星景撮影の露出リミット計算機

星が流れない最長シャッター速度を500ルールとNPFルールで並列計算

カメラのセンサー・画素数・焦点距離・F値から、星が点像のまま写る最長シャッター速度を古典的な「500ルール」と高精度な「NPFルール」で並列計算する。

カメラとレンズ

画素ピッチ算出用

換算前の実焦点距離

開放〜1段絞りが一般的

露出リミット

NPFルール(推奨)13.9秒この秒数以下なら星が点に写る
余裕あり
NPFルール(推奨)13.9
500ルール(参考)25.0

500ルール

25.0秒

換算焦点距離基準の古典則

500ルール/NPF比

1.80倍

1超なら500ルールが過大

画素ピッチ

6.00µm

センサー幅と画素数から自動算出

換算焦点距離

20.0mm

実焦点距離 × クロップ1

500ルールはNPFルールの1.80倍過大です。高画素機で500ルール通りに撮ると、等倍鑑賞で星が線状に流れる可能性が高くなります。NPFルールの13.9秒を上限にするのが安全です。

※ 本ツールは500ルールとNPFルール簡易式による目安。星の流れの見え方は撮影方向(赤緯)・鑑賞サイズ・許容基準で変わる。本計算は天の赤道付近(星の見かけ速度が最大=最も厳しい条件)を想定しており、北極星付近ではより長い露出でも流れない。現場では試し撮りして背面モニタの拡大表示で確認を。

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遠征先で撮った天の川、全部の星が線になっていた

新月の週末を狙って、片道2時間かけて光害の少ない高原まで走った。三脚を立てて、20mm F1.8のレンズを開放にして、ネットで覚えた「500ルール」どおり25秒露光。背面モニタの小さなプレビューでは天の川がくっきり写っていて、ガッツポーズしながら帰宅した。

ところが家の4Kモニタで等倍表示した瞬間、血の気が引いた。星がぜんぶ短い線になっている。点像のはずの星が、そろって同じ方向に伸びた「ミニ流星群」。拡大しなければ分からないレベルではあるけれど、プリントやSNSの高解像度表示では確実にバレる甘さだった。

星は止まって見えて、実は動いている。だからシャッターを開けていられる時間には上限がある。その上限を、古典的な500ルールと、絞り値・画素ピッチまで織り込んだNPFルールの2本立てで一発計算するのがこのツール。カメラのスペック表の数字を入れるだけで「星が点のまま写る最長秒数」が出る。

なぜ作ったのか — 500ルールを信じて全滅した夜

冒頭の失敗のあと原因を調べて、500ルールがフィルム時代の経験則だと知った。500を換算焦点距離で割るだけの簡単な式で、A4プリント程度の鑑賞なら今でもそこそこ使える。ただし前提が古い。フィルムや低画素センサーの解像力を基準にした許容量なので、2400万画素、ましてや6100万画素のセンサーで等倍鑑賞すると、500ルールぎりぎりの露出は高確率で流れる。

代わりに出てきたのがNPFルール。フランスのル・アーヴル天文協会(Société Astronomique du Havre)のFrédéric Michaudが提案した式で、絞り値と画素ピッチという「実際に星像のボケと記録の細かさを決める要素」を織り込んでいる。精度は段違い。ところが日本語で使えるツールを探すと、500ルールの電卓がぽつぽつある程度で、NPFルールを計算できるものがほぼ見当たらなかった。

海外のツールはあるが、今度は「画素ピッチを入力せよ」と言われて手が止まる。画素ピッチなんてカメラのカタログには載っていない。センサー幅と画素数から自分で計算する必要があって、そこで脱落する人が多いはず。自分も最初は電卓を叩いた。

だったら、センサープリセットを選んで画素数・焦点距離・F値というスペック表レベルの数字を入れるだけで、画素ピッチの算出からNPF・500ルールの並列比較までやってくれるツールを作ればいい。遠征先の暗闇でスマホから使える、日本語の星景撮影用計算機。それがこのツールの出発点だった。

星が流れるとは何か — 500ルールとNPFルールの基礎知識

星は1時間に約15度動く — 日周運動という前提

夜空の星は、地球の自転によって東から西へ回転して見える。これが日周運動。1日でほぼ360度、つまり1時間で約15度、時間にして1秒あたり角度の15秒(15秒角)ずつ動き続けている。

イメージしやすいのは時計の秒針。秒針の先にペンライトを付けて暗闇で長時間露光すれば、光の弧が写る。星も同じで、シャッターを開けている間じゅうセンサー上を移動し続けるから、露出が長いほど点が線に変わっていく。

どれくらい動くか具体的に見てみる。20mmレンズで10秒露光した場合、天の赤道付近の星はセンサー上を約14.6µm移動する。画素ピッチ6µmのフルサイズ24MP機なら約2.4ピクセル分。この移動量が1〜2ピクセルに収まっていれば星は「点」に見え、超えてくると「線」として認識され始める。星を点像に保つ勝負は、ミクロン単位のピクセルの上で起きている。

ちなみに星の見かけの速度は撮影する方角で変わる。天の赤道付近(オリオン座のあたり)が最速で、北極星の近くはほとんど動かない。本ツールは最悪条件である天の赤道付近を想定して計算するので、結果はどの方角でも安全側になる。

500ルールとは — フィルム時代から続く経験則

500ルールは「500を35mm判換算の焦点距離で割った秒数までなら星は流れない」という経験則。

最長露出(秒) = 500 ÷ 換算焦点距離(mm)

換算20mmなら25秒、換算50mmなら10秒。暗算できる手軽さが最大の武器で、フィルム時代から星景撮影の入門知識として広まってきた。ただし「流れない」の基準が甘い。フィルムの粒状性やL判プリントを前提にした許容量なので、高画素デジタルの等倍鑑賞には耐えられない。だから現代では「構図を考えるためのざっくり見積もり」くらいの位置付けが妥当だと思っている。

NPFルールとは — 絞りと画素ピッチを織り込んだ現代式

NPFルールはSociété Astronomique du Havre のNPFルール解説で公開されている計算式。N(絞り値)・P(画素ピッチ)・F(焦点距離)の3要素から許容露出を求める。本ツールが使う簡易形はこれ。

最長露出(秒) = (35 × 絞り値 + 30 × 画素ピッチµm) ÷ 実焦点距離(mm)

ポイントは2つ。第一に、絞り値が入っていること。レンズは絞りによって星像の大きさ(回折や収差によるにじみ)が変わるから、絞るほど星像が太くなり、少し流れても目立ちにくくなる。第二に、画素ピッチが入っていること。画素が細かいセンサーほど小さな移動も記録してしまうので、許容秒数が短くなる。500ルールが無視していた「記録する側の細かさ」を式に取り込んだのがNPFルールの本質だ。

2つのルールで「焦点距離」の意味が違う

見落としがちな重要ポイントがここ。500ルールの分母は換算焦点距離(実焦点距離 × クロップ係数)、NPFルールの分母は実焦点距離。同じ「焦点距離で割る」でも基準が違う。

500ルールはフィルム(=フルサイズ)基準の経験則なので、センサーが小さくなった分は換算焦点距離に反映させる。一方NPFルールでは、センサーの違いは画素ピッチPに織り込み済み。小さいセンサーは画素ピッチも小さくなるから、実焦点距離のままで正しく短い秒数が出る仕組みになっている。海外のNPF計算機に換算焦点距離を入れてしまい、間違った(長すぎる)秒数を信じてしまう事故は実際に多い。本ツールは実焦点距離とクロップ係数を別々に受け取って、それぞれの式に正しい方を渡すので、この取り違えが構造的に起きない。

高画素機で500ルールを使うと何が起きるか

2つのルールの差は、センサーの画素数が上がるほど開く。数字で見るとかなり衝撃的だ。

フルサイズ61MP機に14mm F1.8を付けた場合、500ルールは500 ÷ 14 = 35.7秒を許容する。ところがNPFルールの答えは12.6秒。実に2.84倍の開きがある。500ルールを信じて35秒露光すれば、NPF基準の約3倍の長さだけ星が動く。等倍で見れば星はもう点ではなく、立派な線分になっている。

これが痛いのは、星景撮影のチャンスが極端に少ないからだ。天の川の濃い部分が撮れるのは春〜夏、月明かりのない新月前後、さらに晴天という条件が重なった夜だけ。遠征には往復数時間と燃料代がかかり、次のチャンスは1か月後、天候次第では数か月後になる。現場で「なんか甘いかも」と気づけず、家に帰って等倍確認して全滅を知ったときの損失は、シャッター速度の設定ひとつで防げたはずのものだ。

逆に24MP機からの乗り換え組も要注意。24MPのフルサイズで500ルールがぎりぎり通用していた人が61MP機に乗り換えると、画素ピッチが6.00µmから3.76µmに細かくなり、同じ流れ量でも1.6倍のピクセル数として記録される。「前と同じ設定なのに流れるようになった」の正体はこれ。カメラが進化したのに写真が甘くなるという皮肉な現象は、露出リミットを画素ピッチ基準で計算し直せば解消できる。

このツールが活躍する場面

天の川遠征の事前計画。 出発前に手持ちのカメラとレンズの組み合わせでNPF秒数を出しておけば、現地では構図に集中できる。真っ暗な現場で計算する余裕はない。

レンズ購入の検討。 F2.8とF1.8で許容秒数がどれだけ変わるか、20mmと14mmでどうか。購入前に数字で比較すれば「明るい超広角にいくら払う価値があるか」を自分の基準で判断できる。

赤道儀の導入判断。 望遠寄りの焦点距離を入れてNPF秒数が0.5秒を切るようなら、固定撮影はもう実用的ではない。ポータブル赤道儀を検討すべきラインが数字で見える。

スマホ・コンデジでの星空撮影。 小さいセンサーでも計算はまったく同じ。スマホの夜景モードで何秒までいけるかも、スペック表の数字から見積もれる。

基本の使い方 — 3ステップ

ステップ1: センサープリセットを選ぶ。 フルサイズ / APS-C(Canon)/ APS-C(Nikon・Sony・Fuji等)/ マイクロフォーサーズ / 1型 / スマホ(1/2.3型)から選択すると、センサー幅・クロップ係数・アスペクト比が一括入力される。特殊な機種はカスタムで直接入力もできる。

ステップ2: 画素数・焦点距離・F値を入力。 スペック表の有効画素数(MP)、レンズ表記の実焦点距離(換算前の数字)、撮影予定の絞り値を入れる。星景なら開放〜1段絞りが一般的。

ステップ3: NPFルールの秒数で撮る。 推奨のNPF秒数と参考の500ルール秒数が並んで表示される。表示された秒数以下のシャッター速度に設定すれば、星は点像を保つ。500ルールがNPF比で何倍過大かも同時に出るので、手持ちの機材が「500ルールの通用しない世代」かどうかも一目で分かる。

具体的な使用例 — 7つのカメラ構成で検証

代表的な7つの構成で、実際にツールが返す数値と読み方を見ていく。

ケース1: フルサイズ24MP・20mm・F1.8(標準的な星景構成)

入力: センサー幅36mm・クロップ1.0・3:2・24MP・20mm・F1.8 → NPF 12.15秒、500ルール25.0秒、画素ピッチ6.00µm、比2.06倍。

もっとも定番の星景セットでも、500ルールはNPFの2倍以上過大。カメラで設定できる10秒か13秒を選ぶのが正解で、25秒はアウト。この「定番構成ですでに2倍ズレている」事実が、500ルール卒業の一番の理由になる。

ケース2: フルサイズ61MP・14mm・F1.8(高画素機+超広角)

入力: 36mm・クロップ1.0・3:2・61MP・14mm・F1.8 → NPF 12.56秒、500ルール35.7秒、画素ピッチ3.76µm、比2.84倍。

超広角なので500ルールは35秒までOKと言うが、61MPの細かい画素ピッチがそれを許さない。差は2.84倍まで拡大。高画素機ユーザーほどこのツールの数字を信じるべき理由がここにある。

ケース3: APS-C(Canon)24MP・18mm・F2.8(キットレンズ広角端)

入力: 22.3mm・クロップ1.6・3:2・24MP・18mm・F2.8 → NPF 11.64秒、500ルール17.4秒、画素ピッチ3.72µm、換算28.8mm、比1.49倍。

入門機+キットレンズでも星景は撮れる。目安は約11秒なので、カメラの設定なら10秒を選択。F2.8と暗めなぶんISOは3200〜6400まで上げることになるが、流れた星は後処理で救えないのに対し、ノイズはある程度救える。

ケース4: マイクロフォーサーズ20MP・12mm・F1.7(換算24mm)

入力: 17.3mm・クロップ2.0・4:3・20MP・12mm・F1.7 → NPF 13.33秒、500ルール20.8秒、画素ピッチ3.35µm、換算24.0mm、比1.56倍。

「MFTは実焦点距離が短いからNPFが有利」という側面と「画素ピッチが細かいから不利」という側面が相殺し合い、結果はフルサイズ定番構成と大差ない13秒。明るい単焦点さえあればセンサーサイズのハンデは小さい。

ケース5: 1型コンデジ20MP・8.8mm・F1.8(高級コンデジ広角端)

入力: 13.2mm・クロップ2.7・3:2・20MP・8.8mm・F1.8 → NPF 15.37秒、500ルール21.0秒、画素ピッチ2.41µm、換算23.8mm、比1.37倍。

ポケットに入るコンデジでも15秒粘れる。三脚固定+セルフタイマーで星景の入門には十分。比が1.37倍と小さめなのは、実焦点距離の短さがNPF側に効いているため。

ケース6: スマホ1/2.3型12MP・4.3mm・F1.8(500ルールの方が保守的になる逆転ケース)

入力: 6.17mm・クロップ5.6・4:3・12MP・4.3mm・F1.8 → NPF 25.41秒、500ルール20.8秒、画素ピッチ1.54µm、換算24.1mm、比0.82倍。

このケースだけ逆転が起きる。NPFの分母は実焦点距離4.3mmと極端に小さく、画素ピッチの細かさ(1.54µm)を差し引いてもNPFの許容が長くなる。つまりスマホでは500ルールの方がむしろ安全側。「NPFが常に短い」わけではないことを示す好例で、比が1を切ったら500ルール側の秒数を採用すればいい。ツールはこの場合「このセンサーでは500ルールの方が保守的」と教えてくれる。

ケース7: フルサイズ61MP・800mm・F5.6(超望遠・赤道儀必須域)

入力: 36mm・クロップ1.0・3:2・61MP・800mm・F5.6 → NPF 0.39秒、500ルール0.63秒、画素ピッチ3.76µm、比1.62倍。

月や惑星ではなく星雲・星団を800mmで狙うとこうなる。許容0.39秒では、いくらISOを上げても星はほぼ写らない。ツールは0.5秒未満で「赤道儀なしでは実用的でない領域」と警告を出す。ここから先は機材(ポータブル赤道儀)で解決する世界だ。

7ケースを並べると傾向がはっきり見える。フルサイズ高画素機ほど500ルールとの乖離が大きく(最大2.84倍)、センサーが小さくなるほど差は縮み、スマホでは逆転する。自分の機材がこのグラデーションのどこにいるかを知ることが、星景撮影の設定を決める第一歩になる。

仕組み・アルゴリズム — 2つのルールをどう計算しているか

候補手法の比較 — なぜNPF簡易式を採用したか

星の流れの許容露出を求める方法は大きく3つある。

  1. 500ルール単独 — 計算は簡単だが、前述のとおり高画素機で破綻する。単独採用は論外。
  2. NPF完全式 — 赤緯(撮影方向の天球上の緯度)の補正項まで含む完全版。最も正確だが、「今から撮る方角の赤緯」を入力させるのは初心者には高いハードルで、遠征現場での実用性が下がる。
  3. NPF簡易式 — 赤緯を最悪条件(天の赤道 = 星の見かけ速度が最大)に固定した簡易形。入力はカメラのスペック表の数字だけで済み、結果は常に安全側に出る。

本ツールは3を採用し、参考値として1を並列表示する構成にした。精度と入力の手軽さのバランスで、現場で本当に使われるのはこの形だと判断している。北極星に近い方角を撮るときは実際にはもっと長く露出できるが、「表示より安全側」なら失敗写真は生まれない。

実装している計算フロー

// 1. 画素ピッチの自動算出
const aspectFactor = aspect === "3:2" ? 3 / 2 : 4 / 3;
const horizontalPixels = Math.sqrt(megapixels * 1e6 * aspectFactor);
const pixelPitchUm = (sensorWidth * 1000) / horizontalPixels;

// 2. 500ルール(換算焦点距離基準)
const eqFocalMm = focal * crop;
const rule500Sec = 500 / eqFocalMm;

// 3. NPFルール簡易式(実焦点距離基準)
const npfSec = (35 * aperture + 30 * pixelPitchUm) / focal;

// 4. 比較指標
const overRatio = rule500Sec / npfSec;

工夫したのは画素ピッチの自動算出。有効画素数とアスペクト比から横方向の画素数を √(画素数 × アスペクト係数) で逆算し、センサー幅を割って1画素の物理サイズを出す。3:2センサーなら係数3/2、4:3なら4/3。ユーザーはカタログに載っていない画素ピッチを調べる必要がない。

もうひとつが焦点距離の基準の使い分け。コードを見ると分かるとおり、rule500Sec の分母は focal * crop(換算)、npfSec の分母は focal(実焦点距離)のまま。前述のとおりNPFではセンサーサイズの影響が pixelPitchUm に織り込まれているためで、ここを取り違えると計算結果がクロップ係数倍ずれる。

ケース1を手計算でなぞる

フルサイズ24MP・20mm・F1.8を実際に追いかけてみる。

  1. アスペクト係数: 3:2なので 3 ÷ 2 = 1.5
  2. 横画素数: √(24,000,000 × 1.5) = √36,000,000 = 6,000画素
  3. 画素ピッチ: 36mm × 1000 ÷ 6,000 = 6.00µm
  4. 換算焦点距離: 20 × 1.0 = 20.0mm → 500ルール: 500 ÷ 20 = 25.0秒
  5. NPF: (35 × 1.8 + 30 × 6.00) ÷ 20 = (63 + 180) ÷ 20 = 243 ÷ 20 = 12.15秒
  6. 比: 25.0 ÷ 12.15 = 2.06倍

ツールの出力と完全に一致する。NPF式の分子を見ると、絞り項(63)より画素ピッチ項(180)の方が約3倍効いているのが分かる。高画素化で画素ピッチが半分になれば、この支配項が半減して許容秒数が大きく縮む — 500ルールとの乖離が高画素機ほど開く理由が、式の構造そのものに現れている。

海外製NPF計算機や500ルール電卓との違い

星景向けの露出計算ツールを日本語で探すと、見つかるのはほぼ500ルール電卓だけ。焦点距離を入れて500を割るだけの構成で、画素数もF値も考慮しない。24MP機でも61MP機でも同じ「25秒」が返ってくるが、実際の写りはまったく違う。

海外にはNPFルール対応の計算機が存在する。ただし英語UIな上、画素ピッチ(µm)を自分で調べて入力させるものが多い。画素ピッチはカメラのスペック表に載っていない数値で、センサー幅と画素数から自力で割り出すか、海外のセンサーデータベースを漁ることになる。ここで挫折する人が多い。

このツールの設計は、その2つの不満への回答だ。

  • 画素ピッチの自動算出 — センサープリセットと有効画素数(MP)という、スペック表に必ず載っている数字だけで完結する。カスタム機もセンサー幅mmを直接入れればいい
  • 2ルールの並列比較 — NPFルールと500ルールを同じスケールの横バーで並べ、「500ルールが何倍過大か」まで数値で示す。どちらか一方だけ出すツールでは、この差そのものが見えない
  • 実用性の言語化 — 秒数の数字だけでなく「固定撮影OK」「赤道儀必須域」といった判定コメントを添え、次にとるべきアクションまで示す

計算して終わりではなく、レンズ購入の検討や赤道儀導入の判断材料になるところまでが守備範囲。遠征の前夜、機材リストとにらめっこしながら使うことを想定している。

豆知識 — NPFルールの由来と「もっと粘れる空」の話

NPFは開発者の名前ではない

N・P・Fの3文字は、式に登場する3つの変数の頭文字だ。N=絞り値(口径比の記号)、P=画素ピッチ(pixel pitch)、F=焦点距離(focal length)。提案したのはフランス・ル・アーヴル天文協会(Société Astronomique du Havre)のFrédéric Michaud氏。本ツールが採用する簡易形 t = (35N + 30p) / f は、絞りによる回折・収差ボケと画素ピッチの許容量をひとつの式に押し込んだもので、「センサーの解像力が上がるほど許容秒数が短くなる」という現代デジタルカメラの実情を初めてまともに反映したルールと言える。

600ルールから500ルールへ、そしてNPFへ

フィルム時代の経験則は実は「600ルール」だった。フィルムの粒状性が流れをある程度隠してくれたからだ。デジタル移行と高画素化で分子は500に切り下げられ、それでも最新の高画素ミラーレスには追いつけずNPFルールが登場した。許容基準が機材の進化とともに締まってきた歴史そのもの。

北の空はもっと粘れる

星の見かけの速度は、撮る方向で変わる。日周運動による移動は天の赤道上で最速(1時間に約15度)、天の北極に近づくほど遅くなる。NPF完全式には赤緯δの補正項があり、許容秒数は 1 / cos δ 倍に延びる。赤緯60度で2倍、北極星のすぐそば(赤緯約89度)なら計算上は約57倍。周極星を撮るなら表示値よりかなり余裕がある。本ツールはあえて最悪条件の天の赤道付近で計算しているが、一番人気の天の川中心部(いて座付近、赤緯約-29度)は補正しても1.14倍しか延びない、ほぼ赤道条件の被写体。天の川撮影では表示値をそのまま使えばいい。

星を止めるための実戦Tips

  • 開放から半段〜1段絞る — 開放はコマ収差で四隅の星がカモメ状に崩れがち。しかもNPF式は 35N の項を持つため、絞るほど許容秒数はわずかに延びる。画質と秒数の両取りになる
  • 鑑賞サイズで許容を決める — スマホやSNSの縮小表示なら、500ルール秒数の流れはほぼ見えない。A3プリントや等倍チェックが前提ならNPF厳守。最終出力から逆算するのが現実解
  • 赤道儀導入の判断ライン — NPF秒数が3秒を切る焦点距離では、ISOを上げても星の色が飽和しがち。標準〜中望遠で星野を撮りたくなったら、ポータブル赤道儀を検討するサイン
  • 試し撮りは四隅で確認 — 現場ではNPF秒数で1枚撮り、背面モニタを最大拡大。中央ではなく四隅の星を見る。周辺は流れと収差が重なって、最初に破綻する場所だからだ

よくある質問

500ルールとNPFルールで秒数が2倍以上違うのはなぜ? 500ルールは換算焦点距離しか見ず、センサーの解像度と絞りを無視しているから。フルサイズ24MP・20mm・F1.8なら500ルール25秒に対しNPFは12.2秒(約2.1倍差)、61MP機ならNPFは8.8秒まで縮み差は約2.8倍。画素が細かいほど同じ移動量が多くのピクセルをまたぐため、高画素機ほど500ルールの過大さは深刻になる。
焦点距離は換算前と換算後どちらを入れる? レンズに刻印された実焦点距離(換算前)を入れる。APS-Cの18mmなら「18」。換算焦点距離はクロップ係数から自動計算され、500ルール側にだけ使われる。NPFルールは実焦点距離基準(センサーの影響は画素ピッチ側に織り込み済み)で、この「2式でfの基準が違う」処理は内部で分けてあるから、入力は常に実焦点距離だけでいい。
赤道儀があればこの計算は不要? 追尾すれば星自体は流れないが、不要にはならない。追尾中は逆に地上の前景が流れるため、前景用に固定で1枚撮る場面が必ず出てくる。電池切れや強風で赤道儀が使えないときのバックアップとしても、固定撮影の露出リミットは把握しておく価値がある。
撮影する方角によって結果は変わる? 変わる。本ツールは星の見かけ速度が最大になる天の赤道付近(最も厳しい条件)で計算している。北極星に近い空ほど動きは遅く、赤緯60度なら約2倍粘れる。ただし天の川中心部は赤緯約-29度とほぼ赤道条件なので、天の川狙いなら表示値どおりに使うのが安全。
入力したカメラの情報はどこかに保存・送信される? されない。計算はすべてブラウザ内で完結し、入力値がサーバーに送信・保存されることはない。電波の届かない山奥でも、一度ページを開いていれば計算できる。

まとめ — 露出リミットを知ってから空にレンズを向ける

星を点像で写す鍵は、シャッターを切る前に自分の機材の露出リミットを知っておくこと。500ルールを鵜呑みにせず、画素ピッチまで織り込んだNPFルールの秒数を基準にすれば、遠征の一発勝負で「全部流れていた」という悲劇は避けられる。手前の山や木までシャープに入れるピント位置と絞りの追い込みは被写界深度シミュレーターが守備範囲だ。露出リミットと過焦点距離、2つの数字を持って現場に立ってほしい。

ツールの改善要望や「このセンサーのプリセットが欲しい」といった声はお問い合わせページから気軽にどうぞ。

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Mahiro

Mahiro Appの開発者。500ルールを信じて撮った天の川が等倍表示で全滅して以来、遠征前にNPFルールの秒数を出してからカメラバッグを閉めるのが習慣になっている。

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