ロボットを速くした週に、φ40のパッドが鋼板を落とした
吸着ハンドの図面を描くたびに、カタログの技術資料ページに載っている式を電卓で叩く。ワーク5kg、パッド4個、真空圧−60kPa、安全係数4。答えは32.3mm、標準径に切り上げてφ40。立ち上げのときは何の問題もなく吸えていた。
半年後、タクト短縮でロボットの加減速を上げた。上下も横も5m/s²、約0.5G。その週のうちに、鋼板が搬送の途中でずれて落ちた。
あとから計算し直すと理由ははっきりしている。φ40を4個、有効径比0.6(吸着時に効いている径が公称の6割)で見た理論吊上げ力は合計108.57N。加速度ゼロなら重さ49.03Nに対して2.21倍の余裕がある。ところが上下と横に5m/s²ずつかかると、横の慣性力を摩擦で受けるぶんまで含めた搬送荷重は124.03Nに膨らみ、余裕は0.875倍。吊上げ力のほうが負けていた。安全係数4という数字は、加速度を一度も見ていなかったわけだ。
このツールは、ワークの質量・吊り方・上下と横の加速度・摩擦係数から理論搬送荷重を出し、真空圧とパッド数から1個あたりに必要な有効吸着面積と標準パッド径を逆算する。径や型番が決まっていれば、そのパッドで実効の安全率がいくつ残るかも判定する。電卓の式を1本だけ信じて径を決める前に、加速度を入れた答えと並べて見てほしい。
安全係数4と安全率1.5は、同じ物差しの数字ではなかった
真空パッドの選定式は、メーカーがちゃんと公開している。困るのは、PDFに式が載っているだけで計算はさせてくれないこと、そしてメーカーごとに式の前提がまるで違うことだ。
ミスミの『吸着パッド概要』に載っている簡易式は、必要パッド径を D = 2√(M×9.8×S×1000/(π×n×P)) で出す。安全係数 S は水平吊りで4、垂直吊りで8。D は公称径で、資料は安全係数に変形分も含めていると明記している。加速度の項は無い。つまり S=4 の中に、ゴムが潰れて有効径が縮むぶんも、搬送中の揺れも、まとめて畳み込んである。
一方 SMC の『真空用機器 機種選定方法』は、加速度 a と摩擦係数 μ を式の中に出し、Fth = m×(g + a/μ)×α のように理論搬送荷重を組み立てる。安全率 α は1.5〜2.5程度で、面積には型番ごとにカタログが載せている有効吸着面積を使う。変形はカタログ値の側で、加速度は式の側で、それぞれ別に扱っている。
だから「ミスミは安全係数4、SMCは1.5、SMCのほうが攻めている」と読むのは間違いになる。SMC の段ボールの選定例では、横に3Gで振るので理論搬送荷重が重さの約12倍(588.07N ÷ 49.03N)まで膨らむ。同じ条件をミスミの簡易式に入れると、12個ならφ20で足りる答えになる。SMC 自身はこの荷重を、φ50のパッドを14個並べて受けている。
困ったことに、どちらの資料にも相手の前提は書いていない。両方の式を毎回手で回して見比べるのは面倒で、結局どちらか1本で済ませてしまう。それなら1画面に並べて、差がどこから来るのかを数字で見せればいい——というのがこのツールを作った動機だ。
担当範囲は「吸う側」に絞った。パッドの径と数、真空圧、それで保持できるかどうか。ハンドを上下させるシリンダの推力は 空圧シリンダ選定シミュレーター、シリンダ群が食うエアの量は エア消費量・コンプレッサー選定 に任せている。
真空パッドの吸着力は「吸う力」ではなく大気圧の押しつけ
真空パッド 吸着力 計算の出発点
風呂場の鏡に貼った吸盤をはがそうとして、思ったより手応えがあった経験は誰にでもあると思う。あの手応えの正体は、吸盤が鏡を「吸っている」力ではない。吸盤の内側の空気が薄くなり、外側の空気が吸盤を鏡に押しつけている力だ。
地表の空気は、何もしなくても 大気圧 として約101.3kPaで四方から押している。パッドの内側を真空ポンプやエジェクタで引いて、外より P[kPa] だけ圧力を下げると、その圧力差がパッドの面積ぶんワークを押しつける。真空パッドのカタログで「−60kPa」と書くのは、この「大気圧から60kPa下げた」という意味のゲージ圧だ。
理論吊上げ力 とは
圧力差と面積を掛けたものが理論吊上げ力になる。単位を揃えると係数0.1が出てくる。
F[N] = 0.1 × P[kPa] × A[cm²]
// 1kPa × 1cm² = 1000Pa × 0.0001m² = 0.1N
// −60kPa なら 1cm² あたり 6N
// 完全な真空(101.3kPa の差)でも 1cm² あたり約10.1N が上限
完全な真空でも1cm²あたり約10Nにしかならない、という上限は覚えておくといい。真空吸着はどれだけ強力な真空源を持ってきても、面積を増やさない限り力が増えない仕組みだ。SMC もミスミも、この 0.1×P×A を同じ形で使っている。
水平吊りと垂直吊りで、支え方が変わる
パッドがワークの上面を吸う水平吊りでは、押しつけ力がそのまま重さと逆向きに働くので、F ≧ m×g を満たせば持ち上がる。
ガラス板を立てて側面を吸う垂直吊りは事情が違う。押しつけ力はワークの面に垂直で、重さは面に平行に下へ引く。重さを支えているのは押しつけ力そのものではなく、押しつけ力が生む摩擦だ。摩擦力は μ×F なので、μ×F ≧ m×g、つまり F ≧ m×g/μ が要る。金属やガラスで μ≒0.5 なら、水平吊りの2倍の吊上げ力が必要になる。ミスミが垂直吊りの理論吊上げ力を F = μ×0.1×A×P と書いているのも同じ理屈だ。
有効吸着面積 とは
もう1つの落とし穴が面積の取り方だ。パッドのゴムは、吸着するとリップが潰れて内側に寄る。真空が実際に効いている面積は、カタログの呼び径から計算した円の面積より小さい。これが有効吸着面積で、SMC の『真空用機器 機種選定方法』の仕様一覧は型番ごとにこの値を載せている。
有効吸着面積を円とみなした直径が有効パッド径で、公称径との比をこのツールでは有効径比 k と呼んでいる。ミスミは「有効パッド径は一般的な場合10%縮小することを見込んでください」としていて、これは k=0.9 にあたる。逆にパッドの外径は吸着時に10%程度大きくなるので、ワークの端からはみ出さないように、とも書いている。
理論搬送荷重 — 加速度と摩擦を足し込む
止まっているワークを持つだけなら重さだけ見ればいい。実際の搬送では、持ち上げ始めの上下の加速度と、横に振るときの加速度がかかる。SMC は3つの場面に分けて理論搬送荷重 Fth を定義している。
// ① 水平吊り上げ - 垂直方向搬送
Fth = m × (g + a) × α
// ② 水平吊り上げ - 水平方向搬送(横の慣性力は摩擦で受ける)
Fth = m × (g + a/μ) × α
// ③ 垂直吊り上げ - 垂直方向搬送
Fth = (m/μ) × (g + a) × α
μ の目安は、油が付いた・滑りやすい表面で0.1、湿った表面で0.2〜0.3、木材・金属・ガラス・石材で0.5、粗い表面で0.6。ただし SMC 自身が「定量的な値を示すことは困難」と書いている幅のある数字だ。安全率 α は、滑らかで通気性のないワークで1.5、通気性がある・落下が危険・加速度や μ が分からないなら2以上、垂直吊りや反転・回転動作なら2.5以上とされている。いずれも出典は SMC 真空用機器 機種選定方法 の資料5で、「最も条件が悪くなる場合を想定して選定計算」するよう求めている。吸盤そのものの仕組みや歴史は Wikipedia の吸盤の項 も参考になる。
加速度・μ・有効径比 — パッド径を何段も動かす3つの数字
真空パッドの径は、ワークの重さより、むしろ「重さ以外の3つの数字」で決まることが多い。どれも見落としたときの代償はワークの落下で、壊れるのがワークだけなら運がいいほうだ。ラインは止まり、ガラスや重量物なら人の近くに落ちる。SMC が「落下した場合危険性があるワーク」に安全率2以上を求め、選定の最後に必ず実機で吸着テストをするよう書いているのはそのためだ。
横移動の加速度は μ で割って効く
水平吊りで横に振るとき、ワークを横に引っ張る慣性力 m×a を受け止めるのはパッドとワークの間の摩擦だけだ。だから横の加速度はμ で割って搬送荷重に効く。μ=0.5 なら2倍、油の付いたワークで μ=0.1 なら10倍になる。
使用例の油の付いたプレス品のケースでは、3kgのワークを横に10m/s²で振るだけで、横移動の項が300Nに達する。重さの項29.42Nの約10倍だ。同じ条件で μ を0.5にすると横移動の項は60Nに下がり、推奨径はφ100からφ50に3段落ちる。μ の小さいワークで径を大きくし続けるより、滑り止め付のパッドにするか、横方向をガイドで受けたほうが効くのはこのためだ。
ミスミの垂直吊り S=8 に、もう一度 μ を掛けない
ミスミの簡易式は垂直吊りで安全係数を8にしている。水平吊りの4のちょうど2倍で、2 = 1/0.5 だから、式に μ を含まない代わりに μ≒0.5 で割るぶんを S に畳み込んだ値と読める。
ここで、SMC の③式(すでに μ で割っている)に「垂直吊りだから安全率8」を掛けると、μ を二重に数えることになる。ガラス板10kg・4個・−60kPa・μ0.5・加速度0で試すと、ミスミの簡易式(S=8)はφ80、③式に SMC が垂直吊りに求める α=2.5 を入れるとφ100になる(この1段の差の出どころは使用例のガラス板のケースで見る)。ところが③式に α=8 を掛けると、理論搬送荷重は1,569.06N、1個あたり392.27Nになり、有効径比0.6で見ると必要公称径は152.06mm。標準径の上限φ125を超え、φ125でも6個要る計算になる。有効径をそのまま公称径とみなしてもφ100だ。安全側だから害はない、とは言い切れない。パッド径が上がればハンドが重くなり、ロボットの可搬重量を食い、配置できる個数も減る。
有効径比の中央値で選ぶと、安全率1.5が0.96に落ちる
いちばん見落とされやすいのが面積の取り方だ。既定の鋼板の条件(5kg・4個・−60kPa・上下と横5m/s²・μ0.5・α1.5)で、必要な有効径は31.42mmになる。これを公称径に戻すとき、有効径比を0.6で見ると52.36mmでφ63、ミスミの「10%縮小」の0.9で見ると34.91mmでφ40。同じ荷重計算から、面積の見方だけで推奨径が2段ずれる。
「それなら中くらいの0.75でいいのでは」と思うかもしれない。SMC のカタログに載っている大径パッドの有効径比は、中央値がちょうどそのあたりにある。ところが同じカタログの中に、0.6前後の型番もふつうに並んでいる。中央値の0.75で径を選び、実際に付けたパッドが0.6の型番だったとすると、有効面積は (0.6/0.75)² = 0.64倍しかない。ぎりぎりの径を選んでいたら、設定した安全率1.5は実質0.96まで下がる。1を切るので、理論上も落下する側に外れる。
既定の条件で確かめると、0.75で選べば41.89mmでφ50が出る。そのφ50を有効径比0.6の型番で判定すると、実効安全率は1.368で余裕不足になる。標準径への切り上げに救われて1は超えているが、設定した1.5は残っていない。
このツールが有効径比の既定値を0.6と低めに置いているのはこのためだ。k の既定値で出した推奨径は「型番を探し始める位置」と割り切り、型番が決まったらカタログの有効吸着面積で判定し直す。この二段構えにすると、手戻りがいちばん少ない。
吸着ハンドの設計で出番が来る4つの場面
ロボットの吸着ハンドを新しく描くとき。 ワークの質量と、ロボットやアクチュエータの加減速が分かった時点で、パッドを何φで何個並べるかの当たりが付く。個数を変えると1個あたりの必要面積が即座に変わるので、ワークの大きさに収まる配置と径の組合せを探しやすい。ハンドとワークを合わせた質量をロボット側に戻すなら ロボットアーム 必要トルク計算 へ。
ピックアンドプレースのタクトを詰めるとき。 冒頭の失敗がこれだ。速度を上げると加速度が上がり、横の加速度は μ で割って効く。いまのパッドで加速度をどこまで上げられるか、上げるならパッドを1段上げるのか個数を増やすのかを、ロボットの設定を変える前に確かめられる。
ガラスや樹脂パネルを立てて運ぶとき。 垂直吊りは摩擦で支えるので、水平吊りの感覚で径を決めると足りない。SMC が垂直吊りに求める安全率2.5を下回る設定にすると、その旨の注意も出る。
既設ハンドのパッドを別の型番に替えるとき。 廃番や材質変更で型番を替えると、同じ呼び径でも有効吸着面積が違うことがある。新しい型番のカタログ値を入れれば、実効の安全率がいくつ残るかで交換の可否を判断できる。
3ステップで径と個数を決める
ステップ1: ワークと吊り方を入れる。 ワーク質量、水平吊り(上面を吸う)か垂直吊り(側面を吸う)か、パッドの数、真空圧を入れる。真空圧は「−60kPa なら60」のように絶対値で入れる。鋼板・ガラス板・油の付いたプレス品・段ボール(SMC の選定例)のプリセットを選ぶと、これらと次の搬送条件がまとめて入る。
ステップ2: 搬送条件と安全率を決める。 上下方向の加速度、横移動の加速度(水平吊りのときだけ)、摩擦係数 μ、安全率 α、有効径比 k を入れる。μ と α の欄には SMC の目安が添えてある。水平吊りで横移動の加速度が0なら μ は計算に使われず、その旨が欄の下に表示される。
ステップ3: 必要な径を読み、型番が決まったら判定する。 搬送荷重の内訳(重さ・上下加速度・横移動の3項)、理論搬送荷重、1個あたりの必要吸着力、必要有効吸着面積、必要有効径・公称径、推奨の標準径が表示される。内訳は横棒の図にもなっていて、どの項が荷重を押し上げているかが一目で分かる。比較用にミスミの簡易式の径も並ぶ。型番の候補が決まったら計算モードを「径を決めて判定」に切り替え、パッド径を選ぶと、実効安全率と OK/余裕不足/NG の判定が出る。カタログの有効吸着面積を入れた場合は有効径比の代わりにその面積で計算し、パッド径の欄は結果に使われない。判定の見出しも径ではなく「有効面積◯cm² × 個数」で表示される。
吸着パッド サイズの使用例 — 8ケースで式の差を確かめる
特に断らない限り、有効径比は既定の0.6、真空圧は−60kPaで計算している。
ケース1: 鋼板5kgを4個で、上下と横に振る(既定の条件)
入力: 5kg・水平吊り・4個・−60kPa・上下5m/s²・横5m/s²・μ0.5・α1.5
結果: 内訳は重さ49.03N+上下加速度25.00N+横移動50.00N=124.03N。α を掛けた理論搬送荷重は186.05N、1個あたり46.51N。必要有効吸着面積は7.752cm²、必要有効径31.42mm、必要公称径52.36mmで、推奨はφ63。φ63なら有効面積11.222cm²で1個67.33N、4個で269.33N、実効安全率2.171でOK。ミスミの簡易式(S=4)は32.26mmでφ40を返す。
解釈: 重さより、上下と横の加速度の項を足したほうが大きい。簡易式との2段の差は、加速度の項と面積の見方の両方から来ている。
ケース2: 同じ条件でφ50とφ40を判定する
入力: ケース1と同じ条件で計算モードを判定にし、パッド径φ50、続いてφ40を選ぶ(カタログ値は入れない)
結果: φ50は1個42.41N、4個で169.65N、実効安全率1.368で余裕不足。φ40は1個27.14N、4個で108.57Nで、安全率を掛ける前の搬送荷重124.03Nを下回る。実効安全率0.875でNG。
解釈: 冒頭で鋼板を落としたのは、このφ40だ。簡易式が返した径は加速度の入った搬送では理論上も保持できず、1段上げたφ50でも設定した1.5の余裕は残らない。
ケース3: SMC の段ボールの選定例を再現する
入力: 5kg・水平吊り・12個・−60kPa・上下0・横29.4m/s²(3G)・μ0.6(表面が粗い)・α2(通気性あり)
結果: 横移動の項が245.00N、理論搬送荷重は588.07N、1個あたり49.01N。SMC の資料の Fth=588N・1個49N と一致する。必要有効吸着面積は8.168cm²、必要公称径53.75mmで、12個のままなら推奨はφ63(実効安全率2.748)。簡易式は18.62mmでφ20。
続いて、SMC が実際に選んだ ZP3C-50CFS(φ50)のカタログ値7.1cm²を判定に入れる。14個なら1個42.60N、合計596.40N、実効安全率2.028でOK。13個だと合計553.80N、実効安全率1.883で余裕不足になる。SMC の「588 ÷ (7.1×60×0.1) = 13.8個なので14個」の裏返しだ。
解釈: 同じ荷重に対して「φ63を12個」と「φ50を14個」の2通りの答えが出る。個数を変えずに径を上げるか、径を変えずに個数を足すかの選択だ。簡易式のφ20とは3倍以上の径の差がつく。なお SMC の資料を読むときは2点に注意したい。手順4は有効吸着面積の単位を「mm²」と書いているが、同じ資料の仕様一覧では ZP3C-50CFS は7.1cm²で、計算も cm² でないと合わない。また手順1では段ボールの質量を10kgと書き、手順3の計算は5kgで行っている。ここでは計算側の5kgで再現した。
ケース4: ミスミの計算例を再現する
入力: 0.5kg・水平吊り・1個・−70kPa・加速度0・α1.5
結果: 簡易式(S=4)は18.89mmでφ20。ミスミの資料の「18.8mm → φ20」と一致する(資料は小数2桁目を切り捨てて書いている)。本式は理論搬送荷重7.35N、必要有効吸着面積1.051cm²、必要有効径11.57mm、必要公称径19.28mmで、推奨は同じφ20。実効安全率は1.615でOK。横移動の加速度が0なので μ は計算に使われず、μ の欄が空でも同じ結果になる。
解釈: 加速度が無ければ、2つの式は同じ径に落ち着く。簡易式が「間違っている」わけではなく、加速度の無い条件を前提にした式だということがよく分かる。
ケース5: ガラス板10kgを垂直吊りで運ぶ
入力: 10kg・垂直吊り・4個・−60kPa・上下2m/s²・μ0.5・α2.5
結果: 重さと上下加速度の項(98.07N+20.00N)を μ で割った搬送荷重は236.13N、理論搬送荷重590.33N、1個あたり147.58N。必要有効吸着面積24.597cm²、必要公称径93.27mmで、推奨φ100(実効安全率2.874でOK)。上下の加速度を0にしても、理論搬送荷重490.33N・必要公称径85.00mmでやはりφ100(実効安全率3.460)。簡易式(S=8)は64.51mmでφ80。
解釈: 加速度0でも1段の差が残るのは、SMC が垂直吊りに求める安全率2.5のぶんだ。試しに α を1.5に下げると必要公称径は65.85mmになり、簡易式の64.51mmとほぼ重なってφ80に揃う。S=8 が「μ0.5で割るぶんを畳み込んだ4」だという読み方とも辻褄が合う。
ケース6: 油の付いたプレス品と、乾いた鋼板を比べる
入力: 3kg・水平吊り・4個・−60kPa・上下5m/s²・横10m/s²・α1.5で、μ0.1(油)と μ0.5(乾いた鋼板)
結果: μ0.1では内訳が29.42N+15.00N+300.00N=344.42N、理論搬送荷重516.63N、必要公称径87.25mmで推奨φ100(実効安全率1.970)。μ0.5では横移動の項が60.00Nに下がり、搬送荷重104.42N、理論搬送荷重156.63N、必要公称径48.04mmで推奨φ50(実効安全率1.625)。簡易式はどちらも24.99mmでφ25。
解釈: μ だけで推奨径が3段動く。簡易式は μ を見ないのでφ25のまま変わらず、油の付いたワークでは推奨φ100の4分の1の径しか返さない。
ケース7: 油の付いたプレス品を1個で吸おうとする
入力: ケース6の μ0.1 の条件で、パッドを1個にする
結果: 1個あたり516.63N、必要有効吸着面積86.105cm²、必要有効径104.71mm、必要公称径174.51mmで、標準径の上限φ125を超える。推奨径は出ず、代わりに「φ125なら2個以上」が示される。簡易式は49.97mmでφ50。
解釈: 1個で吸える大きさのワークでも、横に振るなら個数が足りない。φ125を2個にするか、横方向をガイドで受けて横移動の項そのものを消すかの判断になる。
ケース8: 1gの軽いワーク
入力: 0.001kg・水平吊り・1個・−60kPa・加速度0・α1.5
結果: 理論搬送荷重0.0147N、必要有効吸着面積0.00245cm²、必要公称径0.93mmで、最小のφ2。φ2の理論吊上げ力は0.0679Nで、実効安全率は6.920。
解釈: 小さな部品では力が1Nを大きく下回るので、0Nに丸めずに有効数字で表示している。理論上の余裕は大きいが、実際は位置決めの精度やパッドの当たり方のほうが効いてくる領域だ。
8ケースを並べると、加速度0なら2つの式は同じ径に揃い、加速度と μ が効く条件ほど差が開いていくのが分かる。
仕組み — SMC の選定手順を主に、ミスミの簡易式を比較に
2つの手法と、主従の決め方
候補は2つあった。1つはミスミの簡易式で、安全係数(水平4・垂直8)に変形と揺れを畳み込み、公称径で計算する。入力が質量・個数・真空圧だけで済む手軽さがあり、加速度0なら SMC の手順と同じ径を返す(ケース4: どちらもφ20)。ところが加速度が主役になる搬送では、小さすぎる径を返す(ケース3: 簡易式φ20に対し本式φ63)。
もう1つは SMC の選定手順で、加速度と μ を式に明示し、安全率は1.5〜2.5、面積は型番ごとのカタログの有効吸着面積を使う。FA の搬送ではタクトのために加速度を上げるのが普通で、加速度が設計の主変数になる。そこで SMC の手順を主に採り、簡易式は比較用に並べることにした。
SMC の手順の弱点は、面積に型番ごとのカタログ値が要ることだ。型番が決まる前は使えない。そこで、型番が決まるまでは公称径×有効径比 k で有効面積を代用し、決まったら判定モードでカタログ値を入れる、という二段構えにした。
計算フロー
// 1. 搬送荷重の内訳(3項)
重さの項 = m × g
上下加速度の項 = m × a_v
横移動の項 = 水平吊りで a_h > 0 なら m × a_h / μ、それ以外は 0
// 2. 安全率を掛ける前の搬送荷重
水平吊り: base = 重さ + 上下加速度 + 横移動
垂直吊り: base = (重さ + 上下加速度) / μ
// 3. 理論搬送荷重と1個あたり
Fth = base × α
F = Fth / n
// 4. 必要面積 → 有効径 → 公称径 → 標準径
A [cm²] = F / (0.1 × P)
De [mm] = √(4A/π) × 10
Dn [mm] = De / k
推奨径 = 標準径 φ2〜φ125 のうち Dn 以上の最小(無ければ φ125 で何個要るか)
// 5. 判定
有効面積 = カタログ値、無ければ π × (k × D / 10)² / 4
合計吊上げ力 = n × 0.1 × P × 有効面積
実効安全率 = 合計吊上げ力 / base
α 以上 → OK、1 以上 → 余裕不足、1 未満 → NG
実効安全率の分母を、α を掛けた Fth ではなく掛ける前の base にしている点が肝だ。こうすると実効安全率は「理論上、何倍の余裕で持てているか」をそのまま表し、1を切れば理論上も外れる(NG)、1以上 α 未満なら持てるが余裕が足りない(余裕不足)、と2段の線が引ける。
水平吊りで SMC の①②を1本にまとめた理由
SMC は水平吊りを「垂直方向搬送①」と「水平方向搬送②」に分けているが、実際のロボットは持ち上げながら横に振るし、動作の継ぎ目で上下と横の加速度が重なる瞬間もある。そこで Fth = m(g + a_v + a_h/μ)α の1本にまとめた。a_h=0 なら①に、a_v=0 なら②にそのまま一致する。両方がかかると、①②を別々に計算して大きいほうを取るより大きい値になる。ケース1の条件なら、①だけでは74.03N、②だけでは99.03Nのところを、まとめると124.03Nになる。「最も条件が悪くなる場合を想定して」という SMC の方針に沿った、安全側の割り切りだ。
有効径比の既定値を0.6にした根拠
k の既定値は、SMC の資料15『真空パッド仕様一覧』から決めた。型番ごとの有効吸着面積から √(有効面積 / 公称径の円の面積) を逆算すると、φ32以上の全66機種で中央値0.728、25パーセンタイル0.611、最小0.345(薄い平形の ZP50U)、最大0.812になった。平形リブ付(ZP□H)・ベロウ形リブ付(ZP□HB)・平形溝付(ZP3E-□UM)・ベロウ形溝付(ZP3E-□BM)の28機種に絞ると、中央値は0.747まで上がる。
中央値を既定にしなかった理由は、実務での重要性の節で見たとおり、中央値で選んで実物が0.6の型番だと安全率1.5が実質0.96まで落ちるからだ。そこで25パーセンタイルにあたる0.6を採った。SMC 自身の選定例に出てくる ZP3C-50CFS も逆算すると0.601で、既定の0.6だとφ50の有効面積は7.07cm²になり、カタログの7.1cm²とほぼ一致する。
同じ表の離脱力(−60kPa・乾燥した平滑平面での実測)から逆算すると中央値は0.821で、カタログの有効吸着面積そのものが実測より控えめに載っていることになる。ミスミの「10%縮小」は0.9にあたり、カタログ値より楽観側だ。
既定の α1.5 と k0.6 の組合せには、もう1つ面白い性質がある。加速度0のとき、本式は公称径の面積で重さの α ÷ k² 倍を吊る計算になる。1.5 ÷ 0.6² ≒ 4.17 で、ミスミの簡易式の S=4 とほぼ同じ値だ。ケース4で2つの式が同じφ20に揃ったのはこのためで、本式と簡易式の差は、ほぼそのまま加速度と μ の項から来ていると読める。
既定値での計算例
ケース1の条件(5kg・水平吊り・4個・−60kPa・上下5m/s²・横5m/s²・μ0.5・α1.5・k0.6)を、フローどおりに追う。
重さの項 = 5 × 9.80665 = 49.03 N
上下加速度の項 = 5 × 5 = 25.00 N
横移動の項 = 5 × 5 / 0.5 = 50.00 N
base = 49.03 + 25.00 + 50.00 = 124.03 N
Fth = 124.03 × 1.5 = 186.05 N
F(1個) = 186.05 / 4 = 46.51 N
A = 46.51 / (0.1 × 60) = 7.752 cm²
De = √(4 × 7.752 / π) × 10 = 31.42 mm
Dn = 31.42 / 0.6 = 52.36 mm → φ63
// 判定(φ63)
有効面積 = π × (0.6 × 63 / 10)² / 4 = 11.222 cm²
1個 = 0.1 × 60 × 11.222 = 67.33 N
合計 = 67.33 × 4 = 269.33 N
実効安全率 = 269.33 / 124.03 = 2.171 → OK(α1.5 以上)
比較用の簡易式は 2 × √(5 × 9.80665 × 4 × 1000 / (π × 4 × 60)) で32.26mm、φ40になる。式の形を見ると、m×g×S = n×P×1000×(πD²/4)×10⁻⁶ を D について解いたもので、有効径ではなく公称径をそのまま面積に使い、加速度の項を持たないことが読み取れる。2本の式の差は、この「面積の取り方」と「加速度の有無」の2点に集約される。
真空パッドの選定資料・吊上げ力表との違い
メーカーは式と目安を資料に載せていても計算そのものは読み手に任せている、という事情は冒頭の「なぜ作ったのか」で書いたとおりだ。ここでは、そうした資料やカタログの吊上げ力表と比べて、本ツールが何を引き受けるかに絞る。
加速度と μ を入れて、径まで一方向に逆算する。 カタログの吊上げ力表は「この真空圧でこの径なら何N」を引くための表で、引く前の「そもそも何N要るのか」は読み手の手計算になる。本ツールは重さ・上下加速度・横移動の3項に分けて理論搬送荷重を組み立て、個数で割り、真空圧で割って必要有効吸着面積を出し、標準径に切り上げるところまでを1回の入力で済ませる。内訳が3項のまま見えるので、どの項が径を押し上げているのかも読める。
同じ入力から、2つの流儀の推奨径を並べて出す。 SMC の選定手順に沿った径と、ミスミの簡易式(安全係数 水平4・垂直8、公称径)による径を同じ画面に出す。片方のメーカー資料だけを見ていると、もう片方の前提で選んだ人と径が食い違ったときに理由を説明できない。どちらの径が大きく出るかは条件しだいで入れ替わり、その理由は上の「実務での重要性」の節で扱った。
型番が決まったら、カタログの値で判定し直せる。 判定モードで径を選び、カタログに載っている有効吸着面積を入れると、有効径比の仮定を外して実効安全率と OK/余裕不足/NG が出る。選定の段階では有効径比で見積もり、型番が決まったら型番の数字で確かめる、という二段構えだ。φ125 でも足りないときは、φ125 なら何個要るかを返す。
逆に、扱わないものもはっきりさせておく。パッドの配置と重心のずれによる荷重の偏り(モーメント)、真空エジェクタの吸込流量や吸着の応答時間、長円形・角形パッドの形状そのものは計算に入っていない。
関連ツールとは「吸う側」と「動かす側・エアを送る側」で役割を分けている。吸着ハンドを昇降させるシリンダのボア径は空圧シリンダ選定シミュレーター、装置全体のシリンダの合計エア消費量はエア消費量・コンプレッサー選定、ピーク時の消費を受け止めるタンクはエアレシーバータンク容量計算の担当だ。エジェクタは吸っている間ずっと圧縮空気を吐くので、カタログの空気消費量を拾ってタンク側のピーク消費量に足しておくと、エア側の見積もりから漏れない。ハンドとワークを持たせたアームの関節トルクはロボットアーム 必要トルク計算(ペイロードは g 単位)、本ツールに入れる加速度の出どころになる加減速の波形は S字加減速プロファイルシミュレーターで作れる。本ツールはその間に入って「何φを何個」を決める。
吸盤と真空にまつわる読み物
大気圧の力を最初に見せつけたのは16頭の馬だった
真空パッドと同じ原理を公開実験で見せたのは、17世紀のマクデブルク市長オットー・フォン・ゲーリケだ。銅の半球を2つ合わせて中の空気を抜くと、引き離すのが極端に難しくなる。1654年にレーゲンスブルクで行った公開実験では、左右8頭ずつの馬が引いてようやく半球が外れたと伝わっている(マクデブルクの半球)。空気を戻すとあっさり離れるところまで含めて、吸着ハンドの「真空を引いて掴み、真空を破って放す」動作とまったく同じだ。当時は「自然は真空を嫌う」と考えられていて、半球が離れない理由をゲーリケ自身も最初は説明できず、トリチェリの実験から空気に重さがあると知って腑に落ちたという。
タコは吸盤、ヤモリは吸盤ではなかった
自然界の吸盤の代表はタコで、形も働きも人工の吸盤によく似ている。一方、壁を歩くヤモリの指先は長く「吸盤」と呼ばれてきたが、2002年に微小な突起によるファンデルワールス力でくっついていると分かった。ツタの「吸盤」も圧力差ではなく、分泌物で凹凸を埋める接着に近い。動物の吸盤が水中に多いのは、自然界にはガラスのような平滑面が無く、水や粘液で縁の隙間を埋める必要があるからだと推測されている(吸盤)。粗い面や通気性のあるワークで真空が上がりにくいのと、根っこは同じ話だ。
同じ記事には、吸盤とは逆の発想の「ベルヌーイチャック」も出てくる。圧縮空気を狭い隙間に吹き込み、速い流れに生じる圧力低下で吸い寄せる方式で、シリコンウエハの搬送などに使われている。流速を上げて圧力を下げるという点は、後で触れる真空エジェクタと同じ物理だ。
−kPa・kPa abs・Torr の読み替え
真空の数字は、どこをゼロに置くかで顔が変わる。パッドの世界で使う −60kPa は大気圧をゼロにしたゲージ圧で、真空ポンプやプロセス装置の世界では真空をゼロにした絶対圧(kPa abs)や Torr が使われる(ゲージ圧)。
絶対圧 [kPa abs] = 大気圧 [kPa] − 真空圧 [−kPa の絶対値]
1 Torr = 101325 / 760 Pa ≒ 133.3 Pa
大気圧を 101.3kPa とすれば、−60kPa は約 41.3kPa abs、Torr にすると約310Torr になる。Torr は水銀気圧計の原理を見つけたトリチェリにちなむ単位で、いまは標準大気圧の1/760と定義されている(トル)。紛らわしいのは「真空度が高い」の向きで、ゲージ圧なら数字が大きいほど、絶対圧なら数字が小さいほど真空が深い。メーカーの資料を読み比べるときは、まずどちらの表記かを確かめたい。
吸着力の計算にゲージ圧をそのまま使えるのは、パッドを押しつけているのが外の大気圧と中の圧力の差だからだ。ゲージの読みがそのまま差圧になる。裏を返せば、到達できるゲージ圧の上限はその場の大気圧で、標高の高い工場や気圧の低い日には、理屈の上の上限がわずかに下がる。
真空エジェクタは「吹いて吸う」
工場の吸着ハンドの多くは、真空ポンプではなく圧縮空気で動く真空エジェクタにつながっている。ノズルから空気を高速で吹き出すと、絞られた部分で流速が上がって圧力が下がり(ベンチュリ効果)、そこへ周りの空気が引き込まれて吸込口が減圧になる。理科室の水流アスピレーターと同じ原理で、流体に空気や水蒸気を使うものがエジェクタと呼ばれる(アスピレーター)。可動部が無いので小さく軽く、ハンドの近くに置きやすい。その代わり、吸っている間ずっと圧縮空気を吐き続ける。
カタログが −60kPa を基準にしている理由を考える
SMC の仕様一覧が吸着力を「−60kPa 時の理論値」で載せているように、パッドの数字は −60kPa 前後を基準に語られることが多い。その理由をメーカーが明言しているわけではないが、物理から読むと筋は通る。吸着力は真空圧に比例して直線でしか増えない。一方で、残った空気を抜く手間は絶対圧が下がるほど重くなり、エジェクタの吸込流量も一般に真空が深くなるほど細って、到達真空度でゼロになる。真空を欲張るほど吸着までの時間が延び、わずかな漏れで目標に届かなくなる。大気圧のおよそ6割という数字は、力と速さの折り合いがつく実用の中間点と読める。
現場で使える暗算と測り方
「真空圧の1/10が 1cm² あたりの N」を手元に置いておく
上の基礎の節で導いた「−60kPa なら有効吸着面積 1cm² あたり6N」は、真空圧の数字の1/10がそのまま 1cm² あたりの N になる、と覚えておくと他の真空圧にも使える。これに「1G は 9.8m/s²」「1kg の重さは約9.8N」を組み合わせれば、ワークを見た瞬間に、重さだけで何cm²要るかの桁が出る。加速度は「3G」のように G で言われることが多いので、9.8 を掛けて m/s² に直してから入れる(3G なら 29.4m/s²)。
加速度はロボットやモーションの設定値から拾う
搬送中の加速度は、ロボットのコントローラや直動軸の加減速設定が手掛かりになる。S字加減速プロファイルシミュレーターで出したピーク加速度は mm/s² 表示なので、1000で割って m/s² にしてから入れる。台形加減速でざっくり見るなら「最高速度[m/s] ÷ 加速時間[s]」が加速度の目安で、同じ加速時間を S字にするとピークはそれより大きくなる、という向きだけ覚えておけばいい。上下の動作と横の動作は、別々に拾うこと。
μ はばねばかり1本で当たりをつける
μ の目安表は幅が広く、パッドのゴムとワークの組合せで実際の値は大きく変わる。ミスミも摩擦力は実測を勧めている。手元で当たりをつけるなら、ワークを平らに置いて実機のパッドを吸わせ、真空計の読みを控えてから、パッドをばねばかり(フォースゲージ)で横に引いて、滑り出す瞬間の力を読む。
μ ≒ 滑り出す力 [N] ÷ (0.1 × 真空圧 [kPa] × 有効吸着面積 [cm²])
有効吸着面積はカタログ値を使う。油・切削液・離型剤が付く工程なら、乾いたサンプルではなく、実際に油の付いた状態で測ること。
真空圧はパッドに近いところで読む
入力する真空圧は、真空源のカタログの到達真空度ではなく、実ワークを吸わせた状態でパッドに近い位置で読んだ値がいい。漏れがあると配管に流れが生じて、途中で圧力が落ちる。エジェクタ側の真空計が深い値を指していても、パッドの先では届いていないことがある。
真空パッドの計算でよく聞かれること
カタログの「吸着力」の欄と、本ツールの吊上げ力が合わないのはなぜ?
主な理由は面積の前提だ。カタログの吸着力は型番ごとの有効吸着面積と −60kPa から出した理論値で、本ツールはカタログ値を入れない限り、公称径に有効径比 k を掛けた有効径から面積を出して計算している。k の既定値の決め方は上の「仕組み」の節で説明したとおりで、型番が決まる前の見積もりとして控えめな側に置いてあるため、多くの型番ではカタログの吸着力のほうが大きく出る。判定モードでカタログの有効吸着面積を入れれば、その型番の面積で吊上げ力が出る。真空圧を 60 以外にしているなら、カタログの欄とはその比だけずれる。なお同じ表にある離脱力は乾燥した平滑面での実測値で、理論値とは別物だ。
長円形・角形のパッドや、φ125 より大きいパッドは使える?
標準径からの逆算は丸形の φ2〜φ125 だけが対象で、長円形・角形と φ150 以上は候補に出てこない。ただし判定はできる。判定モードにして、カタログに載っている有効吸着面積(300cm² まで)を入れれば、吊上げ力と実効安全率はその面積で計算される。カタログ値を入れている間は径の選択は結果に使われず、判定の結果にも径ではなく「有効面積◯cm² × 個数」の形で出るので、形が丸でなくても表示と実物が食い違わない。逆算で φ125 でも足りないと出たら、あわせて表示される「φ125 なら何個」と見比べて、個数を増やすか大きい角形にするかを決める材料にしてほしい。
段ボールやスポンジのような通気性のあるワークにも使える?
使えるが、入力した真空圧まで実際に上がる前提で計算している点に注意してほしい。通気性のあるワークは漏れで真空圧が想定まで上がらないことがあり、SMC もこの場合は安全率を2以上とし、実機での吸着テストを求めている。本ツールは漏れ量やエジェクタの吸込流量を扱わないので、実ワークを吸わせてパッドに近い位置で読んだ真空圧を入れ直すのがいちばん確かだ。段ボールの数字は、使用例の SMC の選定例を再現したケースを見てほしい。
重心からずれた位置にパッドを置くとどうなる?
本ツールは理論搬送荷重を個数で等分していて、パッドごとの荷重の偏りは計算していない。重心から離れた配置やワークの張り出しが大きいと、一部のパッドに荷重が寄り、さらにモーメントでパッドの縁が剥がれる向きに力がかかる。SMC もパッドはモーメントに弱いとし、重心を囲むようにバランスよく配置することを求めている。配置で偏りが避けられないなら、荷重の寄る側のパッドだけで持つつもりで個数を減らして入れ直し、そのとき出る径を目安にすると安全側に寄せられる。
垂直吊りのまま横に振る動作は計算できる?
いまは計算できない。垂直吊りで扱っているのは、SMC の選定式と同じく上下方向の加速度だけで、ワークの側面を吸ったまま横に動かしたときの慣性力(パッド面に垂直な向きと平行な向き)は入っていない。パッド面に垂直な向きの慣性力は、パッドをワークから引きはがす方向にも働く。横に振る量が大きい動作なら、SMC が垂直吊り・反転・回転に求める安全率2.5以上を下限と考えて余裕を上乗せし、最後は実ワークで確かめてほしい。
入力したワークの質量や型番の面積はどこかに送られる?
送られない。計算はすべて開いているブラウザの中で完結していて、入力したワークの質量・個数・真空圧・カタログの有効吸着面積をサーバーに送る処理は無い。結果のコピーも、クリップボードに文字を写すだけだ。社内で検討中の型番や搬送条件をそのまま入れて構わない。残しておきたい結果は、コピーした1行を設計メモや検討書に貼っておくと、あとで条件ごと見返せる。
まとめ
真空パッドの選定は、搬送荷重を重さ・上下加速度・横移動の項に分けて組み立て、安全率を掛け、個数と真空圧で割っていく一本道の計算だ。本ツールはそれを必要有効吸着面積と標準径まで一度に通し、型番が決まればカタログの有効吸着面積で判定し直せる。
ハンドまわりの残りは関連ツールで埋めてほしい。ハンドを昇降させるシリンダは空圧シリンダ選定シミュレーター、装置全体のエアはエア消費量・コンプレッサー選定とエアレシーバータンク容量計算、アーム側の負荷はロボットアーム 必要トルク計算、入力する加速度の波形はS字加減速プロファイルシミュレーターで確かめられる。
使ってみて計算が合わない、手元の型番の有効吸着面積で試したら結果が腑に落ちなかった、といった声があればお問い合わせページから知らせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。SMC とミスミの選定資料を並べて読んで、ミスミの垂直吊りの安全係数8が摩擦係数のぶんを最初から含んだ値だと気づいたのが、このツールの出発点だ。最初は有効径比の既定を0.75にしていたが、SMC 自身の選定例のパッドが0.60と分かって安全側の0.6に下げた。
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