「あの回路、L1とL2どっちに繋いだっけ?」――分電盤の負荷集計で迷子になる前に
新築やリフォームの電気設計をしていると、必ずぶつかる壁がある。分電盤の回路表だ。照明、コンセント、エアコン、IH、EV充電器……回路が増えるたびにL1相とL2相の負荷バランスを手計算で追いかけるのは、正直しんどい。Excelに数字を打ち込んでも、200V回路の按分を忘れたり、不平衡率の計算式を毎回ググったり。そんな「あるある」を一発で解決するのが、この分電盤負荷集計シミュレーターだ。
回路をポチポチ追加するだけで、L1/L2の負荷配分・不平衡率・需要負荷・推奨主幹ブレーカーまで自動で出る。内線規程の40%ルールに引っかかれば即座に警告。もう手計算で不平衡率を見落とす心配はない。
Excelの回路表に限界を感じた話
電気設計の現場では、分電盤の回路表をExcelで管理しているケースが圧倒的に多い。自分もそうだった。回路名、ブレーカー容量、負荷ワット数、接続相をひたすらセルに打ち込み、L1とL2の合計をSUM関数で出す。ここまでは簡単だ。
問題はL1L2回路(200V回路)の扱い。エアコンやIHクッキングヒーターのような200V機器は、L1相とL2相の両方に均等に負荷がかかる。だからL1L2回路の負荷は半分ずつ振り分けて集計しないといけない。Excelだとこの按分ロジックをIF関数やVLOOKUPで組むことになり、回路数が20を超えたあたりからシートが複雑になってミスの温床になる。
実際、あるリフォーム案件で200V浴室乾燥機の按分を忘れて不平衡率を過小評価してしまい、竣工後にL2相側のブレーカーだけ頻繁にトリップするトラブルに遭遇した。原因がわかるまで数日かかった苦い経験がある。
既存のメーカー製ソフトは高機能だが、ライセンス費用がかかるし、ちょっとした検討にはオーバースペック。もっと手軽に、ブラウザだけで回路を入れてバランスを確認できるツールが欲しい。そう思って作ったのがこのシミュレーターだ。
分電盤の負荷計算と不平衡率 ── 基礎から理解する
単相3線式とは何か
日本の住宅に電気を届ける方式として最も普及しているのが**単相3線式(1φ3W)**だ。柱上変圧器から3本の電線(L1線・中性線・L2線)で給電する仕組みで、L1-中性線間とL2-中性線間でそれぞれ105V、L1-L2線間で210Vが取れる。
身近なたとえで考えてみよう。水道に例えると、L1とL2は2本の水道管、中性線は共通の排水管のようなものだ。100V機器はどちらか1本の水道管から水を使い、200V機器は2本の水道管を同時に使う。排水管(中性線)には、L1側とL2側の差分の電流だけが流れる。
だからこそ、L1とL2の負荷をできるだけ均等にすることが重要になる。両方がバランスしていれば中性線の電流はほぼゼロ。片方に偏ると中性線に過大な電流が流れてしまう。
分電盤 回路表の読み方
分電盤を開けると、主幹ブレーカーの下に分岐ブレーカーがずらりと並んでいる。一般的な住宅用分電盤では、左列がL1相、右列がL2相に接続されている。200V回路(エアコン、IH等)は2極ブレーカーでL1-L2間に接続される。
回路表とは、この各ブレーカーに何が接続されているかを一覧にしたもの。負荷計算では、回路ごとの消費電力(W)と接続相(L1/L2/L1L2)を集計して、相間のバランスと合計負荷を算出する。
不平衡率 計算の仕組み
不平衡率とは、L1相とL2相の負荷の偏り具合を百分率で表した指標だ。計算式は以下の通り。
不平衡率(%) = |L1負荷 - L2負荷| / max(L1負荷, L2負荷) × 100
ここで注意が必要なのは、L1L2回路(200V回路)の扱いだ。200V回路はL1・L2の両相に均等に電流が流れるため、負荷を半分ずつ按分する。
L1負荷 = ΣL1回路の負荷 + ΣL1L2回路の負荷 / 2 L2負荷 = ΣL2回路の負荷 + ΣL1L2回路の負荷 / 2
たとえば、L1に2000W、L2に1000W、L1L2に2000Wの回路がある場合:
- L1負荷 = 2000 + 2000/2 = 3000W
- L2負荷 = 1000 + 2000/2 = 2000W
- 不平衡率 = |3000 - 2000| / 3000 × 100 = 33.3%
主幹ブレーカー 選定の考え方
主幹ブレーカーの容量は、全回路の合計負荷に需要率を掛けた「需要負荷」から決める。需要率とは、全機器が同時にフル稼働する確率を考慮した係数で、住宅なら60-80%、事務所なら50-70%が一般的な目安だ。
需要負荷(W) = 合計負荷(W) × 需要率 需要電流(A) = 需要負荷(W) / 210(V) 主幹容量 = 需要電流の直近上位の標準ブレーカー容量
標準的な主幹ブレーカーの規格値は30A、40A、50A、60A、75A、100A、125A、150A、200A、225Aの系列がある。
負荷バランスを甘く見ると何が起きるか
中性線過電流のリスク
単相3線式で不平衡が大きいと、中性線に想定以上の電流が流れる。中性線は通常、相線と同じ太さの電線を使うが、設計上は「バランスしている前提」で余裕を見ていないことが多い。不平衡率が高いまま放置すると、中性線の過熱 → 絶縁劣化 → 最悪の場合は漏電火災という経路をたどる。
電圧不平衡による機器故障
L1側に負荷が偏ると、L1-中性線間の電圧が下がり、L2-中性線間の電圧が上がる。特に中性線が断線した場合(中性線欠相事故)は、軽負荷側の電圧が異常上昇して家電を壊すことがある。冷蔵庫やパソコンが一気に故障する悲惨な事故は、実際に報告されている。
内線規程の基準
内線規程(JEAC 8001)では、単相3線式の不平衡率は40%以下とすることが推奨されている。これは電力会社との契約条件にも関わる数値で、40%を超えると電力品質に影響を与えるとされる。
実務的な感覚でいうと、不平衡率30%以下なら「良好」、30-40%は「注意」、40%超は「要是正」だ。新築設計で40%を超えていたら、回路のL1/L2振り分けを見直す必要がある。EV充電器(6000W)やIH(5800W)のような大容量200V回路を追加すると、既存の100V回路とのバランスが崩れやすいので要注意。
逆に、200V回路はL1L2両相に均等配分されるため、200V回路の比率が高い盤は不平衡率が低くなりやすい。100V回路の振り分けをいかにバランスさせるかが設計のポイントになる。
分電盤の負荷バランスが問われる4つの場面
新築住宅の分電盤設計
新築では回路数が20を超えることも珍しくない。設計段階でL1/L2のバランスを確認し、不平衡率40%以下に収めるのは基本中の基本。このツールなら、回路をプリセットから選んで相を振り分けるだけで即座にバランスを可視化できる。
リフォーム・増設時の回路追加
既存の分電盤にエアコンや食洗機の回路を追加する場合、既存回路の負荷に新規回路を足した全体バランスを確認しないと、片相だけ過負荷になりかねない。既存回路を入力して「ここにL1で足すか、L2で足すか」を比較検討できる。
EV充電器・蓄電池の導入検討
EV充電器は6000Wクラスの大容量200V回路。導入前に、主幹ブレーカーの容量が足りるかどうかを需要率込みで確認しておきたい場面だ。「今の30A盤で大丈夫か、50Aに上げる必要があるか」の判断材料になる。
太陽光発電の連系確認
太陽光パネルのパワーコンディショナーは200V回路で連系する。逆潮流を含めた負荷バランスの事前確認に、回路表を整理しておくことが役立つ。
3ステップで使える分電盤負荷集計
ステップ1: 回路を追加する プリセット(照明・コンセント・エアコン・IH等)から選ぶか、回路名・ブレーカー容量・負荷・接続相を手動入力して回路を追加する。住宅の一般的な回路はプリセットに揃っているので、ほとんどの場合はワンタップで追加できる。
ステップ2: 需要率を設定する 建物用途に応じた需要率を入力する。住宅なら70%(デフォルト)、事務所なら60%程度が目安。全機器が同時にフル稼働するわけではないという現実を反映した係数だ。
ステップ3: 集計結果を確認する L1/L2相ごとの負荷、不平衡率、需要負荷、推奨主幹ブレーカーが自動表示される。不平衡率が40%を超えていたら警告が出るので、回路の相振り分けを調整してバランスを整えよう。
分電盤 負荷計算の具体例6パターン
ケース1: 住宅基本構成(30A盤)
一般的な住宅の最小構成を想定した例だ。
| 回路名 | 負荷(W) | 接続相 |
|---|---|---|
| 照明 | 1,000 | L1 |
| コンセント | 1,500 | L1 |
| 電子レンジ | 1,500 | L2 |
| 洗濯機 | 500 | L2 |
| エアコン200V | 2,000 | L1L2 |
- L1負荷 = 1,000 + 1,500 + 2,000/2 = 3,500W
- L2負荷 = 1,500 + 500 + 2,000/2 = 3,000W
- 合計負荷 = 6,500W
- 不平衡率 = |3,500 - 3,000| / 3,500 × 100 = 14.3% → 良好
- 需要負荷(需要率70%) = 6,500 × 0.7 = 4,550W
- 需要電流 = 4,550 / 210 = 21.7A → 推奨主幹 30A
200V回路のおかげでバランスが取れている好例。不平衡率14.3%は余裕のある水準だ。
ケース2: 高負荷構成(IH+EV+エアコン複数)
オール電化+EV充電器のフル装備構成。
| 回路名 | 負荷(W) | 接続相 |
|---|---|---|
| 照明 | 1,000 | L1 |
| コンセント1 | 1,500 | L2 |
| IH | 5,800 | L1L2 |
| エアコン200V-1 | 2,000 | L1L2 |
| エアコン200V-2 | 2,000 | L1L2 |
| EV充電 | 6,000 | L1L2 |
| 食洗機 | 1,300 | L1 |
| 浴室乾燥機 | 1,400 | L1L2 |
- L1L2回路合計 = 5,800 + 2,000 + 2,000 + 6,000 + 1,400 = 17,200W
- L1負荷 = 1,000 + 1,300 + 17,200/2 = 10,900W
- L2負荷 = 1,500 + 17,200/2 = 10,100W
- 合計負荷 = 21,000W
- 不平衡率 = |10,900 - 10,100| / 10,900 × 100 = 7.3% → 良好
- 需要負荷(需要率60%) = 21,000 × 0.6 = 12,600W
- 需要電流 = 12,600 / 210 = 60.0A → 推奨主幹 60A
200V回路が多いため不平衡率はわずか7.3%。ただし合計負荷が大きいので主幹60Aが必要。オール電化住宅では需要率を60%に下げるのが一般的だ。
ケース3: ワンルーム最小構成(不平衡率オーバーの例)
あえてバランスの悪い構成を見てみよう。
| 回路名 | 負荷(W) | 接続相 |
|---|---|---|
| 照明 | 500 | L1 |
| コンセント | 1,000 | L2 |
| エアコン100V | 1,200 | L1 |
- L1負荷 = 500 + 1,200 = 1,700W
- L2負荷 = 1,000W
- 合計負荷 = 2,700W
- 不平衡率 = |1,700 - 1,000| / 1,700 × 100 = 41.2% → 不平衡(要是正)
- 需要負荷(需要率70%) = 2,700 × 0.7 = 1,890W
- 需要電流 = 1,890 / 210 = 9.0A → 推奨主幹 30A
回路数が少ないと、100V回路の偏りがダイレクトに不平衡率に影響する。このケースでは、エアコンをL2に移すだけで不平衡率を大幅に改善できる。
ケース4: EV充電器追加シナリオ
ケース1の住宅にEV充電器(6000W/200V)を追加したらどうなるかを検証。
| 回路名 | 負荷(W) | 接続相 |
|---|---|---|
| (ケース1の5回路) | — | — |
| EV充電器 | 6,000 | L1L2 |
- L1L2回路合計 = 2,000 + 6,000 = 8,000W
- L1負荷 = 1,000 + 1,500 + 8,000/2 = 6,500W
- L2負荷 = 1,500 + 500 + 8,000/2 = 6,000W
- 合計負荷 = 12,500W
- 不平衡率 = |6,500 - 6,000| / 6,500 × 100 = 7.7% → 良好
- 需要負荷(需要率70%) = 12,500 × 0.7 = 8,750W
- 需要電流 = 8,750 / 210 = 41.7A → 推奨主幹 50A
EV充電器は200V回路なので不平衡率にはほぼ影響しない(14.3% → 7.7%でむしろ改善)。しかし主幹は30Aから50Aへの増設が必要。EV導入前にこのシミュレーションをしておけば、電力会社への容量変更申請をスムーズに進められる。
ケース5: 片相偏りの極端な例
L1側に回路が集中してしまった、やってはいけない構成例。
| 回路名 | 負荷(W) | 接続相 |
|---|---|---|
| 照明1 | 1,000 | L1 |
| 照明2 | 1,000 | L1 |
| コンセント1 | 1,500 | L1 |
| コンセント2 | 500 | L2 |
- L1負荷 = 1,000 + 1,000 + 1,500 = 3,500W
- L2負荷 = 500W
- 合計負荷 = 4,000W
- 不平衡率 = |3,500 - 500| / 3,500 × 100 = 85.7% → 不平衡(要是正)
- 需要負荷(需要率70%) = 4,000 × 0.7 = 2,800W
- 需要電流 = 2,800 / 210 = 13.3A → 推奨主幹 30A
不平衡率85.7%は完全にアウト。照明2をL2に、コンセント1をL2に振り替えるだけで劇的に改善する。このツールで回路の相を変更しながらリアルタイムで不平衡率の変化を確認してみてほしい。
ケース6: 事務所の中規模構成
住宅以外の例として、小規模事務所の構成。
| 回路名 | 負荷(W) | 接続相 |
|---|---|---|
| 照明1 | 2,000 | L1 |
| 照明2 | 2,000 | L2 |
| コンセント1 | 1,500 | L1 |
| コンセント2 | 1,500 | L2 |
| エアコン200V-1 | 3,000 | L1L2 |
| エアコン200V-2 | 3,000 | L1L2 |
| 複合機 | 1,500 | L2 |
- L1回路合計 = 2,000 + 1,500 = 3,500W、L2回路合計 = 2,000 + 1,500 + 1,500 = 5,000W
- L1L2回路合計 = 6,000W
- L1負荷 = 3,500 + 6,000/2 = 6,500W
- L2負荷 = 5,000 + 6,000/2 = 8,000W
- 合計負荷 = 14,500W
- 不平衡率 = |6,500 - 8,000| / 8,000 × 100 = 18.8% → 良好
- 需要負荷(需要率60%) = 14,500 × 0.6 = 8,700W
- 需要電流 = 8,700 / 210 = 41.4A → 推奨主幹 50A
事務所は需要率を60%に設定。複合機がL2に入っているため若干L2寄りだが、不平衡率18.8%なので問題ない。もしL1側にサーバーラック等を追加するなら、L1に振り分けることでさらにバランスが改善する。
不平衡率計算と主幹容量算定のアルゴリズム
手法の比較: 簡易法 vs 詳細法
分電盤の負荷集計には2つのアプローチがある。
簡易法: 100V回路を単純にL1/L2に分けて合計し、200V回路は無視するか全量を合計にだけ加える方法。電気工事の現場で電卓片手にやる場合はこれが多い。ただし200V回路の相間按分を考慮しないため、不平衡率の計算精度が落ちる。
詳細法(本ツール採用): 200V回路の負荷を半分ずつL1・L2に按分して不平衡率を算出する方法。内線規程の趣旨に沿った正確な計算ができる。本ツールではこちらを採用している。
計算フロー
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- 入力: 各回路の { name, breakerA, loadW, phase }
- 相別集計: L1負荷 = Σ(phase=L1の回路のloadW) + Σ(phase=L1L2の回路のloadW) / 2 L2負荷 = Σ(phase=L2の回路のloadW) + Σ(phase=L1L2の回路のloadW) / 2 合計負荷 = Σ(全回路のloadW)
- 不平衡率: max(L1, L2) = 0 の場合 → 0% それ以外 → |L1 - L2| / max(L1, L2) × 100
- 需要負荷: 需要負荷 = 合計負荷 × 需要率(%) / 100
- 主幹容量:
需要電流 = 需要負荷 / 210V
標準ブレーカー系列 [30, 40, 50, 60, 75, 100, 125, 150, 200, 225]
→ 需要電流以上の最小値を推奨主幹として選定
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計算例: ケース1をステップバイステップで
ケース1(住宅基本構成)を計算フローに沿って追ってみよう。
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入力回路:
照明 1000W L1
コンセント 1500W L1
電子レンジ 1500W L2
洗濯機 500W L2
エアコン 2000W L1L2
Step 2: 相別集計 L1回路合計 = 1000 + 1500 = 2500W L2回路合計 = 1500 + 500 = 2000W L1L2回路合計 = 2000W L1負荷 = 2500 + 2000/2 = 3500W L2負荷 = 2000 + 2000/2 = 3000W 合計負荷 = 1000+1500+1500+500+2000 = 6500W
Step 3: 不平衡率 |3500 - 3000| / max(3500, 3000) × 100 = 500 / 3500 × 100 = 14.3% → 良好(40%以下)
Step 4: 需要負荷 6500 × 0.70 = 4550W
Step 5: 主幹容量
需要電流 = 4550 / 210 = 21.7A
標準系列で21.7A以上の最小値 → 30A
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需要率の考え方
需要率(Demand Factor)は「全負荷設備が同時にフル稼働する確率」を反映した低減係数だ。照明と電子レンジとエアコンが同時にMAXで動くことは現実的には少ない。内線規程や各電力会社のガイドラインでは、住宅の需要率を60-80%、事務所を50-70%としている。
需要率を低く見積もりすぎると主幹容量が不足してブレーカートリップの原因になり、高く見積もりすぎると過大な主幹を選んでコストが上がる。迷ったら住宅70%・事務所60%をデフォルトにしておけば、実用上はまず問題ない。
Excel・メーカーソフトとここが違う
分電盤の負荷集計を行う方法は、大きく分けて3つある。
Excel手作業 — 多くの電気工事士や設備設計者が使っている定番の方法。自由度は高いが、L1/L2の振り分けを手動で管理するため、回路を入れ替えるたびに数式を直す手間が発生する。200V回路の半分ずつ按分を忘れて不平衡率の計算が狂う、というミスも起きやすい。
メーカー提供ソフト — パナソニックや河村電器のカタログ連動ソフトは機能が豊富だが、自社製品前提の設計になっていることが多い。インストールが必要で、現場のスマホからサッと確認するには向かない。
本ツール — ブラウザだけで完結する。回路を追加して相を指定すれば、L1/L2の按分・不平衡率・主幹推奨まで自動算出。プリセットからワンタップで一般的な回路を追加できるので、住宅の30A盤なら1分もかからず集計が終わる。データはブラウザ内で完結し、サーバーに送信しない。
要するに、「Excelの自由度」と「専用ソフトの自動計算」のいいとこ取りを、インストール不要で実現したツールだ。
豆知識 — 単相3線式と電力インフラの歩み
単相3線式が日本の標準になった理由
日本の住宅に単相3線式が普及し始めたのは1970年代。それまでの単相2線式(100V)では、エアコンや電子レンジといった大型家電の普及に対応しきれなかった。3本の線(L1・N・L2)で100Vと200Vの両方を取り出せる単相3線式は、既存の配電インフラを大きく変えずに供給容量を倍増できる合理的な方式だった。電気事業連合会のサイトに詳しい経緯がある。
中性線欠相という「見えない危険」
単相3線式で最も怖いトラブルが中性線欠相(ちゅうせいせんけっそう)。中性線が断線すると、L1側とL2側の負荷バランスが崩れた分だけ電圧が偏り、軽負荷側の機器に200V近い異常電圧がかかることがある。テレビやPCが一瞬で壊れる事故の原因になるため、2008年から中性線欠相保護付きの漏電ブレーカーが義務化された。不平衡率を日頃から意識しておくことは、この中性線欠相リスクを間接的に下げることにもつながる。
スマートメーターで変わる負荷管理
2024年度までに全国のほぼ全世帯にスマートメーターが設置された。30分ごとの電力データがクラウドに蓄積されるため、将来的には実測値ベースで不平衡率を可視化できる時代が来るだろう。ただし現時点では回路単位の計測には対応していないため、設計段階での負荷集計ツールの役割はまだまだ大きい。
Tips — 分電盤設計をもっとスマートに
-
200V回路を積極的に使う — IHやエアコンを200V回路(L1L2)にすると、両相に均等配分されるため不平衡率が改善しやすい。100V×2回路に分けるより、200V×1回路のほうがバランスが取りやすいケースが多い
-
季節変動を想定して最悪条件で集計する — 夏場はエアコンがフル稼働し、冬場は暖房+IHが重なる。年間を通じて最も負荷が偏るシーズンで集計しておくと安心だ
-
EV充電器は必ず200V/30A以上で計画する — 6kW級のEV充電器は1回路で分電盤全体の負荷バランスを大きく左右する。後から追加すると主幹容量が足りなくなるケースが多いので、新築時に専用回路を確保しておくのがベスト
-
需要率は建物用途で使い分ける — 住宅なら60〜80%、事務所なら50〜70%が一般的な目安。全負荷が同時に稼働することはまずないので、需要率を適切に設定すれば主幹ブレーカーを1ランク下げられることもある
-
不平衡率30%を超えたら回路の入れ替えを検討 — 内線規程の上限は40%だが、余裕を見て30%以内に収めておくと将来の増設にも対応しやすい
よくある質問
三相3線式(3φ3W)の負荷集計には対応している?
現時点では単相3線式(1φ3W)のみの対応だ。三相3線式は動力負荷(ポンプ・空調室外機など)で使われるが、住宅・小規模施設の分電盤設計では単相3線式がほとんどのため、まずこちらを優先した。三相対応は今後のアップデートで検討中。
需要率はどうやって決めればいい?
建物用途と使い方による。住宅の場合、内線規程や電力会社の基準では60〜80%が一般的。在宅勤務が多くエアコン常時稼働なら80%寄り、共働きで昼間は不在なら60%寄りに設定するのが実務的な判断だ。迷ったら70%(デフォルト値)で集計してみて、余裕があるかどうかを確認するとよい。
不平衡率40%超でもブレーカーは落ちない?
不平衡率が40%を超えても、主幹ブレーカーが即座にトリップするわけではない。ただし、中性線に流れる電流が増え、電圧のバラつきが大きくなるため、機器の寿命が縮んだり、最悪の場合は中性線過熱のリスクがある。内線規程(JEAC 8001)では40%以下を推奨しており、これは安全マージンを含んだ基準値。設計段階で守っておくに越したことはない。
入力したデータはどこかに保存される?
すべての計算はブラウザ内(クライアントサイド)で完結しており、サーバーへのデータ送信は一切行っていない。ページを閉じるとデータは消えるため、結果が必要な場合は「結果をコピー」ボタンでテキストとして保存しておくことを推奨する。
主幹ブレーカーの推奨値と実際の契約アンペアは同じ?
必ずしも一致しない。本ツールが算出する主幹ブレーカー推奨値は、需要負荷から逆算した「最低限必要な容量」だ。実際の契約アンペアは電力会社との契約内容や、将来の増設余裕を加味して決める。推奨値が50Aなら、契約は60Aにしておくといった余裕設計が実務では一般的だ。
まとめ
分電盤の負荷集計は、回路のL1/L2振り分けと不平衡率の管理が肝になる。このツールを使えば、回路を追加するだけでリアルタイムに不平衡率と主幹推奨容量が確認でき、Excelでの手作業から解放される。
関連ツールも合わせて活用してみてほしい。ブレーカー・電線サイズ一括選定で回路ごとの電線サイズを決め、電線管サイズ判定シミュレーターで配管を選定し、分岐回路数・分電盤選定で盤のサイズを確認、需要率・負荷率・不等率計算で契約電力の妥当性を検証する — この流れで電気設計の一連の工程をカバーできる。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。