EMC試験で「不合格」の3文字を見たことがあるだろうか
製品をEMC試験所に持ち込んで、いざ測定。スペアナの波形がリミットラインを突き抜けた瞬間の、あの冷や汗。「フィルタを追加すれば通るはず」と言われても、どのフィルタをどう選べばいいのか分からず、カタログをめくっては首をかしげる——そんな経験をしたエンジニアは少なくないだろう。
EMCフィルタの設計には、ノイズ周波数・必要減衰量・回路のインピーダンスという3つの要素が絡む。ところが多くの場合、フィルタメーカーのカタログ値を「だいたい合ってそう」で選んでしまい、理論的な裏付けがないまま試験に臨む。結果、再試験で時間とコストを浪費するケースが後を絶たない。
このツールは、ノイズ周波数と必要減衰量を入れるだけで、LCフィルタの部品値をE系列の標準値で算出し、減衰特性グラフまで一発表示する。設計根拠を「数字」で持てるようにするためのツールだ。
カタログ頼りのフィルタ選定から抜け出したかった
EMCフィルタの選定作業をやったことがある人なら分かると思うが、実態はかなり属人的だ。先輩が過去に使った型番をそのまま流用する、メーカーの営業に「これで大丈夫」と言われたものを採用する——こんな進め方が現場では珍しくない。
問題は、なぜそのフィルタで十分なのかを説明できないことだ。製品の仕様が変わってノイズレベルが上がったとき、「前と同じフィルタ」では通らなくなる。そのたびに試験所を予約し直し、フィルタを差し替えて再測定。1回の再試験で数十万円が飛ぶ。
既存のツールも調べた。LTspiceでシミュレーションすれば正確だが、回路図を組むのに時間がかかる。MATLABのFilter Designer は高機能だけどライセンス料が年間数十万円。Excelで計算シートを自作している人もいるが、フィルタ構成ごとに数式が違うので管理が面倒になる。
欲しかったのは、「ノイズ周波数150kHzで40dB落としたい、ソース50Ω」と入れたら、すぐに「L=530μH、C=212nF、E24丸めだとこの値」と返してくれるシンプルなツール。しかもL型・π型・T型を切り替えて比較でき、減衰特性のグラフで視覚的に確認できるもの。なければ自分で作るしかなかった。
EMCフィルタ 設計の基礎知識
ノイズの2つのモード——ノーマルモードとコモンモード
電子機器から出るノイズには大きく2種類ある。
ノーマルモード(NM)ノイズは、電源ラインの往路と復路で逆方向に流れるノイズ。スイッチング電源のリプル電流が典型例で、ライン間の電位差として観測される。
コモンモード(CM)ノイズは、往路と復路で同じ方向に流れるノイズ。電源トランスの浮遊容量やケーブルのアンテナ効果で大地に漏れ出す成分で、放射ノイズの主因になることが多い。
日常的なたとえで言えば、NMノイズは水道管の中で水が前後に振動するような現象。CMノイズは2本の水道管が同時に揺れて、そのまま地面に振動が伝わるイメージだ。対策するフィルタの構造がまるで違うので、まずどちらのモードが問題なのかを切り分けることが重要になる。
LCフィルタ カットオフ周波数とは
LCフィルタは、インダクタ(L)とコンデンサ(C)を組み合わせたローパスフィルタだ。低い周波数の信号は通し、高い周波数のノイズを遮断する。その境目が**カットオフ周波数(fc)**で、ゲインが-3dBになる点として定義される。
カットオフ周波数より高い帯域では、フィルタの次数に応じて減衰が急峻になる。1次フィルタ(L型)なら-20dB/decade(周波数が10倍になるごとに20dB減衰)、2次フィルタ(π型・T型)なら-40dB/decadeだ。
つまり、ノイズ周波数が150kHzで40dBの減衰が欲しい場合:
L型(1次): fc = 150kHz / 10^(40/20) = 150kHz / 100 = 1.5kHz
π型(2次): fc = 150kHz / 10^(40/40) = 150kHz / 10 = 15kHz
L型だとカットオフ周波数を1.5kHzまで下げる必要があり、部品値が巨大になる。π型なら15kHzで済むので、現実的な部品サイズに収まる。この違いが、フィルタ構成選択の判断基準になる。
フィルタ構成の種類——L型・π型・T型
L型(1次) はインダクタ1個+コンデンサ1個の最もシンプルな構成。部品点数が少なくコストは低いが、減衰の傾きが-20dB/decadeと緩い。軽微なノイズ対策や、スペースの限られた基板に向く。
π型(2次) はコンデンサ-インダクタ-コンデンサの構成。-40dB/decadeの急峻な減衰を得られる。入力側と出力側の両方にコンデンサがあるため、ソースと負荷のインピーダンスが異なる場合にも柔軟に対応できる。EMCフィルタの定番構成。
T型(2次) はインダクタ-コンデンサ-インダクタの構成。π型と同じく2次だが、インダクタが2個入るためコモンモードチョークを2段にしたい場合に使われる。高インピーダンスの負荷に適している。
E系列 標準値への丸め
計算で求まるLやCの値は、たとえば「530.5μH」のような中途半端な数値になる。実際の部品はE系列と呼ばれる標準値しか用意されていない。E12は1ディケードあたり12段階、E24は24段階の刻みだ。
本ツールではE系列の最寄り値(切り上げ方向)に丸める。切り上げにしている理由は、フィルタ部品値を大きくする方向に丸めれば、カットオフ周波数が下がり、減衰量は設計値以上を確保できるからだ。逆に切り下げると減衰不足になるリスクがある。
EMCフィルタ設計で数値を間違えると何が起きるか
CISPR/VCCIの規格不適合と市場投入の遅延
EMCに関する国際規格CISPR 32(情報技術機器の妨害波規格)やCISPR 11(ISM機器)では、伝導エミッション(150kHz〜30MHz)と放射エミッション(30MHz〜1GHz)のリミット値が定められている。日本ではVCCIが自主規制として同等の基準を運用しており、クラスBの適合マークがないと量販店では売れない製品も多い。
フィルタの減衰量が5dB足りないだけで規格不適合になることは珍しくない。EMC試験は1回あたり30〜100万円、試験所の予約待ちは数週間。不合格になるたびにこのサイクルを繰り返すと、製品のリリースが数ヶ月遅れることもある。
フィルタの選定ミスが招く実害
よくある失敗パターンを挙げてみる:
- 過小設計: 減衰量が足りず試験不合格。追加フィルタを基板に載せるスペースがなく、基板改版からやり直し
- 過大設計: 必要以上に大きなインダクタを選んでしまい、DCRによる電圧降下が許容値を超える。部品コストも跳ね上がる
- モード違い: NMノイズが問題なのにCMチョークだけ入れてしまう。ノイズ経路が違うので効果ゼロ
特に「モード違い」は致命的だ。NMノイズとCMノイズでは対策部品の構造が根本的に異なるため、間違えるとフィルタを入れた意味がまったくない。NMノイズにはXコンデンサ+ノーマルモードチョーク、CMノイズにはYコンデンサ+コモンモードチョークが基本構成だ。
EMCフィルタ設計ツールが力を発揮する場面
スイッチング電源の伝導ノイズ対策
DC-DCコンバータやACアダプタの設計で、スイッチング周波数の基本波や高調波を落としたいケース。150kHz〜数MHzの帯域で必要な減衰量を指定し、部品値を即座に算出できる。試作前に理論値を把握しておくことで、初回試験での合格率が上がる。
モータードライバのEMI対策
インバータやサーボドライバでは、PWMキャリア周波数に起因するノイズが問題になる。キャリア周波数が10kHz〜100kHzの場合、その高調波が150kHz以上の伝導エミッション帯域に入ってくる。ソースインピーダンスと負荷インピーダンスが異なるケースが多く、非対称な設計が必要になることもある。
LED照明・充電器の規格適合
小型のAC-DC電源を使う製品では、基板面積の制約が厳しい。L型かπ型かでフィルタの部品点数が変わるため、サイズとコストのトレードオフをこのツールで比較検討できる。
試作後の追加対策検討
試験で5〜10dB超過した場合、既存フィルタのパラメータを入力し、追加で何dB必要かを逆算。フィルタ構成の変更やインダクタンス値の見直しをシミュレーションしてから部品を手配できる。
EMCフィルタ設計ツールの使い方——3ステップ
ステップ1: フィルタ設定を選ぶ
ノイズモード(ノーマルモード/コモンモード)とフィルタ構成(L型/π型/T型)を選択する。NMノイズなら「ノーマルモード」、CMノイズなら「コモンモード」。迷ったらπ型がバランスの良い選択だ。
ステップ2: 設計パラメータを入力する
ノイズ周波数、必要減衰量(dB)、ソースインピーダンス、負荷インピーダンスを入力する。スイッチング電源の伝導エミッション測定ではLISN(50Ω)が一般的。コモンモードの場合はLISN 100Ωになる。
ステップ3: 結果を確認する
カットオフ周波数、部品値(計算値とE系列丸め値)、実際の減衰量が表示される。減衰特性グラフでターゲット周波数での減衰を視覚的に確認。「結果をコピー」ボタンで設計メモに貼り付けられる。
EMCフィルタ設計の具体的な使用例——6ケースで検証
ケース1: スイッチング電源 150kHz 40dB — π型フィルタ
典型的なスイッチング電源のEMC対策。基本波150kHzで40dBの減衰が必要な場面だ。
- 入力: NM、π型、150kHz、40dB、Zs=50Ω、Zl=50Ω、E24
- 結果: fc = 15,000 Hz、L = 5.305×10⁻⁴ H(530.5μH)、Cin = Cout = 2.122×10⁻⁷ F(212.2nF)
- 解釈: π型2次フィルタなので、カットオフ15kHzで150kHz(10倍の周波数)に対して40dBの減衰を実現。530μHクラスのインダクタと220nF(E24丸め)のコンデンサで構成できる。実用的な部品サイズに収まる。
ケース2: 放射ノイズ帯域 1MHz 20dB — L型フィルタ
軽微なノイズ超過で、部品点数を最小限にしたいケース。
- 入力: NM、L型、1MHz、20dB、Zs=50Ω、Zl=50Ω、E12
- 結果: fc = 100,000 Hz、L = 7.958×10⁻⁵ H(79.58μH)、C = 3.183×10⁻⁸ F(31.83nF)
- 解釈: L型1次フィルタでfc=100kHz。1MHz(10倍)で20dBの減衰を確保。82μH(E12丸め)と33nF(E12丸め)の2部品で済む。基板面積が限られるLED照明基板などに向いている。
ケース3: 高速スイッチング 500kHz 60dB — T型フィルタ
GaNやSiCを使った高効率電源で、スイッチング周波数が高く減衰量も大きいケース。
- 入力: NM、T型、500kHz、60dB、Zs=50Ω、Zl=50Ω、E24
- 結果: fc = 15,811 Hz、Lin = Lout = 5.033×10⁻⁴ H(503.3μH)、C = 2.013×10⁻⁷ F(201.3nF)
- 解釈: 60dBという大きな減衰量が必要なため、2次のT型を選択。カットオフ約15.8kHzで500kHz(約31.6倍)に対して60dBを確保。入出力両側にインダクタを配置するT型は、ノイズの双方向伝搬を抑える効果がある。
ケース4: コモンモード対策 150kHz 40dB — π型フィルタ(CM)
コモンモードノイズが規格を超過しているケース。LISNのCMインピーダンスは100Ω。
- 入力: CM、π型、150kHz、40dB、Zs=100Ω、Zl=100Ω、E24
- 結果: fc = 15,000 Hz、L = 1.061×10⁻³ H(1.061mH)、Cin = Cout = 1.061×10⁻⁷ F(106.1nF)
- 解釈: CMの場合、LISNインピーダンスが100Ωになるためインダクタンスがケース1の約2倍になる。1mH級のコモンモードチョークが必要だ。Yコンデンサは安全規格(IEC 60384-14)の制約があり、通常4.7nF以下に制限されるため、この計算値(106nF)は実際にはYコンデンサだけでは実現できない点に注意。ラインバイパスコンデンサとの組み合わせが必要になる。
ケース5: 高周波帯 10MHz 40dB — L型フィルタ
10MHz帯のノイズを40dB落としたいが、1次フィルタで対応する場合。
- 入力: NM、L型、10MHz、40dB、Zs=50Ω、Zl=50Ω、E24
- 結果: fc = 100,000 Hz、L = 7.958×10⁻⁵ H(79.58μH)、C = 3.183×10⁻⁸ F(31.83nF)
- 解釈: 10MHzとカットオフ100kHzの差が100倍(2ディケード)あるため、1次フィルタでも-20dB/dec × 2 = 40dBを確保。ただし10MHz帯域ではインダクタの自己共振周波数(SRF)に注意が必要だ。SRFが10MHz以下のインダクタを使うと、共振を超えた帯域でフィルタが機能しなくなる。
ケース6: 非対称インピーダンス 1MHz 60dB — π型フィルタ
ソース側50Ω(LISN)、負荷側100Ω(実機のインピーダンス)と異なる場合。
- 入力: NM、π型、1MHz、60dB、Zs=50Ω、Zl=100Ω、E24
- 結果: fc = 31,623 Hz、L = 3.558×10⁻⁴ H(355.8μH)、Cin = 1.007×10⁻⁷ F(100.7nF)、Cout = 5.033×10⁻⁸ F(50.33nF)
- 解釈: ソースと負荷のインピーダンスが異なるため、入力側と出力側のコンデンサ値が変わる。π型はこのような非対称条件に柔軟に対応できるのが強みだ。Cinが約100nF、Coutが約50nFと2倍の差がつく。実機のインピーダンスが周波数によって変動する場合は、最悪条件で設計するのが安全だ。
EMCフィルタ設計の仕組み——カットオフ周波数の逆算アルゴリズム
候補手法の比較: 解析的アプローチ vs 数値シミュレーション
EMCフィルタの設計手法には大きく2つのアプローチがある。
解析的アプローチ(本ツール採用): バターワース特性を仮定し、必要減衰量からカットオフ周波数を逆算する。閉じた数式で部品値が求まるため、計算が一瞬で終わる。理想LCフィルタの範囲では正確だが、部品の寄生要素(ESR・ESL・自己共振)は考慮しない。
数値シミュレーション(LTspice等): 実際の部品モデル(SPICEモデル)を使い、寄生要素込みの周波数特性を計算する。高精度だが、回路図の構築と部品モデルの入手に時間がかかる。
本ツールでは、設計の初期段階で「当たりをつける」目的に特化し、解析的アプローチを採用した。部品値の目安が分かれば、その後LTspiceで詳細検証するときのスタート地点が明確になる。
計算フローの詳細
全体の計算は3段階で進む。
第1段階: カットオフ周波数の算出
フィルタの次数(n)に応じてカットオフ周波数を逆算する。バターワースフィルタの減衰量の式 A = 20n × log10(fN/fc) を変形すると:
fc = fN / 10^(A / (20 × n))
L型(n=1): fc = fN / 10^(A/20)
π型・T型(n=2): fc = fN / 10^(A/40)
第2段階: 部品値の算出
カットオフ周波数とインピーダンスから、LとCを算出する。構成によって数式が変わる:
【L型(1次)】
L = Zs / (2π × fc)
C = 1 / (2π × fc × Zl)
【π型(2次)】
L = √(Zs × Zl) / (2π × fc)
Cin = 1 / (2π × fc × Zs)
Cout = 1 / (2π × fc × Zl)
【T型(2次)】
Lin = Zs / (2π × fc)
Lout = Zl / (2π × fc)
C = 1 / (2π × fc × √(Zs × Zl))
π型でZs=Zl=50Ω、fc=15kHzの場合:
- L = √(50×50) / (2π×15000) = 50 / 94248 = 5.305×10⁻⁴ H ≈ 530μH
- C = 1 / (2π×15000×50) = 1 / 4712389 = 2.122×10⁻⁷ F ≈ 212nF
第3段階: E系列への丸め
計算値をE12またはE24の標準値に丸める。アルゴリズムは以下の通り:
- 計算値を m × 10^k の形に正規化する(1.0 ≤ m < 10.0)
- E系列の値リストから、m 以上で最も近い値を選ぶ(切り上げ)
- 見つからなければ次のディケードの最小値に繰り上げ
- 選んだ値を × 10^k して元のスケールに戻す
切り上げ方向に丸めることで、実際のカットオフ周波数は設計値より低くなり、減衰量は設計値以上を確保できる。安全側に倒す設計思想だ。
参考: バターワースフィルタ - Wikipedia、E系列 - Wikipedia
MATLAB・LTspiceとはどう違うのか — このツールの立ち位置
MATLAB / Simulink は、フィルタ設計から回路シミュレーション、制御系との統合解析まで何でもできる万能ツール。ただし、ライセンス費用が年間数十万円かかるし、フィルタの部品値を1つ出すだけでもスクリプトを書く必要がある。「150kHzで40dB落としたいんだけど、LとCいくつにすればいい?」という問いに即答してくれるわけではない。
LTspice は無料で使える回路シミュレータで、部品のESRやESL、基板寄生容量まで含めた精密なシミュレーションが可能。ただし、部品値は自分で決めてからシミュレーションにかける流れなので、「そもそも何μHのインダクタを選べばいいか」の出発点がないと使いにくい。
このツールは、まさにその出発点を提供する立ち位置にある。ノイズ周波数と必要減衰量を入れれば、L値・C値がE系列丸めまで含めて即座に出る。ここで得た部品値をLTspiceに持ち込んで、寄生成分を加味した精密検証をする — という二段構えのワークフローが現実的だ。ブラウザだけで動くので、出先で「概算でいいから部品値を確認したい」という場面にも対応できる。
フェライトコアとYコンデンサ — EMCフィルタの豆知識
フェライトコアの周波数特性は「山」になる
EMCフィルタに使うインダクタのコア材には、主にフェライトが使われる。ここで注意したいのが、フェライトのインピーダンス特性は周波数に対して単調増加ではなく、ある周波数にピークを持つ「山型」になるという点だ。
たとえば、一般的なMnZn系フェライトは数百kHz〜数MHzにピークがあり、NiZn系は数十MHz〜数百MHzにピークがある。スイッチング電源の基本波(150kHz付近)を抑えたいならMnZn系、放射ノイズ帯域(30MHz以上)を狙うならNiZn系という使い分けになる。カタログのインピーダンス-周波数グラフを確認せずにフェライトを選ぶと、狙った帯域でまったく効かないということが起きる。
参考: TDK - フェライトの基礎知識
Yコンデンサには安全規格がある
コモンモードフィルタでライン-GND間に入れるコンデンサは「Yコンデンサ」と呼ばれ、安全規格(IEC 60384-14)でクラス分けされている。
- Y1: 定格電圧500VAC、ライン-GND間(基礎絶縁を跨ぐ箇所)
- Y2: 定格電圧300VAC、ライン-GND間(一般用途)
Yコンデンサが短絡故障すると、感電事故に直結するため容量に上限がある。一般的にY2で4.7nF(漏れ電流約0.5mA@50Hz)が実用上の上限とされている。「CMノイズを落としたいからYコンを大きくすればいい」と安易に考えると、漏れ電流が規格値(通常0.5〜1mA)を超えてしまう。
参考: IEC 60384-14 - 安全規格適合コンデンサ
E系列の名前の由来
E12やE24の「E」はEIA(Electronic Industries Alliance、米国電子工業会)に由来する。E12は1桁あたり12個の値を持ち、各値の比率は12乗根の10(約1.21倍)の等比数列になっている。E24なら24乗根の10(約1.10倍)。E系列に丸めることで、実際に入手可能な部品で設計を組める。このツールがE系列丸めを標準搭載しているのは、計算値をそのまま発注できる形にするためだ。
EMCフィルタ設計で押さえたい5つのTips
-
自己共振周波数(SRF)を確認する — コンデンサもインダクタもSRFを超えると特性が反転する。10μFの積層セラミックコンデンサのSRFは数MHz程度なので、30MHz帯のノイズには効かない。部品データシートのインピーダンス特性を必ず確認しよう。
-
GNDパターンは最短・最太で — フィルタの入出力間でGNDが共通インピーダンスを持つと、せっかくの減衰量が台無しになる。フィルタのGNDはベタパターンで、ビア多数で裏面GNDプレーンに落とすのが鉄則。
-
フィルタの入力側と出力側を物理的に離す — 基板上でフィルタの入力配線と出力配線が近接すると、磁界・電界結合でノイズが回り込む。入出力は基板の反対側から引き出すレイアウトが理想的だ。
-
コモンモードチョークの飽和に注意 — 大電流が流れるラインにCMチョークを入れる場合、DCバイアスによるインダクタンスの低下(飽和)を考慮する。定格電流の80%程度を上限として選定すると安全だ。
-
E系列は切り上げ方向で選ぶ — このツールのデフォルト動作でもあるが、LもCも切り上げ方向のE系列値を選ぶと、カットオフ周波数が計算値より低くなり、減衰量は設計値以上になる。安全側に倒れるので実務上も合理的な選択だ。
よくある質問 — EMCフィルタ設計計算ツール
ノーマルモードとコモンモード、どちらを選べばいい?
まずノイズの伝搬経路を特定する必要がある。スイッチング電源のライン間に乗るノイズはノーマルモード(NM)、ライン-GND間に乗るノイズはコモンモード(CM)だ。EMI測定器でNM/CMを分離測定できるセパレータを使うのが確実だが、大まかには「スイッチングリプルはNM、浮遊容量経由の漏れはCM」と覚えておけばよい。実際の製品では両方が混在しているため、NMフィルタとCMフィルタを組み合わせるのが一般的だ。
π型とT型はどう使い分ける?
π型は負荷側インピーダンスが高い場合(電源出力側など)に適しており、T型はソース側インピーダンスが高い場合に適している。迷ったらπ型を選んでおけば多くのケースでうまくいく。π型はコンデンサが2つ必要だがインダクタは1つで済み、高周波のコンデンサは安価で小型なので、コスト面でも有利になることが多い。
計算結果の部品値が現実的でない(インダクタンスが大きすぎる等)場合はどうする?
カットオフ周波数が低すぎる、つまり必要減衰量に対してノイズ周波数が低い場合に起きやすい。対処法は3つある。(1) フィルタ構成をL型からπ型/T型に変更する(2次フィルタは-40dB/decのロールオフなので、同じ減衰量でもカットオフ周波数を高くできる)。(2) 必要減衰量を見直す — 本当にそこまでの減衰が必要かEMC規格の限度値と実測値の差分を再確認する。(3) 多段フィルタを検討する — 1段で60dBを狙うより、2段で30dBずつのほうが部品サイズが現実的になる場合がある。
入力したインピーダンス値はどこに保存される?
すべての計算はブラウザ上で完結しており、入力値や計算結果がサーバーに送信されることはない。ページを閉じればデータは消える。社内の設計パラメータを入力しても外部に漏洩するリスクはない。
理想LCフィルタの計算結果と実測が合わないのはなぜ?
このツールは理想素子(ESR=0、ESL=0、寄生容量なし)を前提にしている。実際の部品には寄生成分があり、特に自己共振周波数(SRF)を超えるとコンデンサはインダクタのように、インダクタはコンデンサのように振る舞う。さらに基板のパターンインダクタンスや部品間の結合も影響する。このツールの結果は「理論上の出発点」であり、実測との差が大きい場合はLTspice等で寄生成分を含めたシミュレーションを行い、最終的にはEMC試験で実測確認するのが正しい設計フローだ。
まとめ — ノイズ対策の第一歩を素早く
EMCフィルタの設計は、ノイズ周波数の特定から始まり、必要減衰量の算出、フィルタ構成の選択、部品値の決定、そしてE系列への丸めと実装検証へと続く。このツールは、その中核となる「部品値の決定」を数秒で完了させる。
理想LCフィルタの簡易計算ではあるが、π型/T型の2次フィルタまで対応しており、実務の出発点としては十分に使える。ここで得た部品値を元に、LTspiceでの精密シミュレーションや実機EMC試験に進んでほしい。
電気設備系の他のツールも併せて活用してみて。電線管のサイズ選定には「電線管サイズ判定シミュレーター」が便利だ。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。