枝豆がいつの間にか大豆になってた話
「そろそろかな」と思って畑を見に行ったら、もうパンパンに膨らんで豆が黄色くなっていた——これは数年前に実際にやらかした枝豆の大失態だ。
収穫タイミングを日数だけで管理していると、冷夏の年は成長が遅れて「まだ早い」と思い込み、暖かい年は逆に「もう少し」と待っている間にベストを逃す。結局、気温と作物の成長は連動しているのに、カレンダーだけで判断していたのが間違いだった。
この「積算温度で収穫予測カウントダウン」は、気温の積み重ね(GDD)から収穫日を推定するツール。野菜と植え付け日と地域を選ぶだけで、プログレスバーが今どのあたりかを教えてくれる。
なぜ「積算温度カウントダウン」を作ったのか
開発のきっかけ
家庭菜園をやっていると「あと何日で収穫できる?」が一番気になる。種袋の裏には「60〜70日」とか書いてあるけど、あの数字は平均的な気候条件での目安にすぎない。東京の5月植えと札幌の6月植えでは、同じ品種でもまるで違う。
プロ農家は積算温度で収穫適期を判断する。でもこの計算、毎日の気温を記録して基準温度を引いて足し合わせる——とにかく面倒だ。平年値でいいからサッと推定できるツールが欲しかった、というのが原点。
こだわった設計判断
平年値の内蔵にこだわった。APIから実況気温を引く方法もあるが、ネットが不安定な畑で使えないのは困る。気象庁の平年値(1991-2020年)を10都市分そのまま埋め込むことで、オフラインでも即計算できるようにした。
複数作物の同時管理も重要なポイント。家庭菜園は何種類も同時に育てるのが普通だから、1つずつ計算して覚えておくのは現実的じゃない。栽培リストに登録しておけば、収穫日が近い順に並ぶので「今週やること」が一目でわかる。
積算温度(GDD)とは何か——植物の体感時計
有効積算温度の基本概念
植物は「日数」ではなく「受け取った温度の合計」で成長フェーズを進める。これを有効積算温度(Growing Degree Days: GDD)と呼ぶ。
考え方はシンプル。たとえば、トマトの基準温度は10℃。ある日の平均気温が25℃なら、その日のGDDは25−10=15℃・日。気温が8℃なら10℃を下回るので、その日のGDDは0(マイナスにはしない)。これを植え付け日から毎日足し合わせて、必要積算温度(トマトなら1100℃・日)に達したら収穫適期、という仕組み。
日次GDD = max(0, 日平均気温 − 基準温度)
積算温度 = Σ 日次GDD(植え付け日〜当日)
なぜ「基準温度」が作物ごとに違うのか
基準温度とは「この温度以下では成長が事実上止まる」という閾値。トマトやナスのような夏野菜は10℃、ほうれん草や小松菜のような葉物は4〜5℃と低い。サツマイモやオクラのような熱帯原産は15℃もある。
身近なたとえで言えば、冬に毛布をかぶっているとき——基準温度は「毛布から出てもいいと思える最低気温」のようなもの。寒がりな南国生まれの野菜は、その温度が高いというわけだ。
積算温度の歴史と権威性
有効積算温度の概念は18世紀のヨーロッパで農学者レオミュールが提唱したのが始まりとされ、現在でも農業分野で広く使われている。日本でも農研機構や各地の農業試験場が品種ごとの必要積算温度を公表しており、水稲の出穂予測など公的な農業指導にも活用されている。
参考: Wikipedia — 積算温度
日数では読めない「収穫の真実」
冷夏の年に何が起こるか
2024年のように冷夏で8月の平均気温が平年を2〜3℃下回ると、トマトの成長は大幅に遅れる。種袋に「55日」と書かれていても、実際には70日以上かかることも珍しくない。日数だけで判断すると、まだ青い実を無理に収穫してしまう——あるいは逆に「遅れているからダメだ」と諦めてしまう。
積算温度を見ていれば「いや、温度的にはまだ70%だからもう少し待とう」という根拠のある判断ができる。
暖地と寒冷地、同じ品種でも全然違う
同じミニトマトを東京と札幌で育てた場合、5月1日植えだと東京は7月上旬に収穫できるが、札幌は8月中旬まで待つことになる。日数差は40日以上。これは両都市の夏の平均気温が約5℃異なるためで、積算温度を使えばこの差を定量的に把握できる。
プロ農家が使う理由
産地のJA(農業協同組合)は出荷予測に積算温度を使っている。市場への安定供給には「いつ、何トン出荷できるか」の精度が利益に直結するからだ。家庭菜園でも同じ原理を使えば、旅行の計画と収穫日が重なる悲劇を避けられる。
こんな場面で使えるカウントダウン
家庭菜園の収穫計画
複数の野菜を育てていると「来週の収穫予定」がぱっと見でわかるだけで管理が楽になる。栽培リストに登録しておけば、収穫日が近い順に並ぶ。
旅行と収穫日の調整
GWやお盆に旅行を計画するとき、ちょうど収穫適期に不在になるのは避けたい。事前に予測しておけば、植え付け時期をずらして調整できる。
学校菜園の授業計画
授業で栽培を扱う場合、学期末に間に合うか事前にシミュレーションできる。「12月の終業式までに大根は間に合うか?」に数値で答えられる。
時期ずらし栽培
同じ野菜を2〜3週間ずつずらして植えると、長期間にわたって少しずつ収穫できる。それぞれの収穫日を一括管理できるのがリスト機能の強み。
基本の使い方
3ステップで収穫予定日がわかる。
Step 1: 野菜を選ぶ
プルダウンから育てている野菜を選択。20種の主要野菜から選べる。各野菜の必要積算温度と基準温度も併記されているので、品種選びの参考にもなる。
Step 2: 植え付け日と地域を入力
実際に植えた日(または植える予定の日)をカレンダーから選び、最寄りの都市を選択。10都市の平年気温が内蔵されているから、自分の地域に近い都市を選べばいい。
Step 3: 結果を確認・リストに追加
プログレスバーと収穫予定日が即座に表示される。「栽培リストに追加」を押せばローカルに保存され、いつでも進捗を確認できる。
具体的な使用例で検証してみた
ケース1: 東京でミニトマト 5月1日植え
入力値:
- 野菜: ミニトマト(必要積算温度 900℃・日、基準10℃)
- 植え付け日: 2026-05-01
- 地域: 東京
計算結果:
- 収穫予定日: 2026-07-10頃
- 所要日数: 約70日
→ 解釈: 東京の5〜7月は平均18〜25℃。基準10℃を引くと日次GDDは8〜15℃・日。積み上げると70日前後で900に到達。種袋の「40-50日」より長いが、これは開花からのカウント。定植からだとこのくらいが妥当。
ケース2: 札幌で枝豆 5月20日種まき
入力値:
- 野菜: 枝豆(必要積算温度 1200℃・日、基準10℃)
- 植え付け日: 2026-05-20
- 地域: 札幌
計算結果:
- 収穫予定日: 2026-09-05頃
- 所要日数: 約108日
→ 解釈: 札幌の夏は東京より5℃低い。日次GDDが約6〜12℃・日しか稼げないため、100日以上かかる。種袋の「80-90日」は暖地基準なので、札幌では2〜3週間余分に見る必要がある。
ケース3: 大阪でナス 4月25日定植
入力値:
- 野菜: ナス(必要積算温度 1000℃・日、基準10℃)
- 植え付け日: 2026-04-25
- 地域: 大阪
計算結果:
- 収穫予定日: 2026-07-15頃
- 所要日数: 約80日
→ 解釈: 大阪は暖地のため、5月中旬から日次GDDが10℃・日を超えてくる。一番果まで約80日で、以降は秋まで次々と収穫できる。
ケース4: 那覇でラディッシュ 11月1日種まき
入力値:
- 野菜: ラディッシュ(必要積算温度 500℃・日、基準5℃)
- 植え付け日: 2026-11-01
- 地域: 那覇
計算結果:
- 収穫予定日: 2026-11-30頃
- 所要日数: 約30日
→ 解釈: 那覇の11月は平均22℃。基準5℃を引いても日次GDDが17℃・日もあるため、たった30日で500に到達。温暖地の冬野菜は驚くほど早い。
ケース5: 東京で小松菜 10月15日秋まき
入力値:
- 野菜: 小松菜(必要積算温度 600℃・日、基準5℃)
- 植え付け日: 2026-10-15
- 地域: 東京
計算結果:
- 収穫予定日: 2026-11-28頃
- 所要日数: 約44日
→ 解釈: 秋まきの葉物は日が短くなるにつれGDDの蓄積が鈍る。10月後半でも東京なら12〜17℃あるので、年内に間に合う計算。
ケース6: 複数作物を同時管理
栽培リストにミニトマト・キュウリ・枝豆・小松菜を登録しておくと、収穫日が近い順にソートされて表示される。「今週はキュウリ、来月は枝豆」というスケジュール感が一目でわかり、朝の畑巡回の優先度が明確になる。
仕組み・アルゴリズム
候補手法の比較
収穫日の推定にはいくつかの手法がある:
- 固定日数法: 種袋に書いてある「60日」をそのまま使う。最もシンプルだが、気候変動に対応できない
- 単純積算温度法(GDD法): 日平均気温から基準温度を引いて積算。農業分野のスタンダード
- 修正GDD法: 最高気温と最低気温の平均を使い、上限温度も設定する。トウモロコシなど特定作物に使われる
本ツールは単純GDD法を採用した。家庭菜園では最高・最低気温を毎日記録するのは非現実的だし、平年値は月別の平均気温しか公表されていないため、修正法は適用できない。シンプルだが農業分野で最も広く検証された手法だ。
月別気温の日次補間
気象庁の平年値は月別のため、日次の気温は線形補間で推定している。各月の15日を代表日とし、前後の月の代表日との間を直線で結ぶ方式。
例: 東京 4月15日 → 13.9℃(4月平年値)
4月30日 → 13.9 + (18.2 - 13.9) × 15/30 ≈ 16.1℃
(4月と5月の中間を線形補間)
計算例: 東京・ミニトマト・5月1日植え
基準温度: 10℃、必要積算温度: 900℃・日
5月の平年気温: 18.2℃ → 日次GDD ≈ 8.2℃・日
6月: 21.4℃ → 日次GDD ≈ 11.4℃・日
7月: 25.0℃ → 日次GDD ≈ 15.0℃・日
5月: 30日 × 8.2 ≈ 246℃・日
6月: 30日 × 11.4 ≈ 342℃・日(累計588℃・日)
7月: (900-588)/15 ≈ 21日目で到達
→ 収穫予定: 7月21日前後
データソース: 気象庁 過去の気象データ・平年値
既存ツールとの差別化
登録不要で即計算
多くの菜園管理アプリはアカウント登録が必要。このツールはブラウザだけで完結し、データはローカルストレージに保存される。
積算温度に特化した専用ツール
汎用の菜園アプリには積算温度機能がないか、あっても気象データの手動入力が前提。平年値を10都市分内蔵しているので、地域を選ぶだけで自動計算される。
複数作物の一括管理
栽培リストに何品目でも登録でき、収穫日が近い順にソートされる。「次に何を収穫するか」が一目でわかるダッシュボード型のUI。
積算温度にまつわる豆知識
GDDはワインの品質も決める
ワインの産地はGDDで格付けされる。アメリカの葡萄栽培学者アメリン&ウィンクラーが提唱した分類(Region I〜V)は、生育期間(4〜10月)のGDDで産地を5段階に分ける。Region I(1389℃・日以下)のブルゴーニュはピノ・ノワール向き、Region V(2222℃・日超)のカリフォルニア内陸はジンファンデル向き——同じ葡萄の品種でもGDDが変われば味がまるで変わる。
桜の開花予測も積算温度
ニュースでおなじみの桜の開花予測も、2月1日からの積算温度(基準0℃で約400℃・日)がベースになっている。家庭菜園も桜も、植物の体内時計は同じ原理で動いている。
参考: 気象庁 さくらの開花日
収穫を成功させるコツ
品種ごとの差を意識する
同じ「トマト」でも、大玉・中玉・ミニでは必要積算温度が異なる。このツールでは代表値を使っているので、実際の品種に応じて±10%程度の幅で見るのがおすすめ。
マルチシートで地温を底上げ
黒マルチを敷くと地温が2〜3℃上がり、GDDの蓄積が早まる。春先の定植で「もう少し早く収穫したい」ときに有効なテクニック。
収穫サインは目でも確認
積算温度はあくまで目安。トマトなら赤く色づいたか、キュウリなら20cm前後か、枝豆なら莢がパンパンに膨らんだか——最後は五感で判断するのが確実。
積算温度Q&A
Q: 実際の気温と平年値がずれたら予測は外れる?
平年値はあくまで「平均的な年」の気温データ。猛暑の年は収穫が早まり、冷夏なら遅れる。ただし、平年値からの乖離は通常±1〜2週間以内。「だいたいこのくらい」の目安としては十分実用的だ。
Q: 品種によって必要積算温度は変わる?
同じトマトでも品種によって100〜200℃・日の差がある。このツールでは一般的な代表値を使っている。品種ごとの正確な値は、種苗メーカーのカタログや農業試験場のデータを確認するのがベスト。
Q: 二期作・二毛作の計算はできる?
1つ目の作物と2つ目の作物をそれぞれ栽培リストに登録すれば、個別に追跡できる。積算温度はゼロからリスタートするので、植え付け日をそれぞれ正しく入力すればOK。
Q: データの保存はどうなっている?
栽培リストのデータはブラウザのローカルストレージに保存される。サーバーへの送信は一切行わない。ブラウザのデータを削除するとリストも消えるので注意。異なるデバイス間での同期は非対応。
Q: 自分の地域に近い都市がない場合は?
10都市の中から最も気候が近いものを選べばいい。内陸部は同緯度の沿岸部より夏暑く冬寒い傾向があるが、平年値の誤差は収穫予測に大きくは影響しない。
まとめ
積算温度は、日数に頼らず「植物の体感時計」で収穫日を推定する方法。このツールなら野菜と植え付け日と地域を選ぶだけで、プログレスバーで進捗がわかる。
複数の野菜を同時に栽培しているなら、栽培リスト機能で一括管理してみて。「今週のやること」が明確になるだけで、畑仕事のストレスがぐっと減る。
種まきの時期選びに迷っているなら、種まきカレンダーも合わせて使うと、年間の栽培計画がぐっと立てやすくなる。
不具合や要望があれば、X (@MahiroMemo)から気軽に教えて。