受変電設備にインバータやUPSを1台足すたびに、頭の隅で「これ、高調波の届出っているんだっけ?」という声がする。設備容量が増えれば増えるほど、その声は大きくなる。けれど答えを出すには、機器がどれだけ高調波電流を出すのかと、契約電力ごとに決まった上限値を突き合わせないといけない。この2つが噛み合って初めて「要る・要らない」が言える。感覚では決められないもどかしさが、ここにある。
このツールは、その突き合わせを1画面でやる。受電電圧(6.6kV / 22kV)と契約電力を入れ、高調波を出す機器を行で並べていくと、5次・7次・11次・13次それぞれの流出電流と、経済産業省『高調波抑制対策ガイドライン』が定める上限値を並べて、次数ごとにPASS/NGを判定する。無対策の6パルスインバータを1台足しただけで5次が上限の8倍に跳ね上がる様子や、リアクトルを付けるとギリギリ収まる様子が、数字で目に見える。届出書を作る前の一次スクリーニングとして、まず当たりをつけるための道具だ。
なぜ作ったのか — 散らばった上限値表と換算係数を1画面に
きっかけは、届出要否の判断がいつも「資料の三点セット」で止まることだった。高調波発生機器の換算係数(含有率)はJEAG9702系の技術資料、上限値は経産省ガイドライン、基本波電流の式は電力の教科書。この3つが別々の場所にあって、電卓で行ったり来たりしないと結論が出ない。機器が2〜3種類混ざると、次数ごとに4回の掛け算と足し算を手でやることになり、桁を1つ間違えれば判定がひっくり返る。1画面で「機器を並べたら次数別の判定が出る」ものが欲しかった。
もうひとつ、作り直しの理由があった。以前この計算を組んだとき、上限値のテーブルに誤りが紛れていた。6.6kV受電の欄に、なぜか22kV系の数値(5次1.8・7次1.3 mA/kW…)が入り込んでいたのだ。6.6kVの正しい値は5次3.5・7次2.5 mA/kW で、ほぼ倍違う。これでは判定が厳しすぎる方向に狂う。ガイドライン本文と日本電気技術者協会の解説をあたり直し、上限値は「契約電力1kWあたり何mA」という mA/kW 方式で全面的に組み直した。数字の出どころを1つずつ潰していく作業が、このツールの信頼性の土台になっている。
扱うのは力率改善と高調波抑制という受変電設計の1テーマで、進相コンデンサ・直列リアクトルの選定や変圧器容量の検討と地続きの話だ。現在執筆準備中の受変電テーマ(電気設備設計シリーズの続編)の力率改善・高調波の章とも同じ土俵に立つ。設計の流れの中で「流出量が上限に収まるか」を素早く確かめる一手として位置づけている。
高調波とは何か — 非線形負荷が作る「基本波の整数倍」の電流
高調波 とは — きれいな正弦波に立つ規則的なさざ波
日本の商用電源は50Hz または60Hz の正弦波で送られてくる。この基本の波(基本波)に対して、その整数倍の周波数を持つ余分な波が重なることがある。50Hz を基本波とすれば、5倍の250Hz が5次高調波、7倍の350Hz が7次高調波だ。基本波にこれらが足し合わさると、電流の波形は本来のなめらかな正弦波からゆがみ、角ばったりとがったりした形になる。この整数倍成分の総称が高調波だ。
たとえ話をするなら、静かに流れるきれいな水流の中に、一定のリズムで水をかき混ぜる撹拌機を沈めたようなものだ。撹拌機は決まった周期で規則的な波を立てる。水流全体はゆがみ、下流にいる別の人にもそのさざ波が届く。電力系統でこの撹拌機の役目をするのが、インバータやUPSのような非線形負荷である。
なぜ非線形負荷が高調波を出すのか
普通の電熱器やモーターのような線形負荷は、かかる電圧の正弦波に比例した正弦波の電流を引く。ところがインバータやUPSの入り口にある整流回路(ダイオードやサイリスタのブリッジ)は違う。整流回路は、交流を直流に直す過程で、電圧の山の付近だけをパルス状に切り取るように電流を引く。電圧はなめらかな正弦波なのに、電流はとがったパルスになる。この正弦波でない電流を周波数の成分に分解する(フーリエ級数で見る)と、基本波のほかに5次・7次・11次・13次…といった成分がずらりと現れる。これが高調波の発生源だ。
なぜ5次・7次・11次・13次が主役なのか
三相の代表的な整流回路は6パルス整流と呼ばれ、1周期に6回の脈流を作る。この対称性のため、発生する高調波の次数は 6n±1 (n=1,2,3…)に限られる。n=1 で5次と7次、n=2 で11次と13次、というわけだ。3の倍数(3次・9次・15次)は、三相がバランスしていれば各相で打ち消し合って線路にはほとんど出てこない。だから三相受電の高調波評価は5・7・11・13次の代表4次に絞れる。次数が上がるほど含有率は小さくなるので、実務上はこの4次を押さえておけば全体像がつかめる。
流出電流の計算式
各機器が系統へ流し出す次数別の高調波電流は、その機器の基本波電流に、次数ごとの含有率(換算係数kn)を掛けて求める。
In = I1 × kn
In : n次高調波の流出電流 [A]
I1 : その機器の基本波電流 [A]
kn : n次の含有率(基本波に対する比。回路方式で決まる)
たとえば6パルス・リアクトルなしのインバータの5次含有率は0.65。基本波が10A流れていれば、5次高調波は6.5A も流れ出す計算になる。含有率は回路方式で大きく変わり、ここが対策の効き所になる。高調波の基礎は Wikipedia: 高調波 や、機器別の発生率まで踏み込んだ 日本電気技術者協会の解説 が参考になる。
なぜこの数値が大事か — 焼損・過熱・誤動作と、他需要家への波及
高調波を放置すると、需要家の構内でも系統でも実害が出る。最も傷みやすいのが進相コンデンサだ。コンデンサのインピーダンスは周波数に反比例するので、5次・7次の高い周波数成分に対しては通り道が広くなり、高調波電流を吸い込みやすい。直列リアクトルなしのコンデンサに高調波が集中すると、過電流で発熱し、最悪は焼損・膨れ・端子部の溶損に至る。さらに、コンデンサとリアクトルの組み合わせが特定次数に同調すると高調波が拡大する共振現象も起き、これは想定外の大電流を招く(本ツールは共振・分流は範囲外とし、届出前の流出量チェックに絞っている)。
被害はコンデンサだけではない。変圧器では高調波電流が渦電流損・うなりを増やし、局部過熱で絶縁劣化を早める。保護継電器やOCR は波形のゆがみで誤動作・不動作を起こしうる。電動機では追加の損失と振動・発熱。そしてやっかいなのは、自分の構内で発生した高調波が受電点を通って系統へ流れ出し、同じ変電所につながる他の需要家の設備にまで波及することだ。高調波は「自分だけの問題」で済まない。
だからこそ、経済産業省の『高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン』は、高圧・特別高圧で受電する需要家に対して、流出する高調波電流を上限値以下に抑える対策を求めている。上限値は「契約電力1kWあたり何ミリアンペアまで」という mA/kW 方式で定義される。
In上限[A] = 契約電力[kW] × (次数別 mA/kW) ÷ 1000
6.6kV: 5次3.5 / 7次2.5 / 11次1.6 / 13次1.3 mA/kW
22kV : 5次1.8 / 7次1.3 / 11次0.82 / 13次0.69 mA/kW
契約電力が大きい需要家ほど、系統に対して相対的に大きな設備を持つので、絶対量として許される流出電流も比例して大きくなる、という考え方だ。ここで見落とせないのが電圧階級による差で、22kV の上限は6.6kV のおよそ半分に設定されている。同じ機器構成でも受電電圧が高いほど厳しく評価される。これは、特別高圧の系統は上位で多数の需要家をまとめて支えており、1軒あたりの許容量を絞る必要があるためだ。届出を怠ったまま上限を超える流出があると、電力会社との協議で是正指導を受け、後追いでリアクトルやフィルタを増設する手戻りコストが発生する。設計段階で押さえておくのが、いちばん安い対策になる。
こんな場面で活躍する
インバータ・UPSの新増設時の届出要否判断。空調のインバータ化やサーバー室のUPS増設で、既設に機器を足すとき、その追加分で流出電流が上限を超えないかをまず当たる。プリセットで受電条件を呼び出し、機器を1行足すだけで判定が動く。
既設更新時の再チェック。老朽インバータを高効率機に入れ替えるとき、新機の回路方式(リアクトルの有無・パルス数)で含有率が変わる。更新前後で流出電流がどう動くかを並べて、届出の要否が変わらないかを確かめられる。
対策の効果の事前確認。「無対策の6パルスにACリアクトルを付けたら5次はどこまで下がるか」「12パルス化すると低次は消えるが11次13次はどうなるか」を、機器タイプを切り替えるだけでシミュレーションできる。投資判断の前に効果を数値で見られる。
電験三種・エネルギー管理士の学習。高調波抑制対策とガイドラインは頻出論点だ。含有率・上限値・基本波電流の式が実際にどう繋がって判定になるのかを、手を動かして体感できる。
基本の使い方 — 3ステップ
ステップ1、受電条件を入れる。受電電圧を6.6kV か22kV から選び、契約電力kW を入力する。事務所ビル・工場・データセンター・溶接工場の4プリセットを押せば、受電電圧・契約電力・機器リストが一括で入るので、まずはプリセットから触るのが早い。上限値は契約電力から自動で計算される。
ステップ2、高調波発生機器を行で並べる。機器タイプ(汎用インバータ6パルス / PWMインバータ リアクトル付 / 12パルス / UPS / アーク炉 / 溶接機 / LED照明 / カスタム)を選び、定格容量kW・台数・最大稼働率% を入れる。行の追加・削除で最大8機器まで登録できる。カスタムを選ぶと換算係数k5〜k13 を直接入力でき、メーカーの測定値を使える。
ステップ3、判定を読む。5次・7次・11次・13次それぞれの流出電流A・上限A・利用率%・PASS/NG と、総合判定・最悪次数が表示される。1つでも超えれば総合NG。NGのときは、超過している次数に応じてACリアクトル付与・12パルス化・アクティブフィルタといった対策が提案される。結果はコピーして検討メモに貼れる。
具体的な使用例 — 8つの代表ケースで検証
実装済みのツールに実際の受変電シーンを入れて出力を確認した8ケースを、入力→結果→解釈の3点セットで並べる。数値はいずれもツールの計算結果そのままだ。
ケース1 工場・無対策6パルスインバータ(全次数NG)
入力: 6.6kV / 契約500kW / 力率0.85 / 汎用インバータ(6パルス・リアクトルなし)55kW × 4台 × 稼働率100%。
結果: 5次14.72A(上限1.75A・利用率841%)/ 7次9.28A(上限1.25A)/ 11次1.92A(上限0.8A)/ 13次1.74A(上限0.65A)→ 全次数NG。
解釈: 無対策の6パルスインバータをまとめて回すと、5次が上限の8倍以上という典型的な大幅超過になる。含有率0.65がそのまま効いて、届出うんぬん以前に対策必須の水準だ。このままでは受電できない構成で、リアクトル付与か多パルス化が前提になる。
ケース2 事務所ビル・リアクトル付PWMインバータ(全次数適合)
入力: 6.6kV / 契約500kW / 力率0.85 / PWMインバータ(リアクトル付)15kW × 4台 × 80% + 5.5kW × 2台 × 60%。
結果: 5次1.69A(上限1.75A・利用率96.3%)/ 7次0.73A / 11次0.47A / 13次0.25A → 全次数適合。
解釈: ケース1と契約電力・受電電圧は同じだが、こちらはリアクトル付きで5次含有率が0.65→0.30 に下がっている。その差で5次がぎりぎり上限内(96.3%)に収まった。リアクトルという1部品の有無が適合・不適合を分けることが、この2ケースの比較でよく分かる。ただし余裕は小さいので、機器を追加するときは再チェックが要る。
ケース3 データセンター・UPS群(5次7次11次NG・13次適合)
入力: 6.6kV / 契約1000kW / 力率0.85 / UPS(PWM整流)100kW × 6台 × 90%。
結果: 5次5.56A(上限3.5A・利用率158.8%)/ 7次2.78A(上限2.5A)/ 11次1.67A(上限1.6A)/ 13次1.11A(上限1.3A・適合)→ 5次7次11次NG・13次適合。
解釈: 契約1000kW と大きいぶん上限も大きい(5次3.5A)が、UPS 6台の合計容量が効いて5〜11次が超過した。13次だけが辛うじて収まっている。基幹電源のUPSは連続運転で稼働率も高く、高調波源として無視できないことを示す例だ。
ケース4 12パルス化・低次は消えたが高次が残る(5次7次適合・11次13次NG)
入力: 6.6kV / 契約800kW / 力率0.85 / 12パルスインバータ100kW × 6台 × 100%。
結果: 5次1.85A(上限2.8A・適合)/ 7次1.24A(適合)/ 11次5.56A(上限1.28A・利用率434%)/ 13次4.69A(上限1.04A・利用率451%)→ 5次7次は適合だが11次13次がNG。
解釈: 12パルス整流は5次7次をほぼ相殺するので低次はきれいに収まる。ところが11次13次は相殺されずに残り、大容量だとこちらが上限を突き破る。最悪次数(worstOrder)が13次にシフトしているのがポイントで、「12パルスにすれば安心」という思い込みへの反例だ。高次が支配的な場合はフィルタが必要になる。
ケース5 22kV特高・受電電圧で厳しくなる(5次7次13次NG)
入力: 22kV / 契約3000kW / 力率0.9 / 汎用インバータ(6パルス)200kW × 6台 × 80%。
結果: 5次18.20A(上限5.4A・利用率337%)/ 7次11.48A(上限3.9A)/ 11次2.38A(上限2.46A・96.7%=適合)/ 13次2.16A(上限2.07A・NG)→ 5次7次13次NG・11次適合。
解釈: 契約3000kW と大きいのに苦しいのは、22kV の上限が6.6kV の約半分(5次1.8 mA/kW)だからだ。11次だけが利用率96.7%でかろうじて残り、その隣の13次は超えるという、次数によって適否が揃わない非単調な結果になっている。「電圧が高い=余裕がある」ではないことがはっきり出る。
ケース6 大契約で余裕あり(全次数適合・最大利用率37%)
入力: 6.6kV / 契約2000kW / 力率0.85 / PWMインバータ(リアクトル付)30kW × 4台 × 70%。
結果: 全次数適合。最大利用率は5次の37%。
解釈: 上限は契約電力に比例するので、契約2000kW ではリアクトル付きインバータ4台程度なら余裕でクリアする。同じ機器でも契約電力が大きいほど、上限に対する利用率は下がる。設備の規模と契約電力のバランスで判定が動くことを示す基準ケースだ。
ケース7 溶接工場・アーク溶接機+インバータ(5次7次11次NG・13次適合)
入力: 6.6kV / 契約300kW / 力率0.85 / アーク溶接機30kW × 3台 × 50% + 汎用インバータ(6パルス)15kW × 2台 × 100%。
結果: 5次3.40A(上限1.05A・利用率323%)/ 7次1.82A / 11次0.49A / 13次0.38A(利用率96.6%・適合)→ 5次7次11次NG・13次適合。
解釈: 契約300kW と小さく上限が厳しい(5次1.05A)ところに、溶接機と無対策インバータが乗って5〜11次が超過した。溶接機は稼働率50%でも高調波源として効いている。13次は96.6%で辛うじて収まるが、実質的にどの次数も余裕がなく、対策込みの計画が要る規模だ。
ケース8 カスタム機器・未入力の次数は寄与ゼロ(11次13次は自動的に適合)
入力: 6.6kV / 契約400kW / 力率0.85 / カスタム機器(k5=0.5・k7=0.3 のみ入力、k11・k13 は空欄)100kW × 2台 × 100%。
結果: 5次10.29A / 7次6.17A(いずれも大幅NG)/ 11次・13次は係数未入力のため寄与0(適合)。
解釈: カスタム機器では入力した次数だけが計算に反映され、空欄の次数は寄与0 として扱われる。メーカー資料に5次7次の含有率しか載っていないとき、その2次だけで評価でき、11次13次は「データなし=0」となる。数値の出どころを自分でコントロールしたいケースの受け皿だ。空欄は「安全側に0」ではなく「未評価」である点は認識しておきたい。
これら8ケースを通すと、判定を左右するのは(1)機器の回路方式(含有率)、(2)契約電力と受電電圧で決まる上限、の2つだと分かる。同じインバータでもリアクトルの有無で適否が変わり(ケース1対2)、同じ機器でも契約電力次第で利用率が数倍動く(ケース1対6)。
仕組み・アルゴリズム — mA/kW上限と含有率集計の中身
上限値の mA/kW 方式とその由来
このツールの上限値は、経産省ガイドラインが定める「契約電力1kWあたりの高調波流出電流の許容値」に基づく。契約電力に比例する形で上限を与えることで、大規模需要家には相応の流出量を許し、小規模需要家は絞る、という公平な線引きになっている。計算は単純だ。
In上限[A] = 契約電力[kW] × (次数別 mA/kW) ÷ 1000
例) 6.6kV・契約500kW の5次上限
= 500 × 3.5 ÷ 1000 = 1.75 A
6.6kV は5次3.5・7次2.5・11次1.6・13次1.3 mA/kW、22kV は5次1.8・7次1.3・11次0.82・13次0.69 mA/kW。22kV が6.6kV のほぼ半分に設定されているのは前述のとおりで、この数値は日本電気技術者協会の解説(6.6kV: 5次3.5・7次2.5 mA/kW)でも確認できる。かつて6.6kV欄に22kV系の値が紛れ込んでいた誤りを正し、mA/kW 方式で全面的に組み直したのがこの上限テーブルだ。
基本波電流 I1 の導出
流出電流を出すには、まず各機器が引く基本波電流を求める。三相負荷の電力・電圧・電流の関係 P = (√3)·V·I·cosφ を電流について解けば導ける。
I1 = 容量[kW] × 台数 × (稼働率/100)
────────────────────────────────
(√3) × 電圧[kV] × 力率
√3 : 1.7320508…(三相の線間↔相の換算)
力率 : 空欄・範囲外は0.85で計算
稼働率 : 空欄は100%、明示0は0%として寄与0
容量kW と電圧kV を使うと分母分子でk(キロ)が約分され、結果はそのままアンペアで出る。稼働率は同時に動く割合で、実態に合わせて絞ると流出量も下がる。
含有率集計の簡略法と、正式な等価容量法の違い
このツールは、機器タイプごとの含有率kn を基本波電流に掛け、全機器で足し合わせる In = Σ(I1 × kn) の簡略法を採る。機器を並べればそのまま次数別の合計流出電流が出るので、届出前の当たりをつけるには十分速い。
一方、電力会社への正式届出で使うのは等価容量法だ。各機器を「6パルス整流器に換算したときの容量」に直す係数Ki を掛けて、需要家全体の等価容量 P0 = Σ(Ki·Pi) を求め、そこに次数別の高調波発生原単位を掛けて流出電流を出す。考え方は近いが、換算の基準(機器容量ベースか基本波電流ベースか)と、系統側の低減係数γn の扱いが異なる。本ツールは含有率で電流を直接積み上げる方式なので、正式計算書とは小数点以下で差が出うる。あくまで一次スクリーニングと学習用の概算という位置づけだ。
含有率の比較 — 対策の効き方が数字で見える
対策の効果は、次数別含有率kn の変化としてそのまま現れる。
5次含有率 k5 の比較(代表値)
6パルス・リアクトルなし : 0.65 ← 無対策
リアクトル付き(ACL/DCL): 0.30 ← 約半分に低減
12パルス整流 : 0.03 ← ほぼ相殺
ただし12パルスは高次が残る:
k11 ≈ 0.09 / k13 ≈ 0.076(相殺されない)
ACリアクトルまたはDCリアクトルを付けるだけで5次は0.65→0.30 とおよそ半減し、これがケース2で適合に転じた理由だ。12パルス化すると5次7次はほぼ消えるが、11次13次は残る。だからケース4のように大容量では最悪次数が13次へ移り、フィルタが要る局面になる。低次が問題ならリアクトルや多パルス化、高次が問題ならアクティブフィルタ・受動フィルタ、という対策の出し分けは、この含有率の並びから来ている。
工場ケースのステップバイステップ計算
ケース1(6.6kV・契約500kW・6パルスINV 55kW×4台×100%・力率0.85)を最後まで手で追う。
[1] 基本波電流 I1
I1 = 55 × 4 × 1.0 / (√3 × 6.6 × 0.85)
= 220 / (1.7320508 × 6.6 × 0.85)
= 220 / 9.717
= 22.64 A
[2] 5次流出電流(k5 = 0.65)
In5 = I1 × k5 = 22.64 × 0.65 = 14.72 A
[3] 5次上限
上限 = 500 × 3.5 ÷ 1000 = 1.75 A
[4] 5次利用率と判定
利用率 = 14.72 ÷ 1.75 × 100 = 841 % → NG
同じ手順を7次(k7=0.41 → 9.28A / 上限1.25A)、11次(k11=0.085 → 1.92A / 上限0.8A)、13次(k13=0.077 → 1.74A / 上限0.65A)に繰り返す。利用率が最大の次数(この場合5次の841%)が最悪次数となり、1つでも100%を超えれば総合NG。機器が複数あるときは、各行で In = I1 × kn を出して次数ごとに合算してから、同じ上限と突き合わせる。やっていることは掛け算と足し算だけだが、次数×機器の数だけ繰り返すと手計算では骨が折れる。そこを1画面に畳み込んだのがこのツールだ。
受変電設計ツール群のなかでの位置づけ
高調波の判定は、受変電設備の設計フローの一部分でしかない。このサイトには関連する電気設備ツールがいくつかあり、それぞれ役割が違う。まとめて使うと、受電盤まわりの検討がひととおり回る。
- /demand-power-calc(デマンド・契約電力) — 高調波の上限値は契約電力[kW]が基準になる。上限[A] = 契約電力 × mA/kW ÷ 1000 だから、そもそも契約電力が決まっていないと本ツールの判定は始まらない。デマンド計算は本ツールの上流・前工程にあたる。ここで出した契約電力をそのまま高調波計算の入力へ転記できる。
- /power-factor-calc(力率改善・進相コンデンサ) — 進相コンデンサと直列リアクトルの選定ツール。高調波と力率改善は無関係ではなく、むしろ表裏一体だ。裸の進相コンデンサは高調波電流を吸い込んで焼損しやすく、直列リアクトル付きにする理由の半分は高調波対策にある。本ツールでNGが出たら、コンデンサ側のリアクトル検討もあわせて行うのが実務の流れ。
- /transformer-sizing(変圧器容量) — 高調波の多い負荷は変圧器を余分に発熱させる。容量選定の段階で高調波負荷を見込むかどうかは、K係数変圧器(後述)を選ぶかにも関わってくる。
- /ct-ratio(CT比・保護協調) — 変流器の変流比選定。高調波電流は保護継電器の検出にも影響し、誤動作の一因になる。保護協調の検討とセットで押さえておきたい領域。
本ツールが担うのは、この流れのなかで「需要家から系統へ流れ出す高調波電流が、ガイドラインの上限に収まるか」という一点。次数別(5/7/11/13次)の流出電流を集計し、契約電力あたりの上限と突き合わせてPASS/NGを出すことに特化している。汎用の電気計算アプリが力率やデマンドを幅広く扱うのに対し、本ツールは高調波の届出前スクリーニングという狭い工程を深掘りしているのが違いだ。
高調波にまつわる豆知識
なぜ3の倍数次(3次・9次)は三相で消えるのか
本ツールが5/7/11/13次だけを扱い、3次や9次を対象にしていないのには理由がある。三相平衡系では、各相の3の倍数次(3n次)の高調波がすべて同位相になる。3相を線間で足し合わせると位相がそろっているぶん打ち消し合い、線電流としては現れにくい。代わりに、Δ結線の内部を還流したり、中性線に集中したりする(単相負荷が多いビルの中性線が細いと過熱するのはこのため)。三相のインバータ・整流負荷では 6n±1 次、つまり5次・7次・11次・13次が主役になる。
6パルス整流の主な高調波次数: 6n ± 1
n=1 → 5次, 7次
n=2 → 11次, 13次
n=3 → 17次, 19次 …
12パルス整流の主な高調波次数: 12n ± 1
n=1 → 11次, 13次 ← 5次・7次が相殺されて消える
n=2 → 23次, 25次 …
K係数変圧器(高調波対応変圧器)
高調波電流が多い負荷を担う変圧器は、渦電流損が増えて余分に発熱する。これに耐えられるよう巻線や鉄心を強化したのがK係数変圧器(K-rated transformer)で、K4・K13・K20 のように数字が大きいほど高調波耐量が高い。データセンターやインバータ主体の工場で使われる。容量選定の際に高調波を見込むかどうかは、/transformer-sizing の検討ともつながる。
アクティブフィルタと受動フィルタの違い
- 同調受動フィルタ(パッシブフィルタ) — コンデンサとリアクトルを直列にして特定次数(5次など)に共振点を合わせ、その次数の電流を吸い込む。安価だが、系統インピーダンスとの共振(拡大)に注意が必要で、狙った次数以外には効かない。
- アクティブフィルタ(能動フィルタ) — 高調波を検出し、逆位相の電流を注入して打ち消す。複数次数に同時対応でき、負荷変動にも追従する。高価だが、12パルス化しても残る11次・13次のような高次が支配的なケースで強い。
電流歪みと電圧歪み(THD)は別物
高調波の話では「電流歪み」と「電圧歪み」が混同されやすい。需要家が系統へ流し出すのは電流であり、ガイドラインが規制するのも流出電流だ。その電流が系統インピーダンスに流れて電圧を歪ませ、結果として全高調波歪み(THD-V)という電圧品質の指標に跳ね返る。本ツールは電流側(流出電流)の判定に絞っており、電圧歪み率は算出しない。より詳しい背景はWikipedia 高調波も参考に。
使いこなしのTips
- リアクトル付与が最も費用対効果が高い — 6パルスインバータに交流リアクトル(ACL)または直流リアクトル(DCL)を付けるだけで、5次含有率がおおよそ 0.65 → 0.30 へ落ちる。フィルタ増設より安く、まず検討すべき第一手。機器選定の段階なら「リアクトル付き」を標準にしておくと後で楽になる。
- 12パルス化は高次に注意 — 12パルス整流は5次・7次をほぼ相殺する一方、11次・13次はむしろ残る。本ツールで12パルスを選ぶと最悪次数が13次側へシフトする挙動が見える。「多パルス=万能」ではないので、高次が上限に近いときはフィルタ併用を前提に。
- 稼働率は実態に合わせる — 全機器を100%稼働で入れると過大評価になり、不要な対策コストを見込んでしまう。最大稼働率は実運用の同時使用率に近づける。逆に、届出用の一次判定では安全側に高めを入れて余裕を確認する使い方もある。
- カスタム係数はメーカーの測定値で — アーク炉・溶接機・LED照明・特殊なUPSは機種差が大きい。手元にメーカーの高調波電流含有率(実測値)があれば、カスタム機器を選んで k5〜k13 に直接入力したほうが精度が上がる。未入力の次数は寄与0として計算される。
- 正式な届出は等価容量法の様式で — 本ツールは機器別含有率で直接集計する簡略法。電力会社への正式な届出は、ガイドラインの等価容量法(P0 = ΣKi・Pi)に基づく計算書を電気主任技術者・専門業者が作成する。本ツールはあくまで届出前のセルフチェックに使う。
よくある質問(FAQ)
高調波の届出はいつ必要になる?
経済産業省の『高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン』は、高圧・特別高圧で受電する需要家を対象に、インバータ・整流器などの高調波発生機器を新設・増設する際の対策を求めている。等価容量が一定規模を超える場合に流出電流計算書の提出が必要になり、具体的な要否・様式は契約する電力会社との協議で決まる。本ツールは、その協議に入る前に「上限を超えそうか」をざっと掴むための一次スクリーニングだ。
上限値を超えたらどう対策すればいい?
超過している次数によって打ち手が変わる。5次・7次が支配的なら、まずインバータへの交流/直流リアクトル付与、次に12パルス整流化やPWMコンバータ(高力率整流)への変更。11次・13次のような高次が支配的なら、12パルス化では消えないためアクティブフィルタや同調受動フィルタが有効だ。本ツールはNG時に最悪次数を判定し、その次数に応じた対策を情報ボックスで出し分ける。まずは費用対効果の高いリアクトルから検討するのが定石。
12パルスにすれば安心?
そうとは限らない。12パルス整流は 6n±1 のうち5次・7次を相殺するが、11次・13次はそのまま残る。本ツールで12パルスインバータを選ぶと、5次・7次はPASSでも11次・13次でNGになるケースがはっきり見える。台数や容量が大きいと高次だけで上限を超えることがあり、その場合はアクティブフィルタとの併用が必要になる。「多パルス化すればフィルタ不要」という思い込みを検算で崩せるのが、このツールを使う意義のひとつ。
受電電圧が22kVだと何が変わる?
上限値(mA/kW)が変わる。6.6kVでは 5次3.5・7次2.5・11次1.6・13次1.3 mA/kW だが、22kVでは 5次1.8・7次1.3・11次0.82・13次0.69 mA/kW と、およそ半分に設定されている。つまり同じ機器構成でも、受電電圧が高いほど流出電流の許容枠が小さく、判定は厳しくなる。特別高圧受電のほうが系統への影響範囲が広いことを反映した設定だ。ツールでは受電電圧を切り替えるだけで上限テーブルが自動で入れ替わる。
入力したデータはどこに保存される?
すべてブラウザ内(あなたの端末)で計算しており、契約電力・機器リスト・稼働率などの入力値はサーバーへ送信していない。会員登録も不要で、ページを閉じれば入力内容は残らない。社外秘の設備構成を含む一次検討でも、情報が外部に出る心配なく使える。結果を保存したいときは、コピー機能でテキストを控えておくとよい。
まとめ
高調波流出電流の判定は、受電電圧・契約電力と機器別の発生量を突き合わせる作業だ。本ツールなら、次数別(5/7/11/13次)の流出電流をガイドラインの契約電力あたり上限と比較し、PASS/NGと最悪次数、対策の方向性までワンタップで確認できる。届出前の一次スクリーニングに使ってみて。
受変電設計をひととおり進めるなら、契約電力を決める/demand-power-calc、進相コンデンサと直列リアクトルを検討する/power-factor-calc、変圧器容量を選ぶ/transformer-sizingもあわせてどうぞ。換算係数や上限値の扱いで気づいた点があれば、お問い合わせページから気軽に知らせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。電気設備の受変電計画で高調波の届出要否を何度も判断してきた経験から、旧版の上限値テーブルに紛れていた6.6kVと22kVの取り違えを見つけ、mA/kW方式で一から組み直した。
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