サーモウェル振動解析(ASME PTC 19.3 TW)

カルマン渦励振 × 片持ち梁固有振動 × 周波数比 0.8 基準

配管内流体のカルマン渦でサーモウェルが共振破壊しないか、片持ち梁1次固有振動数と渦発生周波数の比を ASME PTC 19.3 TW-2016 の 0.8 基準で自動判定する。材質・寸法・流速を入れるだけ。
シナリオプリセット

E = 193 GPa / ρ = 8000 kg/m³

サーモウェル寸法

流体条件

水≈1000 / 蒸気1bar≈0.6 / 空気1.2 / 油≈850

振動解析結果

周波数比 fs/fn0.249(基準 < 0.8)
OK(余裕十分)

固有振動数 fn

402.1 Hz

渦発生周波数 fs

100.0 Hz

断面二次モーメント I

1.130e-8 m⁴

断面積 A

3.299e-4 m²

※ 本ツールはストレート(定断面)サーモウェルの初期スクリーニング用。テーパ管・段付きや Hf/Ha 補正を要する高温高流速配管では ASME PTC 19.3 TW-2016 第6章の詳細手順およびメーカー強度計算書で確認のこと。定常曲げ・圧力応力・動的応力の合成評価は行わない。
不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

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サーモウェルがポッキリ折れた日

ある日の朝、プラントの運転員から「給水配管の温度計の指示がおかしい」と連絡が入った。現場に駆けつけてバルブハッチを開けると、配管にねじ込まれていたサーモウェルの先端がごっそり無くなっていた。ねじ込み部分だけが配管に残り、保護管の先と温度センサは流体と一緒にどこかへ流れていった後だった。折れ口は金属疲労特有のビーチマークが同心円状に広がっていて、振動で少しずつ亀裂が進展したことを物語っていた。

こういう事故、計装屋にとっては他人事じゃない。温度計は付ければ終わりじゃなく、流れる流体そのものが振動源になって保護管を揺らし続ける。周波数がピタリと合えば、鋼鉄製のサーモウェルでさえ数時間から数週間で疲労破壊する。このツールは、そういうシナリオを図面段階で弾くために作った。突出長・外径・内径・流速を入れるだけで、ASME PTC 19.3 TW-2016 の周波数比判定 fs/fn < 0.8 を即座に返す。

なぜ作ったのか

最初にサーモウェルの振動計算が必要になったのは、蒸気配管の新設案件だった。メーカーに選定依頼を投げれば済む話だが、概算見積もりの段階で「この長さで行ける/行けない」をざっくり掴みたい。ところが、国内のWebツールを探しても出てこない。出てくるのは海外メーカー(Emerson や Endress+Hauser)の計算ソフトのダウンロードリンクと、ASME PTC 19.3 TW の有料規格本だけ。いちいちアカウント登録してPDFフォームを送信するのは、初期検討のリズムに合わない。

海外のオンライン電卓も試したが、単位がインチ系だったり、材料定数がハードコードされていたり、そもそもストローハル数や片持ち梁係数の出典が書かれていなかったりで、日本のプラントマン相手には説明しづらかった。「この数字どこから来たの?」と聞かれて答えられない計算ツールは信頼されない。

そこで、第一原理から式を並べ、材料定数の出典(ASME Sec II / JIS G 4303)を明記し、内部計算も全部ブラウザ内でやる形で自作した。メーカー計算ソフトの代わりにはならないが、「概念検討で突出長を決める」「既設ウェルの振動リスクを再評価する」「客先打ち合わせで黒板代わりに叩く」用途ではこれで十分。むしろ詳細解析の前段として、設計判断の筋を通すためのツールだ。

カルマン渦とサーモウェルの固有振動

カルマン渦 とは

配管を横切る円柱(サーモウェル)の後ろには、流れが剥離して交互に渦が巻いていく。これをカルマン渦列(Kármán vortex street)と呼ぶ。Wikipedia: カルマン渦 を覗けば、上空から見た島の後ろに雲が巻き上がる航空写真が載っている。あれと同じ現象が、配管の中の温度計のすぐ後ろで起きている。

渦は上側・下側と交互に剥がれるので、円柱には横向きの揚力が周期的に作用する。その周波数 fs はストローハル数 St を使って次のように書ける。

fs = St × V / Do

円柱レイノルズ数が 10³〜10⁵ の範囲(プラント配管内流速のほとんどが該当)では St ≈ 0.22 で一定。つまり、流速 V と外径 Do だけで揺さぶり周波数が決まる。外径 22 mm、流速 10 m/s なら fs = 0.22 × 10 / 0.022 = 100 Hz だ。

片持ち梁の固有振動数 求め方

一方、サーモウェルそのものは配管壁に根元を固定された片持ち梁だ。片持ち梁の1次モード固有振動数は、オイラー・ベルヌーイ梁理論から次のように導かれる。

fn = (β₁² / 2π) × √( E × I / ( ρ × A × L⁴ ) )
β₁ = 1.875(1次モードの特性根)
I = π × (Do⁴ − Di⁴) / 64   // 中空円管の断面二次モーメント
A = π × (Do² − Di²) / 4    // 環状断面積

身近なたとえで言うと、片持ち梁は定規を机の端から突き出して先端を弾いたときの「ビヨン」という振動と同じ。長く突き出すほど低い音になり、短くすれば高い音になる。サーモウェルも同じで、長いほど fn は下がり、渦周波数 fs と一致しやすくなる。

周波数比と共振

この二つの周波数の比 fr = fs / fn が 1 に近づくと、流れがウェルを揺さぶるリズムと、ウェルが揺れたがるリズムが同期し、振幅が跳ね上がる。これが共振だ。ASME PTC 19.3 TW-2016 は、安全側を取って fr < 0.8 を合格基準としている。実務ではさらに余裕を見て fr < 0.4 を推奨する設計者も多い(余裕度 2.5 倍)。

実務での重要性:Monroe 事故が変えた規格

この分野で絶対に避けて通れないのが、1995年に米国ミシガン州の Monroe Power Plant で起きた給水配管サーモウェル破断事故だ。高圧給水ラインに挿入されていた長尺サーモウェルがカルマン渦励振で疲労破壊し、先端が折れて下流のタービンまで流された。高温・高圧水が漏出し、停電と復旧費用を含めた損害は数百万ドル規模に達したと記録されている。事故調査の結論は「既存の計算手法(Murdock 1959 ベース)では高流速域の安全マージンが不足していた」というものだった。

この事故を契機に ASME が規格整備に動き、2010年に旧ガイド PTC 19.3 の関連章を独立させて ASME PTC 19.3 TW『Thermowells』 を新規制定、2016年に改訂された。現行版では、従来の周波数比チェックに加えて、in-line(流れ方向)励振・lift(横方向)励振・定常応力・動的応力を総合評価する構成になっている。

規格が制定される前と後で、プラント業界の温度計仕様書は明確に変わった。「なんとなく標準長 150 mm」で発注していた現場が、「突出長は振動計算を添付して決定すること」と要求仕様に書くようになった。これを怠ると、短期的な疲労破壊だけでなく、微小クラックからの二次破壊・タービンブレード損傷・運転停止ロスまで連鎖する。特に蒸気・給水・プロセスガスといった比較的高流速のラインでは、1本のサーモウェルが億単位の損害につながりかねない。

規格の一次情報にアクセスできる環境の人は、ASME PTC 19.3 TW 第6章(Frequency Limit)と付録B(Calculation Examples)を必ず参照してほしい。本ツールは初期スクリーニング用であり、規格そのものを置き換えるものではない。

活躍する場面

蒸気配管の新設設計:主蒸気・補助蒸気ラインは流速 30〜60 m/s に達することがある。渦周波数が 300 Hz を超える領域で、標準長サーモウェルがそのまま共振域に入るケースは珍しくない。図面提出前にツールで弾いておくと手戻りが減る。

給水・復水配管のリプレース:Monroe 事故と同じ条件の配管は国内にも存在する。既設ウェルの寸法を実測してツールに入力し、現在の運転流速でアウトならサポート追加や短縮改造の判断材料になる。

反応器・塔槽ノズルの計装設計:撹拌槽や反応器のノズル経由で挿入する長尺ウェルは、流速が低くても長さが効いて fn が下がりがち。数値を入れて肌感覚を養うと、選定ミスを防げる。

客先ヒアリング・プレゼン:ノートPCで数値を叩きながら「この長さだと 0.85 で危ない、250 mm に短縮して 0.6 にしましょう」と即答できると、打ち合わせの質が変わる。

基本の使い方(3ステップ)

  1. 材質を選ぶ。SUS316 / SUS304 / 炭素鋼 S25C / Inconel 600 の4種をプリセット。ヤング率と密度は ASME Sec II / JIS G 4303 の値。
  2. 寸法を入力。突出長 L(根元から先端まで)、外径 Do、内径 Di(ボア径=温度センサを入れる穴)を mm で入れる。
  3. 流体条件を入力。流速 V [m/s] と流体密度 ρf [kg/m³] を入れると、固有振動数・渦周波数・周波数比・判定が即座に表示される。

判定が NG なら、L を短くするか Do を大きくする。OK 余裕十分でも、運転流速の振れ幅(起動時・緊急遮断時の一時的な高流速)を考慮して再計算しておくと安心。

使用例ウォークスルー(6ケース)

ケース1:水配管・標準 SUS316(OK 余裕十分)

  • 入力:SUS316 / L=200 mm / Do=22 mm / Di=8 mm / V=10 m/s
  • 結果:fn=402.1 Hz、fs=100.0 Hz、fr=0.249 → OK 余裕十分
  • 解釈:一般的な冷却水ライン。標準長 200 mm で周波数比 0.25 は余裕たっぷり。プリセットとしてそのまま発注できる。

ケース2:高速短尺 SUS316(OK 余裕十分)

  • 入力:SUS316 / L=100 mm / Do=22 mm / Di=8 mm / V=20 m/s
  • 結果:fn=1608.3 Hz、fs=200.0 Hz、fr=0.124 → OK 余裕十分
  • 解釈:流速が倍になっても、長さを半分にすると L⁴ の効き方で fn が 4 倍に跳ね上がる。周波数比はむしろ下がる。短尺化は振動対策の基本戦略。

ケース3:長尺 SUS316(NG 共振リスク)

  • 入力:SUS316 / L=400 mm / Do=22 mm / Di=8 mm / V=10 m/s
  • 結果:fn=100.5 Hz、fs=100.0 Hz、fr=0.995 → NG 共振リスク
  • 解釈:ケース1と同じ条件で長さだけ 2 倍にすると、fn は 1/4 に落ちて渦周波数とほぼ一致。まさに Monroe 型の破壊モード。突出長短縮か外径拡大が必須。

ケース4:蒸気配管・炭素鋼 S25C(OK 許容範囲)

  • 入力:炭素鋼 S25C / L=250 mm / Do=25 mm / Di=10 mm / V=15 m/s
  • 結果:fn≈308.6 Hz、fs=132.0 Hz、fr≈0.428 → OK 許容範囲
  • 解釈:中圧蒸気ラインの典型的ケース。許容範囲だが余裕度 2.3 倍で、推奨水準(2.5 倍)をわずかに下回る。運転条件の振れを考えるなら、L を 230 mm 程度に詰めるか Do=27 mm を検討したい。

ケース5:細径冷却水 SUS316(OK 許容範囲)

  • 入力:SUS316 / L=300 mm / Do=18 mm / Di=6 mm / V=8 m/s
  • 結果:fn≈144.8 Hz、fs≈97.8 Hz、fr≈0.676 → OK 許容範囲
  • 解釈:外径が細く長さがそこそこある組み合わせ。流速は低いが fs = 0.22 × 8 / 0.018 ≈ 98 Hz が効いてくる。PTC 基準の 0.8 はクリアするが実務的にはグレーゾーン。長尺が必要なら外径を上げるか、コレット式支持で実効長を短縮する。

ケース6:高温高速蒸気・Inconel 600(OK 許容範囲)

  • 入力:Inconel 600 / L=150 mm / Do=22 mm / Di=8 mm / V=30 m/s
  • 結果:fn≈719.4 Hz、fs=300.0 Hz、fr≈0.417 → OK 許容範囲
  • 解釈:過熱蒸気・ボイラ出口の高温高速条件。Inconel のヤング率は SUS316 より 7% 高いだけだが、短尺化(150 mm)で fn を稼いでいる。流速 30 m/s 超では腐食摩耗も加わるので、材質選定と肉厚管理を併せて検討する。

仕組み・アルゴリズム

候補手法の比較

サーモウェル振動計算には大きく分けて3系統のアプローチがある。

  1. Murdock 1959 手法:最初の体系的な公式で、片持ち梁固有振動数と St=0.22 のカルマン渦周波数を比較する。シンプルで手計算向き。Monroe 事故までの業界標準だった。
  2. ASME PTC 19.3 TW-2016:Murdock をベースに、in-line 励振(2×fs 成分)・流体付加質量補正 Ha・取付剛性補正 Hf・応力評価(定常+動的)までを網羅した詳細規格。現代の実務標準。
  3. 有限要素解析(FEM):テーパ管・段付き管・特殊取付金具まで扱えるが、計算コスト高。メーカー詳細計算や特殊案件向け。

本ツールは 1 と 2 の中間、つまり「PTC 19.3 TW の周波数比判定 fr < 0.8 を採用しつつ、Hf/Ha 補正は 1.0 で省略した初期スクリーニング版」として設計した。FEM は過剰、Murdock 素朴版は古いという実務ニーズに合わせた落とし所。

実装詳細

計算フローは以下の通り。すべてブラウザ内の JavaScript で完結する。

// 1. 材質定数をプリセットから取得(ASME Sec II / JIS G 4303)
const { E, rho } = material;  // 例: SUS316 → E=193 GPa, ρ=8000 kg/m³

// 2. 寸法から断面性能を計算
const I = Math.PI / 64 * (Do**4 - Di**4);  // 断面二次モーメント [m⁴]
const A = Math.PI / 4  * (Do**2 - Di**2);  // 環状断面積 [m²]

// 3. 片持ち梁1次固有振動数(β₁=1.875)
const fn = (1.875**2 / (2 * Math.PI)) * Math.sqrt((E * I) / (rho * A * L**4));

// 4. カルマン渦周波数(St=0.22, Re=10³〜10⁵ 想定)
const fs = 0.22 * V / Do;

// 5. 周波数比と判定
const fr = fs / fn;
const verdict = fr < 0.4 ? "OK 余裕十分"
              : fr < 0.8 ? "OK 許容範囲"
              : "NG 共振リスク";

計算例:ケース1 の手順詳解

SUS316 / L=0.200 m / Do=0.022 m / Di=0.008 m / V=10 m/s のとき。

I = π/64 × (0.022⁴ − 0.008⁴)
  = π/64 × (2.3426e-7 − 4.096e-9)
  = π/64 × 2.3017e-7
  = 1.1298e-8 m⁴

A = π/4 × (0.022² − 0.008²)
  = π/4 × (4.84e-4 − 6.4e-5)
  = π/4 × 4.20e-4
  = 3.299e-4 m²

EI  = 193e9 × 1.1298e-8 = 2180.5 N·m²
ρA  = 8000 × 3.299e-4  = 2.6392 kg/m
L⁴  = 0.2⁴             = 1.6e-3 m⁴

EI / (ρA × L⁴) = 2180.5 / (2.6392 × 1.6e-3) = 516,400
√(...)         = 718.6
fn = (3.516 / 2π) × 718.6 = 0.5595 × 718.6 ≈ 402.1 Hz

fs = 0.22 × 10 / 0.022 = 100.0 Hz
fr = 100.0 / 402.1     = 0.249 → OK 余裕十分

Hf/Ha 補正を省略する影響

厳密な PTC 19.3 TW 計算では、取付部の弾性による根元補正係数 Hf(0.85〜0.95 程度)と、流体付加質量補正 Ha(水の場合 0.9 前後)を導入して fn をやや下げる。この補正を省くと fn が 10〜20% ほど高く出るため、本ツールの判定は わずかに楽観的 になる可能性がある。ケース5 のように fr が 0.6〜0.8 のグレーゾーンに入る場合は、メーカー詳細計算で補正込みの再確認が必須だ。一方、ケース1・2 のように余裕十分領域なら、補正を入れても順位が変わらないため初期検討には十分使える。

他ツールとの違い

サーモウェルの振動解析は、海外メーカー(Emerson、Endress+Hauser、WIKA 等)が提供する詳細計算ソフトウェアが実質的な業界標準になっている。これらは ASME PTC 19.3 TW-2016 の全章を実装し、Hf(取付部補正)・Ha(流体付加質量補正)・定常曲げ応力・圧力応力・動的応力の合成まで一気通貫で評価する。一方で、入力項目は 20〜30 に及び、結果が PDF 数ページにわたるため、プロジェクト初期の「この突出長で本当に共振しないか、当たりを付けたい」という用途には重すぎる。

本ツールはその真逆を狙った。入力は材質・寸法 3 点・流体条件 2 点の計 6 項目だけ。出力は固有振動数 fn、渦発生周波数 fs、周波数比 fs/fn、合否判定の 4 値に絞った。ストレート(定断面)形状・Hf/Ha 補正省略という割り切りを明示したうえで、fs/fn < 0.8 という PTC 19.3 TW の核心基準だけは厳密に守る。

使い分けはこうだ。概念設計・FEED 段階、あるいは既設配管に流量条件の変更が入ったときの再チェックには本ツール。P&ID フリーズ後の最終設計・官庁認可図書用にはメーカー詳細計算書。両者を二重化することで、初期の試行錯誤コストを抑えつつ、最終段階の安全性を担保できる。国内 Web で動く無料の初期スクリーニングツールはほぼ存在しないため、日本語インタフェースで即判定できる点もメリットだ。

豆知識:Murdock と PTC 19.3 TW の 60 年史

サーモウェルの共振破壊が「計算可能な設計問題」として認識されたのは、意外と最近のことだ。

Murdock 1959 — すべての出発点

現在の設計式の原型は、J.W. Murdock が 1959 年に発表した ASME 論文 "Power Test Code Thermowells"(Journal of Engineering for Power, Vol.81, 1959)にさかのぼる。Murdock は米海軍の蒸気配管で多発していたサーモウェル破損を調査し、片持ち梁の 1 次固有振動数とカルマン渦発生周波数を比較するシンプルな判定法を提案した。これが ASME の規格委員会に採用され、1974 年に PTC 19.3-1974 Part 3: Temperature Measurement — Thermowells の一部として初版が制定される。

ただし Murdock の式は理想的な真円・定断面・完全剛体取付を仮定しており、現場での破損事故が完全にゼロになることはなかった。

1995 Monroe 事故と全面改訂

転機は 1995 年、米ルイジアナ州 Monroe の発電所で起きた給水配管サーモウェル共振破壊事故だった。高速給水ラインで折れたサーモウェルの破片が下流のバルブに噛み込み、プラント停止に至った。この事故を契機に ASME は PTC 19.3 TW の全面改訂に着手し、2010 年に独立した規格 ASME PTC 19.3 TW-2010 "Thermowells" として分離・発行。その後 2016 年に改訂され、現在の 2016 年版 が業界のデファクト標準になっている。

2016 年版の大きな変更点は、周波数比の許容上限を従来の「0.8 を推奨」から「0.8 を明示基準」に格上げしたこと、Hf(取付補正)と Ha(流体付加質量補正)を必須手順として組み込んだこと、そして in-line 励振(流れ方向、周波数 2×fs)を lift 励振と別に評価する二周波数評価を導入したことだ。

日本での位置付け

国内では JIS 規格にサーモウェル振動評価の独立項目がなく、プラント各社は ASME PTC 19.3 TW-2016 をそのまま参照するのが一般的だ。高圧ガス保安法・電気事業法の運転申請図書で「サーモウェル強度計算書」の添付を求められた際は、この規格の計算手順に従った書類が事実上の受け入れ要件になっている。

Murdock の 1959 年論文から 65 年余り、たった 1 本の片持ち梁のために積み上げられた知見の層の厚さは、計装設計という地味な分野の奥深さを物語っている。

Tips — 共振を避ける 5 つの実務テクニック

  • 突出長 L を 10% 短縮するだけで fn は約 23% 上がる。式 fn ∝ 1/L² より、L を 0.9 倍にすると (1/0.9)² ≈ 1.23。共振領域で苦しんでいるときは、まず L 短縮を検討する価値がある
  • 外径 Do 拡大は二重に効くfs = St×V/Do で渦周波数が下がり、I = π(Do⁴−Di⁴)/64 で剛性が急増するため fn も上がる。φ22 → φ25 に変えるだけで周波数比が半減することもある
  • スレンダー比 L/Do > 20 は原則避ける。曲げ剛性が急降下し、据付時の自重たわみや熱膨張だけで先端が無視できないほど振れる。配管径が大きくて深い挿入が必要なときは、補強リング(コレット式サポート)を併用する
  • 流速の高い配管では in-line 励振も要注意。本ツールは lift 方向(fs)で判定するが、流れ方向の励振は 2×fs で発生する。2×fs/fn も 0.8 未満かを手計算で確認しておくと安心
  • 冷却水配管で夏冬の温度差が大きい場合、E(ヤング率)の温度依存で fn が数 % 変動する。境界条件のワーストケース(高温側で E 低下、fn 低下)で判定すること

よくある質問

Q. テーパ形サーモウェルでも本ツールは使える? A. 厳密には使えない。本ツールはストレート(定断面)を前提にしており、テーパ形の `fn` は定断面モデルより数 % 高く出る傾向がある(根元側が太いぶん剛性が上がるため)。初期スクリーニングとして「定断面で NG なら当然テーパでも怪しい」という使い方は可能だが、OK 判定を根拠に設計を確定させる場合はメーカー詳細計算を必ず併用してほしい。
Q. 蒸気と水で判定結果はどう変わる? A. `fs` と `fn` のどちらにも流体密度 ρf は直接入らないため、同じ流速なら理論上の周波数比は同じになる。ただし実務上の違いは大きい。蒸気配管は一般に流速が 20〜40 m/s と水配管(1〜5 m/s)より 10 倍近く速く、`fs` がそれに比例して跳ね上がる。本ツールで蒸気ラインを評価すると、水配管と比較して NG になりやすいのはこのためだ。さらに厳密には付加質量補正 Ha が働き、液体の場合は `fn` がわずかに下がる(ρf が大きいほど顕著)が、蒸気・気体ではほぼ無視できる。
Q. ねじ込み型とフランジ型で `fn` は変わる? A. 変わる。本ツールは「根元完全固定」の理想片持ち梁を仮定しているが、実機ではねじ込み部の遊びや座面の圧縮で根元剛性が低下し、実測 `fn` は理論値の 0.85〜0.95 倍程度に落ちることが多い。PTC 19.3 TW-2016 ではこれを取付補正係数 Hf として組み込む(フランジ型で Hf ≈ 0.99、ねじ込み型で 0.90 前後)。本ツールは Hf=1.0 で計算するため、ねじ込み型の場合は得られた `fn` を 0.9 倍した値で再判定する運用が安全側。
Q. Hf・Ha 補正って具体的に何? A. Hf は **取付部柔性補正**で、フランジやねじ込み部の回転バネ剛性を考慮して `fn` を下方修正する係数。Ha は **流体付加質量補正**で、サーモウェルが振動するときに周囲の流体を一緒に揺らすぶん、等価質量が増えて `fn` が下がる効果を表す。液体中で顕著で、水中では Ha が 0.92〜0.97 程度。両者を掛けると実機 `fn` は理論値の 8〜15% 低い値になる。PTC 19.3 TW-2016 第 6 章に詳細な算定式がある。本ツールは初期スクリーニング用途のためこれらを 1.0 で省略しているので、ギリギリ合格(`fs/fn` が 0.7〜0.8)の場合はメーカー計算で Hf・Ha 込みの再確認を強く推奨する。
Q. Scruton 数による緩和判定とは? A. Scruton 数 `Sc = 2×m×δ / (ρf×Do²)` は、構造の単位長さあたり質量 m・対数減衰率 δ・流体密度 ρf・外径 Do から計算される無次元数で、振動系が「自己減衰で励振を打ち消せるか」の指標。Sc が十分大きい(目安 2.5 以上)と、周波数比がやや基準を超えても渦励振が発達しないため、PTC 19.3 TW-2016 では緩和判定が認められている。ただし Sc 評価は減衰率 δ の実測値が必要で、現場で数値を持っている設計者は少ない。本ツールは Sc による緩和を使わず、保守的に `fs/fn < 0.8` のみで判定する方針にしている。
Q. `fs/fn` が 0.8 ちょうどのとき、OK と NG どちらで読めばいい? A. 本ツールは `< 0.8` 未満を OK、`≥ 0.8` を NG として扱う。ただし 0.78〜0.80 の帯は、測定誤差・材質ばらつき・取付条件のばらつきを考えるとグレーゾーンと見なすべきだ。実務では「0.4 未満=設計余裕十分」「0.4〜0.7=許容だが設計改善余地あり」「0.7〜0.8=要詳細解析」「0.8 以上=設計変更必須」という 4 段階で運用する設計者が多い。

まとめ

配管温度計測の地味な主役、サーモウェル。たった 1 本の片持ち梁が、カルマン渦に共振して数週間で折れ、プラント停止や二次災害につながる例は今も現場から消えていない。ASME PTC 19.3 TW-2016 の核心基準「周波数比 0.8 未満」を、メーカー計算書を広げる前に、ブラウザ上で 10 秒で確認できるようにしたのが本ツールだ。

配管設計の前段工程では、流速そのものを確定する必要がある。配管流量・圧力損失計算 で流速・レイノルズ数を押さえ、流量調節が絡む場合は バルブ Cv 値計算 でバルブ選定と組み合わせ、流量測定用のオリフィス周辺では オリフィス流量計計算 の結果と併せて判定するのがおすすめ。

ご意見・不具合報告・「テーパ形にも対応してほしい」等のリクエストは お問い合わせ からいつでも歓迎。現場の声を反映してアップデートしていく。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。計装エンジニアとして蒸気・給水配管のサーモウェル選定で何度も突出長に頭を悩ませてきた。Monroe 事故以降、「なんとなく標準長」で発注するのが怖くなり、初期検討を10秒で弾けるツールにした。

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