同じ白いシャツが、夕方の電球の下では飴色っぽく、コンビニの蛍光灯の下では青白く見える。人の目は賢くて、その場の光に合わせて「白」を補正してしまうから、撮った写真を見て初めて「あれ、こんなに黄色かった?」と気づく。あの差の正体が色温度だ。
色温度はケルビン(K)という温度の単位で表す。数字が低いほど暖色(赤〜オレンジ寄り)、高いほど寒色(青寄り)になる。ろうそくは約1900K、白熱電球は約2800K、太陽光に近い昼白色は約5000K、青空を含んだ昼光色は約6500K。この数値を、目に見える色や色度座標に翻訳するのがこのツールだ。色温度(K)を入れると、CIE xy色度座標・RGB近似(HEX)・JIS Z 9112の光源色区分が一度に出る。撮影前のホワイトバランスの当たりをつけたいとき、照明計画で「電球色と昼白色、どっちが商品に映えるか」を比べたいとき、感覚ではなく数値で確かめられる。
なぜ作ったのか — 色温度を「感覚」でなく「数値」で扱いたかった
きっかけは、物撮りの色がどうしても安定しないことだった。同じ被写体を同じカメラで撮っても、その日のライトの組み合わせで色味が変わる。「もう少し暖かく」「ちょっと青すぎる」という言葉でやり取りしていると、人によって暖かさの基準が違うから、いつまでも詰まらない。3500Kと4200K、800Kの差がどれだけ見えに効くのか、頭の中の感覚では掴めなかった。
ネットで「色温度 RGB 一覧」を調べると、表は出てくる。だが固定の表は刻みが粗くて、3700Kのような中途半端な値は載っていない。逆に色度図(CIEの馬蹄形のグラフ)を載せたページはアカデミックすぎて、自分の照明が図のどこに乗るのか読み取れなかった。欲しかったのは、任意のケルビン値を入れたら「色度座標はここ・近似色はこの色・JISの区分はこれ」と即答してくれる、現場で使える翻訳機だった。
そこで色温度から黒体放射軌跡(Planckian軌跡)上の色度座標を求める Kim et al.(2002) の近似式を実装し、そこから sRGB の近似色まで一気通貫で出すツールを作った。色を「2800Kは電球色で xが0.45くらい」と数値の言葉で語れるようになると、撮影でも照明選定でも会話が一気に噛み合う。感覚の擦り合わせをやめて、根拠のある数字に揃える。それがこのツールの狙いだ。
色温度 とは何か — 黒体放射とケルビンとPlanckian軌跡
色温度 とは — 黒い金属を熱したときの色
色温度を理解する一番の近道は、鉄を火で熱する場面を思い浮かべることだ。常温の鉄は黒い。熱していくと、まず鈍い赤になり(赤熱)、さらに熱すると橙、黄、そして白っぽく、最後は青白く輝く。この「温度が上がるほど色が赤→白→青へ移る」現象が色温度の出発点だ。
物理ではこれを理想化して「黒体(こくたい、blackbody)」という概念で扱う。黒体とは、当たった光をすべて吸収し、自分の温度だけで光を放つ理想的な物体のこと。黒体をある絶対温度 T(ケルビン)まで熱したとき放つ光の色を、その温度の色温度と呼ぶ。だから単位がケルビン(K)なのだ。0Kは絶対零度(約 -273.15℃)で、たとえば2800K は摂氏でいえば約2527℃に相当する。電球のフィラメントが本当にそのくらいの温度で光っているわけだ。
ここで大事なのは、低い温度ほど赤い(暖色)という点。直感的には「赤=熱い」のイメージがあるが、物理は逆で、青白いほうが高温だ。ろうそく1900Kが暖かいオレンジ、昼光色6500Kが青みのある白、というのはこの黒体放射の法則そのものだ。
外部参考: 黒体放射の基礎は Wikipedia: 黒体放射 が詳しい。
Planck の放射式とスペクトル
黒体が各波長でどれだけの強さの光を出すかは、Planck(プランク)の放射式という物理式で完全に決まる。温度 T を決めると、波長 λ ごとの放射強度が一意に定まる。低温では長波長(赤)側に山があり、温度が上がるほど山が短波長(青)側へ動く。この「山の位置の移動」が、見た目の色が赤から青へ移る理由だ。
その波長ごとの強さに、人の目の感度(CIE等色関数)を掛けて可視光域で足し合わせると、その光が人の目にどう映るか、つまり XYZ三刺激値が求まる。XYZ を正規化したものが CIE xy色度座標で、色を「明るさを除いた色みだけ」の2つの数字(x, y)で表す座標系だ。
Planckian軌跡 — 色度図に描かれる弧
黒体の温度を1500K、2000K、3000K…と少しずつ上げながら、それぞれの xy色度を色度図にプロットしていくと、点が一本の滑らかな弧を描く。これが Planckian軌跡(黒体放射軌跡、黒体軌跡)だ。「色温度」とは厳密にはこの軌跡の上の点を指す。
低温(赤橙) ●━━━━●━━━━●━━━━● 高温(青白)
2000K 3000K 5000K 10000K
↑Planckian軌跡(黒体軌跡)
実際の光源、特に蛍光灯やLEDは厳密にはこの軌跡の真上には乗らない。少し緑寄り・赤紫寄りにずれることがあり、そのズレ量を Duv と呼ぶ。本ツールが扱うのは軌跡の上に乗る理想的な色温度(相関色温度の代表点)なので、xy は Planckian軌跡上の値として計算される。任意の T を入れると、その温度の黒体が放つ色の xy座標が即座に出る、というのがこのドメインの核心だ。
なぜこの数値が大事か — 撮影・印刷・店舗照明・商品色管理
色温度を外すと、現場では実害が出る。最も分かりやすいのが写真・映像のホワイトバランス(WB)だ。カメラのWB設定が現場の光の色温度と合っていないと、白いものが白く写らない。電球(2800K前後)の部屋でWBを昼光(6500K)のままにすると、写真全体がオレンジに転ぶ。逆に昼光下で電球設定だと真っ青になる。料理写真でこれをやると、シズル感のはずが食欲の失せる色になり、撮り直しの手戻りが発生する。
印刷・DTPでは色温度の標準が決まっている。印刷物の色校正は D50(約5000K)の標準光源下で見る、というのが国際的な約束事(ISO 3664)だ。校正刷りを電球色のデスクライトで確認すると、紙の上の色が違って見えて、判断を誤る。逆にWebやモニタの世界の基準は D65(約6500K)。同じ画像でも、印刷基準のD50で見るか画面基準のD65で見るかで印象が変わるため、両者の違いを数値で把握しておくことが色管理の前提になる。
店舗照明・空間デザインでも色温度は売上に直結する。精肉・鮮魚は赤みを引き立てる電球色〜温白色(2800〜3500K)、ベーカリーは焼き色が映える温白色、アパレルやコスメは肌や白を正確に見せたい昼白色(5000K前後)、というように、扱う商材で最適な色温度は違う。JIS Z 9112 は蛍光ランプの光源色を電球色・温白色・白色・昼白色・昼光色の5区分に分けており、照明選定はこの区分が共通言語になる。区分を取り違えると、せっかくの商品が冴えない色で並ぶことになる。
商品開発・ECの色管理では、撮影した商品色と実物の色のズレがクレームや返品につながる。「画面では白だったのに届いたら黄ばんで見える」というトラブルの多くは、撮影時の照明の色温度と表示環境の食い違いが原因だ。色温度を数値で押さえておけば、撮影条件を記録・再現でき、トラブルの切り分けがしやすくなる。
こんな場面で活躍する
写真・映像のホワイトバランス調整。撮影前に現場の照明が何ケルビンかを把握し、カメラのWBの当たりをつける。後から「色が転んだ」と気づく前に、想定される見えを数値とスウォッチで確認できる。
照明計画・店舗デザイン。電球色2800Kと昼白色5000Kで商品がどう見えるかを並べて比較し、商材に合う色温度を選ぶ。クライアントへの提案で「この温度ならこの色味」と根拠を示せる。
DTP・印刷の色管理。D50(5003K)とD65(6504K)の色度座標の差を確認し、校正環境と表示環境のギャップを把握する。色校正の判断基準を揃える材料になる。
物撮り・EC商品撮影。商品の白を白く出すための照明の色温度を決め、撮影条件を記録する。複数日にまたがる撮影でも色味を揃えやすくなる。
色彩検定・カラーコーディネーターの学習。黒体放射・色温度・色度座標の関係を、数値とプレビューで手を動かしながら理解できる。教科書の色度図が「自分の入れた数字でどこに乗るか」体感できる。
基本の使い方
ステップ1: 色温度を入れる。プリセットボタンから「白熱電球 (2800K)」「昼白色 (5000K)」「昼光色 (6500K)」などの光源を選ぶか、色温度の入力欄に数値(K)を直接打ち込む。対応範囲は1667〜25000Kだ。
ステップ2: 色度座標と近似色を見る。入力すると CIE x色度座標・CIE y色度座標・RGB近似(HEX)が自動計算され、その色で塗られた色見本スウォッチが表示される。色温度の見えが一目で分かる。
ステップ3: 光源色区分を確認してコピーする。JIS Z 9112 に基づく光源色区分(電球色・温白色・白色・昼白色・昼光色)がステータスカードに出る。結果はコピーボタンで控えられるので、撮影メモや照明提案にそのまま貼れる。
低いほど暖色、高いほど寒色という関係を意識しながら、数百Kずつ動かして見えの変化を確かめると、色温度の感覚が身につく。
具体的な使用例・検証データ
実際にツールへ入力して得られる値を、代表的な光源で見ていく。CIE xy座標は Planckian軌跡上の値、HEXは sRGB近似色だ。
ケース1: 白熱電球 2800K(電球色・暖色)。 入力: 色温度 = 2800K。 結果: CIE x = 0.4514、CIE y = 0.4087、光源色区分 = 電球色、RGB近似 ≒ #FFB160。 解釈: x・yともに0.4前後と、白色点(おおむね x=y=0.33付近)から赤橙側へ大きく寄っている。HEXの #FFB160 はまさにオレンジがかった暖色で、リビングや飲食店のくつろいだ雰囲気の光だ。この光の下で撮るなら、カメラのWBを電球側に合わせないと写真がオレンジに転ぶ。
ケース2: 昼白色 5000K(D50近傍・印刷基準)。 入力: 色温度 = 5000K。 結果: CIE x = 0.3450、CIE y = 0.3516、光源色区分 = 昼白色、RGB近似 ≒ #FFE6D0。 解釈: x・yが0.34〜0.35と、白色点にかなり近づいた。HEXの #FFE6D0 はほんのり暖かみの残る白で、自然光に近い中庸な光。印刷の標準光源D50(5003K)はほぼこの位置にあり、色校正はこの色温度の下で行うのが約束事だ。アパレルやコスメの物撮りで白を素直に出したいときの基準になる。
ケース3: 昼光色 6500K(D65近傍・寒色・sRGB基準)。 入力: 色温度 = 6500K。 結果: CIE x = 0.3135、CIE y = 0.3237、光源色区分 = 昼光色、RGB近似 ≒ #FFF9FE。 解釈: x・yがさらに下がり、白色点を越えてわずかに青紫側へ。HEXの #FFF9FE はごく薄い青みを帯びた白だ。WebやモニタのsRGBはこのD65(6504K)を基準白色点とするため、画面で見る「白」の基準がここ。昼光色のオフィス照明や青空光に相当し、覚醒感のあるクールな印象を与える。
ケース1→2→3 と色温度が上がるにつれ、CIE x が 0.4514 → 0.3450 → 0.3135 と単調に減り、座標が赤橙側から青側へ移っていくのが数値で追える。これが Planckian軌跡を温度の低い端から高い端へなぞる動きそのものだ。
追加で試したい光源は、入力値だけ挙げておく。実際の色度座標・HEXはツールに入れて確かめてほしい。
ケース4: ろうそくの炎 1900K(最も暖かいオレンジの極)。入力 = 1900K。 ケース5: 温白色LED 3500K(電球色と白色の中間、ベーカリー向き)。入力 = 3500K。 ケース6: sRGB基準 D65 6504K(モニタの白色点ぴったり)。入力 = 6504K。 ケース7: 北窓昼光 7500K(直射を含まない青空寄りの自然光)。入力 = 7500K。
これらを順に入れていくと、1900Kの濃いオレンジから7500Kの澄んだ青白へ、スウォッチが連続的に変わる。色温度が「温度の数字」でありながら「色みのスライダー」でもあることが体感できる。
仕組み・アルゴリズム
候補手法の比較 — Planck数値積分 vs Kim et al. 近似
色温度 CCT から CIE xy色度を求める方法は大きく2つある。
ひとつは物理的に厳密な方法で、Planck の放射式から各波長の放射強度を計算し、CIE等色関数を掛けて可視光域(おおむね380〜780nm)で数値積分して XYZ を求め、xy に正規化する。原理に忠実で精度は高いが、等色関数のテーブルを持ち、波長ステップごとに積分ループを回す必要があり、クライアントサイドで毎フレーム回すには重い。
もうひとつが、その積分結果をあらかじめ多項式でフィッティングした近似式を使う方法だ。本ツールは Kim et al.(2002) による Planckian軌跡の3次多項式近似を採用した。理由は3つ。(a) 四則演算だけで済み軽量、(b) 対応範囲1667〜25000Kで誤差が実用上無視できる、(c) 学習・現場用途には十分な精度。厳密積分の精度は、測色計を持たない用途ではオーバースペックだと判断した。
実装詳細 — CCT から HEX までの流れ
まず色温度 T から x座標を温度区間で分けて算出する。
// x座標(Kim et al. 2002)
let x;
if (T <= 4000) {
x = -0.2661239e9 / T**3 - 0.2343589e6 / T**2 + 0.8776956e3 / T + 0.179910;
} else {
x = -3.0258469e9 / T**3 + 2.1070379e6 / T**2 + 0.2226347e3 / T + 0.240390;
}
次に、求めた x を使って y座標を温度区間で分けて算出する(yは x の3次式)。
// y座標(区間別3次式)
let y;
if (T <= 2222) {
y = -1.1063814 * x**3 - 1.34811020 * x**2 + 2.18555832 * x - 0.20219683;
} else if (T <= 4000) {
y = -0.9549476 * x**3 - 1.37418593 * x**2 + 2.09137015 * x - 0.16748867;
} else {
y = 3.0817580 * x**3 - 5.87338670 * x**2 + 3.75112997 * x - 0.37001483;
}
得た xy を sRGB の近似色に変換する。明るさ Y=1 に正規化して XYZ に展開し、sRGB(D65)変換行列で線形RGBにし、負値をクリップして最大値で正規化(色相を保ったまま)、sRGBガンマ補正をかけて0〜255の整数に丸め、HEX文字列に整形する。
// xy → XYZ(Y=1) → 線形sRGB
const Y = 1, X = x * Y / y, Z = (1 - x - y) * Y / y;
let r = 3.2406 * X - 1.5372 * Y - 0.4986 * Z;
let g = -0.9689 * X + 1.8758 * Y + 0.0415 * Z;
let b = 0.0557 * X - 0.2040 * Y + 1.0570 * Z;
// 負値クリップ → 最大値で正規化 → ガンマ補正 → 0-255 → #RRGGBB
最後に光源色区分を CCT で判定する。JIS Z 9112 の区分に準拠し、5700K以上=昼光色、4600〜5700K=昼白色、3800〜4600K=白色、3250〜3800K=温白色、3250K未満=電球色とする(境界は下限値以上で判定)。
計算例 — 5000K を手で追う
色温度 5000K を入れたとき、まず T > 4000 の式で x を計算すると x ≒ 0.3450 が得られる。次に T が 4000<T≦25000 の区間なので3つ目の y式に x=0.3450 を代入すると y ≒ 0.3516 となる。この (0.3450, 0.3516) を XYZ に展開して sRGB行列・ガンマ補正を通すと、ほんのり暖色の白 #FFE6D0 になる。CCT が 4600〜5700K の帯にあるので光源色区分は昼白色。ツールの出力(x=0.3450, y=0.3516, 昼白色, #FFE6D0)と完全に一致する。同様に2800Kなら x=0.4514・y=0.4087・電球色、6500Kなら x=0.3135・y=0.3237・昼光色が得られ、いずれも近似式の通りに座標が並ぶ。
なお Kim et al. の近似はあくまで Planckian軌跡上の理想色を返すもので、実際の光源のスペクトルや Duv(軌跡からのズレ)、演色性までは表現しない。厳密な色管理には測色計とカラーマネジメント環境が要る、という前提の上で、色温度の見えを素早く掴むための道具と捉えてほしい。
他の色変換ツールと何が違うのか
色を扱うツールはいくつもある。だが「色温度」を起点にするものは意外と少ない。ここでこのツールの立ち位置を整理しておく。
マンセル表色系の変換を担う /munsell-hex-bridge は、色相・明度・彩度という「人が見た色そのもの」を数値化する仕組みだ。リンゴの赤や空の青といった物体色を、HEX と相互変換する。一方このツールが扱うのは、その物体を照らす「光の色」だ。同じ赤いリンゴでも、白熱電球の下と昼光色LEDの下では見えが変わる。前者は物体色、後者は光源色。守備範囲がそもそも違う。
混色を扱う /color-mix-sim との違いも明確だ。混色シミュは絵の具やインクを混ぜた結果の色を予測する。減法混色の世界だ。対してこのツールは、黒体放射という物理現象に沿って「温度から決まる光の色」を求める。混ぜる操作はない。温度というたった一つのパラメータが、Planckian軌跡という一本の曲線上の一点に対応する。混色の自由度の高さとは対照的に、色温度は一次元の軸に縛られている。これが扱いを難しくも、面白くもしている。
工業塗装の色見本である /ral-color-bridge は、RAL番号という規格化されたカラーチップを HEX に変換する。これも物体色の世界だ。色温度ツールが出す HEX は「その光で照らされた白い紙の見え」に近く、RAL の HEX は「塗装面そのものの色」を指す。同じ HEX 表記でも意味するものが違う点は押さえておきたい。
可読性を判定する /contrast-checker は WCAG のコントラスト比を扱う。文字と背景の見やすさが目的で、光源は前提として固定されている。色温度ツールはその「前提となる光」を数値で与える側にあたる。
つまりこのツールは、色彩ツール群の中で唯一「照明・光源」を主役に据えている。物体色を扱う他ツールと組み合わせれば、「どんな光の下で、どんな色がどう見えるか」を上流から下流まで通して検討できる。
豆知識: メタメリズム・色順応・D50とD65
メタメリズム — スペクトルが違っても同じ色に見える
色温度の話で避けて通れないのがメタメリズムだ。これは「分光分布(波長ごとの光の強さの分布)が異なる2つの色が、ある光源の下では同じ色に見える」現象を指す。たとえば店舗の昼白色LEDの下では完璧に一致して見えた2枚の布が、家に持ち帰って白熱電球の下で並べると微妙に色が違う、という経験は誰しもあるはずだ。
なぜ起きるか。人の目は波長を3種類の錐体(L・M・S錐体)でしか捉えていない。無限にある分光分布が、たった3つの刺激値(XYZ)に押し込められる。だから物理的に別物のスペクトルでも、3刺激値が一致すれば同じ色と認識される。そして光源が変われば各物体が反射するスペクトルも変わり、一致が崩れる。これがメタメリズムだ。色温度だけで色管理が完結しないのは、この現象が根底にあるからだ。
色順応 — 脳が白を白に補正する
もう一つ重要なのが色順応だ。白熱電球の下で白い紙を見ても、人はそれを「白い」と感じる。本来は赤みを帯びた光が反射しているにもかかわらず、脳が自動的に基準白を補正してしまう。カメラのオートホワイトバランスは、この人の能力を機械で再現しようとした機能だ。CIE はこの順応を数式化した色順応変換(CAT、Bradford 変換など)を定めている。色温度を変えてHEXを眺めるとき、実際の見えはこの順応のぶんだけ補正されることを頭の片隅に置いておきたい。
D50とD65の使い分け
標準光源として頻出するのが D50(約5003K)と D65(約6504K)だ。両者は用途で明確に住み分けている。D50 は印刷・DTPの標準観察光源だ。ISO 3664 が印刷物の色評価環境として D50 を規定しており、印刷会社の色校正ブースはこの光で統一されている。一方 D65 はディスプレイの世界の基準で、sRGB の白色点として採用されている。Web やデジタル画像の色は D65 を前提に作られている。
つまり「画面で作ったデータ(D65基準)を印刷(D50基準)したら色が転んだ」というトラブルの根っこには、この基準光の違いがある。カラーマネジメントでこの2つを意識的に変換するのが、色のプロの仕事になる。
Tips
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写真のWB設定の逆引きに使う: 撮影現場の光源が何Kか分からないとき、プリセットで近い光源(白熱電球2800K、白色蛍光灯4200Kなど)を選び、出てくる色見本と実際の見えを照合すると、設定すべきケルビン値の当たりがつく。
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HEXは「白紙の見え」として読む: このツールが出すHEXは、その色温度の光で照らされた無彩色面の色に近い。塗料や物体そのものの色ではない。背景色のサンプルやムード作りの参考値として使うのが正しい使い方だ。
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印刷物は5003K、画面は6504Kで比較する: 同じ画像を扱うとき、印刷側はD50(5003K)、画面側はD65(6504K)で色見本を出して並べると、基準光の差でどれだけ色が転ぶかを視覚的に把握できる。
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JIS区分の境界をまたぐ値に注意: 光源色区分は5700K以上で昼光色、3250K未満で電球色というように境界がある。たとえば3800Kは温白色と白色の境目で、わずかな差で区分名が変わる。境界付近の値は区分名だけでなくHEXの見えで判断したい。
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極端な値で軌跡の端を体感する: 1900K(ろうそく)と7500K(北窓昼光)を切り替えると、暖色から寒色への色の振れ幅が一目で分かる。Planckian軌跡という曲線の上を端から端まで動いている感覚がつかめる。
よくある質問(FAQ)
色温度とDuvは何が違うのか
色温度(CCT)は黒体放射軌跡上の「どの位置か」を一次元で表す値だ。これに対しDuvは、その光が黒体軌跡からどれだけ離れているかを示す垂直方向の偏差だ。たとえば同じ5000Kでも、Duvがプラスなら緑寄り、マイナスなら紫(マゼンタ)寄りに転ぶ。蛍光灯やLEDは黒体放射そのものではないため、CCTだけでは緑かぶり・マゼンタかぶりを表現しきれず、Duvが補助的に必要になる。本ツールは黒体軌跡上(Duv=0)の理想的な色を計算しており、Duvの偏差は扱っていない。
色温度と演色性(Ra)は別物なのか
まったくの別物だ。色温度は「光の色味(暖色か寒色か)」を表す。演色評価数Ra(CRI)は「その光の下で物体の色がどれだけ自然に見えるか」を表す。極端な例として、同じ5000Kの光源でも、太陽光に近い連続スペクトルを持つものはRaが高く色が自然に見えるが、特定の波長が欠けたスペクトルだとRaが低く、肌や食品がくすんで見える。色温度が同じでも演色性は天と地ほど違いうる。Raは光源の分光分布に依存するため計算が困難で、本ツールでは扱っていない。
計算で出るHEXと実際の照明の見えがズレるのはなぜか
理由は複数ある。第一に、本ツールはKim et al.(2002)のPlanckian軌跡近似とsRGB変換による概算で、黒体放射という理想モデルに基づく。実際のLEDや蛍光灯はスペクトルが黒体と異なる。第二に、人の目には色順応があり、脳が白を補正するため数値ほど色づいて感じない。第三に、表示しているモニタのガンマ設定・キャリブレーション状態によっても見えが変わる。あくまで色温度の傾向を直感的に掴むための参考値と考えてほしい。
なぜ計算できる色温度は1667〜25000Kに限られるのか
採用しているKim et al.(2002)のPlanckian軌跡近似式が、この範囲で精度を保証しているためだ。これより低温・高温では多項式近似の誤差が大きくなり、xy色度座標が現実の黒体軌跡から外れてしまう。実用上、照明や撮影で扱う光源はろうそく(約1900K)から青空(約10000〜20000K)の間にほぼ収まるため、この範囲で日常の用途は十分にカバーできる。範囲外の値を入力すると結果は表示されない設計にしている。
RGB(HEX)はそのまま塗料やデザインの色指定に使えるのか
慎重に扱ってほしい。このHEXは「その色温度の光で照らされた無彩色面の見え」に近い値であって、物体そのものの色ではない。背景のムード作りや雰囲気の参考としては有用だが、塗料の色指定には /ral-color-bridge のような物体色のツールを、物体色の体系的な変換には /munsell-hex-bridge を使うのが適切だ。光源色と物体色を取り違えないことが、色を扱ううえでの基本になる。
まとめ
色温度は、感覚で語られがちな「暖かい光」「冷たい光」を、ケルビンという数値と CIE xy 色度座標で客観的に捉え直すための物差しだ。黒体放射という物理に裏打ちされた一本の軌跡上で、光の色がどう変化するかを可視化できる。写真のホワイトバランス、店舗照明の計画、印刷の色管理まで、用途は幅広い。
色温度で「光の色」を押さえたら、次は「物体の色」も数値で扱ってみてほしい。マンセル表色系とHEXを橋渡しする /munsell-hex-bridge、絵の具やインクの混色を予測する /color-mix-sim、工業塗装のRAL番号を変換する /ral-color-bridge を合わせて使えば、光と物体の両面から色をコントロールできるようになる。気づいた点や要望があれば、ぜひお問い合わせから聞かせてほしい。
不具合や要望があれば、お問い合わせページから気軽に教えて。
Mahiro
Mahiro Appの開発者。物撮りの色がライトごとに転ぶのに悩み、色温度を数値で扱える翻訳機が欲しくてこのツールを作った。電球色と昼白色の差を「2800Kと5000K」とケルビンで語れるようになると、撮影でも照明選定でも会話が一気に噛み合う。
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