「カーブは手前で減速」の、その先を誰も数字で言わない
教習所でも、警戒標識でも、助手席の同乗者からも「カーブは手前で減速」と言われる。反論の余地はない。ただ、その先が誰も続かない。いま出ている40km/hは何に対して速いのか。30km/hまで落とすと何がどう変わるのか。数字が一度も出てこないまま「気をつけろ」で終わる。
自分の場合は、荷を高く積んだ軽トラで農道の小さなカーブに入って、荷台側がふわっと軽くなる感覚を味わったのがきっかけだった。速度は35km/h程度。法定速度は超えていない。それでも肝が冷えた。あのとき効いていたのは規制速度ではなく、カーブの半径と、自分で積み上げた荷の重心高だった。
このツールは、速度・カーブ半径・路面・カント(片勾配)・車両の重心から、いま出ている横Gと、理論上どのあたりで滑り出すか/転び始めるかを並べて出す。先に断っておくと、出てくるのは「ここまで出していい速度」ではない。路面とタイヤを理想化した剛体が一定速度で円を描く(定常円旋回)と仮定したときの理論値で、実際のタイヤの摩擦は接地荷重・温度・摩耗・空気圧・路面の細かい状態で大きく振れる。使い道は絶対値ではなく、速度・半径・路面・重心のどれをどう動かすと答えがどちら向きに何%動くか、という相対比較のほうにある。
なぜ作ったのか — 滑るのが先か、転ぶのが先か
きっかけは検索の空振りだった。「遠心力 計算」で検索すると、上から下まで遠心分離機のRCF(相対遠心力)計算ツールが並ぶ。回転数[rpm]とローター半径からGを出す設計で、km/hも路面も片勾配も入力欄に無い。走行の文脈で遠心力を数字にしたいだけなのに、その道具が見当たらない。
JAFや教習所の解説記事は「速度が2倍になると遠心力は4倍」を言葉と図で丁寧に説明してくれる。だが読者は、自分が毎日通るあのカーブの半径を入れて数字にすることができない。「4倍になる」は分かっても、「いまの自分は限界の何割か」には届かない。海外には摩擦付き傾斜面の旋回速度を出す計算ツールが複数あるが、重心高による横転限界を併算しない、二輪のリーン角を扱わない、日本の道路構造令の設計基準と突き合わせない、のいずれかで止まっている。
作りながら一番おもしろかったのは、滑るのが先か、転ぶのが先かという論点だった。タイヤの摩擦係数μと、車両の静的安定係数SSF(=輪距÷2×重心高)を比べるだけで決まる。乗用車セダンは乾燥路のμ0.75に対しSSF 1.4091なので、必ず滑りが先に来る。滑れば速度が落ちて済む。ところが荷を積んだ大型トラックはSSFが0.6267しかないので、同じ乾燥路で転倒のほうが先に来る。しかも路面のグリップが良いほど転倒側との差が開く。「グリップが高い=有利」という直感が、車両によっては逆を向く。この入れ替わりを1画面で見せたかった。
遠心力と横G、そしてカント(片勾配)とは何か
遠心力 計算の出発点は v²/r という1本だけ
水を入れたバケツを腕で振り回すと、水はこぼれずに底に張りつく。バケツは絶えず向きを変えているので、円の中心へ向かう加速度が働き続けている。その大きさが v²/r ── 速度の2乗を半径で割った値だ。乗っている側から見ると、これは外向きに引っ張られる力として感じられる。これが遠心力で、車のカーブでも自転車のコーナーでも、出発点はこの1本しかない。
v[m/s] = 速度[km/h] / 3.6
横加速度 a = v² / r
横G = a / 9.80665
半径50mのカーブを40km/hで曲がるなら、v = 40 / 3.6 = 11.111 m/s、a = 11.111² / 50 = 2.4691 m/s² になる。
横G とは — 重力の何倍かに読み替える
2.4691 m/s² と言われてもピンとこない。そこで標準重力加速度 9.80665 m/s² で割って「重力の何倍か」に読み替える。2.4691 ÷ 9.80665 = 0.2518 G。体重60kgの人が横向きに15kgぶんで引かれている状態だと思えばいい。これが横Gで、タイヤが路面へ要求している仕事量そのものになる。
決定的なのは、この式の速度が2乗で効いていることだ。同じ半径50mのカーブで速度を40km/hから60km/hへ、つまり1.5倍にすると、横Gは0.2518から0.5665へ跳ねる。2.25倍、ちょうど1.5の2乗だ。「20km/hしか上げていない」という感覚と、路面が受け取る負荷が2.25倍になる事実のあいだには、ずいぶん大きな隔たりがある。
カント(片勾配)とは何か — 傾いた床の上のコップ
傾いた床にコップを置くと、重力の一部が床に沿った成分になって、コップは低いほうへ滑ろうとする。カーブの外側を持ち上げて路面を傾けると、この「床に沿った重力の成分」がカーブの内側を向く。外向きの遠心力を、重力の一部で相殺できるわけだ。これが片勾配、走行の文脈ではカントと呼ばれる。傾きは角度φ[度]でも勾配[%]でも表せて、両者は カント[%] = 100 · tanφ の関係にある。線形ではないので、6%は6度ではなく3.4336度になる。Banked turnの一般式もこの角度で書かれている。
外側が高いほうを正とすると、外側が低い「外傾(逆カント)」は負のカントになる。峠道の下りで、雨水を路肩へ切るために外側が下がっている区間は珍しくない。負のカントは遠心力を打ち消すどころか、外へ押し出す側に加勢する。
摩擦角 atan(μ) — 滑るかどうかは力ではなく角度で決まる
タイヤが出せる横向きの摩擦は F ≦ μN に縛られる。両辺を法線力Nで割ると、この条件は「路面が受け取る合力が、路面の法線から atan(μ) の範囲に収まっていれば滑らない」と読み替えられる。この角度が摩擦角だ。力の大小ではなく角度の勝負になるところが効いてくる。
凍結路のμ0.07なら摩擦角は4.00度しかない。圧雪のμ0.15でも8.5度程度。つまり凍結路で外傾が4度を超えているカーブは、速度をどれだけ落としても外へ滑る。遠心力がゼロに近くても、重力の斜面成分だけで摩擦角を超えてしまうからだ。「ゆっくり行けば何とかなる」が成り立たない条件が、この世には実在する。
滑り出し速度の式を組み立てる
傾いた路面の上で、遠心力・重力・摩擦の3つを釣り合わせて速度について解くと、次の1本になる。
理論上の滑り出し速度[km/h] = 3.6 · √( g · r · (μ + tanφ) / (1 − μ · tanφ) )
g = 9.80665 m/s²、r = カーブ半径[m]、φ = カント角
分子で μ と tanφ が足し算になっているのが、摩擦とカントが同じ向きに効いていることを表している。分母の 1 − μ·tanφ は、路面が傾くと法線力そのものも増える効果だ。平坦(φ=0)ならこの式は 3.6·√(g·r·μ) に縮む。半径50m・μ0.75なら69.04km/h。逆カントが摩擦角を超えて μ + tanφ ≦ 0 になると分子が消えて、さっきの「どんな速度でも滑る」に落ちる。
二輪の場合、この横Gがそのままリーン角になる。鉛直基準のリーン角は atan(横G)、路面を基準にした実効リーン角はそこからカント角を引いた値だ。そして四輪で「タイヤが出す必要のある摩擦係数」を求めると、これが tan(実効リーン角) に一致する。二輪のリーン角と四輪の必要摩擦係数は、同じ量の別表現でしかない。
転倒側の限界 — SSF(静的安定係数)
滑りとは別に、外側のタイヤ接地点を支点にした転倒がある。遠心力 × 重心高が、重力 × 輪距の半分を上回った瞬間に内輪が浮く。両辺を整理すると、車両側の条件は輪距 t と重心高 h_g だけの無次元量にまとまる。
SSF = t / (2 · h_g) // 何Gの横加速度で内輪が浮くか
セダンなら 1.55 / (2 × 0.55) = 1.4091、積載した大型トラックなら 1.88 / (2 × 1.50) = 0.6267。そして愉快なことに、滑り出し速度の式のμをSSFに置き換えるだけで横転速度が出る。カントが付いていても形は変わらない。摩擦の釣り合いと転倒モーメントの釣り合いが同じ形になる、というのがこのモデルの気持ちのいいところだ。
道路の安全率の正体 — 設計の f 0.15 と、実測μ 0.75 のあいだ
日本の道路は、いま導いた式とほぼ同じもので設計されている。道路構造令 第15条は曲線半径を定めていて、国土交通省の解説はその根拠として R ≧ V²/(127(i + f)) を示している。R は曲線半径[m]、V は設計速度[km/h]、i は片勾配、f は設計上の横すべり摩擦係数だ。第16条はその片勾配の上限を決めていて、第1種から第3種の道路では積雪寒冷のはなはだしい地域6%・その他の地域8%・それ以外の地域10%、都市部の第4種では6%となっている。
問題は f の値だ。設計速度120km/hで0.10、40km/h以下で0.15。最大でも0.15しかない。一方、乾燥アスファルトでタイヤが実際に出せるμは0.75ある。つまり道路は、タイヤが滑り出す限界の5分の1の横Gで曲がれるように作られている。f はタイヤの限界ではなく、乗員が不快に感じない・積荷が動かない・ハンドルの微修正で吸収できる、という乗り心地の側から決めた値だからだ。
具体的に見ると気持ちよく分かる。設計速度120km/h・片勾配6%の最小曲線半径は710m。この半径を実測μ0.75で解くと、理論上の滑り出しは276.65km/hになる。設計速度120km/hはその約43%でしかない。この4倍以上の隙間が、雨・摩耗したタイヤ・偏った積荷・落下物・カーブ途中での半径の変化を、まとめて飲み込んでいる。
逆に言えば、隙間を食い潰す条件が重なれば消える。凍結路のμ0.07は乾燥路の10分の1以下だ。半径100mという一般道では緩い部類のカーブでも、理論上の滑り出しは29.83km/hまで落ちる。設計速度40km/hの区分を余裕で満たす半径であっても、路面が変われば40km/hが理論限界の外側に出る。設計の安全率は路面の状態を担保していない。
もうひとつ、見落とされやすい穴がある。道路構造令の f には車の重心高が入っていない。第15条が想定しているのは滑りだけで、転倒は車両側の問題として切り離されている。だから第15条を完全に満たすカーブでも、SSF 0.6267 の積載トラックにとっては滑りより先に横転の限界が来る。道路側の基準と車両側の基準は別物で、両方を突き合わせないと片手落ちになる。積荷を高く積むという行為は、道路の設計者が知らないところで安全率を削っている。
この計算が要る4つの場面
(a) 荷を積んで農道や山道のカーブに入る前。 軽トラでも大型トラックでも、荷台の上に何をどの高さまで積んだかで重心高が動く。輪距と重心高を10cm単位で振ってみると、横転側の限界がどれだけ敏感かが見える。積み方を決める前に眺めておく数字だ。
(b) 冬、凍結路や圧雪路でどれだけ落とすかの感覚を作りたいとき。 「いつもより控えめに」の控えめが何km/hなのかは、路面のμを切り替えれば横G側から逆算できる。乾燥路と凍結路を交互に選び直すと、同じカーブの数字が桁で変わるのが分かる。
(c) バイクや自転車で、このコーナーはどれくらい寝かせることになるのかを知りたいとき。 リーン角は横Gから一意に決まる。市販車のステップやペダルが接地する角度には限りがあるので、路面基準の実効リーン角が実用上限を超えていれば、それは実車では成立しない走り方だと分かる。
(d) 自転車競技場のバンクや競技用オーバルが、なぜあの角度なのかを確かめたいとき。 カントを40度台まで入れてみると、「速く曲がるため」だけでは説明できない現象 ── 遅すぎると内側へ滑り落ちる最低速度が現れる ── が出てくる。
基本の使い方は3ステップ
1. 車両を選ぶ。 乗用車セダン/SUV・ミニバン/軽トラック(積載時)/大型トラック(積載時)/自転車/オートバイ/直接入力(四輪)から選ぶ。四輪を選ぶと輪距と重心高の代表値が入力欄に入るので、車検証や諸元表の「トレッド」が分かるなら上書きしてほしい。前後で違うときは狭いほうを入れる。二輪を選ぶと、輪距と重心高の欄そのものが消える。
2. 速度とカーブ半径を入れる。 速度は数値でもスライダーでも動かせる。半径のほうは、地図アプリでカーブの曲線に円を重ねて、ぴったり乗る円の半径を読むのがいちばん早い。目安として、交差点の右左折はおおむね8〜15m、一般道の緩いカーブは100〜300m、高速道路の本線は数百mから2,000m級まである。
3. 路面とカントを選ぶ。 乾燥アスファルト/濡れたアスファルト/砂利・ダート/圧雪/凍結/直接入力から路面を選ぶ。カントは単位を度か%かで切り替えて入力する。カーブの外側が高いほうが正、外傾(逆カント)は負、平坦なら0でいい。
結果として、横Gと横加速度、理論上の滑り出し速度、速度余裕率と限界に対する使用率が表示される。四輪ならSSFと理論上の横転速度が、二輪なら鉛直基準と路面基準の2つのリーン角が並ぶ。加えて、滑りと転倒のどちらが先に来るかの判定と、この半径・片勾配が道路構造令上どの設計速度区分に相当するかも出る。文献値のμには幅があるので、ピーク側の値で解いた滑り出し速度も併記される。
使用例8ケース — 実際に入れて出た数字
以下の8ケースは、実装した計算エンジンに同じ入力を与えて得た出力そのままだ。表示桁に合わせて丸めてある。読む前にもう一度だけ ── ここに並ぶ速度は理想化したモデルの理論値であって、公道では規制速度が優先する。滑り出し速度が規制速度より高く出たとしても、それは速度を上げてよいという意味には一切ならない。
ケース1|街中の基準 — セダン・R50m・40km/h・乾燥
- 入力: 乗用車セダン(輪距1.55m・重心高0.55m)/ 40km/h / R50m / 乾燥アスファルト(μ0.75)/ カント0度
- 結果: 横G 0.2518(横加速度 2.4691 m/s²)、理論上の滑り出し速度 69.0km/h、理論上の横転速度 94.6km/h、SSF 1.4091、速度余裕率 172.6%、限界に対する使用率 33.6%、先に来るのは滑り、相当設計速度30km/h区分
- 解釈: 街中でごく普通に曲がっている状態。速度では1.7倍の余裕があるように見えるが、横Gのスケールでは限界の33.6%しか使っていない。この「速度の余裕」と「Gの使用率」が2乗で結びついている関係が、以下すべてのケースの土台になる。
ケース2|同じカーブを60km/hで — 速度1.5倍、横G 2.25倍
- 入力: ケース1と同じで、速度だけ60km/h
- 結果: 横G 0.5665(横加速度 5.5556 m/s²)、滑り出し速度は69.0km/hのまま、速度余裕率 115.1%、限界に対する使用率 75.5%、必要摩擦係数 0.5665
- 解釈: 速度は1.5倍。横Gは0.2518 → 0.5665で2.25倍(=1.5²)。使用率も33.6% → 75.5%と、きっちり2.25倍になる。ところが速度余裕率は172.6% → 115.1%と、1/1.5にしか減らない。「まだ15%残っている」と読める状態が、Gでは4分の3を使い切っている。速度の目盛りで見ているかぎり、この差は永遠に見えない。
ケース3|積載した大型トラック — 滑るより先に転ぶ
- 入力: 大型トラック(積載時、輪距1.88m・重心高1.50m)/ 45km/h / R60m / 乾燥アスファルト / カント0度
- 結果: 横G 0.2656、SSF 0.6267、滑り出し速度 75.6km/h に対して横転速度 69.1km/h、先に来るのは転倒、速度余裕率 153.6%、使用率 42.4%
- 解釈: 横Gの絶対値はケース1とほとんど変わらない。それでも限界の性質が入れ替わる。μ0.75 > SSF 0.6267 なので、タイヤが逃げてくれる前に横転側の限界が来る。滑ってくれれば速度が落ちて収まるところを、そのまま倒れる方向へ振れるということだ。グリップの良い乾燥路のほうが差が開くという、直感に反する事態がここで起きている。
ケース4|軽トラに背の高い荷 — 重心24cmで負け方が変わる
- 入力: 直接入力(四輪)輪距1.30m・重心高0.90m / 45km/h / R40m / 乾燥アスファルト / カント0度
- 結果: SSF 0.7222、滑り出し速度 61.7km/h に対して横転速度 60.6km/h で転倒が先、横G 0.3983、速度余裕率 134.7%、使用率 55.2%
- 解釈: 軽トラックのプリセット(輪距1.30m・重心高0.66m・SSF 0.985)から、重心高を24cm上げただけの状態だ。SSFが0.985 → 0.7222へ落ち、μ0.75を下回った時点で先に来る事象が滑りから転倒へ切り替わる。荷を高く積むと理論上の限界が下がるだけではない。負け方そのものが変わる。
ケース5|グリップを上げると転倒が先に来る、という逆説
- 入力: SUV・ミニバン(輪距1.60m・重心高0.68m)/ 70km/h / R60m / 摩擦係数を直接入力 1.20(ハイグリップタイヤ相当)/ カント0度
- 結果: SSF 1.1765、滑り出し速度 95.7km/h に対して横転速度 94.7km/h でわずかに転倒が先、横G 0.6426、速度余裕率 135.3%、使用率 54.6%
- 解釈: μ1.20がSSF 1.1765をわずかに上回った瞬間、先に来る事象が入れ替わる。同じ車でも濡れた路面(μ0.45)に戻せば滑りが先になる。タイヤを換えて手に入るのは「限界の高さ」であって「限界の来かた」ではない。どちらが先かは、μとSSFのどちらが小さいかだけで決まる。なおμを直接入力したケースでは文献値の幅が存在しないので、ピーク側μでの滑り出し速度は出ない。
ケース6|凍結路では、40km/hがもう限界の外側
- 入力: 乗用車セダン / 40km/h / R100m / 凍結(アイスバーン、μ0.07)/ カント0度
- 結果: 滑り出し速度 29.8km/h、速度余裕率 74.6%、使用率 179.8%、横G 0.1259、横転速度は133.8km/h、相当設計速度40km/h区分
- 解釈: 半径100mは一般道では緩いカーブで、横Gも0.13しかない。それでも滑り出しは30km/hを切る。同条件の乾燥路(μ0.75)なら97.63km/hなので、路面が変わるだけで3分の1以下に落ちる計算だ。使用率179.8%は「限界の1.8倍の横Gを要求している」という意味で、乾燥路の感覚のまま進入すると成立しない。ちなみにこの半径は道路構造令上は設計速度40km/hの区分を満たしている。設計基準は路面状態を担保しない、が数字で出た形になる。
ケース7|逆カント5度が、圧雪路の限界を35.9%削る
- 入力: 乗用車セダン / 30km/h / R50m / 圧雪(μ0.15)/ カント −5度(外傾)
- 結果: 滑り出し速度 19.8km/h、速度余裕率 66.0%、使用率 229.5%、横G 0.1416、必要摩擦係数 0.232、路面基準の実効リーン角 13.061度
- 解釈: カント0度なら滑り出しは30.87km/hで、30km/hはぎりぎり内側に収まる。外側が5度下がっているだけで19.80km/hまで落ちる。35.9%の低下だ。必要摩擦係数0.232に対して路面が出せるのは0.15しかない。峠の下りで排水のために外傾が付いている区間は珍しくなく、そこに圧雪が乗ると条件がそろう。カントは足し算ではなく符号付きで効く、というのがこのケースの要点になる。
ケース8|バンク走路には「遅すぎる」が存在する
- 入力: 自転車 / 50km/h / R25m / 乾燥アスファルト / カント +42度
- 結果: 滑り出し速度 127.1km/h、速度余裕率 254.2%、使用率 15.5%、鉛直基準のリーン角 38.1963度、路面基準の実効リーン角 −3.8037度、必要摩擦係数 −0.0665、滑り落ちない最低速度 16.9km/h
- 解釈: tan(42度) = 0.9004 がμ0.75を上回るため、遅すぎると内側へ滑り落ちる領域に入る。その境界が16.89km/hだ。路面基準のリーン角が負なのは、バンクの角度のほうが車体の傾きより大きく、車体が路面の法線より外側に倒れている状態を意味する。必要摩擦係数が負なのも同じことで、タイヤは外向きではなく内向きの摩擦を要求されている。競技場のバンクが、速く走るための装置であると同時に「傾いた床の上で立っていられる速度域」を作る装置でもあることが、この数字に出ている。
仕組みとアルゴリズム — 何を計算し、定数はどこから来たか
手法の選定 — 剛体モデルを採った理由
候補は2つあった。(A) 剛体の定常円旋回モデル。(B) タイヤの荷重依存・スリップ角・コーナリングパワーを含む車両運動モデル。
(B) は原理的にはずっと正確だが、コーナリングパワーやタイヤの荷重係数といった、一般のユーザーが手元に持っていない諸元を要求する。車種ごとの実測値がなければ精度は上がらず、入力欄だけ増えて答えの信頼度は変わらない。それでは道具にならない。
(A) を採ったもう一つの理由は、これが道路構造令 第15条の解説が最小曲線半径を導くのに使っている式そのものだからだ。解説は横すべりの限度を Z·cosα − G·sinα ≦ f(Z·sinα + G·cosα) の形で書いていて、これを速度について解くと本ツールの滑り出し速度の式になる。設計の世界で使われている式を、設計値 f ではなく実際の路面のμで解いている ── それがこのツールの立ち位置になる。
実装 — 滑りと横転を同じ関数で出す
限界速度は、滑りも横転も1本の関数で計算している。
limitSpeedFor(k):
t = tan(φ)
den = 1 − k · t
if den < 0.02 → 限界なし(外向きには滑り出さない領域)
if k + t ≦ 0 → 0(どんな速度でも滑る/倒れる)
else → 3.6 · √( 9.80665 · r · (k + t) / den )
理論上の滑り出し速度 = limitSpeedFor(μ)
理論上の横転速度 = limitSpeedFor(SSF)
同じ関数にμを渡せば滑り、SSFを渡せば横転になる。同じ式を2箇所に書くと、分母のガードを片方に入れ忘れる ── というのが実装上の判断で、関数は1つだけ書いて2回呼んでいる。
分母のガード den < 0.02 は、単なるゼロ割避けではない。1 − k·t → 0 はカントだけで釣り合ってしまう領域で、式の上では「いくらでも速く曲がれる」ことになる。これはモデルの限界であって現実ではないので、限界速度は出さずにそう出す。0.02という値を選んだのには表示側の理由もあって、ここで止めておくと滑り出し速度の理論上限が約5,246km/hに収まり、余裕率の表示が壊れる桁に入らない。
先に来るのが滑りか転倒かは、速度どうしを比べずに μとSSFを直接比べて 決めている。どちらの限界速度もkについて単調増加なので結論は同じになり、しかも片方が「限界なし」に落ちるケースでも矛盾しない。
必要摩擦係数は検算がしやすい。tan(路面基準リーン角) と (横G − tanφ) / (1 + 横G · tanφ) の2通りで書けるが、これはtanの加法定理そのものなので恒等的に一致する。実装は前者の1行で済む。二輪のリーン角と四輪の必要摩擦係数が同じ量の別表現だ、という §3 の話がここで実装レベルの根拠を持つ。
道路構造令の逆引きと、告示の表での検算
相当設計速度は、設計速度と設計上の横すべり摩擦係数の組を降順に見て、t + f > 0 かつ V²/(127(t + f)) ≦ r を満たす最初の V を返している。127という定数は告示の式に合わせたもので、9.80665は使っていない。
計算例1: 半径15m・片勾配6%
設計速度20km/h(f = 0.15): 20² / (127 × (0.06 + 0.15)) = 400 / 26.67 = 15.00m ≦ 15m → 成立
設計速度30km/h(f = 0.15): 30² / (127 × 0.21) = 900 / 26.67 = 33.75m > 15m → 不成立
→ 相当設計速度は 20km/h
告示の「設計速度20km/h → 最小曲線半径15m」と一致する。この条件で20km/h走行なら横Gは0.2098、実測μ0.75での滑り出し速度は40.2km/hになる。
計算例2: 半径710m・片勾配6%
設計速度120km/h(f = 0.10): 120² / (127 × (0.06 + 0.10)) = 14400 / 20.32 = 708.66m ≦ 710m → 成立
→ 相当設計速度は 120km/h
こちらも告示の「設計速度120km/h → 最小曲線半径710m」と一致する。同じ半径を実測μ0.75で解くと滑り出しは276.65km/hなので、設計速度はその約43%にあたる。
f の値は、実は告示に数表として載っていない(図で示されている)。そこで8区分の f を仮に置き、R = V²/(127(i+f)) で標準値 i=6% と特例値 i=10% の最小曲線半径を計算し直して、告示の表と突き合わせて確定させた。
| 設計速度 | 標準 i=6%(式の値 → 告示) | 特例 i=10%(式の値 → 告示) | f |
|---|---|---|---|
| 120km/h | 708.66m → 710m | 566.93m → 570m | 0.10 |
| 100km/h | 463.18m → 460m | 374.95m → 380m | 0.11 |
| 80km/h | 279.97m → 280m | 229.06m → 230m | 0.12 |
| 60km/h | 149.19m → 150m | 123.25m → 120m | 0.13 |
| 50km/h | 98.43m → 100m | 82.02m → 80m | 0.14 |
| 40km/h | 59.99m → 60m | 50.39m → 50m | 0.15 |
| 30km/h | 33.75m → 30m | — | 0.15 |
| 20km/h | 15.00m → 15m | — | 0.15 |
表の値はすべて告示の丸め幅の中に収まっている。f が 0.10 / 0.11 / 0.12 / 0.13 / 0.14 / 0.15 / 0.15 / 0.15 であることは、この逆算で確定した。
ひとつだけ差が残る。告示は設計速度30km/hの最小曲線半径だけ、式が出す33.75mを30mへ下側に丸めている。本ツールは式で判定しているので、半径が30〜33.7mの帯では告示より1段辛い区分(20km/h)を返す。この帯に入ったら、告示の表では30km/h区分に該当することを頭に置いて読んでほしい。
定数の由来
路面のμ はHP Wizardの乗用車タイヤ摩擦係数表から取った。この表はピーク値と滑走値の2列を持っていて、計算には低いほうの滑走値を採用している。乾燥アスファルト0.75(ピーク0.80〜0.90)、濡れたアスファルト0.45(0.50〜0.70)、砂利0.55(0.60)、圧雪0.15(0.20)、凍結0.07(0.10)。ピーク側の値で解いた滑り出し速度を並べて出しているのは、答えが文献値の幅の中でしか決まらないことをそのまま見せたいからだ。平坦路で上限μに切り替えると、滑り出し速度は乾燥+9.5%・濡れ+24.7%・砂利+4.5%・圧雪+15.5%・凍結+19.5%動く。この幅の広さ自体が判断材料になる。
砂利の0.55だけは扱いに注意が要る。この値はタイヤが表層に食い込む前後方向の制動を想定したもので、横方向は表層がせん断されるぶんこれより低く出やすい。そのため砂利を選んだときは、結果を安全側に読んでほしい旨の注記が添えられる。
車両の代表値 のうち乗用車とSUVは、NHTSAのLVIPD/NCAP横転安定性計測を1971〜2020年で集計した分析による。2010年代の平均で、乗用車は輪距1.552m・重心高0.524〜0.553m・SSF 1.337〜1.407。トラック/SUVクラスは輪距1.501〜1.632m・重心高0.662〜0.736m・SSF 1.100〜1.225。プリセットのSSFはセダン1.409・SUV 1.176で、どちらも実測レンジの中に収まっている。SSFと横転リスクの関係そのものはNHTSAの報告書が一次資料になる。
軽トラックと大型トラックはこの集計の対象外なので、別の作り方をした。輪距はメーカー公表値 ──ダイハツ ハイゼット トラックの主要諸元からトレッド1,300mm、いすゞ ギガの主要諸元から狭いほうの後トレッド1,875mm ── を使い、重心高は空車重心と積荷重心の加重平均から導出した。重心高は公表値ではなく導出値なので、絶対値として受け取らず、「荷を高く積むほど悪化する」の出発点として使ってほしい。
最後にモデル側の限界をもう一度。ここで扱っているSSFは剛体の静的な値で、実車の動的な横転限界はサスペンションとタイヤのたわみで重心が外へ移動するぶん、1〜2割低く出る。大型車では剛体SSF 0.627に対して実効0.5前後になると考えられている。滑り出し速度も横転速度も、余裕を数えるための上限ではなく、条件を変えたときにどちらへ何%動くかを読むための目盛りとして使うのがいい。公道では規制速度が優先し、理論値より手前で減速するのが前提になる。
既存の遠心力計算ツール・カーブ解説との違い
「遠心力 計算」で検索面を占めているのは、遠心分離機の RCF(相対遠心力)を出すツール群だ。回転数[rpm]とローター半径から g 数を返す設計で、km/h も路面の摩擦係数も片勾配も、入力欄そのものが存在しない。走行の文脈でこの3つを同時に扱えるツールが見当たらなかったことが出発点だったのは、前半で触れたとおり。
既存の解説と英語圏の calculator に何が足りないかは前半で並べたとおりで、ここでは埋めた側の話をする。本ツールの中心は、滑り出しと横転を同じ形の式から出して大小を比べることにある。limitSpeedFor に μ を渡せば滑り、SSF を渡せば横転。次元も分母のガードも共通なので、2つの限界を同じ物差しで並べて「先に来るのはどちらか」と言える。片方だけを出すツールでは、この比較そのものが成立しない。
そのうえで、同じ半径と片勾配が道路構造令上どの設計速度区分を満たすかまで並べている。車両側の限界(μ と SSF)と道路側の基準(f と i)を1画面に置くことで、「道路の基準は満たしているのに、この積み方では転倒が先に来る」という食い違いが見える形になる。
NHTSA は SSF と実車横転試験の結果を車種ごとに公表しているが、そこで与えられるのは車両の静的な指標までで、「いまの速度でこの半径を曲がるとどうなるか」は出てこない。本ツールは SSF を最終的な評価値ではなく途中の値として持ち、速度と半径に結びつけている。
関連ツールとの役割分担もはっきりさせておく。積荷から重心高そのものを積み上げて求めるのは「重心計算&転倒角度計算」の担当で、本ツールは求まった重心高を受け取って走行中の旋回を評価する側にいる。摩擦角 atan(μ) の考え方をはしごと斜面の文脈で深掘りしているのが「はしごの設置角度・すべり出し計算」で、「逆カントが摩擦角を超えるとどんな速度でも滑る」という本ツールの領域と、まったく同じ物理を別の姿で扱っている。
数字の裏側にある小ネタ
127 という半端な定数はどこから来たのか
道路構造令の最小曲線半径の式 R ≧ V²/(127(i+f)) に出てくる127は、初めて見ると出所の分からない数字だ。正体は単位変換で、速度 V を km/h、半径 R を m のまま扱うために 3.6² × 9.81 = 127.1 をひとまとめにしてある。3.6 は km/h から m/s への換算、9.81 は重力加速度。つまりこの式は物理的には何も特別なことをしておらず、実務で使う単位に合わせて係数を先に潰しただけだ。
最大片勾配が地域で変わる理由
片勾配(カント)の最大値が地域と道路の種別で変わることは前半の実務の節で触れたとおりだが、面白いのは、上限を設けている理由が「これ以上傾けると危ない」ではなく低速側の都合だという点だ。片勾配を大きく取りすぎると、低速で走っている車が谷側へ斜行し、降雨や降雪でμが落ちたときにはそのままスリップの原因になる。積雪寒冷地ほど上限が低いのはこのためで、雪と氷を前提にすると「傾けるほど曲がりやすい」が成立しなくなる。ちなみに10%は角度でいえば5.7度、6%なら3.4度で、体感としてはほとんど傾いていない。
自転車競技場のバンクが45度近くまで立っている理由
道路の片勾配が最大でも10%(5.7度)なのに対し、自転車競技場(ベロドローム)のバンクは45度前後に達する。本ツールのカント入力の上限を45度に取ってあるのはこの走路まで入れられるようにしたためで、競技用オーバルのデイトナが31度なので、そちらも範囲に収まる。
バンクが十分に立つと、tanφ が路面のμを上回る。そうなると外へ滑り出す限界だけの世界ではなくなり、**内側へ滑り落ちる「最低速度」**が現れる。使用例のバンク走路のケースを見ると、鉛直基準では車体が大きく傾いているのに、路面基準ではほぼ路面に垂直に立っていて、同時に最低速度が表示される。バンク角は「その走路で出す速度のときに、車体が路面に対してまっすぐ立つ」ように選ばれている、と読める。競技場のバンクの上でじっとしていられないのは、これが理由だ。
SSF はそのまま星の数になっている
SSF = 輪距 ÷(2 × 重心高)という単純な比は、NHTSA の横転評価でそのまま星の数に翻訳されている。Reduction Effectiveness of Static Stability Factor in Passenger Vehiclesによれば、1つ星は SSF 1.04 以下、5つ星は SSF 1.45 以上。
本ツールの車両プリセットに当てはめると、乗用車セダンの代表値 SSF 1.4091 は5つ星にわずかに届かない位置、SUV・ミニバンの 1.1765 は中間、軽トラック(積載時)の 0.9848 と大型トラック(積載時)の 0.6267 は 1.04 を下回っていて、そもそも米国の light vehicle 分類の外にあるため星が付かない領域にいる。輪距と重心高という2つの寸法を割っただけの数が、そのまま車の性格を表してしまうところがこの指標の面白さだ。
使いこなしのコツ
速度スライダーを動かして、2つの%が別の速さで動くのを見る
速度余裕率と限界に対する使用率は、同じ状態を別のものさしで見た値だ。スライダーを少しずつ上げると、余裕率は速度に反比例してゆるやかに下がるのに対し、使用率は2乗で跳ね上がる。この差を目で追うのがいちばん手っ取り早い体感の作り方で、「あと10km/hくらい」と思っている増速が横Gではどれだけの増分なのかが分かる。
輪距と重心高は10cmずつ動かして効き方を比べる
SSF は輪距に比例し、重心高に反比例する。同じ10cmでも効き方が対称ではないので、輪距を+10cmしたときと重心高を−10cmしたときで横転速度がどれだけ変わるかを実際に見比べてほしい。荷を低く積み直すことと車幅を広げることのどちらが現実的か、という判断の材料になる。
上限μでの値も一緒に見て、答えの幅を掴む
路面プリセットのμは文献値の滑走側(低いほう)で、ピーク側の値を使ったときの滑り出し速度も同時に表示される。平坦路でこの幅だけを動かすと、砂利は+4.5%しか動かないのに濡れたアスファルトは+24.7%も動く。濡れた路面は、そもそも答えが一点に決まらない路面だということで、幅の広さ自体を判断材料にしてほしい。
カントの単位は手元の資料の表記に合わせる
道路設計の資料は片勾配を%、走行系の話はバンク角を度で書くことが多い。単位を切り替えても入力欄の数値はそのまま保持されるので、同じ「6」でも%と度では別の傾きになる点にだけ注意すれば、資料の表記のまま入れて構わない。結果には度と%の両方が出る。
よくある質問
カーブ半径がどうしても分からないときはどうすればいい?
地図アプリで円を重ねる方法が使えないカーブ(トンネル内、立体交差のランプなど)では、半径を1つに決めようとせず範囲で入れて挟むのが現実的だ。たとえば「30mか50mか自信がない」なら、両方入れて滑り出し速度の下側の値のほうを見ておけばいい。半径は滑り出し速度の式の中で平方根の内側にいるので、半径の誤差はそのまま結果の誤差になる。ただし方向は単純で、小さく見積もるほど結果は辛い側に出る。判断に使うなら辛い側で読むのが筋になる。
なぜ「限界速度」ではなく「理論上の滑り出し速度」という言い方をしているのか
このモデルが、路面とタイヤを理想化した剛体が一定速度で円を描く(定常円旋回)と仮定した理論値だからだ。実際のタイヤの摩擦は接地荷重・温度・摩耗・空気圧・路面の細かい状態で大きく振れる。しかも振れ方には向きがあり、荷重が増えるほどμは下がるので、重い車ほど理論値より手前で滑り出す。「この速度までなら滑らない」と読める言葉を出すと、その保証をしていないのに保証したことになってしまう。そこで結果は相対比較の値として扱えるよう、速度・半径・路面・重心のどれをどう変えると結果がどちらへ何%動くか、が読み取れる形にしてある。
「道路構造令上の相当設計速度」は、その道路の制限速度のことか?
違う。制限速度でも推奨速度でもない。これは「この半径とこの片勾配の組み合わせが、道路構造令 第15条の最小曲線半径の規定に照らすと、どの設計速度区分を満たすか」を式から逆に引いた値でしかない。設計速度は道路を作るときの設計条件であって、実際に標識で指定される規制速度とは決め方も根拠も別だ。設計速度60km/hで作られた道路に規制速度50km/hが出ていることも、その逆に近い状況もふつうにある。ここに60と出たからその速度で走ってよい、という読み方は完全に誤りで、公道では常に規制速度が優先する。この欄は「自分が見ているカーブが、道路設計の物差しでどのあたりの緩さなのか」を知るための目盛りだと考えてほしい。
二輪を選ぶと SSF や横転速度が出ないのはなぜ?
SSF は輪距(左右のタイヤ接地点の間隔)を2×重心高で割った比なので、左右に幅を持たない二輪ではそもそも定義できない。二輪が外側へ倒れるのは「重心が外側の接地点を越える」からではなく、タイヤが横方向に滑るからで、外側への転覆判定を出す意味がない。代わりに二輪では、鉛直を基準にしたリーン角と、バンクを差し引いた路面基準の実効リーン角の2つを出している。実効リーン角がプリセットの実用上限(自転車35度/オートバイ45度)を超えると、市販車ではステップやペダルが接地してタイヤの断面も使い切っている領域なので、「実車では成立しない」と注記が添えられる。
タイヤメーカーの公表値や実測したμを使いたい
路面の選択肢にある「直接入力」を選ぶと、μ を 0.05〜1.5 の範囲で自分の値に差し替えられる。競技用スリックタイヤの横方向グリップが1.3〜1.5相当なので、上限はそこまで取ってある。プリセット側が文献値のどちら側を採っているか、その理由は前半の仕組みの節で説明したとおりで、路面を選ぶと採用した値と文献値の上限が幅として併記されるため、自分の実測値がその幅のどこに来るかも同時に読める。直接入力を選んだときだけは幅が出ないが、これは実測値に「幅」という概念を勝手に足さないためだ。
入力した車両の諸元や速度はどこかに送られる?
送られない。計算はすべてブラウザの中で完結していて、車両プリセットの選択・輪距・重心高・速度・半径・カントのどれもサーバーに送信していない。ページを閉じれば何も残らず、ログとしての保存もしていない。所有車の諸元や、ふだんどのくらいの速度でどこを走っているかは、記録として残ってほしくない類の情報だ。結果をどこかに残したいときはコピーボタンでテキストとして手元に取り出せる形にしてあるので、保存先はこちらで選べる。
まとめ
同じカーブでも、路面が変われば理論上の滑り出し速度は数分の一になり、重心が10cm上がるだけで先に来る限界が滑りから転倒へ入れ替わる。その動き方を数字で見るためのツールだ。出てくる値は理想化した剛体のモデルによる相対比較で、「ここまでなら平気」を示すものではない。公道では規制速度が優先することを前提に、理論値よりずっと手前で減速してほしい。
重心高が分からないときは重心計算&転倒角度計算で積荷から積み上げて求められる。摩擦角 atan(μ) の考え方をもう一歩掘るならはしごの設置角度・すべり出し計算、車高が変わって重心も動くケースはタイヤサイズ変更シミュレーター、勾配と角度の変換一般はテーパー・勾配 変換計算、二輪の駆動側の話はスプロケット丁数変更シミュレーターが担当している。
使ってみて計算が合わない、この車種の代表値を足してほしい、といった要望があればお問い合わせページから知らせてほしい。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。荷を高く積んだ軽トラで農道のカーブに入り、荷台側がふわっと軽くなった35km/hの感触が、このツールで μ と SSF を並べて出す発想の出発点になった。
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