四節リンク機構シミュレーター

リンク長4本からグラスホフ判定・伝達角・カプラ曲線を自動計算

4本のリンク長を入れると、グラスホフの条件から機構の型を6種に判定し、原動節を回したときの従動節角度・伝達角・カプラ曲線を描く。伝達角は「引っかからずに動くか」を決める数値で、1回転中の最小値が40°を下回ると警告が出る。

6分類が1件ずつ並んでいる。上から順に選ぶだけで、グラスホフの条件による分類の違いが体感できる。値を手で書き換えると「カスタム」に切り替わる。

O2(左)と O4(右)が回転中心。L1 はその間隔、L2 はモーターを付ける側、L4 は出力側。角度の結果は4本の「長さの比」だけで決まるので、全部を同じ倍率で拡大しても分類と伝達角は変わらない。

カプラ点(任意)

a は関節Aから関節Bへ向かう向きの距離、b はそれに直交する向き(進行方向の左が正)。どちらも負値を入れてよい。b を0以外にすると8の字や腎臓形の特徴的なカプラ曲線になる。

機構の種類クランクロッカー機構
グラスホフ
最小伝達角51.32°余裕のある設計
良好

最短リンクが原動節。原動節が1回転し、従動節が決まった角度範囲を往復揺動する。モーター1個で往復運動を作る最も標準的な形

グラスホフの条件

S + L = 40.0 + 120.0 = 160.0 < P + Q = 180.0

最短 L2(原動節) / 最長 L1(固定節) / 余裕 (P+Q)−(S+L) = 20.0 mm

従動節角度 θ4

97.56°

中間節角度 θ3

26.53°

伝達角 μ

71.03°

実効 71.03°

対角線 A–O4

105.83 mm

原動節の可動域: 0〜360°(全回転)

従動節の可動域: θ4 = 93.58°〜153.62°(振れ幅 60.03°)

カプラ点 X

46.87 mm

適用 a = 50.00 mm

カプラ点 Y

92.76 mm

適用 b = 40.00 mm

機構図とカプラ曲線

71°PO2O4
固定節 原動節 中間節 従動節 カプラ曲線

中央の角度表示は伝達角μ。実効伝達角が40°未満で黄、30°未満で赤に変わる。

本ツールは四節リンク機構の位置解析(キネマティクス)のみを扱う。リンクは変形しない剛体、関節は摩擦もガタも無い理想的なピンとして計算しており、部材のたわみ・軸受のガタ・製作公差は含まない。速度・加速度・慣性力・駆動トルクも算出しないため、モーター選定や部材強度の検討には使えない。表示するのは開き(open)配置のみで、同じ寸法でも組み方によっては交差(crossed)配置になり別の動きをする。伝達角40°は一般的な設計ガイドラインで、低速・軽荷重なら下回っても動く一方、高速・高荷重では40°でも不足することがある。実機の設計では試作による確認を行うこと。

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図面の上では一周するはずのアームが、実物では途中で固まった

ロボコンや自作装置でリンク機構を組んだことがある人なら、一度は覚えがあると思う。紙の上に4本のリンクを描いて、コンパスで円弧を引いて、確かに原動節は一周する。ところがアルミの角パイプを切ってボルトで留め、モーターを回すと、ある角度でギッと止まる。手で押してやると先へ進み、また回り出す。

このとき最初に疑うのは寸法ミスだ。でもノギスで測り直しても図面どおりだったりする。原因は寸法の間違いではなく、リンク機構を「動く/動かない」の二択で考えていたことにある。その二択の間には、幾何的には確かに四辺形が閉じるのに、原動節が押した力がほとんど従動節に届かない広い領域がある。そこを通過する瞬間、摩擦とガタが伝達力に勝って機構は固まる。

このツールは4本の長さから機構の種類を判定するだけでなく、その「引っかかりやすさ」を伝達角という数値で返す。動くかどうかではなく、引っかからずに動くかまで、部材を切る前に確かめられる。

動きは見せてくれるのに、設計を決める数字が出てこない

四節リンクのシミュレーターそのものは、探せば無料でいくつも見つかる。大学の講義用に作られた教材ページ、海外の機構学サイトのインタラクティブなデモ、動画教材に付いてくるアプレット。どれもリンクをドラッグすると骨組が動き、カプラ曲線がきれいに描かれる。見ていて面白い。

ただ、実際にロボコンのアーム寸法を決めようとしてこれらを使うと、あるところで手が止まる。動きは見せてくれるのに、設計判断に使える数値が返ってこないのだ。従動節が何度から何度まで振れるのか、原動節は本当に一周できるのか、そして途中でどれくらい引っかかりやすいのか。この3つが分からないと、寸法を1本変えたときにそれが改善なのか改悪なのか判定できない。

とくに困ったのが伝達角だった。機構学の教科書には必ず載っていて、40°を下回らないようにしろと書いてある。ところが日本語のWebで伝達角を数値で返してくれるツールがどうしても見つからない。結局、余弦定理を電卓に打ち込んで手計算に戻ることになる。しかも1周のうちどこで最小になるかを探すには、角度を刻んで何十回も同じ計算をしなければならない。

自分でやってみて痛感したのは、グラスホフの条件だけ見て設計を決めてはいけない、ということだった。後の §7 で並べるが、リンク長の合計も、グラスホフ判定の式の値(160 < 180)も、判定される機構の種類もまったく同じなのに、最小伝達角が51.3°の設計と26.4°の設計が実在する。前者は素直に回り、後者は負荷をかけると引っかかる。この差は分類を見ているだけでは絶対に出てこない。

だからこのツールは、機構分類と最小伝達角を同じ大きさの2枚のカードで並べて出す構成にした。片方だけ見て安心できないようにするための設計だ。

四節リンク機構とグラスホフの条件とは何か

四節リンク機構 とは:1つ決まれば残り全部が決まる

四節リンク機構は、4本の棒(リンク)を4つのピン(回転対偶)で輪にしたものだ。そのうち1本を地面に固定すると、残り3本が連動して動く仕組みになる。固定した棒を固定節 L1、モーターを付ける棒を原動節 L2、その先につながる棒を中間節 L3(カプラ・連接棒とも呼ぶ)、反対側の回転中心につながる棒を従動節 L4 と呼ぶ。

なぜ4本なのか。平面上の剛体は1個あたり3つの自由度(前後・左右・回転)を持ち、ピン1つで2つの自由度が拘束される。グリューブラーの式に当てはめると、リンク数 n と関節数 j から機構の自由度が出る。

F = 3·(n − 1) − 2·j

  n = 4(リンク4本), j = 4(ピン4つ)のとき
  F = 3·3 − 2·4 = 9 − 8 = 1

自由度が1というのは、入力を1つ与えれば残りの姿勢がすべて一意に決まるという意味だ。原動節の角度 θ2 を60°に決めた瞬間に、中間節の傾きも従動節の角度も、中間節上のどの点がどこに来るかも、全部決まってしまう。

これが機械の再現性の正体でもある。クルマのワイパーが毎回まったく同じ弧を描いてガラスを拭けるのは、モーターの角度が決まればブレードの位置が幾何的に一意に決まるからだ。折りたたみ椅子でも同じことが起きている。座面を引き出すと背もたれが決まった角度で起き上がり、途中で好きな姿勢を選ぶことはできない。自由度が1しかないので、座面の位置を決めた時点で背もたれの角度も決まっているからだ。ミシンの天秤、建設機械のバケット、電車のパンタグラフ、自転車の変速機のパラレルリンク。身の回りの往復運動のほとんどが四節リンクかその派生形になっている。詳しい種類や歴史はリンク機構(Wikipedia)にまとまっている。

グラスホフの条件 とは:4本を足し算するだけの判定法

四節リンクの設計で最初に確かめるのがグラスホフの条件だ。判定はびっくりするほど簡単で、4本のうち最短のもの S と最長のもの L を選び、その和を残り2本 P・Q の和と比べるだけでいい。

S + L  <  P + Q   → グラスホフ機構。どれか1本が360°まわれる
S + L  =  P + Q   → 変化点機構。4本が一直線に並ぶ位置ができる
S + L  >  P + Q   → 非グラスホフ。どのリンクも一周できない

どこにも角度が出てこないのが面白いところで、長さの足し算だけで「モーターを直結できるか」が判定できてしまう。直感的には三角不等式の親戚だと思えばいい。最短リンクが一周するには、その途中でいちばん苦しい姿勢(最短と最長が向かい合って伸びきる位置)を、残り2本がまたいで届かなければならない。届くための条件がそのまま S + L < P + Q になる。判定式の詳細はFour-bar linkage(英語版Wikipedia)にも整理されている。

最短リンクがどこにあるかで、動きが4つに分かれる

グラスホフ機構だと分かっても、それだけでは「どこかが一周する」としか言えない。どのリンクが一周するかは、最短リンクが4本のうちどの位置にいるかで決まる。

最短リンクの位置機構の名前原動節 L2従動節 L4
固定節 L1ダブルクランク(ドラッグリンク)1回転1回転
原動節 L2クランクロッカー1回転揺動
従動節 L4ロッカークランク揺動1回転
中間節 L3ダブルロッカー揺動揺動(中間節が1回転)

多くの教科書は、最短が原動節でも従動節でも一括して「クランクロッカー」と呼ぶ。本ツールは原動節 L2 にモーターを付ける前提なので、この2つをあえて分けている。最短が従動節側にある場合、原動節は決まった角度範囲を揺れるだけでモーターを直結しても回らないからだ。ひとまとめにすると「クランクロッカーと判定されたのに回らない」という誤誘導になる。

そもそも四辺形が閉じない寸法もある

グラスホフ判定の手前に、もっと基本的な足切りがある。最長リンクが他の3本の合計より長いと、どの角度でも四辺形が閉じない。輪ゴムを4本の棒で作ろうとして1本だけ極端に長い状態を思い浮かべると分かりやすい。本ツールはこの場合を組立不能として分類し、骨組図も角度も出さずに理由だけを表示する。

伝達角が40°を割ると、力の大半がリンクを潰す方向へ逃げる

伝達角 μ は、中間節と従動節がなす角のことだ。両者をつなぐ関節Bのところで測る。分類がグラスホフでも、この角が小さい姿勢を通ると機構は引っかかる。理由は力の分解を1回やれば見える。

中間節が従動節を押す力 F は、必ず中間節の軸に沿って働く(両端ピンの2力部材だから)。この F を従動節から見て、回転に効く接線方向と、軸受を押すだけの半径方向に分けると、こうなる。

従動節を回す成分   = F · sin μ
軸受を押すだけの成分 = F · cos μ

μ が90°なら sin μ = 1 で、押した力が丸ごと従動節を回すのに使われる。μ が40°まで落ちると sin 40° = 0.64 で36%が無駄になり、20°では sin 20° = 0.34 まで落ちて3分の2が軸受を押し潰す方向に逃げる。逃げた分は軸受の摩擦を増やすので、有効成分が減るのと摩擦が増えるのが同時に起きる。40°というのはNortonの『Design of Machinery』をはじめ機構学の標準的なガイドラインで、これを下回ると摩擦とガタが伝達力に勝ちやすくなる、という経験則の線だ。

ここで効いてくるのが、伝達角は対角線の長さ d だけで決まるという性質だ。余弦定理そのままで cos μ = (L3² + L4² − d²) / (2·L3·L4) になり、d は原動節と固定節が作る三角形の対角線 d = √(L1² + L2² − 2·L1·L2·cos θ2) として θ2 から出る。d は θ2 = 0° で最小 |L1 − L2|、θ2 = 180° で最大 L1 + L2 を取るので、原動節が一周する機構なら両端だけ調べれば1周中の最小伝達角が手計算で出せる。

実際に §7 のケース1(L1=120 L2=40 L3=100 L4=80)とケース4(L1=100 L2=40 L3=120 L4=80)で比べてみる。どちらも S + L = 160 < P + Q = 180 で、分類も同じクランクロッカーだ。

ケース1  θ2=0° → d = |120−40| = 80
         cos μ = (100² + 80² − 80²) / (2·100·80) = 0.625 → μ = 51.32°

ケース4  θ2=0° → d = |100−40| = 60
         cos μ = (120² + 80² − 60²) / (2·120·80) = 0.8958 → μ = 26.38°

固定節を20mm縮めて中間節を20mm伸ばしただけで、最小伝達角が半減する。ケース4は30°を割るので、ツールは赤の警告を出す。改善の方向も式から読める。μ が0に近づくのは d が |L3 − L4| に近づくときなので、|L3 − L4| を小さくする(ケース4の40mm → ケース1の20mm)か、|L1 − L2| を大きくする(60mm → 80mm)かの二択だ。

ただしタダではない。従動節の振れ幅はケース1が60.03°、ケース4が73.78°で、伝達角を稼いだケース1のほうが小さい。出力の振れ幅と伝達角はトレードオフの関係にある。どちらを取るかを決めるのが設計で、そのために両方の数値を同じ画面に出している。

こんな場面で開いてほしい

ロボコンのアーム寸法を決めるとき。 アルミを切る前に4本の長さを入れて、原動節が一周するか、従動節が必要な角度だけ振れるか、最小伝達角が40°を超えるかを確かめる。寸法を1本変えるたびに3つの数値がどう動くかが見えるので、比率の当たりを付けるのが速い。

からくり・自作装置の試作前検討で。 手作りの木製からくりや、展示用の動く仕掛けは、カプラ曲線の形そのものが見せ場になる。中間節上のカプラ点を軸から外すと軌跡が8の字や腎臓形に化けるので、狙った軌跡が出る位置をスライダーで探せる。

機構学の講義や資格試験の答え合わせに。 機械設計技術者試験や高専・大学の機構学では、リンク長を与えられてグラスホフの分類を答える問題が定番だ。判定式の値と最短リンクを根拠として表示するので、自分の手計算のどこで間違えたかが分かる。

既存機械のリンク寸法を測って動きを再現するとき。 現物のピン間距離をノギスで測って入れると、その機械が何機構なのか、なぜあの位置で急に速くなるのかが数値で説明できる。改造や部品置き換えの検討にも使える。

使い方は3ステップ

1. 機構プリセットを選んで分類の違いを体感する。 6つの分類それぞれの代表寸法を用意してあるので、上から順に選ぶだけで、クランクロッカーとロッカークランクで何が違うのか、変化点機構がどう振る舞うのかが骨組図で分かる。まずここで感覚を掴んでほしい。

2. リンク長4本を自分の寸法に置き換える。 固定節 L1・原動節 L2・中間節 L3・従動節 L4 をmmで入れる。L1 は2つの回転中心の距離、つまりフレーム側の寸法だ。カプラ点 a・b は任意入力で、空欄なら中間節の中点が使われる。b に負値を入れれば中間節の反対側にカプラ点を置ける。

3. θ2 を動かして2枚のカードを読む。 スライダーを引くか再生ボタンを押すと骨組が追従し、カプラ曲線が背景に残る。読むべきは「機構の種類」と「最小伝達角」の2枚のカードだ。分類が良くても最小伝達角が40°を割っていたら、その設計は引っかかる。

12ケースで確かめた計算結果

すべて実際にツールへ入力して得た値を載せている。角度は度、長さはmm。

同じ寸法のまま原動節だけ回す(ケース1〜3)

ケース1|L1=120 L2=40 L3=100 L4=80、θ2=60°、カプラ点 a=50 b=40。 判定は S + L = 40 + 120 = 160 < P + Q = 100 + 80 = 180 でグラスホフ、最短が原動節なのでクランクロッカー。結果は θ3=26.53°、θ4=97.56°、伝達角 μ=71.03°、対角線 d=105.83mm、カプラ点は(46.87, 92.76)。1周中の最小伝達角は51.32°で、従動節は93.58°〜153.62°を往復する(振れ幅60.03°)。40°の目安に11°の余裕があり、素直に回る設計だ。

ケース2|同じ寸法で θ2=0°。 θ3=51.32°、θ4=102.64°、μ=51.32°、d=80mm。この d は |L1 − L2| = 80 そのもので、1周を通じて最小になる位置だ。だから現在の伝達角が最小伝達角と一致する。最悪姿勢がどこかを知りたければ、θ2 をゼロに合わせればいい。

ケース3|同じ寸法で θ2=180°。 θ4=149.25°、μ=125.10°、d=160mm(=L1 + L2の最大値)。μ が90°を超えて鈍角になるが悪化ではない。力の伝わり方としては40°と140°が等価なので、実効伝達角 180 − 125.10 = 54.90° で評価する。カプラ点のXが −10.74mm と負値になるのも、原点より左へ張り出しているだけで正常だ。

判定式が同じでも設計品質は違う(ケース4)

ケース4|L1=100 L2=40 L3=120 L4=80、θ2=60°。 ケース1から固定節を20mm縮め、中間節を20mm伸ばした寸法。θ4=64.94°、μ=46.57°、d=87.18mm、最小伝達角26.38°、従動節の振れ幅73.78°。判定式の値も分類のクランクロッカーもケース1と完全に同一で、違うのは §4 で見たこの2つの数値だけだ。

残り5分類を1つずつ(ケース5〜10)

ケース5|ロッカークランク。L1=100 L2=120 L3=80 L4=40、θ2=40°。 ケース1の L2 と L4 を入れ替えた形。S + L = 160 < 180 でグラスホフ判定は通るのに、原動節は |θ2| が18.19°〜65.38°の範囲でしか動かない(合計94.36°)。代わりに従動節が一周する。「グラスホフ機構ならモーターを直結できる」という短絡がここで崩れる。μ=71.93°、d=77.56mm。この場合はモーターを右の回転中心に付け替えればいい。

ケース6|同じロッカークランクで θ2=0°。 可動範囲の外なので四辺形が閉じない。d が |L1 − L2| = 20mm まで縮み、届くのに必要な |L3 − L4| = 40mm に足りないからだ。ツールはエラーを出さず、黄色の状態表示で「この角度では組み立てられません」と可動範囲を案内する。機構分類と可動域は正常に表示され続ける。

ケース7|ダブルクランク(ドラッグリンク)。L1=40 L2=100 L3=120 L4=80、θ2=60°。 最短が固定節なので原動節も従動節も一周する。θ3=305.20°、θ4=351.77°、μ=46.57°。ところが最小伝達角は26.38°で、40°の目安を大きく割る(θ2=0° の d=60 で μ=26.38°、θ2=180° の d=140 で μ=86.42°)。両端が一周する優秀そうな機構でも、引っかかる姿勢は普通に存在する。

ケース8|ダブルロッカー。L1=100 L2=80 L3=60 L4=90、θ2=60°。 最短が中間節。θ3=20.12°、θ4=92.33°、μ=72.21°、d=91.65mm。原動節も従動節も一周せず、中間節だけが回る。特徴的なのは組立可能な角度が14.36°〜112.41°と247.59°〜345.64°の2つに分かれることだ。この2つは一度分解しないと行き来できない別々の組立回路なので、カプラ曲線も2本の線に分けて描いている。1本につなげて描くと、実在しない動きを見せることになる。

ケース9|変化点機構・平行クランク。L1=100 L2=50 L3=100 L4=50、θ2=60°。 S + L = 150 = P + Q = 150 でちょうど変化点。固定節と中間節、原動節と従動節が同じ長さの平行四辺形なので、θ4 が θ2 に厳密に一致し(60°)、θ3 は0°(中間節が固定節と平行)になる。検算として気持ちがいい結果だ。ただし θ2=0°/180° で4本が一直線に並び、そこから平行クランクにも反平行クランクにも分岐しうる。従動節の揺動範囲は「不定」と表示している。

ケース10|トリプルロッカー(非グラスホフ)。L1=120 L2=40 L3=60 L4=50、θ2=30°。 S + L = 160 > P + Q = 110 で余裕は −50mm。どのリンクも一周できず、原動節は |θ2| ≦ 66.03° の範囲だけを揺れる(合計132.06°)。θ4=125.51°、μ=105.33°(実効74.67°)。従動節は125.10°〜199.41°まで振れる。上限が180°を超えているのは、従動節が固定節の下側まで回り込む正常な値だ。

計算できない寸法をどう返すか(ケース11)

ケース11|L1=500 L2=50 L3=60 L4=70。 最長リンク500mmが他3本の合計180mmを超えるため、どの角度でも四辺形が閉じない。ツールは角度をゼロで返して黙るのではなく、超えている本数と超過分を名指しした専用メッセージを出し、骨組図と角度セルを隠す。どの寸法が原因かが即座に分かる。

寸法を丸ごと2倍にしても結果は変わらない(ケース12)

ケース12|L1=240 L2=80 L3=200 L4=160、θ2=60°、a=100 b=80。 ケース1を全部2倍にしたものだ。θ3=26.53°、θ4=97.56°、μ=71.03°、最小伝達角51.32°、振れ幅60.03°と、角度に関する数値がすべてケース1と完全一致する。変わるのは長さの数値だけで、d=105.83→211.66mm、カプラ点は(46.87, 92.76)→(93.74, 185.52)と、きれいに2倍になる。四節リンクの運動は4本の長さの比だけで決まるので、mmで入れた寸法をcmと読み替えても角度の答えは同じだ。試作を縮小模型で作るときにそのまま使える性質でもある。

教科書の標準解法をあえて捨てた理由

候補は2つあった

原動節の角度 θ2 から従動節の角度 θ4 を求める位置解析には、有名な解き方が2つある。1つは機構学の教科書に必ず載っているフロイデンシュタイン(Freudenstein)の閉形式解、もう1つは幾何そのままの「円と円の交点」だ。

フロイデンシュタインは、ループ閉合条件を3つの定数 K1・K2・K3 にまとめる美しい式だ。

K1 = L1 / L2
K2 = L1 / L4
K3 = (L2² − L3² + L4² + L1²) / (2·L2·L4)

K1·cos θ4 − K2·cos θ2 + K3 = cos(θ2 − θ4)

t = tan(θ4 / 2) と置いて整理すると
  A = cos θ2 − K1 − K2·cos θ2 + K3
  B = −2·sin θ2
  C = K1 − (K2 + 1)·cos θ2 + K3
  θ4 = 2·atan( (−B ∓ √(B² − 4·A·C)) / (2·A) )

三角関数の方程式が2次方程式に化けて、解の公式1発で θ4 が出る。速いし、教科書と突き合わせやすい。最初はこちらで実装するつもりだった。

tan(θ4/2) が θ4 = 180° で発散する

問題は半角置換の t = tan(θ4 / 2) にある。θ4 が180°に近づくと tan 90° に向かって t が無限大へ飛ぶ。実際に L1=180 L2=50 L3=60 L4=70、θ2=0° を流してみた。この寸法は 180 = 50 + 60 + 70 ちょうどで、4本が一直線に重なった状態でだけ組み立てられる縮退した配置だ。

K1 = 180/50 = 3.6
K2 = 180/70 = 2.5714
K3 = (50² − 60² + 70² + 180²) / (2·50·70) = 36200/7000 = 5.1714

θ2 = 0 なので cos θ2 = 1, sin θ2 = 0
  A = 1 − 3.6 − 2.5714 + 5.1714 = 0
  B = −2 · 0 = 0
  → (−B ± √(B² − 4AC)) / (2A) が 0/0 になる

係数 A も B も同時に0になる。手元の実装はここで θ4 = 0 を返した。正解は180°だ。どれくらい間違っているかはループ閉合誤差で確かめられる。θ4 = 0 なら関節Bは (180 + 70, 0) = (250, 0) で、関節Aは (50, 0)。この2点の距離は200mmだが、中間節の長さは60mmしかない。140mmの誤差だ。しかも例外もエラーも出ずに、もっともらしい数値として返ってくるのが厄介だった。

円と円の交点には特異点が無い

そこで採用したのが、関節Bを2つの円の交点として直接求める方式だ。関節Aを中心とする半径 L3 の円と、右の回転中心 O4 を中心とする半径 L4 の円が交わる点がBになる。

A  = (L2·cos θ2, L2·sin θ2)
d  = |A − O4|                       // 対角線
u  = (O4 − A) / d                   // A から O4 へ向かう単位ベクトル
n  = (−u.y, u.x)                    // u を反時計回りに90°回した単位ベクトル
p  = (L3² − L4² + d²) / (2·d)       // A から交線までの距離
h  = √(L3² − p²)                    // 交線の半分の長さ
B  = A + p·u + h·n                  // 開き配置(−h·n なら交差配置)

θ3 = atan2(B.y − A.y, B.x − A.x)
θ4 = atan2(B.y, B.x − L1)

同じ縮退寸法を入れると、A=(50, 0)、d=130mm となる。これは L3 + L4 = 130 ちょうどなので h = 0 になり、Bは A + 60·(1, 0) = (110, 0)。θ4 は atan2(0, 110 − 180) = 180° と正しく出る。検算も |B − O4| = |110 − 180| = 70 = L4 で合う。全ベクトルでループ閉合誤差を測ったところ最大でも1e-4mmで、これは表示桁の丸め残差でしかない。除算に使う d は組立可能なら必ず正、atan2 は全象限で定義されているので、どの角度にも特異点が現れない。

開き配置と交差配置、どちらを採るか

円の交点は基本的に2つある。+h·n 側を採ったものが開き(open)配置、−h·n 側が交差(crossed)配置で、同じリンク長・同じ θ2 でも組み方によってどちらにもなる。本ツールは開き配置に統一した。この選び方は h = 0 になるトグル位置以外では連続なので、θ2 をスライダーで動かしても途中で配置が飛ぶことがない。実機で組んだものが交差配置だった場合は動きが変わるので、この点は使用上の注意として明記している。

最小伝達角と揺動範囲は「走査」で求めた

1周中の最小伝達角と従動節の揺動範囲は、閉形式でも一応求められる。ただし閉形式は開き配置と交差配置をまたいだ範囲を返すため、開き配置だけを表示する本ツールとは食い違う。トリプルロッカーで確かめると閉形式が180°を返す一方、開き配置の実際の値は160.59°だった。そこで θ2 を0.5°刻み・720点で走査し、全点の実効伝達角 min(μ, 180 − μ) の最小値を採る方式にした。原動節が一周しない機構では、組み立てられる円弧ごとに別々に走査する。従動節の角度は0°/360°の折り返しで振れ幅を誤検出しないよう、隣り合う点の差を±180°以内に折り返しながら累積し、連続な数列に直してから最大・最小を取る。クランクロッカーでは走査値と閉形式が0.0005°以内で一致することも確認済みだ。

ケース1を最初から最後まで

最後に、§7 のケース1(L1=120 L2=40 L3=100 L4=80、θ2=60°)を1ステップずつ追ってみる。

A  = (40·cos60°, 40·sin60°) = (20, 34.6410)
A→O4 = (120 − 20, −34.6410) = (100, −34.6410)
d  = √(100² + 34.6410²) = √11200 = 105.8301 mm

u  = (100, −34.6410) / 105.8301 = (0.94491, −0.32733)
n  = (0.32733, 0.94491)
p  = (100² − 80² + 11200) / (2 × 105.8301) = 14800 / 211.6601 = 69.9234
h  = √(100² − 69.9234²) = √5110.72 = 71.4893
B  = (20 + 69.9234×0.94491 + 71.4893×0.32733,
      34.6410 + 69.9234×(−0.32733) + 71.4893×0.94491)
   = (109.4718, 79.3042)

θ3 = atan2(79.3042 − 34.6410, 109.4718 − 20) = 26.5278°
θ4 = atan2(79.3042, 109.4718 − 120)          = 97.5622°
μ  = acos((100² + 80² − 11200) / (2×100×80)) = acos(0.325) = 71.0344°

検算は簡単で、|A − B| が中間節の100mmに、|B − O4| が従動節の80mmになっていればいい。ツールが返す71.03°という伝達角は、この三角形A–B–O4の関節Bにおける内角そのものだ。

他の四節リンク シミュレーターとの違い

四節リンクを動かして見せるページ自体は昔から多い。高専や大学の機構学の教材ページ、GeoGebra で作られた教具、海外の平面機構シミュレーター。ただしそのほとんどは「骨組みが動く」ところで止まっていて、画面から読み取れるのは形だけだ。動いた、で終わってしまう。

有償CADの機構解析アドオンまで行けば速度も反力も出る。ただし3Dモデルを作って拘束を付ける手間がかかるので、寸法を1本だけ変えて比べたい設計初期には重すぎる。

本ツールが返すのは、4本の数字を入れた瞬間に決まる設計判断用の値だ。機構の6分類、グラスホフ判定式の左右の値、1周中の最小伝達角、原動節が回れる角度範囲、従動節の振れ幅、カプラ点の座標。とくに最小伝達角を数値で返す日本語のツールは、探した限り見当たらなかった。分類も判定式の値も同一なのに最小伝達角が51.3178°と26.3843°で倍違う——そういう差は、動く骨組みを眺めているだけでは絶対に表に出てこない。

関連ツールとの役割分担も書いておく。カム曲線設計シミュレーターは変位曲線を任意に設計できる代わりに、カム板を削り出す製作コストがかかる。四節リンクは丸棒とピンだけで作れて頑丈だが、軌跡は4本の長さで決まってしまい自由には指定できない。動きを自分で決めたいならカム、作りやすさと堅牢さならリンクという住み分けだ。減速比は歯車、静的な力の倍率はてこと滑車、モーターに与える指令カーブはS字加減速の担当で、いずれも本ツールの前後の工程に当たる。

豆知識 — グラスホフの名前とカプラ曲線の歴史

グラスホフ数のグラスホフと同一人物

フランツ・グラスホフ(Franz Grashof, 1826–1893)は19世紀ドイツの機械工学者。カールスルーエで教授を務め、1856年のドイツ技術者協会(VDI)設立に加わった中心人物の一人でもある。リンクが全回転できる条件は、1883年の『理論機械学(Theoretische Maschinenlehre)』に書かれた記述が元になっている。

面白いのは、自然対流の無次元数であるグラスホフ数 Gr も同じ人物の名前だという点。しかも彼自身が自然対流を研究したわけではなく、後世が熱工学全般への貢献をたたえて名付けたとされている(グラスホフ数 / Franz Grashof)。

蒸気機関車は変化点を90°の位相差で越えていた

変化点機構は運動が不定になるから設計では避ける、と教科書には書いてある。ところが蒸気機関車の動輪をつなぐ連結棒は、まさにその平行クランクだ。車輪のクランクピン・連結棒・車体で四節リンクを組んでいて、ケース9のプリセット(L1=100 L2=50 L3=100 L4=50)が θ4 = 60° と θ2 に厳密一致するのと同じ構成になっている。

4本が一直線に並ぶ死点では力が伝わらないはずなのに走れるのは、左右のクランクピンを90°ずらして組んであるから。quartering と呼ばれる古典的な手法で、片側が死点にいるとき反対側はちょうど最大トルクの姿勢にいる。変化点を、位相をずらしたもう1組のリンクで越える実例。

カプラ曲線には紙の図鑑があった

中間節上の点が描く曲線は、代数曲線としては6次(三重円六次曲線)になる。19世紀にはこれが盛んに研究され、1875年にサミュエル・ロバーツが「同じカプラ曲線を描く四節リンクは3つ存在する」というロバーツ=チェビシェフの定理を示している。1951年には Hrones と Nelson が7000本以上のカプラ曲線を並べた図鑑を出版し、設計者は欲しい軌跡に近い図を紙の上で探して、そこからリンク寸法を読み取っていた。カプラ点の b を動かすたびに形が化けるあの赤い線は、かつて本をめくって探すものだった。

チェビシェフの直線機構も同じ流れにある。精密な直線案内を作れなかった時代に、「なるべく直線に近いカプラ曲線」を4本のリンクで近似しようとした試みだった。

Tips — 四節リンク設計の実践ポイント

  • カプラ点の b を振ってみる: a は中間節に沿った位置、b はそこから直交方向に外した量。b を変えてもリンクの姿勢(θ3・θ4・伝達角)は一切動かず、カプラ点と赤い曲線だけが変わる。b=0 なら素直な弧、外すと8の字や腎臓形に化ける。欲しい軌跡があるなら、リンク長をいじる前にまず b を振ってみて。
  • 余裕が小さい寸法は公差で化ける: (P + Q) − (S + L) の余裕は、デフォルト寸法では20mm。ケース8のダブルロッカー(L1=100 L2=80 L3=60 L4=90)は10mmしかなく、P+Q=170 の5.9%。変化点プリセット(L1=100 L2=50 L3=100 L4=50)に至っては0ちょうどだ。余裕が数%しかない寸法は、部品を削り出した時点の公差で分類が反対側へ転ぶ。設計値で「ぎりぎりグラスホフ」を狙わない。
  • 回らないときは駆動側を疑う: ケース5のロッカークランク(L1=100 L2=120 L3=80 L4=40)のように、グラスホフ判定を通っているのに原動節が回らない寸法がある。このとき原動節L2と従動節L4の値を入れ替えると、S+L も P+Q も 160 と 180 のまま最短リンクだけが原動節側へ移り、そのままクランクロッカーになる。寸法を作り直す前に、まず駆動側を疑ってみて。

よくある質問

伝達角40°は絶対の合否基準なのか

40°は規格ではなく、機構学の教科書で広く使われている設計ガイドラインの目安だ。低速・軽荷重のからくりなら30°台でも普通に動くし、逆に高速で慣性力が効く装置では40°あっても足りないことがある。だから合否の線引きではなく、2つの寸法案を並べてどちらがマシか即答するための物差しとして使ってほしい。なお伝達角が鈍角側に振れた場合は 180−μ で折り返して評価する。ケース3(L1=120 L2=40 L3=100 L4=80, θ2=180°)の μ=125.0996° は実効54.9004°として扱っており、40°の目安と直接比べられる。

同じ寸法なのに実物と動きが違うのはなぜ

同じ4本の長さでも、ピンを組む向きによって開き(open)と交差(crossed)の2通りの形になるためだ。本ツールが描くのは開き配置だけで、交差配置では同じθ2に対してθ4もカプラ曲線も別の値になる。しかもこの2つは一度分解して組み直さないと行き来できない。実物と食い違ったら、まずこの配置を疑ってみて。古典的な直線機構が交差配置で描かれることが多いのも同じ理由だ。さらに、同じ開き配置の中でも組立回路が分かれることがある。ケース8のダブルロッカーは θ2 が 14.3615°〜112.4111° と 247.59°〜345.64° の2つの帯でしか組めず、この2つも別回路になる。

速度や必要トルクは出せるのか

出せない。本ツールが解いているのは位置解析(キネマティクス)だけで、角速度・角加速度・駆動トルク・ジョイント反力はいずれも算出していない。リンクは変形しない剛体、関節は摩擦もガタも無い理想的なピンという前提で計算しており、部材のたわみ・軸受のガタ・製作公差・自重によるたるみも含んでいない。だからモーター選定や部材強度の検討には使えない。代わりに置いているのが伝達角で、「どの姿勢で力が伝わりにくくなるか」だけは1周分の最小値として押さえられる。トルクの実数値が必要な段階まで来たら、動力学解析に渡してほしい。

最小伝達角が「—」と表示されるのはなぜ

原動節が1回転しない機構では、可動域の端(トグル位置)で中間節と従動節が必ず一直線に並ぶ。そこで実効伝達角は厳密に0°になるため、最小値を数値で出すと必ず0.00°と表示され「設計が最悪」と誤読されてしまう。それを避けるため、ケース5のロッカークランクのように原動節が全回転しない機構では判定自体を行わず「—」にしている。変化点機構(ケース9)も同じ理由で0になるので同様の扱いだ。最小伝達角で設計を評価したいなら、まず原動節が全回転する寸法に直してから読むこと。

入力したリンク寸法はどこかに送信される?

一切送信されない。リンク長の入力から720点の走査、カプラ曲線の描画まで、すべてブラウザ内のJavaScriptで完結している。寸法をサーバーへ送る処理も、入力値を保存する処理も無い。試作前の社外秘の寸法をそのまま打ち込んでも外には出ない。ただしページを閉じると入力も消えるので、続きをやるなら同じ値を入れ直すか、「結果をコピー」でテキストとして手元に控えておいて。

まとめ

四節リンク機構シミュレーターは、固定節・原動節・中間節・従動節の4本の長さから、グラスホフの条件による6分類・1周中の最小伝達角・原動節の可動域・従動節の振れ幅・カプラ曲線までを1画面で返すツール。「動くか」ではなく「引っかからずに動くか」を、材料を切る前に確認できる。

機構設計まわりのツールとして、カム曲線設計シミュレーターてこと滑車シミュレータギアモジュール計算S字加減速プロファイルシミュレーター も用意しているので、動きの設計から駆動系の選定まで通しで使ってみてほしい。

ご意見・ご要望はお問い合わせページから。対応してほしい機構や、追加してほしい判定値のリクエストも歓迎している。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。ロボコンのアームで「図面どおりなのに途中で固まる」を経験してから、伝達角を数値で見ないまま寸法を決めるのをやめた。位置解析を円と円の交点で解いているのは、教科書の閉形式解が一直線配置で140mmもずれた答えを黙って返してきたからだ。

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