雷が落ちた翌朝、基板が沈黙していた
制御盤の電源を入れたら、何も反応しない。昨夜の落雷でサージが回り込み、ICが焼損していた——こんな経験、設計者なら一度はあるんじゃないだろうか。
サージ保護デバイス(SPD)を入れておけば防げた話だ。しかし「TVSダイオードとバリスタ、どっちを選ぶ?」「スタンドオフ電圧は何V必要?」「IEC 61000-4-5のレベル3に耐えるスペックは?」——いざ選定しようとすると、メーカーごとにPDFを開いて計算して比較する手間が待っている。
このツールは、回路電圧とサージレベルを入れるだけで、TVSダイオード・バリスタ・GDTの3デバイスの推奨スペックを一覧比較できる選定ガイド。クランプ電圧・応答速度・寿命まで一画面で見渡せるから、デバイス選びの迷いが一気に減る。
なぜ「サージ保護デバイス選定ガイド」を作ったのか
サージ保護の選定で厄介なのは、情報が分散していることだ。
TVSダイオードはLittelfuseのPDF、バリスタはTDKのカタログ、GDTはBournsのアプリケーションノート。それぞれのデータシートを開いて、クランプ電圧の定義が微妙に違うことに気づき、条件を揃えて比較し直す——この作業を何度繰り返したか分からない。
特に困るのが「回路電圧からスタンドオフ電圧を逆算する」工程だ。AC回路ならピーク電圧に換算して10%マージンを載せる。DC回路なら動作電圧に直接マージンを載せる。計算自体は単純だが、ACとDCで式が違うことを忘れて選定ミスをしたことがある。100V ACのスタンドオフ電圧を110Vで選んでしまい、ピーク電圧(141V)に耐えられずデバイスが常時導通——試験中に発煙して気づいた苦い思い出だ。
既存のメーカー提供ツールは自社製品の型番選定に特化していて、「TVSとバリスタどちらが最適か」というデバイス横断の比較はできない。IEC 61000-4-5のサージレベルを入力して3デバイスの推奨スペックが横並びで出る——そんなツールが欲しかった。だから作った。
サージ保護デバイスの基礎知識——TVSダイオード・バリスタ・GDTとは
サージとは何か
電子回路にとってサージとは、極めて短時間(マイクロ秒〜ミリ秒)に発生する異常な過電圧・過電流のこと。雷の誘導サージ、モーターのスイッチングサージ、静電気放電(ESD)——原因はさまざまだが、共通するのは「回路の定格を瞬間的に超える」という点だ。
たとえるなら、水道管に突然20倍の水圧がかかるようなもの。管が破裂するか、弁が吹き飛ぶか——電子回路ではICのジャンクションが破壊され、基板が沈黙する。
IEC 61000-4-5 サージイミュニティ試験とは
IEC 61000-4-5は、雷サージや電力系統の過渡現象に対する電子機器の耐性を評価する国際規格だ。1.2/50μsの開回路電圧波形と8/20μsの短絡電流波形を組み合わせた「コンビネーション波」を使い、4段階のレベルで試験する。
レベル1: 500V / 250A (一般民生機器)
レベル2: 1kV / 500A (工業環境)
レベル3: 2kV / 1kA (重工業環境)
レベル4: 4kV / 2kA (屋外設置・雷直撃)
CE マーキングや日本のVCCI自主規制でも、この規格への適合が事実上の必須要件になっている。
TVSダイオード(Transient Voltage Suppressor)の選び方
TVSダイオードは半導体のアバランシェ降伏を利用してサージを吸収するデバイス。最大の強みは応答速度が1ns未満という圧倒的な速さ。サージの立ち上がりに追従できるため、後段のICを確実に保護できる。
弱点は寄生容量が大きいこと。100pF〜数nFの容量があるため、高速差動信号線(USB 3.0、HDMI、Ethernet)では信号品質を劣化させる可能性がある。また、エネルギー吸収量が比較的小さいため、レベル4クラスの大電流サージには単独で対応しにくい。
バリスタ(MOV: Metal Oxide Varistor)の選定計算
バリスタは酸化亜鉛(ZnO)の粒界特性を利用した非線形抵抗素子。コストが安く、エネルギー吸収量が大きいのが特長で、AC電源ラインの保護で最も広く使われている。
ただし劣化する。サージを受けるたびにZnO粒界の微細構造が変化し、漏れ電流が増加していく。数百〜数千回のサージで寿命を迎えるため、雷の多い地域では定期交換が必要になる。クランプ電圧もTVSに比べて高め(スタンドオフ電圧の約1.8倍)で、後段回路の耐圧に余裕がない場合は注意が必要だ。
GDT(Gas Discharge Tube)の特徴
GDTはガス封入管内の放電を利用するデバイス。寄生容量が2pF未満と極めて低く、高周波回路や通信線の保護に適している。サージ耐量も大きく、数kAクラスの電流を処理できる。
欠点は応答速度が遅いこと(1μs程度)。サージの立ち上がりに追従できず、初期スパイクが後段に通過してしまう。このため、GDT単体ではなくTVSダイオードと組み合わせた多段保護が実務では一般的だ。
サージ保護が不十分だと何が起きるか——IEC 61000-4-5 対策の実務的重要性
基板焼損と製品リコールのリスク
サージ保護の選定ミスは、試験段階で発覚すればまだ良い。量産後に市場で雷サージによる焼損が発生すれば、リコール費用は数千万〜数億円規模になる。2019年に国内のIoTゲートウェイメーカーが雷サージによる基板焼損で自主回収を行った事例では、対策費用が製品原価の数十倍に達したと報道されている。
規格適合と市場参入の条件
欧州CE マーキングではEN 61000-4-5への適合が必須。日本市場でもVCCIや電気用品安全法(PSE)の技術基準でサージイミュニティが要求される場面がある。規格不適合は市場参入そのものを阻むため、「サージ対策は後から考える」では間に合わない。
クランプ電圧の選定がなぜ重要か
クランプ電圧が高すぎれば後段ICの絶対最大定格を超えて破壊される。低すぎればデバイスが常時導通して発熱・発煙する。この「ちょうど良い範囲」を見極めるのがサージ保護設計の核心だ。
たとえば24V DC回路にTVSダイオードを入れる場合、スタンドオフ電圧は26.4V(24V × 1.1)が必要。クランプ電圧は37.0V(26.4V × 1.4)になる。後段ICの絶対最大定格が40Vなら余裕は3Vしかない——バリスタ(クランプ47.5V)では保護できない、という判断がここで決まる。
デバイス特性の「数値の大小」が設計を左右する
応答速度1ns(TVS)と1μs(GDT)では3桁違う。この差は、サージの立ち上がり時間(1.2μsの規格波形)に対して「初期スパイクを通すかどうか」を決定する。同様に、寄生容量2pF(GDT)と数百pF(バリスタ)の差は、GHz帯の信号品質に直結する。数値の大小を正しく比較することが、適切なデバイス選択の出発点になる。
サージ保護デバイス選定ツールが活躍する場面
IoTデバイスの回路設計
屋外設置のIoTセンサーノードは、雷誘導サージの直撃を受けやすい。3.3V〜5Vの信号線と24V〜48Vの電源線それぞれに適切なSPDを選定する必要がある。回路電圧を入れるだけで3デバイスの比較表が出るこのツールなら、設計初期のデバイス選定を数秒で終えられる。
FA制御盤のEMC対策
工場のFA制御盤は、インバータやモーターのスイッチングサージに常時さらされている。IEC 61000-4-5のレベル2〜3への適合が求められる環境で、24V信号線と100V/200V電源線の両方をカバーする保護設計が必要だ。
車載ECUの雷サージ対策
車載ECUはISO 7637やISO 16750で規定されるサージ耐性が求められる。12V〜48Vの電源ラインに対して、TVSダイオードの選定が特に重要になる。
EMC試験前の事前検討
試験所に製品を持ち込む前に、サージ試験のレベルに対して十分な保護マージンがあるかを机上で確認する場面。不合格による再試験(1回数十万円)を避けるための事前チェックとして活用できる。
基本の使い方——3ステップでサージ保護デバイスを選定
ステップ1: 回路条件を設定する
「信号線」「電源DC」「電源AC」から回路種別を選び、動作電圧をプリセット(3.3V〜200V)または手入力で指定する。AC回路の場合は実効値(Vrms)を入力すればよい。ピーク電圧への変換はツールが自動で行う。
ステップ2: サージ試験レベルを選択する
IEC 61000-4-5のレベル1〜4から、製品の設置環境に合ったレベルを選ぶ。一般民生機器ならレベル1〜2、工場設置ならレベル2〜3、屋外設置ならレベル3〜4が目安。高速信号線で容量が気になる場合は「低容量を優先」をオンにしてみて。
ステップ3: デバイス比較表を確認する
TVSダイオード・バリスタ・GDTの推奨スペック(スタンドオフ電圧・クランプ電圧・サージ耐量・応答時間・寿命)が比較表で表示される。最適デバイスの推奨理由も合わせて確認し、後段回路の耐圧と照合しよう。
具体的な使用例——サージ保護デバイス選定の6ケース検証
ケース1: 5V USB信号線 × レベル1(民生機器)
USBポートを持つ民生機器のサージ保護。最も基本的な選定例だ。
- 入力: 信号線 / 5V / レベル1 / 低容量優先OFF
- スタンドオフ電圧: 5.5V(5V × 1.1)
- TVSクランプ電圧: 7.7V(5.5V × 1.4)
- バリスタクランプ電圧: 9.9V(5.5V × 1.8)
- 必要サージ耐量: 250A
- 推奨デバイス: TVS
TVSのクランプ電圧7.7Vなら、USB ICの絶対最大定格(一般的に10V前後)を下回る。バリスタのクランプ9.9Vではギリギリで、マージンが心もとない。低電圧信号線ではTVSが第一選択になる。
ケース2: 24V FA信号線 × レベル2(工業環境)
FA制御盤の24V DC信号ラインを保護する、最も一般的な産業用途の選定例。
- 入力: 信号線 / 24V / レベル2 / 低容量優先OFF
- スタンドオフ電圧: 26.4V
- TVSクランプ電圧: 37.0V
- バリスタクランプ電圧: 47.5V
- 必要サージ耐量: 500A
- 推奨デバイス: TVS
後段のPLCモジュールの入力耐圧が40V程度なら、TVS(クランプ37.0V)で3Vのマージンが確保できる。バリスタ(47.5V)では耐圧オーバーになるため不適。応答速度の面でもTVSが有利だ。
ケース3: 12V 車載電源DC × レベル2(工業環境)
車載ECUの12V電源ラインのサージ保護。ISO 7637との併用も想定される場面。
- 入力: 電源DC / 12V / レベル2 / 低容量優先OFF
- スタンドオフ電圧: 13.2V(12V × 1.1)
- TVSクランプ電圧: 18.5V(13.2V × 1.4)
- バリスタクランプ電圧: 23.8V(13.2V × 1.8)
- 必要サージ耐量: 500A
- 推奨デバイス: TVS
車載の場合、電源ラインの過渡変動(ロードダンプ等)も考慮が必要。TVSのクランプ18.5Vなら多くの車載ICの耐圧(30〜40V)に対して十分なマージンがある。ただしエネルギー吸収量が求められるロードダンプ対策にはバリスタの併用も検討すべき場面だ。
ケース4: 100V AC電源 × レベル3(重工業環境)
工場設置機器のAC電源ラインを保護する代表的なケース。ACはピーク電圧換算が入る点に注意。
- 入力: 電源AC / 100V / レベル3 / 低容量優先OFF
- スタンドオフ電圧: 155.6V(100V × √2 × 1.1)
- TVSクランプ電圧: 217.8V(155.6V × 1.4)
- バリスタクランプ電圧: 280.0V(155.6V × 1.8)
- 必要サージ耐量: 1000A
- 推奨デバイス: バリスタ
AC電源ラインではバリスタが定番。コストが低く、エネルギー吸収量が大きく、双方向動作が標準だからだ。TVSも使えるが、155V以上のスタンドオフ電圧に対応する高耐圧TVSは高価になる。1000Aのサージ耐量もバリスタの得意領域。
ケース5: 48V PoE通信 × レベル3(重工業環境)
PoE(Power over Ethernet)給電の48V DC回線。通信品質と保護の両立が求められる。
- 入力: 信号線 / 48V / レベル3 / 低容量優先OFF
- スタンドオフ電圧: 52.8V(48V × 1.1)
- TVSクランプ電圧: 73.9V(52.8V × 1.4)
- バリスタクランプ電圧: 95.0V(52.8V × 1.8)
- 必要サージ耐量: 1000A
- 推奨デバイス: TVS
PoE回路では後段のDC-DCコンバータICの絶対最大定格(80〜100V程度)との兼ね合いが重要。TVSのクランプ73.9Vなら余裕がある。バリスタの95.0Vでは定格ギリギリで温度ディレーティングを考慮すると不安が残る。レベル3の1000Aサージに対しては、TVSのパルス耐量が十分か要確認——不足する場合はGDTとの多段保護を検討しよう。
ケース6: 200V AC三相電源 × レベル4(屋外・雷直撃)
屋外設置キュービクルや配電盤の保護。最も過酷な条件での選定例。
- 入力: 電源AC / 200V / レベル4 / 低容量優先OFF
- スタンドオフ電圧: 311.1V(200V × √2 × 1.1)
- TVSクランプ電圧: 435.6V(311.1V × 1.4)
- バリスタクランプ電圧: 560.0V(311.1V × 1.8)
- 必要サージ耐量: 2000A
- 推奨デバイス: バリスタ
レベル4は雷サージ相当で、単体デバイスでの保護が困難な領域。JIS C 5381(低圧サージ防護デバイス)に準拠した産業用SPDの使用が推奨される。実務では「GDT(1段目・粗い吸収)+バリスタ(2段目・クランプ)+TVS(3段目・精密保護)」の多段構成が一般的だ。2000Aのサージ耐量にはバリスタのエネルギー吸収能力が不可欠になる。
仕組みとアルゴリズム——サージ保護デバイス選定の計算ロジック
手法の比較: なぜ「クランプ電圧比方式」を採用したか
サージ保護デバイスの選定には大きく2つのアプローチがある。
アプローチA: 部品データベース方式。メーカーの型番データベースから、条件に合う部品を検索してフィルタリングする。精度は高いが、データベースのメンテナンスが必要で、メーカー間の比較が困難。
アプローチB: クランプ電圧比方式(本ツール採用)。デバイス種別ごとの典型的なクランプ電圧比(TVS: 1.4倍、バリスタ: 1.8倍)を使い、回路電圧から推奨スペックを算出する。個別の型番は分からないが、「どのデバイスが適切か」「必要なスペック水準はどの程度か」を即座に判断できる。
本ツールは設計初期の「方針決定フェーズ」を支援する目的のため、アプローチBを採用した。具体的な型番選定は、ここで得られたスペック水準をもとにメーカーのパラメトリック検索に進む——という2段階のワークフローを想定している。
計算フロー
1. スタンドオフ電圧の算出
AC回路: V_standoff = V_rms × √2 × 1.1
DC/信号: V_standoff = V_dc × 1.1
2. 各デバイスのクランプ電圧算出
TVS: V_clamp = V_standoff × 1.4
バリスタ: V_clamp = V_standoff × 1.8
GDT: DC放電開始電圧 ≥ V_standoff × 1.2
アーク電圧 ≈ 15-25V
3. サージ耐量の決定
必要ピーク電流 = サージレベルの短絡電流値
(L1: 250A, L2: 500A, L3: 1000A, L4: 2000A)
4. 最適デバイスの推奨
信号線 + 低容量優先 → GDT
信号線 → TVS
電源DC → TVS or バリスタ
電源AC → バリスタ or GDT
レベル4(高サージ)→ GDT or バリスタ優先
クランプ電圧比の根拠
TVSダイオードのクランプ/スタンドオフ比1.4は、Littelfuse・Vishay・STMicroelectronicsの主要シリーズの代表値を調査した結果だ。双方向TVSの場合、ブレークダウン電圧(VBR)がスタンドオフ電圧の1.1〜1.15倍、クランプ電圧(VC)がVBRの1.2〜1.25倍で、合わせて約1.35〜1.44倍になる。本ツールでは安全側に1.4を採用している。
バリスタの1.8倍は、TDK・Panasonic・Bournsの酸化亜鉛バリスタのデータシートから導出した値。バリスタは制限電圧のばらつきが大きく(±10%程度)、温度による変動もあるため、TVSより高いマージンを設定している。
計算例: 100V AC × レベル3
V_standoff = 100V × √2 × 1.1
= 100 × 1.4142 × 1.1
= 155.6V
TVSクランプ = 155.6 × 1.4 = 217.8V
バリスタクランプ = 155.6 × 1.8 = 280.0V
必要サージ耐量 = 1000A(レベル3)
→ AC電源ラインのため、バリスタを推奨
この結果から「スタンドオフ電圧160V以上、クランプ電圧280V以下、サージ耐量1kA以上」のバリスタをメーカーのパラメトリック検索で探す——という具体的な選定アクションに繋がる。
メーカーツールとの決定的な差 ― サージアブソーバ比較の視点
サージ保護デバイスの選定ツールは、実はメーカー各社も提供している。Littelfuse の iDesign、TDK の EPCOS シミュレータ、Bourns の SPD Selector あたりが有名どころだ。ただ、これらには共通の弱点がある。自社製品しか候補に出ないということ。
TVSダイオードが得意なメーカーのツールを使えば、当然TVSが推奨される。バリスタメーカーならバリスタ一択。GDTメーカーなら…もうわかるよね。デバイスの種類を横断して「この条件なら本当はGDTのほうが適している」と教えてくれるツールは、メーカーサイトには存在しない。
本ツールは特定メーカーに依存せず、TVS・バリスタ・GDTの3種を同一条件で並べて比較する。クランプ電圧、応答速度、サージ耐量、寿命特性を一覧で見られるから、「なぜこのデバイスを選んだのか」を設計レビューで説明しやすい。
もう1つの違いは、IEC 61000-4-5のサージレベルをそのまま入力できる点。メーカーツールの多くはサージ波形パラメータ(立上り時間、パルス幅)を個別に入力する必要があるが、実務では「レベル2で通したい」が先に決まっていることがほとんど。レベルを選ぶだけで必要スペックが出る、という設計者の思考フローに沿ったUIになっている。
知っておくと差がつく ― バリスタの劣化とサージ保護の雑学
MOV(金属酸化物バリスタ)はなぜ劣化するのか
バリスタの主成分は酸化亜鉛(ZnO)の焼結体。粒界に形成されるショットキー障壁がサージ電圧を吸収する仕組みだが、大電流が繰り返し流れると粒界構造が徐々に破壊される。すると漏れ電流が増加し、最終的には熱暴走で焼損に至る。
これがバリスタの「寿命回数」が有限である理由だ。一般的なディスク型MOVで数百〜数千回程度。TDKの技術資料でもこの劣化メカニズムは詳しく解説されている。一方、TVSダイオードは半導体のアバランシェ降伏を利用するため、定格内であれば理論上は劣化しない。この「消耗品か否か」の違いが、選定時に見落とされがちなポイントだ。
GDTの「応答が遅い」は本当にデメリットか
GDT(ガス入り放電管)の応答時間は約1μs。TVSの1ns未満と比べると1000倍遅い。しかし、GDTの真価は大電流を流せることにある。数十kAクラスのサージを吸収できるGDTは、通信線や電源入口の「一次保護」として圧倒的な強さを持つ。後段にTVSを配置する多段保護構成なら、GDTの応答遅延はTVSがカバーしてくれる。
クランプ電圧と後段回路の耐圧
サージ保護デバイスを選ぶとき、つい「サージを止められるか」だけに注目しがち。でも本当に大事なのはクランプ電圧が後段回路の絶対最大定格を超えないかということ。例えば3.3V系のMCUに対してクランプ電圧が10Vを超えるデバイスを付けても、MCUが先に壊れてしまう。クランプ電圧の低さはTVSダイオードの最大の武器であり、信号線保護でTVSが推奨される理由はここにある。
参考: Wikipedia - Transient-voltage-suppression diode
サージ保護 選定を確実にする5つのTips
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ACラインは必ずピーク電圧で考える — 100V ACの実効値に対して、ピーク電圧は約141V(100 × √2)。スタンドオフ電圧をRMS値で設定すると、正常動作中にデバイスが導通してしまう。本ツールはAC選択時に自動でピーク換算するが、手計算のときは忘れがちなポイント。
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高速信号線では容量値を必ず確認 — USB 3.0やイーサネットなど高速差動信号では、保護デバイスの寄生容量が信号品質に直結する。TVSの数百pFは致命的になることも。GDT(2pF未満)か、低容量タイプのTVSアレイ(数pF)を選ぼう。「低容量を優先」トグルを活用してみて。
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バリスタは定期交換前提で設計する — 特にFA制御盤のように長期間稼働する機器では、バリスタの劣化を見越して交換可能な実装にしておくのが鉄則。基板直付けではなく、ソケット実装やモジュール化を検討する価値がある。
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レベル4対策は単体デバイスに頼らない — IEC 61000-4-5のレベル4(4kV / 2kA)は雷サージ相当。1つのデバイスで吸収しきるのは非現実的な場合が多い。GDT(一次)+ バリスタまたはTVS(二次)の多段構成が定石だ。
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温度ディレーティングを忘れない — バリスタもTVSも、高温環境ではサージ耐量が低下する。85℃環境では定格の60-70%程度まで落ちることもある。車載やFA機器では、データシートのディレーティングカーブを必ず確認しよう。
FAQ ― TVSダイオード選び方・サージ保護の疑問
TVSダイオードの「双方向」と「単方向」はどう使い分ける?
DC回路やGNDを基準にした信号線には単方向(Unidirectional)、AC回路や正負両方向にサージが入る線には**双方向(Bidirectional)**を選ぶ。AC電源ラインは双方向が基本。単方向のほうがクランプ電圧が低いため、DC信号線では単方向を選んだほうが保護性能が高くなる。本ツールで算出されるクランプ電圧は単方向ベースの値なので、双方向を使う場合は若干高めになることを考慮してほしい。
バリスタとTVSを同じ箇所に並列で使ってもいい?
使える。ただし注意点がある。クランプ電圧が低いほうのデバイス(通常TVS)にサージ電流が集中する。意図的に「TVSで高速応答+バリスタで大電流吸収」を狙う設計は存在するが、電流分担の計算が必要になる。安易な並列接続より、直列に配置する多段保護(一次: バリスタ / 二次: TVS)のほうが設計意図が明確で扱いやすい。
IEC 61000-4-5のレベルはどうやって決める?
製品が使われる環境で決まる。一般的な目安は以下の通り。
- レベル1(500V / 250A): 家庭内の電子機器、短い配線
- レベル2(1kV / 500A): オフィス・店舗機器、一般的な工業環境
- レベル3(2kV / 1kA): 工場内の制御機器、長いケーブル接続
- レベル4(4kV / 2kA): 屋外設置、雷の影響を直接受ける環境
迷ったらレベル2で設計しておけば、CE認証の要求をカバーできるケースが多い。レベル3以上が必要な場合はEMCコンサルタントへの相談も視野に入れよう。
計算結果の精度はどの程度?入力データは外部に送信される?
本ツールの計算はすべてブラウザ内で完結しており、入力データがサーバーに送信されることは一切ない。算出されるクランプ電圧はデバイスの典型的な特性比率(TVS: ×1.4、バリスタ: ×1.8)に基づく概算値だ。実際の部品選定では、候補デバイスのデータシートで実測のクランプ電圧カーブ(V-I特性)を必ず確認してほしい。温度特性やパルス幅による変動も加味すると、マージン10-20%を上乗せするのが実務的な安全策になる。
ESD(静電気)対策もこのツールでカバーできる?
現時点では対応していない。ESD保護はIEC 61000-4-2に基づくもので、サージ(IEC 61000-4-5)とは波形・エネルギーレベルが大きく異なる。ESD保護専用のTVSダイオード(低容量・低クランプ電圧)が別途必要になる。ESD対応は今後の拡張機能として検討中だ。
まとめ ― サージ保護デバイス選定の第一歩に
サージ保護の選定は、回路電圧とサージレベルさえ決まれば半分終わったようなもの。TVS・バリスタ・GDTそれぞれの推奨スペックを並べて見比べることで、「なんとなくバリスタ」ではなく根拠のある選定ができる。
電気設備の保護設計に取り組んでいるなら、電線管サイズ判定シミュレーターも合わせてチェックしてみて。配線設計とサージ保護は、どちらも現場で「あとから直す」コストが大きい領域だ。設計段階でしっかり詰めておこう。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。