「60番」と「265デニール」はどっちが太い?——向きが逆の単位が同じ売り場に並んでいる
手芸店のミシン糸の棚で、片方の糸には「60番」、もう片方には「265デニール」と書いてある。どちらが太いのか、その場で答えられるだろうか。
答えは「同じくらい」だ。ポリエステルスパンのミシン糸60番は、デニールに直すと約265.7デニール。数字だけ見ると4倍以上違うのに、中身はほぼ同じ糸になる。
ややこしいのは、単位によって数字の向きが逆なことだ。番手(綿番手・毛番手・麻番手・ミシン糸の番手)は数字が大きいほど細い。デニール・dtex・tex・PEラインの号数は数字が大きいほど太い。60番より90番のほうが細い糸なのに、200デニールより300デニールのほうが太い糸になる。向きが逆の単位が、ラベルの上では何の断りもなく隣り合っている。
さらに、海外の糸は tex や Nm(メートル番手)で書かれていることが多いし、釣り糸は「号」で売られている。単位ごとに基準の重さも長さもばらばらで、同じ糸を比べるには毎回換算が要る。
このツールは、8つの単位のどれから入れても、全単位の換算値を一度に並べる。そのうえで「結局この糸は何mmなのか」を、素材の比重と充填率から推定直径として出す。数字の向きに迷ったら、まず tex にそろえて比べればいい——そういう道具として作った。
ラベルの数字が読めなかったから作った——換算表の係数を定義から引き直した話
作り始めたきっかけは、ミシン糸の選び直しだった。薄手のローンを縫うのに「60番なら綿の60番手くらいの細さだろう」と思い込んでいたら、実際には60番は60番手の単糸を3本撚った糸で、太さは綿番手の20番手相当だった。思っていた糸の3倍の重さがあったことになる。番手という同じ言葉が、単糸と撚り糸で別の意味を持っている。
調べてみると、換算ページ自体はいくつも見つかる。ただ、多くは「番手からデニールへ」「デニールから dtex へ」のような一方向の換算で、ミシン糸の呼び番手や PE ラインの号数まで一度に並べてくれるものは見当たらなかった。しかも本当に知りたいのは「この糸は何mmか」なのに、単位をいくら換算しても直径は出てこない。重さと長さの比をいくら言い換えても、太さの感覚にはつながらない。
作る途中で、換算係数を一次資料で確かめようと JIS L 0101(テックス方式)の表2を原文で見た。綿番手・毛番手・デニールの換算式が並ぶなかで、麻番手の式が「テックス=165.3/麻番手」と印字されていた。
ところが、同じ表に載っている麻番手の単位——1ポンド=453.59g、300ヤード=274.34m——から計算すると、係数は 453.59 ÷ 274.34 × 1000 = 1653.4 になる。印字の165.3とは、ちょうど10倍ずれている。麻番手25の糸で比べると、印字どおりなら 165.3÷25=6.612 tex、定義から導けば 66.14 tex。前者だとミシン糸90番(19.68 tex)よりずっと軽い糸になり、麻番手25がミシン糸30番とほぼ同じ重さになる後者と、桁がひとつ違ってしまう。表の単位から導いた値と印字の式が食い違っているので、ここは印字の誤りと判断した。
この一件で、丸めた係数を表から写すのはやめることにした。係数はすべて、国際ポンド(453.59237g)とヤード(0.9144m)の定義値と、各番手の定義長から式で導いている。綿番手の係数も、表の丸め値590.5ではなく定義から出る590.541を使う(差は0.007%)。どの単位から入れても同じ結果になるよう、換算は必ず tex を経由させた。
糸の番手とデニールの違い——重さと長さで太さを測る
糸 番手 とは——直径ではなく「重さと長さの比」で測る理由
糸の太さを定規で測るのは難しい。糸は柔らかく、押せば潰れ、撚りによって断面が楕円にも毛羽立ちにもなる。そこで繊維の世界では、太さを直径ではなく重さと長さの比で表してきた。これなら秤と巻き尺だけで、誰が測っても同じ値になる。
比の取り方には2通りある。
- 恒重式: 決まった重さの糸が何本分(何単位の長さ)あるかで表す。これが「番手」。重さを固定しているので、細い糸ほど長くなり、数字が大きいほど細い
- 恒長式: 決まった長さの糸が何グラムあるかで表す。デニール・tex・dtex がこちら。長さを固定しているので、太い糸ほど重くなり、数字が大きいほど太い
そうめんで考えると分かりやすい。同じ1kgの束でも、細い麺ほど全部つなげたときの長さは長くなる——これが番手の見方だ。一方、同じ1mぶんを量ると、太い麺ほど重い——これがデニールの見方になる。同じ麺を逆の方向から見ているだけで、どちらも太さの情報としては等価だ。
番手の中でも、基準の重さと長さが素材ごとに違う。
| 単位 | 方式 | 定義 |
|---|---|---|
| 綿番手(Ne) | 恒重式 | 1ポンドで840ヤードあれば1番手 |
| 麻番手(NeL) | 恒重式 | 1ポンドで300ヤードあれば1番手 |
| 毛番手(Nm・メートル番手) | 恒重式 | 1gで1mあれば1番手(1kgで1km) |
| デニール(D) | 恒長式 | 9000mで1gなら1デニール |
| テックス(tex) | 恒長式 | 1000mで1gなら1 tex |
| デシテックス(dtex) | 恒長式 | 10000mで1gなら1 dtex |
綿と麻がポンドとヤードなのは、英国の紡績業で生まれた単位だからだ。単位ごとの定義は JIS L 0101 テックス方式 の表2と、英語版 Wikipedia の Units of textile measurement にまとまっている。
デニール とは——tex・dtex との関係
恒長式の3つは、基準長が違うだけの兄弟だ。tex は1000mあたりのグラム数、dtex はその10倍の長さ(10000m)あたり、デニールは9000mあたり。したがって互いの関係は単純な掛け算で済む。
dtex = tex × 10
デニール = tex × 9
ストッキングやフィラメント糸はデニール、工業用・輸出入の仕様書では dtex、国際規格の表示では tex が使われることが多い。JIS L 0104 は糸の表示に tex 方式を使うよう定めていて、「単糸 84 dtex」「40 tex」のような書き方を例示している。
番手 デニール 換算——すべて tex にそろえる
恒重式の番手も、定義の重さと長さを tex(g/1000m)に直せば、tex との関係が1本の式で書ける。綿番手Neの糸は、453.59237gで 840×Ne ヤード(=840×0.9144×Ne メートル)ある。1000mあたりの重さに直すと次のようになる。
綿番手の係数 NE_K = 453.59237 ÷ (840 × 0.9144) × 1000 = 590.541
麻番手の係数 NEL_K = 453.59237 ÷ (300 × 0.9144) × 1000 = 1653.52
tex = 590.541 ÷ 綿番手
tex = 1653.52 ÷ 麻番手
tex = 1000 ÷ 毛番手(メートル番手)
tex = デニール ÷ 9
tex = dtex ÷ 10
番手系は tex と反比例、デニール系は tex と比例する。数字の向きが逆になるのはこのためだ。前の節で触れた麻番手の係数1653.5も、この式にポンドとヤードの定義値を入れれば出てくる。
たとえば綿番手40の糸は 590.541÷40=14.76 tex。デニールに直すと 14.76×9=132.9 デニールになる。番手とデニールを直接つなぐ式を覚える必要はなく、いったん tex にすればどの単位にも移れる。
双糸・三子の表記とミシン糸の番手
撚り糸の番手は「40/2」「60/3」のように書く。斜線の左が単糸の番手、右が撚り合わせた本数だ。40番手の単糸を2本撚れば重さは2倍になるので、恒重式の番手は半分の20番手相当になる。60/3 も同じ理屈で、60番手を3本撚って20番手相当だ。
家庭用のミシン糸の「60番」「30番」という呼び番手は、この三子(3本撚り)の単糸番手を指すのが慣例になっている。つまり60番=60/3=綿番手20相当、30番=30/3=綿番手10相当。式にすると次のとおり。
tex = 590.541 × 3 ÷ ミシン糸の番手
ただしこれは「三子を綿番手で数えた呼び番手」とみなした換算だ。2本撚りのミシン糸、フィラメント糸(長繊維)のミシン糸、メーカー独自の呼びをしている糸は、同じ「60番」でも太さが違う。このツールも三子の前提で換算しているので、ラベルに撚り本数が書いてあれば確かめてほしい。
PEラインの号数
釣り糸の PE ラインの号数は、重さで決まる恒長式の仲間だ。日本釣用品工業会の定義では、1号=200デニール。
号数 = デニール ÷ 200
tex = 号数 × 200 ÷ 9
1号は 200÷9=22.22 tex になる。ミシン糸60番の29.53 tex より少し軽い糸、という位置関係がこれで読める。
糸の太さを取り違えると何が起きるか
ミシン糸の番手を生地に合わせないと
ミシン糸の番手は、生地の厚さと組で選ぶのが基本だ。薄地に90番、普通地に60番、厚地に30番というのが目安になる。
ミシン糸60番は29.53 tex、30番は59.05 tex。30番は60番のちょうど2倍の重さがある。推定直径でいえば0.2131mm と0.3013mm で、約1.41倍(√2倍)太い。数字の上では「60と30」で半分に見えるが、実際には断面積で2倍、直径で1.4倍の差になる。
この差を取り違えると、実害ははっきり出る。厚地(デニムや帆布)を細い糸で縫えば、縫い目にかかる力に糸が耐えきれず、洗濯や着用のたびに糸切れが起きる。逆に薄地を太い糸で縫うと、糸が布の中で場所を取りすぎて縫い目が引きつり、布が波打つ「パッカリング(縫い縮み)」になる。パッカリングは縫い直しても布に針穴が残るので、薄地では取り返しがつかないことも多い。
ミシン針にも番号があり、こちらは家庭用なら9号・11号・14号のように数字が大きいほど太い。糸の番手とは向きが逆なので、「60番の糸には11号の針」のような組み合わせを、数字の大小の感覚だけで決めると間違えやすい。
毛糸の代用を表記だけで決めると
編み物で指定の毛糸が廃番になり、別の毛糸で代用する場面は多い。ここで「中細」「並太」という呼び方だけで選ぶと、メーカーごとの幅に振り回される。同じ「中細」でも、40g玉で160mのものと、40g玉で140mのものでは、1gあたりの長さが違う。
1gあたりの長さはそのまま毛番手(Nm)なので、Nm4 と Nm3.5 のように数字で比べれば、太さの差がすぐ分かる。表記の近さで選んで編み始め、途中でゲージが合わずにほどき直す——という手戻りの多くは、ラベルの「◯g ◯m」を比べていれば避けられる。
釣り糸の号数は太さではなく重さ
PE ラインの号数は、直径ではなくデニール(重さ)で定義されている。1号は200デニールで、隙間のない中実の糸と仮定したときの標準直径が0.171mm だ。ところが PE ラインは細い繊維を編み込んだ糸なので、実物には繊維と繊維の隙間がある。同じ1号でも、編み本数やコーティングによって実際の直径は標準直径より太くなる。
号数を太さそのものだと思っていると、ガイドの通りや糸巻量の見積もりで食い違いが出る。号数は「重さの目盛り」で、太さはそこから推定するもの、という順序を押さえておきたい。
糸の単位の読み替えが役に立つ場面
ミシン糸の選び直し。手元の糸に「#60」とだけ書いてあって、別メーカーの糸がデニールや dtex で表示されているとき。どちらも tex にそろえれば、同じ太さの糸かどうかが数字で比べられる。三子の呼び番手として換算するので、近い市販のミシン糸番手(30・50・60・90番)も合わせて示される。
海外の糸と国内の番手の読み替え。輸入のコットン糸や刺繍糸、ネット通販の海外製品は、tex や Nm、あるいは「Ne 40/2」のような英式番手で表示されていることが多い。国内の感覚で「何番くらいか」を知りたいとき、単位を選んで数字を入れるだけで国内の呼び方に置き換わる。
毛糸の代用品探し。指定の毛糸と候補の毛糸のラベルから、1gあたりの長さ(Nm)を出して比べる。Nm が近ければ、太さも近い。素材を羊毛とアクリルで切り替えると、同じ Nm でも比重が軽いアクリルのほうが推定直径は太くなることも確かめられる。
PE ラインとミシン糸の太さ比べ。釣り糸の号数は手芸の単位とまったく別の世界に見えるが、どちらも tex に直せば同じ物差しに乗る。PE 1号は22.22 tex で、ミシン糸60番(29.53 tex)より少し軽い。「補修に使う糸として PE ラインは太すぎないか」のような、分野をまたぐ比較もできる。
基本の使い方——3ステップで換算と直径を出す
ステップ1: 単位を選んで値を入れる
入力する単位を、綿番手・毛番手・麻番手・デニール・dtex・tex・ミシン糸の番手・PE ラインの号数の8つから選び、ラベルの数字を入れる。小数も入れられる(1.5号、Nm 3.5 など)。よく使う糸は「ミシン糸 60番」「ミシン糸 30番」「PEライン 1号」「中細毛糸の例」「綿の単糸 40番手」の5件から選べば、単位・値・素材・充填率がまとめて入る。入力欄の近くに、番手系とデニール系で数字の向きが逆であることが注記されている。
ステップ2: 素材と充填率を選ぶ
素材(綿・麻・羊毛・絹・ポリエステル・ナイロン・アクリル・レーヨン・ポリエチレン)と、充填率(1.00・0.65・0.60・0.55・0.50)を選ぶ。この2つは推定直径にだけ使う。tex やデニールなどの換算値は、素材を変えても一切変わらない。充填率は糸の断面のうち繊維が占める割合で、釣り糸のような単繊維(モノフィラメント)なら1.00、撚った紡績糸なら0.5〜0.65が目安だ。迷ったら標準の0.60のままでいい。
ステップ3: 換算値と推定直径を読む
tex を中心に、dtex・デニール・綿番手・毛番手・麻番手・ミシン糸の番手・PE の号数相当、1kgあたりの長さが一度に表示される。推定直径は、基準の「ミシン糸60番」の太さと並べた断面の図でも確かめられる。ミシン糸の番手帯(24〜112.5番)に入る糸なら、近い市販番手(30・50・60・90番)も示される。結果はまとめてコピーできる。
具体的な使用例——8ケースで番手とデニールを読み替える
数値は tex・デニールなどの換算値を有効数字4桁、推定直径を有効数字4桁(mm)で揃えている。直径は比重と充填率から出した推定値で、撚りや潰れ方で実物は前後する。
ケース1: ミシン糸 60番(ポリエステルスパン)
- 入力: ミシン糸の番手 60、素材 ポリエステル、充填率 0.60
- 結果: 29.53 tex / 295.3 dtex / 265.7 デニール / 綿番手 20.0 / 毛番手 33.87 / 麻番手 56.0 / PE号数相当 1.329 / 1kgあたり 33,867 m / 推定直径 0.2131 mm / 近い市販番手 60番
- 解釈: 冒頭の「60番と265デニール」の答えがこれだ。綿番手が20.0になるのは、60番=60番手を3本撚った糸だから。普通地用の定番の太さは、直径にすると0.2mm強と読める。
ケース2: ミシン糸 30番(厚地用)
- 入力: ミシン糸の番手 30、素材 ポリエステル、充填率 0.60
- 結果: 59.05 tex / 531.5 デニール / 綿番手 10.0 / 1kgあたり 16,934 m / 推定直径 0.3013 mm / 近い市販番手 30番
- 解釈: tex はケース1のちょうど2倍、直径は0.3013÷0.2131=約1.41倍。「60番の半分の番手」は「2倍の重さ・1.4倍の太さ」を意味する。厚地用に30番へ替えるとき、見た目の太さの変化は数字の印象ほど大きくない。
ケース3: PE ライン 1号(充填率1.00)
- 入力: PE ラインの号数 1、素材 ポリエチレン(PE)、充填率 1.00
- 結果: 22.22 tex / 200.0 デニール / 綿番手 26.57 / 毛番手 45.0 / ミシン糸の番手 79.72 / 推定直径 0.1708 mm / 近い市販番手 90番
- 解釈: 推定直径0.1708mm は、日本釣用品工業会の PE 1号の標準直径0.171mm と一致する(差0.1%)。つまり釣り糸の号数の標準直径は、繊維の隙間がない「中実」として計算した値だ。編み込みの PE ラインの実物はこれより太い。ミシン糸でいえば90番寄りの重さ、と分野をまたいで読める。
ケース4: 中細毛糸(40g玉・約160m)
- 入力: 毛番手 4(40gで160m = 1gあたり4m)、素材 羊毛、充填率 0.60
- 結果: 250.0 tex / 2,250 デニール / 綿番手 2.362 / 1kgあたり 4,000 m / 推定直径 0.6340 mm / ミシン糸の番手帯の外
- 解釈: ラベルの「40g 160m」を割り算するだけで毛番手が出る。素材をアクリルに替えると、換算値は同じまま推定直径は0.6734mm に太る(比重1.32→1.17で約6%)。ただし毛糸は甘撚りでふくらみがあるので、見た目の太さはこの推定より太いことが多い。
ケース5: 綿の単糸 60番手
- 入力: 綿番手 60、素材 綿、充填率 0.60
- 結果: 9.842 tex / 88.58 デニール / ミシン糸の番手 180 / 1kgあたり 101,602 m / 推定直径 0.1165 mm / ミシン糸の番手帯の外
- 解釈: 「60」という数字はミシン糸60番と同じでも、単糸の60番手は9.842 tex で、ミシン糸60番(29.53 tex)の約1/3の重さしかない。ミシン糸の番手に直すと180番になり、市販のミシン糸の番手帯から外れる。冒頭で書いた取り違えは、まさにこの差だった。
ケース6: JIS の表示例「単糸 84 dtex」(ポリエステル)
- 入力: dtex 84、素材 ポリエステル、充填率 0.60
- 結果: 8.400 tex / 75.60 デニール / 綿番手 70.30 / ミシン糸の番手 210.9 / 推定直径 0.1137 mm
- 解釈: JIS L 0104 が例に挙げる表示を読み替えると、75デニール級の細いフィラメント糸になる。衣料の裏地やブラウス地でよく見る太さだ。ミシン糸の番手帯には入らないので、縫い糸としてではなく生地を構成する糸の太さとして読むのが正しい。
ケース7: 麻番手 25(麻)
- 入力: 麻番手 25、素材 麻、充填率 0.60
- 結果: 66.14 tex / 595.3 デニール / 綿番手 8.929 / ミシン糸の番手 26.79 / 推定直径 0.3059 mm / 近い市販番手 30番
- 解釈: 麻番手25はミシン糸30番とほぼ同じ重さ・太さになる。JIS の表に印字された係数165.3で計算すると6.612 tex と1/10になり、この「30番相当」という実感と合わない。定義から導いた係数が正しいことの、手触りのある確認にもなる。
ケース8: 20 デニール(ナイロン)
- 入力: デニール 20、素材 ナイロン、充填率 0.60
- 結果: 2.222 tex / 22.22 dtex / 毛番手 450.0 / PE号数相当 0.1 / 1kgあたり 450,000 m / 推定直径 0.06432 mm
- 解釈: 20デニールは薄手ストッキングの表示でおなじみの数字だ。1kgで450km、直径は0.06mm台と、髪の毛(おおむね0.05〜0.1mm)と同じくらいの細さになる。PE の号数に置き換えると0.1号相当で、極細の釣り糸と同じ重さの領域だと分かる。
仕組み・アルゴリズム——tex を唯一の中間量にする設計
手法の比較: 相互換算式を持つか、tex にそろえるか
8つの単位を相互に換算するやり方は2つ考えられる。
- 単位の組ごとに換算式を持つ方式: 綿番手→デニール、デニール→麻番手……と、8×7=56通りの式を用意する。市販の換算表はたいていこの形で、係数が式ごとに丸めて載っている
- tex に一度そろえる方式: 入力をまず tex に直し、tex から全単位に展開する。係数は単位ごとに1つ、計8個で済む
1の方式は、係数の丸め方が式ごとに少しずつずれるので、A→B→A と往復したときに元の値に戻らないことがある。麻番手の係数のような転記ミスが1つの式に紛れ込んでも、他の式と突き合わせない限り気づけない。2の方式なら、入力経路によらず同じ tex を通るので、どの単位から入れても結果が一致する。係数も前半で導出した8つだけで、それぞれポンドとヤードの定義値から式で生成しているので、転記の余地がない。このツールは2を採用した。
直径の推定: 断面積から円に戻す
換算値は重さと長さの比なので、直径を出すには「その重さの繊維がどれだけの体積を占めるか」が要る。計算の流れは次のとおり。
1cmあたりの質量 [g/cm] = tex × 1e-5
断面積 A [cm²] = tex × 1e-5 ÷ (比重 × 充填率)
直径 d [mm] = 2 × √(A ÷ π) × 10
比重は繊維そのものの密度(g/cm³)、充填率は糸の断面のうち繊維が占める割合だ。紡績糸は繊維のあいだに空気を含むので、見かけの断面積は「繊維だけの断面積÷充填率」に膨らむ。最後に断面を円とみなして直径に戻す。
ケース1(ミシン糸60番・ポリエステル・充填率0.60)で追ってみる。
tex = 29.5271
比重×充填率 = 1.38 × 0.60 = 0.828
A = 29.5271 × 1e-5 ÷ 0.828 = 3.56607e-4 cm² = 0.0356607 mm²
d = 2 × √(0.0356607 ÷ π) = 0.2131 mm
直径は tex の平方根に比例するので、tex が2倍のミシン糸30番は √2 倍の0.3013mm になる。ケース2で見た「2倍の重さ・1.41倍の太さ」はこの関係から来ている。
充填率 0.60 を標準にした根拠
紡績糸の直径の経験式として古くから使われているのが、F. T. Peirce の綿糸の式だ。
d [インチ] = 1 ÷ (28 × √Ne)
綿60番手に当てはめると 1÷(28×√60) インチ=0.1171mm。このツールで綿・充填率0.60として計算した0.1165mm(ケース5)との差は0.5%に収まる。Peirce の式は糸の比容積を約1.1 cm³/g とみなした式に相当し、綿の比重1.54で割り戻すと充填率は 1÷(1.1×1.54)=0.590 になる。標準の0.60はこの値をきりのいい数字にしたものだ。
選択肢は1.00・0.65・0.60・0.55・0.50の5段階にした。1.00は隙間のない中実で、釣り糸の号数の標準直径がこの定義で決まっているため(ケース3の0.171mm との突合はこれがないと成立しない)。0.50〜0.65は紡績糸の撚りの強弱の幅で、0.50と0.65では直径に √(0.65/0.50)=約1.14倍の差が出る。撚りの甘い糸ほど小さい充填率を選ぶ。
比重の出典と、幅のある値の選び方
比重は繊維学会『繊維便覧 第3版』(2004)の繊維の性能表から取った。綿1.54・麻1.50・羊毛1.32・絹1.33・ナイロン1.14・ポリエステル1.38 は一点の値が載っている。幅で載っているものは次のように選んだ。
- ポリエチレン(0.97〜0.98)→ 0.97: 下端の0.97を採ると、PE 1号・充填率1.00で0.1708mm となり、釣具業界の標準直径0.171mm と一致する。既存の標準値と突き合わせられる側に寄せた
- アクリル(1.14〜1.17)→ 1.17、レーヨン(1.50〜1.52)→ 1.52: 上端を代表値にした。幅の両端で直径の差はアクリルで √(1.17/1.14)=約1.3%、レーヨンで約0.7%にとどまり、充填率の選び方(最大約14%)に比べて一桁小さい。どちらを採っても推定の精度にはほとんど効かないので、表の上端をそのまま使っている
直径は、こうした代表値と円形断面の仮定を重ねた推定だ。撚りの強さ、糸の潰れ方、毛羽やふくらみで実物は前後する。換算値(tex やデニール)は定義どおりの厳密な値、直径は目安——この2つの精度の違いを分けて読んでほしい。
番手換算サイトとの違いと、手芸・釣りツールとの役割分担
既存の換算ページが単方向で直径まで届かない、という前提は前半で触れたとおりなので、ここでは具体的に何ができて何をしないかを並べておく。
1. 8つの単位を一度に全部出す。 綿番手・毛番手(メートル番手)・麻番手・デニール・dtex・tex・ミシン糸の番手・PEラインの号数のどれから入れても、残り7つが同時に並ぶ。よくある換算ページは「番手→デニール」のように入口と出口が1組ずつなので、3つ以上の表記を比べたいときは何度もページを行き来することになる。
2. 入口が違っても答えが揃う。 内部ではいったん tex にそろえてから全単位へ展開しているので、デニールから入れても綿番手から入れても、同じ糸なら同じ値に戻ってくる。係数を単位ごとに丸めて持つ換算表だと、往復したときに末尾の桁がずれることがある。
3. ミシン糸の番手とPEラインの号数を「単位」として扱う。 手芸店や釣具店で実際に目にする表記は、繊維業界の番手ではなくこの2つであることが多い。どちらも入力欄から直接選べる。
4. 素材ごとの比重と充填率から直径を推定する。 単位の換算だけでは「で、何mmなのか」に答えられない。素材を9種から選び、断面の詰まり具合を5段階から選ぶと、推定直径と断面積まで出る。直径は推定値で、実物は撚りや潰れ方で前後する——この限定は結果にも常に注記として添えられる。
5. 1kgあたりの長さと、近い市販のミシン糸番手も出す。 糸を「長さで買う」か「重さで買う」かを読み替えるときや、手持ちの糸がミシン糸の30・50・60・90番のどれに近いかを見るときに使う。
関連ツールとは、扱う量で役割を分けている。毛糸必要量計算はゲージと作品サイズから必要な玉数を、手縫い糸カルキュレーターは縫う距離から必要な糸の長さを出すツールで、どちらも「糸の太さの単位」には踏み込まない。このツールはその手前、「この糸はどれくらいの太さか」を共通の物差しにそろえる役だ。釣り糸スペック換算+糸巻量計算とは PE の号数の定義(号数=デニール÷200)を共有していて、太さの読み替えはここ、強度(lb)やリールへの糸巻量はあちらと分担している。生地の用尺や作品の原価は、それぞれ生地用尺カリキュレーター・ハンドメイド原価・利益シミュレーターの担当だ。
豆知識:デニールは銀貨、番手は「かせ」の数だった
デニールは中世フランスの銀貨の名前
デニール(denier)という言葉は、もともと中世フランスで使われた小さな銀貨の名前だ。語源はローマのデナリウス銀貨(denarius)にさかのぼる。小さな銀貨は重さのそろった身近なおもりでもあり、それが絹糸の重さを量る単位に転じたとされている。生糸・絹の取引から始まった単位が、ナイロンやポリエステルといった合成繊維に引き継がれ、ストッキングの「◯デニール」のような形で日常語になった。
番手の数字は「1ポンドの中に、かせが何個あるか」
番手のほうは、糸を巻き取った束——かせ(hank)——の数を数える発想から来ている。前半の定義表に並んだ綿の840ヤード・麻の300ヤードは、もともと素材ごとに慣習で決まっていた1かせの長さだ(Wikipedia: Hank)。1ポンドの糸からかせがいくつ取れるか、その個数がそのまま番手になる。英語で yarn count と呼ぶのはこのためで、「数が多いほど細い」という逆向きの目盛りも、かせを数えていた名残と考えると腑に落ちる。
ちなみに手芸用の毛糸は、いまはかせの長さではなく重さ(50g 玉・40g 玉など)で売るのが一般的で、長さのほうは製品ごとに違う。ラベルに「◯g ◯m」と両方書いてあるのはそのためだ。
tex は「置き換えるため」に作られた単位
番手・デニールが業界と地域ごとにばらばらだったのを整理しようと、国際的な統一単位として推されたのが tex(1,000m あたりのグラム数)だ。十進で、長さもメートルなので、ほかのSI単位と素直につながる。日本の JIS L 0101 テックス方式 は参考規格に ISO 2947 を挙げている。その題名は「伝統的な番手を、丸めた tex 値で置き換えるための統合換算表」——最初から置き換えを目的にした規格だ。JIS の表示方法の節も、従来の番手で書くなら括弧で相当する tex を添える、という例を並べている。
それでもポンド・ヤードの番手が消えない理由
それでも綿糸の世界では、いまも英式の綿番手が現役だ。明治期に日本の紡績業がイギリス製の紡績機とともに技術を導入し、糸の取引・機械の設定・生地の仕様書まで番手を軸に積み上げてきたので、単位だけを差し替えるのは現場にとって割に合わない。一方で毛糸はメートル番手、化学繊維はデニールや dtex と、同じ国の中でも業界ごとに違う物差しが並存している。英語版 Wikipedia でも、tex はカナダや欧州大陸で、デニールは米国でよく使われると紹介されている(Units of textile measurement)。統一単位がありながら古い単位が生き残る——換算の道具が今も要るのは、この歴史のせいだ。
糸の太さを暗算・実測するTips
1. 5つの割り算・掛け算だけ覚えておく。 手元にツールが無くても、tex への概算はこれで足りる。
tex ≒ デニール ÷ 9
tex = dtex ÷ 10
tex = 1000 ÷ 毛番手(メートル番手)
tex ≒ 590 ÷ 綿番手 (綿番手 × tex ≒ 590)
tex ≒ PEの号数 × 22.2 (号数 × 200 ÷ 9)
dtex とデニールはほぼ同じ大きさ(1 dtex = 0.9 デニール)なので、ざっくり比べるだけなら「同じくらいの数字なら同じくらいの太さ」と見てよい。
2. ラベルの無い糸は、長さを測って量る。 残り糸や外したかせのように表記が無い糸は、巻き尺で長さを測ってキッチンスケールで量れば tex が出る(tex = 重さ[g] ÷ 長さ[m] × 1000)。細い糸ほど重さが小さく0.1g単位のスケールでは誤差が大きいので、測る長さを長めに取るのがコツだ。中細毛糸(250 tex)なら10mで2.5gほどになる。
3. 直径は「鉛筆に10回巻いて幅を測る」。 糸1本をノギスで挟むと潰れてしまうので、鉛筆や丸棒にすき間なく10回巻き、巻いた幅を定規で測って10で割る。手織りや編み物で wraps per inch(1インチに何回巻けるか)と呼ばれる測り方の応用だ。実測が推定直径より太めに出るのは毛羽とふくらみのせいで、糸が悪いわけではない。
よくある質問(糸の番手・デニール換算)
Q: 双糸(40/2)や三子(60/3)の表記は、どう入力すればいい?
分子を分母で割った値を「綿番手」の欄に入れてほしい。40/2 なら 20、60/3 も 20 だ。スラッシュ付きの合糸表記をそのまま読み取る機能はまだ無いので、割り算だけ先に済ませる。60/3 のミシン糸なら「ミシン糸の番手」を選んで 60 と入れても同じ糸として計算され、綿番手の欄に 20.0 と出る。どちらの入口から入れても tex は同じ 29.53 になるので、手元の表記に近いほうを選べばいい。合糸表記の読み方そのものは前半の解説にまとめてある。
Q: メーカーが公表している直径や、自分で測った太さと合わないのはなぜ?
このツールの直径は、比重と充填率から円形断面を仮定して出した推定値だからだ。実物の糸は撚りの強さ、糸の潰れ方、毛羽、仕上げ加工で太さが変わる。比重と充填率の決め方は前半の仕組みの節で説明したとおり。ずれが気になるときは充填率を振ってみてほしい。ミシン糸60番(ポリエステル)なら、充填率 0.65 で約 0.205mm、0.60 で約 0.213mm、0.55 で約 0.223mm と、同じ糸でも1割近い幅がある。実測値がこの幅に収まっていれば、糸の表記とツールの換算は食い違っていない。PEラインは編み込みのぶん、標準直径より実物が太くなるのが普通だ。
Q: 2本撚りのミシン糸やフィラメント糸の番手を入れても大丈夫?
注意が要る。このツールはミシン糸の番手を「3本撚り(三子)を綿番手で数えた呼び番手」として換算している。2本撚りの糸、ポリエステルやナイロンのフィラメント糸、メーカー独自の呼び番手は、同じ「60番」でも太さが違う。ラベルに dtex や tex、「50/2」のような撚り本数つきの表記があるなら、そちらを優先して入力してほしい(撚り本数つきなら上の質問と同じく割り算してから綿番手の欄へ)。番手しか書かれていない糸は、結果を「三子なら」という目安として読むのが安全だ。
Q: 「近い市販のミシン糸番手」が出ず、番手帯の外と表示されるのはなぜ?
ミシン糸番手に換算した値が 24〜112.5 の範囲にあるときだけ、30・50・60・90番のうち最も近いものを示しているからだ。範囲の端は含むので、ちょうど 112.5 なら90番、ちょうど 24 なら30番と出る。綿の単糸や極細のフィラメントのように、この帯よりずっと細い(または太い)糸を無理に「◯番相当」と呼ぶと、かえって選び間違いのもとになる。帯の外と出たら、tex やデニールの値のほうで比べてほしい。
Q: ナイロンやフロロカーボンの釣り糸の号数も入力できる?
おすすめしない。このツールの「PEラインの号数」はデニール÷200 という重さベースの定義で換算している。ナイロン・フロロ・エステルの号数は直径で決まっているので、同じ「1号」でも中身が別物だ。PE以外の釣り糸の太さや強度を読み替えたいなら、号数と lb と mm を直接換算できる釣り糸スペック換算+糸巻量計算を使ってほしい。
Q: 入力した糸の情報はどこかに送信される?
送信されない。換算も直径の推定も、すべて開いているブラウザの中で計算している。入力した番手や素材がサーバーに保存されたり、ほかの人に見られたりすることはない。仕入れ予定の糸の仕様を入れて比べても、外に出ていく心配は無い。
まとめ:糸の太さは tex にそろえてから比べる
番手とデニールは数字の向きが逆で、ミシン糸の番手や釣り糸の号数はさらに別の約束で決まっている。まず tex という共通の物差しにそろえてしまえば、表記の違う糸同士もまっすぐ比べられるし、直径の目安も出せる。
太さが分かったら、次は量の計算だ。編み物なら毛糸必要量計算、手縫いなら手縫い糸カルキュレーター、生地の準備は生地用尺カリキュレーター、販売価格を決めるならハンドメイド原価・利益シミュレーターが使える。PEラインの強度や糸巻量は釣り糸スペック換算+糸巻量計算で確かめてほしい。
扱ってほしい単位や素材、換算結果のおかしな点に気づいたら、お問い合わせページから気軽に知らせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。ミシン糸の「60番」を綿の単糸60番手と同じ細さだと思い込み、薄地に合わせて糸を選び間違えたことがある。60番が60番手を3本撚った糸だと知ってからは、番手を見たら撚り本数まで確かめるようにしている。
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