エア消費量・コンプレッサー選定

空圧シリンダーのボア径・ストローク・動作頻度から合計エア消費量と必要コンプレッサー能力を算出

シリンダーを追加してボア径・ロッド径・ストローク・動作頻度を入力。合計エア消費量と必要コンプレッサー能力(kW)を自動算出。

シナリオ例

共通条件

一般的には0.4〜0.7MPa

シリンダー構成

#1

1サイクル 1.372 NL ・ 41.2 NL/min

結果

推奨モータ出力0.41kW
0.75kW級

合計エア消費量

41.2 NL/min

必要コンプレッサー吐出量

0.076 m³/min

安全率1.3/効率0.7込み

シリンダー別内訳

名称1サイクル(NL)流量(NL/min)比率
CYL-11.37241.2100.0%

本計算は配管漏れ・圧損・非定常動作を含みません。実機では20〜30%の余裕を追加し、レシーバタンク(アキュムレータ)サイジングを併用してください。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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「シュー…パタン…シュー…パタパタ」が止まらない工場の話

朝イチに工場へ入ると、コンプレッサーが息切れしたように連続運転している。圧力計は 0.45MPa を指したまま戻らない。昼過ぎにはシリンダーの動きが明らかに鈍り、最終工程のラベラーが取りこぼしを起こす。現場に駆けつけた保全担当が「エアが足りてない」と言うあの瞬間、設備の計画段階でエア消費量を甘く見積もったツケが一気に顕在化する。

シリンダー1本あたりの空気消費量は各メーカーのカタログに載っている。ただし「往復1サイクル」「連続運転1分」「標準状態換算」と前提条件がバラバラで、さらに複数シリンダーを並列に並べた瞬間に合算の桁を間違えやすい。このツールは、ボア径・ロッド径・ストローク・動作頻度・同時稼働率を行単位で入力するだけで、全シリンダーの合計 NL/min と必要コンプレッサー吐出量、推奨モータ出力までを一気通貫で出す。立ち上げ前のライン計画でも、既設ラインの増設検討でも、電卓を叩かずに同じ土俵で比較できるのがポイントだ。

なぜ作ったのか

きっかけは、新規ラインの立ち上げ前夜に「コンプレッサー 15kW 1台で足りるよね?」という会話が社内を流れたことだ。各ブロックの担当者がそれぞれ Excel で消費量を計算していたが、ある人は「ピストン側のみ」、別の人は「ロッド側も合算」、さらに別の人は「大気圧基準ではなく吐出圧基準」で計算していた。集めた数字を素直に足したら、実機運転した途端に圧力が 0.3MPa まで落ちた。結局モータ 22kW のマシンに差し替え、設備予算は初回見積もりの倍近くに膨らんだ。

原因を追ってみると、根本は計算式そのものではなく「単位と前提の揃え方」にあった。SMC や CKD といったメーカーのカタログには立派な計算式が載っているが、どれも自社シリンダー専用のフォーマットで、他社と混在したラインでは結局自前で統一式を書き直す必要がある。しかも、往復動作の場合は片側だけでなくロッド側(裏側)も空気を押し出しているので、実は掃引容積は「ピストン側+ロッド側」で考えるのが正しい。これを省略すると 5〜10% 少なめに見積もってしまう。

もう一つの痛みは「同時稼働率」だ。ライン内の全シリンダーが常時 100% で動くわけではない。待機や段取り替えの時間を含めると実効 60〜80% で済むケースも多く、逆に高速組立セルでは 100% 近くまで張り付く。この差をシリンダーごとに設定できないと、コンプレッサーが過剰に大きくなるか、逆に足りなくなる。このツールはその両極端を行単位のスライダー感覚で調整できるように作った。「現場の肌感覚を、そのまま数式に落とし込む」のが狙いだ。

圧縮空気の標準状態と NL 表記、絶対圧比換算の話

標準状態(ANR)とは何か

エアの消費量を語るときに必ず出てくる「NL/min」の頭文字 N は Normal(標準)の略。空圧業界では ANR(大気圧 0.1013MPa・温度 20°C・相対湿度 65%) という条件を基準に、そこに換算した体積でやり取りするのが通例だ。これは日本産業規格 JIS B 8393 でも採用されている。なぜ基準を揃えるかというと、空気は圧縮性流体なので「同じ 1 リットル」でも、0.1MPa 大気中と 0.7MPa 配管中とでは質量が 7 倍近く違うからだ。体積だけで議論すると議論が噛み合わない。

日常のたとえ話で言えば、ペットボトルに息を吹き込んでパンパンにしたとき、中の空気の「体積」はボトルの容量と同じ 500mL のままだが、「もし栓を抜いて大気に戻したら何 mL 分か」と聞かれれば 600mL にも 700mL にもなる。この「大気に戻したときの体積」が NL(ノルマルリットル)の考え方だ。

絶対圧比でなぜ掛け算になるのか

シリンダーに 0.5MPa のゲージ圧(=大気より 0.5MPa 高い)を掛けて掃引体積 1L を動かすとき、その 1L には 大気圧換算で約 5.93L 分の空気 が詰まっている。計算式は次の通り。

絶対圧比 = (P_gauge + 0.1013) / 0.1013
        = (0.5 + 0.1013) / 0.1013
        ≈ 5.935

分子の P_gauge + 0.1013 がゲージ圧を絶対圧に直す部分、分母の 0.1013 が大気圧(ANR 基準)で割って「大気換算の倍率」を作る部分。つまり掃引容積 Vswept [mm³] を NL に直すには、

V_NL = V_swept × (P + 0.1013) / 0.1013 × 10⁻⁶

として、最後に mm³ → L(10⁻⁶)の単位換算を掛ければよい。

片側ストロークと往復ストロークの違い

片方向(押し側)しか空気を使わないように見えて、実は引き側(ロッド側)にも空気を入れて戻している。ロッド側の断面積はピストン側より小さい(ロッド分だけ差し引かれる)が、1 サイクル = 押し+戻り で考えると、両面の容積を足すのが正解だ。

Ap = π × bore² / 4              (ピストン側断面積)
Ar = π × (bore² − rod²) / 4     (ロッド側断面積)
V_swept = (Ap + Ar) × stroke

この「ピストン+ロッド両側を足す」を省略する資料も世の中には多いが、厳密には往復動作時の実消費量と合わない。このツールは両側合算をデフォルトに据えている。

実務での重要性——選定ミスは電気代と歩留まりを同時に削る

コンプレッサーは一度据え付けたら 10 年以上使う設備だ。選定を 1 ランク間違えると、ランニングコストと故障リスクが雪だるま式に増える。

ケース 1:過小選定 — 必要吐出量 1.2m³/min のラインに 1.0m³/min の機械を入れると、高負荷時に吐出圧が 0.5MPa 近くまで落ちる。シリンダーの推力は圧力に比例するので、押し付け力が 30% 低下 → 組立不良率が跳ね上がる。工場によっては 1 日数十万円の損失に直結する。過去には日本国内でも、プレス機の圧力不足による加工不良で数千万円規模のリコールが発生した事例がある(詳細は厚生労働省の労働安全衛生データベース等を参照)。

ケース 2:過大選定 — 逆に 2 倍の容量のマシンを入れると、アンロード運転時間が長くなり、同じ空気量を作るのに電気代が 1.3〜1.5 倍かかる。22kW 機を 1 年間連続運転すれば電気代は 150〜200 万円のオーダー。1 ランクの選定ミスで年間数十万円が消えていく。

ケース 3:配管圧損とタンク容量の同時ミス — コンプレッサー吐出量がギリギリだと、起動直後にタンクが追いつかず、圧力降下でシリンダーが途中停止する。レシーバタンク(アキュムレータ)容量を別途検討しないと、瞬間的な大量使用に耐えられない。

日本産業機械工業会の統計では、工場消費電力の 20〜30% が圧縮空気系だと言われる。エア消費量の見積もり精度は、そのまま工場全体の CO₂ 排出量とコスト構造を決める。内線規程や労安法のような明確な法令規制こそないが、省エネ法に基づく定期報告義務 の観点からも、吐出量と電力消費のひも付きを正しく計算できる体制が求められる。

活躍する場面

新規ライン立ち上げ — 設計図面からボア径・ストローク・タクトを拾って、必要コンプレッサーの kW クラスをその場で決める。見積もりが出る前の段階でも、概算で 2.2kW 級か 7.5kW 級かを判断できれば、設置スペースや電源工事の手戻りが減る。

既設ラインの増設 — 既存のコンプレッサーに新ステーションをぶら下げていいか、それとも 2 台目を並列運転するかの判断に使う。行単位で既設・新設を分けて入力できるので、差分が一目瞭然だ。

老朽化設備の更新 — 20 年前に選定したコンプレッサーを置き換えるとき、当時と今では同じラインでも動作頻度が変わっている。現状の運転データを入力し直して「本当にこのサイズが必要か」を再評価する。

トラブルシューティング — 圧力不足のラインを診断するとき、まず理論消費量を出して、実測(流量計)の値と比較する。差分が大きければ漏れ、小さければ選定不足、という切り分けの一次指標になる。

基本の使い方

  1. 使用圧力を入力 — ラインの供給ゲージ圧を MPa で入力する。一般工場では 0.5〜0.7MPa が多い。
  2. シリンダーを追加 — ボア径・ロッド径・ストローク・毎分動作回数(cpm)・同時稼働率(%)を 1 行ずつ入力していく。同じ仕様が複数本ある場合はまとめて「3 本」として登録するのではなく、毎分動作回数を合算した行 1 つで扱うか、3 行に分けて入力する。
  3. 結果を確認 — 合計エア消費量(NL/min)、必要コンプレッサー吐出量(m³/min)、推奨モータ出力(kW)が自動更新される。行単位の内訳も一覧で出るので、どのシリンダーが消費量を食っているかが分かる。

具体的な使用例

以下の 6 ケースは、実機設計で頻出するパターンを網羅している。どのケースも、このツールに同じ値を入力すれば一致する。

ケース 1:小型検査機の単機運転(φ40×100st, 30cpm, 0.5MPa)

製品をストッパーで押さえる用途のシリンダー 1 本。30 回/分で動き続け、同時稼働率 100%。

  • 合計エア消費量:41.2 NL/min
  • 必要コンプレッサー吐出量:0.076 m³/min
  • 推奨モータ出力目安:0.41 kW

0.75kW 級の小型オイルレスコンプレッサー 1 台で十分、という判断になる。実際には他の用途(エアブロー・真空パッド)があるのでそれと合算するが、検査機単独ならこのクラス。

ケース 2:搬送ラインの並列 2 本(φ63×200st, 20cpm, 0.7MPa)

ワーク搬送用のスライダー 2 連、毎分 20 往復で並列運転。

  • 合計エア消費量:374.7 NL/min
  • 必要コンプレッサー吐出量:0.696 m³/min
  • 推奨モータ出力目安:5.22 kW

5.5kW 級レシプロまたは 7.5kW 級スクリューの境界。将来の増設を見込むなら 7.5kW を選ぶ。

ケース 3:高速組立セル(φ25×50st, 60cpm, 0.6MPa, 単機)

細かい部品の圧入用。動作頻度は高いがシリンダーが小さい。

  • 合計エア消費量:18.8 NL/min
  • 必要コンプレッサー吐出量:0.035 m³/min
  • 推奨モータ出力目安:0.22 kW

単体では 0.75kW 級で余裕。ただしセル内に同タイプが 5 連装されるなら掛け算で 0.09 m³/min となり、1.5kW 級に跳ね上がる。

ケース 4:溶接治具クランプ 3 本並列(φ50×150st, 40cpm, 0.6MPa)

スポット溶接前のワーククランプ。3 本が同じリズムで動く。

  • 合計エア消費量:450.3 NL/min
  • 必要コンプレッサー吐出量:0.836 m³/min
  • 推奨モータ出力目安:5.38 kW

5.5kW 級ギリギリ。治具の追加や動作頻度アップの余地があるなら、7.5kW 級に一段上げておくのが安全側の選定になる。

ケース 5:塗装ブースのスイングアーム(φ80×250st, 15cpm, 0.5MPa, 単機)

大径ストロークだが動作頻度は低め。1 本でも 1 サイクルあたりの消費量が大きい。

  • 合計エア消費量:212.8 NL/min
  • 必要コンプレッサー吐出量:0.395 m³/min
  • 推奨モータ出力目安:2.12 kW

2.2kW 級にちょうど収まる。塗装ブースは塗料供給やエアスプレー分の消費が別途乗るので、本計算はシリンダーだけの参考値として扱う。

ケース 6:大規模プレスラインの型押し 4 本(φ100×300st, 10cpm, 0.7MPa)

プレス金型の型開閉+ノックアウトシリンダー 4 本を同期運転。

  • 合計エア消費量:1424.0 NL/min
  • 必要コンプレッサー吐出量:2.645 m³/min
  • 推奨モータ出力目安:19.83 kW

22kW スクリューコンプレッサーが必須レベル。ここまで来るとレシーバタンク(500L 以上)と配管径 1 インチ以上を併せて検討する必要があり、ツールの免責に書いた通り「配管圧損・非定常動作」を別途加味する段階だ。


6 ケースの傾向 — ボア径が大きくなると、同じ動作頻度でも消費量は径の 2 乗で効いてくる。φ40 → φ80 は面積で 4 倍、ストロークも伸ばせば消費量は 10 倍近くになる。逆に動作頻度を半分に落とすだけで消費量も半分になるので、タクトタイムを見直すだけで 1 ランク小さいコンプレッサーに収まることもある。

仕組み・アルゴリズム

候補手法:ISO 6358 式 vs 簡易絶対圧比式

空気流量の計算には、大きく分けて 2 つの流派がある。

手法 A:ISO 6358 準拠の音速コンダクタンス式 — バルブや配管の「絞り特性」を C 値(音速コンダクタンス)と b 値(臨界圧力比)で表現し、前後圧力差から実際の流量を出す厳密な方法。バルブ選定や圧損計算には必須だが、シリンダー消費量だけを知りたい場合はオーバースペック。入力パラメータが多く、カタログから C・b を拾う手間も大きい。

手法 B:絶対圧比による単純換算式(本ツール採用) — シリンダー 1 サイクルあたりの掃引容積を、使用圧力での絶対圧比で標準状態に換算する。前提は「シリンダーは毎サイクル 0→P→0 まで充放気する」という理想モデル。実際には配管容量やバルブの開閉時間で若干ずれるが、工場全体のコンプレッサー選定という粒度では 5% 以内の誤差に収まる。

ツールでは 手法 B を採用した。理由は (1) 入力項目が最小限で済む、(2) 複数シリンダーの合算が単純和で書ける、(3) 安全率 1.3 倍を掛ければ手法 A との差分を吸収できる、の 3 点だ。厳密なバルブ選定は別ツール(/pipe-sizing など)で対応する分業を想定している。

実装詳細

各シリンダーの計算フローは以下の通り。

// シリンダーごと
Ap       = π × bore² / 4                          [mm²]
Ar       = π × (bore² − rod²) / 4                 [mm²]
Vswept   = (Ap + Ar) × stroke                     [mm³]  ※往復1サイクル
V_NL     = Vswept × (P + 0.1013) / 0.1013 × 1e-6  [NL]
flow_NL  = V_NL × frequency × duty/100            [NL/min]

// 合計
total_NL = Σ flow_NL
Q_m3min  = total_NL × 1.3 / 0.7 / 1000            [m³/min]
kW_motor = Q_m3min × 7.5 × (P / 0.7)              [kW]

安全率 1.3 は漏れと将来増設のバッファ、効率 0.7 は汎用スクリュー/レシプロ機の全効率目安、kW 係数 7.5 は 0.7MPa 吐出時のモータ出力目安(汎用機カタログの中央値)を採用している。圧力が 0.7MPa から離れるほど kW 係数は線形に比例するので、P/0.7 の補正を掛けている。

計算例——ケース 1 を手計算で追ってみる

φ40×100st、0.5MPa、30cpm、duty 100% のケースを 1 ステップずつ確認する。

Ap      = π × 40² / 4 = 1256.64 mm²
Ar      = π × (1600 − 256) / 4 = π × 1344 / 4 = 1055.58 mm²
Vswept  = (1256.64 + 1055.58) × 100 = 231222 mm³
V_NL    = 231222 × (0.5 + 0.1013) / 0.1013 × 1e-6
        = 231222 × 5.9358 × 1e-6
        = 1.3724 NL
flow_NL = 1.3724 × 30 × 1.00 = 41.17 ≈ 41.2 NL/min

Q_m3min = 41.2 × 1.3 / 0.7 / 1000 = 0.0765 m³/min
kW      = 0.0765 × 7.5 × (0.5/0.7)
        = 0.0765 × 5.357 = 0.41 kW

ツールの出力(41.2 NL/min, 0.076 m³/min, 0.41 kW)と完全一致する。この一貫性こそが、メーカー混在ラインで統一した土俵に乗せる最大のメリットだ。

他ツールとの違い

エア消費量の計算ツールはSMCやCKD、KOGANEIといった大手空圧機器メーカーも無償で提供している。ただ、実務で使ってみると「帯に短し襷に長し」と感じる場面が多い。本ツールはその隙間を埋める位置付けだ。

メーカー公式ツールはそのメーカーの型番を選ぶ前提で作られている。SMCのツールでSMC製シリンダーを選べば精度は高いが、CKDやエアテック、汎用中華シリンダーを混在させたラインでは型番が出てこない。結局、ボア径とストロークから手計算することになる。本ツールは型番に依存せずボア径・ロッド径・ストロークの3つの寸法だけで計算するので、メーカー混在ラインでもそのまま入力できる。

次に、複数シリンダーの一括合算。メーカーツールの多くは1本ずつ計算する仕様で、20本30本のラインで総消費量を出そうとするとExcelに転記する二度手間が発生する。本ツールは動的リストで追加・削除でき、合計NL/minを常時表示する。ライン全体のサイジングが1画面で完結する。

さらに、コンプレッサー吐出量とモータ出力まで一気通貫で出す点も差別化ポイント。メーカーのエア消費量ツールはNL/minまでしか出さず、そこから安全率・効率を掛けてkW級を決めるのは設計者側の責任になる。本ツールは安全率1.3、全効率0.7、0.7MPa基準のモータ係数を内蔵し、推奨モータ出力の目安まで表示する。一次スクリーニングにそのまま使える。

最後に、ブラウザで完結し登録もインストールも不要。メーカーサイトに会員登録したりアプリをダウンロードしたりする必要がない。URLを開けばすぐ使える軽さは、現場のタブレットやスマホでの確認作業でも生きる。

豆知識 — ANR規格とSCFMの国際単位互換

圧縮空気の流量単位は国と規格で表記が違い、海外装置を導入したときに混乱しがちだ。整理しておくと仕様書読解がぐっと楽になる。

NL/min(ノルマルリットル毎分) はヨーロッパとアジアで主流の表記。Normal Literの頭文字で、0°C・101.325kPa・乾燥空気を基準にした標準状態の体積を意味する。ISO 2533のNormal Atmosphereが根拠になっている(Wikipedia: Standard conditions for temperature and pressure)。

一方、ISO 6358(空圧機器の流量特性試験)では ANR(Atmosphere Normale de Reference) が規定されている。こちらは20°C・100kPa・相対湿度65%が基準で、NLとは微妙にズレる。SMCやCKDのカタログではANR表記が多い。同じ数字でも基準状態が違うので、厳密には0.3%程度の差が出る。日常設計では無視できるが、コンプレッサーの吐出能力比較では注意したい。

SCFM(Standard Cubic Feet per Minute) はアメリカ標準で、60°F(15.6°C)・14.696psia基準の体積流量。換算は以下の通り。

1 SCFM ≒ 28.32 NL/min
1 m³/min ≒ 35.31 SCFM

例えば「10 SCFM」と書かれたエアツールは約283 NL/minのエアを食う計算になる。輸入ペンキスプレーガンやインパクトレンチのカタログで頻繁に見る単位だ。

さらにややこしいのがACFM(Actual CFM)。こちらは実際の温度・圧力での体積流量で、SCFMとは別物。コンプレッサーの「吐出量はACFMで書かれ、負荷はSCFMで書かれる」ような書類を受け取ると換算ミスが起きやすい。圧力比と温度比で補正する必要があり、慣れないと半日潰れることがある。国際プロジェクトに関わるなら、単位記号を見たら必ず基準状態を確認する癖をつけておきたい。

Tips — 現場で効く小ワザ

  • 漏れ検知だけで消費量20%削減 — 工場全体の圧縮空気のうち20〜30%は配管・継手・ホースからの漏れで失われているという調査報告がある(米国エネルギー省 Compressed Air Tip Sheet)。超音波リークディテクタで年1回点検するだけで、コンプレッサーの稼働時間が目に見えて減る。本ツールの計算値に20%上乗せして選定し、漏れ対策で差分を回収するのが実務感覚。
  • 同時稼働率の設定で過剰投資を防ぐ — 全シリンダーを100%で計算するとコンプレッサーが1ランク上になりがち。実ラインではインターロックやタクトで同時動作しない組合せが多い。タクトタイムを観察し、ピーク時に動いているシリンダーだけ100%、待機側は30〜50%にすると現実的な値が出る。
  • レシーバタンクでピーク吸収 — 瞬間的な大流量はタンク容量で吸収できる。ツール結果で5.5kW級が出ても、1000Lタンクを足せば3.7kWで回せるケースがある。平均消費量とピーク比を見ながらアキュムレータサイジングと併用したい。
  • 冬場は結露対策を忘れずに — 消費量計算は乾燥空気前提だが、実機ではドレンが溜まる。エア消費量が多いラインほどドレン量も多く、オートドレン・エアドライヤの容量も比例して大きくなる。
  • 0.7MPaより低い圧力で回せないか再検討 — 使用圧力を0.7MPa→0.5MPaに下げるだけで消費NL/minは約2/3になり、電気代も比例して下がる。シリンダー推力に余裕があるなら減圧弁で下げる方がコスト効果が高い。

FAQ

メーカー公式カタログの消費量と数字がズレるのはなぜ?

メーカーカタログは「片側ストロークあたり」で表記される場合と「往復1サイクルあたり」で表記される場合がある。本ツールは**往復1サイクル(ピストン側+ロッド側の両掃引容積)**で計算している。カタログが片側表記なら本ツール値のほぼ半分になる。また、基準状態(NL vs ANR)の違いで0.3%程度の差、ロッド径の仮定値の違いでさらに数%の差が出る。大きくズレていなければ妥当と判断してよい。

エアブロー(常時吹付)はどう入力すればいい?

エアブローはシリンダー動作ではないので、このツールの入力欄には合わないが、回避策として「動作頻度 = 60 cpm、同時稼働率 = 100%、ボア・ロッド・ストロークをブロー量に換算」という使い方もできる。ただし本来はノズル径・吹付時間・吹付圧力から計算するほうが正確で、今後のアップデートで専用モードを検討中。暫定では消費量の20〜30%をエアブロー枠としてバッファを持たせる運用が無難。

安全率1.3は妥当な数字?

省エネ法関連の設計指針やJIS B 8341(容積形圧縮機)の運用解説では、設計消費量に対してコンプレッサー吐出量は1.2〜1.5倍程度のマージンを取ることが推奨されている。本ツールは中央値の1.3を採用した。工場全体の漏れが10%未満で管理されていれば1.2で十分、古い工場や季節変動が大きい場合は1.5まで引き上げるのが実務感覚。結果のm³/minに自分の係数を掛け直して微調整してほしい。

モータ出力7.5kW/(m³/min)の係数の根拠は?

汎用スクリュー/レシプロ式コンプレッサーの0.7MPa吐出時のカタログ値を複数メーカー(日立・アネスト岩田・コベルコ・三井精機)で比較した平均値が約7.5kW/(m³/min)だった。実機カタログでは6.5〜8.5kWの範囲に収まる。インバータ機や高効率機は6.5前後、旧式機は8.5前後。本ツールは一次検討用の目安なので、実際のコンプレッサー選定ではメーカーカタログで最終確認してほしい。

複数の圧力系統(0.5MPaと0.7MPa混在)はどう計算する?

本ツールは現状1つの使用圧力しか扱えない。系統が分かれている場合は、圧力ごとにブラウザタブを2つ開いて個別計算し、結果のm³/minを足し算するのが一番確実。将来的には系統別入力に対応したいが、MVPではシンプルさを優先した。なお、減圧弁で分岐している場合は**元圧側(高い方)**の圧力で計算するのが保守的で安全。

連続運転と断続運転でコンプレッサー選定は変わる?

変わる。断続運転なら平均消費量でコンプレッサーを選び、レシーバタンクでピーク差を吸収する方が経済的。連続運転なら本ツールの結果そのままの吐出量が必要になる。判断基準は「ピーク消費量 ÷ 平均消費量」が1.5倍以下なら連続運転扱い、1.5倍を超えるならタンク併用が有効。タンク容量の決め方はアキュムレータサイジングで詳しく扱っている。

まとめ

空圧システムの心臓部はコンプレッサーで、ここの選定を誤るとライン全体が止まる。本ツールは複数シリンダーの合算・絶対圧比換算・安全率と効率の組込みを1画面にまとめ、型番に依存せず寸法ベースで消費量とモータ出力目安を出す。新規立上げでも既設増設でも、一次スクリーニングとして数分で答えが出るはずだ。

詳細設計に進むなら、個別シリンダーの推力確認には空圧シリンダー推力・速度シミュレーター、ピーク吸収用タンクのサイジングにはアキュムレータサイジング、配管径の決定には配管サイズ計算を合わせて使うとよい。不具合や改善要望があればお問い合わせから気軽に知らせてほしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。前職で空圧ラインのコンプレッサー選定を誤り、22kW機への差し替え費用を目の前で見送った経験から、寸法ベースで即判断できるツールが欲しくて作った。

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