杭基礎支持力計算

杭種・杭径・根入れ長・N値から先端支持力と周面摩擦力を算出し、許容支持力を判定

杭種・杭径・根入れ長と地盤N値プロファイルから、先端支持力・周面摩擦力・許容支持力(長期/短期)を算出する。建築基礎構造設計指針準拠。

杭仕様

JIS A 5525準拠 / 砂摩擦fs=2 / 粘土fc=0.8

鋼管杭:318.5〜1016mm、場所打ち:800〜2000mm

地盤条件(N値プロファイル)

上層から順に、層厚・N値・土質を入力

1
2

断面図

N=10 (粘性土)0mN=50 (砂質土)5mφ400mm / L=10mRp=1,885kN314kN628kN

支持力計算結果

先端N値50
良好な支持層

先端支持力 Rp

1,885 kN

周面摩擦力 Rf

942 kN

先端割合

67%

極限支持力 Ru

2,827 kN

許容支持力(長期)

942 kN

Ru ÷ 3

許容支持力(短期)

1,414 kN

Ru ÷ 2

層別摩擦力内訳

1層(粘性土 N=10314 kN
2層(砂質土 N=50628 kN

本ツールは建築基礎構造設計指針に基づく概算計算です。実際の設計では地盤調査報告書に基づく詳細検討が必要です。負の摩擦力・液状化・群杭効果は未考慮です。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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この地盤で、建物は沈まないか

「N値50の砂礫層まで杭を届ければ大丈夫」――構造設計の現場ではよく聞くフレーズだ。しかし実際には、杭径・杭種・地盤の層構成によって許容支持力は大きく変わる。同じN値50でも、打込み鋼管杭と場所打ちRC杭では先端係数αが2倍違い、計算結果はまるで別物になる。

杭基礎支持力計算は、杭種・杭径・根入れ長・各層のN値を入力するだけで、先端支持力Rp・周面摩擦力Rf・極限支持力Ru・許容支持力Ra(長期/短期)をリアルタイム算出するツール。建築基準法施行令第38条と日本建築学会「建築基礎構造設計指針」に準拠した計算式で、概算段階の設計判断をサポートする。

なぜ杭支持力の概算ツールを作ったのか

杭基礎の支持力計算は、構造設計の根幹でありながら「手計算が地味に面倒」な作業の代表格だ。

ボーリング柱状図を見ながら、各層のN値を拾い、土質ごとに摩擦力度の式を切り替え、杭周長を掛けて積算する。先端支持力は先端付近のN値を読み取って断面積に掛ける。ひとつの杭種で計算するだけなら手書きでもいいが、「打込みと場所打ちで比較したい」「杭径を400から500に変えたらどうなる?」となった途端、同じ計算を何度も繰り返す羽目になる。

有償の構造計算ソフトにはもちろん杭支持力の機能がある。しかし概算段階――見積もりの根拠を出したい、杭種の候補を絞りたい、といった場面で毎回ソフトを立ち上げるのは大げさだ。Excelで自作シートを組んでいる人も多いが、杭種ごとの係数を間違えていたり、粘性土と砂質土の式が逆だったりするミスを何度も見てきた。

このツールは「ボーリングデータを見ながら、ブラウザ上で即座に杭の概算支持力を出す」という一点に絞って作った。5種類の杭種プリセットを切り替えるだけで先端係数αや摩擦係数fsが自動で変わり、地盤層を追加・編集すれば結果がリアルタイムに更新される。概算段階での「杭種比較」と「パラメータ感度の把握」が、ソフトを買わなくてもブラウザだけでできる。

杭基礎の基礎知識 ―― 支持力とは何か

杭基礎とは

建築物の荷重を地盤に伝える方法は大きく2つある。直接基礎(フーチング基礎やべた基礎)は浅い地盤で荷重を支え、杭基礎は深い支持層まで杭を打ち込んで荷重を伝達する。地表付近の地盤が軟弱な場合、直接基礎では沈下や不同沈下が発生するため、杭基礎が選択される。

日本は沖積平野が多く、東京・大阪・名古屋といった主要都市の地盤は軟弱な粘性土や緩い砂が数十メートル堆積している。このため中規模以上の建築物では杭基礎がほぼ必須であり、杭の支持力計算は構造設計の出発点になる。

支持杭と摩擦杭

杭の荷重伝達メカニズムは2つの成分に分かれる。

  • 先端支持力(Rp): 杭の先端が硬い支持層(N値50以上の砂礫層など)を押す力。杭先端の断面積と支持層のN値、杭種ごとの先端係数αで決まる
  • 周面摩擦力(Rf): 杭の側面と周囲の地盤の間に発生する摩擦力。各地盤層のN値・土質・杭の周長で決まる

先端支持力が卓越する杭を支持杭、周面摩擦力が卓越する杭を摩擦杭と呼ぶ。実際にはほとんどの杭で両方が作用しており、極限支持力は Ru = Rp + Rf の合計値で評価する。

N値と支持力の関係

N値(標準貫入試験値)は、63.5kgのハンマーを76cmの高さから自由落下させ、サンプラーを30cm貫入させるのに必要な打撃回数だ。地盤の硬さを定量的に示す最も基本的な指標で、ボーリング柱状図に必ず記載されている。

杭の支持力計算では、N値を以下のように使う。

先端支持力:  Rp = α × N_tip × A
  α    : 先端係数(杭種による。打込み杭300, 場所打ち杭150)
  N_tip: 杭先端付近のN値
  A    : 杭の断面積 [m²]

周面摩擦力:  Rf = Σ(fi × Li × U)
  砂質土: fi = N × fs  (fs: 杭種別摩擦係数)
  粘性土: fi = (N × 12.5) / 2 × fc  (fc: 通常0.8)
  Li   : 各層の杭接触長 [m]
  U    : 杭の周長 = π × d [m]

N値が大きいほど硬い地盤であり、先端支持力も周面摩擦力も大きくなる。ただし粘性土と砂質土では摩擦力度の算出式が異なるため、土質の区分を正しく設定することが計算精度に直結する。

許容支持力と安全率

極限支持力Ruは「杭が破壊に至る限界の力」であり、設計ではこれに安全率を適用して許容支持力Raを求める。建築基準法施行令第38条に基づき、長期荷重(常時作用する自重+積載荷重)には安全率3.0、短期荷重(地震・風を含む)には安全率2.0を適用するのが標準だ。

長期許容支持力: Ra_long  = Ru / 3.0
短期許容支持力: Ra_short = Ru / 2.0

なぜ杭の支持力計算が設計の生命線なのか

支持力不足が招く実害

杭の支持力が設計荷重を下回ると、建物は沈下する。均等に沈むだけなら機能上は問題ないケースもあるが、実際には不同沈下――建物の一部だけが沈む現象――が発生し、構造体にひび割れや傾斜が生じる。

2015年に発覚した横浜市のマンション傾斜問題では、一部の杭が支持層に到達しておらず不同沈下が発生した。杭の施工データ改ざんが原因だったが、そもそも「支持層への到達確認」「杭長の設計根拠」が適切に管理されていれば防げた事故だ。補修・建替え費用は数十億円規模にのぼった。

建築基準法が求める安全率

建築基準法施行令第38条は、基礎を「建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない」と定めている。

長期荷重に対する安全率3.0は「極限支持力の1/3までしか使わない」ことを意味する。これは一見保守的だが、地盤調査のばらつき・施工精度・経年変化を考慮すると妥当な値とされている。安全率を甘く見積もった結果、竣工後数年で沈下が顕在化した事例は国内外に多数ある。

杭種選定が支持力に与える影響

同じ杭径・同じ地盤でも、杭種によって支持力は大きく変わる。場所打ちRC杭は先端係数α=150だが、打込み鋼管杭はα=300と2倍の差がある。一方で場所打ち杭は砂質土の摩擦係数fsが3.3と大きく、長い摩擦区間がある地盤では有利になる。

概算段階で複数の杭種を比較し、地盤条件に最適な杭種を選定することが、安全性とコストのバランスを取る出発点だ。

杭基礎支持力計算が活躍する場面

概算設計・予備検討: ボーリングデータが上がってきた段階で、杭種の候補と概算杭長を素早く把握。構造設計の初動を加速する。

杭種の比較検討: 打込み鋼管杭・場所打ちRC杭・PHC杭など、同一条件で瞬時に支持力を比較できる。コスト・工期・施工性と合わせた意思決定材料になる。

見積もり・提案書の根拠: ゼネコンの施工管理者が概算コストを算出する際、杭本数の根拠として許容支持力の数値が必要になる。手計算の手間を省いて素早く根拠を出せる。

学習・試験対策: 建築士試験の構造科目では杭の支持力計算が頻出。数値を変えて繰り返し計算することで、式の意味と地盤パラメータの感度を体感的に理解できる。

基本の使い方 ―― 3ステップで許容支持力を算出

ステップ1: 杭仕様を選択する 杭種プルダウンから打込み鋼管杭・場所打ちRC杭などを選択。杭径(mm)と根入れ長(m)を入力する。杭種を変えると先端係数αと摩擦係数fsが自動で切り替わる。

ステップ2: 地盤条件を入力する ボーリング柱状図を見ながら、上層から順に各層の層厚(m)・N値・土質(砂質土/粘性土/砂礫/シルト)を入力する。層の追加・削除・並べ替えが可能。

ステップ3: 結果を確認する 先端支持力Rp・周面摩擦力Rf・極限支持力Ru・許容支持力(長期/短期)・先端支持力比率がリアルタイムで表示される。杭種や杭径を変えると即座に結果が更新されるので、比較検討がスムーズに進む。

具体的な使用例 ―― 6パターンの検証データ

ケース1: 打込み鋼管杭 φ400 根入れ10m

条件: 粘性土(N=10)5m + 砂質土(N=50)5m。典型的な中規模建築の杭設計。

項目結果
先端支持力 Rp1,885 kN
周面摩擦力 Rf942 kN
極限支持力 Ru2,827 kN
許容支持力(長期)942 kN
許容支持力(短期)1,414 kN
先端支持力比率67%

先端支持力が全体の約2/3を占める。N値50の砂質層に先端が届いているため、支持杭として十分に機能している。長期許容942kNは、1本あたりの柱荷重が800kN程度の中規模建築に適合する。

ケース2: 場所打ちRC杭 φ1000 根入れ15m

条件: 粘性土(N=5)3m + 砂質土(N=20)7m + 砂礫(N=60)5m。大口径の場所打ち杭で深い支持層に到達させるパターン。

項目結果
先端支持力 Rp7,069 kN
周面摩擦力 Rf4,798 kN
極限支持力 Ru11,867 kN
許容支持力(長期)3,956 kN
許容支持力(短期)5,934 kN
先端支持力比率60%

場所打ち杭は先端係数α=150と打込み杭の半分だが、砂質土の摩擦係数fs=3.3が効いて周面摩擦力が大きい。先端と摩擦のバランスが6:4で、両方の成分をしっかり活用した合理的な設計だ。長期許容3,956kNは高層建築の柱荷重にも対応できる水準。

ケース3: PHC杭 φ600 根入れ12m

条件: 粘性土(N=8)4m + 砂質土(N=40)8m。工場製品のPHC杭で中間層の摩擦も活用するケース。

項目結果
先端支持力 Rp3,393 kN
周面摩擦力 Rf1,508 kN
極限支持力 Ru4,901 kN
許容支持力(長期)1,634 kN
許容支持力(短期)2,451 kN
先端支持力比率69%

PHC杭は打込み杭と同じ先端係数α=300。φ600の断面積が効いて先端支持力は3,393kNに達する。長期許容1,634kNは中規模〜やや大きめの建築に使いやすいレンジだ。

ケース4: SC杭 φ500 根入れ8m

条件: シルト(N=3)3m + 粘性土(N=6)2m + 砂礫(N=45)3m。軟弱層が薄く、比較的浅い支持層に打ち込むパターン。

項目結果
先端支持力 Rp2,209 kN
周面摩擦力 Rf695 kN
極限支持力 Ru2,904 kN
許容支持力(長期)968 kN
許容支持力(短期)1,452 kN
先端支持力比率76%

SC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)は先端係数α=250で打込み杭とほぼ同等のスペック。軟弱層のシルト・粘性土では摩擦力が小さく、先端支持力に大きく依存する。先端比率76%は「支持杭」の典型的な数値だ。

ケース5: 打込みRC杭 φ350 根入れ12m

条件: 粘性土(N=4)5m + 砂質土(N=20)4m + 砂礫(N=55)3m。小口径の既製杭で深い層まで到達させるケース。

項目結果
先端支持力 Rp1,587 kN
周面摩擦力 Rf649 kN
極限支持力 Ru2,236 kN
許容支持力(長期)745 kN
許容支持力(短期)1,118 kN
先端支持力比率71%

φ350と小口径のため断面積が小さく、先端支持力はケース1のφ400より低い。周面摩擦力も周長が短い分だけ不利になる。小規模建築や住宅基礎で使われるサイズ感で、長期許容745kNは一般的な住宅の柱荷重に十分対応できる。

ケース6: 場所打ちRC杭 φ1500 根入れ20m(大口径・深い支持層)

条件: 粘性土(N=3)5m + シルト(N=8)5m + 砂質土(N=25)5m + 砂礫(N=50)5m。超高層や大型施設で使用される大口径場所打ち杭。

項目結果
先端支持力 Rp13,253 kN
周面摩擦力 Rf7,127 kN
極限支持力 Ru20,380 kN
許容支持力(長期)6,793 kN
許容支持力(短期)10,190 kN
先端支持力比率65%

φ1500の大口径になると断面積は1.767m²、周長は4.712mに達し、先端・摩擦ともに巨大な値になる。長期許容6,793kNは20階建て程度の高層建築の主要柱を1本で支えられるレベルだ。4層にわたる地盤で砂質土・砂礫の摩擦係数fs=3.3が効き、周面摩擦力だけで7,127kNを稼いでいる点も注目に値する。

仕組み・アルゴリズム ―― 杭支持力公式の全体像

採用した計算手法

杭の支持力算定には複数のアプローチがある。

手法概要採否
建築基礎構造設計指針(AIJ)式N値ベースの半経験式。先端係数α・摩擦係数fsで杭種を区分採用
平板載荷試験からの外挿実測ベースだが、杭長・杭径への適用に制約不採用
Meyerhof式(国際式)N値ベースだが係数体系が異なる不採用

本ツールはAIJ式を採用した。日本国内の設計実務で最も広く使われている手法であり、建築基準法施行令第38条の要求を満たす。杭種ごとの係数(α, fs, fc)が明確に定義されており、N値さえ分かれば計算できるため、概算段階との相性が良い。

計算フローの詳細

1. 入力パラメータの取得
   - 杭種 → α, fs, fc を決定
   - 杭径 d [mm] → 断面積 A = π(d/2000)² [m²], 周長 U = πd/1000 [m]
   - 根入れ長 L [m]
   - 地盤層序: 各層の {厚さ, N値, 土質}

2. 先端支持力の算出
   Rp = α × N_tip × A [kN]
   N_tip: 杭先端が位置する層のN値

3. 周面摩擦力の算出
   各層について杭が貫通する区間の摩擦力を積算:
   - 砂質土・砂礫: fi = N × fs [kN/m²]
   - 粘性土・シルト: fi = (N × 12.5) / 2 × fc [kN/m²]
   Rf = Σ(fi × Li × U) [kN]

4. 極限支持力・許容支持力
   Ru = Rp + Rf
   Ra_long  = Ru / 3.0(長期)
   Ra_short = Ru / 2.0(短期)

計算例: 打込み鋼管杭 φ400 根入れ10m

ケース1の数値で計算過程を追う。

杭種: driven-steel → α=300, fs=2.0, fc=0.8
杭径: d=400mm → A=π×0.2²=0.12566 m², U=π×0.4=1.25664 m

【先端支持力】
先端層: 砂質土 N=50
Rp = 300 × 50 × 0.12566 = 1,885 kN

【周面摩擦力】
層1: 粘性土 N=10, 厚さ5m
  fi = (10 × 12.5) / 2 × 0.8 = 50 kN/m²
  Rf1 = 50 × 5 × 1.25664 = 314 kN

層2: 砂質土 N=50, 厚さ5m
  fi = 50 × 2.0 = 100 kN/m²
  Rf2 = 100 × 5 × 1.25664 = 628 kN

Rf = 314 + 628 = 942 kN

【極限支持力・許容支持力】
Ru = 1,885 + 942 = 2,827 kN
Ra_long  = 2,827 / 3 = 942 kN
Ra_short = 2,827 / 2 = 1,414 kN
先端比率 = 1,885 / 2,827 × 100 = 67%

杭種別の係数一覧

杭種先端係数 α摩擦係数 fs(砂質)摩擦係数 fc(粘性土)
打込み鋼管杭3002.00.8
打込みRC杭3002.00.8
場所打ちRC杭1503.30.8
PHC杭3002.00.8
SC杭2502.50.8

場所打ち杭の先端係数が低いのは、施工時のスライム処理(孔底の軟弱な泥)の影響で先端の密着度が打込み杭より低くなるため。一方で周面摩擦のfsが高いのは、コンクリートを直接地盤に打設することで周面の付着力が大きくなるためだ。

無料Web杭支持力ツールは他と何が違うのか

杭の支持力を計算できるツールは世の中にいくつかある。有償の構造計算ソフト、Excelテンプレート、そして大学の研究室が公開している簡易計算シート。それぞれ一長一短があるなかで、このツールが狙っているポイントを整理してみよう。

ブラウザだけで完結する即時性

有償ソフトはインストールが必要で、ライセンス管理もある。Excelテンプレートはファイルを探してダウンロードして、マクロを有効にして――という手間がかかる。このツールはURLを開いた瞬間から使える。杭種を選んで、杭径と根入れ長を入力して、地盤層を追加すれば即座に結果が出る。概算検討の初動スピードが段違いだ。

5種類の杭種をワンタップで切り替え

打込み鋼管杭・打込みRC杭・場所打ちRC杭・PHC杭・SC杭の5種類をセレクトひとつで切り替えられる。同じ地盤条件で杭種だけを変えて許容支持力を比較する、という実務で頻出する作業が数秒で終わる。Excelテンプレートだと杭種ごとにシートが分かれていることが多く、横並び比較が面倒だった。

SVGによる地盤断面の可視化

地盤層序と杭本体の関係を色分きSVGで表示する。砂質土・粘性土・砂礫・シルトを色で区別し、先端支持力と周面摩擦力の矢印を描画。数値だけでは掴みにくい「杭のどこで力を受けているか」が直感的にわかる。打ち合わせや報告書の概念図としてもそのまま使える。

Excelや有償ソフトとの使い分け

誤解のないように言っておくと、このツールは詳細設計を代替するものではない。負の摩擦力、液状化補正、群杭効果は未実装だ。あくまで概算段階で杭種・杭径の目星をつけるためのツール。詳細設計は地盤調査報告書を手元に置いて、有償ソフトか手計算で進めるべき。ただ、その「目星をつける」フェーズで毎回Excelを引っ張り出すのは非効率だ、というのがこのツールの立ち位置になる。

杭基礎にまつわる豆知識

日本の軟弱地盤と杭の歴史

日本は国土の約30%が沖積平野で占められており、特に東京・大阪・名古屋といった大都市圏は軟弱な粘性土地盤の上に発達してきた。江戸時代の木造建築は地盤沈下と共存するような設計だったが、明治以降にレンガ造・鉄筋コンクリート造の重い建物が増えると、基礎の支持力不足が深刻な問題になった。

日本で本格的な杭基礎が普及したのは大正時代以降。松丸太を打ち込む「木杭」が主流で、1923年の関東大震災後の復興事業で鉄筋コンクリート杭(RC杭)が導入された。1960年代にはPHC杭(プレストレスト高強度コンクリート杭)が開発され、高い耐久性と施工性から現在も広く使われている(日本基礎建設協会)。

世界の超高層ビルを支える杭

ドバイのブルジュ・ハリファ(828m)は、直径1.5mの場所打ちRC杭を194本、深さ約50mまで打ち込んでいる。先端支持層は弱い岩盤(カルカレナイト)で、N値換算で60〜80程度。超高層ビルでは杭1本あたりの許容支持力が3,000〜5,000kN級になることも珍しくない。

N値50の壁

実務では「N値50以上が支持層」という目安が広く使われている。これは標準貫入試験で50回の打撃で30cm貫入できないほど硬い地盤を意味する。ただし、N値50は絶対的な基準ではなく、建築基準法施行令第93条では「密実な砂質地盤、密実な礫質地盤、または岩盤」を支持層として定義している。N値30台でも層厚が十分あれば支持層として扱えるケースもあるし、逆にN値50でもレンズ状に薄い層だけでは信頼性に欠ける。地盤調査報告書のボーリング柱状図全体を見て判断することが重要だ(国土交通省 地盤情報)。

杭支持力計算で押さえておきたいTips

1. N値プロファイルはボーリング柱状図をそのまま入力する

地盤データを「だいたいN=30くらい」と丸めてしまうと、周面摩擦力の積算精度が大きく落ちる。ボーリング柱状図の各層を忠実に入力することで、より実態に近い支持力が得られる。特に粘性土と砂質土が互層になっている地盤では、土質の違いで摩擦力度の算定式が変わるため、省略は禁物。

2. 杭径の初期選定は荷重から逆算する

「杭径をいくつにすべきか」で迷ったら、建物荷重から必要な許容支持力を逆算し、その支持力を満たす最小杭径を探すのが定石。このツールで杭径を400mm→500mm→600mmと変えながら許容支持力の変化を確認すれば、最適な杭径の見当がすぐにつく。

3. 先端支持力と周面摩擦力のバランスを見る

結果に表示される「先端支持力の割合」は設計の健全性を判断する指標になる。打込み杭で先端比率が80%を超えているなら典型的な支持杭。場所打ち杭で先端比率が40%以下なら、周面摩擦力に大きく依存している状態。後者の場合、中間層の土質変化(液状化、圧密沈下)に敏感になるので注意が必要だ。

4. 複数の杭種で比較検討する習慣をつける

概算段階で「いつもの杭種」だけで検討を済ませてしまうと、コスト最適な選択肢を見逃す。打込み鋼管杭と場所打ち杭では先端係数が300 vs 150と倍の差があるが、周面摩擦力度は場所打ちのほうが高い。地盤条件次第で逆転することもあるので、まず2〜3種類を並べて比較するのが良い。

5. 根入れ長は支持層への貫入深さを確保する

杭先端が支持層の上端ギリギリだと、先端N値の算定範囲(先端上1D〜先端下1D)に中間層が含まれてしまい、先端支持力が大幅に低下する。支持層への貫入を杭径の1〜2倍以上確保することで、安定した先端支持力が得られる。

よくある質問(杭支持力計算ツール)

液状化する層がある場合、どう入力すればよい?

現時点では液状化の自動補正機能は未実装だ。液状化が想定される砂質土層は、周面摩擦力が期待できないため、N値を0として入力するか、その層を除外して入力する方法が簡便な近似になる。ただし正式な設計では、液状化判定(FL法)を行ったうえで低減係数を適用する必要がある。

群杭効果(杭の間隔による効率低下)は考慮されている?

群杭効果は未実装だ。本ツールは単杭の許容支持力を算出するものであり、杭間隔による効率低下は含まれていない。実務では杭心間隔が杭径の2.5倍以下になると群杭効果が顕著になる。概算段階では本ツールの単杭支持力に群杭効率(通常0.7〜1.0)を乗じて補正する方法がある。

負の摩擦力(ネガティブフリクション)はどう扱う?

負の摩擦力は未実装だ。圧密沈下が進行中の粘性土層がある場合、その層の周面摩擦力は抵抗力ではなく荷重として作用する。概算で考慮したい場合は、圧密沈下が予想される層のN値を0として入力し、さらにその層が杭に与える下向き摩擦力を別途手計算で加算するのが簡便な方法だ。

入力した地盤データや計算結果はサーバーに送信される?

一切送信されない。すべての計算はブラウザ内(クライアントサイド)で完結しており、入力データがサーバーに送られることはない。ページを閉じればデータは消える。機密性の高いボーリングデータも安心して入力できる。

先端係数αの値は変更できる?

現在のバージョンでは杭種を選択すると先端係数αが自動的に設定される(打込み杭:300、場所打ち杭:150、SC杭:250)。これらは建築基礎構造設計指針の標準値に基づいている。特殊な工法(中掘り最終打撃、プレボーリング根固め等)で異なるαを使いたい場合は、最も近い杭種を選んで結果を手動で補正してほしい。

まとめ:杭支持力の概算から基礎設計全体へ

杭種・杭径・N値プロファイルを入力するだけで、先端支持力と周面摩擦力を分離して許容支持力を算出できる。概算段階での杭種比較や杭径選定の初動として活用してみてほしい。

基礎設計は杭だけでは完結しない。直接基礎の検討には直接基礎の地盤支持力計算、フーチングの寸法決定には独立基礎(フーチング)設計、擁壁や地下壁の設計には土圧・擁壁安定計算ツールを併用することで、基礎設計全体を効率的に進められる。

計算結果はあくまで概算値であり、詳細設計では地盤調査報告書に基づく検討が不可欠だ。不明点や要望があればお問い合わせから気軽に連絡してほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。N値50の砂礫層を掘り当てたときの安心感は、構造屋なら誰でも知っている。杭基礎の概算を何度も手計算してきた経験から、このツールを作った。

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