RCスナバ設計ツール

寄生LC共振からRCスナバのR・Cと損失をSeverns法で算出(MOSFET/ダイオード リンギング抑制)

寄生インダクタンスとオシロで測ったリンギング周波数から、MOSFET/ダイオードのサージを抑えるRCスナバの最適R・Cと損失をSeverns法で自動算出する。

シナリオプリセット

入力方式

オシロで観測したリンギング周波数から寄生容量を逆算

回路パラメータ

スイッチング条件

スナバ設計値

抵抗損失 P15.99 W推奨定格 35.00 W以上
要放熱対策

スナバ抵抗 R

44.7 Ω

スナバ容量 C

999 pF

推定 C_p

500 pF

f_ring

7.12 MHz

Z0

44.7 Ω

抵抗損失が5W超。金属皮膜ではなくメタルクラッドやセメント抵抗を検討
Rudy Severns の古典簡略化モデルに基づく初期設計値。実回路では寄生成分のばらつき・レイアウト・温度依存があり、実装後にオシロで波形確認し微調整すること。高周波ではRの寄生インダクタンスやCのESRも考慮する。
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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オシロに映った「あのヒゲ」、放置して大丈夫?

MOSFETのドレイン波形をオシロで覗いたとき、スイッチング直後に見える高周波の減衰振動、いわゆる「リンギング」にゾッとした経験はないだろうか。定格600VのSiC MOSFETなのに、ピーク電圧が700Vを超えて振れている。EMI試験に持ち込めば150MHz帯がごっそりスペック超過し、そのまま量産に流せばいずれフィールドで破壊事故を起こす。だからといって闇雲に1nF/10Ωを貼り付けても、今度は抵抗が発熱して基板を焦がす。

このツール「RCスナバ設計」は、寄生インダクタンスとリンギング周波数の2つだけを手がかりに、Rudy Severnsの古典設計法で抵抗値・容量値・損失・推奨定格まで一気に算出する日本語ツールだ。オシロのカーソルを当てて周波数を読み取ったら、そのまま値を打ち込むだけ。臨界ダンピング近似(ξ≈0.5)でリンギングの振幅を6dB以下に抑える設計値が瞬時に出る。

なぜ作ったのか

きっかけは、新人エンジニア時代に組んだフライバックコンバータだ。試作1号機のドレイン波形に巨大なスパイクが乗り、ピークが800Vを超えた。当時の自分は「スナバって何貼ればいいの?」状態で、先輩に「Severns法で計算しろ」と言われても日本語の解説記事がほとんど見つからず、英語の古いアプリケーションノートと睨めっこしながら電卓を叩いた。手計算で平方根と2πの二乗を処理するのは地獄で、結局桁を間違えて抵抗を焦がした。

その後ネットで見つかるのは海外メーカーの英語calculatorばかり。単位がインチ由来だったり、入力欄がやたら多くて何を入れればいいか分からなかったり、そもそも「なぜその式になるのか」の解説がなかったりする。国内の設計者向けに、``Lf_ring`だけで完結する、日本語で途中式まで見える電卓が欲しかった。

もうひとつの不満は、既存calculatorの大半が損失計算を省いていることだった。Rの値だけ出して終わり。現場で一番知りたいのは「この抵抗、何ワット定格を選べばいいか」なのに、そこが空白なせいで結局Excelに書き出して手計算する羽目になる。このツールはP = C_snub · V² · f_swを必ず併記し、さらに2倍デレーティングした推奨定格まで提示する。

三つ目は国内の教育用途。電源設計の研修や大学の講義で、学生が直感的に「L下げたらR下がる」「fsw上げたらPが線形に増える」を体感できるツールが欲しかった。パラメータを動かすと即座に結果が変わるから、教材として使っても反応が良い。

RCスナバ回路の基礎

寄生LC共振とは何か

スイッチング電源で発生するリンギングは、回路図には書かれていない寄生LC共振が原因だ。MOSFETやダイオードが急峻にオフすると、電流の変化率(di/dt)がリードインダクタンスや基板パターンの寄生インダクタンスLに電圧を発生させる(v = L · di/dt)。この電圧がデバイスの出力容量Cossやジャンクション容量と共振し、減衰振動が生じる。共振周波数は次式で決まる。

f_ring = 1 / (2π · √(L · C_p))

ここでLはパッケージリード+基板パターンの合成インダクタンス(TO-220なら実測で0.3〜2μH程度)、C_pはMOSFETのCoss(データシート値で数百pF〜数nF)だ。典型的なフライバックではf_ringは5〜30MHzに現れる。たとえるなら、風に揺れる釣鐘を想像してほしい。鐘の重さ(L)と紐の硬さ(C)で揺れの周期が決まり、衝撃を与えるとしばらくリンギングが続く。スナバはこの鐘に「ダンパー」を取り付けて揺れを早く止める仕組みだ。

ダンピングとRCスナバの役割

RLC回路の挙動はダンピング比ξで特徴づけられる。ξ<1なら減衰振動(リンギング)、ξ=1で臨界制動、ξ>1で過制動だ。詳しくはRLC回路(Wikipedia)を参照。実回路ではξ=1を完全に狙うとC値が大きくなりすぎて損失が跳ね上がるため、Severnsはξ≈0.5(=1/(2Q), Q=1)を狙う設計を提案した。このときR値は特性インピーダンスと一致する。

Z0 = √(L / C_p)
R_snub = Z0
C_snub = N · C_p   (N = 2〜4)

Severns法の位置づけ

Rudy Severnsの『Design of Snubbers for Power Circuits』(1980年代のAppノートが原典)は、スナバ設計の古典として40年以上業界標準であり続けている。厳密なLaplace解析ではなく「リンギング周波数を測って寄生Cを逆算し、臨界近傍のRを選ぶ」という現場直結の簡略法であるため、実測との整合性が高い。N=2なら最小損失、N=3が標準、N=4で強ダンピングという経験則も同論文由来だ。

実務での重要性:なぜこの数値が設計を左右するか

MOSFETの過電圧破壊

リンギングを放置すると、ピーク電圧がデバイスのBVdss(ドレイン・ソース耐圧)を超える瞬間が生まれる。600V定格のSi MOSFETに700Vのスパイクが5nsでも乗れば、アバランシェ降伏でジャンクションが局所発熱し、数千回のスイッチングで確実に死ぬ。試作では動いていたのに量産3ヶ月目から市場不良が出る——電源設計で最も悲しいタイプの事故だ。スナバ抵抗を1本適切に選ぶだけで、この破壊モードは根絶できる。

EMI試験の合否

CISPR 32/22のクラスB(家庭用機器)では30〜230MHz帯の放射ノイズ許容値が40dBμV/m程度しかない。リンギング周波数が10〜100MHz帯に入っていると、ケーブル・筐体を介して放射ノイズとして漏れ、基準を10dB以上オーバーすることも珍しくない。EMC試験場のレンタル費は1日20〜50万円。スナバのRC値ミスで再試験1回分の費用が飛ぶ計算になる。

設計やり直しコストと納期

基板レイアウト後にリンギングが発覚すると、スナバ用ランドを追加するためにアートワーク修正→試作再発注→評価やり直しと、最低2週間・数十万円の手戻りが発生する。Severns法で初期値を計算し、設計初期段階でスナバ用ランドをパターンに確保しておけば、実機微調整だけで済む。内線規程やJEITAガイドラインで明文化された規定はないが、スイッチング電源設計の実務書(Switching Power Supply Design - Pressman)では必ず設計フェーズでスナバ検討を入れることが推奨されている。

数値感覚としては、Lが1桁増えるとZ0は√10≈3.16倍、Pも同じく線形に増える。400VフライバックでL=1μH→10μHになると抵抗損失が5W→50W級に跳ね上がり、もはやチップ抵抗では対応不能になる。この「桁の感覚」をツールで掴んでおくことは、レイアウト段階で寄生Lを詰める動機づけにもなる。

こんなときに役立つ

  • フライバック/フォワードコンバータの1次側MOSFETスナバ:リーケージインダクタンス由来の巨大リンギングを抑える定番用途
  • ハーフブリッジ/フルブリッジの2次側整流ダイオード:逆回復時のリンギングと逆電圧スパイク対策
  • SiC/GaNデバイスの高速スイッチング対策:dv/dtが50V/ns超でリンギング周波数が20〜50MHzに跳ね上がるケース
  • ブラシレスモータドライバの上下アーム:FETのデッドタイム付近で発生する逆起電力リンギング対策
  • ソリッドステートリレー(SSR)の接点保護:誘導性負荷オフ時のサージ抑制

基本の使い方

  1. 寄生Lを入力:TO-220/TO-247パッケージなら0.5〜2μH、チップパッケージなら0.1〜0.5μH、基板パターン込みで概算する。不明ならまず1μHで計算して感覚を掴む。
  2. リンギング周波数を測る:スナバ無しの状態でオシロのカーソルを振動の山2点に当て、f_ringを読む。GNDスプリングで短く受けるのがコツ。10:1プローブは最低350MHz帯域を使う。
  3. 電圧・fswと倍率Nを選ぶVはDCバス電圧、f_swは制御ICのスイッチング周波数、Nは標準でN=2(最小損失)から始める。

結果欄にRC・損失・推奨定格が表示されるので、E24系列で近い値を選んで実装する。

具体的な使用例と検証データ

ケース1:100W級フライバック(400V DCバス、Si MOSFET)

  • 入力:L=1.0μH, f_ring=7.12MHz, V=400V, f_sw=100kHz, N=2
  • 結果:C_p≈500pF, Z0=44.7Ω, R=44.7Ω, C_snub=1000pF, P=16.0W
  • 解釈:典型的な100W級フラックバック。抵抗損失16Wは大きく、メタルクラッド抵抗+ヒートシンクが必要。N=2でこれなので、N=3にすれば24Wになる。レイアウト改善でLを0.5μHに下げればZ0は31.6Ωに、Pは8Wまで半減する。まずは寄生Lを詰めることが先決と示唆する良い例。

ケース2:50W級DC-DC(200V DCバス、N=3標準設計)

  • 入力:L=0.5μH, f_ring=10MHz, V=200V, f_sw=50kHz, N=3
  • 結果:C_p=507pF, Z0=31.4Ω, R=31.4Ω, C_snub=1520pF, P=3.04W
  • 解釈:中容量DC-DCの典型。R=33Ω/5W金属皮膜(E24系列)で十分。C=1500pFの50V/100V積層セラミック(C0G)を選定する。N=3を選んだことで減衰が強くなり、ピーク振幅が-12dB程度まで抑えられる。

ケース3:高圧600V SMPS(直接C入力モード)

  • 入力:L=2.0μH, C_p=1000pF(Coss実測), V=600V, f_sw=100kHz, N=2
  • 結果:Z0=44.7Ω, R=44.7Ω, C_snub=2000pF, P=72.0W, f_ring≈3.56MHz
  • 解釈:損失72Wは実装不可レベルの警告ケース。このままでは専用ヒートシンクでも熱破綻する。対策としては、(1)寄生Lをレイアウトで1μH以下に下げる、(2)RCDスナバに切り替える、(3)アクティブクランプ回路を検討する、のいずれか。「直接C入力」モードがあることで、データシートCoss値から机上検討できるため、試作前にこのリスクを潰せる。

ケース4:低電圧高速SiC前段ドライバ(100V/200kHz)

  • 入力:L=0.3μH, f_ring=20MHz, V=100V, f_sw=200kHz, N=2
  • 結果:C_p=211pF, Z0=37.7Ω, R=37.7Ω, C_snub=422pF, P=0.84W
  • 解釈:チップ抵抗1210サイズ(1W定格)で十分対応可能なヘルシーな設計。SiCやGaNの高速スイッチングでも、寄生Lを詰めてf_ringが20MHz以上に上がると、C_pが小さくなり損失も小さく収まる。高周波化は寄生L削減とセットで効くことを示す教育的ケース。

ケース5:800V SiC MOSFETブリッジ(EV用途想定)

  • 入力:L=0.8μH, f_ring=15MHz, V=800V, f_sw=150kHz, N=2
  • 計算:C_p=1/((2π·15e6)²·0.8e-6)=140.7pF / Z0=√(0.8e-6/140.7e-12)=√5686=75.4Ω / C_snub=281pF / P=281e-12·640000·150000=27.0W
  • 結果:R=75.4Ω, C_snub=281pF, P=27.0W
  • 解釈:800V級の電圧が二乗で効き、わずか281pFのCでも27Wの損失。メタルクラッド抵抗+アルミ筐体直付けで放熱設計が必須。EV/産業機器の領域では、RCスナバでは分が悪く、アクティブクランプやResonant方式への切り替え判断材料となる数値だ。

ケース6:2次側ダイオードスナバ(300V整流、N=3)

  • 入力:L=1.5μH, f_ring=5MHz, V=300V, f_sw=80kHz, N=3
  • 計算:C_p=1/((2π·5e6)²·1.5e-6)=675.5pF / Z0=√(1.5e-6/675.5e-12)=√2220=47.1Ω / C_snub=2027pF / P=2027e-12·90000·80000=14.6W
  • 結果:R=47.1Ω, C_snub=2027pF, P=14.6W
  • 解釈:整流ダイオードの逆回復リンギング対策の典型例。N=3を選ぶのは、ダイオード側は電流が多方向に流れる過渡条件が厳しく、より強いダンピングが安全側だから。R=47Ω/30Wセメント抵抗+C=2.2nF/630V DCリンクフィルムが実用解。

6ケースを並べると、電圧の二乗が損失を支配し、Lの平方根がZ0を支配する構造が浮かび上がる。これがSeverns法の数値的な核心だ。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較:なぜSeverns法か

スナバ設計には主に3つのアプローチがある。

  1. 完全Laplace解析:寄生成分を含めた2次/3次伝達関数を解き、極配置で最適R・Cを決定。理論的には最も精密だが、寄生成分の実測値精度に依存し、現場の試作サイクルに合わない。
  2. Severns法(臨界ダンピング近似)Z0=√(L/C)を抵抗として選び、C=N·C_pで経験則補正。計算は暗算レベル、実測との整合性が高い。本ツール採用
  3. SPICEシミュレーション:最も柔軟だが、寄生モデルの精度とシミュレーション時間がボトルネック。初期値決定にはオーバースペック。

Severns法は「理論厳密性より現場運用性」を選んだトレードオフで、40年にわたる実績がその妥当性を裏付けている。本ツールは初期値を素早く出し、最終微調整はSPICEや実測に委ねる分業を想定している。

実装フロー

// Step 1: 寄生容量 C_p を決定
const Cp = inputMode === 'ringFreq'
  ? 1 / ((2 * Math.PI * f_ring) ** 2 * L)   // 逆算
  : parasiticCap;                            // 直接指定

// Step 2: 特性インピーダンス
const Z0 = Math.sqrt(L / Cp);

// Step 3: スナバ抵抗(臨界ダンピング近似)
const R_snub = Z0;

// Step 4: スナバ容量(N倍則)
const N = { n2: 2, n3: 3, n4: 4 }[capRatio];
const C_snub = N * Cp;

// Step 5: 抵抗損失
const P = C_snub * V ** 2 * f_sw;

// Step 6: 推奨定格(2倍デレーティング)
const W_rating = Math.ceil(2 * P);

計算例:ケース1の手計算トレース

L=1μH, f_ring=7.12MHzを与える。

ω_ring = 2π · 7.12e6 = 4.474e7 rad/s
ω_ring² = 2.001e15
C_p = 1 / (2.001e15 · 1e-6) = 4.997e-10 F ≈ 500pF

Z0 = √(1e-6 / 500e-12) = √2000 = 44.721 Ω
R_snub = 44.7 Ω(→E24系列で47Ω)

C_snub = 2 · 500pF = 1000pF(→E6系列で1nF)

P = 1e-9 · 400² · 1e5 = 1e-9 · 1.6e5 · 1e5 = 16.0 W
W_rating = ceil(32) = 32W以上 → メタルクラッド50W品を選定

手計算すると平方根と指数で桁を間違えやすいが、ツールなら一瞬だ。ダンピング比ξの扱いについてはDamping ratio(Wikipedia)、スナバ回路全般の理論はSnubber(Wikipedia)が詳しい。

損失式の物理的意味

P = C · V² · f_swは、容量にフル電圧Vがかかった状態が毎サイクル作られ、その電荷エネルギー½CV²が抵抗で熱として捨てられる×2(充放電)×f_sw(毎秒の回数)から導かれる。つまりスナバの損失は電圧の二乗周波数に線形で効くため、高電圧・高周波化では幾何級数的に厳しくなる。これがSiC/GaN時代にアクティブクランプや共振型が台頭する根本理由でもある。

他ツールとの違い

英語圏にはDigi-KeyやRohmの簡易RCスナバ電卓があるが、寄生LCの入力と結果表示が分かれていたり、損失式が省略されていたり、単位がインペリアル寄りだったりと、日本の電源設計現場にはそのまま馴染みにくい。このツールは日本語UIで、測定したリンギング周波数から逆算する使い方と、データシートのCossC_dを直接入れる使い方の両方に対応した。入力が1画面に収まり、Z0・R・C・損失・推奨定格まで一度に見える構成だ。

同じ電源分野のツールとして /smps-component-calc(スイッチング電源の主要部品選定)も用意しているが、役割はきれいに分かれる。smps-component-calcはインダクタ値・出力コンデンサ・ダイオード定格など「動作点の設計」を担当し、このRCスナバツールは「設計後に出てくるノイズの抑え込み」を担当する。設計フロー的には主回路を決めてから、実機デバッグ段階でこちらを使うのが自然だ。

EMCフィルタや一般的なRC回路の設計には /emc-filter-calc/rc-filter-sim がある。emc-filter-calcは伝導ノイズのコモンモード・ノーマルモードフィルタを扱い、rc-filter-simは信号ラインのローパス設計が中心で、どちらも目的が違うので併用になる。放熱側が心配な設計では /ldo-thermal-calc で抵抗の許容損失や基板熱抵抗も併せて確認するとよい。


豆知識:なぜ「臨界ダンピング」を狙うのか

RLC直列回路の二次系微分方程式を解くと、応答は減衰係数 ξ(ゼータ)で3つのモードに分かれる。ξ<1 はアンダーダンプで振動が残り、ξ>1 はオーバーダンプで応答が鈍くなり、ξ=1 が臨界ダンピングで「振動せずに最短で収束する」ポイントになる。スナバ設計で狙うのはこの境界付近だ。

Severns法で R = Z0 = √(L/C_p) を選ぶとき、実は厳密な ξ=1 ではなく ξ≈0.5 付近の「ほどよく暴れを潰す」値になる。厳密な臨界ダンピングを狙うと抵抗値が2倍になってしまい、抵抗損失が跳ね上がるからだ。実用上はオーバーシュートを数十%に抑えられれば十分なので、損失と減衰のバランス点として Z0 が経験的に選ばれている。

共振回路の品質係数 Q との関係もおもしろい。無負荷LC共振の Q は Q = (1/R)·√(L/C) で、スナバを入れると ξ と Q が ξ = 1/(2Q) で結ばれる。R=Z0 を入れると Q=0.5、つまり ξ=1 に一致するため「R=Z0 は臨界ダンピング」とよく説明される。ただしこれはCスナバが十分大きくC_p側の影響を無視できるときの近似で、C_snub が小さいと実効Qはもう少し高くなる。N=2〜4 と倍率を選べるようにしてあるのは、この実効Qを調整するためのノブだと考えてよい。

なお、臨界ダンピングの概念は電気回路固有の話ではなく、自動車のショックアブソーバーやドアクローザーなど機械系にもそのまま当てはまる。「振動を最短で止める」という普遍的な最適点で、電気・機械を横断する設計思想だ。もっと深掘りしたい人は Wikipedia 減衰振動 を読むと直感が深まる。


Tips:測定とレイアウトと部品選定

  • オシロのGNDはスプリング接触で:リンギング周波数を測るときに付属のワニ口GNDリードを使うと、そのリード自体が数十nHのインダクタになって波形が歪む。プローブ先端のグラウンドスプリング(バネ状のショートグラウンド)をMOSFETソース近くに直接当てると、10MHz以上の減衰振動まで正しく読める。f_ring を間違えるとC_pが二乗で効いて外れるので、測定環境は毎回見直したい。
  • 基板レイアウトでL値は激変する:ドレイン〜スナバ〜ソース間のループ面積を小さくするのが鉄則だ。ベタGNDにビアで落とす、スナバは極力MOSFETの足元に置く、ループが1cm²変わると数十nH変動する、と思っておくと外れにくい。このツールに入れる寄生L値は「実装後の実測」をフィードバックして更新するのが良い。
  • Cスナバはセラミックで、でもC0GかX7R選別:スナバ容量は高周波でESL・ESRが低いセラミックが基本。ただしX7Rは電圧ディレーティングで容量が半分以下に落ちるので、定格電圧はスイッチング電圧の2〜3倍を選ぶ。精度を出したい場合はC0G(NP0)が理想だが、容量密度が低いので並列にする場合もある。
  • Rスナバはパルス耐量も見る:平均損失が1W以下でも、スイッチング瞬間のピーク電流は V/R で数Aに達する。連続定格だけでなく、メーカーのパルス許容曲線も確認しよう。セメント抵抗はパルス耐量が高く、金属皮膜はDC平均性能に強い、という傾向がある。
  • 試作ではソケット式にしておく:R・Cを変更するたびに半田付けし直すのは時間の無駄。2ピンのコンタクトソケットを載せておけば、3種類くらいの組み合わせを5分で試せる。本ツールで候補値を決めてから、実機で±1E系列ずつ振って最適化するのが定番フローだ。

FAQ

RCスナバとRCDスナバの使い分けは?

RCスナバは「リンギング(高周波振動)の抑制」を目的とし、Cは数百pF〜数nF、Rは数十Ωが中心だ。一方RCDスナバはダイオードを加えてクランプ回路を構成し、「過電圧ピークそのもののエネルギーを吸収」する用途で、数nF〜数十nFと容量が大きい。フライバックの一次側リーケージのように数十ジュール級のエネルギーを吸わせたい場合はRCDだし、ハーフブリッジのドレイン波形にだけ高周波リンギングが乗っている場合はRCで十分だ。このツールは後者のRC型を対象にしている。

f_ring が測れない環境でも使える?

データシートの出力容量(MOSFETならCoss、ダイオードならC_d)と基板実装から推定した寄生L(1〜2cmのループで30〜50nH目安)を入れれば、directCモードで概算が出る。絶対値の精度はオシロ実測に劣るが、部品選定の目星をつける段階なら十分だ。実機ができたらf_ringモードに切り替えて値を更新するのが理想の流れ。

抵抗の定格ワット数はどう選ぶ?

本ツールの recommendedWatt は平均損失の約2倍をE6系列で切り上げた値で、熱ディレーティング込みの目安だ。実運用では周囲温度・筐体通気・基板熱抵抗で1.5〜3倍の幅が出るので、不安な場合は次のE6系列を選ぶ。5W超の損失になる設計はそもそもRC単独では不利で、RCDスナバやアクティブクランプに切り替える判断をしたほうがよい。放熱の詳細は /ldo-thermal-calc も参考にしてほしい。

複数のスナバを並列にしてもいい?

高パルス電流のときはRを並列にして負担分散する手法が有効だ。4×100Ωを並列にすれば25Ωになり、1本あたりの損失も1/4になる。ただしCは並列化すると合計容量が増えてしまい損失式 P=C·V²·fsw にそのまま効くので、Cの並列は「ESR/ESLを下げる」目的のときだけにとどめ、容量値は本ツール結果をそのまま狙うようにする。

SiC MOSFETやGaNでも同じ式で設計できる?

Severns法の前提である「寄生LC共振を臨界ダンピングで抑える」は素子に依存しない普遍則なので、SiCでもGaNでもそのまま使える。ただしスイッチング速度が速いぶんf_ringが30〜100MHzに上がり、基板寄生Lを正しく測れるかが勝負になる。SiCは V²·fsw が大きいので損失も跳ね上がり、RCスナバだけでは非現実的な定格になることも多い。その場合はフェライトビーズやゲート抵抗調整との併用を検討する。


まとめ

RCスナバ設計は「寄生LCを測る→Z0を出す→Cを決める→損失を確かめる」という定型フローで、慣れれば5分で終わる。このツールはその5分をさらに30秒に縮めるために作った。スイッチング電源全体の部品選定は /smps-component-calc、伝導ノイズ対策は /emc-filter-calc、抵抗の放熱確認は /ldo-thermal-calc と併用すると、一次設計から実装後のデバッグまでを一気通貫でカバーできる。オシロの波形が暴れて困ったら、まずここに戻ってきてほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。新人時代にフライバックの一次側MOSFETをリンギングで焼いた経験から、日本語で損失計算まで見えるスナバ電卓が欲しくて作った。

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