クリープ寿命計算ツール(Larson-Miller)

高温部材のクリープ破断寿命・許容運転年数をLMP法で推定。目標寿命から許容応力の逆引きにも対応

Larson-Millerパラメータ法で高温部材のクリープ破断寿命を推定。応力・温度→許容運転年数の4段階判定と、目標寿命→許容応力の逆引きに対応。

シナリオ例

計算モード

過熱器管・再熱器管・高温配管の代表材(適用温度目安 〜600℃程度)/適用応力 23235 MPa(C=20)

計算結果

許容運転年数23.9 年破断 35.9年 ÷ 安全率 1.5
長期運転が可能

LMP

20,956

T(K)·(20+log₁₀tr)

推定破断時間

287,248 h

破断年数

35.9 年

安全率なし

内蔵マスターカーブは10⁵hクリープ破断強度アンカーから再構築したNIMS/JIS系の目安値(C=20固定)。実材料はロット・熱処理・溶接部・多軸応力・環境で寿命が大きく変わる。表示値は学習・一次スクリーニング用の目安であり、実機の余寿命診断は非破壊検査(硬さ・ボイド・レプリカ)と専門機関の評価によること。

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「この高温配管、あと何年もつ?」——火力プラントの定期点検で過熱器管の前に立つたび、頭の片隅をよぎる問いだ。降伏応力までは十分に余裕があり、圧力試験でもびくともしない。それでも550℃という高温で何年も使い続けると、管はミクロン単位でゆっくり膨らみ、肉厚が痩せ、ある日突然に破断する。常温の感覚では「応力が降伏点より低いなら壊れない」はずなのに、高温では時間そのものが材料を壊していく。これがクリープという、時間の効く壊れ方だ。

やっかいなのは、クリープ破断までの時間が温度と応力にきわめて敏感で、金属温度がたった10℃違うだけで寿命が桁で変わること。だからこそ「今の温度と応力で、この管はあと何年もつのか」を数字で押さえておきたい。本ツールはLarson-Millerパラメータ(LMP)法で、作用応力と金属温度からクリープ破断時間・破断年数・安全率を適用した許容運転年数までを一気に見積もり、4段階で判定する。逆に「10万時間もたせるには何MPaまでか」を逆引きするモードも積んだ。

教科書の線図を毎回定規で読むのに疲れた

クリープ寿命の推定は、実のところ考え方はシンプルだ。温度と時間の効果をLMPという1つのパラメータにまとめてしまえば、「作用応力とLMPの関係」が1本の曲線(マスターカーブ)になる。あとはその曲線を読むだけ。にもかかわらず、日本語で無料でブラウザから叩けるクリープ寿命の計算ツールが見当たらなかった。結局は教科書や論文に載っている片対数の線図を定規で当てて読むか、Excelに手打ちで補間式を組むしかない。現場でサッと当たりを付けたい場面には重すぎる。

もう一つ、作り直しの引き金になった苦い経験がある。以前に自作した旧ツールのマスターカーブ値を、代表点を1つずつpythonで検算し直したところ、STBA24(2.25Cr-1Mo鋼)の550℃×80MPaで破断時間が約2800時間と出た。連続運転でもわずか0.3年ほど。2.25Cr-1Mo鋼はまさにこの温度域の過熱器管の主力材で、実際には数万〜数十万時間もつ材料だから、この値は明らかに過小だ。カーブ全体が保守側に振れすぎていたので、10^5時間(10万時間)クリープ破断強度の温度依存アンカーを起点に、5材料ぶんのカーブを全面的に組み直した。

なお、高温強度とクリープは、いま執筆準備中の材料力学テーマ(続編)でも1章を割く予定の重要トピックで、その学習用の計算エンジンを兼ねている。ただし内蔵カーブはあくまでNIMS/JIS系の目安値を再構築した代表値であり、C=20固定・学習と一次スクリーニング用だ。実機の余寿命診断は、後述のとおり非破壊検査と専門機関の評価によること。

クリープとLarson-Millerパラメータとは何か

クリープ とは——応力が降伏点以下でも時間で壊れる現象

常温の金属なら、応力が降伏点より低ければ弾性変形にとどまり、荷重を抜けば元に戻る。ところが材料の絶対温度が融点(絶対温度)の約0.4倍を超えると様子が変わる。原子が熱エネルギーで動きやすくなり、結晶粒界のすべりや転位の上昇運動が起きて、「降伏点より低い一定応力でも、時間とともにジワジワ変形が進む」。これがクリープだ。鉄鋼なら概ね350〜400℃あたりから効き始める。

身近なたとえで言えば、本をぎっしり詰めた木の棚板が、真夏の熱と自重で何年もかけて中央が垂れてくるのに近い。載せた瞬間は真っすぐでも、時間が板を曲げる。金属でも同じことが高温で起きて、最後は破断に至る。

クリープ変形を時間で追うと、変形速度が3つの局面を通る。荷重直後に速度が落ちていく1次(遷移)クリープ、速度がほぼ一定になる2次(定常)クリープ、そして加速して破断へ向かう3次(加速)クリープだ。設計寿命の大半は2次クリープが占め、この定常速度が寿命を実質的に決める。詳しくはクリープ(材料)も参照。

ラーソンミラーパラメータ 計算——温度と時間を1つにまとめる

同じ材料でも、温度が高いほど、また同じ応力でも長く使うほど早く破断する。この「温度と時間の等価性」を1つの量にまとめたのがLarson-Millerパラメータ(LMP)だ。定義はこう書ける。

LMP = T(K) · (C + log10(tr))
  T(K) : 金属温度の絶対温度 = 温度[℃] + 273.15
  tr   : クリープ破断時間 [h]
  C    : 材料定数(本ツールは慣用値 C = 20 固定)

肝は、同じ材料なら「作用応力 σ と LMP の関係」が温度によらずほぼ1本の曲線にまとまることだ。温度600℃で1万時間もつ応力と、550℃で数十万時間もつ応力が、LMPという横軸の上では同じ点に重なる。だから応力からLMPを1回読めば、あとは温度を変えるだけで任意条件の破断時間が引ける。

クリープ破断時間 求め方——LMPを逆に解くだけ

破断時間を求めたいときは、上の式を tr について解き直す。

log10(tr) = LMP / T(K) − C
tr        = 10^( LMP / T(K) − C )   [h]

作用応力からマスターカーブでLMPを読み、金属温度 T(K) で割って C(=20)を引けば log10(tr) が出る。あとは10のべき乗を取れば破断時間[h]。これを年間運転時間で割れば破断年数、さらに安全率で割れば許容運転年数になる。LMP法そのものの背景はLarson–Miller relationにまとまっている。

なぜクリープ寿命の数字が実務で重い意味を持つのか

クリープ寿命の読み違いは、片方向でも逆方向でも高くつく。楽観側に外せば、過熱器管の噴破や主蒸気配管の破断といった重大事故に直結する。高温高圧の蒸気を通す配管が定常運転中に裂ければ、設備損傷だけでなく人的被害の危険もある。逆に過度に保守的に見積もれば、まだ十分に余寿命のある健全な配管を早期に更新してしまい、停止期間と部材費で無駄なコストを積み上げる。「あと何年もつか」を桁で当てられるかどうかが、保全計画とコストの両方を左右する。

高温部材の許容応力そのものが、実はクリープ強度で決まっている。高温設計では「10^5時間(10万時間)クリープ破断強度」が許容応力の根拠として広く使われる。10万時間はおよそ11.4年の連続運転に相当し、稼働率を見込めば実運用で30〜40年級の寿命を狙う設計基準になる。つまり高温配管の肉厚や材料選定の裏には、必ずこのクリープ破断強度が効いている。

そして怖いのが温度感度だ。LMPの式を見れば分かるが、破断時間は温度が絶対温度で効くうえに指数の中に入るため、金属温度が10〜20℃上がるだけで寿命が数分の1から桁で縮む。減肉で肉厚が痩せて応力が上がる、あるいはバーナー調整のずれで局所的にメタル温度が上がる——こうした小さな変化が寿命を大きく食う。だからこそ「入れた温度・応力に対して素直に数字が出る」ツールが要る。

ここで見落とせないのが、使うカーブ値の出所だ。旧ツールのように過小なカーブ値を信じると、「まだ余寿命があるのに更新する」ムダと、「実は危ないのに大丈夫と誤認する」危険の両方が起きる。本ツールの内蔵カーブは10^5時間クリープ破断強度のアンカーから再構築した目安値で、値の素性をそろえてある。ただし繰り返すが、これは学習・一次スクリーニング用だ。実機の余寿命は、硬さ測定・ボイド観察・レプリカ法などの非破壊検査と、専門機関の評価によって確定させること。

こんな場面で役に立つ

火力・廃棄物発電ボイラーの過熱器管や再熱器管について、次の定期点検までの余寿命の当たりを付けたいとき。まず机上でLMP法の数字を出しておけば、どの部位を重点的に検査すべきかの優先順位付けに使える。

高温配管の減肉が進んだ、あるいは運転温度を上げた——そんな条件変更のあとの寿命再評価。減肉ぶんだけ作用応力を上げ、温度を実測値に置き換えて再計算すれば、変更のインパクトが年数で見える。

10万時間設計で許容応力を確認したいとき。逆引きモードに材料・温度・目標寿命・安全率を入れれば、「この条件なら何MPaまで許容できるか」が一発で出る。肉厚設計の妥当性チェックに直結する。

材料選定の比較にも使える。低合金鋼(STBA24・STBA22)で許容年数が足りるのか、それともオーステナイト系ステンレス(SUS304・SUS316)に上げる必要があるのかを、同じ温度・応力で並べて判断できる。加えて、クリープとLMPを学ぶ学生・技術者の教材としても、数字を動かしながら温度感度を体感できる。

基本の使い方(3ステップ)

  1. 計算モードを選ぶ。「寿命を求める」なら作用応力・温度から破断寿命と許容運転年数を出す。「許容応力を逆引き」なら目標寿命・温度から許容応力を出す。まずは代表シナリオのプリセット4件を押せば、典型的な入力が一括で埋まる。

  2. 材料・金属温度・作用応力(逆引きなら目標寿命)・安全率・年間運転時間を入力する。金属温度は流体温度ではなく管壁のメタル温度で入れるのがコツ。作用応力は内圧によるフープ応力などを想定し、材料カーブの適用範囲内で入れる。

  3. 結果を読む。「寿命」モードなら許容運転年数が4段階(早急な対応/更新計画/計画的更新/長期運転可)で色分け判定され、LMP・推定破断時間・破断年数も並ぶ。「逆引き」モードなら必要LMP・許容応力・参考破断応力が出る。結果はワンタップでコピーできる。

具体的な使用例・検証データ(6ケース)

以下は実装済みの計算エンジンに同じ入力を与えて出力を確認した6ケースだ。すべて「入力 → 結果 → 解釈」の3点セットで並べる。

ケース1: ボイラー過熱器管(STBA24 550℃×80MPa)

入力: 寿命モード / STBA24(2.25Cr-1Mo鋼) / 金属温度550℃ / 作用応力80MPa / 安全率1.5 / 年間運転8000h。 結果: LMP=20956 / 推定破断時間=287,248h / 破断年数=35.9年 / 許容運転年数=23.9年。 解釈: 許容運転年数が20年以上なので判定は「長期運転が可能」(good)。過熱器管の主力材を標準的な条件で使うぶんには、クリープ破断の観点で当面の余裕が大きいと読める。

ケース2: 主蒸気配管の限界確認(STPG370 470℃×55MPa)

入力: 寿命モード / STPG370(炭素鋼) / 470℃ / 55MPa / 安全率1.5 / 8000h。 結果: LMP=18455 / 破断時間=68,094h / 破断年数=8.5年 / 許容運転年数=5.67年。 解釈: 5〜10年帯なので「更新計画の策定が必要」(caution)。炭素鋼は安価だが高温強度が低く、470℃でも許容年数が一桁に落ちる。同じ応力を低合金鋼で受ければ寿命が大きく伸びることが、材料の差として読み取れる。

ケース3: 高温再熱管(SUS304 600℃×90MPa)

入力: 寿命モード / SUS304(18Cr-8Niステンレス鋼) / 600℃ / 90MPa / 安全率1.5 / 8000h。 結果: LMP=22094 / 破断時間=201,290h / 破断年数=25.2年 / 許容運転年数=16.8年。 解釈: 10〜20年帯で「計画的な更新を推奨」(info)。600℃という炭素鋼では到底もたない温度でも、オーステナイト系ステンレスなら十数年の許容年数を確保できる。高温域でステンレスが選ばれる理由が数字で見える。

ケース4: 10万時間設計の許容応力を逆引き(STBA24 550℃)

入力: 逆引きモード / STBA24 / 550℃ / 目標寿命100,000h / 安全率1.5。 結果: 必要LMP=20724 / 許容応力=90.7MPa / 参考破断応力(目標寿命ちょうど)=98.0MPa / 設計破断時間(目標×安全率)=150,000h。 解釈: 「550℃で10万時間もたせ、なおかつ時間に対する安全率1.5を確保する」なら、作用応力を約91MPa以下に抑えればよい。安全率を掛けない参考破断応力98MPaとの差が、安全率ぶんの余裕(応力にして約7MPa)に相当する。肉厚設計の上限確認に直結する数字だ。

ケース5: 危険域(STBA24 625℃×60MPa)

入力: 寿命モード / STBA24 / 625℃ / 60MPa / 安全率1.5 / 8000h。 結果: LMP=21459 / 破断時間=7,813h / 破断年数=0.98年 / 許容運転年数=0.65年。 解釈: 許容運転年数が5年未満なので「早急な対応が必要」(danger)。ケース1と同じ材料でも、温度を550→625℃に上げただけで許容年数が23.9年から0.65年へ、実に桁で崩落する。温度感度の怖さがそのまま出た例だ。

ケース6: 長寿命(STBA24 500℃×100MPa)

入力: 寿命モード / STBA24 / 500℃ / 100MPa / 安全率1.5 / 8000h。 結果: LMP=20537 / 破断時間=3,649,655h / 破断年数=456年 / 許容運転年数=304年。 解釈: 「長期運転が可能」(good)。500℃まで下げれば同じ低合金鋼でも破断時間が数百万時間級になり、現実の運転期間ではクリープ破断が実質的に問題にならない領域に入る。温度を下げる効果の大きさが、ケース5と対になって分かる。

まとめると、材料・温度・応力の3変数のうち、とりわけ温度がわずかに動くだけで判定がgoodからdangerまで振れる。数字を並べて初めて、この感度が肌感覚になる。

仕組み・アルゴリズム

3つの手法を比べて「対数応力軸の区間線形補間」を選んだ

マスターカーブから応力↔LMPを引く方法には、いくつか選択肢がある。(1)線図をそのまま画面に描いて目視で読む方式は直感的だが、読み取り精度が甘く、逆引き(LMPから応力)の往復で値がずれる。(2)応力ごとに個別の回帰式を当てる方式は精度は出るが、材料5種ぶんの係数管理が煩雑で、区間の継ぎ目で不連続になりやすい。(3)採用したのは、カーブを離散点(節点)の集まりとして持ち、作用応力が入る区間を対数応力軸で線形補間する方式だ。

クリープ破断強度は応力の対数に対してLMPがほぼ直線に並ぶため、応力を log10 に取ってから内分すると素直に乗る。そして逆引きは「同じ区間の逆写像」で行う。順方向で使った節点ペアの逆補間なので、順→逆→順と往復しても同じ値に戻る(往復整合)。実際、逆引きモードで安全率を1にすると、許容応力と参考破断応力がぴったり一致する(検証では両者とも98.0MPa)。これは順逆が同一区間で閉じている証拠だ。

C=20固定の理由と、その限界

材料定数Cは本来、材料ごとに最適値が異なる。ただし多くの鉄鋼系で慣用的にC=20が用いられ、教科書・設計資料でも標準的な出発点になっている。本ツールは学習・一次スクリーニングが目的なので、5材料すべてでC=20に固定した。厳密な回帰ではCを材料・データセットごとに最適化すべきで、そこは割り切った設計だ。逆に言えば、Cを固定したからこそ材料間の比較が同じ土俵で行える利点もある。

マスターカーブを10^5時間クリープ破断強度アンカーから再構築した

各カーブは10^5時間(10万時間)クリープ破断強度をアンカーにして組み直した。10万時間は log10(100000)=5 だから、C+log10(tr)=20+5=25 となり、ある温度 θ℃ での10^5時間破断強度 σ_R が分かれば、その点のLMPは一意に決まる。

アンカー点の LMP = T(K) × 25      (10^5h では C + log10(tr) = 20 + 5 = 25)
例)STBA24 600℃ → (600+273.15) × 25 = 21829
    → 応力 48 MPa の節点として登録

温度を変えて何点かアンカーを取り、応力とLMPの対を並べれば1本のマスターカーブができる。旧実装では同じSTBA24 550℃×80MPaが破断約2800hと出て、連続運転でも0.3年という非現実的な過小値だった。代表点をpythonで検算するとカーブ全体が保守側にずれていたため、この10^5時間強度アンカー方式で全材料を作り直したのが現行値だ。値の裏取りにはNIMSクリープデータシートなどの公開データが参考になる。

計算例: ケース1をステップで追う

ケース1(STBA24 550℃×80MPa)を手計算でたどると、次のようになる。

1. 区間を特定: σ=80 MPa は節点 98 MPa(LMP 20579) と 70 MPa(LMP 21204) の間
2. 対数応力軸で内分:
     t = (log10(80) − log10(98)) / (log10(70) − log10(98))
       = (1.9031 − 1.9912) / (1.8451 − 1.9912) = 0.603
3. LMP を補間:
     LMP = 20579 + 0.603 × (21204 − 20579) = 20956
4. 破断時間へ: T(K) = 550 + 273.15 = 823.15
     log10(tr) = 20956 / 823.15 − 20 = 5.458
     tr = 10^5.458 ≈ 287,248 h
5. 年数へ: 287248 / 8000 = 35.9 年(破断年数)
6. 許容運転年数: 35.9 / 1.5 = 23.9 年 → 20年以上なので「長期運転が可能」

破断時間が10^9時間を超えるような低応力・低温では、指数表記に切り替えて「事実上無限(現実的な運転期間では破断しない)」と注記する。また金属温度が350℃を下回るとクリープが寿命を支配しない領域に入るため、その旨を注意表示して参考値扱いにしている。

熱応力・破壊力学・疲労との使い分け(他ツールとの違い)

高温部材の壊れ方は一つではない。同じ管でも、起動停止の温度差で瞬間的に生じる熱応力、き裂先端に集中する応力、繰り返し荷重による疲労、そして本ツールが扱う「高温×長時間の定常応力によるクリープ」が、それぞれ別の物差しで効いてくる。整理しておく。

  • 温度差そのものが生む熱応力を知りたいなら /thermal-stress-calc。起動・停止やドレン混入で生じる温度差 ΔT から、拘束された部材に発生する熱応力を出す。クリープ計算に入れる「作用応力」を組み立てる前段だ。
  • すでに入っているき裂の危険度を見るなら /fracture-k-calc。応力拡大係数 K でき裂が一気に進むか(脆性破壊)を判定する。クリープが進むと粒界のボイドが連結してき裂化するので、その先の話につながる。
  • 繰り返し荷重の寿命は /fatigue-life。起動停止のサイクル数で決まる疲労寿命を S-N 線図で扱う。高温では「クリープ疲労」としてクリープと疲労が相互に効くため、両方を突き合わせて見るとよい。

本ツールは、これらのうち「一定の高温にさらされ続けた定常応力で、時間とともにじわじわ破断へ向かう」寿命だけを切り出す。内圧から作用応力(フープ応力)や必要板厚を組み立てる /pressure-vessel、配管の熱膨張・支持で決まる応力を出す /pipe-thermal-expansion は入力の「作用応力」を作る側で、本ツールはその応力を寿命へ翻訳する側という住み分けになる。高温部材の設計は、これらを行き来しながら詰めていくのが実務だ。

豆知識 — LMPの由来と「10万時間」という約束事

Larson-Millerパラメータが生まれたのは1952年。F.R. LarsonとJ. Millerが蒸気タービン用耐熱鋼のクリープ・応力破断データを整理する中で、「温度 T と破断時間 tr は独立ではなく、T·(C+log₁₀tr) という一つの量にまとめると、応力に対して一本の曲線に乗る」と示したのが始まりだ。個別の温度ごとにバラバラだった破断データが、たった一つのパラメータで束ねられる——この見通しの良さが、70年以上たっても現役で使われ続ける理由になっている(Larson–Miller relation - Wikipedia)。

定数 C はもともと材料ごとに最適化する量だが、多くの鋼で20前後に収まることが経験的に知られ、慣用値として広く使われてきた。厳密には20〜22あたりで材料ごとに動くものの、「まず C=20 で当たりを付ける」のが高温設計の共通言語になっている。本ツールもこれに倣った。

高温設計でよく出てくる「10^5時間(10万時間)」という数字にも意味がある。10万時間は連続運転で約11.4年、年8000時間なら約12.5年に相当し、プラントの想定寿命(数十年)のうち高温にさらされる正味の時間として扱いやすい。だから各国の高温部材の許容応力は「10万時間クリープ破断強度の何分の1」という形で決められていることが多い。本ツールの逆引きモードは、まさにこの「10万時間でいくらまで応力をかけてよいか」を再現している。

もう一つ面白いのは、オーステナイト系ステンレス(SUS304・SUS316)が低合金鋼より高温で強い理由だ。クリープは原子の拡散で進む変形なので、原子が動きにくい材料ほど強い。面心立方(FCC)のオーステナイト組織は体心立方(BCC)のフェライト系より拡散が遅く、高温での組織も安定しているため、同じ温度でも桁違いに長寿命になる(クリープ (材料) - Wikipedia)。実機ではこのクリープ変形が進むと、結晶粒界に微小な空洞(クリープボイド)が並び始める。これを部材表面から採取したレプリカ(型取り)で顕微鏡観察し、ボイドの数や連結の程度から余寿命を推定するのが「レプリカ法」だ。本ツールの計算はあくまで設計値からの見積もりで、実機の生の状態はこうした非破壊検査でしか分からない。

Tips — 入力でつまずかないための勘どころ

  • 温度は流体温度でなく「管壁のメタル温度」で入れる。 クリープは金属自身の温度で進む。過熱器管なら内部蒸気温度より管壁のほうが高いことが多く、流体温度で入れると寿命を楽観しすぎる。設計メタル温度や実測の管壁温度を使う。
  • 温度が不確かなら高め(保守側)に振る。 本ツールの検証でも、金属温度が数十℃違うだけで破断時間は桁で動く。STBA24 550℃×80MPa は破断約29万hだが、応力そのままで625℃にすると約7800hまで縮む。迷ったら高い温度で見ておくほうが安全側だ。
  • 作用応力は内圧フープ応力だけでなく熱応力も足して考える。 定常運転で効くのは主に内圧由来のフープ応力だが、拘束部では熱応力が上乗せされる。フープ応力は /pressure-vessel、熱応力は /thermal-stress-calc で見積もってから合算するとよい。
  • 低合金鋼で許容年数が足りなければステンレスと比較する。 材料を STBA24 から SUS304/SUS316 に切り替えて同条件で叩くと、高温側でどれだけ寿命が伸びるかが一目で分かる。材料選定の「効き」を数字で掴める。
  • 逆引きモードで設計上限を先に掴む。 「この温度なら何MPaまでかけてよいか」を許容応力の逆引きで出しておくと、板厚や運転圧力を決める前に上限が見える。順方向で試行錯誤するより早い。

よくある質問(FAQ)

C定数を20で固定して大丈夫?

本ツールは学習・一次スクリーニング用の目安として、金属材料で慣用的に使われる C=20 を全材料共通で採用している。実際には最適な C は材料ごとに異なり(多くの鋼で20〜22程度)、厳密な余寿命評価では複数の試験データから C を回帰で決める。当たりを付ける段階では C=20 で十分だが、最終的な設計判断には材料固有のクリープデータシートを参照してほしい。

実機の余寿命診断にそのまま使える?

使えない。本ツールが出すのは「設計上の応力・温度」から見積もった目安であって、実機の余寿命ではない。実材料はロット・熱処理・溶接部・酸化減肉・多軸応力で寿命が大きく変わる。稼働中の部材の余寿命は、硬さ測定・超音波・レプリカ法によるクリープボイド観察といった非破壊検査と、専門機関の評価によって判断する必要がある。本ツールはその前段の「当たり付け」と学習に使うものだ。

内蔵マスターカーブの値はどこから来ている?

NIMS(物質・材料研究機構)クリープデータシートやJIS高温設計系の値を目安として、10^5時間クリープ破断強度の温度依存アンカーから再構築した代表値だ。実際のデータシートやミルシートの値とは差がある。自作の旧ツールの値を検算したところ、STBA24 550℃×80MPa が約2800hと非現実的に短く出る過小値だったため、全面的に作り直した経緯がある。あくまで学習用の目安として扱ってほしい。

入力したデータはどこかに保存される?

保存されない。計算はすべて自分のブラウザの中だけで完結し、入力した温度・応力・材料などがサーバーへ送信されることはない。社外秘の運転条件を入れても外部に残らないので、安心して試せる。

炭素鋼を600℃で使うとどうなる?

破断時間が極端に短くなり、判定が danger(早急な対応)に振れる。STPG370(炭素鋼)のクリープが問題になるのは概ね350〜480℃で、それを超える高温では低合金鋼やステンレスが必要になる。材料を切り替えて同条件で叩き比べると、なぜ高温部に炭素鋼が使えないかが数字で見える。

まとめ

クリープは「高温×長時間」でじわじわ効く壊れ方で、Larson-Millerパラメータを使えば温度と時間を一つの物差しにまとめて破断寿命を見積もれる。本ツールなら作用応力・金属温度から許容運転年数を4段階で判定し、逆に目標寿命から許容応力を逆引きすることもできる。高温部材の設計はクリープ単独では終わらない。温度差の熱応力は /thermal-stress-calc、き裂の危険度は /fracture-k-calc、繰り返し荷重の疲労は /fatigue-life、内圧からの作用応力・板厚は /pressure-vessel と組み合わせて詰めていってほしい。使ってみて気づいた点や、ほしい材料カーブのリクエストがあればお問い合わせページから教えてもらえるとうれしい。

M

Mahiro

Mahiro Appの開発者。旧ツールのクリープカーブ値を検算し直したら2.25Cr-1Mo鋼の550℃×80MPaが約2800hと非現実的に短く出て、10万時間破断強度アンカーから全材料を組み直した。高温部材の余寿命は金属温度が10℃違うだけで桁が変わる——その感度を数字で体感してほしい。

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