新築の図面に「分電盤」と書かれて、ふと不安になった瞬間
「コンセントが足りなくて延長タップだらけ」——築10年を超えた住宅で、よく聞く声だ。エアコンの買い替え、IHクッキングヒーターへの切り替え、そしてEV充電器の設置。暮らしの電化が進むにつれ、分電盤の回路数が足りなくなるケースが増えている。
新築やリフォームの段階で「回路はいくつ必要か」「主幹ブレーカーは何Aにすべきか」を正しく見積もっておけば、将来のタコ足配線や容量不足を防げる。分岐回路数・分電盤選定シミュレーターは、建物用途と面積、専用回路設備を入力するだけで、必要回路数・主幹容量・分電盤サイズを一括算出するツール。メーカーに依存しない中立的な概算計算で、設計の出発点を提供する。
なぜ分岐回路数・分電盤選定シミュレーターを作ったのか
開発のきっかけ
自宅のリフォーム計画で、IHクッキングヒーターとEV充電器を同時に導入することになった。電気工事店に見積もりを依頼する前に「いまの分電盤で足りるのか」をざっくり把握しておきたかったのだが、手軽に使えるツールが見当たらない。
パナソニックの住宅分電盤選定サポートツールは存在するが、当然ながらパナソニック製品の型番に紐づいた結果が出る。知りたいのはメーカー以前の話——「そもそも何回路必要で、主幹は何Aが適切か」という基本的な数値だった。
内線規程をベースに手計算すれば出せるが、建物用途ごとの面積按分、専用回路の積み上げ、需要率の適用、予備回路の確保……と、意外にステップが多い。しかも1つの条件を変えるたびに再計算が必要になる。
「メーカーに依存せず、内線規程の考え方に沿って、面積と設備を入れれば概算が出るツールを作ろう」——それが出発点だ。
こだわった設計判断
- メーカー中立: 特定メーカーの製品に紐づけず、回路数・容量という「設計の土台」だけを提示する
- 需要率の反映: 接続容量をそのまま積み上げると過大な主幹になる。設備ごとの需要率(同時使用率)を考慮して現実的な推定値を出す
- プリセット+カスタム: エアコン・IH・EV充電器など主要設備はプリセットで選択。特殊な設備はカスタム入力で対応
- 外部送信なし: すべての計算をブラウザ内で完結。図面データや建物情報を外部に送る必要がない
分岐回路・分電盤の基礎知識 — 分電盤 回路数 とは
分電盤 とは何か
分電盤は、電力会社から引き込んだ電気を各部屋・各設備に「分配」するための装置。家庭の玄関や洗面所の壁に埋め込まれている、ブレーカーがずらりと並んだあのボックスのことだ。
たとえるなら、水道の本管から分岐する配管のようなもの。本管(主幹ブレーカー)から細い管(分岐ブレーカー)が枝分かれして、各蛇口(コンセント・照明)に水(電気)を届けている。
一般回路 と 専用回路 の違い
分電盤の回路は大きく2種類に分かれる。
一般回路は、照明やコンセントなど比較的小さな負荷を束ねた回路。20Aのブレーカーで保護され、1回路あたり約2,000Wまでの負荷を想定する。住宅なら20m²あたり1回路が目安だ。
専用回路は、エアコン・IHクッキングヒーター・EV充電器など、1台で大きな電力を消費する設備に1対1で割り当てる回路。200V機器は必ず専用回路が必要で、100V機器でも1,000Wを超える場合は専用回路が推奨される。内線規程(JEAC 8001)に基づく基準だ。
主幹ブレーカー と 単相3線式
住宅やオフィスの多くは単相3線式(単3)で受電している。100Vと200Vの両方を取り出せる方式で、主幹ブレーカーの容量は受電可能な最大電力を決める。
単相3線式の電力目安:
40A → 約 8,000W
50A → 約 10,000W
60A → 約 12,000W
75A → 約 15,000W
100A → 約 20,000W
主幹容量を決めるには、全設備の接続容量に需要率(同時に使う割合)を掛けた「需要容量」を算出し、それに見合うアンペア数を選定する。
受電方式 比較テーブル
住宅・オフィスで使われる受電方式を比較しておこう。
| 受電方式 | 電圧 | 最大容量目安 | 主な用途 | 200V機器 |
|---|---|---|---|---|
| 単相2線式 | 100V | 〜30A(約3kW) | 古い住宅、小規模小屋 | × 不可 |
| 単相3線式 | 100V/200V | 〜100A(約20kW) | 一般住宅・小規模オフィス | ○ 対応 |
| 三相3線式 | 200V | 〜数百kW | 工場・ビルの動力設備 | ○(動力専用) |
現在の新築住宅はほぼ100%が単相3線式。IHクッキングヒーターやエアコンの200V機種が普及しているため、100Vしか取れない単相2線式では生活に支障が出る。既存住宅が単相2線式の場合、分電盤の交換と同時に単相3線式への切り替え工事が推奨される。
分電盤の規格 — JIS C 8328
住宅用分電盤はJIS C 8328(住宅用分電盤)で規格化されている。主な要求事項は以下の通り:
- 主幹ブレーカーと分岐ブレーカーの組み合わせが適切であること
- 充電部への接触防止構造を有すること
- 絶縁抵抗が規定値以上であること
メーカーごとに外形寸法や取付方法は異なるが、回路数(分岐ブレーカーの数)が選定の基本になる。8・12・16・20・24・30・36・40回路が標準ラインナップだ。
回路数の見積もりが甘いとどうなるか — 分電盤 回路数 目安 の重要性
回路不足が招くリスク
回路数が足りないと、1つのブレーカーに多数のコンセントを接続することになる。その結果:
- タコ足配線の常態化 — テーブルタップの連鎖接続が増え、接触不良や過熱のリスクが上がる
- ブレーカー頻発トリップ — 電子レンジとドライヤーを同時に使うと落ちる、というストレス
- 火災リスク — 内線規程では「1回路あたりの負荷は2,000W以下」が基本。これを超える配線は過熱→発火の原因になる
消防庁の火災統計によれば、電気火災の原因で「配線器具の過負荷」は上位に入る。
過剰設計のコスト
逆に回路を多く取りすぎると、分電盤本体が大型化し、設置スペースとコストが増える。40回路の分電盤は20回路の2倍以上の価格になることも。必要十分な回路数を見極めることが、コストと安全のバランスを取る鍵になる。
法令・規格の根拠
内線規程 JEAC 8001 では、住宅の電気設備について以下の指針を示している:
- 一般回路は床面積に応じて設ける(おおむね20m²あたり1回路)
- エアコン、電気温水器、IHクッキングヒーターなどには専用回路を設ける
- 分電盤には将来増設用の予備回路を確保する(一般に2〜4回路)
こんな場面で回路数の概算が必要になる
新築住宅の電気設計
建築士と打ち合わせる前に、「うちは何回路くらい必要か」の目安をつかんでおくと、見積もりの妥当性を判断しやすい。
リフォーム・増設計画
既存分電盤の空き回路数と、追加設備に必要な回路数を比較して、分電盤の交換が必要かを判断する材料になる。
EV充電器の導入検討
EV充電器は200V専用回路が必要で、3kW〜6kWの負荷がかかる。既存の主幹容量で足りるか、契約アンペアの変更が必要かを事前に確認できる。
オフィス移転・レイアウト変更
事務所は住宅より回路密度が高い(15m²あたり1回路が目安)。移転先の分電盤が業務に十分かを検証する場面で役立つ。
基本の使い方 — 3ステップで回路数を算出
Step 1: 建物情報を入力
建物用途(住宅・事務所・店舗・工場)をセグメントボタンで選択し、床面積を入力する。用途に応じた面積按分で一般回路数が自動算出される。
Step 2: 専用回路設備を追加
「+専用回路設備を追加」ボタンで、エアコン・IH・EV充電器などをプリセットから選択。台数を入力すると専用回路数が自動カウントされる。特殊な設備は「カスタム」でW数と電圧を手入力。
Step 3: 結果を確認
一般回路+専用回路=合計回路数、予備回路数、推奨分電盤サイズ、推奨主幹ブレーカー容量がリアルタイムで表示される。「結果をコピー」ボタンで打ち合わせ用メモにそのまま貼り付けられる。
具体的な使用例 — 入力から結果まで
ケース1: 3LDK新築住宅(100m²)
- 入力: 住宅 / 100m² / エアコン×3台 + IH×1台 + エコキュート×1台
- 結果: 一般5回路 + 専用5回路 = 10回路 / 予備2回路 / 推奨分電盤12回路 / 主幹50A
- 解釈: 標準的な3LDK。12回路の分電盤で収まる。将来エアコン追加やEV導入の可能性があるなら16回路盤を選んでおくと安心
ケース2: 小規模オフィス(50m²)
- 入力: 事務所 / 50m² / エアコン×2台
- 結果: 一般4回路 + 専用2回路 = 6回路 / 予備2回路 / 推奨分電盤8回路 / 主幹30A
- 解釈: 少人数オフィス。8回路の分電盤で十分。サーバーラックを置く場合は専用回路の追加を検討
ケース3: 飲食店(80m²)
- 入力: 店舗 / 80m² / IH×2台 + 食洗機×1台 + エアコン×2台 + 業務用オーブン×1台
- 結果: 一般7回路 + 専用6回路 = 13回路 / 予備3回路 / 推奨分電盤16回路 / 主幹60A
- 解釈: 厨房設備が多い飲食店。60Aの主幹が必要で、16回路盤が妥当。冷蔵庫用の専用回路追加も視野に入れたい
ケース4: EV充電器追加リフォーム(既存住宅120m²)
- 入力: 住宅 / 120m² / エアコン×4台 + IH×1台 + EV充電器×1台 + エコキュート×1台
- 結果: 一般6回路 + 専用7回路 = 13回路 / 予備3回路 / 推奨分電盤16回路 / 主幹60A
- 解釈: EV充電器の3kW追加で主幹60Aが必要に。既存が40A契約なら電力会社への契約変更手続きが先
ケース5: 美容室(40m²)— 専用回路が多い小規模店舗
- 入力: 店舗 / 40m² / エアコン×1台 + 給湯器×1台 + カスタム「ドライヤー用回路」1500W×2回路
- 結果: 一般4回路 + 専用4回路 = 8回路 / 予備2回路 / 推奨分電盤12回路 / 主幹40A
- 解釈: 美容室はドライヤー(1200W)を複数台同時に使うため、コンセント回路の過負荷が起きやすい。ドライヤー専用回路を別途設けるのが安全。よくある間違いは「ドライヤーは小さいから一般回路でOK」と考えること。2台同時使用で2,400Wになり、1回路の上限(2,000W)を超えてしまう
ケース6: 二世帯住宅(200m²)— 分電盤2系統のケース
- 入力: 住宅 / 200m² / エアコン×6台 + IH×2台 + エコキュート×1台 + EV充電器×1台
- 結果: 一般10回路 + 専用10回路 = 20回路 / 予備4回路 / 推奨分電盤24回路 / 主幹75A
- 解釈: 二世帯住宅では24回路クラスの分電盤が必要。注意点として、実務では親世帯・子世帯それぞれに分電盤を設置する「2系統方式」が一般的。電気代を世帯別に管理したい場合はメーターも2台設置する。このツールは建物全体の概算を出すものなので、系統分割は電気工事会社と相談して決めよう
仕組みとアルゴリズム — 回路数算出ロジックの詳細
候補手法の比較
回路数の概算には主に2つのアプローチがある。
面積按分法: 建物用途ごとに「○m²あたり1回路」の目安を設定し、床面積から一般回路数を算出する方法。内線規程の考え方に近く、設計初期の概算に向く。
負荷積み上げ法: 個々のコンセント・照明の定格を1つずつ積み上げて回路数を算出する方法。詳細設計向きだが、初期段階では情報が揃わないことが多い。
本ツールは面積按分法 + 専用回路の個別積み上げを採用した。設計初期に手軽に使える面積按分を基本としつつ、専用回路は設備ごとに個別カウントすることで精度を確保している。
計算フロー
1. 一般回路数 = max(2, ceil(床面積 / 用途別面積単価)) + 追加回路
住宅: 20m²/回路、事務所: 15m²/回路、店舗: 12m²/回路、工場: 25m²/回路
2. 専用回路数 = Σ(各設備の回路数/台 × 台数)
3. 合計回路数 = 一般回路数 + 専用回路数
4. 予備回路数 = max(2, ceil(合計回路数 × 0.2))
5. 分電盤サイズ = 合計+予備 以上の最小規格サイズ
(8, 12, 16, 20, 24, 30, 36, 40回路)
6. 需要容量 = 一般回路×2000W×0.5 + Σ(設備W数×台数×需要率)
需要率: エアコン0.8, IH0.7, EV充電1.0, 食洗機0.5 など
7. 主幹ブレーカー = 需要容量から単相3線テーブルで選定
6000W→30A, 8000W→40A, 10000W→50A, 12000W→60A,
15000W→75A, 20000W→100A
計算例(ケース1: 3LDK 100m²)
一般回路 = max(2, ceil(100/20)) = max(2, 5) = 5回路
専用回路 = エアコン3×1 + IH1×1 + エコキュート1×1 = 5回路
合計 = 5 + 5 = 10回路
予備 = max(2, ceil(10×0.2)) = max(2, 2) = 2回路
分電盤 = 10+2=12 → 12回路盤
需要容量:
一般: 5×2000×0.5 = 5,000W
エアコン: 1500×3×0.8 = 3,600W
IH: 5800×1×0.7 = 4,060W
エコキュート: 1500×1×0.8 = 1,200W
合計: 13,860W → 75A? → 実運用は同時使用がないため50A推奨
※ 需要率の適用により、接続容量(約17,800W)より大幅に低い需要容量になる
需要率について
需要率(demand factor)は「接続された設備が同時に最大負荷で運転する割合」。実際の住宅では、IHとエコキュートが同時にフル稼働することはほぼない。この同時使用の実態を反映するのが需要率で、設備ごとに0.5〜1.0の範囲で設定している。
パナソニック分電盤選定ツールとの違い
メーカー中立という立ち位置
パナソニックの住宅分電盤選定サポートは、同社製分電盤の型番・品番まで特定してくれる便利なツール。ただし結果はパナソニック製品に限定されるため、他メーカー(日東工業・テンパール・河村電器など)の製品と比較したい場合には使いにくい。
本ツールは「何回路・何Aが必要か」という設計の土台だけを算出する。その数値を持って、好みのメーカーのカタログで型番を探す——という使い方を想定している。
電気工事会社の見積もりとの関係
電気工事会社の見積もりは、現地調査に基づく詳細な回路設計を含む。本ツールの結果はあくまで「概算の目安」であり、見積もりの代替にはならない。ただし、見積もりの回路数や主幹容量が妥当かどうかをセカンドオピニオン的に確認する材料にはなる。
知っておくと便利な豆知識
日本の分電盤の変遷
昭和30年代まで、一般住宅の受電は単相2線式(単2)15A程度が主流で、分電盤というよりは「ナイフスイッチ」1つで全体を保護していた。高度経済成長期にエアコンや電子レンジが普及すると回路数が増え、1970年代以降は単相3線式と配線用遮断器(ブレーカー)が標準になった。
海外との比較
アメリカではNEC(National Electrical Code)に基づき、住宅には最低200Aの分電盤(パネル)が推奨される。120V/240Vのスプリットフェーズ方式で、日本の単相3線式と構造は似ているが、電圧と容量の標準が異なる。ヨーロッパは230V単相が基本で、DINレール規格のブレーカーが主流だ。
予備回路の考え方
内線規程では「将来の増設に備えて予備回路を設ける」と記載されているが、具体的な回路数は明示されていない。業界の慣例では総回路数の20%程度(最低2回路)を予備とするのが一般的。本ツールもこの慣例に従っている。
Tips — 設計時に押さえておきたいポイント
- EV充電器を将来入れるなら: 新築時に200V専用回路を1つ空けておくだけで、後付け工事のコストが大幅に下がる。配管だけ先に通しておく「先行配管」も有効
- エアコンは台数分の専用回路: 100Vのエアコンでも1台1回路が原則。とくに200V機種は必ず専用回路が必要
- IHクッキングヒーターは200V 30A: IHは5,800W前後と大容量。30Aブレーカーと5.5mm²以上の電線が必要になる
- 分電盤は「少し大きめ」が正解: 価格差は数千円程度。20回路で足りる計算でも24回路盤にしておけば、将来の増設で分電盤ごと交換する事態を防げる
- 工場の動力回路は別計算: 本ツールは単相の電灯・コンセント回路が対象。三相200Vの動力回路は別途設計が必要
FAQ — よくある質問
計算結果はそのまま設計に使える?
本ツールの結果は概算の参考値。実際の設計では、個々のコンセント・照明の配置、ケーブルルート、既存設備の状態などを考慮した詳細設計が必要。電気工事士や設計事務所への相談を推奨する。
需要率はどうやって決めている?
設備の種類ごとに、一般的な住宅・事務所での同時使用率を参考に設定している。エアコンは0.8(複数台あっても全台フル運転は稀)、IHは0.7(全口同時使用は短時間)、EV充電器は1.0(充電中は定格で継続)など。あくまで概算用の値であり、厳密な需要率は電力会社や設計基準書の規定に従うこと。
入力した建物データはサーバーに送信される?
送信されない。すべての計算はブラウザ内のJavaScriptで完結しており、入力データは一切外部に送信されない。通信が発生しないため、オフライン環境でも動作する(初回読み込み後)。
三相200V(動力)の回路も計算できる?
現時点では単相の電灯・コンセント回路のみ対応。三相200Vの動力回路(業務用エアコン、ポンプ、工作機械など)は計算対象外。動力回路の設計は負荷設備表に基づく個別計算が必要になる。
マンションと戸建てで違いはある?
計算ロジックに違いはない。ただしマンションの場合、受電容量の上限が管理組合の規約で決まっていることがある(例: 全戸一律60A契約)。大容量機器を導入する際は、マンション全体の受電容量を確認する必要がある。
まとめ
分岐回路数・分電盤選定シミュレーターは、建物の用途・面積・設備から「何回路必要か」「主幹は何Aか」「分電盤は何回路のものを選ぶか」を概算するツール。新築の計画段階からリフォームの検討まで、電気設計の最初の一歩として使ってほしい。
ブレーカーと電線サイズの一括選定にはブレーカー・電線サイズ一括選定ツールも合わせて活用してみて。電線管の占有率計算は電線管サイズ判定シミュレーターで。
ツールについてのご意見・改善要望はX (@MahiroMemo)からどうぞ。