまともな位置に来るかをシミュレーションし、部品を買い直す手戻りを減らす。
- 回路理論の学習:固定・コレクタ帰還・電流帰還を同じ入力で切り替え、なぜ電流帰還が安定なのかを数値で体感する教材として。
基本の使い方
3ステップで動作点が出る。
- バイアス方式を選ぶ。電流帰還(分圧)・固定・コレクタ帰還の3つから、組みたい回路に合うものをセグメントボタンで選択する。方式によって入力する抵抗欄が切り替わる。
- 電源電圧Vccと直流電流増幅率hFE、そして選んだ方式に必要な抵抗値を入力する。電流帰還ならR1・R2・RC・RE、固定/コレクタ帰還ならRB・RC。抵抗はkΩ単位で入れる。
- 結果を確認する。動作領域(活性/飽和/遮断)がStatusCardで色分け表示され、IC・VCE・IB・IE・エミッタ接地ゲインAv・コレクタ損失PCが並ぶ。電流帰還ではベース分圧のテブナン等価Vth・Rthも出る。結果はワンタップでコピーできる。
迷ったら上部のプリセットボタンを押せば、代表的な定数が一発で入る。
具体的な使用例・検証データ
以下のケースは、本ツールの計算式に同じ入力を与えて出力を確認した検証済みの数値だ。
ケース1:電流帰還バイアス(増幅の定番・Q点中央狙い)
入力:方式=電流帰還、Vcc=12V、hFE=200、R1=33kΩ、R2=10kΩ、RC=2.2kΩ、RE=1kΩ
結果:IB=10.019µA、IC=2.004mA、VCE=5.578V、領域=活性。エミッタ接地ゲインAv≈-170.5 V/V。
解釈:まずR1・R2でベースを分圧したテブナン等価が Vth=2.791V、Rth=7.674kΩ。IB = (Vth - VBE)/(Rth + (hFE+1)×RE) = (2.791-0.7)/(7.674+201×1) で約10µA。ICは約2mA、VCEが5.578VとVcc12Vのほぼ半分に来ていて、これは増幅に理想的なQ点だ。ゲインはマイナス符号が反転増幅を意味し、約170倍。電流帰還の狙いどおり、安定で振幅も取れる設計になっている。
ケース2:固定バイアス(最も単純・熱安定性が悪い)
入力:方式=固定、Vcc=10V、hFE=100、RB=470kΩ、RC=1kΩ
結果:IB=19.787µA、IC=1.979mA、VCE=8.021V、領域=活性。ゲインAv≈-76.6 V/V。
解釈:IB = (Vcc - VBE)/RB = (10-0.7)/470kΩ で約19.8µA、IC=hFE×IB=約1.98mA。一見ちゃんと活性で動く。ただしここでhFEを200に上げると(ツールで試してほしい)ICがそのまま倍増し、Q点が一気に飽和側へ崩れる。これが固定バイアスの弱点で、ICがhFEに丸ごと比例してしまう。VCEも8VとVccに寄り気味で、増幅の振幅余裕もやや片寄っている。
ケース3:コレクタ帰還バイアス(部品が少なく、そこそこ安定)
入力:方式=コレクタ帰還、Vcc=10V、hFE=150、RB=220kΩ、RC=2.2kΩ
結果:IB=16.842µA、IC=2.526mA、VCE=4.405V、領域=活性。
解釈:RBをVccではなくコレクタから取るのがミソ。IB = (Vcc - VBE)/(RB + (hFE+1)×RC) = 9.3/(220+151×2.2) で約16.8µA。ICが増えるとコレクタ電圧が下がり、それがベース電流を絞る方向に効く。完全な負帰還なので固定バイアスよりは安定。VCE=4.405VでVcc10Vの半分弱、抵抗2本で組める手軽さのわりに使える動作点だ。
ケース4:固定バイアス・スイッチング駆動(あえて飽和させる)
入力:方式=固定、Vcc=5V、hFE=100、RB=10kΩ、RC=1kΩ
結果:IB=430.0µA、IC=4.8mA、VCE=0.2V、領域=飽和。
解釈:IB = (5-0.7)/10kΩ で430µAと大きい。活性のつもりで計算すると IC=100×0.43mA=43mA になるが、それだとVCEが負になってしまう。実際にはコレクタ電流は外部抵抗で律速され、IC = (Vcc - VCE_sat)/RC = (5-0.2)/1kΩ で4.8mA、VCEは0.2Vに張り付く。これが飽和=スイッチON状態。LEDやリレーを確実に点けたいスイッチング用途ではこれが正解で、ベースを十分に過剰駆動して飽和に押し込むのが定石だ。ただし同じ定数で増幅しようとしても波形は出ない。
さらに試せる比較ケース
数値はツールで確認してほしいが、学習に効く比較を挙げておく。
- 固定バイアスのケース2で、hFEを100→300に変えてQ点がどう崩れるかを見る。
- 電流帰還のケース1で、REを1kΩ→0.1kΩに減らし、安定化の効きが弱まる様子を見る。
- コレクタ帰還で、RCを大きくしすぎて飽和に落ちる定数を探す。
同じ方式で1つの定数だけ動かすと、どの抵抗がQ点のどこを動かすかの感覚がつかめる。
仕組み・アルゴリズム
手法の選び方:なぜ3方式をKVLで解くのか
トランジスタの動作点を求める方法には、グラフ的に負荷線と特性曲線の交点を読む方法と、VBE=0.7V・IC=hFE×IB という近似を置いてキルヒホッフの電圧則(KVL)で連立方程式を解く方法がある。グラフ法は直感的だが特性曲線の数値が要るうえ精度が読み取りに依存する。本ツールは設計の当たりを素早くつける用途なので、近似を置いた解析計算を採用した。VBEとhFEを定数とみなすこの手法は、教科書の手計算と同じ枠組みで、再現性があり比較に向く。
3方式の導出
定数は VBE = 0.7V(シリコン)、VCE_SAT = 0.2V、熱電圧 VT = 0.02585V(約300K)。抵抗はkΩ、電圧はVなので電流はmAで出る。
電流帰還バイアス(分圧+RE)は、まずR1・R2をテブナン等価に直す。
Vth = Vcc * R2 / (R1 + R2)
Rth = R1 * R2 / (R1 + R2)
IB = (Vth - VBE) / (Rth + (hFE + 1) * RE)
IC = hFE * IB
IE = (hFE + 1) * IB
VCE = Vcc - IC * RC - IE * RE
ベース側のKVLで、Rthでの電圧降下とVBE、そしてREでの降下(IEが流れる)を足し合わせる。IE=(hFE+1)×IB なので、REが (hFE+1) 倍に拡大されてベース回路に効く——これが負帰還の正体だ。
固定バイアスはベースにRB1本だけ。
IB = (Vcc - VBE) / RB
IC = hFE * IB
IE = IC
VCE = Vcc - IC * RC
コレクタ帰還バイアスはRBをコレクタから取るので、RBにはコレクタ電流に近い電流も絡み、分母に (hFE+1)×RC が入る。
IB = (Vcc - VBE) / (RB + (hFE + 1) * RC)
IC = hFE * IB
IE = IC + IB
VCE = Vcc - (IC + IB) * RC
領域判定と後処理
解いたあとに3つの判定をかける。
- 遮断:
IB ≦ 0(Vth < VBE などでベースが導通しない)なら、IC=0・IE=0・VCE=Vcc を返す。 - 飽和:活性を仮定して求めたVCEが
VCE ≦ 0.2Vなら飽和とみなし、VCEを0.2Vに固定。ICはhFE×IBではなく外部抵抗で律速されるのでIC = (Vcc - 0.2) / RC(電流帰還なら RC+RE)で計算し直す。 - 活性:
IB > 0かつVCE > 0.2Vなら活性領域。増幅に使える。
エミッタ接地ゲインの計算例
活性領域では、小信号電圧ゲインを Av ≈ -gm × RC、相互コンダクタンス gm = IC / VT で概算する。エミッタが交流的に接地(REをバイパスコンデンサで短絡)された理想を仮定している。式をまとめると Av = -(IC × RC) / VT。
ケース1で具体的に計算すると、IC=2.004mA、RC=2.2kΩ、VT=0.02585V なので、Av = -(2.004 × 2.2) / 0.02585 ≈ -170.5。マイナスは入力に対して出力が反転することを示し、約170倍に増幅される。コレクタ損失は PC = VCE × IC = 5.578 × 2.004 ≈ 11.2mW と小さく、小信号トランジスタの定格に十分収まる。
実際のゲインは内部抵抗reや負荷、周波数特性で下がるので、この値はあくまで上限の目安として使う。
抵抗計算やオペアンプ計算とどう使い分ける?
バイアス計算は「BJT(バイポーラトランジスタ)を1石使って増幅・スイッチングする」ための専用ツール。同じ電子回路の計算ツールでも、扱う素子と目的が違うので役割をはっきり分けてある。
/opamp-circuit-calc(オペアンプ回路計算)は、増幅をIC(オペアンプ)で行う場合の比較対象だ。オペアンプは内部で何十石ものトランジスタが負帰還で固められていて、ゲインは外付け抵抗の比だけで決まる。動作点を自分で設計する必要がない。だから「とにかく安定した増幅が欲しい」ならオペアンプ、「電源電圧が低い・周波数が高い・1石で済ませたい・原理を学びたい」ならディスクリートのBJTという棲み分けになる。本ツールはまさにその後者、Q点(動作点)を自分の手で置く側を担当する。
/led-circuit-designer(LED回路設計)との違いは、BJTを「飽和スイッチ」として使うときに現れる。LED回路設計はLEDの電流制限抵抗そのものを求めるツールで、トランジスタを介してLEDをON/OFFする場合は、本ツールの固定バイアス・飽和モードでベース抵抗を決めてから、コレクタ側のLED電流を led-circuit-designer で詰める、という連携になる。
/resistor-color-code(抵抗カラーコード)は、本ツールで決めたR1・R2・RB・RC・REの計算値を、実際の手持ち抵抗のカラーバンドから読み取る・E系列に丸めるための相棒。計算値「33kΩ」に一番近いE24値を確認する、といった使い方をする。
そしてベース分圧の電圧降下をもっと詳しく見たいときは /voltage-divider-calc(分圧回路計算)が兄弟アプリだ。電流帰還バイアスのR1/R2分圧は、ベースに電流が流れ込むと無負荷時の分圧電圧から下がる。その負荷時の電圧降下を単独で検証できる。タイマー回路を組むなら /555-timer-designer も合わせてどうぞ。
なぜVBEは0.7Vなのか、hFEはなぜ当てにならないのか
なぜVBEは約0.7Vで一定なのか
シリコンBJTのベース-エミッタ間は、要するに順方向のPN接合ダイオードだ。ダイオードの電流は電圧に対して指数関数的に増える(ショックレーの式、I ≒ Is·exp(V/VT))。つまり電圧がほんの数十mV変わるだけで電流は桁で動く。逆に言えば、実用的な電流(mAオーダー)を流したときの順方向電圧は、素子が変わってもだいたい0.6〜0.7Vの狭い範囲に落ち着く。これがVBE≈0.7Vを「定数」として扱える理由だ。シリコンのバンドギャップが約1.1eVで、その半分強あたりに導通の閾値が来る、と覚えておくと感覚がつかみやすい。
ただし0.7Vは絶対ではない。温度が1℃上がるごとにVBEは約-2mV下がる(負の温度係数)。電流を10倍流せばVBEは約60mV(VT·ln10)上がる。本ツールが0.7V固定で計算しているのはあくまで常温・mAオーダーの近似で、精密設計では実測が要る。ちなみにゲルマニウムトランジスタはVBE≈0.2〜0.3Vと低く、昔のラジオ回路が3V前後の低電圧でも動いた理由のひとつになっている(参考: PN接合 - Wikipedia)。
hFEは「設計の主役」にしてはいけない
直流電流増幅率 hFE(IC/IB)は、同じ型番でもデータシートで最小50・最大300のように数倍の幅がある。さらに温度・コレクタ電流・VCEでも変わる生き物だ。だから「hFE=200だからICはこうなる」と一点で決め打ちする設計はもろい。
固定バイアスが熱暴走する物理
固定バイアスは IC = hFE·IB で、IB が一定ならICはhFEに丸ごと比例する。ここに温度の正のフィードバックループが噛む。温度が上がる → VBEが下がるのでICが増える、かつhFE自体も増える → ICが増えるとコレクタ損失 PC=VCE·IC が増えて発熱 → さらに温度が上がる…という循環だ。冷却が追いつかなければ動作点が際限なく上へ走り、最後は素子破壊に至る。これが熱暴走(thermal runaway)。電流帰還バイアスがREを入れるのは、ICが増えるとエミッタ電圧が上がってVBE(=Vth-VE)が下がり、ICを押し戻す負帰還を効かせるためだ。本ツールが固定バイアスの活性動作時に黄色い注意書きを出すのは、この物理的な弱さを忘れないため。
動作点とバイアスを決めるときのTips
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動作点はVCE≈Vcc/2を目安に置く。 増幅回路の出力はQ点を中心に上下に振れる。VCEがVccに近すぎる(遮断寄り)ともVCE_sat=0.2Vに近すぎる(飽和寄り)と、振幅の片側がクリップして波形が歪む。負荷線の中央、つまりVCE≒Vcc/2付近に置くと最大の振幅が取れる。本ツールのVCE結果がVccの3割を切ったり7割を超えたら抵抗値を見直すサインだ。
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REはエミッタ電圧 VE で決める。 電流帰還バイアスのRE値は「VE = IC·RE を電源の1〜2割程度(Vcc=12Vなら1〜2V)に取る」と安定と利得のバランスが良い。VEを大きくするほど温度安定性は増すが、その分VCEに使える電圧が減って振幅が痩せる。まずVE≒0.1·Vccから始めて、本ツールでVCEとゲインを見ながら微調整するのが速い。
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R1・R2のブリーダー電流はIBの10倍以上に。 電流帰還バイアスでR1/R2分圧が安定して機能するには、分圧抵抗に流れる電流(ブリーダー電流)がベース電流IBの10倍以上欲しい。これより小さいとIBの抜き取りで分圧電圧が崩れる。本ツールでIBを確認し、Vth/R2 ≧ 10·IB になっているかをチェックするとよい。
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スイッチングのベース抵抗は「飽和させる」ことが目的。 BJTでLEDやリレーをON/OFFするときは増幅と逆で、わざと飽和まで深く駆動する。必要なコレクタ電流ICに対し、IB ≧ IC/hFE(min) の2〜5倍を流すようRBを下げる(オーバードライブ)。例: 5VでIC=50mA・hFE(min)=50ならIB≧1mA、余裕を見て2mA → RB≦(5-0.7)/2mA≈2.2kΩ。本ツールの固定バイアスでRBを下げ、VCEが0.2V(飽和)になるのを確認すれば駆動は十分だ。
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コレクタ損失PCを定格と照合する。 結果のPC(mW)は小信号トランジスタの許容コレクタ損失(だいたい200〜500mW)と必ず突き合わせる。本ツールはPCが250mWを超えると注意を出す。
よくある質問
Q: 固定バイアスと電流帰還バイアスは何が違う?どちらを選ぶべき?
固定バイアスはVccからベースへ抵抗RBを1本だけ入れる最もシンプルな方式で、IC=hFE·IBがhFEに直接比例する。そのためhFEのばらつき(同型番で数倍)と温度変化で動作点が大きくずれ、熱暴走しやすい。電流帰還バイアスはベースをR1/R2で分圧し、エミッタ抵抗REで負帰還をかけるため、hFEが多少ばらついてもICがほぼ一定に保たれる。増幅回路を実際に作るなら電流帰還バイアス一択。固定バイアスは原理学習か、後述のスイッチング(飽和駆動)用途で使う。本ツールで同じVcc・hFEを入れて両方式を切り替え、hFEを100と300に変えてICがどれだけ動くか比べてみると違いが体感できる。
Q: 「活性」と「飽和」はどう使い分ける?飽和は悪いこと?
増幅したいなら活性領域(VCE > VCE_sat、IB > 0)に動作点を置く。ここではICがIBに比例して制御でき、入力信号を線形に拡大できる。一方スイッチングしたいなら飽和(VCE≒0.2V)に深く入れる。飽和はON状態でコレクタ-エミッタ間がほぼ短絡、損失が小さく、LED・リレー・モーターのON/OFFに使う。つまり飽和は用途次第で、増幅回路で飽和すると歪み(悪い)、スイッチで飽和は正常(良い)。本ツールは増幅用途想定の方式(電流帰還・コレクタ帰還)が飽和したときだけ注意を出し、固定バイアスの飽和はスイッチング正常とみなす。
Q: hFEはデータシートのどの値を入れればいい?
目的で使い分ける。動作点の中心を見積もる増幅設計では「典型値(typ)」を入れて当たりを付ける。一方、スイッチングで確実に飽和させたいときは「最小値(min)」を入れるのが鉄則だ。hFEが最小でも飽和するようRB(ベース電流)を決めれば、個体差で薄い石が来ても確実にONできる。逆に最大値で設計すると、hFEの低い石でON不足になる。本ツールでは同じ回路でhFEをmin/typ/maxの3点入れて、動作点と領域がどう動くかを見ると安全側の判断ができる。電流帰還バイアスはそもそもhFE依存が小さいので、hFEを多少振ってもICがほとんど動かないことも確認できる。
Q: エミッタ接地ゲインの結果が教科書より大きい・実際と合わないのはなぜ?
本ツールのゲインは Av ≈ -gm·RC(gm=IC/VT)で、エミッタが交流的に接地(REをバイパスコンデンサで短絡)された理想を仮定した上限の概算だ。実回路ではいくつかの理由で下がる。(1) REをバイパスしない場合は Av≈-RC/RE と大幅に小さくなる、(2) コレクタに負荷RL(次段の入力抵抗など)がぶら下がるとRCとの並列でゲインが落ちる、(3) 内部エミッタ抵抗re=VT/ICやアーリー効果も効く、(4) 高周波ではミラー効果でゲインが下がる。だから本ツールの値は「これ以上は出ない天井」と捉え、実装では下振れを前提に設計するのが安全だ。
Q: コレクタ帰還バイアスはどんなときに使う?
コレクタ帰還バイアスはRBをVccではなくコレクタから取る方式で、コレクタ電圧の変化を負帰還する。固定バイアスより安定で、電流帰還バイアスより部品が少ない(REや分圧抵抗が不要)。電源電圧が低くてREに電圧を割けない単電源の1石増幅や、部品点数を絞りたい簡易回路で重宝する。ただし負帰還が入力にも回り込むので入力インピーダンスが下がり、安定度は電流帰還バイアスに及ばない。本ツールでコレクタ帰還を選び、RB・RCを変えながらVCEが中央に来る組み合わせを探すとよい。
まとめ
トランジスタのバイアス計算は、固定・コレクタ帰還・電流帰還の3方式について、ベース電流IB・コレクタ電流IC・VCE・エミッタ接地ゲイン・コレクタ損失を一度に求め、活性/飽和/遮断を判定する。増幅なら活性かつVCE≒Vcc/2、スイッチングなら飽和を狙う、という指針を数値で確認できるのが強みだ。設計したバイアス抵抗の値は /resistor-color-code でカラーコードとE系列を確認し、ベース分圧の電圧降下は /voltage-divider-calc で詰め、増幅をICで済ませたいときは /opamp-circuit-calc と比較してみて。BJTをスイッチとして使うLED駆動は /led-circuit-designer と合わせるとひと通り設計が完結する。
不具合や要望があれば、お問い合わせページから気軽に教えて。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。ブレッドボードで1石アンプを組んで音を歪ませた失敗から、固定・コレクタ帰還・電流帰還の3方式を切り替えて動作点を即座に見比べられるツールにこだわった。
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