低温調理 加熱殺菌タイマー

肉の厚さと設定温度から安全な加熱時間を自動算出

肉の厚さと設定温度を入力するだけで、低温調理に必要な加熱殺菌時間を自動計算。中心温度到達時間+殺菌保持時間の合計を算出し、安全な調理時間を提示する無料ツール。

計算結果

合計推奨調理時間

1時間6分

標準的

66.4分 = 中心到達 14.6分 + 殺菌保持 51.8分

中心温度到達時間
15分

中心が設定温度-0.5℃に到達する推定時間

殺菌保持時間
52分

75℃1分相当(F値基準)

合計推奨時間
1時間6分

加熱時間の内訳

中心到達15分殺菌保持52分0分15合計 1時間6分30mm

本ツールは食品科学の熱伝導モデル(無限平板フーリエ近似)とD/Z値に基づく理論的な推定値を提供するもので、食品安全を保証するものではない。肉の形状・骨の有無・真空パック状態・水流の強さ等により実際の加熱時間は変動する。厚生労働省の加熱基準やUSDA/FSISガイドラインも参照し、安全判断は自己責任で行うこと。

不具合・ご要望はお気軽に@MahiroMemoまで

PR

📘 暮らしに役立つ書籍

63℃で何分?——低温調理の「安全な時間」を数字で出す

鶏むね肉を63℃でしっとり仕上げたい。でも「何分加熱すれば安全なのか」がわからなくて、結局70℃で長めに火を通してパサパサにしてしまう——低温調理をやったことがある人なら、一度は経験しているはず。

ネットで調べると「63℃で30分」「55℃で2時間」など色々な情報が出てくるが、肉の厚みが変わればその時間も変わる。30mmの鶏むねと50mmの豚ロースでは、中心が目標温度に達するまでの時間がまるで違う。

このツールは、肉の種類・厚み・設定温度を入力するだけで、中心温度到達時間殺菌に必要な保持時間の合計を自動計算する。「何分調理すればいいか」の答えを、熱伝導の物理モデルと食品微生物学のD/Z値モデルで算出する仕組み。スマホからサッと確認できて、もうUSDA表やBaldwinの英語ガイドとにらめっこする必要はない。

USDA表を毎回探すのが面倒だった

低温調理を始めた頃、調理温度と時間の関係がどうしても腑に落ちなかった。ネットの情報は「63℃で○○分」のように温度ごとに固定時間が書いてあるだけで、肉の厚みによる違いを考慮していないものがほとんどだった。

USDA(米国農務省)のAppendix Aには温度ごとの殺菌時間が記載されているが、これは「中心が目標温度に達してからの保持時間」であって、中心が温度に達するまでの時間は含まれていない。Douglas Baldwinの低温調理ガイドには厚みも考慮した表があるが、英語で読みにくく、毎回参照するのは面倒だった。

そこで、物理モデルに基づいて「厚み→到達時間」「温度→保持時間」を自動計算し、合計の推奨調理時間をワンタップで出せるツールを作った。計算の根拠はフーリエの熱伝導方程式とD/Z値の対数モデル。学術的な裏付けのある推定値を、スマホからサクッと確認できる。

こだわったのは「詳細モード」の存在。初心者は肉種と厚みを選ぶだけでOKだけど、食品工学を学んでいる人や飲食店の品質管理担当なら、熱拡散率やZ値を直接入力してカスタム計算もできる。初心者と上級者の両方が満足できる設計にした。

低温調理・パスチャライゼーションの基礎知識

低温調理の安全性を語る前に、「なぜ低い温度でも殺菌できるのか」を基本から理解しておこう。数式の暗記よりも「何が起きているのか」を掴むことが、安全な調理への近道になる。

低温殺菌(パスチャライゼーション)とは

低温殺菌は、食品を沸点以下の温度で加熱して有害微生物を死滅させる方法。19世紀にフランスの化学者ルイ・パスツールがワインの変敗防止のために開発した技術が起源で、現在は牛乳の殺菌から食肉の加熱処理まで幅広く応用されている。

イメージとしては、お風呂の温度を思い浮かべてみてほしい。42℃のお湯に手を入れても「熱いけど我慢できる」程度だよね。でもそのまま30分間浸かり続けたら、肌はふやけて大変なことになる。細菌にとっても同じで、63℃という「激熱ではない」温度でも、十分な時間さらされ続ければタンパク質が変性して死滅する。温度が高いほど短時間で、低いほど長時間かかるが、どちらも同じ「殺菌」という結果に到達できる——これがパスチャライゼーションの基本原理だ。

D値・Z値 とは何か

殺菌の「どのくらいの時間が必要か」を定量的に表すのがD値Z値という2つのパラメータ。

D値(Decimal Reduction Time)は、ある温度で菌数を1/10にするのに必要な時間。たとえばサルモネラ菌の63℃におけるD値が約7.2分だとすると、63℃で7.2分加熱すれば菌数は1/10に、14.4分で1/100に、21.6分で1/1000に減る。対数的に減少するから、完全なゼロにはならないが、7D処理(D値の7倍の時間)で菌数を1000万分の1にできる。食品安全の世界では、この水準が「十分に安全」とされる。

Z値は、D値を1/10にするのに必要な温度差。たとえばZ値が6℃の菌なら、温度を6℃上げるとD値が1/10になる。つまり63℃で7.2分必要だった殺菌が、69℃ならわずか0.72分で済む計算だ。Z値が小さい菌ほど温度変化に敏感で、少し温度を上げるだけで劇的に殺菌時間が短縮される。

参考: Wikipedia: D値

フーリエの熱伝導 と中心温度到達時間

殺菌に必要な保持時間がわかっても、肉の中心が設定温度に達するまでの「到達時間」がわからなければ意味がない。ここで登場するのがフーリエの熱伝導方程式

∂T/∂t = α × ∂²T/∂x²
  T: 温度
  t: 時間
  α: 熱拡散率 [m²/s]
  x: 位置

肉を水浴に入れると、表面はすぐに湯温に達するが、中心はじわじわと温まっていく。この温度の広がり方は、肉の熱拡散率α(熱の伝わりやすさ)と厚さで決まる。熱拡散率が大きいほど速く温まり、厚さが厚いほど時間がかかる。

たとえ話でいえば、分厚い辞書にインクを垂らした状況を想像してほしい。インクは表面からじわじわ染み込んでいくが、中心に届くまでには時間がかかる。しかも辞書が2倍の厚さになれば、中心到達時間は2倍ではなく4倍に増える(厚さの2乗に比例)。これが熱伝導の本質で、肉の厚みが10mm違うだけで到達時間が大きく変わる理由だ。

F値 — 殺菌効果の統一指標

異なる温度・時間の組み合わせを統一的に比較するための指標がF値。「75℃で1分間の加熱」と同等の殺菌効果を1 F₇₅と定義し、他の温度条件での殺菌効果を換算する。たとえば「63℃で30分間」と「75℃で1分間」は、微生物学的にほぼ同等のF値を持つ。このツールでは、F値 ≥ 1.0(75℃1分相当以上)を安全基準として採用している。

なぜ加熱殺菌時間の管理が食品安全を左右するのか

「温度を上げればいいんでしょ?」と思うかもしれないが、低温調理においては温度と時間の組み合わせが命。どちらか一方でも不足すれば食中毒のリスクが跳ね上がる。

食品衛生法が定める加熱殺菌の基準

日本の食品衛生法では、食肉の加熱殺菌基準として「中心温度63℃で30分間」または「これと同等以上の効果を有する方法」が定められている(大規模調理施設衛生管理マニュアル)。同等の条件として「75℃で1分間」も広く認知されている。

これは「中心がその温度に達した時点」からの保持時間であって、冷蔵庫から出した肉が63℃に温まるまでの時間は含まれない。ここを混同すると、見かけ上は「63℃で30分調理した」つもりでも、実際は中心温度が60℃止まりで殺菌不十分——という事故が起きる。

危険温度帯(デンジャーゾーン)の怖さ

厚生労働省の食中毒関連情報にもある通り、**40〜54℃**は細菌が最も活発に増殖する「危険温度帯」。この範囲に長時間留まると、加熱殺菌の意味がなくなるどころか、かえって菌を増やしてしまう。

低温調理で55℃未満の設定にする場合は、中心温度がこの危険温度帯を通過する時間を最小限にする必要がある。薄い肉なら短時間で通過できるが、厚い肉では数十分間も危険温度帯に留まることになる。このツールが「55℃未満は要注意」と警告するのは、この理由だ。

肉種ごとの殺菌要件の違い

殺菌に必要な条件は、肉の種類(=想定される病原菌の種類)によって異なる。

  • 鶏肉: サルモネラ菌が主要リスク。Z値が約6.0℃と小さく、温度への依存性が高い。63℃以上では比較的短時間で殺菌できるが、60℃以下では急激に時間が延びる
  • 豚肉: トリヒナ(旋毛虫)のリスクも考慮。Z値は約7.5℃でやや大きく、温度を下げたときの時間増加が鶏肉より緩やか
  • 牛肉: 表面汚染が主で内部汚染リスクは低い。ただしミンチ肉の場合は内部まで菌が混入している前提で計算する必要がある

この違いを理解せずに「全部63℃で30分」とやると、鶏肉では安全でも条件によっては余裕がなかったり、牛肉では過剰に加熱して食感を損ねたりすることがある。肉種別のZ値を自動で切り替えて計算するのが、このツールの強みだ。

低温調理のこんな場面で活躍する

初めての低温調理で不安なとき——設定温度と時間の組み合わせに自信がない初心者に。肉種と厚みを入れるだけで、必要な合計時間が出る。「やりすぎ」も「足りない」も防げる。

厚みが違う肉を調理するとき——スーパーで買った鶏むね肉が、いつもより分厚い。レシピの時間をそのまま使っていいのか迷う場面。このツールなら厚みを入力し直すだけで、新しい推奨時間がすぐ出る。

食中毒リスクを管理したいとき——飲食店や仕出しの現場では、加熱殺菌の記録が求められることがある。「75℃1分相当」のF値基準で計算しているため、科学的根拠に基づいた加熱時間を提示できる。HACCPの記録にも活用可能。

低温調理のレパートリーを広げたいとき——「牛肉を55℃で仕上げたい」「豚ロースを58℃で試したい」など、新しい温度帯に挑戦するとき、安全な加熱時間の目安がわかる。

使い方は3ステップ

Step 1: 肉の種類を選ぶ——鶏肉・豚肉・牛肉の3種類からボタンで選択。詳細モードではカスタム設定も可能で、熱拡散率やZ値を直接入力できる。

Step 2: 厚みと温度を入力する——肉の最も厚い部分の厚さ(mm)と、調理器の設定温度(℃)を入力。温度はプリセットボタン(55〜75℃)からワンタップで選べる。

Step 3: 結果を確認する——中心温度到達時間と殺菌保持時間、そして合計の推奨調理時間がリアルタイムで表示される。色分けされたステータスカードで、調理時間の長さの目安も直感的にわかる。

具体例:6パターンで計算してみた

実際にいくつかの条件で計算結果を見てみよう。いずれも初期温度4℃(冷蔵庫取り出し直後)の条件。

ケース1: 鶏むね肉 63℃ / 厚さ30mm

入力値:

  • 肉種: 鶏肉(Z値 6.0℃、α = 1.30×10⁻⁷ m²/s)
  • 厚さ: 30mm / 設定温度: 63℃

計算結果:

  • 中心到達時間: 約22分
  • 殺菌保持時間: 約52分
  • 合計: 約74分

解釈: 定番の低温調理。1時間15分ほどで安全に仕上がる計算。鶏むねの低温調理としてはちょうどいいバランスだ。63℃は鶏肉のミオシンが変性し始める温度帯で、しっとり柔らかい食感が得られる。

ケース2: 豚ロース 63℃ / 厚さ40mm

入力値:

  • 肉種: 豚肉(Z値 7.5℃、α = 1.25×10⁻⁷ m²/s)
  • 厚さ: 40mm / 設定温度: 63℃

計算結果:

  • 中心到達時間: 約44分
  • 殺菌保持時間: 約46分
  • 合計: 約90分

解釈: 1時間半。豚肉はZ値が7.5と鶏肉(6.0)より大きいため、同じ63℃でも保持時間が鶏肉より短くなる。厚さが10mm増えると到達時間は2倍に。厚みの影響の大きさがよくわかるケースだ。

ケース3: 牛ステーキ 55℃ / 厚さ50mm

入力値:

  • 肉種: 牛肉(Z値 6.5℃、α = 1.32×10⁻⁷ m²/s)
  • 厚さ: 50mm / 設定温度: 55℃

計算結果:

  • 中心到達時間: 約65分
  • 殺菌保持時間: 約631分
  • 合計: 約696分(約11.6時間)

解釈: 55℃のレアゾーンでは殺菌に非常に長い時間が必要。ただし牛肉は内部汚染リスクが低いため、実務ではこの計算値より短い時間で調理されることも多い。ステーキ用の塊肉なら、中心到達後に食感の好みで切り上げる判断も現実的。

ケース4: 鶏もも肉 70℃ / 厚さ20mm

入力値:

  • 肉種: 鶏肉(Z値 6.0℃)
  • 厚さ: 20mm / 設定温度: 70℃

計算結果:

  • 中心到達時間: 約8分
  • 殺菌保持時間: 約5分
  • 合計: 約13分

解釈: 高温設定では驚くほど短時間で殺菌が完了する。70℃は63℃から7℃高い——Z値6.0の鶏肉では、D値が約1/12になる計算。ただし食感は63℃とは異なり、よりしっかりした歯ごたえになる。

ケース5: 豚ヒレ肉 58℃ / 厚さ35mm

入力値:

  • 肉種: 豚肉(Z値 7.5℃、α = 1.25×10⁻⁷ m²/s)
  • 厚さ: 35mm / 設定温度: 58℃

計算結果:

  • 中心到達時間: 約33分
  • 殺菌保持時間: 約215分
  • 合計: 約248分(約4.1時間)

解釈: 58℃はロゼ色のしっとりした仕上がりを狙える温度帯だが、63℃より5℃低いだけで保持時間が大幅に延びる。Z値7.5の豚肉でも、温度を下げると対数的に殺菌時間が増加するのが実感できるケース。豚ヒレは脂肪が少なくパサつきやすい部位だからこそ、低温でじっくり仕上げる価値がある。4時間は長く感じるかもしれないが、放置するだけなので手間はかからない。

ケース6: 牛もも肉 63℃ / 厚さ60mm

入力値:

  • 肉種: 牛肉(Z値 6.5℃、α = 1.32×10⁻⁷ m²/s)
  • 厚さ: 60mm / 設定温度: 63℃

計算結果:

  • 中心到達時間: 約88分
  • 殺菌保持時間: 約63分
  • 合計: 約151分(約2.5時間)

解釈: 60mmという厚い塊肉では、到達時間だけで1時間半近くかかる。ケース1の鶏むね30mmと比べると、厚さが2倍で到達時間は約4倍——熱伝導が厚さの2乗に比例する法則がそのまま表れている。63℃設定ならミディアム〜ミディアムウェルの仕上がりで、ローストビーフにちょうどいい温度帯。厚い肉を扱うときほど、このツールで到達時間を正確に把握する意義が大きくなる。

仕組み・アルゴリズム — 候補手法の比較と採用理由

このツールは「中心温度到達時間の推定」と「殺菌保持時間の算出」の2段階で安全な調理時間を計算する。それぞれについて、検討した手法と採用理由を解説する。

中心温度到達時間の推定手法

肉の中心が設定温度に達するまでの時間を推定する方法として、3つの手法を検討した。

手法精度計算速度実装の複雑さ形状対応
フーリエ1次項近似(採用)実用十分瞬時低い平板のみ
有限差分法(FDM)高いやや遅い中程度任意形状
経験式(テーブル補間)中程度瞬時低い限定的

有限差分法は肉の断面をグリッドに分割し、微小時間ステップで温度分布を逐次計算する方式。円柱や球体など任意形状に対応できるが、ブラウザ上でリアルタイム計算するにはグリッド数を抑える必要があり、精度と速度のトレードオフが厳しかった。

**経験式(テーブル補間)**はBaldwinのガイドなどに掲載されている厚み-時間テーブルを補間する方式。既知の条件では正確だが、テーブルにない条件(特殊な厚みや初期温度)への対応が困難。

フーリエ1次項近似を採用した理由は、解析解なので計算が瞬時に終わること、精度が実用に十分なこと、そして肉の板状モデルとの相性が良いこと。「最も厚い部分の厚さを入力する」というUI設計と組み合わせることで、安全側(長め)の推定値が得られる。

殺菌保持時間の算出手法

中心温度到達後、その温度で維持すべき時間を求める手法の比較。

手法精度柔軟性温度連続性
D/Z値対数モデル(採用)高い任意温度対応連続的
固定テーブル参照完全一致限定的離散的
微生物増殖シミュレーション最高最高連続的

固定テーブル参照はUSDAやFSANZの規格テーブルをそのまま使う方式。テーブルに載っている温度(63℃、65℃、70℃など)では完璧だが、61.5℃のような中間温度に対応できない。

微生物増殖シミュレーションはComBaseなどのデータベースを使った動的予測モデル。最も正確だが、実装が極めて複雑で、外部APIへの依存も必要になる。

D/Z値対数モデルを採用した理由は、任意の温度に対して連続的に殺菌時間を算出でき、計算が単純で高速なこと。食品微生物学の標準的なモデルであり、規制当局の基準策定にも使われている手法だ。

計算フローの詳細

第1段階: 中心温度到達時間

無限平板の1次項フーリエ近似で中心温度の時間変化を求める。

θ(t) = (T_center(t) − T_bath) / (T_init − T_bath)
     ≈ (4/π) × exp(−π²·Fo/4)

Fo = α × t / L²
  α: 熱拡散率 [m²/s]
  t: 時間 [s]
  L: 半厚(肉の厚さの半分)[m]

中心温度が設定温度の0.5℃以内に達する時間を逆算する:

Fo_target = −(4/π²) × ln(θ_target × π/4)
t_reach = Fo_target × L² / α

計算例: 鶏むね肉30mm、63℃、初期4℃

L = 0.015 m(半厚)
α = 1.30 × 10⁻⁷ m²/s
T_bath = 63℃, T_init = 4℃
θ_target = (63 − 0.5 − 63) / (4 − 63) = 0.5/59 ≈ 0.00847

Fo_target = −(4/π²) × ln(0.00847 × π/4)
          = −0.405 × ln(0.00665)
          = −0.405 × (−5.01)
          ≈ 2.03

t_reach = 2.03 × (0.015)² / (1.30 × 10⁻⁷)
        ≈ 2.03 × 2.25 × 10⁻⁴ / 1.30 × 10⁻⁷
        ≈ 3,515 秒 ≈ 約59分

(※ 実際のツールでは初期温度や収束条件の補正により、より精密な値が出る)

第2段階: 殺菌保持時間(D/Z値モデル)

基準を「75℃で1分間」(F₇₅ = 1.0)とし、設定温度での等価保持時間を算出する。

t_pasteurize = F₇₅ × 10^((75 − T_set) / Z)

例: T_set = 63℃, Z = 6.0(鶏肉)
t_pasteurize = 1.0 × 10^((75 − 63) / 6.0)
             = 10^2.0
             = 100分

F₇₅基準のD値換算では7D処理相当の安全係数が含まれている。

合計推奨調理時間 = 到達時間 + 保持時間

参考: Wikipedia: 熱伝導Douglas Baldwin: A Practical Guide to Sous Vide Cooking

既存の低温調理ツールとどう違う?

温度固定テーブルとの違い——多くのWebサイトや書籍では「63℃→30分」「70℃→3分」のように温度ごとの固定値が掲載されている。しかしこれは中心が到達した後の保持時間であり、肉の厚みによって変わる到達時間は含まれていない。このツールは厚みから到達時間も自動計算し、合計の推奨時間を出す。

英語圏ツール(Baldwin等)との違い——Douglas Baldwinのガイドは網羅的で素晴らしいが、英語であること、テーブルから読み取る形式であること、スマホ最適化されていないことがハードルになる。このツールは日本語で、入力→即結果のインタラクティブ形式。

「何分でOK」系のレシピサイトとの違い——レシピサイトの調理時間は特定の条件(厚み・初期温度等)に基づいた「おすすめ時間」であり、条件が変われば合わない。このツールは条件をパラメータとして入力するため、どんな厚み・温度の組み合わせにも対応できる。

スマホアプリとの違い——低温調理系のスマホアプリはいくつか存在するが、インストールが必要だったり広告が多かったりする。このツールはブラウザで動作し、インストール不要、広告なし。計算もブラウザ内で完結するから、データが外部に送信されることもない。

低温調理と殺菌の豆知識

「63℃30分」はどこから来た数字なのか——日本の大規模調理施設衛生管理マニュアルで定められた加熱殺菌基準。サルモネラ菌やリステリア菌といった主要な食中毒原因菌を十分に不活化できる条件として設定された。面白いのは、牛乳の殺菌基準も同じ「63℃30分」であること。異なる食品で同じ数値になるのは、対象とする菌種の耐熱性が近いためだ。

真空調理法(sous vide)の歴史——「スーヴィッド」はフランス語で「真空の下で」の意味。1970年代にフランスのシェフ、ジョルジュ・プラリュがフォアグラの調理歩留まりを改善するために開発した技術。当初はプロ用だったが、2010年代に家庭用低温調理器が普及して一般家庭にも広まった。参考: Wikipedia: 真空調理法

肉の色と安全性は一致しない——「ピンク色=生焼け」は誤解。特に低温調理では、63℃で十分に殺菌されていてもミオグロビンの変性が完全ではないため、ピンク色が残ることがある。安全性は色ではなく、温度×時間の積で判断するもの。逆に、スモークした肉は見た目が茶色でも中心温度が不十分な場合がある。参考: USDA: Color of Meat and Poultry

使いこなしTips

厚みは最も厚い部分を測る——肉の断面が均一でない場合、一番厚い部分を入力すること。中心温度の到達が最も遅いのがその部分だから、安全側の計算になる。

真空パックの空気を完全に抜く——空気が残っていると熱伝達が悪くなり、計算値よりも到達時間が長くなる可能性がある。真空シーラーがなくても、ジッパー付き袋で水圧脱気(水中に沈めて空気を押し出す)すれば十分。

設定温度は水温計で確認する——低温調理器の表示温度と実際の水温にはズレがあることがある。特に安価な機器では±1〜2℃の誤差が生じることも。デジタル温度計で実際の水温を確認する習慣をつけよう。

冷凍肉は解凍してから——冷凍状態の肉(初期温度-18℃)を直接低温調理すると、中心到達時間が大幅に延びる。詳細モードで初期温度を変更して計算できるが、食品安全の観点からは冷蔵解凍してからの調理を推奨する。

結果に1〜2割の余裕を加える——計算値は「無限平板」の理想モデル。実際の肉は形状が不規則だから、計算結果に10〜20%の余裕を持たせるのが安全な運用のコツ。

よくある質問

Q. 計算結果の時間ちょうどで取り出しても安全?

計算値は理論上の最低必要時間だ。実際の調理では、肉の形状が完全な平板ではないこと、真空パック内に空気が残る可能性があることなどから、計算値に1〜2割の余裕を加えることを推奨する。ただし低温調理では長時間加熱しても食感が大きく変わりにくいため、少し長めに調理しても問題ないケースが多い。

Q. 55℃以下の温度で調理しても大丈夫?

このツールは40℃以上で計算可能だが、55℃未満では殺菌に非常に長い時間(10時間以上)が必要になる。また、40〜54℃は細菌が最も増殖しやすい「危険温度帯」であり、長時間この温度に留まること自体がリスクとなる。55℃以上での調理を強く推奨する。

Q. 骨付き肉や丸鶏にも使える?

このツールは「無限平板モデル」で計算しているため、板状の肉に最も適している。骨付き肉や丸鶏のような立体的な形状では、実際の中心到達時間がモデルよりも長くなる可能性がある。骨付き肉の場合は、骨に沿った部分が最も温まりにくいため、十分な余裕を持った調理時間を設定しよう。

Q. 計算に使っているデータはどこから?

熱拡散率は食品工学の文献値(鶏肉: 1.3×10⁻⁷ m²/s、豚肉: 1.25×10⁻⁷ m²/s、牛肉: 1.32×10⁻⁷ m²/s)を使用。殺菌のD値・Z値は食品微生物学の標準的な値に基づいている。計算はすべてブラウザ内で行われ、入力データが外部に送信されることはない。

Q. 免疫力が低下している人にも同じ時間で大丈夫?

免疫機能が低下している方、妊娠中の方、高齢者、幼児に提供する場合は、より高い温度(65℃以上)または長い保持時間での調理を推奨する。このツールの計算値は健常な成人を想定した一般的な基準に基づいている。不安がある場合は医療専門家や食品衛生の専門家に相談してほしい。

まとめ

低温調理の安全な加熱時間は「温度×時間×厚み」の3要素で決まる。このツールを使えば、フーリエの熱伝導モデルとD/Z値の殺菌モデルに基づいた合計推奨時間が、肉種・厚み・温度の入力だけで即座に算出できる。

料理のレパートリーを広げるなら、BBQ食材量計算でアウトドア料理の準備も試してみてほしい。


ご意見・ご要望はX (@MahiroMemo)から。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。低温調理にハマった結果、USDAの殺菌テーブルを毎回探す手間に嫌気がさして、物理モデルで自動計算するツールを作った。

運営者情報を見る

© 2026 低温調理 加熱殺菌タイマー