占有率計算と管径選定の技術的な壁
電線管のサイズ選定は、電線の外径から断面積を合計し、管の内断面積に対する比率(占有率)が基準以下になる最小の管を見つける作業。手計算でやるとすれば、電線断面積の合計 → 管内断面積の計算 → 占有率の照合 → 管サイズの候補比較、と4段階を踏む必要がある。
ここで厄介なのが「32%と48%」の2基準の使い分け。屈曲がある配管では占有率32%以下が原則だが、直線で同径の電線を多数本通す場合は48%まで緩和される。施工条件によって基準が切り替わるため、単一の閾値では判定できない。
さらに、「この管に本当に入るのか」を直感的に確認したい場面もある。数値だけでは電線の配置状況がイメージしにくく、SVGで管断面と電線断面を描画する可視化が求められた。
この記事では、占有率計算の断面積スキャン方式と、SVGスパイラル配置アルゴリズムの実装詳細を示す。
候補方式の比較
管径選定のアプローチとして、以下の2方式を検討した。
| 方式 | 計算量 | 可視化 | 異径混在 | 弱点 | |------|--------|--------|---------|------| | 断面積スキャン方式 | O(m × n) | 別途必要 | 対応可 | 配置の検証ができない | | 格子配置+幾何学的判定方式 | 指数的 | 一体 | 対応可 | 計算コスト爆発 |
断面積スキャン方式(採用)
電線の外径から円の面積 π × (d/2)² を算出し、全電線の断面積合計を求める。管種テーブル(VE16〜VE82等)を小さい順にスキャンし、占有率が基準以下になった最初の管を推奨サイズとする。計算量はO(m × n)(m: 電線種類数、n: 管種数)だが、mもnも数十程度なので実用上は瞬時に完了する。
ただし、この方式は断面積の数値比較だけなので「物理的に管に入るか」の幾何学的な検証はできない。たとえば極端に太い1本と細い数本の組み合わせでは、面積上は余裕があっても配置上は入らない可能性がある。
格子配置+幾何学的判定方式(不採用)
管内を格子状に分割し、電線を1本ずつ配置して衝突判定を行う方式。物理的な配置可能性を直接検証できるが、電線本数が増えると組み合わせ数が指数的に増加する。5本程度なら問題ないが、10本を超えると計算時間が秒単位に膨れ上がり、ブラウザ上のリアルタイム操作に支障が出た。
また、格子配置は人工的な見た目になりやすく、実際の施工状態(電線が自然に寄り合う形)とかけ離れる問題もあった。
なぜスキャン + SVGスパイラルにしたか
断面積スキャン方式で高速に管径を選定し、SVGスパイラル配置で「見た目の確認」を補完する二段構成とした。占有率という数値基準と、視覚的な配置図の両方を提示することで、計算の信頼性と直感的な理解の両立を図っている。
実装の詳細
占有率計算
占有率の計算式は以下の通り。電線ごとに外径から断面積を求め、合計を管の内断面積で割る。
占有率の計算:
各電線の断面積 = π × (外径 / 2)²
総断面積 = Σ(各電線の断面積)
管内断面積 = π × (内径 / 2)²
占有率 = 総断面積 / 管内断面積 × 100%
数値例(IV 2.0mm × 3本 + VVF 2.0-2C × 1本):
IV 2.0mm: 外径 3.6mm → 断面積 = π × 1.8² = 10.18 mm²
VVF 2.0-2C: 外径 11.0mm → 断面積 = π × 5.5² = 95.03 mm²
総断面積 = 10.18 × 3 + 95.03 × 1
= 30.54 + 95.03
= 125.57 mm²
32%/48%基準の切り替え
電技解釈に基づく基準は2つ。
占有率基準:
32% — 屈曲がある場合の原則(通常はこちらを適用)
48% — 直線で同径電線の場合の緩和条件
管径スキャン例(総断面積 125.57 mm²、基準 32%):
VE16: 内径 16mm → 管断面積 201.06 mm² → 占有率 62.5% → NG
VE22: 内径 22mm → 管断面積 380.13 mm² → 占有率 33.0% → NG
VE28: 内径 28mm → 管断面積 615.75 mm² → 占有率 20.4% → OK ← 推奨
VE36: 内径 36mm → 管断面積 1017.88 mm² → 占有率 12.3% → OK
VE22では32.97%となり基準ギリギリで不合格。VE28が基準を満たす最小管として推奨される。
SVGスパイラル配置アルゴリズム
管断面と電線断面をSVGのcircle要素で描画し、電線を中心から同心円状に配置するスパイラル方式を採用した。
スパイラル配置の手順:
1. 電線を外径の大きい順にソートする
2. 最大径の電線を管の中心に配置する
3. 2本目以降は、管中心からの距離を少しずつ広げながら
角度をずらして配置を試みる
4. 配置済みの電線との衝突を判定する:
中心間距離 ≥ r_既存 + r_新規 なら配置OK
5. リング(同心円)を最大20層まで探索し、
配置可能な位置が見つかったら確定する
衝突判定の計算:
電線A: 中心(x_a, y_a), 半径r_a
電線B: 中心(x_b, y_b), 半径r_b
中心間距離 = sqrt((x_a - x_b)² + (y_a - y_b)²)
配置OK条件: 中心間距離 ≥ r_a + r_b
大きい電線を先に配置することで、小さい電線が隙間に収まりやすくなる。実際の施工で電線が自然に寄り合う状態に近い配置が得られるため、直感的に「入りそうか」を判断する材料になる。
検証結果
ケース1: 同径6本・直線配管(48%基準)
同じ太さの電線を直線管に通す想定。48%基準が適用される典型例。
入力値:
- 電線: IV 5.5mm²(外径 5.2mm)× 6本
- 管路条件: 直線、同径
計算結果:
- 各断面積: π × 2.6² = 21.24 mm²
- 総断面積: 21.24 × 6 = 127.43 mm²
- VE22(内径 22mm、管断面積 380.13 mm²): 占有率 33.5% → 48%基準でOK
- VE16(内径 16mm、管断面積 201.06 mm²): 占有率 63.4% → NG
→ 解釈: 48%基準ならVE22で合格。32%基準を適用するとVE28が必要になる。基準の選択が管径を1サイズ変える結果となるため、施工条件の確認が重要。
ケース2: 異径混在・屈曲あり(32%基準)
太さの異なる電線を曲がりのある配管に通す想定。32%基準が適用される。
入力値:
- 電線: IV 2.0mm(外径 3.6mm)× 4本 + VVF 2.0-3C(外径 12.2mm)× 1本
- 管路条件: 屈曲あり
計算結果:
- IV 2.0mm: 断面積 10.18 mm² × 4 = 40.72 mm²
- VVF 2.0-3C: 断面積 π × 6.1² = 116.90 mm²
- 総断面積: 40.72 + 116.90 = 157.62 mm²
- VE28(内径 28mm、管断面積 615.75 mm²): 占有率 25.6% → OK ← 推奨
- VE22(内径 22mm、管断面積 380.13 mm²): 占有率 41.5% → NG(32%超過)
→ 解釈: VVF 3芯の外径が支配的で、VE22では基準超過。SVGスパイラル表示で確認すると、VVF 3芯が管の中心を占め、IV線4本が周囲に配置される様子が視覚的にわかる。
エッジケース: 電線0本の入力
入力値:
- 電線: なし(0本)
計算結果:
- 総断面積: 0 mm²
- 占有率: 0% → 全管種でOK
- 推奨管: 最小管(VE16)を表示
→ 解釈: 0本の場合、ゼロ除算は発生しない(分子が0になるだけ)。SVGスパイラルは空の管断面のみ描画する。入力忘れの検出も兼ねて、「電線が追加されていない」旨のメッセージを併記する。
よくある質問(FAQ)
Q: プリセットにない電線を使いたい場合は
カスタム入力モードで外径を直接入力できる。外径さえわかれば断面積は自動計算される。メーカーカタログやJIS規格表の仕上がり外径を入力すると正確な結果が得られる。
Q: SVGスパイラル配置は実際の施工状態と一致するのか
スパイラル配置はあくまで「視覚的な目安」であり、施工時の電線配置とは一致しない。実際の電線は重力や曲がりの影響で偏って配置される。占有率の数値判定が正式な根拠であり、SVGは補助的な確認手段として使ってほしい。
Q: データはサーバーに送信される?
すべての計算はブラウザ内で完結する。入力した電線情報がサーバーに送信されることはない。ブラウザを閉じれば入力内容は消える。
Q: 32%と48%のどちらを使うべきか判断に迷うときは
迷ったら32%を選ぶのが安全。48%基準は「直線かつ同径」という限定条件であり、現場では曲がりが1箇所でもあれば32%が適用される。設計段階で不明なら32%で選定し、施工時に余裕があるとわかった場合に1サイズ下げる判断をするのが実務的な進め方。
まとめ
電線管サイズの選定は、占有率の断面積スキャンとSVGスパイラル配置の二段構成で「数値の根拠」と「視覚的な確認」を両立させた。32%/48%の2基準切り替えは施工条件に依存するため、ツール側で両方の結果を提示し判断を設計者に委ねる設計としている。
実際に試したいときは電線管サイズ判定シミュレーターを使ってみて。断面積計算という共通テーマでは、鋼材断面のコンシェルジュもJIS鋼材の断面性能計算を扱っている。
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