370℃に上げたら銅箔ごと剥がれた——あの日の教訓
「温度が足りないなら上げればいい」。初めて無鉛はんだに触れたとき、そう考えてこて先を370℃にセットした。結果、0805チップ抵抗のパッドが基板ごと浮き上がり、1枚の試作基板がゴミになった。はんだ付けの失敗は温度設定ひとつで起きる。逆に言えば、正しい温度を知っていれば防げる失敗がほとんどだ。
このツールは、はんだの種類・部品タイプ・基板の層数と銅箔厚を選ぶだけで、手はんだなら推奨こて先温度と接触時間を、リフローなら温度プロファイル曲線をワンタップで表示する。失敗パターン診断もセットで確認できるから、「なぜ失敗したのか」まで理解できる。
なぜ「はんだ付け温度プロファイルガイド」を作ったのか
無鉛はんだ移行で「正解」がわからなくなった
有鉛はんだの時代はシンプルだった。こて先は340℃前後、接触時間は2〜3秒。融点183℃の共晶はんだは作業性がよく、少々雑に扱っても光沢のあるフィレットができた。
ところがRoHS対応で無鉛はんだに切り替えた途端、状況が一変した。SAC305の融点は217℃で、有鉛より34℃も高い。こて先温度を何度にすればいいのか、メーカーのデータシートには「推奨350〜380℃」と幅がありすぎる。基板の層数や銅箔厚で熱の逃げ方も変わる。ネットで調べても「経験で覚えろ」という記事ばかりで、体系的にまとまった情報がなかなか見つからなかった。
こだわった設計判断
1つ目は手はんだとリフローの両対応。電子工作の趣味レベルでは手はんだが中心だが、基板量産を始めるとリフローの温度プロファイル設計が必要になる。1つのツールで両方カバーしたかった。
2つ目は失敗パターン診断。温度を出すだけでなく、「この条件で起きやすい失敗」を事前に知れるようにした。はんだボール、ブリッジ、芋はんだ——原因と対策がセットで表示されるから、トラブルシューティングにも使える。
3つ目は基板条件の補正。同じ部品でも、2層基板と6層基板では必要なこて先温度が10〜20℃変わる。銅箔が厚ければさらに熱が逃げる。この補正を自動で計算に含めた。
はんだ付け 温度の基礎知識——融点・液相線・固相線とは
融点と共晶の関係
はんだの「融点」は単純に「溶ける温度」だが、合金によっては固相線(完全に固まる温度)と液相線(完全に溶ける温度)に幅がある。たとえばSAC305は固相線217℃、液相線220℃で、この3℃の間は「半溶け」の状態だ。
一方、有鉛のSn63/Pb37は共晶組成(eutectic)で、固相線と液相線が同じ183℃。固体から液体に一瞬で変わる。チョコレートのテンパリングに例えると、共晶はんだは「パキッと割れるチョコ」、非共晶はんだは「ねっとり溶けるチョコ」のイメージだ。
はんだごて 温度設定の考え方
こて先温度 = 液相線温度 + Δ(部品の熱容量) + 基板補正
例: SAC305 + SMD小型(0402-0805) + 2層基板 + 35μm銅箔
= 220℃ + 40℃ + 0℃ + 0℃
= 260℃
この「Δ」が部品タイプで異なり、大型部品やスルーホール部品はより多くの熱を必要とする。JIS Z 3282(はんだ-化学成分及び形状)にはんだ合金の組成と融点が規定されている(JIS Z 3282)。
リフロー 温度プロファイルの4ゾーン
リフロー炉の温度プロファイルは4つのゾーンで構成される:
- 予熱ゾーン: 室温→150〜200℃。基板全体を均一に温める
- ソークゾーン: フラックスを活性化させ、温度ムラを解消する
- リフローゾーン: はんだが溶融し、部品が基板に接合される
- 冷却ゾーン: 急冷しすぎると基板が反る。-2〜-6℃/秒が目安
TAL(Time Above Liquidus)は液相線を超えている時間のこと。有鉛はんだで45〜90秒、無鉛はんだで60〜120秒が一般的な推奨範囲だ。
なぜ温度管理がはんだ付けの品質を左右するのか
温度が低すぎるとどうなるか
こて先温度が不足すると、はんだが完全に溶けず「芋はんだ」になる。表面に光沢がなく、ざらついた見た目だ。電気的には導通していても、機械的強度が著しく低い。振動や熱膨張で簡単にクラックが入り、間欠的な接触不良を起こす。これが製品に流出すると原因究明に非常に手間がかかる。
温度が高すぎるとどうなるか
逆に温度を上げすぎると、銅箔パッドが基板(FR-4)から剥離する。FR-4のガラス転移温度(Tg)は一般的に130〜140℃で、350℃以上のこてを長時間当てると樹脂が劣化してパッドが浮く。IPC-J-STD-001(はんだ付けの要件規格)では、手はんだの接触時間を部品の耐熱規格内に収めることを要求している(IPC-J-STD-001)。
リフローでの温度管理の影響
リフロー炉のプロファイルが不適切だと、予熱不足ではんだボールが大量発生したり、ピーク温度超過でBGAの内部接合が劣化したりする。JEDEC J-STD-020では部品の耐熱等級(MSL: Moisture Sensitivity Level)を定めており、ピーク温度と時間に厳しい制限がある。たとえばMSL3の部品は260℃で最大30秒以内が目安だ。
電子工作からリフロー設計まで——温度ガイドが活躍する場面
電子工作・趣味のはんだ付け
Arduino基板にピンヘッダをはんだ付けする場面。有鉛はんだなら340℃前後が定番だが、無鉛はんだに切り替えたとき「何度にすればいいのか」で迷う。このツールで部品と基板条件を選べば、最適なこて先温度がすぐにわかる。
リフロー炉のプロファイル設計
SMT量産ラインで新しいはんだペーストに切り替えるとき、予熱・ソーク・リフロー・冷却の各ゾーン設定を最初から決める必要がある。このツールで目安のプロファイルを出し、そこから実測で微調整するワークフローが効率的だ。
リワーク・修理作業
BGAチップの貼り替えや、QFPのリワーク時にヒートガンやリワークステーションの温度設定が必要になる。部品の耐熱性と基板の熱容量を考慮した温度を素早く確認できる。
はんだ付け教育・研修
新入社員のはんだ付け研修で「なぜこの温度なのか」を説明するときの根拠資料として使える。温度の根拠(融点+部品補正+基板補正)を分解して見せられるので、理解が深まる。
はんだ付け温度プロファイルガイドの使い方
スマホでもPCでも3ステップで完了する。
Step 1: はんだ種別と作業方式を選ぶ
画面上部のボタンで有鉛/無鉛SAC305/無鉛SAC105/低温の中からはんだの種類を選び、手はんだかリフローかを切り替える。迷ったら「SAC305」+「手はんだ」から始めてみて。
Step 2: 部品タイプと基板条件を設定する
プルダウンから部品のタイプを選び、基板の層数と銅箔厚をボタンで指定する。SMD小型部品ならデフォルトのまま、BGAを選ぶと自動でリフロー推奨に切り替わる。
Step 3: 結果を確認・コピーする
手はんだなら推奨こて先温度と接触時間がカード表示される。リフローなら温度プロファイル曲線がSVGグラフで描画される。画面下部に表示される失敗パターンも必ずチェックしよう。「結果をコピー」で報告書にそのまま貼れる。
具体的な使用例——6つの典型ケースで検証
ケース1: 有鉛はんだ+DIPスルーホール+2層基板
入力値:
- はんだ: 有鉛 Sn63/Pb37
- 作業方式: 手はんだ
- 部品: DIP/スルーホール
- 基板: 1-2層 / 35μm
計算結果:
- 推奨こて先温度: 233℃
- 接触時間: 3.0秒
- 予備加熱: 不要
→ 解釈: 有鉛はんだのスルーホール部品は最も扱いやすい条件。230℃台のこて先温度で十分に溶融し、3秒で安定したフィレットが形成できる。
ケース2: 無鉛SAC305+SMD小型+2層基板
入力値:
- はんだ: 無鉛 SAC305
- 作業方式: 手はんだ
- 部品: SMD小型(0402-0805)
- 基板: 1-2層 / 35μm
計算結果:
- 推奨こて先温度: 260℃
- 接触時間: 2.0秒
- 予備加熱: 不要
→ 解釈: 無鉛はんだでもSMD小型部品なら260℃で十分。接触時間は短めの2秒で、熱容量の小さい部品に余計な熱を加えない設定。
ケース3: 無鉛SAC305+BGA+リフロー
入力値:
- はんだ: 無鉛 SAC305
- 作業方式: リフロー
- 部品: BGA
- 基板: 4層 / 35μm
計算結果:
- プロファイル: 予熱90秒→ソーク90秒→リフロー75秒→冷却60秒
- ピーク温度: 250℃
- 液相線温度: 220℃
→ 解釈: BGAは手はんだ不可なのでリフロー一択。4層基板で予熱を十分にとり、ピーク250℃で安定した接合が得られる標準的なプロファイル。
ケース4: 低温はんだ+SMD小型+2層基板
入力値:
- はんだ: 低温 Sn42/Bi58
- 作業方式: 手はんだ
- 部品: SMD小型(0402-0805)
- 基板: 1-2層 / 35μm
計算結果:
- 推奨こて先温度: 178℃
- 接触時間: 2.0秒
- 予備加熱: 不要
→ 解釈: 低温はんだは178℃と非常に低い設定。LED基板や耐熱性の低い部品に最適だが、接合強度は有鉛・無鉛より劣るので機械的応力がかかる部位には不向き。
ケース5: 無鉛SAC305+QFP+6層基板+70μm銅箔
入力値:
- はんだ: 無鉛 SAC305
- 作業方式: 手はんだ
- 部品: QFP/SOP
- 基板: 6層以上 / 70μm
計算結果:
- 推奨こて先温度: 280℃
- 接触時間: 3.0秒
- 予備加熱: 必要(約132℃)
→ 解釈: 多層基板+厚銅箔で熱の吸収が大きく、温度が20℃以上高くなる。QFPのドラッグソルダリングでは予備加熱が重要——基板を均一に温めてからはんだ付けすることでブリッジを防げる。
ケース6: 有鉛はんだ+リフロー+2層基板
入力値:
- はんだ: 有鉛 Sn63/Pb37
- 作業方式: リフロー
- 基板: 1-2層 / 35μm
計算結果:
- プロファイル: 予熱90秒→ソーク90秒→リフロー60秒→冷却60秒
- ピーク温度: 225℃
- 液相線温度: 183℃
→ 解釈: 有鉛リフローはピーク温度225℃と低く、部品への熱負荷が小さい。予熱ゾーンの温度勾配も緩やかで、はんだボールが出にくい安定したプロファイル。
仕組み・アルゴリズム——推奨温度はどう計算しているのか
手法の比較: ルックアップテーブル vs 公式ベース
はんだの推奨温度を出す方法は2つある。1つはメーカー推奨値のテーブル参照、もう1つは物性値から公式で算出する方法だ。
テーブル方式はメーカーごとの微妙な違いを反映できるが、組み合わせ爆発(はんだ4種 × 部品5種 × 層数3 × 銅箔3 = 180通り)でメンテナンスが困難になる。このツールでは公式ベースを採用し、合金ごとの物性値(液相線温度)に補正係数を加算する方式にした。
こて先温度の計算フロー
tipTemp = liquidus + handTipDelta + layerCorrection + copperCorrection
liquidus: はんだの液相線温度(SAC305 = 220℃)
handTipDelta: 部品の熱容量に応じた加算値
SMD小型: +40℃ / SMD大型: +50℃ / DIP: +50℃ / QFP: +30℃
layerCorrection: 基板層数による補正
1-2層: 0℃ / 4層: +10℃ / 6層以上: +20℃
copperCorrection: 銅箔厚による補正
18μm: -5℃ / 35μm: 0℃ / 70μm: +10℃
この方式の根拠は、千住金属工業やKOKIなど主要はんだメーカーの推奨温度範囲と、IPC/JEDEC J-STD-020の部品耐熱規格を参照している(IPC/JEDEC J-STD-020)。
リフロープロファイルの設計ロジック
4ゾーンの温度・時間は、はんだの物性値から以下のように算出している:
予熱ゾーン: 25℃ → 150℃(低温はんだは120℃)/ 90秒
ソークゾーン: 予熱温度 → 融点-10℃ / 90秒
リフローゾーン: ソーク温度 → ピーク温度 / 60-75秒
冷却ゾーン: ピーク → 75℃ / 60秒
ピーク温度 = (peakMin + peakMax) / 2
基板の層数や銅箔厚が大きい場合は、予熱ゾーンの昇温レートを下げて温度ムラを抑える。
Excelや手計算との違い——このツールならではの強み
条件を変えた比較がワンタップ
Excelで温度を管理している現場もあるが、はんだの種類を変えるたびにシートを作り直す手間がある。このツールなら、SegmentButtonsを切り替えるだけで瞬時に結果が更新される。有鉛と無鉛の比較もタップ1つ。
リフロープロファイルの可視化
温度プロファイルはSVGグラフで描画されるので、数値の羅列よりもゾーンの傾きや時間配分が直感的に把握できる。TAL(液相線超過時間)の領域もハイライトされ、調整すべきポイントがひと目でわかる。
失敗パターンとの紐付け
「この条件で起きやすい失敗」を自動で表示する機能は、一般的な温度計算ツールにはない。原因と対策がペアで表示されるので、初めてのはんだ付けでも事前にリスクを把握できる。
はんだ付けの豆知識——知っておくと差がつく雑学
鉛フリー化の歴史——RoHS指令と2006年の転換点
2006年7月、EU(欧州連合)がRoHS指令を施行し、電気・電子機器に含まれる鉛の使用が原則禁止された。これにより電子部品業界は一斉に無鉛はんだへ移行。日本でもJIS Z 3282が改訂され、SAC系(Sn-Ag-Cu)合金が標準となった。それまで50年以上使われてきたSn63/Pb37が「過去のもの」になった歴史的な転換点だった(RoHS指令 - Wikipedia)。
SAC305の名前の由来
SAC305は「Sn-Ag-Cu」の頭文字と、銀(Ag)3.0%、銅(Cu)0.5%の含有率から名づけられている。正式にはSn96.5/Ag3.0/Cu0.5。銀の含有量が多いほど濡れ性がよくなるが、コストも上がる。SAC105(Ag1.0%)はBGA向けで、低銀合金として落下衝撃に強い特性がある(SAC合金 - Wikipedia)。
はんだ付けの温度設定を上手に使いこなすコツ
Tip 1: こて先温度は「低め」から始める
温度を上げるのは簡単だが、基板のダメージは元に戻せない。まずは推奨温度の下限から始めて、はんだの溶け具合を見ながら5℃ずつ上げるのが安全な手順。
Tip 2: こて先のクリーニングを怠らない
酸化したこて先は熱伝導率が大幅に低下する。温度を上げる前に、まずこて先が清潔かどうか確認しよう。湿らせたスポンジやブラスクリーナーで定期的にクリーニングすると、設定温度通りの熱が伝わる。
Tip 3: フラックスは「足りない」より「多め」で
特に無鉛はんだでは、フラックスの活性温度帯が狭い。少なすぎると酸化膜を除去しきれず未はんだになる。余分なフラックスは洗浄できるが、未はんだの修正はリワークが必要だ。
Tip 4: 多層基板はホットプレートで予備加熱
4層以上の基板は熱が内層の銅箔に逃げるため、こて先だけでは十分な温度に達しない場合がある。ホットプレートや基板予熱器で100〜120℃に温めておくと、こて先温度を下げても安定したはんだ付けができる。
Tip 5: 「結果をコピー」で設定記録を残す
量産や研修では、使用した温度条件を記録に残すことが品質管理の基本。コピー機能で設定と推奨値をテキスト出力し、作業記録に添付しておこう。
はんだ付けの温度に関するよくある質問
Q: 有鉛はんだと無鉛はんだを混ぜて使ってもいい?
原則として混ぜてはいけない。有鉛と無鉛が混在すると、融点が不安定になり「芋はんだ」の原因になる。既存の有鉛はんだ基板を無鉛はんだでリワークする場合は、まず有鉛はんだを除去してから作業するのが安全だ。合金組成が変わると物性も変わるため、品質保証の観点からも避けるべきだ。
Q: BGAパッケージを手はんだで付けることはできる?
基本的にはできない。BGAの接合ポイントはパッケージの底面にあり、こて先が届かない。リフロー炉またはリワークステーション(ホットエアー方式)を使う必要がある。一部のホビイストはホットプレートやオーブンで代用しているが、温度管理が難しく量産品質は期待できない。
Q: こて先温度を常時400℃以上に設定するのはダメ?
避けるべきだ。400℃以上ではこて先の酸化が急激に進み、寿命が大幅に短くなる。また、FR-4基板のパッド剥離リスクが高まり、周辺部品への熱損傷も起きやすくなる。IPC-J-STD-001でも、手はんだのこて先温度は部品の耐熱規格を超えないことが要件として規定されている。
Q: このツールの計算結果をそのまま量産に使える?
量産の初期設定値としては参考になるが、そのまま使うことは推奨しない。実際のリフロー炉では、基板上に熱電対を取り付けてプロファイルを実測し、はんだメーカーの推奨範囲に収まるよう微調整する必要がある。このツールの値は「出発点」として使い、実測データで検証するのが正しいワークフローだ。
Q: 計算結果のデータはサーバーに送信される?
すべての計算はブラウザ内(JavaScript)で完結しており、入力データや計算結果がサーバーに送信されることはない。安心して業務データを入力できる。
まとめ
はんだ付けの温度設定は、はんだの物性・部品の熱容量・基板の層数と銅箔厚で決まる。このツールは3つの条件を選ぶだけで推奨値を算出し、失敗パターンの事前警告までカバーする。
基板のパターン設計とセットで使いたい人は、プリント基板パターン幅・電流容量計算ツールも試してみて。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。