Excelで一日潰す前に「ツールがあれば」と思った瞬間
現場でH形鋼に厚さ12mmのプレートを溶接した断面性能を出す場面、ノートPCの前でJIS表を開きながら指が止まる瞬間がある。図心を求めるために断面を分割し、各部材の図心座標を転記していると、LINEの既読が付かないまま沈黙が落ちる。電卓を叩く指が一拍止まり、溶接位置のオフセットをどう扱うかで頭が固まる。
手計算で合成断面の断面二次モーメントを出す作業は、同じミスを繰り返す単純労働だ。寸法転記ミスや単位の取り違えで設計判断が狂う恐れがある。心理的には「またExcelで丸一日潰すのか」という苛立ちと、「計算ミスで設計が通らないかもしれない」という緊張が混ざる。
この記事では、合成断面対応の設計思想、ボツ案、端数処理やUIのトレードオフを含め、なぜJISプリセット×手動入力のハイブリッドに落ち着いたかをまとめる。
既存ツールを使い続けた3つの限界
合成断面非対応で手作業が必須
多くのWebツールや簡易電卓は単一断面の断面積・断面二次モーメントを出すに留まる。H形鋼とプレートを組み合わせたケースでは、部材ごとに図心を求め、平行軸の定理で移動分を加算する必要がある。現場ではH形鋼1本とプレート2枚、ボルト穴を含めた合成断面で計算することが多く、部材数が3〜6になるとExcelでの手計算が必須になる。
JIS寸法の手入力が面倒で転記ミスが発生しやすい
JIS鋼材表から寸法を毎回転記する作業は、H-200×200×8×12のような表記を見て断面寸法を手で入力する工程が発生する。現場で10〜40種の鋼材を参照する場面があり、転記ミスで断面積が数パーセントずれることがある。CADの断面機能はあるが、設計者向けの操作が複雑で、ちょっとした確認に使うにはオーバーヘッドが大きい。
UIが専門家向けすぎてワークフローに馴染まない
既存ツールは専門用語や多段階の入力を要求することが多く、現場での即時確認には向かない。合成断面のワークフローを短縮するためには、部材を選んでオフセット・回転を指定するだけで結果が出ることが望ましい。ブラウザ内での即時保存や受け渡しを考えると localStorage — MDN の活用が前提になる。
試行錯誤:設計判断の裏側
ボツ案1:完全プリセット方式
最初に検討したのは「JISプリセットだけで全てを選べるUI」だった。選択が速い利点はあるが、現場ではカスタム溶接や切削で寸法が変わるケースが多い。プリセットのみだとJISにない微妙な寸法を扱えず、結局手入力が必要になるため却下した。具体的には、H形鋼に幅50mmの補強プレートを溶接するケースではプリセットに存在しないため、毎回プリセットを編集する手間が発生した。
ボツ案2:完全手入力方式
全寸法を手入力する方式は柔軟性が高い反面、一般的なJIS部材を扱うたびに同じ数値を入力し直す手間が発生する。慣れた部材でも転記ミスのリスクがゼロにならないため、速さと信頼性の両立ができなかった。
3方式の比較
| 選択肢 | 即時性 | 柔軟性 | ミスのリスク | |--------|--------|--------|------------| | 完全プリセット | 高い | 低い | 中 | | 完全手入力 | 低い | 高い | 高 | | ハイブリッド(採用) | 高い | 高い | 低 |
ハイブリッドを採用した理由は、プリセットで一般的なJIS部材をワンクリック入力できる利便性と、手入力でカスタム寸法を即座に反映できる柔軟性を両立できる点にある。UIの複雑さが増すデメリットはあるが、入力補助とプリセットの同期でミスを抑えた。
合成断面は各部材の断面性能を局所座標で求め、図心位置を基準に平行軸の定理で移動分を加算する方式を採用した。SVGプレビューで図心位置と各部材の配置をリアルタイム表示することで、視覚的な検証を可能にした。回転がある部材は回転行列で座標変換を行い、断面二次モーメントの座標変換を適用している。
完成した鋼材断面のコンシェルジュの使い方
この問題を解決するために作ったのが鋼材断面のコンシェルジュ。
- JISプリセットから部材を選ぶか、寸法を手入力する
- 部材ごとにオフセット(X,Y)と回転角を指定する
- 合成断面モードで「合成計算」を実行し、断面積・図心・断面二次モーメント・断面係数・重量を確認する
- 必要なら結果をlocalStorage経由で梁の安全審判員に受け渡して強度計算に進む
JISプリセットの速さと手入力の柔軟性を両立し、合成断面の視覚検証を即時に行える点が最も合理的な設計だ。
よくある質問(FAQ)
Q: JISプリセットにない寸法はどう入力する?
手入力モードに切り替えて寸法を直接入力すればよい。また最近使った寸法をプリセットとして保存できる機能があるため、同じカスタム断面を繰り返し使う場合の手間を大幅に削減できる。
Q: 合成断面の計算はどういう方式?
各部材の局所断面性能を求め、図心位置を基準に平行軸の定理で移動分を加算する方式だ。回転がある部材は回転行列で座標変換を行い、断面二次モーメントの座標変換を適用する。計算過程はSVGプレビューで視覚的に確認できる。
Q: データはサーバーに送信される?
すべてブラウザ内で処理される。サーバーにデータは送信されないし、ブラウザを閉じれば入力内容は消える。梁の安全審判員への受け渡しもlocalStorage経由で完結しており、外部通信は一切発生しない。
Q: プリセットと手入力、どちらを先に使うべき?
まずプリセットで主要部材を入力し、最後に手入力で微調整する運用が効率的だ。SVGプレビューで図心位置と部材配置を必ず確認し、設計審査前に梁の安全審判員へ結果を受け渡して強度計算を行う流れを推奨する。
まとめ
合成断面の計算を一気通貫にするため、JISプリセットと手動入力を組み合わせ、平行軸の定理を中心に据えた設計判断を行った。SVGプレビューとlocalStorage連携により、断面計算から強度計算へのワークフローを大幅に短縮できる。
断面性能の確認を素早く行いたいときは鋼材断面のコンシェルジュを試してみて。設計の流れで強度確認が必要な場面では梁の安全審判員も便利。
不具合や要望があれば、お問い合わせページから気軽に教えてほしい。