キュービクル更新、トランス容量で迷っていないか
「この建物、トランスは何kVAにすればいいんだ?」——受変電設備の設計やキュービクルの更新で、必ずぶつかる問いだ。負荷リストをExcelに並べ、需要率を掛けて力率で割り、JIS標準容量のどこに当てはまるかを手作業で探す。地味だけど間違えると大ごとになるこの計算を、ブラウザだけで完結させるツールを作った。
照明・コンセント・空調・ポンプなど負荷を追加していくだけで、電灯トランスと動力トランスを自動分離し、JIS標準容量に丸めた推奨値と負荷率をリアルタイム表示する。スマホでも使えるので、現場での概算チェックにも対応できる。
なぜ変圧器容量選定ツールを作ったのか
開発のきっかけ
以前、テナントビルのキュービクル更新案件で痛い目にあった。Excelで負荷リストを積み上げていたとき、空調の需要率を0.8にすべきところ力率0.85と取り違えてセルに入力してしまい、最終的にトランス容量が1サイズ小さく算出された。レビューで気づいたから事なきを得たが、あのまま発注していたら過負荷トリップの原因になっていた。
需要率と力率、似たような小数点の数字がExcelのセルに並ぶと、どちらがどちらか分からなくなる。しかもExcelの計算式は作った本人にしか読めないことが多い。
こだわった設計判断
電灯系と動力系の自動分離。実務では電灯トランスと動力トランスを分けて選定するのが基本だが、既存の無料ツールはこの区別をしないものが多い。負荷の種別(照明・コンセント・空調など)を選ぶだけで自動的に振り分けられるようにした。
建物プリセット。「小規模事務所」「コンビニ」「集合住宅」「小規模工場」の4パターンをワンタップで読み込める。負荷名・容量・台数・需要率・力率がすべてセットされるから、初めて使う人でも「まず結果を見る」体験ができる。もちろんプリセットを出発点にして、個別に数値を調整するのも自由だ。
需要率プリセット。照明なら80%、コンセントなら30%、空調なら80%——内線規程や実務慣例に基づいたデフォルト値をセットしつつ、手動で変更もできる設計にした。初心者は迷わず使え、経験者は自分の判断で調整できる。
負荷率の閾値表示。容量を選んだ後に気になるのは「そのトランス、どれくらい余裕があるか」だ。40%未満なら余裕あり、40〜70%なら適正、70〜85%ならやや高め、85%超なら過負荷注意と色分けし、直感的に判断できるようにした。
変圧器容量選定 とは何か
kWとkVAの違い — ここが最初のつまずき
家庭の電気料金は「kWh(キロワットアワー)」で請求されるから、kWには馴染みがあるだろう。kW(キロワット)は有効電力、つまり実際に仕事をする電力のことだ。
一方、変圧器の容量はkVA(キロボルトアンペア)で表示される。これは皮相電力と呼ばれ、有効電力と無効電力を合わせた「見かけの電力」になる。たとえるなら、ビールジョッキの容量がkVAで、実際に飲めるビールの量がkW、泡の部分が無効電力だ。
両者の関係は単純な式で表せる:
kVA = kW ÷ 力率(cosφ)
力率0.85のモーターが10kWの出力を持つ場合、変圧器から見た皮相電力は 10 ÷ 0.85 ≒ 11.8kVA になる。トランスは皮相電力で容量が決まるため、力率を無視するとサイズを間違える。
需要率 — 全部同時には動かない
オフィスビルの照明が全フロア同時に100%点灯することは稀だ。エレベーターも全台が同時に満載で動くことはまずない。この「同時に使われる割合」を示す係数が需要率だ。
需要電力(kW) = 設備容量(kW) × 需要率
需要率が高いほど同時使用率が高い負荷で、電熱器(90%)は常時通電、コンセント(30%)は使用頻度が低いためこの値になる。需要率の設定を間違えると、過大な容量を選んで初期投資が膨らむか、過小な容量で過負荷を引き起こす。
参考: 内線規程(JEAC 8001) — 需要率の目安値が示されている。
JIS標準容量 — 選べるサイズは決まっている
変圧器は「ちょうどいいサイズ」を自由にオーダーできるわけではない。JIS C 4304(油入変圧器)等で標準容量が定められており、10・20・30・50・75・100・150・200・300・500・750・1000kVAのいずれかから選ぶことになる。
計算で求めた需要電力(kVA)以上の最小の標準容量が、推奨トランスサイズになる。
適切なトランス容量が設計を左右する理由
過大選定のリスク — ムダな損失と投資
トランスは無負荷でも鉄損(無負荷損)が発生する。500kVAのトランスを据えて実負荷が50kVAだと、負荷率はわずか10%。鉄損は容量に比例するため、使っていない電力に対して常に損失が発生し続ける。電気代の無駄だけでなく、キュービクルのスペースも不必要に大きくなる。
過小選定のリスク — 過負荷による事故
逆に、100kVAのトランスに120kVAの負荷をかければ、巻線の温度上昇により絶縁が劣化し、最悪の場合は焼損事故に至る。空調の一斉起動時にはモーターの突入電流が定格の5〜7倍に達するため、定常時の需要電力だけで選定すると夏場のピーク時に過負荷トリップを起こす。
内線規程では、変圧器の標準的な負荷率は**40〜70%**が望ましいとされている。これは将来の負荷増設と突入電流への余裕を確保するためだ。本ツールでは、この範囲を「適正」として緑色で表示している。
実務で見落としがちなポイント
設備容量の合計が100kWだからといって100kVAのトランスを選ぶのは早計だ。需要率を適用すれば実際の需要電力は大幅に下がる。一方、力率を無視して「需要電力kW ≒ 需要電力kVA」と近似すると、力率の低いモーター負荷で足りなくなる。この2つの要素を正確に計算に反映することが、適切な選定の鍵になる。
現場で頼りになる4つのシーン
新築ビルの受変電設計
意匠設計が固まり、電気設備の負荷リストが出揃った段階でトランス容量を決定する。照明・コンセント・空調・エレベーター・給排水ポンプなど多種多様な負荷を一括で入力し、電灯系と動力系に分離して選定できる。
キュービクル更新の検討
築20〜30年のビルでキュービクルを更新する際、現行の負荷を再集計してトランス容量が適正か確認する。テナント入替で空調容量が変わっていることも多く、最新の負荷リストで計算し直す必要がある。
テナント増設・設備追加の影響確認
既設トランスに対して新たな負荷を追加した場合、負荷率がどこまで上がるかを即座に確認できる。85%を超えるならトランスの増設や容量アップを検討するタイミングだ。
電験三種の学習・試験対策
電験三種の「電力」科目では需要率法による変圧器容量計算が頻出する。入力値と結果を見比べながら計算過程を理解する教材としても使える。
基本の使い方
操作はシンプルな3ステップで完結する。
Step 1: プリセットを選ぶ or 負荷を追加する
まずは「建物プリセット」から近い建物タイプを選んでみよう。小規模事務所・コンビニ・集合住宅・小規模工場の4パターンが用意されており、代表的な負荷リストが一括でセットされる。そのまま結果を確認してもいいし、「+ 負荷を追加」で個別に負荷を足していくこともできる。
Step 2: 需要率・力率を調整する
プリセット値はあくまで一般的な目安。実際の使用状況に応じて需要率や力率を手動で変更できる。24時間稼働の負荷なら需要率を上げ、間欠運転なら下げる、といった具合だ。
Step 3: 結果を確認してコピーする
負荷を入力するとリアルタイムで推奨トランス容量と負荷率が表示される。「結果をコピー」ボタンで計算結果をクリップボードに保存し、設計資料やメールに貼り付けられる。
具体的な使用例で検証
ケース1: 小規模事務所ビル(3フロア)
入力値:
- 照明: 5kW × 3台(需要率80%, 力率0.95)
- コンセント: 3kW × 3台(需要率30%, 力率0.90)
- パッケージエアコン: 15kW × 3台(需要率80%, 力率0.85)
計算結果:
- 電灯トランス: 設備容量 24kW → 需要電力 14.7kVA → 推奨 20kVA(負荷率73.3%)
- 動力トランス: 設備容量 45kW → 需要電力 42.4kVA → 推奨 50kVA(負荷率84.7%)
→ 解釈: 動力トランスの負荷率がやや高め。将来の空調増設を考えると75kVAも選択肢に入る。
ケース2: 小規模工場
入力値:
- 照明: 8kW × 1台(需要率80%, 力率0.95)
- コンセント: 2kW × 1台(需要率30%, 力率0.90)
- ポンプ: 7.5kW × 4台(需要率70%, 力率0.85)
- 電熱(乾燥炉): 20kW × 2台(需要率90%, 力率1.0)
計算結果:
- 電灯トランス: 設備容量 50kW → 需要電力 43.4kVA → 推奨 50kVA(負荷率86.8%)
- 動力トランス: 設備容量 30kW → 需要電力 24.7kVA → 推奨 30kVA(負荷率82.4%)
→ 解釈: 電灯トランスは過負荷注意領域。電熱負荷が大きいため、75kVAへの引き上げを検討すべきだ。
ケース3: マンション共用部
入力値:
- 共用部照明: 3kW × 1台(需要率80%, 力率0.95)
- エレベーター: 15kW × 2台(需要率50%, 力率0.80)
- 給水ポンプ: 5.5kW × 2台(需要率70%, 力率0.85)
計算結果:
- 電灯トランス: 設備容量 3kW → 需要電力 2.5kVA → 推奨 10kVA(負荷率25.3%)
- 動力トランス: 設備容量 41kW → 需要電力 27.6kVA → 推奨 30kVA(負荷率92.0%)
→ 解釈: 動力トランスの負荷率が高い。エレベーター起動時の突入電流を考慮すると50kVAが安全。
ケース4: 飲食店舗
入力値:
- 照明: 4kW × 1台(需要率80%, 力率0.95)
- コンセント(厨房機器): 10kW × 1台(需要率30%, 力率0.90)
- 業務用エアコン: 8kW × 2台(需要率80%, 力率0.85)
計算結果:
- 電灯トランス: 設備容量 14kW → 需要電力 6.7kVA → 推奨 10kVA(負荷率67.0%)
- 動力トランス: 設備容量 16kW → 需要電力 15.1kVA → 推奨 20kVA(負荷率75.3%)
→ 解釈: 両方とも適正〜やや高めの範囲。飲食店は厨房機器の追加が頻繁なので、電灯トランスは20kVAにしておくと余裕がある。
ケース5: データセンター(UPS負荷込み)
入力値:
- サーバーラック照明: 2kW × 1台(需要率80%, 力率0.95)
- コンセント(保守用): 1kW × 1台(需要率30%, 力率0.90)
- UPS給電サーバー群: 40kW × 4台(需要率90%, 力率0.90)
- 精密空調: 20kW × 4台(需要率85%, 力率0.85)
計算結果:
- 電灯トランス: 設備容量 3kW → 需要電力 2.0kVA → 推奨 10kVA(負荷率20.2%)
- 動力トランス: 設備容量 240kW → 需要電力 224.0kVA → 推奨 300kVA(負荷率74.7%)
→ 解釈: UPS負荷は需要率を高めに取る必要がある。サーバーは24時間365日稼働するため需要率90%が妥当だ。動力トランスの負荷率は74.7%で適正範囲だが、ラック増設計画があるなら500kVAを視野に入れたい。UPS自体の変換効率(通常92〜96%)による損失分も考慮すると、余裕を持った選定が安全だ。
ケース6: 中規模工場 — 大型1台 vs 小型分散の比較
入力値(工場全体の負荷):
- 照明: 10kW × 1台(需要率80%, 力率0.95)
- コンセント: 5kW × 1台(需要率30%, 力率0.90)
- CNC加工機: 30kW × 6台(需要率70%, 力率0.85)
- コンプレッサー: 22kW × 3台(需要率80%, 力率0.85)
パターンA: 大型トランス1台で賄う場合
- 電灯トランス: 設備容量 15kW → 需要電力 9.7kVA → 推奨 10kVA(負荷率96.8%)
- 動力トランス: 設備容量 246kW → 需要電力 209.6kVA → 推奨 300kVA(負荷率69.9%)
パターンB: 小型トランス2台に分散する場合
- 電灯トランス: 推奨 20kVA(負荷率48.4%)に余裕を持たせる
- 動力トランス: 150kVA × 2台に分散 → 各トランスの負荷率は約69.9%
→ 解釈: パターンAは動力トランスの負荷率69.9%で適正範囲に収まるが、電灯トランスが96.8%と過負荷注意領域。最低20kVAに引き上げるべきだ。パターンBのように動力トランスを2台に分散すれば、1台故障時も残りの1台でCNCラインかコンプレッサーラインのどちらかを稼働継続できる。冗長性とメンテナンス性を重視する工場では、多少の初期コスト増を許容してでも分散配置が有利になる。
需要率法の仕組みとアルゴリズム
候補手法の比較
変圧器の容量選定には主に2つの手法がある。
需要率法: 各負荷の設備容量に需要率を乗じて合計する方法。設計段階で負荷リストが揃っている場合に使う。本ツールはこの方法を採用している。
最大需要電力法: 電力計で実測した最大需要電力から直接選定する方法。既設設備の更新や増設時に使われることが多い。実測値が必要なため、新築設計段階では使えない。
需要率法を採用した理由は、(1) 設計段階で使える、(2) 負荷の内訳が可視化される、(3) 将来の負荷追加をシミュレーションしやすい、の3点だ。
計算フロー
1. 各負荷の需要電力(kW)を算出
需要電力_kW = 容量_kW × 台数 × 需要率
2. 各負荷の需要電力(kVA)を算出
需要電力_kVA = 需要電力_kW ÷ 力率
3. 系統別(電灯/動力)に合計
合計需要_kVA = Σ(各負荷の需要電力_kVA)
4. JIS標準容量テーブルから切り上げ選定
推奨容量 = JIS_STANDARD_KVA.find(kva >= 合計需要_kVA)
5. 負荷率を算出
負荷率(%) = 合計需要_kVA ÷ 推奨容量 × 100
具体的な計算例
照明 5kW×3台(需要率0.8, 力率0.95)の場合:
設備容量 = 5 × 3 = 15 kW
需要電力(kW) = 15 × 0.8 = 12 kW
需要電力(kVA) = 12 ÷ 0.95 = 12.63 kVA
→ JIS標準容量: 20kVA(12.63以上の最小値)
→ 負荷率: 12.63 ÷ 20 × 100 = 63.2%
メーカー選定ツールとの違い
オフラインで即使える
メーカーの選定ツールはカタログダウンロードやユーザー登録が必要なことが多い。本ツールはブラウザで開くだけで計算を始められ、データはすべてブラウザ内で完結する。通信が不安定な現場でも安心だ。
電灯・動力の自動分離
多くの無料ツールは単純に負荷の合計kVAを計算するだけで、電灯系と動力系を分けてくれない。本ツールは負荷種別を選ぶだけで自動振り分けし、それぞれにJIS標準容量を推奨する。
建物プリセットで「まず試せる」
多くのツールは空の入力フォームが表示され、何を入力すればいいか分からない。本ツールは建物タイプを選ぶだけで代表的な負荷リストがセットされ、即座に結果を確認できる。需要率も種別ごとのプリセットがあり、経験者はそこから上書きして使える。
トランスにまつわる豆知識
鉄損と銅損 — トランスの損失は2種類ある
変圧器の損失は**鉄損(無負荷損)と銅損(負荷損)**に分かれる。鉄損は鉄心のヒステリシス損と渦電流損で構成され、負荷の大小に関係なく一定。銅損は巻線の抵抗によるジュール熱で、電流の2乗に比例する。
最高効率となる負荷率は、鉄損と銅損が等しくなる点。一般的なトランスではこれが50〜60%付近にあたる。負荷率40〜70%を「適正」としているのは、この効率面の理由もある。
参考: 変圧器の損失と効率(電気学会)
V結線による容量縮小
三相変圧器が1台故障した場合、残り2台をV結線(オープンデルタ結線)にすることで、定格容量の約57.7%(1/√3)で三相電力の供給を継続できる。非常時のバックアップとして知っておくと役立つ知識だ。
選定精度を上げるコツ
需要率は建物用途で大きく変わる
事務所ビルと工場では同じ「照明」でも需要率が異なる。事務所の照明は就業時間中ほぼ100%点灯(需要率80〜90%)だが、工場の照明は作業エリアごとに点滅する(需要率60〜70%)。建物用途に応じて需要率を調整しよう。
将来余裕は「1サイズ上」が定石
負荷率が70%を超えたら、計算上はぎりぎり収まっていても1サイズ上のトランスを選ぶのが実務の定石。テナント入替や設備追加で負荷が増えるのは時間の問題だ。
力率改善コンデンサも視野に
力率が低い動力負荷が多い場合、進相コンデンサを設置して力率を改善すれば、同じ有効電力でもkVAを下げられる。トランスの容量を1ランク下げられる可能性があり、初期投資の削減につながる。
よくある質問
Q: 需要率のプリセット値はどこから来ているのか?
内線規程(JEAC 8001)や電気設備技術基準の解説、各種設計ハンドブックに記載されている一般的な目安値を採用している。実際の設計では建物用途や使用実態に応じて調整が必要。あくまで出発点として使ってほしい。
Q: 電灯系と動力系の区分はどうなっているのか?
照明・コンセント・電熱が電灯系、空調・ポンプ・エレベーター・その他が動力系に自動分類される。単相負荷=電灯系、三相負荷=動力系という実務上の区分に基づいている。「その他」カテゴリは動力系に分類されるが、種別と需要率は手動で調整可能だ。
Q: 力率改善後の値を入力してもいいのか?
進相コンデンサ設置後の改善力率を入力すれば、その条件での必要kVAを算出できる。ただし、力率改善はトランスの二次側で行うため、トランス容量の選定時点では改善前の力率で計算し、その後コンデンサの容量を別途検討するのが一般的な手順だ。
Q: 入力したデータはサーバーに送信されるのか?
一切送信されない。すべての計算はブラウザ内のJavaScriptで完結しており、入力データはどこにも保存されない。ページを閉じればデータは消える。
まとめ
変圧器容量選定ツールは、負荷リストから需要率法で電灯・動力トランスの最適容量をリアルタイム算出する。
Excelの手計算で需要率と力率を取り違えるリスクをなくし、JIS標準容量への丸め込みも自動化。設計初期の概算から電験の学習まで、幅広く活用できる。
電気設備の配線設計が気になった人は電線管サイズ判定シミュレーターも試してみて。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。